結論
沖電気工業(OKI)は、消防防災や航空管制といった社会の基盤システムと、銀行の ATM を二本柱にする老舗の機器・システム会社だ。2026 年 3 月期の売上は 4,216 億円、営業利益は 188 億円で、利益率は 4.5% にとどまる。
筆者の結論は「割高」だ。今の時価総額は、中計が描く改善をほぼ織り込んだ水準にある。ところが改善がうまく進んでも、稼ぎの伸びは物価に毛が生えた程度で、資本コストを上回る儲けにはならない。
2026 年 3 月期の純利益 215 億円は、プリンター事業の移管とヒューリック株の売却による特別利益でかさ上げされている。地力の純利益は 130 億円前後と見るのが妥当だ。
追い風はある。ATM では日立との合弁(10 月発足)で国内の完成品シェアが合算 65% になる。富士通も ATM から撤退する。一方で、ATM の設置台数は 10 年で 24% 減っており、守りの色が濃い。
次の 10 年で中計どおり利益率 7% に届けば上振れる。ただ筆者は、通信機器の競争とATM 市場の縮小が重なり、届かない確率のほうが高いと見る。安全域は薄い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、OKIは「持ち続けたい会社」とは言いにくい。
まず事業を見る。官公庁向けの基盤システムと ATM の保守は、長く続く収入だ。この部分は 10 年後も残る。しかし会社全体の資本効率は低く、ROE は資本コストを下回ることが多い。稼いだ利益が再投資で価値を生むとは言いにくく、ためた利益は、額面どおりの価値に届かない。
次に、経営者の資本配分を見る。プリンターの移管や ATM の統合、持ち合い株の売却は、いずれも筋のよい整理だ。ただ、整理で利益が増える部分は限られ、売上の伸びも物価を超えるかどうかが怪しい。
最後に安全域である。今の時価総額は、中計の成功をかなり織り込んでいる。中立の筋書きでも、10 年後の価値は今の値段に及ばない。楽観の筋書きでも、年率の期待は 1 桁の低い水準にとどまる。
払ってよい値段は、今よりかなり低い。事業は堅いが、値段が先に走っている。これが筆者の見立てだ。
何で稼ぐ会社か
OKIの稼ぎは、官公庁・金融・製造受託の 3 つの顧客層に分かれる。2026 年 3 月期のセグメント売上は、パブリックソリューションが約 1,440 億円、エンタープライズソリューション(金融)が約 1,520 億円、コンポーネントプロダクツが約 750 億円、EMS が約 630 億円だ。
利益の柱はパブリックソリューションである。消防・防災の指令システム、航空管制、道路交通、防衛関連の電子機器のほか、通信キャリア向けの機器を手がける。セグメント利益は 181 億円で、全社のセグメント利益の 6 割を占め、利益率も 12.6% と高い。官公庁向けは更新サイクルが長く、いったん採用されると入れ替わりにくい。
金融ソリューションは ATM と営業店の端末、その運用・保守だ。ATM 本体は競争が厳しいが、設置後の保守・運用は長く続く。2026 年 10 月に日立とATM事業を統合し、OKIが 60% を持つ合弁会社が発足した。
コンポーネントプロダクツには、プリンター(販売)、IoT 機器、ビジネスフォンが入る。プリンターは開発・生産をリコー・東芝テックの合弁エトリアに移し、自社は売るだけになった。利益率は 2.6% にすぎない。
EMS は、他社の電子機器を少量多品種で作る受託事業だ。利益率は 1.6% と薄いが、国産の AI サーバー受託など新しい需要も出てきた。2026 年度からは、セグメントを「パブリック」「金融」「コンポーネント&マニュファクチャリング」の 3 つに組み替える。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、事業によってばらつきがある。
いちばん強いのは官公庁向けだ。消防・防災や航空管制は、実績と安全の信頼が採用の条件になる。NEC や富士通、日立と競合するが、現場に深く入り込んだ領域は入れ替えが難しい。ATM も、合弁後は国内で日立とOKIの実質一強になり、価格を決める力は今より強まる。
一方で、広く見ると OKI は規模が小さい。売上は NEC の 1 割にも満たず、通信機器はファーウェイや欧米勢に対し、海外で戦える立場にない。プリンターは開発の主導権をエトリアに渡した。製造業としての基礎体力は細っている。
資本効率は低い。過去 10 年の ROE の中央値は 7% で、資本コストを下回る年が多い。赤字の年も 7 回あり、利益が安定して積み上がる会社とは言い難い。
経営は変わりつつある。森社長は 2022 年の就任以来、プリンターや ATM の再編を実行し、利益率を 4% 台に戻した。再編の決断は評価できる。ただ、売上は中計の目標に届かなかった。縮小均衡からの脱却は、まだ道半ばだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
OKIの市場は、成長産業と縮む市場が混ざっている。
社会インフラ向けは堅調だ。消防システムの更新、航空管制の高度化、防衛予算の拡大が需要を支える。通信キャリア向けでは、6G や IOWN(光を使った次世代ネットワーク)への転換が商機になる。OKIは、競合が通信機器のハードを縮小しているのを好機と見る。
金融向けは縮んでいる。キャッシュレス化で、国内の銀行の ATM は 10 年で 24% 減った。2018 年ごろの約 20 万台がピークで、今は約 18 万台だ。この縮小に耐えるため、日立とOKIはATM事業を統合した。完成品の合算シェアは約 65% になり、公正取引委員会は、部品の供給を拒まないなどの条件で承認した。富士通は 2028 年 3 月でATMから撤退し、OKIから調達する。
プリンター・複合機は、ペーパーレス化で国内の複合機出荷が、ピークの 65 万台超から 45 万台ほどへ 3 割落ちた成熟市場だ。リコーやキヤノンが寡占し、OKIは小さなプレーヤーにすぎない。エトリアへの統合は、この市場で生き残るための選択だった。
EMS は、半導体製造装置や通信、防衛向けが中心で、景気の波を受ける。AI サーバーの国内生産という新しい需要はあるが、利益率は低い。
資本政策と M&A
資本の使い方は、守りから攻めへ移る途中だ。
2025 年 10 月にプリンターの開発・生産をエトリアへ移し、2026 年 10 月には日立と ATM 事業を統合した。重い製造事業を外に出し、規模を持つ形に直している。ヒューリック株の売却(2026 年 5 月、売却益 51 億円)も、持ち合い株を整理する一歩だ。
還元は、中計 2025 では配当性向 30% 以上だった。新経営計画 2031 では 35% 以上に引き上げる。2026 年 3 月期は配当を前の期から増やし、配当性向は 31% だった。自己資本比率は 40% 以上を保つ方針だ。
2031 年度までに 2,950 億円を投資する。目標は売上 6,000 億円以上、営業利益率 7% 以上、ROE 10% 以上だ。成長投資が実を結ぶかが焦点になる。
筆者が気にするのは、株主還元が配当中心で、自社株買いが目立たない点だ。資本効率の低い会社は、使い道のないお金は返したほうがよい。M&A では、日立との合弁以外に大型の案件は見えない。時価総額が 2,000 億円台と小さく、10 年以内の TOB の確率は 2 割ほどと見られる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
OKIは、変わりつつある会社だ。2026 年度の再編で、重たい製造事業を軽くし、利益の出る分野に力を集められる。
パブリックソリューションは、国土強靱化と防衛予算、通信の次世代化という国の政策に支えられる。ネットワークインフラ事業部が、6G や IOWN、鉄道・電力の自営網で売上を伸ばせば、利益率 14% 台の事業が全社を引っぱる。
金融では、日立との統合で国内の ATM は実質一強になる。富士通の撤退分もOKIに移る。価格を自分で決めやすくなり、製造と開発の統合で費用も下がる。保守・運用のサービス収入は、ATM が減っても残る。
EMS は、国産 AI サーバーの需要に乗って売上を大きく伸ばせる。経済安全保障の面で、国内生産は価値を持つ。
こうして 2031 年度に利益率 7% を達成し、ROE が 10% を超えれば、倍率も上がる。配当性向 35% 以上に加え、余力があれば自社株買いも出る。10 年後の時価総額は、今の 2 倍近くになりうる。
慎重な見方
営業利益率 4.5% は、再編の効果を差し引いても低い。売上は 2023 年度の 4,200 億円台から伸びておらず、中計 2025 の売上目標(4,500 億円)は未達だった。
ATM は縮む市場だ。設置台数は減り続け、銀行の統合も進む。日立との統合で一強になっても、買う側の銀行の交渉力は強い。公正取引委員会の条件もあり、値上げは簡単ではない。統合の費用と混乱も重い。
通信機器は、国内の需要に頼る。海外ではファーウェイやノキアに勝てず、国内の通信キャリアも設備投資を絞る。官公庁向けは、NEC・富士通・日立との入札競争が続く。
プリンターは、エトリアでの生産が軌道に乗るまで赤字に近い。EMS は利益率が 1% 台で、景気が悪くなればすぐ赤字になる。
そもそも、OKIは 20 年で 7 回も赤字になった会社だ。ROE の中央値は 7% で、資本コストに届かない。2026 年 3 月期の利益は特別利益で膨らんでおり、地力はもっと低い。目標の利益率 7% は、ここ 25 年では一度も届いていない水準だ(最高は 2015 年 3 月期の 6.0%)。
どちらに重みを置いたか
強いのは慎重な見方だ。官公庁向けの堅さと、ATM 統合の効果は本物だが、会社全体の利益率と ROE の低さは動かしがたい。
中立は、売上が物価並みに伸び、利益率が 5.8% に上がる姿に置いた。会社の目標(7%)より低い。確率は、楽観 10%、やや楽観 22%、中立 35%、やや悲観 23%、悲観 10% とした。中立と悲観側の合計がやや厚い。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,873 円2,492 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 775 円672 億円)。 今の値に割り戻すと 1,821 円1,580 億円、今との差 −26.0%、 期待の年率 +4.0%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 6,386 円5,540 億円 | 1,210 円1,050 億円 | +208.8% | +11.9% | 760 円659 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,461 円3,870 億円 | 1,014 円880 億円 | +122.6% | +8.3% | 1,205 円1,045 億円 |
| 中立 | 35% | 3,060 円2,654 億円 | 807 円700 億円 | +57.2% | +4.6% | 1,353 円1,174 億円 |
| やや悲観 | 23% | 700 円608 億円 | 519 円450 億円 | −50.4% | −6.8% | 280 円243 億円 |
| 悲観 | 10% | 205 円178 億円 | 288 円250 億円 | −79.9% | −14.8% | 49 円43 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,873 円2,492 億円 | 775 円672 億円 | +48.3% | +4.0% | 3,647 円3,164 億円 |
今の株価時価総額 2,460 円2,134 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 国産の守りと統合効果が重なり、利益率 7.8% に届く 利益 396 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 6,386 円5,540 億円
中計 2031 の目標を上回って達成する筋書きだ。パブリックソリューションは、防衛・防災の更新需要と 6G・IOWN 向けの機器で伸び、利益率 14% を保つ。ネットワークインフラ事業部が鉄道・電力の自営網を取り、通信キャリア依存を薄める。
金融では、日立との統合で国内 ATM が実質一強になる。富士通の撤退分も取り込み、保守・運用のサービスが厚みを増す。ATM の台数は減るが、1 台あたりの収益と統合の費用削減がそれを補う。
EMS は国産 AI サーバーと防衛・半導体装置向けで売上を 4 割近く伸ばし、利益率も 4% 台に上がる。プリンターはエトリアの生産が安定し、販売会社として黒字を保つ。
利益率 7.8%、ROE 11% 近くまで改善し、配当性向 35% 以上に加えて自社株買いも出る。ここまで行くと、OKIは資本コストを上回る稼ぎのある会社として評価される。
- パブリックソリューション:数量 3.9(OKIの対象市場(国内の社会インフラ・官公庁・通信キャリア向け機器とシステム、実質・兆円))× 価格 737(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 2,874 億円・営業利益 402 億円。市場(実質)3.90 兆円 × シェア 5.5%、物価込みで名目
- 金融ソリューション(旧エンタープライズ):数量 0.5(国内の ATM・金融端末・関連サービスの市場(実質・兆円))× 価格 5,360(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 2,894 億円・営業利益 260 億円。市場(実質)0.54 兆円 × シェア 40.0%、物価込みで名目
- コンポーネントプロダクツ:数量 0.4(OKIの対象市場(国内外のプリンター・ビジネスフォン・IoT 機器、実質・兆円))× 価格 2,546(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 967 億円・営業利益 58 億円。市場(実質)0.38 兆円 × シェア 19.0%、物価込みで名目
- EMS:数量 0.8(国内の多品種少量 EMS 市場(実質・兆円))× 価格 1,608(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 1,351 億円・営業利益 61 億円。市場(実質)0.84 兆円 × シェア 12.0%、物価込みで名目
倍率:事業の純利益 396 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍。全体の PER 13.99 倍、時価総額 5,540 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利益率と ROE が会社の目標を上回る姿で、起きる確率は 1 割。国内の政策と統合の効果が重なる必要がある。
やや楽観 22% 中計 2031 の目標に近づく 利益 300 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 4,461 円3,870 億円
目標の売上 6,000 億円・利益率 7% にはあと一歩届かないが、2031 年度までに近い水準へ上がる筋書きだ。パブリックソリューションは堅調に伸び、利益率 13%。金融は ATM の台数減を統合効果とサービス収入で補い、利益率 8% 台に乗る。
EMS は AI サーバーなど新しい受託で売上を伸ばす。コンポーネントプロダクツは、プリンターの固定費が消えた効果で 5% 台の利益率を得る。
全体の利益率は 6.8%、ROE は 9.5% 前後になる。配当性向は 35% を保ち、自社株買いは小さい。OKIは再編の成果を出した会社として評価されるが、資本コストを大きく上回るまでは行かない。
- パブリックソリューション:数量 3.7(OKIの対象市場(国内の社会インフラ・官公庁・通信キャリア向け機器とシステム、実質・兆円))× 価格 697(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 2,550 億円・営業利益 332 億円。市場(実質)3.66 兆円 × シェア 5.2%、物価込みで名目
- 金融ソリューション(旧エンタープライズ):数量 0.5(国内の ATM・金融端末・関連サービスの市場(実質・兆円))× 価格 5,092(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 2,689 億円・営業利益 223 億円。市場(実質)0.53 兆円 × シェア 38.0%、物価込みで名目
- コンポーネントプロダクツ:数量 0.4(OKIの対象市場(国内外のプリンター・ビジネスフォン・IoT 機器、実質・兆円))× 価格 2,412(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 868 億円・営業利益 45 億円。市場(実質)0.36 兆円 × シェア 18.0%、物価込みで名目
- EMS:数量 0.7(国内の多品種少量 EMS 市場(実質・兆円))× 価格 1,541(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 1,110 億円・営業利益 42 億円。市場(実質)0.72 兆円 × シェア 11.5%、物価込みで名目
倍率:事業の純利益 300 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 3,870 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の目標をおおむね達成する姿。国の政策と統合の効果が出れば十分ありうるが、過去の中計が目標に届かなかった点を考え、中立よりやや薄くした。
中立 35% 売上は物価並みに伸び、利益率は 6% 弱に上がる 利益 219 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,060 円2,654 億円
売上は物価の分だけ伸び、利益率が 4.5% から 5.8% 前後へ上がる筋書きだ。パブリックソリューションは、防災・防衛の更新需要で数量が 15% 伸び、利益率 12% を保つ。
金融は、ATM の市場が実質で 15% 縮む。日立の事業を取り込むため、OKI の売上は大きくなるが、シェアの一部を失い、価格を決める力も思ったほど上がらない。利益率は 7.5% と、今より少し改善する。
コンポーネントプロダクツは、プリンターの数量が縮むなかで固定費の軽さが効き、利益率 4.5%。EMS は 3% で、景気の波を受けつつ伸びる。
全社の利益率は 5.8% で、会社の目標(7%)には届かない。ROE は 7.5% 前後で資本コストを下回り、配当性向を 35〜40% 保っても、自己資本が積み上がる形になる。
- パブリックソリューション:数量 3.5(OKIの対象市場(国内の社会インフラ・官公庁・通信キャリア向け機器とシステム、実質・兆円))× 価格 670(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 2,312 億円・営業利益 277 億円。市場(実質)3.45 兆円 × シェア 5.0%、物価込みで名目
- 金融ソリューション(旧エンタープライズ):数量 0.5(国内の ATM・金融端末・関連サービスの市場(実質・兆円))× 価格 4,824(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 2,460 億円・営業利益 184 億円。市場(実質)0.51 兆円 × シェア 36.0%、物価込みで名目
- コンポーネントプロダクツ:数量 0.3(OKIの対象市場(国内外のプリンター・ビジネスフォン・IoT 機器、実質・兆円))× 価格 2,519(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 857 億円・営業利益 39 億円。市場(実質)0.34 兆円 × シェア 18.8%、物価込みで名目
- EMS:数量 0.7(国内の多品種少量 EMS 市場(実質・兆円))× 価格 1,474(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 973 億円・営業利益 29 億円。市場(実質)0.66 兆円 × シェア 11.0%、物価込みで名目
倍率:事業の純利益 219 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.7% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 2,654 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:目標の 7% には届かず、改善は途中で止まる姿。過去の中計の実績(売上未達・利益率はほぼ目標どおり)と、ATM の縮小・競争の厳しさを両方考えた最も蓋然性の高い筋書きとして最大の確率を置いた。
やや悲観 23% ATM と通信機器が伸び悩み、利益率が 3% 台にとどまる 利益 81 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 700 円608 億円
統合の効果が思ったより出ず、市場の縮小に押される筋書きだ。パブリックソリューションは官公庁の入札競争で単価が上がらず、利益率が 10% まで下がる。通信キャリア向けは、設備投資の抑制で数量が伸びない。
金融は、ATM の台数が実質で 2 割以上減る。統合の相乗効果は費用で相殺され、銀行側も価格交渉で強い。利益率は 5% 止まりになる。
コンポーネントプロダクツのプリンターは、エトリアで競争力が戻らず、数量が 4 分の 1 減る。EMS は景気後退で利益率が 2% に下がる。
全社の利益率は 3.3%、ROE は 4% 弱で、資本コストの半分に満たない。配当は維持しようとするが、自己資本は積み上がらない。
- パブリックソリューション:数量 3.0(OKIの対象市場(国内の社会インフラ・官公庁・通信キャリア向け機器とシステム、実質・兆円))× 価格 616(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 1,849 億円・営業利益 185 億円。市場(実質)3.00 兆円 × シェア 4.6%、物価込みで名目
- 金融ソリューション(旧エンタープライズ):数量 0.5(国内の ATM・金融端末・関連サービスの市場(実質・兆円))× 価格 4,422(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 2,069 億円・営業利益 103 億円。市場(実質)0.47 兆円 × シェア 33.0%、物価込みで名目
- コンポーネントプロダクツ:数量 0.3(OKIの対象市場(国内外のプリンター・ビジネスフォン・IoT 機器、実質・兆円))× 価格 2,010(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 603 億円・営業利益 12 億円。市場(実質)0.30 兆円 × シェア 15.0%、物価込みで名目
- EMS:数量 0.6(国内の多品種少量 EMS 市場(実質・兆円))× 価格 1,340(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 764 億円・営業利益 15 億円。市場(実質)0.57 兆円 × シェア 10.0%、物価込みで名目
倍率:ROE 4% で k を大きく下回る。稼ぐ力(純利益÷k=12 倍)の範囲で、利益の質の低下を見て 7.5 倍に置いた。
確率:国内の ATM と通信機器の縮小が、統合や再編の効果を上回る姿。過去 20 年で 7 回赤字になった会社であり、中立の次に確率を置いた。
悲観 10% 構造的に負け、統合も混乱して利益がほぼ消える 利益 25 億円 · PER 7.1 倍 · 株価時価総額 205 円178 億円
縮む市場の中で、統合の混乱と競争の激化が重なる筋書きだ。ATM は国内の台数減が早まり、日立との統合で製造や拠点の整理が遅れる。公正取引委員会の条件で値上げもできず、利益率は 3% 以下に落ちる。
パブリックソリューションは、NEC・富士通・日立との入札で案件を失い、シェアが 4% 台に下がる。通信機器は海外勢に押され、キャリアの発注も細る。
プリンターは、リコーやキヤノンとの競争でシェアを失い、販売会社としての存続が難しくなる。EMS は、顧客の海外移転で受注が減り、赤字に近づく。
売上は 3,700 億円まで縮み、営業利益は 100 億円を切る。リストラ費用で自己資本も減り、配当は大きく削られる。
- パブリックソリューション:数量 2.7(OKIの対象市場(国内の社会インフラ・官公庁・通信キャリア向け機器とシステム、実質・兆円))× 価格 536(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 1,447 億円・営業利益 130 億円。市場(実質)2.70 兆円 × シェア 4.0%、物価込みで名目
- 金融ソリューション(旧エンタープライズ):数量 0.4(国内の ATM・金融端末・関連サービスの市場(実質・兆円))× 価格 3,752(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 1,463 億円・営業利益 44 億円。市場(実質)0.39 兆円 × シェア 28.0%、物価込みで名目
- コンポーネントプロダクツ:数量 0.2(OKIの対象市場(国内外のプリンター・ビジネスフォン・IoT 機器、実質・兆円))× 価格 1,440(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 346 億円・営業利益 −3 億円。市場(実質)0.24 兆円 × シェア 12.0%、物価込みで名目
- EMS:数量 0.5(国内の多品種少量 EMS 市場(実質・兆円))× 価格 960(市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率)→ 売上 461 億円・営業利益 5 億円。市場(実質)0.48 兆円 × シェア 8.0%、物価込みで名目
倍率:悲観の純利益 25 億円は ROE 1.5% で、ためた利益は額面未満の価値しかない。やや悲観の時価総額÷純利益 7.5 倍より悲観ほど低く置くので、その約 95% の 7.1 倍(時価総額 178.1 億円)とした(稼ぐ力 純利益÷k も超えない)。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。
確率:構造的に負ける姿。ATM の統合失敗や官公庁案件の喪失が重なる必要があり、起きる確率は 1 割。事業の稼ぐ力は消えるが、官公庁向けの収入と保守が残るので、5 年以内の破綻までは置かない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
パブリックソリューション
消防・防災、道路・航空管制、官公庁・防衛向けのシステムと、通信キャリア・鉄道・電力向けのネットワーク機器。
| 数量OKIの対象市場(国内の社会インフラ・官公庁・通信キャリア向け機器とシステム、実質・兆円) | 価格市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.0 | 481 | 1,442 | 181 |
| 10 年後 中立 | 3.5 | 670 | 2,312 | 277 |
取り方:2026/03 期のセグメント売上 1,442 億円・セグメント利益 181 億円(売上の 12.6%)。対象市場を消防防災・道路交通・航空管制・防衛電子・キャリア網の合計で約 3 兆円と推定(公開統計は無く筆者の推定)し、シェア約 4.8% とした。数量は今の値段で測った実質の市場、物価 3% は価格(シェア × 1 万 × 物価の倍率)に入れた。
金融ソリューション(旧エンタープライズ)
ATM・現金処理機・営業店端末と、その運用・保守サービス。2026 年 10 月から日立とのATM合弁を連結する。
| 数量国内の ATM・金融端末・関連サービスの市場(実質・兆円) | 価格市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.6 | 2,527 | 1,516 | 103 |
| 10 年後 中立 | 0.5 | 4,824 | 2,460 | 184 |
取り方:2026/03 期のセグメント売上 1,516 億円・セグメント利益 103 億円(6.8%)。ATM・営業店端末・保守運用の市場を約 0.6 兆円と推定し、OKIのシェアを約 25% とした。日立の ATM 事業(旧日立チャネル単体の売上 725 億円)は 2026/10 の合弁で連結に入るため、10 年先はその分もシェアに含める。
コンポーネントプロダクツ
プリンターの販売、IoT 機器、ビジネスフォン、コンタクトセンター。プリンターの開発・生産は 2025 年 10 月に合弁のエトリアへ移した。
| 数量OKIの対象市場(国内外のプリンター・ビジネスフォン・IoT 機器、実質・兆円) | 価格市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.4 | 1,878 | 751 | 20 |
| 10 年後 中立 | 0.3 | 2,519 | 857 | 39 |
取り方:2026/03 期のセグメント売上 751 億円・セグメント利益 20 億円(2.6%)。プリンター(販売のみ)・ビジネスフォン・IoT 機器の対象市場を約 0.4 兆円と推定しシェア約 19% とした。プリンターの開発生産の移管(2025/10)で固定費は軽くなった。
EMS
多品種少量の電子機器の設計・生産受託、プリント配線板、ケーブル。
| 数量国内の多品種少量 EMS 市場(実質・兆円) | 価格市場 1 兆円あたりの売上(億円)=シェア × 1 万 × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.6 | 1,052 | 631 | 10 |
| 10 年後 中立 | 0.7 | 1,474 | 973 | 29 |
取り方:2026/03 期のセグメント売上 631 億円・セグメント利益 10 億円(1.6%)。国内の多品種少量 EMS を約 0.6 兆円と推定しシェア約 10.5% とした(OKIは開示しておらず推定)。
リスクと懸念
ATM の縮小が統合効果を上回る
国内の銀行 ATM は 10 年で 24% 減った。キャッシュレスは続き、銀行の統合も進む。日立との統合で製造は効率化されるが、台数減が続くかぎり、合弁の規模のメリットは時間とともに薄れる。統合の費用と拠点整理の遅れも重荷になりうる。
公取委の条件と買い手の交渉力
統合後の ATM の国内シェアは合算で約 65%。公正取引委員会は、部品の供給を他社に拒まないなどの条件を付けた。銀行側が一強に警戒して価格を抑えれば、統合の収益改善は小さくなる。
通信機器の需要が国内のキャリア投資に依存
パブリックソリューションの一部は、通信キャリア向けの機器だ。国内キャリアの設備投資が抑えられたり、海外勢(ファーウェイ・ノキア)に押されたりすれば、利益の柱が細る。6G・IOWN は商機だが、時期は読みにくい。
プリンターは他社の合弁に預けた
プリンターの開発・生産はエトリア(リコー 80.7%、東芝テック 14.3%、OKI 5%)に移った。OKI は販売に専念するが、製品の企画・コストの主導権は小さい。複合機市場は縮み、ブランドを維持できるかは不透明だ。
利益の質と、特別利益の見かけ
2026 年 3 月期の純利益 215 億円は、プリンター事業の移管と政策保有株の売却による特別利益を含む。地力の純利益は 130 億円前後で、ROE の見かけは良すぎる。ヒューリック株の売却も一度きりだ。
景気後退でEMSとパブリック以外が赤字になる
EMS と、事務機・ビジネスフォンの一部は、景気後退で利益が消える。過去 20 年で 7 回の赤字があり、売上の年率は 10 年で −1.5%。利益率が薄いため、少しの売上減で赤字に転じる。
金利上昇で利払いが増える
純有利子負債は 582 億円で、借り換えで金利が 3.5% 前後に上がれば、利払いは 10 年で年 15 億円ほど増える。営業利益 190 億円に対し無視できない大きさで、純利益の増加を一部打ち消す。
今後の分かれ目
- パブリックソリューションの利益率が 14% を超える
- 防衛・防災・通信の更新需要が利益に結びつき、全社の利益率 7% の達成が現実味を帯びる。楽観の筋書きに近づく。
- ATM の合弁が初年度から統合の費用削減を出す
- 製造・拠点の整理が予定どおり進み、金融ソリューションの利益率が 8% を超える。ATM の縮小を相殺できる見通しが立つ。
- ATM 事業で、日立との統合後も台数減と値下がりが続く
- 金融ソリューションの利益率が 5% を割り、統合の意義が問われる。やや悲観〜悲観の筋書きに近づく。
- EMS で AI サーバーなどの受託が大きく積み上がる
- 売上と利益率が同時に上がり、全社の利益率の底上げ要因になる。ただし、顧客の海外移転には注意が要る。
- 次期の中計の目標(利益率 7%)を前倒しで達成する
- 資本効率の改善が確かになり、ROE が資本コストを超える。倍率が上がる余地が出る。
- 国内の通信キャリアが設備投資を大きく絞る
- パブリックソリューションの通信部分が縮み、全社の利益率が 5% を下回る。
見ておくもの
- パブリックソリューション(新: パブリック)の利益率
- 日立との ATM 合弁の統合費用と削減効果
- ATM の国内設置台数と保守収入
- エトリアでのプリンター生産・OKI の販売台数
- EMS の AI サーバー受託の売上と利益率
- 配当性向と自社株買いの実施
- 純有利子負債と営業利益の比
- ヒューリック以外の政策保有株の整理
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価・PER を見ず、セグメントごとに市場規模(実質)× シェア × 物価で積んだ利益と、その時点の ROE(中立で約 7.5%)・資本コスト 8.25% から正当化 PER(g 4%・残る割合 0.5)を出し、その 8〜9 割に置いた。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、倍率をやや悲観の約95%に置いた。過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。新リース会計基準(2028/03 期から)で営業利益・純有利子負債の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。純有利子負債は 582 億円で時価総額の 25%、現金は余っていないので余剰現金は分けていない。市場規模は筆者の推定で、実際のシェアとは異なりうる。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.7→13.99 倍・やや楽観 PER 10.3→12.9 倍・中立 PER 10.16→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足して k 8.25%。純負債は 582 億円で利払いの余裕は 9.6 倍あり、extra は置かない。