結論
アンリツは、通信機器や光部品をつくる会社が開発と出荷検査に使う「測る道具」で稼ぐ会社だ。売上の約6割が通信計測で、残りは食品の異物検査機などである。筆者の結論は割高。利益が通信の投資サイクルで大きく振れる会社に、AI向け光通信の好況が何年も続く値段がついているからだ。
追い風は本物だ。データセンターの通信速度が上がるたびに、光部品の検査機が要る。この分野は米キーサイトとアンリツの二強で、受注は直近で大きく伸びた。会社は2027年3月期の営業利益を200億円と見ている。
ただ、この会社の利益は平らではなかった。5G特需で営業利益率は2021年3月期に18.6%まで上がり、3年後には8.2%まで戻った。測る道具は、新しい規格の立ち上げ期に売れ、一巡すると止まる。
10年後の中立は、売上約2,000億円、営業利益約290億円。会社が掲げる2030年度の売上目標と同じ線だ。利益は今の2倍ほどになるが、ROE(自己資本に対する稼ぐ力)は10%台で、資本コストをわずかに上回るにすぎない。この稼ぐ力に見合う価値は、今の時価総額の6割弱にとどまる。
救いは財務だ。純現金があり、悲観の筋書きでも会社が傾くことはない。それでも、楽観の筋書きでようやく今の値段を超える程度では、安全域は取れない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、アンリツは「いい会社」だが、「いつ買っても安全な会社」ではない。
まず事業の質。通信規格に深く入り込む二強の一角で、顧客の開発が続く限り測定器の需要は消えない。借金もない。10年後に会社が存在しない恐れはほとんどない。
次に、稼いだ利益がどれだけ株主のものになるか。測定器は設計・開発に人が要る商売で、毎年の研究開発費が重い。利益を出しても、開発費に再び消えていく。過去10年のROE中央値が8%台にとどまるのは、その表れだ。資本コストを少し下回る水準では、利益をためるほど価値が増える会社とは言えない。
3つ目は、利益の読みやすさだ。通信の投資サイクルは、前もって読めない。売上は約1,100億円で長く止まっていたのに、急に1,400億円の見通しへ跳ねた。予測しにくい利益に高い倍率を払うのは、安全域のない買い方である。
最後に、経営だ。社長の濱田氏は、通信以外の事業を育てると繰り返している。方向は正しい。ただ、育てたい事業の利益率はまだ低い。通信計測の好況が終わった後に全社の稼ぎを支えられるか、10年かけて確かめる必要がある。
結論は、事業は優秀でも、今の値段には安全域がないというものだ。
何で稼ぐ会社か
アンリツの事業は4つに分かれる。稼ぎの柱は通信計測で、2026年3月期の売上は約690億円、営業利益は約108億円だ。スマートフォンの通信試験、基地局の評価、データセンター向け光トランシーバーの測定など、通信の新しい規格を作る側と、それを量産する側の両方に装置を売る。
2番手がPQA、つまり食品と医薬品の品質保証だ。重量選別機、金属検出機、X線検査機を、食品工場や医薬品工場の出荷ラインに置く。売上は約310億円、営業利益は約33億円。国内ではイシダと並ぶ最大手の一角で、海外ではメトラー・トレドなどと争う。
3番手は環境計測で、売上は約108億円。電池や電力の計測機器で、EV(電気自動車)向けが伸びている。ただし先行投資がかさみ、営業利益は約8億円にとどまる。残りの「その他」は約69億円で、デバイスなどの小さな事業だ。
通信計測は、顧客の開発費が増えるほど売れる商売である。規格が変わるたびに新しい測定器が要るので、一度つかんだ顧客は離れにくい。反面、顧客の投資が止まれば受注も止まる。
会社は2024年4月に3年間の中期経営計画(GLP2026)を始めた。最終年の2027年3月期に、売上1,400億円、営業利益200億円を狙う。営業利益のうち25%は通信計測以外で稼ぐと決めており、PQAと環境計測を育てる狙いがはっきりしている。成長投資にはM&Aと設備で400億円以上の枠を置いた。
優良さと弱いところ
筆者の見るところ、アンリツの堀は「規格に付いていく力」にある。通信の規格は国際機関で決まり、その試験の手順は細かく定められている。測定器メーカーは、規格づくりの段階から顧客と開発に入り、試験の仕様を一緒に固める。この積み重ねは、後から参入する会社には真似しにくい。
実際、携帯と光の測定器では、米キーサイトとアンリツで市場の大部分を分け合う構図が長く続いている。独ローデ・シュワルツも強いが、非上場だ。上位が少数に絞られるので、値引き競争は起きにくい。
ただし、堀は広くはあっても、深くはない。値段を自分で決める力は、電機の中では中くらいだ。営業利益率は5G特需のときに18%台まで上がったが、需要が一巡すると8%台まで落ちた。景気の山と谷で利益が倍以上に振れるのは、堀が利益の安定までは守ってくれない証拠である。
資本の使い方は堅実だ。借金はなく、配当性向50%以上を掲げて、自社株買いも混ぜて返している。過去10年の自己資本利益率の中央値は8%台で、資本コストにまだ届いていない。会社自身も、ROE15%を目標に置いて、この低さを課題と認めている。
筆者がいちばん気にしているのは、利益の山と谷の差だ。10年後も測定器の需要は残るが、その時の利益が山に近いか谷に近いかは、誰にも読めない。だから、中くらいの堀として扱い、強い堀の会社に与える長期の上乗せは付けない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
通信計測は今、二つの波の上にいる。一つはAIデータセンターで、サーバー同士をつなぐ光通信が800ギガから1.6テラへ速くなる。光トランシーバーのメーカーは、出荷前の検査に高価な測定器を何台も要する。この分野の測定器は、アンリツとキーサイトが市場を二分すると証券会社は見ている。
もう一つは6Gだ。社長は、6Gの測定器の需要が2026年後半から2027年にかけて立ち上がると話している。実用化は2030年ごろだが、測定器は規格づくりの段階から売れる。
ここで気をつけたいのは、5Gの経験だ。5Gの測定器は、2020年ごろに需要が集中し、その後は踊り場が長く続いた。今回のAI向けの需要も、トランシーバーの設備投資が一巡すれば止まりうる。
競合との規模の差も大きい。キーサイトの2025年10月期の売上は約54億ドルで、その約7割が通信向けだ。アンリツの通信計測は約4.6億ドル(150円換算)で、通信向けだけ比べても約8分の1に当たる。規模で勝てない分、特定の分野に絞って勝つしかない。
PQAは別の景色だ。食品工場の人手不足が続くので、検査の自動化は需要が底堅い。ただし、競争相手のメトラー・トレドやイシダは規模が大きく、アンリツが大きくシェアを取れる市場ではない。環境計測は電池やEVの評価で伸びるが、顧客の投資は値段に厳しく、収益はまだ薄い。
10年で見ると、通信のデータ量は増え続けるので、測定器の台数は伸びる。一方で、中国の国産計測器メーカーが育てば、値段の面で圧力がかかる。台数は着実に増え、値段は物価並みか少し下回る、というのが筆者の標準的な置き方だ。
資本政策と M&A
還元の方針ははっきりしている。連結配当性向50%以上を基本に、自社株買いも状況に応じて加える。2026年3月期は、配当に約51億円、自社株買いに約13億円を使った。総還元性向は約55%だった。CFOは、株主資本コストを7%と見ており、ROE15%を目指すには配当性向50%以上が要ると説明している。
一方で、成長投資の枠は大きい。中期計画ではM&Aと設備で400億円以上を置いた。今の純現金は約460億円で、枠とほぼ同じ規模だ。
筆者が見たいのは、買収の中身だ。アンリツはこれまで大型の買収が少なく、規律は保たれている。ただ、通信計測以外を育てるという宣言は、小さな買収が続く可能性を意味する。買う会社の利益率が今のPQA並み(営業利益率1割強)だと、全社のROEを押し下げる。
買われる側の可能性も無視できない。kabufuの推定では、10年以内にTOB(株式の公開買い付け)を受ける確率は約14%だ。通信計測の二強であるキーサイトの視点では、アンリツを買えば競合が1社減る。ただし、競争がなくなる買収は各国の競争当局が許さない可能性が高く、現実味は低い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIデータセンターの投資は、10年続く構造的な流れだ。データ量は増え続け、光通信の速度は1.6テラの次に3.2テラへ上がっていく。そのたびに、光トランシーバーの測定器は新しく買い替えられる。アンリツはこの測定器でキーサイトと市場を二分しており、直近の受注残は前年から約3割増えた。
6Gも重なる。社長は、6Gの測定器の需要が2026年後半から立ち上がると見ている。6Gは携帯電話だけでなく、衛星・産業・光電融合まで広がる。測る対象が増えれば、単価も上がる。
会社の数字もそれを裏づける。2026年3月期の通信計測の営業利益率は15.7%と、前の期の11.9%から大きく上がった。製品の組み合わせが良くなり、費用も絞られた。2027年3月期は営業利益200億円を見込むが、これは受注の勢いに照らして控えめにも見える。
PQAは、食品工場の人手不足が追い風になり、重量選別機の更新が続く。環境計測は、電池やEVの評価で伸び、規模がそろえば利益も出る。通信計測以外で営業利益の25%を稼ぐという計画が実現すれば、全社の利益は景気の山谷に左右されにくくなる。
そうなれば、営業利益は10年で4倍に近づき、ROEは17%台に乗る。資本コストを大きく超える会社に変わり、今の値段は決して高くなかった、という結論になる。
慎重な見方
今の好況は、5Gと同じ型の山ではないか。5Gの測定器は2020年ごろに需要が集中し、その後、営業利益率は18.6%から8.2%まで落ちた。AI向けの光通信も、データセンターの設備投資が一巡すれば、同じ道をたどりうる。
アンリツの売上は、2015年3月期の988億円から2026年3月期の1,175億円まで、11年で2割しか増えていない。今の受注の急増を、10年続く成長の始まりとみるのは、過去の実績からは飛躍がある。
競争も厳しい。通信計測でキーサイトは売上で約8倍の規模があり、研究開発の予算も桁が違う。光トランシーバーの測定は二強といっても、主導権はキーサイトにある。中国では国産の計測器メーカーが育てば、中国の顧客の需要は取りにくくなる。
利益の質にも不安がある。ROEの過去10年の中央値は8%台で、資本コストの7〜8%にようやく並ぶ水準だ。会社が掲げるROE15%は、通信計測がずっと好況のときにしか届かない。
さらに、通信計測以外の育成は進んでいない。環境計測の営業利益は、売上が26%伸びたのに5.6%減った。PQAも営業利益率は1割強にとどまる。通信計測の山が過ぎたあと、全社の稼ぎを支えるほどの規模はまだない。
今の時価総額は、2027年3月期の会社予想の純利益に対しても約26倍だ。この倍率は、好況が10年続いてもなお割高になりかねない。
どちらに重みを置いたか
事業の質と財務の強さは、強気の見方に分がある。二強の一角で、純現金があり、悲観でも赤字には沈まない。一方で、利益の振れの大きさと、過去10年のROEが資本コスト並みだった事実は、慎重な見方が正しい。
AI向けの追い風を受けた分は、楽観とやや楽観に反映した。それでも、利益が景気の山谷で大きく動いてきた会社である以上、「好況が続く」側に確率を寄せるのは難しい。やや悲観にも厚く置き、悲観は構造的な負けに絞った。
結果として、確率で重みづけた価値は、今の時価総額の6割に満たない。強気の筋書きでようやく今の値段を超える水準だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,197 円4,091 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 846 円1,082 億円)。 今の値に割り戻すと 2,228 円2,852 億円、今との差 −21.7%、 期待の年率 +3.6%(資本コスト 7.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 7,785 円9,964 億円 | 1,369 円1,752 億円 | +221.7% | +12.4% | 915 円1,172 億円 |
| やや楽観 | 23% | 4,895 円6,266 億円 | 1,034 円1,323 億円 | +108.4% | +7.6% | 1,364 円1,745 億円 |
| 中立 | 31% | 3,207 円4,105 億円 | 831 円1,064 億円 | +41.9% | +3.6% | 1,252 円1,602 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,073 円1,373 億円 | 639 円818 億円 | −39.8% | −5.0% | 394 円504 億円 |
| 悲観 | 13% | 394 円504 億円 | 510 円653 億円 | −68.2% | −10.8% | 118 円150 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,197 円4,091 億円 | 846 円1,082 億円 | +42.1% | +3.6% | 4,042 円5,174 億円 |
今の株価時価総額 2,846 円3,642 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% AI光通信と6Gが重なり、通信計測が大きく伸びる 利益 487 億円 · PER 20.5 倍 · 株価時価総額 7,785 円9,964 億円
データセンターの通信は1.6テラから3.2テラへ上がり、光トランシーバーの測定器は買い替えが続く。アンリツはキーサイトと二強を保ち、6Gでも規格づくりの段階から受注する。通信計測の台数は2倍近くになり、単価も高機能品の比率が上がって物価を少し上回る。営業利益率は25%に乗る。
PQAは人手不足で更新需要が続き、環境計測もEV・電池の評価で規模がそろって利益が出る。通信以外の稼ぎが営業利益の3割近くを占め、全社は景気の山谷に強くなる。売上は約2,900億円、営業利益は約600億円、ROEは17%台。
この筋書きでは、アンリツはもう測定器の二番手ではなく、資本コストを大きく超えて稼ぐ会社になっている。配当と自社株買いも厚くなる。
- 通信計測:数量 2.2(測定器の出荷台数(万台、推定))× 価格 837(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 1,829 億円・営業利益 457 億円。2.185万 × 837.2万円(今の1.40倍)、営業利益率25%
- PQA(食品・医薬品の検査機器):数量 2.0(検査機の出荷台数(万台、推定))× 価格 310(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 608 億円・営業利益 91 億円。1.96万 × 310.296万円(今の1.40倍)、営業利益率15%
- 環境計測:数量 1.9(計測機器の出荷台数(万台、推定))× 価格 181(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 347 億円・営業利益 49 億円。1.92万 × 180.766万円(今の1.34倍)、営業利益率14%
- その他(デバイスなど):数量 150(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.92(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 138 億円・営業利益 39 億円。150万 × 0.921万円(今の1.34倍)、営業利益率28%
倍率:事業の純利益 487 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.6% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.5 倍。全体の PER 20.46 倍、時価総額 9,964 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向け光通信の好況が構造的に続き、6Gの測定器も早く立ち上がる、強気の筋書き。ただし通信の投資は山谷があり、10年連続で当たる確率は高くない。
やや楽観 23% AIと6Gの追い風が続き、利益率が20%前後に定着する 利益 331 億円 · PER 18.9 倍 · 株価時価総額 4,895 円6,266 億円
光トランシーバーの測定器は、800ギガから1.6テラへの移行で数年にわたり売れる。6Gの測定器も2027年から少しずつ立ち上がる。通信計測の台数は1.5倍、単価は物価をわずかに上回り、営業利益率は21%になる。
PQAと環境計測は着実に伸びるが、通信以外で全体の4分の1を稼ぐ目標は、おおむね達成される。売上は約2,400億円、営業利益は約410億円、ROEは13〜14%。
景気の谷は途中で一度は来る。それでも利益率は10%を割らず、全体は上向きの10年になる。会社が掲げる2030年度の売上2,000億円は、前倒しで超える。
- 通信計測:数量 1.7(測定器の出荷台数(万台、推定))× 価格 819(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 1,413 億円・営業利益 297 億円。1.725万 × 819.26万円(今の1.37倍)、営業利益率21%
- PQA(食品・医薬品の検査機器):数量 1.8(検査機の出荷台数(万台、推定))× 価格 304(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 553 億円・営業利益 75 億円。1.82万 × 303.647万円(今の1.37倍)、営業利益率13.5%
- 環境計測:数量 1.5(計測機器の出荷台数(万台、推定))× 価格 181(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 275 億円・営業利益 33 億円。1.52万 × 180.766万円(今の1.34倍)、営業利益率12%
- その他(デバイスなど):数量 135(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.92(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 124 億円・営業利益 32 億円。135万 × 0.921万円(今の1.34倍)、営業利益率26%
倍率:事業の純利益 331 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.7% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.9 倍。全体の PER 18.93 倍、時価総額 6,266 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画の延長線上で、AI光通信の需要が長く続くが、5Gのような山も一部混じる中間の強気。
中立 31% 好況は一巡し、売上2,000億円・営業利益率14%に落ち着く 利益 237 億円 · PER 17.3 倍 · 株価時価総額 3,207 円4,105 億円
AI向け光通信の好況は数年続くが、その後は設備投資の一巡で台数の伸びが鈍る。6Gの測定器は2030年前後に立ち上がるが、5Gのように特需の後で踊り場が来る。通信計測の台数は10年で3割増え、単価は物価並みに上がる。営業利益率は17%に収まる。
PQAは人手不足の追い風で台数が2割増え、営業利益率は12%台。環境計測はEV・電池で伸びるが、利益率は1割にとどまる。売上は約2,000億円、営業利益は約290億円。
利益は今の2倍ほどになるが、ROEは10%台にしかならず、資本コストをわずかに上回る程度だ。配当と自社株買いで総還元性向55%を保つ。
- 通信計測:数量 1.5(測定器の出荷台数(万台、推定))× 価格 801(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 1,198 億円・営業利益 204 億円。1.495万 × 801.32万円(今の1.34倍)、営業利益率17%
- PQA(食品・医薬品の検査機器):数量 1.7(検査機の出荷台数(万台、推定))× 価格 297(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 499 億円・営業利益 62 億円。1.68万 × 296.998万円(今の1.34倍)、営業利益率12.5%
- 環境計測:数量 1.2(計測機器の出荷台数(万台、推定))× 価格 181(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 217 億円・営業利益 22 億円。1.2万 × 180.766万円(今の1.34倍)、営業利益率10%
- その他(デバイスなど):数量 125(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.92(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 115 億円・営業利益 29 億円。125万 × 0.921万円(今の1.34倍)、営業利益率25%
倍率:事業の純利益 237 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍。全体の PER 17.32 倍、時価総額 4,105 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:通信の投資は山谷を繰り返し、台数は伸びるが値段は物価並みか少し弱い。会社の2030年度の売上目標2,000億円と同じ線に落ち着く、中心の筋書き。
やや悲観 23% 5G後と同じ踊り場が長引き、価格競争も強まる 利益 132 億円 · PER 10.4 倍 · 株価時価総額 1,073 円1,373 億円
光トランシーバーの設備投資が数年で一巡し、測定器は買い替え需要だけになる。6Gの立ち上がりも遅れ、通信計測の台数は10年で1割ほどしか増えない。キーサイトが規模を生かして値段を下げ、中国では国産の測定器が選ばれる。単価は物価に届かず、営業利益率は12%まで下がる。
PQAと環境計測は伸びるが、通信計測の穴を埋めるには小さい。売上は約1,600億円、営業利益は約160億円、ROEは7%。
財務の堅さは変わらず、配当は維持する。ただ、通信以外を育てる計画は遅れ、買収で資本効率を落とす場面も出る。
5Gのあとの2021年3月期から2024年3月期の動きが、もう一度起きる。違うのは、今回は通信計測の売上の水準が高いぶん、落ち込みの金額も大きいことだ。会社は費用を絞って営業利益率を1割前後で守るが、成長の物語は一度しぼむ。
- 通信計測:数量 1.2(測定器の出荷台数(万台、推定))× 価格 748(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 903 億円・営業利益 108 億円。1.208万 × 747.5万円(今の1.25倍)、営業利益率12%
- PQA(食品・医薬品の検査機器):数量 1.5(検査機の出荷台数(万台、推定))× 価格 288(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 444 億円・営業利益 44 億円。1.54万 × 288.132万円(今の1.30倍)、営業利益率10%
- 環境計測:数量 1.0(計測機器の出荷台数(万台、推定))× 価格 169(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 162 億円・営業利益 10 億円。0.96万 × 168.625万円(今の1.25倍)、営業利益率6%
- その他(デバイスなど):数量 110(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.86(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 95 億円・営業利益 21 億円。110万 × 0.859万円(今の1.25倍)、営業利益率22%
倍率:ROE6.9%はk7%を下回る。RONIC=8.0%+1/2×(6.9%−8.0%)=7.5%、g4%から正当化PER=11.6倍で、上限の1÷k=12.5倍を超えない。通信の山が過ぎた稼ぐ力から、上限の9割の10.4倍に置いた。
確率:AI向けの設備投資が一巡し、5Gのあとと同じ踊り場が来る。キーサイトの値下げや中国の国産化で単価も弱くなる。
悲観 13% 測定器の値段が崩れ、通信計測が二番手に沈む 利益 51 億円 · PER 9.9 倍 · 株価時価総額 394 円504 億円
光トランシーバーの測定では、キーサイトが主導権を握り、値下げで追い込む。中国では国産の測定器が普及し、アンリツは大きな市場の一つを失う。6Gも期待ほど測定器の需要を生まず、通信計測の台数は縮み、単価は物価の上昇に届かない。営業利益率は6%に落ちる。
PQAは営業利益率7%、環境計測は3%。通信以外の育成は実らず、買収で価値を落とす。全社の売上は約1,200億円、営業利益は約55億円、ROEは3%まで下がる。
純現金があるので会社は傾かない。ただ、稼ぐ力は2016〜2018年3月期の水準(営業利益率5%前後)に戻る。配当は続けるが、自己資本は伸びない。
- 通信計測:数量 1.0(測定器の出荷台数(万台、推定))× 価格 658(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 643 億円・営業利益 39 億円。0.977万 × 657.8万円(今の1.10倍)、営業利益率6%
- PQA(食品・医薬品の検査機器):数量 1.3(検査機の出荷台数(万台、推定))× 価格 266(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 354 億円・営業利益 25 億円。1.33万 × 265.968万円(今の1.20倍)、営業利益率7%
- 環境計測:数量 0.8(計測機器の出荷台数(万台、推定))× 価格 155(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 124 億円・営業利益 4 億円。0.8万 × 155.135万円(今の1.15倍)、営業利益率3%
- その他(デバイスなど):数量 90.0(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.79(1個あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 71 億円・営業利益 11 億円。90万 × 0.79万円(今の1.15倍)、営業利益率15%
倍率:悲観の純利益 51 億円は ROE 3.0% で、ためた利益は額面未満の価値しかない。やや悲観の時価総額÷純利益 10.4 倍より悲観ほど低く置くので、その約 95% の 9.9 倍(時価総額 503.9 億円)とした(稼ぐ力 純利益÷k も超えない)。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。
確率:構造的な負けの筋書き。通信計測の主導権をキーサイトに奪われ、中国の国産化も重なり、通信以外の育成も実らない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
通信計測
スマートフォン・基地局・光トランシーバー・データセンター向けの通信試験用の測定器。アンリツの稼ぎの柱。
| 数量測定器の出荷台数(万台、推定) | 価格1台あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.2 | 598 | 688 | 108 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 801 | 1,198 | 204 |
取り方:通信計測の売上687.7億円を、高価な光・5G試験装置から低価格の携帯型まで平均598万円と推定して、約1.15万台に分けた(開示が無いので推定)。台数は実質、物価と製品の高機能化は単価に入れる。営業利益は開示のセグメント利益。
PQA(食品・医薬品の検査機器)
食品・医薬品工場の出荷ラインに置く重量選別機・金属検出機・X線検査機。
| 数量検査機の出荷台数(万台、推定) | 価格1台あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.4 | 222 | 310 | 33 |
| 10 年後 中立 | 1.7 | 297 | 499 | 62 |
取り方:PQAの売上310.3億円を、数十万円の金属検出機から数千万円のX線検査機まで平均222万円と推定して、約1.4万台に分けた(開示が無いので推定)。台数は実質、物価は単価に入れる。営業利益は開示のセグメント利益。
環境計測
電池・電力・環境の計測機器。EV・電池の評価向けが伸びている。
| 数量計測機器の出荷台数(万台、推定) | 価格1台あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.8 | 135 | 108 | 9 |
| 10 年後 中立 | 1.2 | 181 | 217 | 22 |
取り方:環境計測の売上107.9億円を、平均135万円と推定して約0.8万台に分けた(開示が無いので推定)。台数は実質、物価と高機能化は単価に入れる。営業利益は開示のセグメント利益。
その他(デバイスなど)
デバイスなどの小さな事業。利益率は高い。
| 数量出荷個数(万個、推定) | 価格1個あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 0.69 | 69 | 20 |
| 10 年後 中立 | 125 | 0.92 | 115 | 29 |
取り方:その他の売上68.7億円を、小型部品中心の平均0.69万円と推定して約100万個に分けた(開示が無いので推定)。台数は実質、物価は単価に入れる。営業利益は開示のセグメント利益。
リスクと懸念
通信の投資サイクルが反転する
通信計測は売上の約6割を占め、顧客の開発費で動く。5Gの特需では営業利益率が18.6%まで上がり、その3年後に8.2%まで戻った。AI向け光通信の設備投資が一巡すれば、同じ型の下振れが起きる。受注の急増は、先の売上を前倒しで見せている面がある。
キーサイトとの規模の差
通信計測でキーサイトは売上で約8倍の規模を持つ。研究開発の予算の差は、新しい規格の測定器の開発速度に直結する。光トランシーバーの測定を二強で分け合っても、主導権を握るのは大きい側であり、値引きを仕掛けられる余地も大きい。
中国の国産化
中国の通信機器・光部品メーカーが国産の測定器へ切り替えを進めると、世界最大の市場の一つで需要を取りこぼす。国産メーカーが技術で追いつけば、輸出先の第三国でも値段で争う相手になる。
通信以外の育成が遅れる
会社は営業利益の25%を通信計測以外で稼ぐ計画だが、環境計測は売上が約26%増えても営業利益が減った。PQAの営業利益率も約1割強にとどまる。通信計測の山が過ぎたとき、全社の稼ぎを支えきれない恐れがある。
買収で資本効率が下がる
成長投資の枠にM&A400億円以上が入っている。買う会社の利益率が今のPQA並みなら、全社のROEは下がる。通信計測以外を育てる焦りから、高い値段で買うと、価値が壊れる。
為替
売上に占める海外の比率が高く、ドル建て取引が多い。ここでは1ドル150円で10年固定としたが、円高に振れれば円換算の売上と利益が減る。測定器は円安で好調に見える面があり、反動も大きい。
利益の読みにくさ
売上が約1,100億円で長く止まっていたのに、2027年3月期の会社予想は約1,400億円へ急に跳ねる。受注の質(一過性の特需かどうか)が見えにくく、利益を予測するのが難しい会社だ。
今後の分かれ目
- 光トランシーバー向けの受注が、2〜3四半期連続で減ったら
- AIデータセンター向けの設備投資が一巡したと判断し、やや悲観の確率を上げる。
- 6Gの規格づくりが前倒しされ、測定器の受注が2027年内に本格化したら
- 楽観とやや楽観の確率を上げる。通信計測の営業利益率が20%を超えて定着するかを見る。
- 通信計測以外の営業利益の比率が25%に届いたら
- 利益の振れが小さくなったとみて、資本コストの上乗せを下げ、倍率の評価を改める。
- 中国の国産測定器が、中国以外の市場でも受注を取り始めたら
- 価格の構造的な悪化が始まったとみて、悲観の確率を上げる。
- キーサイトが光測定器の値下げを仕掛けたら
- 営業利益率の前提を下げ、やや悲観側へ重みを移す。
- 300億円を超える大型買収を発表したら
- 買う側として資本の使い方の評価が変わる。買う会社の利益率が低ければ、悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 通信計測の受注残と営業利益率(2027年3月期の通期予想で通信計測の営業利益165億円を達成するか)
- 光トランシーバー向け測定器の受注の勢い(800Gから1.6Tへの移行)
- 6Gの規格づくりの進み具合と測定器需要の立ち上がり
- 通信計測以外の営業利益の比率(目標は25%)
- M&Aの有無と買収先の利益率
倍率と資本コストの決め方
倍率は今のPERや過去のPBRに寄せず、事業の利益と自己資本から式で出した。k(資本コスト)は基本7.5%に、循環+0.75%・値決め力−0.25%を加えた8.0%。正当化PERは(1−g÷RONIC)÷(k−g)で、gは4%、RONICは堀を普通(残る割合1/2)とみてk+1/2×(ROE−k)とした。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、倍率をやや悲観の約95%に置いた。過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。数字は、10年の売上を数量×価格で積んだ結果で、今の株価からの逆算はしていない。アンリツは国際会計基準(IFRS)を使っており、リースは既に貸借対照表に入っている。10年後の数字も今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.5→20.46 倍・やや楽観 PER 13.9→18.93 倍・中立 PER 12.9→17.32 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。