結論
アバールデータは、半導体の製造装置の中で動く制御ボードを、東京エレクトロンなどの注文に応じて設計・製造する会社だ。売上の約 65% がこの受託で、残りが画像処理ボードなどの自社製品である。2023 年 3 月期に営業利益 24 億円と最高をつけたが、2026 年 3 月期は 7 億円まで落ちた。足元は急回復していて、今期の売上計画は 125 億円と、1 年で 4 割増える。
筆者の結論は、価値は今の時価総額を下回るというものだ。本業の利益は戻るが、自己資本 203 億円の 9 割が資産としてたまっていて、稼いだ利益の効率(ROE)は資本コストに届かない。10 年後の中立でも ROE は 8% 前後にとどまる。現金と上場株式が時価総額の 4 割近くを占めるのは救いだが、それは事業の価値ではなく、じっとしている資産の価値だ。
最大の弱点は顧客の集中である。東京エレクトロンの 2 拠点だけで売上の 43% を占める。発注が一社の方針で動くので、10 年先の利益を高く見積もれない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、これは「悪い会社ではないが、持ち続けたい会社でもない」と筆者は見る。理由は 3 つある。
第一に、稼ぎの源が他社の発注だ。主力 2 社で売上の 4 割を占め、値段も数量も顧客が決める。第二に、資本の使い方だ。自己資本の 9 割が眠っている。還元の方針は整ったが、利益そのものが細いと DOE の下限が重荷になる。第三に、10 年後の利益の見えにくさだ。半導体装置の需要は戻るが、当社の取り分は戻る保証がない。
良い点もある。借金がなく、現金と上場株式で時価総額の 4 割に近い価値がある。これが悲観の床になる。安全域は厚いが、その源が事業の稼ぎではなく資産である点を、筆者は割り引いて見ている。資産が眠ったままなら、時間がたつほど価値は目減りする。経営が還元と保有株の縮減をどこまで実行するかを、いちばん見たい。
何で稼ぐ会社か
収益の柱は受託製品だ。半導体製造装置の中にある制御部、つまり装置の頭脳にあたる基板とユニットを、顧客の仕様どおりに設計し、組み立てて納める。主な顧客は東京エレクトロンの宮城と TEL テクノロジーソリューションズで、2 社で売上の 43%、ニコンが 11% を占める。半導体装置が売れる年は注文が膨らみ、設備投資が止まる年はそのまま減る。
もう一つが自社製品だ。画像を高速で取り込むフレームグラバボード、組込みモジュール、装置内の高速通信モジュール(GiGA CHANNEL)を自前で開発する。売上の約 35% だが、自社の仕様で売るので利益率は受託より高い。研究開発費は年 8.8 億円で、2024 年に山梨に開発拠点を開いた。
ほかに産業用の制御機器と計測機器の受託がある。こちらは半導体の景気から少し離れていて、足元は伸びている(計測機器は前期比 33% 増)。従業員は 199 名で、うち 176 名が受託側にいる。海外への直接販売は 2% ほどで、海外の需要は顧客を通して間接に効く。景気の波が顧客を通して、そのまま当社の受注に映る形だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、受託では弱く、自社製品で小さい。受託の強みは、1976 年のニコンとの取引から続く装置メーカーとの設計の付き合いと、少量多品種の基板をこなす製造力だ。ただ、基板の外注先は他にもあり、顧客は価格と納期で選び直せる。有報も「価格競争が年々厳しくなっている」と書く。
ROE は直近で 2.7%、過去 10 年の中央値で 8.3% と低い。理由は自己資本比率が 9 割あることだ。借金はなく、現金が 47 億円ある。財務は盤石だが、稼ぐ力に比べて資本が大きすぎる。この余りを事業に使うか、株主に返すかで、資本効率は決まる。
もう一つの強みは顧客との距離だ。装置の設計の初期から入り込むため、制御部の仕様を握りやすい。一方、顧客が内製や他社への移管に動けば、代わりの売り先が簡単に見つからない。過去 12 年の営業利益率の山が約 2 割にとどまることも、堀の浅さの現れだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
受託製品の需要は、半導体の製造装置市場(WFE)に連動する。この市場は 2025 年に 1,170 億ドルほどで、AI 向けの先端ロジックと HBM の投資が牽引し、2028 年には 2,200 億ドル規模という見方もある。10 年では中立で 2,600 億ドル(名目)まで伸びる。物価の分を除くと、実質で 1.7 倍弱だ。
ところが当社の売上は、この市場の伸びほどには増えなかった。2023 年 3 月期は 144 億円まで伸びたが、そこから 3 期で 88 億円まで落ちた。装置メーカー側が在庫を調整し、中国向けの装置が落ちたことが重なった。現在は在庫の調整が終わり、売上は急回復している。
競争は 2 つある。受託では、同じ装置メーカーに納める国内外の電子機器の受託メーカーと価格で競う。自社製品の画像取り込みボードでは、海外のボード専業メーカーや、カメラ側の規格(CoaXPress)に対応した競合と戦う。どちらも規模で勝てる相手ではない。そのため当社は、顧客ごとの専用品や用途を絞った製品で、価格競争を避ける道を選んでいる。
資本政策と M&A
資本政策は、最近大きく動いた。2025 年 5 月に、配当性向 35% を基本とし、純資産配当率(DOE)3.0% を下限とする方針を決めた。2026 年 3 月期は配当は年間で約 6 億円、約 10 億円の自社株買い、75 万株の消却をそろえ、純利益 5.5 億円を大きく上回る還元をした。
政策保有株式は上場銘柄で 11 件あり、中期方針で「縮減」を掲げる。過去に売却益で純利益が営業利益を大きく上回った期(2023・2024 年 3 月期)があり、実績は確かだ。2027 年 3 月期の予想純利益 19 億円も、営業利益 17 億円との差に売却益が入る。
筆者は、保有株の価値を余った現金に足さず、配当収入のまま利益に残した。売却で現金化されるまでは、価値を二重に数えないためだ。ニコンが 11% を持つ大株主で、レーザーテックも 1.9% 持つ。買収される可能性(kabufu の推定で 10 年に 19%)は否定できないが、筋書きには織り込んでいない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体装置の投資は AI で長い拡大に入った。当社の売上は 2023 年 3 月期に 144 億円まであったので、谷の 88 億円から戻るのは当然で、会社の計画は 2027 年 3 月期に 125 億円、2028 年 3 月期に 145 億円だ。1 四半期目は売上が 75% 増え、営業利益率は 12.9% まで戻った。
受託は東京エレクトロンの装置の世代交代のたびに仕様が変わり、制御部の新規設計を任される。一度入ると外しにくい。自社製品の画像処理ボードは検査用途で伸び、利益率が高い。2030 年 3 月期に売上 200 億円・営業利益率 20% という目標は、10 年では手が届く。
財務の裏づけも強い。自己資本比率 9 割、現金 47 億円、上場株式の含みもある。配当は DOE 3% が下限で、自社株買いも続く。買収される側になる可能性もあり、その場合は現金と上場株式の価値に上乗せが付く。
慎重な見方
売上の 4 割強が 2 社に依存する構造は変わらない。2023 年 3 月期の絶頂は在庫積み増しと中国向け装置の山で、再現する保証がない。この 3 年で半導体装置向けは 6 割近く減っている。受託の利益率は低く、有報も価格競争の厳しさを認めている。人件費も部材も物価で上がるが、値上げを顧客に通せるとは限らない。受託の利益率は薄いまま、本社の固定費だけが物価で増えていく。
自己資本の 9 割が眠っていて、ROE は過去 10 年の中央値で 8% 台。資本コストに届かない会社は、利益が戻っても価値は利益の 10 倍程度で打ち止めだ。今期の純利益 19 億円には売却益が入り、続かない。保有株は売ってしまえば、次の期から売るものがなくなる。
自社製品も、画像処理は海外の専業と競合し、計測通信は前期に 43% 減った。会社の掲げる 200 億円・利益率 20% は、過去 12 年一度も届いていない水準である。
どちらに重みを置いたか
顧客の集中と資本効率の低さが、強気の言い分より重いと見た。ただし足元の回復は本物で、中立でも利益は今の 3 倍になる。確率は中立を厚く置き、悲観をやや厚めにした。強気の根拠は景気の回復という外から来るもので、慎重な根拠は構造という内にあるもの。後者のほうが長く効くと見たからだ。純現金と上場株式の床があるので、悲観の深さは限られる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,457 円260 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,745 円102 億円)。 今の値に割り戻すと 3,191 円186 億円、今との差 −12.3%、 期待の年率 +5.5%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 10,399 円607 億円 | 2,569 円150 億円 | +256.3% | +13.5% | 1,167 円68 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,148 円417 億円 | 2,227 円130 億円 | +157.6% | +9.9% | 1,875 円109 億円 |
| 中立 | 33% | 4,704 円275 億円 | 1,799 円105 億円 | +78.6% | +6.0% | 2,146 円125 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,461 円85 億円 | 1,456 円85 億円 | −19.9% | −2.2% | 729 円43 億円 |
| 悲観 | 13% | 1,336 円78 億円 | 856 円50 億円 | −39.8% | −4.9% | 285 円17 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,457 円260 億円 | 1,745 円102 億円 | +70.4% | +5.5% | 6,202 円362 億円 |
今の株価時価総額 3,640 円212 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 9% 先端装置の増産と自社製品の海外開拓が両方当たる 利益 40 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 10,399 円607 億円
半導体製造装置の市場が実質で 2 倍強に膨らみ、東京エレクトロンの新型の成膜・エッチング装置に載る制御部の量が大きく増える。当社は設計の段階から入り込んでいるため、装置の世代が替わっても制御部を任され続ける。受託の取り分は、いまの谷から 2023 年 3 月期ごろの水準へ戻る。自社製品では、半導体や電子部品の検査で使う高速の画像取り込みボードが海外の検査装置メーカーに採用され、売上が 2 倍近くになる。計画に掲げる売上 200 億円は 10 年のうちに通り過ぎる。利益率は受託が 17%、自社製品が 26% まで上がる。ただし 2012 年 3 月期から 12 年の最高でも営業利益率は 2 割だったので、全社では 17% 台にとどめる。還元は配当の下限と自社株買いを続け、10 年で合計 150 億円に達する。
- 受託・半導体製造装置の制御部:数量 2,537(世界の半導体製造装置(WFE)市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 7.00(WFE 市場 1 億ドルあたりの当社の売上(百万円・名目))→ 売上 178 億円・営業利益 30 億円。WFE 市場 2537 億ドル(実質)× 1 億ドルあたり 7.0 百万円、営業利益率 17%
- 受託・産業用制御機器と計測機器:数量 10,990(受託製造のユニット数(台、推定))× 価格 28(1 台あたり売上(万円・名目))→ 売上 31 億円・営業利益 3 億円。10990 台 × 1 台 28.0 万円、営業利益率 11%
- 自社製品(画像処理・組込み・計測通信):数量 21,200(ボード・モジュールの出荷枚数(枚、推定))× 価格 36(1 枚あたり売上(万円・名目))→ 売上 77 億円・営業利益 20 億円。21200 枚 × 1 枚 36.3 万円、営業利益率 26%
倍率:事業の純利益 40 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.0% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 14.58 倍、時価総額 607 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:装置の長い拡大と東京エレクトロンの取り分の回復が重なる必要があり、売上 200 億円の計画達成に近い筋書きなので低めに置いた。
やや楽観 20% 装置需要の回復に自社製品の伸びが乗る 利益 29 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 7,148 円417 億円
装置市場は実質で 7 割ほど伸びる。受託の取り分は谷から戻るが、2023 年 3 月期の水準までは届かない。東京エレクトロンが制御部の外注を続けるからで、新規の顧客が増えるわけではない。自社製品は画像処理モジュールが検査用途で伸び、売上は 1.5 倍強になる。営業利益率は全社で 15% 前後。当社が自力で積んだ過去の最高に近い利益水準だ。配当は性向 35% と DOE 3% の下限で出し、足りない分は自社株買いが埋める。財務は無借金のまま現金が積み上がるので、買収に使うよりも還元に回る可能性が高い。
- 受託・半導体製造装置の制御部:数量 2,239(世界の半導体製造装置(WFE)市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 6.20(WFE 市場 1 億ドルあたりの当社の売上(百万円・名目))→ 売上 139 億円・営業利益 22 億円。WFE 市場 2239 億ドル(実質)× 1 億ドルあたり 6.2 百万円、営業利益率 16%
- 受託・産業用制御機器と計測機器:数量 9,810(受託製造のユニット数(台、推定))× 価格 27(1 台あたり売上(万円・名目))→ 売上 27 億円・営業利益 3 億円。9810 台 × 1 台 27.4 万円、営業利益率 10%
- 自社製品(画像処理・組込み・計測通信):数量 18,700(ボード・モジュールの出荷枚数(枚、推定))× 価格 35(1 枚あたり売上(万円・名目))→ 売上 66 億円・営業利益 16 億円。18700 枚 × 1 枚 35.0 万円、営業利益率 24%
倍率:事業の純利益 29 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.4% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 13.41 倍、時価総額 417 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足元の売上が計画で 125 億円に急回復していること、2027 年 3 月期 1 四半期で営業利益率が 12.9% まで戻ったことは追い風。ただし顧客の都合で振れる受託が主力なので中立に近い厚みにとどめた。
中立 33% 受託は回復止まり、自社製品が少しずつ厚みを増す 利益 21 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 4,704 円275 億円
装置市場は実質で 1.7 倍弱になるが、当社の受託は市場の伸びほどには増えない。東京エレクトロンの外注先は他にもあり、価格交渉の力は向こうが握るためだ。受託の取り分は谷の 3.5 から 5.4 へ戻るにとどまり、2023 年 3 月期の 9 前後には届かない。自社製品は画像処理と計測通信が中心で、数量は 3 割増、価格は物価並みに上がる。全社の営業利益率は 14% と、過去 12 年の山(約 21%)を明らかに下回る。本社費は物価に合わせて 1.34 倍に増え、削減の実績は見当たらない。自己資本比率 9 割の厚い財務は続き、配当と自社株買いで 10 年に 100 億円強を戻す。
- 受託・半導体製造装置の制御部:数量 1,940(世界の半導体製造装置(WFE)市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 5.40(WFE 市場 1 億ドルあたりの当社の売上(百万円・名目))→ 売上 105 億円・営業利益 15 億円。WFE 市場 1940 億ドル(実質)× 1 億ドルあたり 5.4 百万円、営業利益率 14%
- 受託・産業用制御機器と計測機器:数量 8,640(受託製造のユニット数(台、推定))× 価格 27(1 台あたり売上(万円・名目))→ 売上 23 億円・営業利益 2 億円。8640 台 × 1 台 26.8 万円、営業利益率 9%
- 自社製品(画像処理・組込み・計測通信):数量 16,200(ボード・モジュールの出荷枚数(枚、推定))× 価格 34(1 枚あたり売上(万円・名目))→ 売上 54 億円・営業利益 12 億円。16200 枚 × 1 枚 33.5 万円、営業利益率 22%
倍率:事業の純利益 20 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 12.12 倍、時価総額 275 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受託が装置市場の回復に連動し、自社製品が少しずつ伸びるという中心の見立て。2 人の議論の落としどころ。
やや悲観 25% 主力顧客の内製化と値下げで利益が薄くなる 利益 9 億円 · PER 7.8 倍 · 株価時価総額 1,461 円85 億円
装置の投資が 2 回の谷を挟み、市場は実質で 1.4 倍止まりになる。東京エレクトロンが制御部の一部を自社や大手の部品会社に移し、当社の取り分はいまの谷から 2 割ほどしか戻らない。価格交渉でも押され、受託の営業利益率は 9% に沈む。自社製品は価格競争で単価が物価に追いつかず、利益率も 17% に下がる。固定費の本社費は残るので、全社の営業利益率は 1 桁後半になる。配当は DOE の下限があるため大きくは減らないが、自社株買いは細る。自社製品の海外開拓も道半ばで終わり、研究開発費の負担だけが重く残る。会社が掲げる売上 200 億円は、10 年たっても見えない。
- 受託・半導体製造装置の制御部:数量 1,493(世界の半導体製造装置(WFE)市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 4.40(WFE 市場 1 億ドルあたりの当社の売上(百万円・名目))→ 売上 66 億円・営業利益 6 億円。WFE 市場 1493 億ドル(実質)× 1 億ドルあたり 4.4 百万円、営業利益率 9%
- 受託・産業用制御機器と計測機器:数量 7,070(受託製造のユニット数(台、推定))× 価格 26(1 台あたり売上(万円・名目))→ 売上 18 億円・営業利益 1 億円。7070 台 × 1 台 25.5 万円、営業利益率 6%
- 自社製品(画像処理・組込み・計測通信):数量 12,500(ボード・モジュールの出荷枚数(枚、推定))× 価格 31(1 枚あたり売上(万円・名目))→ 売上 39 億円・営業利益 7 億円。12500 枚 × 1 枚 31.0 万円、営業利益率 17%
倍率:事業の ROE は 3.8% で k を下回り、上限は 1÷k=11.1 倍。顧客の内製化で利益が薄れる局面なので、稼ぐ力を厚くは見ず上限の 7 割の 7.8 倍に置いた。
確率:上位 2 社で売上の 4 割を超える顧客集中と、年々厳しくなる価格競争(有報のリスク)を重く見て、中立に近い厚みを置いた。
悲観 13% 主力顧客の調達が他社へ移り、受託が細る 利益 0 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,336 円78 億円
東京エレクトロンの調達方針が変わり、制御部の発注が台湾や中国の部品会社に移る。売上の 4 割を占める 2 社への依存が、そのまま弱みになる形だ。市場そのものが落ち込む年も重なり、受託は赤字に沈む。自社製品も単価が下がり、研究開発費の負担が重い。営業利益は赤字に近く、利益で測る価値はほとんど残らない。残るのは、現金と上場株式の売却額を税引き後にした分だ。配当は DOE の下限を引き下げて続けても 10 年で 50 億円ほどにとどまる。会社が掲げる売上 200 億円や利益率 20% は、遠い話に終わる。ここまで落ちる確率は小さいが、小さな受託メーカーで実際に起きてきた形だ。
- 受託・半導体製造装置の制御部:数量 1,119(世界の半導体製造装置(WFE)市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 3.20(WFE 市場 1 億ドルあたりの当社の売上(百万円・名目))→ 売上 36 億円・営業利益 1 億円。WFE 市場 1119 億ドル(実質)× 1 億ドルあたり 3.2 百万円、営業利益率 2%
- 受託・産業用制御機器と計測機器:数量 5,500(受託製造のユニット数(台、推定))× 価格 24(1 台あたり売上(万円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 0 億円。5500 台 × 1 台 24.0 万円、営業利益率 -2%
- 自社製品(画像処理・組込み・計測通信):数量 8,700(ボード・モジュールの出荷枚数(枚、推定))× 価格 27(1 枚あたり売上(万円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 2 億円。8700 枚 × 1 枚 27.0 万円、営業利益率 8%
倍率:稼ぐ力はほぼ無く(営業利益は赤字に近い)、純利益÷k では価値が立たない。価値は純現金と売れる上場株式の税引き後 約 78 億円まで。今の自己資本 203 億円に掛けた倍率で、ためた利益には掛けない。
確率:調達先の切り替えは、小さな受託メーカーでは実際に起きてきた。2023〜26 年に半導体装置向けが 6 割近く落ちた実績もあり、5% 未満にはしない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
受託・半導体製造装置の制御部
東京エレクトロンやニコンの装置に載る制御ボード・ユニットを、顧客の仕様で設計から製造まで請け負う。
| 数量世界の半導体製造装置(WFE)市場(億ドル・今の値段で測った実質) | 価格WFE 市場 1 億ドルあたりの当社の売上(百万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,170 | 3.54 | 41 | 3 |
| 10 年後 中立 | 1,940 | 5.40 | 105 | 15 |
取り方:有報の受託・半導体製造装置関連 41.4 億円を、2025 年の WFE 市場 1,170 億ドル(業種ノート)で割った。市場の大きさは実質(今の値段)で置き、物価の分は 1 億ドルあたりの売上(価格)に入れる。当社の取り分は WFE のごく一部で、東京エレクトロン向けが中心。2023 年 3 月期の絶頂(全社 144 億円)は在庫積み増しと中国向けの装置が重なった山で、いまはその谷にある。セグメントの営業利益は開示が無いので、全社 6.9 億円から自社製品・産業制御の推定と本社費を引いて置いた推定。
受託・産業用制御機器と計測機器
産業機器・計測機器メーカーの制御部を受託で開発・製造する。半導体以外の分野。
| 数量受託製造のユニット数(台、推定) | 価格1 台あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7,850 | 20 | 16 | 1 |
| 10 年後 中立 | 8,640 | 27 | 23 | 2 |
取り方:有報の産業用制御機器 10.6 億円と計測機器 5.1 億円の合計 15.7 億円。台数は開示が無いので、1 台 20 万円のユニットと仮定して 7,850 台と推定した(推定)。数量は実質の台数で、物価の分は 1 台あたりの売上に入れる。
自社製品(画像処理・組込み・計測通信)
画像を高速に取り込むフレームグラバボード、組込みモジュール、装置内の高速通信モジュール(GiGA CHANNEL)。
| 数量ボード・モジュールの出荷枚数(枚、推定) | 価格1 枚あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12,480 | 25 | 31 | 5 |
| 10 年後 中立 | 16,200 | 34 | 54 | 12 |
取り方:有報の自社製品 31.2 億円(画像処理 14.9・計測通信 8.3・組込み 5.4・関連商品 2.6)。枚数は開示が無いので、平均 1 枚 25 万円と仮定して 12,480 枚と推定した(推定)。単価帯は競合のボード専業メーカーの数万〜数十万円から。営業利益は研究開発費 4.5 億円を負担した後の推定。
リスクと懸念
主力顧客への集中
東京エレクトロンの 2 拠点で売上の 43%、ニコンで 11%。発注の数量・価格・仕様を顧客が握る。顧客が制御部の内製や他社移管を決めれば、代わりの売り先をすぐには見つけられない。
半導体装置の投資の波
売上は 2023 年 3 月期の 144 億円から 3 期で 88 億円へ落ちた。装置市場が AI で伸びても、当社の取り分が谷にとどまることがある。次の谷でも固定費の本社費は残る。
価格競争
有報が「価格競争が年々厳しくなっている」と認める。受託の基板製造は、台湾・中国の部品会社も狙う領域で、値下げの圧力が続く。利益率は 1 桁前半に戻りうる。
自社製品の伸び悩み
中期方針は自社製品を核に新分野・海外を開く。だが計測通信は前期に 43% 減り、画像処理も 8% 減った。研究開発費は年 8.8 億円。成果が出なければ固定費だけが残る。
資本効率の低さ
自己資本比率 90%、ROE は直近 2.7%。DOE 3% の下限で配当を払い続けるが、利益が戻らなければ配当は元本を削る。保有株の売却益に頼る期も出る。
部材調達と品質
代替の効かない半導体部材の供給遅れが、納期に直結する。先端の部品を使うため、不具合が顧客の装置全体を止める可能性がある。
今後の分かれ目
- 東京エレクトロンの次世代装置で、制御部の新規受注を取った
- 受託の取り分が 2023 年 3 月期の水準へ戻る可能性が高まり、楽観・やや楽観の確率を上げる。
- 上位 2 社の売上比率が 4 割を下回って分散した
- 顧客依存が弱まったとみて、悲観の確率を下げる。
- 東京エレクトロンが制御部の内製化や他社移管を表明した
- 受託が細る筋書きに寄せ、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 政策保有株の売却を数字つきで進め、自社株買いや特別配当にまわした
- 余った現金の戻り方が確かになったとみて、価値を上積みして見直す。
- 自社製品の営業利益率が 20% を超え、海外売上が増えた
- 中期方針の自社製品の路線が実を結んだとみて、中立以上の確率を高める。
- 買収提案や TOB が出た
- 支配株主はいないが、ニコンが 11% を持つ。条件を現金と上場株式の価値と比べて見直す。
見ておくもの
- 東京エレクトロン向け売上の比率と、四半期ごとの受注残
- 自社製品(画像処理・計測通信)の売上と営業利益率
- 政策保有株の売却額と、自社株買い・配当の実績
- WFE(半導体製造装置)市場の見通しの改定
倍率と資本コストの決め方
今の株価と PER は見ずに、装置市場の実質の伸びと当社の取り分(1 億ドルあたり売上)、自社製品の枚数と単価から売上を積んだ。取り分は谷のいまを物価の分だけ伸ばし、そこから 2023 年 3 月期の山への戻りを 3 割だけ織り込んだ(中立)。倍率は ROE が k を下回るので、上限の 1÷k を超えず、利益の質を見て 7〜9 割に置いた。資本コストは 7.5% に quality +1.5% を足した 9.0%。リースは小さく、新リース会計の影響は軽い。数字は現在の開示(営業費用に家賃を含む形)でそろえた。上場株式の含みは配当を利益に残すので余った現金に足さず、悲観の床だけで売却後の税引き価値として入れた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→14.58 倍・やや楽観 PER 9.6→13.41 倍・中立 PER 9.2→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。