結論
湖北工業は、小さな部品で世界一を二つ持つ会社だ。海底ケーブル用の光アイソレータは世界シェア約5割、アルミ電解コンデンサ用のリード端子は金額で約6割を握る。2025年12月期の売上は175億円、営業利益は46億円で、利益の8割強は光部品が稼ぐ。
筆者の結論は割高である。事業の質は高い。だが今の値段は、2026年12月期の会社予想(営業利益67億円)のような好況の利益が長く続くことを前提にしている。海底ケーブルは案件ごとに受注の波があり、2023年12月期には営業利益が3割近く落ちた。
10年後の中立の営業利益は95億円前後、純利益は65億円前後とみる。伸びの中身は、海底ケーブルの本数と芯数の増加という数量が中心だ。物価の分は価格に乗せる。それでも資本コスト7.75%で測ると、10年後の中立の時価総額は今の5割ほどにとどまる。
強みは、素材の結晶から組み立てまで自前でやる生産と、海底ケーブル大手3社との長い取引だ。弱みは、売上の3分の1強を海外大手2社に頼ることと、石英ガラスの新拠点など3年で約94億円の投資を抱えることである。確率を掛けた本質価値は今の値段を大きく下回り、総合で「割高」になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点でこの会社を見ると、事業はよい。ただし払える値段は低い。
光アイソレータは、一度採用されると長く使われる部品で、世界首位が崩れにくい。リード端子も世界の6割を握る。借金がなく、営業利益率は2割台だ。オーナー利益、つまり再投資を引いて株主に残る利益は、純利益のかなりの部分になる。
気になるのは3点だ。第1に、利益の質である。光部品は大型案件の納期で動き、好況の年の利益を永続のものとして扱うと、値段を高く見すぎる。第2に、新事業の資本配分だ。石英ガラスと新拠点に3年で約94億円を投じるが、見返りは未確定である。第3に、支配株主の存在である。
安全域で考える。10年後の純利益が65億円前後なら、資本コスト7.75%と成長率4%から出る妥当な倍率は11倍台だ。今の時価総額は、その倍を超える利益が長く続く前提で成り立っている。わからない事業とは言わない。ただ、案件の波の読みにくさは、確信度を下げる理由になる。
結論として、事業は持ち続けたい部類に入る。だが今の値段では安全域がない。
何で稼ぐ会社か
湖北工業は1959年に滋賀県長浜市で創業した部品メーカーだ。事業は光部品・デバイスとリード端子の2つ。売上は半々だが、稼ぎ方はまるで違う。
光部品・デバイスは、海底光ファイバーケーブルの中継器に入る光アイソレータが主力だ。光アイソレータは、光を一方向にだけ通す部品である。ケーブルの敷設は米SubComと仏Alcatel Submarine Networks、日本のNECの3社が世界の9割超を占める。湖北工業はその3社すべてと取引する。2025年12月期の売上は87億円、営業利益は39億円で、利益率は4割を超える。2024年には光半導体の米EpiPhotonicsを子会社に取り込み、受光素子まで手を広げた。
リード端子は、アルミ電解コンデンサの足にあたる部品だ。納入先はニチコン、日本ケミコン、パナソニック インダストリーなど。車載向けは世界シェア9割超、月に数十億個を作る。2025年12月期の売上は88億円、営業利益は8億円と利益率は1割に届かない。ただしAIサーバーなどデータセンター向けの高付加価値品が増え、利益率は上向いている。
第3の柱として、高純度石英ガラスの開発も進める。半導体製造装置向けで、独自の流し込み成形が売りだ。海外売上は全体の約7割に達する。
優良さと弱いところ
この会社の優良さは、狭い市場で圧倒的な位置を取っているところにある。海底ケーブルは新規参入が難しい。敷設会社は3社に絞られ、部品は一度採用されると長く使われる。月に数回の技術会議を重ねる関係も、値引き交渉への守りになる。
生産の作り方も堀になる。光部品は結晶の組成から組み立てまで自社でやる。リード端子は製造装置まで自社で開発する。量産の技術は特許にせず社内にとどめ、まねしにくくしている。
営業利益率は過去6年で一度も2割を切っていない。財務も軽く、自己資本比率は8割強、純現金は80億円台ある。借金で稼ぐ会社ではない。
弱点は3つある。1つ目は顧客の偏りだ。2025年12月期はAlcatel Submarine Networksが売上の20%、SubComが16.5%を占めた。2つ目は案件の波である。海底ケーブルは大型案件の納期で売上がずれ、2023年12月期は営業利益が28億円まで落ちた。3つ目はリード端子の薄さだ。世界シェアは高いのに、2024年12月期の利益率は5%にも届かなかった。値段を自分で決められる事業ではない。
資本の使い方はまだ確かめきれていない。石英ガラスは2021年に「4年後に売上10億円」を掲げたが、成果の数字は見えていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
光部品の需要は、海底ケーブルの新設と増設で決まる。生成AIの広がりで、米国の大手クラウド各社が自前のケーブルを引くようになり、国をまたぐ通信量は増え続けている。調査会社の予測では、海底ケーブルシステム市場は2030年に向けて年11〜12%ほど伸びる。日本では総務省が世界シェア35%を目標に掲げ、経産省の補助金も付く。
技術は、1本のケーブルに入れる光ファイバーの数を増やす方向へ進む。芯数が増えれば、中継器に入る光アイソレータも増える。数量の追い風はここにある。
逆風は、米中の分断と受注の波だ。通信インフラは安全保障の対象で、中国系の敷設業者は欧米の案件から外れる一方、中国の部品メーカーが自国の案件で力をつける可能性がある。大型案件の納期は読みにくく、利益は年ごとに大きく動く。
リード端子の需要は、電解コンデンサの数で決まる。車載の電装化、AIサーバーの電源、産業機器で使われ、数量は緩やかに伸びる。電解コンデンサ自体は成熟した部品で、伸びは穏やかだ。台湾・中国・東南アジアの競合との価格競争は続く。原料の銅やスズの値動きは値段に反映するが、利益率の改善は高付加価値品への切り替えが頼りになる。
資本政策と M&A
還元は連結配当性向30%と、純資産配当率3%以上が目安だ。2025年12月期は配当を増やし、2026年12月期も増配を予定する。
資本政策で目を引くのは、2025年2月の自社株買いだ。支配株主である代表取締役社長が保有する株を、会社が取得した。上限は27億円で、市場に新しい売り圧力を出さない形にした。ガバナンスの面では、支配株主が会社と取引する形になる。少数株主への説明が十分かどうかは、確かめ続ける必要がある。
投資は大きく動く。3年で約94億円のうち、米原駅前の新拠点に54億円を充てる。2028年の竣工予定だ。資金は手元の現金と営業の稼ぎで賄えるが、石英ガラスの回収が見えないと、資本の使い方は評価しにくい。
大型の買収は少ない。2024年の光半導体EpiPhotonicsの取り込みが目立つ程度だ。時価総額は1,386億円と小さい。海底ケーブルの世界首位という位置は、同業や顧客から見れば取り込む価値がある。10年以内にTOBが起きる確率は、外部の推計で1割台半ばだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
海底光アイソレータの世界シェアは5割を超え、海底ケーブル大手3社すべてと取引がある。顧客は3社で世界の9割超を押さえるため、取引先を失うリスクより、市場全体の拡大の恩恵を受ける側面が大きい。
AIの普及で大手クラウドが自前ケーブルを引き、1本あたりの光ファイバー数も増える。芯数が増えれば中継器の部品は増え、数量は市場より速く伸びうる。2026年12月期は営業利益が67億円まで上がる見通しで、中期計画の73億円(2027年12月期)も射程に入る。
リード端子もデータセンター向けの高付加価値品で利益率が上がり始めた。2024年の5%弱から2025年には1割近くになり、車載向け世界シェア9割超という足場がある。
第3の柱の石英ガラスが半導体装置向けに育てば、光部品とは別の収益源になる。自己資本比率8割強、純現金80億円台で、新拠点投資も無理なく賄える。
10年を通せば、営業利益は150億円台まで届くという見方もできる。素材から自前で作る堀は深く、中国勢の追い上げも海底では難しい。
慎重な見方
今の時価総額は1,386億円で、2026年12月期の会社予想純利益46億円の30倍にあたる。10年後も好況の利益が続くという前提でなければ、この値段は説明できない。
光部品は案件の波が大きい。2023年12月期には営業利益が28億円まで落ちた。2026年12月期の上振れは、長距離案件の納期が重なった面が強く、翌年に反動が出ることは珍しくない。
売上の3分の1強は、ASNとSubComの2社に偏る。この2社が調達を分散すれば、価格交渉の力は一気に弱まる。米中の分断が進めば、中国の部品メーカーが自国向けの案件で技術を固め、長期では欧米の案件にも触手を伸ばす。
リード端子は世界シェアが高くても、利益率は1割に満たない。原料の値動きを価格に乗せる事業で、競争も厳しい。
石英ガラスと米原の新拠点で、3年に約94億円を投じる。2021年の「4年後に売上10億円」は、いまも成果が見えない。資本コスト7.75%で測ると、10年後の中立の純利益65億円に付く値段は700億円台にとどまる。
どちらに重みを置いたか
事業の位置は強い。だが値段の議論は、10年後の利益に何倍を付けるかで決まる。利益が伸びても、成長率4%と資本コスト7.75%から出る倍率は11倍台だ。この差が大きい。
確率は、海底ケーブルの需要の強さを認めて中立に最も寄せつつ、顧客の偏りと案件の波、新事業の投資負担を踏まえ、やや悲観にも厚く置いた。楽観は8%にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 3,560 円922 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 823 円213 億円)。 今の値に割り戻すと 2,254 円584 億円、今との差 −51.2%、 期待の年率 −0.5%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 7,300 円1,891 億円 | 1,220 円316 億円 | +84.6% | +6.3% | 682 円177 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,478 円1,419 億円 | 1,050 円272 億円 | +41.5% | +3.5% | 1,436 円372 億円 |
| 中立 | 37% | 3,938 円1,020 億円 | 895 円232 億円 | +4.7% | +0.5% | 1,788 円463 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,186 円307 億円 | 579 円150 億円 | −61.8% | −9.2% | 424 円110 億円 |
| 悲観 | 9% | 325 円84 億円 | 270 円70 億円 | −87.1% | −18.5% | 54 円14 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,560 円922 億円 | 823 円213 億円 | −5.0% | −0.5% | 4,383 円1,136 億円 |
今の株価時価総額 4,615 円1,196 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 海底ケーブルの多芯化が本格化、石英ガラスも育つ 利益 108 億円 · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 7,300 円1,891 億円
AIの通信量が10年間伸び続け、大手クラウドが太平洋と大西洋に自前ケーブルを引き続ける。1本あたりの芯数が増え、中継器に入る光アイソレータの数が大きく伸びる。湖北工業は3社すべての案件で採用を保ち、受光素子でも取引を広げる。
リード端子は、データセンター向けの高付加価値品が主力になり、利益率が1割台半ばまで上がる。石英ガラスは半導体装置の部材として根づき、新拠点が回り出す。
営業利益は150億円台に届く。それでも10年後の時価総額は、今の水準に並ぶ程度にとどまる。自己資本は厚くなり、還元も積み上がる。
- 光部品・デバイス:数量 520(光アイソレータなど光部品の年間出荷個数(万個、推定))× 価格 0.56(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 292 億円・営業利益 129 億円。芯数増で数量2.6倍、利益率は今の水準を保つ
- リード端子:数量 780(リード端子の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 0.20(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 153 億円・営業利益 22 億円。データセンター向け高付加価値品が主力に
倍率:事業の純利益 108 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍。全体の PER 17.47 倍、時価総額 1,887 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:芯数の増加、大手クラウドの自前ケーブル、石英ガラスの立ち上がりが10年続いて重なる必要がある。案件の波と顧客の偏りを考えると、確度は高くない。
やや楽観 22% 光部品が市場を上回って伸びる 利益 85 億円 · PER 16.6 倍 · 株価時価総額 5,478 円1,419 億円
海底ケーブルの新設が続き、光アイソレータの出荷は10年で2.3倍になる。顧客3社との関係は保たれ、単価は物価に届かないものの、大きくは崩れない。利益率は4割強を保つ。
リード端子は車載とデータセンター向けで緩やかに伸び、利益率は1割を少し超える。石英ガラスは小さな黒字にとどまるが、新拠点の償却は吸収できる。
営業利益は120億円台まで上がる。案件の波は残るが、平均すれば2026年の水準を超える。自己資本は600億円台まで積み上がり、配当と自社株買いも続く。ROEは13%前後で、資本コストを上回る水準を保つ。ただし世界首位の強みが、単価の上昇にはつながらない。買い手が大手3社に絞られる限り、数量の伸びがそのまま利益になる構図は変わらない。
- 光部品・デバイス:数量 460(光アイソレータなど光部品の年間出荷個数(万個、推定))× 価格 0.55(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 251 億円・営業利益 105 億円。数量2.3倍、単価は物価に届かず1.26倍
- リード端子:数量 720(リード端子の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 0.19(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 139 億円・営業利益 17 億円。高付加価値品の構成が上がる
倍率:事業の純利益 85 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.6 倍。全体の PER 16.62 倍、時価総額 1,413 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海底ケーブルの市場成長(年11〜12%の予測)の下側でも、芯数の増加で数量が年8%ほど伸びる。会社の中期計画の延長線上に近い。
中立 37% 世界首位は守るが、利益は伸びきらない 利益 65 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 3,938 円1,020 億円
湖北工業は海底ケーブル用光アイソレータの世界首位を守る。数量は10年で2倍になるが、単価は大手3社の値下げ要求と量産効果で、物価の伸びを下回る。利益率は今より少し下がる。
リード端子は車載・データセンター向けの切り替えが進み、利益率は1割をわずかに超える。数量は電解コンデンサ全体の需要に沿って1.15倍にとどまる。
石英ガラスは小さな事業のまま、新拠点の償却が共通費を押し上げる。営業利益は95億円前後。2026年の好況より少し上の水準で、10年かけて均される。
純利益は65億円前後で、配当と自社株買いに4割ほどを回す。自己資本は600億円近くまで厚くなるが、事業に使い切れない現金が増えるわけではない。新拠点の投資と設備の更新で、稼ぎの一部は事業に戻るからだ。ROEは11%台にとどまり、資本コストを少し上回る程度で落ち着く。強い会社ではあるが、並外れた超過利益を長く生む形ではない。
- 光部品・デバイス:数量 400(光アイソレータなど光部品の年間出荷個数(万個、推定))× 価格 0.53(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 211 億円・営業利益 84 億円。数量2倍、単価1.22倍、利益率は今より下がる
- リード端子:数量 690(リード端子の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 0.19(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 132 億円・営業利益 15 億円。数量1.15倍、単価1.30倍
倍率:事業の純利益 65 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍。全体の PER 15.56 倍、時価総額 1,011 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世界首位と顧客との長い関係は10年続く一方、案件の波と顧客の偏りは変わらない。両者の落としどころで、確率を最も厚く置いた。
やや悲観 24% 顧客が調達を分散し、価格を押される 利益 30 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 1,186 円307 億円
大手2社が調達先を複線化し、光アイソレータの数量は1.5倍にとどまる。単価は買い手の値下げ要求で物価の半分しか伸びない。米中の分断で、中国系の案件向けには売れなくなる。
利益率は3割に下がる。新拠点の償却と石英ガラスの立ち上がりの遅れで、全社の営業利益は今の水準と変わらない。
リード端子は数量が増えず、利益率も1割に届かない。純現金は残り、配当は続けるが、ROEは資本コストに届かなくなる。
会社が傷むわけではない。優良企業の位置は保つが、強みが利益に変わりにくくなる。新拠点と石英ガラスの投資は回収が遅れ、減価償却が重く残る。純利益は30億円前後に落ち、自己資本は400億円台で増えにくい。堀が薄れたのではなく、堀の中で稼げる額が小さくなる、という筋書きだ。
- 光部品・デバイス:数量 300(光アイソレータなど光部品の年間出荷個数(万個、推定))× 価格 0.48(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 143 億円・営業利益 43 億円。調達の分散で数量1.5倍にとどまる
- リード端子:数量 600(リード端子の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 0.18(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 107 億円・営業利益 8 億円。数量は横ばい
倍率:ROE 7.1%は資本コスト7.75%を下回るため、倍率は1÷k(11.8倍)が上限。稼ぐ力の8割を置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 9.5 倍・時価総額 285 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:売上の3分の1強が2社に偏り、案件の波も大きい。調達の分散や米中の分断で、数量の伸びが鈍る可能性は、計画の中心より遠くない。
悲観 9% 海底の首位を失い、新事業の投資が重荷になる 利益 2 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 325 円84 億円
海底ケーブルの需要が一巡し、大手クラウドの自前ケーブル投資が止まる。敷設3社は部品の調達先を増やし、湖北工業の光アイソレータは数量も単価も落ちる。中国系の部品メーカーが技術に追いつき、非欧米の案件を奪う。
新拠点と石英ガラスは稼働が上がらず、減損が出る。リード端子は価格競争で赤字すれすれまで落ちる。営業利益はほぼゼロになる。
純現金と配当の積み上げで会社は続くが、稼ぐ力は資本コストをはるかに下回る。時価総額は純現金の程度まで下がる。
配当は、積み上げた純現金から払い続ける。利益から出す分は少ないが、配当を急に切れば株主の不信を招くため、会社は据え置きを選ぶ。資産の売却には頼らない。自己資本は減損を経て260億円ほどに落ち着く。優良企業の面影はなく、稼ぐ力は資本コストの足元にも及ばない。10年後の値段は、手元の現金にほぼ等しい。
- 光部品・デバイス:数量 180(光アイソレータなど光部品の年間出荷個数(万個、推定))× 価格 0.37(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 66 億円・営業利益 10 億円。首位を失い数量・単価とも下がる
- リード端子:数量 510(リード端子の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 0.16(1個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 82 億円・営業利益 3 億円。価格競争で赤字すれすれ
倍率:稼ぐ力は純利益2億円で、資本コスト7.75%で割ると24億円。純現金84億円のほうが大きいため、床は今の自己資本234億円に0.36倍を掛けて純現金の水準とした。減損で自己資本は260億円にとどまる。
確率:顧客の調達分散、中国系部品メーカーの技術向上、AI通信量の伸びの鈍化が重なる構造的な負け筋。部品は一度外れると戻りにくいため、無視できない確率を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
光部品・デバイス
海底光ファイバーケーブルの中継器に入る光アイソレータを中心とする事業。2024年に光半導体の米EpiPhotonicsを子会社化した。
| 数量光アイソレータなど光部品の年間出荷個数(万個、推定) | 価格1個あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 200 | 0.43 | 87 | 39 |
| 10 年後 中立 | 400 | 0.53 | 211 | 84 |
取り方:出荷個数は開示がない。長距離ケーブル1本あたりの中継器の数と芯数、敷設の本数から、光アイソレータ・受光素子などを合わせて年200万個前後と推定し、売上86.5億円を個数で割って単価を出した。数量は実質で、ケーブルの本数と芯数の増加で伸びる。単価は名目で、物価の1.34倍に対し、顧客3社の値下げ要求と量産効果で10年1.22倍と置いた。営業利益率は2025年12月期のセグメント利益率44.6%。
リード端子
アルミ電解コンデンサ用のリード端子。車載向けは世界シェア9割超で、データセンター向けの高付加価値品が増えている。
| 数量リード端子の年間出荷個数(億個、推定) | 価格1個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 600 | 0.15 | 88 | 8 |
| 10 年後 中立 | 690 | 0.19 | 132 | 15 |
取り方:報道は月産30億〜50億個とばらつく。ここでは年600億個と置き、売上88.0億円を個数で割って単価を出した。数量は電解コンデンサの需要(車載の電装化・AIサーバー・産業機器)で、中立は10年1.15倍。単価は名目で、銅やスズなど原料の値上がりを価格に乗せる事業だが、中国・台湾勢との競争で物価の1.34倍には届かず、10年1.30倍と置いた。営業利益率は2025年12月期のセグメント利益率8.7%。
リスクと懸念
顧客が2社に偏っている
2025年12月期はAlcatel Submarine Networksが売上の20.0%、SubComが16.5%を占めた。敷設3社が世界の9割超を押さえる市場なので、部品メーカーは交渉力を持ちにくい。2社が調達先を分けると、数量も単価も一度に落ちる。
案件の波と今の好況
光部品は大型ケーブル案件の納期で売上が年ごとにずれる。2023年12月期は営業利益が28億円まで落ちた。2026年12月期の上方修正は長距離案件が想定を上回ったためで、翌年以降に反動が出る可能性がある。
米中の分断と中国系部品メーカー
通信インフラは安全保障の対象で、海底ケーブルも欧米と中国で市場が分かれつつある。中国系の部品メーカーが自国の案件で量産と品質を固めると、長期では価格の押し下げ役になる。
新事業と新拠点の投資負担
石英ガラスと米原の新拠点を含め、3年で約94億円を投じる。拠点は2028年の竣工予定だ。売上の立ち上がりが遅れると、減価償却だけが先に利益を削る。2021年に掲げた石英ガラスの売上目標も成果が見えない。
リード端子の利益率の薄さ
世界シェアは高いが、2024年12月期の営業利益率は5%に届かず、2025年12月期も9%弱だった。原料の銅・スズの値上げを価格に乗せる事業で、中国・台湾・東南アジアの競合との価格競争も続く。
為替
海外売上は全体の約7割で、会社は下期に1ドル160円を前提にしている。円高に振れると円換算の売上と利益が減る。ここでは為替を150円で固定して考えている。
支配株主とガバナンス
代表取締役社長が支配株主である。2025年2月には、その保有株の一部を会社が自社株買いで取得した。経営判断が少数株主の利益に沿っているかは、今後の資本配分で確かめる必要がある。
今後の分かれ目
- 海底ケーブルの新設が計画を超え、1本あたりの芯数が増え続けたら
- 光部品の数量の見通しを上げ、楽観とやや楽観の確率を厚くする。
- SubComかAlcatel Submarine Networksが部品の調達先を分けたら
- 光部品の単価と利益率の前提を下げ、やや悲観と悲観の確率を上げる。
- 石英ガラスが半導体装置向けで量産に入り、黒字になったら
- 共通費の負担が軽くなり、中立の営業利益の前提を引き上げる。
- 中国系の部品メーカーが、非中国の敷設案件でも採用されたら
- 首位の堀が崩れ始めたと見て、悲観の確率を上げる。
- リード端子の利益率が2桁で定着したら
- リード端子の利益率の前提を上げ、中立の利益を押し上げる。
- 支配株主の持ち株の売却や会社による買い取りが再び出たら
- 資本配分と少数株主への扱いを確かめ直し、還元の前提を見直す。
見ておくもの
- 海底ケーブルの新設案件と、大手3社の受注の動き
- 光部品・デバイスのセグメント利益率(4割台を保つか)
- リード端子の営業利益率(1割を超えて定着するか)
- 石英ガラスの売上と新拠点の稼働の進み方
- ASNとSubComの売上構成比
倍率と資本コストの決め方
光部品とリード端子を、出荷個数(実質)×単価(名目)で積んだ。個数は開示がなく推定で、根拠はhowに書いた。資本コストは基本7.5%にquality +1.0%を足した8.5%で、成長率4.0%(k−g≥3.5%)から利益ベースの正当化PERを出し、その8.5割を中立に置いた。今の株価や同業の倍率には寄せていない。今の時価総額は2026年12月期予想の30倍で、中立の10年後は11倍台だが、これは計算の結果である。悲観は稼ぐ力より純現金のほうが大きいため、純現金を床にした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.3→17.47 倍・やや楽観 PER 12.3→16.62 倍・中立 PER 11.2→15.56 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality +1.0%を足して8.5%とした。個別のリスクは筋書きと確率で表している。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.75%。