結論
アドテック プラズマ テクノロジーは、半導体と液晶の製造装置に組み込む高周波電源の専業メーカーだ。プラズマで膜をつけたり削ったりする工程の心臓部を、小さく壊れにくい箱で担っている。筆者の結論は「やや割高」で、中立の10年後でも今の時価総額には届かない。
会社の計画は強気だ。2027年8月期は売上215億円、営業利益53億円を見込み、営業利益は前期の2.1倍になる。AI向けの先端半導体への投資が続き、国内の装置メーカーからの受注が戻ってきた。
気になるのは、これが山なのか新しい土台なのかだ。営業利益率は過去10年で3.5%から22%の間を行き来した。売上の7割超は国内の装置メーカー向けで、顧客の投資計画が一つ変わるだけで業績が大きく動く。筆者は10年平均の営業利益率を19%と見る。計画値より低く、過去の山よりやや低い水準だ。
良い点もはっきりある。電源は一度装置に採用されると、顧客は簡単に替えられない。ベトナムの工場には生産の余力がある。ただ世界の競争相手は、アドバンスト・エナジーやMKSのように桁違いに大きい。小さな専業が高い利益率を長く守れるかには、確信が持てない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見るべきは今期の利益ではなく、10年かけて平均していくら稼ぐかだ。同社の営業利益は、2018年8月期に18億円、2019年8月期に6億円と、谷の年に3分の1へ落ちた。計画の53億円は、山の頂上に近い数字と考える。
事業そのものは悪くない。小さくて壊れにくい部品を、装置メーカーに納める。設備投資は軽く、稼いだお金を多くは要らない。株主のものになる利益、つまり再投資に回す分を引いた後の利益は、営業利益の7割ほどある。
気がかりは二つある。顧客が数社の装置メーカーに偏っていて、値決めの力が弱いこと。そして、利益を積み上げても使い道がはっきりしないことだ。現金が貯まって還元が薄いままだと、ROEは自然に下がる。中立の10年後でも、ROEは13%ほどで、資本コストを少し上回るだけだ。
払う値段には安全域が要る。今の値段は、計画の利益がほぼ続くことを織り込んでいる。計画が外れて利益が3分の1に落ちる年は、10年のうちに何度か来るだろう。筆者は、その年に慌てずにいられる値段でなければ、この会社の株は持ちたくない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、プラズマ用の高周波電源とマッチング器だ。半導体の成膜やエッチング、液晶パネルの製造装置は、真空の容器の中でガスをプラズマにして加工する。その電力を安定して送り込むのがこの電源で、5kW以下の13.56MHzと27MHzに力を入れている。装置の中では小さな部品だが、電力がぶれれば歩留まりに響く。
売上の約8割が半導体・液晶向けで、7割超は国内の装置メーカーが占める。残りは研究機関・大学向けの電源と装置だ。海外の拠点は米国・英国・中国・台湾・韓国にある。アジアの売上の多くは、国内の装置メーカーがシンガポールなどへ生産を移した分である。
設計は広島県福山市の本社で行い、生産はベトナムの子会社に集中する。人件費が安く、納期も短い。2棟目の工場が加わり、生産能力は最大で約3倍まで広げられる。2024年4月には、電力制御を千倍以上速くできる新方式のMark5を出した。連続出力とパルス出力、異常放電への対処を一台でこなす。
研究機関向けは案件ごとに大きく振れる。2026年8月期は前年の大型案件が剥落し、売上は半分近くに減った。
優良さと弱いところ
堀は、顧客との深いつながりと壊れにくさにある。装置メーカーは新しい電源を試験して採用するまでに時間をかける。一度採用されると、設計ごと電源に合わせるので、安さだけでは替えにくい。同社の売り文句は壊れない電源で、現場の評判がそのまま営業力になる。特許もあり、この分野の設計者は世界で百人ほどしかいないと会社は言う。
弱点は三つある。一つ目は規模だ。世界首位級のアドバンスト・エナジーは半導体向けだけで年8億ドル超を売る。同社の電源の売上は、その10分の1にも届かない。二つ目は顧客の偏りで、装置メーカーの値下げ要求を受けやすい。三つ目は人だ。中核の技術者は40代が中心で、地方の本社で人を確保し続ける難しさがある。
資本効率は良い年と悪い年の差が大きい。ROEは2022年8月期に24%まで上がり、2024年8月期には10%まで下がった。過去10年の中央値は14%だ。筆者は、堀は普通の強さで、世界的な独占にはほど遠いと見ている。財務は堅く、純有利子負債は自己資本の3分の1ほどで、利払いの負担は軽い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体製造装置の市場は、AI向けの投資で次の上昇局面にある。世界の装置市場は2025年に約1,170億ドル、10年後には中立で2,600億ドルと、業界のノートは見る。プラズマを使う工程は、先端品ほど増える。積層が増える3次元のメモリや、配線の細かい先端ロジックで、成膜とエッチングの回数が増えるからだ。電源の需要は、装置の市場より速く伸びやすい。
同社が戦う電源市場は、半導体と液晶向けで約25億ドルと筆者は見積もる。アドバンスト・エナジーが首位で、MKSとコメットが続き、上位5社で6〜7割を占めるとされる。日本ではダイヘンや京三製作所も電源を手がける。同社の世界シェアは3%ほどで、国内の装置メーカーの中でだけ存在感がある。
中立の見方では、電源市場は実質で1.7倍になる。同社が国内の外へ顔を広げ、シェアを4%まで高める。会社自身も、世界シェアが数ポイント上がれば売上が100億円増えると語る。
逆風もある。中国は装置と部品の国産化を進めており、中国の電源会社が低価格で追い上げる。液晶パネルの投資は、半導体より弱い。装置の投資は数年ごとに山と谷を繰り返し、谷の年には受注が半分近くに落ちることもある。
資本政策と M&A
資本政策は、これまで利益の大半を事業に残してきた。配当は2027年8月期に前期の1.7倍へ引き上げる計画だ。それでも利益に対する配当の割合は、1割台にとどまる。自社株買いの実績は見当たらず、自己株式は0.2%ほどだ。
筆頭株主は個人で、持株比率は2割強に達する。個人株主が全体の7割を超え、機関投資家の影は薄い。経営者個人の持ち分が厚い会社は、買収提案には動きにくい。一方で、会社が本気で売ると決めれば話は早い。
M&Aの実績は目立たない。これまでは自前の工場と設計に資本を使ってきた。ベトナムの2棟目の工場に約24億円を投じたのが、近年で最大の投資だ。今後も増産への投資は続く。筆者が望むのは、利益が積み上がる前に還元の方針をはっきり示すことだ。
時価総額は今400億円台で、規模の大きい電源会社や装置メーカーにとっては買いやすい大きさだ。10年以内にTOBや買収が起きる確率を、kabufu の統計は17%ほどとしている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI向けの先端半導体は、まだ入り口にいる。積層メモリや先端ロジックでは、成膜とエッチングの回数が増え、一台の装置が積む電源の数も増える。電源が装置の売上より速く伸びる理由はここにある。
同社の強みは、顧客の細かな注文にこたえる設計力だ。国内の装置メーカーは、海外の装置メーカーに対抗するために高性能の電源を求めている。Mark5のような高速制御は、パルス出力が増える先端工程に合う。採用が重なれば、国内の外にも広がる。
会社自身が、2027年8月期に売上215億円、営業利益53億円という大きな増収増益を示した。受注の裏づけがあるからこそ、ここまで強気の計画を出せる。ベトナムの2棟目の工場は、需要が来ても対応できる余力を残している。
世界シェアが3%から5%台に上がれば、売上は10年で5倍近くに伸びる。営業利益率は、規模の利益で25%に達しうる。計画の25%は、過去の山の22%をわずかに超えるだけだ。
慎重な見方
計画の利益は、山の頂上の数字だ。同社の営業利益率は、2017〜18年に20%を超えたあと、1年で9%台に戻った。2022年の22%のあとも、2024年には13%に下がっている。山の利益を10年続くと考えるのは危ない。
顧客は国内の数社の装置メーカーに偏る。この顧客が電源を内製したり、アドバンスト・エナジーやMKSに切り替えたりすれば、小さな専業には打つ手がない。装置メーカーは値下げも毎年求める。一台あたりの値段が物価ほど上がらないことは、十分ありうる。
中国の電源会社も安さで追い上げる。液晶の電源はすでに価格競争が厳しい。半導体向けでも、中国の装置メーカーが現地の電源を使えば、同社の出番は減る。
売上の伸びに生産の拡大が追いつくかも不安だ。人手を確保する地方の本社で、ベトナムの工場の品質を守り続けるのは簡単ではない。増産の投資が先に走り、需要が後から来なければ、固定費だけが残る。
過去の例も慎重にさせる。2019年8月期は営業利益が前期の3分の1に落ち、2024年8月期も2022年の山から4割ほど減った。計画の翌年に反動が来ることは珍しくない。会社は計画で、利益の質ではなく量を語っている。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分には一理ある。AIの設備投資は電源の需要を押し上げ、会社の計画は受注に裏づけられている。それでも筆者は、慎重な見方がわずかに強いと考える。10年平均の利益率が計画値に届かない可能性のほうが、届く可能性より高いからだ。顧客の偏りと規模の小ささは、10年の間に何度か谷の年を連れてくる。確率は、中立を3分の1に置き、やや悲観を楽観側よりわずかに厚くした。悲観は12%とし、世界大手への切り替えと国産化が重なる筋書きに備えた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/08 期)
確率で加重した株価時価総額 9,346 円798 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,541 円132 億円)。 今の値に割り戻すと 5,378 円459 億円、今との差 +12.6%、 期待の年率 +8.6%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 25,527 円2,179 億円 | 2,870 円245 億円 | +494.7% | +19.5% | 2,840 円242 億円 |
| やや楽観 | 22% | 15,075 円1,287 億円 | 2,109 円180 億円 | +259.9% | +13.7% | 3,780 円323 億円 |
| 中立 | 33% | 9,021 円770 億円 | 1,663 円142 億円 | +123.8% | +8.4% | 3,526 円301 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,810 円155 億円 | 879 円75 億円 | −43.7% | −5.6% | 618 円53 億円 |
| 悲観 | 12% | 696 円59 億円 | 328 円28 億円 | −78.6% | −14.3% | 123 円10 億円 |
| 加重平均 | 100% | 9,346 円798 億円 | 1,541 円132 億円 | +128.0% | +8.6% | 10,887 円929 億円 |
今の株価時価総額 4,775 円408 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 先端装置の標準品になる 利益 121 億円 · PER 18.0 倍 · 株価時価総額 25,527 円2,179 億円
AI向けの先端半導体の投資が10年にわたって続き、プラズマ工程の増加が電源の需要を押し上げる。世界の電源市場は実質で2.2倍に膨らむ。同社は国内の装置メーカーで培った信頼を足がかりに、海外の装置メーカーの採用を取り込む。Mark5のような高速制御が、パルス出力の増える先端工程の標準品になる。
世界シェアは3%から5.5%まで上がり、売上は617億円に達する。ベトナムの工場は余力を使い切り、規模の利益で営業利益率は25%になる。これは2022年の山を上回る水準だ。
株主還元も積み増され、10年で245億円の配当と自社株買いが出る。それでも現金は厚くたまり、ROEは20%ほどを保つ。世界の大手に挟まれる小さな専業が、先端装置の標準部品になるという筋書きだ。
- プラズマ用高周波電源(半導体・FPD向け):数量 55.0(半導体・FPD 向けプラズマ用高周波電源の世界市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 11(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 617 億円・営業利益 154 億円。市場 55 億ドル(実質)× シェア 5.5%、価格は物価込みで今の 2.43 倍、営業利益率 25%
- 研究機関・大学向け:数量 271(研究機関・大学向けの電源・装置の台数(台・推定))× 価格 0.07(1 台あたりの売上(億円)=約 500 万円 × 物価の倍率)→ 売上 19 億円・営業利益 3 億円。271 台 × 1 台 680 万円、営業利益率 15%
倍率:事業の純利益 121 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.0 倍。全体の PER 18.01 倍、時価総額 2,179 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIの投資が続き、先端工程の電源採用が重なる強気の筋書き。国内の外へ広がるには、世界大手との競争に勝つ必要があり、確率は1割にとどめた。
やや楽観 22% AI投資に乗って海外でも伸びる 利益 77 億円 · PER 16.8 倍 · 株価時価総額 15,075 円1,287 億円
AI向けの設備投資が続き、国内の装置メーカーからの受注は計画の水準を保つ。世界の電源市場は実質で1.9倍になる。同社はシェアを4.7%まで高め、海外の装置メーカーにも一部で採用される。
売上は450億円ほどに育つ。ただ営業利益率は22%と、過去の山の水準にとどまる。値決めは物価並みに保たれ、国産化の影響は限られる。
還元は積み増され、10年で180億円が株主に戻る。ROEは16%台になる。会社の計画が一時の山でなく、新しい土台だったという筋書きで、10年の見立ての上のほうにあたる。
この筋書きでは、電源の採用が国内の装置メーカーの新しい世代に引き継がれる。ベトナムの増産は需要に合わせて進み、売上の伸びと利益の伸びがそろう。ただし顧客の偏りは残り、谷の年は来る。大崩れはしないが、世界大手の背中にも届かない。
- プラズマ用高周波電源(半導体・FPD向け):数量 47.5(半導体・FPD 向けプラズマ用高周波電源の世界市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 9.45(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 449 億円・営業利益 99 億円。市場 48 億ドル(実質)× シェア 4.7%、価格は物価込みで今の 2.05 倍、営業利益率 22%
- 研究機関・大学向け:数量 260(研究機関・大学向けの電源・装置の台数(台・推定))× 価格 0.07(1 台あたりの売上(億円)=約 500 万円 × 物価の倍率)→ 売上 17 億円・営業利益 2 億円。260 台 × 1 台 670 万円、営業利益率 12%
倍率:事業の純利益 77 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.8 倍。全体の PER 16.8 倍、時価総額 1,287 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向けの投資が続き、国内の装置メーカーのシェアを保ちつつ海外にも少し広がる筋書き。計画の水準が新しい土台になる可能性を考え、2割強を置く。
中立 33% 中立:伸びるが小さな専業のまま 利益 50 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 9,021 円770 億円
装置市場の成長に合わせて電源の市場は実質で1.7倍になり、同社もシェアを3.1%から4%へ少し上げる。10年で売上は340億円ほどになり、2027年8月期の計画215億円からは年に6%ほどの伸びだ。
営業利益率は19%で、計画の25%より低い。谷の年に13%台まで下がる年を挟み、平均がこの水準になる。純利益は50億円、10年の累計は約400億円だ。
留保した利益は現金で積み上がる。還元は少しずつ厚くなるが、10年の累計は140億円ほどで、ROEは13%台に下がる。国内の装置メーカーの中ではなくてはならない存在のまま、世界の中では小さな専業にとどまる。派手さはないが、事業としては健全だ。
- プラズマ用高周波電源(半導体・FPD向け):数量 42.5(半導体・FPD 向けプラズマ用高周波電源の世界市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 8.04(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 342 億円・営業利益 65 億円。市場 42 億ドル(実質)× シェア 4.0%、価格は物価込みで今の 1.74 倍、営業利益率 19%
- 研究機関・大学向け:数量 248(研究機関・大学向けの電源・装置の台数(台・推定))× 価格 0.07(1 台あたりの売上(億円)=約 500 万円 × 物価の倍率)→ 売上 17 億円・営業利益 2 億円。248 台 × 1 台 670 万円、営業利益率 12%
倍率:事業の純利益 50 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.3 倍。全体の PER 15.34 倍、時価総額 770 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場は装置の投資とともに伸びるが、同社は小さな専業のまま、シェアを少しだけ上げる。いちばん起きやすい形で、3分の1を置く。
やや悲観 23% 大手に値を叩かれ利益率が落ちる 利益 21 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 1,810 円155 億円
装置メーカーの値下げ要求が強まり、世界大手が国内の装置メーカーにも電源を売り込む。同社の価格は物価ほど上がらず、10年で1.3倍にとどまる。中国の電源会社も、液晶と一部の半導体で入り込む。
市場は実質で1.4倍に伸びるが、同社のシェアは3%で変わらない。売上は205億円、営業利益率は13%と、谷の年の水準が平均になる。
純利益は21億円で、ROEは7〜8%に下がり、資本コストを下回る。留保した利益は額面ほどの価値を生まない。還元は75億円ほどにとどまる。優良な専業から、普通の部品メーカーへ格が落ちる筋書きだ。
- プラズマ用高周波電源(半導体・FPD向け):数量 35.0(半導体・FPD 向けプラズマ用高周波電源の世界市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 5.85(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 205 億円・営業利益 27 億円。市場 35 億ドル(実質)× シェア 3.0%、価格は物価込みで今の 1.27 倍、営業利益率 13%
- 研究機関・大学向け:数量 224(研究機関・大学向けの電源・装置の台数(台・推定))× 価格 0.07(1 台あたりの売上(億円)=約 500 万円 × 物価の倍率)→ 売上 15 億円・営業利益 1 億円。224 台 × 1 台 650 万円、営業利益率 8%
倍率:ROE 7.6%が k 8%を下回るので、ためた利益は額面未満の価値になり、PERの上限は1÷k=11.4倍。大手に値を叩かれ稼ぐ力が薄れた会社として、事業の純利益から7.5倍に置いた。
確率:顧客の値下げ要求と世界大手の攻勢で、利益率が谷の水準に戻る筋書き。過去10年で何度か起きたことであり、楽観側よりわずかに厚くした。
悲観 12% 採用を失い、小さな部品屋に戻る 利益 3 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 696 円59 億円
国内の主要な装置メーカーが、世界大手の電源に切り替えるか、内製に動く。同社は採用を失い、中国の電源会社も低価格で攻める。AI向けの投資が一巡した反動も重なる。
市場は実質で1.25倍に伸びるが、同社のシェアは3%から1.8%に落ちる。価格も物価に負け、10年で1.15倍にしか上がらない。売上は100億円を割り、営業利益はほぼ消える。
ベトナムの工場の固定費が重く、減損も出る。純利益は3億円ほどで、ROEは資本コストを大きく下回る。株主還元も細り、価値は帳簿の自己資本の半分ほどにまで落ちる。小さな専業が優良さを失う、典型的な筋書きだ。
- プラズマ用高周波電源(半導体・FPD向け):数量 31.3(半導体・FPD 向けプラズマ用高周波電源の世界市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア)× 価格 3.11(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 97 億円・営業利益 4 億円。市場 31 億ドル(実質)× シェア 1.8%、価格は物価込みで今の 0.67 倍、営業利益率 4%
- 研究機関・大学向け:数量 189(研究機関・大学向けの電源・装置の台数(台・推定))× 価格 0.06(1 台あたりの売上(億円)=約 500 万円 × 物価の倍率)→ 売上 11 億円・営業利益 0 億円。189 台 × 1 台 600 万円、営業利益率 3%
倍率:ROEが2%ほどでkを大きく下回り、稼ぐ力(純利益÷k)は帳簿の価値に遠く及ばない。この場合は売れる資産で測り、今の自己資本132億円に0.45倍を掛けた。売掛金・在庫・工場の売却を割り引いた価値と見る。EV(時価総額+純有利子負債)÷ 営業利益でも見て24倍と高く出るが、この筋書きでは営業利益がほぼ消えるため、利益の倍率で語らず売れる資産の価値を採った。
確率:国内の主要顧客を世界大手や中国の電源会社に奪われ、採用そのものを失う筋書き。小さな専業が優良さを失う例は多く、1割強は置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
プラズマ用高周波電源(半導体・FPD向け)
半導体・液晶の製造装置に組み込むプラズマ用高周波電源とマッチング器。売上の約9割を占める。
| 数量半導体・FPD 向けプラズマ用高周波電源の世界市場(億ドル・今の値段で測った実質)× シェア | 価格実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/08 | 25.0 | 4.62 | 115 | 17 |
| 10 年後 中立 | 42.5 | 8.04 | 342 | 65 |
取り方:会社は市場シェアを開示していない。世界の半導体・FPD向けプラズマ用高周波電源の市場を約25億ドルと推定した。根拠は、アドバンスト・エナジーの半導体売上が年8億ドル超で首位、上位5社で6〜7割を占めること、MKS・コメット・ダイヘン・京三製作所などを合わせた規模感、会社が語る世界シェア数ポイントで約100億円という言葉である。同社の2025年8月期の電源の売上は約115億円で、シェアは3.1%になる。市場は実質(今の値段)で置き、物価3%は価格(シェア×150円×物価の倍率)に入れた。10年の中立では、実質の市場が装置市場とほぼ同じ1.7倍(先端工程でのプラズマ工程の増加が電源の伸びを押し上げるが、液晶の弱さが相殺)、シェアは4%、価格は物価並みの1.34倍。
研究機関・大学向け
大学・国の研究機関向けの電源と装置。案件ごとの売上のぶれが大きい。
| 数量研究機関・大学向けの電源・装置の台数(台・推定) | 価格1 台あたりの売上(億円)=約 500 万円 × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/08 | 236 | 0.05 | 12 | 1 |
| 10 年後 中立 | 248 | 0.07 | 17 | 2 |
取り方:台数は開示されない。2025年8月期の売上11.8億円を、1台約500万円で割った約236台と推定した。研究費の予算は安定していて、台数は10年で1.05倍の中立とした。価格は物価並みの1.34倍。2026年8月期は大型案件の剥落で売上が6.1億円に半減した。
リスクと懸念
顧客の偏りと値下げ要求
売上の7割超は国内の装置メーカー数社に向く。どれか一社が投資を減らす、あるいは電源を内製や他社に切り替えるだけで、受注は大きく動く。装置メーカーから毎年の値下げを求められ、一台あたりの値段が物価ほど上がらない可能性もある。
半導体投資の循環
装置の投資は数年ごとに山と谷が来る。同社の営業利益率は、過去10年で3.5%から22%の間を動いた。計画の53億円は山の頂上に近く、谷の年に利益が3分の1へ落ちる年は、10年のうちに何度か訪れる。
世界大手との規模差
アドバンスト・エナジーやMKSは、半導体向けだけで年に数億ドルから十億ドル近くを売る。開発費も顧客対応の人数も桁が違う。大手が国内の装置メーカーに本格的に売り込めば、小さな専業は価格と性能の両方で苦しくなる。
中国の国産化と液晶の弱さ
中国は装置と部品の国産化を進めている。中国の装置メーカーが現地の電源を使えば、同社の出番は減る。液晶向けはすでに価格競争が厳しく、投資も半導体ほど伸びない。
人材と工場の運営
中核の設計者は40代が中心で、世界でも数が少ない。広島県福山市の本社で人を集め続ける難しさがある。ベトナムの工場の増員が急ぎすぎると、品質に響き、壊れにくいという売り文句を傷つける。
資本の使い道が不明確
配当は利益の1割台で、自社株買いの実績がない。現金が積み上がると、ROEは自然に下がる。大型の買収で資本を使えば、価値を壊す危険もある。方針がはっきりしないことは、株主にとって見えにくいリスクだ。
今後の分かれ目
- 2027年8月期の売上が計画の215億円に届き、受注が翌期も伸びたら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。計画の水準が山ではなく新しい土台だった証拠になる。
- 主要な装置メーカーが同社の電源の採用を減らしたら
- やや悲観・悲観の筋書きの確率を上げる。顧客の偏りが最悪の形で出る合図である。
- 海外の装置メーカーへの売上が育ち、国内の比率が7割を切ったら
- シェアが4%を超える道が開ける。中立から楽観側へ寄せて見る。
- 株主還元の方針が数値で示され、配当性向が3割を超えたら
- 留保した現金でROEが下がる懸念が薄れる。倍率を上限に近づけてよい。
- 営業利益率が2期続けて20%を超えたら
- 10年平均19%の前提を上げる余地が出る。逆に15%を割れば、やや悲観の確率を厚くする。
- 世界大手が国内の装置メーカーに採用されたと伝わったら
- 同社の国内での優位が崩れ始めている合図で、価格と利益率の見立てを下げる。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と受注残
- 売上の国内外の比率と主要顧客の動き
- 営業利益率が20%を超えて続くか
- ベトナムの2棟目の稼働と人員
- 配当・自社株買いの方針
- 半導体装置の世界投資の見通し
倍率と資本コストの決め方
今の株価や市場のPERは見ずに、電源の世界市場(実質)とシェアで売上を積み、物価3%は価格に入れた。倍率は資本コスト8%(基本7.5%に循環+0.75%・値決め力+0.25%・寿命+0.25%)と成長率4%から、利益ベースの式で決め、中立は上限の8割に置いた。10年平均の営業利益率19%は、過去10年の中央値と山の中間であり、会社の計画値に寄せていない。悲観は、採用を失う構造的な負けから売れる資産で床を置いた。結論が割高に出たのは、計画の利益を山の水準と見たためで、今の株価に合わせて動かしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13→18.01 倍・やや楽観 PER 11.5→16.8 倍・中立 PER 10.6→15.34 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。