結論
オムロンは制御機器(IAB、PLC・センサー・リレー等のFA機器)・ヘルスケア(HCB、家庭用血圧計で世界シェア5割)・社会システム(SSB、鉄道駅務・道路交通・蓄電システム)・データソリューション(DSB、医療データのJMDC)の4事業で構成する。2026年3月期はIABが中国・北米の設備投資回復とAI関連需要の拡大で増収増益となり、2023〜2024年度に深刻化した在庫調整からの回復が進んだ一方、HCBは中国系の低価格品との競争で減収減益だった。会社は2024年2月に国内外計約2,000人の人員削減を含む構造改革「NEXT 2025」を実施し、2025年11月には2031年3月期までの新しい中期計画「SF 2nd Stage」でROE10〜12%・営業利益率12%を掲げたが、2026年3月期のROEはまだ3.4%にとどまる。ここではIAB・HCB・SSB・DSBの4部門を、世界のFA機器市場×シェア、血圧計等の出荷台数×単価、鉄道・道路システムの契約件数×単価、JMDCの発行ID数×単価で積み上げた。資本コストは基本7.5%に、循環+0.75%・値決め力+0.25%を入れて8.5%。中立の筋書きでは、事業のROEが資本コストをしばらく下回り続けるため、正当化PERは1÷k=11.8倍が上限で、ROE÷kを掛けた約8.5割を当てた。10年後の中立でも時価総額は今の7割台半ばにとどまり、総合では本質価値が今の時価総額を下回る「割高」という結論になった。楽観でもIAB・DSBの構造改革の成果とJMDCのデータ活用が本格化しない限り、今の実績PER40倍・PBR1.4倍を正当化するのは難しい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、オムロンはヘルスケア(血圧計世界シェア5割)という強い消費者ブランドの堀を持つ事業と、制御機器(IAB)という設備投資サイクルに連動し中国勢との競争にさらされやすい事業が併存する会社である。2026年3月期のROE3.4%は資本コスト7.75%を大きく下回り、2024〜2025年度の構造改革期間の落ち込みが一巡したとしても、2030年度目標のROE10〜12%に届くかどうかは、IABの収益性回復とJMDCを軸とするデータ事業の成長が同時に実現するかにかかっている。無借金に近い健全な財務(自己資本比率55.1%)は安全域を支えるが、2023年のJMDC買収という久しぶりの大型M&Aの成果はまだ実績が薄く、資本配分の規律を評価するには時間が要る。今の実績PER40倍・PBR1.4倍という倍率は、ROEが資本コストを下回る今の収益力では正当化が難しく、血圧計のブランド力とIABの構造改革の成果が同時に実を結ぶという、ある程度楽観的な前提を置かないと支えられない水準だと考えられる。
何で稼ぐ会社か
オムロンの事業はIAB(インダストリアルオートメーションビジネス、制御機器:PLC・センサー・リレー・スイッチ等のFA機器)、HCB(ヘルスケアビジネス:家庭用血圧計・ネブライザ・体温計等)、SSB(ソーシアルソリューションズビジネス:鉄道駅務機器・自動改札、道路交通信号システム、蓄電システム)、DSB(データソリューションビジネス:2023年に連結子会社化したJMDCの医療ビッグデータ・健康情報プラットフォーム「Pep Up」)の4部門で構成される。2026年3月期の売上構成はIAB4,095億円(最大の柱)、HCB1,453億円、SSB1,443億円、DSB512億円、全社売上7,673億円。IABはシーメンス・三菱電機・ロックウェル・オムロンなどの寡占市場で、顧客は自動車・電子部品・半導体工場など製造業全般、地域別では中国を含むアジア比率が大きい。HCBは家庭用血圧計の世界累計販売台数が2025年10月に4億台を突破し、世界シェア5割でグローバル首位を維持、130以上の国・地域で販売、生産は日本・中国・ベトナム・イタリアに展開し三重県松阪事業所がグローバル生産戦略拠点となっている。SSBは鉄道の旅客者数回復や蓄電システム需要で底堅い。DSBはJMDCが持つ健康保険組合・医療機関のレセプト・健診データと「Pep Up」の発行ID数拡大が成長を支え、製薬企業・保険会社向けのデータ利活用取引も拡大している。経営は2025年11月に発表した新中期計画「SF 2nd Stage」(2026年度〜2030年度)で、ポートフォリオ再構築と制御機器を中心とする13の注力事業への集中投資を掲げている。
優良さと弱いところ
IAB・HCBともに強い市場地位を持つが、堀の強さには差がある。HCBの家庭用血圧計は世界シェア5割・4億台の累計販売実績という強い消費者ブランドを持つが、中国系メーカー等の低価格品との競争が強まり2026年3月期は減収減益になった。IABはファブレス・直販型で高付加価値の価格決定力を持つキーエンスに比べると量産型のFA機器が中心で、製造業の設備投資サイクルへの連動が強く、営業利益率は2026年3月期で10.4%とキーエンス・ファナックより低い。ROEは2024〜2025年度の構造改革期間に1〜2%台まで落ち込み、2026年3月期も3.4%と資本コスト7.75%を大きく下回る。経営の資本配分は、2023年のJMDC買収(最大855億円のTOB)という久しぶりの大型M&Aの実行力が問われる段階にあり、2024年の2,000人規模の人員削減を含む構造改革で固定費の生産性を上げている途上にある。DOE3%程度の配当に機動的な自社株買いを組み合わせる方針で、財務は自己資本比率55.1%・純有利子負債310億円とごく小さく健全。2030年度ROE10〜12%の目標達成には、IABの収益性回復とDSB(JMDC)の成長加速が同時に要る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
FA・制御機器市場は2023〜2024年度の在庫調整(中国経済の減速とサプライチェーン混乱)から回復局面に入り、2026年3月期はAI関連の設備投資拡大も需要を支えた。中国・北米の工場自動化投資の回復基調が続けば、IABの数量は年率一桁台の増加が見込めるが、価格面では中国系メーカーの技術キャッチアップによる競争激化が実質的な下押し要因になる。ヘルスケア機器市場は世界的な高齢化と新興国(インド等)での生活習慣病対応需要の拡大という構造的な追い風があるが、血圧計を含む健康機器全般で中国系・欧米系(Beurer、Philipsなど)との価格競争が強まっている。鉄道・道路インフラ向けのSSBは国内の人口動態に紐づく成熟需要が中心だが、再生可能エネルギー普及に伴う蓄電システム需要が新しい伸びしろになっている。医療データ事業(DSB)は予防医療・医療費抑制の政策的な後押しもあり、JMDCの顧客基盤拡大が続く限り、4事業のうち最も高い成長が見込める領域である。競合はIABがシーメンス・三菱電機・ロックウェル・オムロン自身という寡占、ロボット・センサーはキーエンス・ファナック等とニッチが重なる部分もある。
資本政策と M&A
配当はDOE(株主資本配当率)3%程度をベースに、余剰資金があれば機動的な自己株式取得を組み合わせる方針で、2025年3月期・2026年3月期の配当総額はおおむね200億円規模で横ばいを維持している。M&Aでは2023年にJMDC(医療データ)を最大855億円のTOBで連結子会社化し、血圧計等のヘルスケア機器とJMDCの医療ビッグデータを組み合わせる戦略投資を実行した。2024年2月には国内外で計約2,000人の人員削減と固定費300億円削減を含む構造改革「NEXT 2025」を発表し、当初の中期計画(SF 1st Stage)の数値目標を取り下げて構造改革期間に移行した。2025年11月の新中期計画「SF 2nd Stage」(2026〜2030年度)では、ポートフォリオ再構築で生んだ投資余力を制御機器中心の13の注力事業に集中する方針を示しており、今後は不振事業の切り出し・売却や追加M&Aの可能性もある。自己資本比率55.1%・純有利子負債310億円とごく小さく、M&Aや株主還元の余地は財務面では確保されている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
制御機器(IAB)は2023〜2024年度の深い在庫調整をすでに通過し、2026年3月期は中国・北米の設備投資回復とAI関連需要の拡大で営業利益率が10.4%まで戻った。この回復はまだ初期段階で、SF 2nd Stageが掲げる2030年度営業利益率12%・ROE10〜12%という目標に向けて、構造改革「NEXT2025」で削減した約2,000人分の固定費効果が今後も効き続ける。ヘルスケア(HCB)は血圧計の世界累計販売4億台・世界シェア5割という強いブランドを持ち、インドなど新興国での生活習慣病対応需要の拡大が中長期の数量成長を支える。データソリューション(DSB)は2023年に連結子会社化したJMDCの「Pep Up」発行ID数が拡大を続け、健康保険組合・製薬企業・保険会社向けのデータ利活用取引も増加しており、4事業の中で最も高い成長率を実現できる。蓄電システムを含む社会システム(SSB)も再生可能エネルギー普及の追い風を受ける。自己資本比率55.1%・純有利子負債310億円という健全な財務は、追加のM&Aや株主還元の余地を残しており、JMDCに続く戦略的な買収で事業ポートフォリオをさらに成長領域に寄せられる。これらが揃えば、2030年代にはROEが資本コストを上回る水準まで改善し、今の倍率も正当化される。
慎重な見方
IABは中国・北米の設備投資サイクルに強く連動する事業で、在庫調整の一巡は循環の谷から戻っただけであり、中国経済の減速が再来すれば再び同じ落ち込みを繰り返す。2026年3月期の営業利益率10.4%は過去のピーク(2022年3月期11.7%)にも届かず、設備投資サイクルの波に業績が振られる構造は変わっていない。ヘルスケア(HCB)は世界シェア5割という実績があっても、中国系・欧米系メーカーの低価格品との競争で2026年3月期は減収減益に陥り、血圧計という単一カテゴリーへの依存度(HCB売上の約7割)がブランドの価格決定力を侵食するリスクを抱える。JMDCの買収は2023年実施からまだ数年しか経っておらず、医療データ事業の収益化・IABやHCBとのシナジー実現には時間とコストがかかる可能性が高く、2,000人規模の人員削減を含む構造改革もROEを資本コスト10%まで戻すには力不足で、2026年3月期のROEは3.4%にとどまっている。SF 2nd Stageが掲げるROE10〜12%は過去に一度取り下げた中期計画の反省を踏まえた目標であり、再び未達になる可能性も相応にある。今の実績PER40倍・PBR1.4倍は、構造改革の成果とJMDCの成長をかなり前倒しで織り込んだ値段であり、達成が遅れれば倍率の縮小を伴う下落が起きやすい。
どちらに重みを置いたか
IABの在庫調整一巡・HCBのブランド力・JMDCの成長性はいずれも事実だが、ROEが資本コスト7.75%を大きく下回る状態が2026年3月期まで続いている現実と、中国依存・血圧計への依存という構造的な脆さを踏まえると、慎重な見方に重みを置くのが筋である。中立の確率を最も高く置き、構造改革の成果が計画どおり出る方にやや確率を傾けつつ、ROEが資本コストを明確に上回る楽観の確率は抑えた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,366 円1.06 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,709 円3,360 億円)。 今の値に割り戻すと 3,720 円7,316 億円、今との差 −32.3%、 期待の年率 +2.6%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 11,651 円2.29 兆円 | 2,441 円4,800 億円 | +156.3% | +9.9% | 1,409 円2,771 億円 |
| やや楽観 | 22% | 8,322 円1.64 兆円 | 2,034 円4,000 億円 | +88.3% | +6.5% | 2,278 円4,480 億円 |
| 中立 | 32% | 5,780 円1.14 兆円 | 1,729 円3,400 億円 | +36.6% | +3.2% | 2,403 円4,725 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,745 円3,431 億円 | 1,373 円2,700 億円 | −43.3% | −5.5% | 748 円1,471 億円 |
| 悲観 | 12% | 850 円1,672 億円 | 1,119 円2,200 億円 | −64.2% | −9.8% | 236 円465 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,366 円1.06 兆円 | 1,709 円3,360 億円 | +28.7% | +2.6% | 7,075 円1.39 兆円 |
今の株価時価総額 5,499 円1.08 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:IABの収益性回復とJMDCの成長が同時に実現し、ROEが資本コストを上回る 利益 1,462 億円 · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 11,651 円2.29 兆円
世界のFA機器市場は人手不足・省人化ニーズで着実に拡大し、IABは構造改革の効果とAI関連需要の取り込みでシェアを7.8%まで高め、営業利益率はSF2nd Stageの目標並みの13%台まで改善する。HCBは新興国での生活習慣病対応需要の拡大が続き、ブランド力で中国系との価格競争にも一定の抵抗力を保つ。SSBは蓄電システムの普及で成長し、DSBはJMDCを核にした医療データ事業が製薬・保険業界に定着し高い成長を続ける。10年かけてROEは資本コスト7.75%を上回る11.6%まで改善し、「制御機器とヘルスケア・データの複合企業」という評価が定着する。
- IAB(制御機器):数量 680(世界FA機器(センサー・コントローラ等)市場(億ドル)× オムロンのシェア)× 価格 9.6%(シェア(1あたりの売上換算、×円ドル換算))→ 売上 9,788 億円・営業利益 1,321 億円。市場680億ドル×シェア7.8%(10年1.7倍)、営業利益率13.5%
- HCB(ヘルスケア):数量 3,300(血圧計等ヘルスケア機器の出荷台数(万台、推定))× 価格 0.90(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 2,986 億円・営業利益 388 億円。3,300万台(10年1.5倍、新興国需要)×0.90万円、営業利益率13%
- SSB(社会システム):数量 156(鉄道・道路システムの契約・納入件数(万件、推定))× 価格 16(1件あたり単価(万円・名目))→ 売上 2,566 億円・営業利益 411 億円。156万件(10年1.3倍、蓄電需要)×16.5万円、営業利益率16%
- DSB(データソリューション):数量 2,080(健康保険組合・医療機関の発行ID数(万ID、推定))× 価格 0.86(1IDあたり年間売上(万円・名目))→ 売上 1,789 億円・営業利益 250 億円。2,080万ID(10年2.6倍)×0.86万円、営業利益率14%
倍率:事業の純利益 1,462 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.7 倍。全体の PER 15.67 倍、時価総額 22,910 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:4事業すべてが構造改革とM&Aの成果を同時に出す必要があり、業種ノートの楽観の中でも上寄りのため確率は抑える。
やや楽観 22% やや楽観:構造改革の効果とJMDCの成長が着実に進む 利益 1,134 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 8,322 円1.64 兆円
世界のFA機器市場は人手不足・省人化ニーズで着実に拡大し、IABは中国系メーカーとの競争下でもシェアを緩やかに7.0%台後半まで高め、構造改革の効果が定着して営業利益率は12.5%程度まで改善する。HCBは新興国の生活習慣病対応需要の拡大と中国系との価格競争が綱引きしつつ、ブランド力を背景に台数・実質価格ともにほぼ維持できる。SSBは再生可能エネルギー普及に伴う蓄電需要で着実に拡大し、DSBはJMDCを核にした医療データ事業の成長が10年を通じて続く。10年かけてROEは資本コストの10%にわずかに届かない9.7%まで改善し、SF 2nd Stageの目標にほぼ沿う展開になる。
- IAB(制御機器):数量 620(世界FA機器(センサー・コントローラ等)市場(億ドル)× オムロンのシェア)× 価格 9.1%(シェア(1あたりの売上換算、×円ドル換算))→ 売上 8,499 億円・営業利益 1,062 億円。市場620億ドル×シェア7.5%、営業利益率12.5%
- HCB(ヘルスケア):数量 3,036(血圧計等ヘルスケア機器の出荷台数(万台、推定))× 価格 0.89(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 2,693 億円・営業利益 323 億円。3,036万台×0.89万円、営業利益率12%
- SSB(社会システム):数量 144(鉄道・道路システムの契約・納入件数(万件、推定))× 価格 16(1件あたり単価(万円・名目))→ 売上 2,322 億円・営業利益 348 億円。144万件×16.1万円、営業利益率15%
- DSB(データソリューション):数量 1,760(健康保険組合・医療機関の発行ID数(万ID、推定))× 価格 0.86(1IDあたり年間売上(万円・名目))→ 売上 1,514 億円・営業利益 189 億円。1,760万ID×0.86万円、営業利益率12.5%
倍率:事業の純利益 1,134 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.43 倍、時価総額 16,364 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:SF2nd Stageの数値目標にほぼ沿って進むシナリオで、業種ノートの中立〜楽観の範囲。
中立 32% 中立:制御機器の循環性とヘルスケアの価格競争が続き、ROEは資本コストにわずかに届かない 利益 867 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 5,780 円1.14 兆円
世界のFA機器市場は人手不足・省人化ニーズで着実に拡大するが、中国系メーカーとの技術キャッチアップによる競争でIABのシェアは7%程度にとどまり、価格も実質的にやや下押しされる。構造改革「NEXT2025」の固定費削減効果は定着するものの、設備投資サイクルの波で利益率は一定水準から大きくは伸びない。HCBは新興国需要の拡大と中国系との価格競争が綱引きし、台数はやや伸びるが実質価格は下がる。SSBは蓄電需要で緩やかに拡大し、DSBはJMDCの成長が続くが、規模の大きいIAB・HCBの綱引きが全社のROEを決める構図は変わらない。10年後もROEは8%程度と資本コスト7.75%にわずかに届かず、「高いシェアを持つが資本コストを稼げない複合機器メーカー」という評価にとどまる。
- IAB(制御機器):数量 560(世界FA機器(センサー・コントローラ等)市場(億ドル)× オムロンのシェア)× 価格 8.9%(シェア(1あたりの売上換算、×円ドル換算))→ 売上 7,447 億円・営業利益 856 億円。市場560億ドル×シェア7.0%・価格実質やや下押し、営業利益率11.5%
- HCB(ヘルスケア):数量 2,794(血圧計等ヘルスケア機器の出荷台数(万台、推定))× 価格 0.84(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 2,354 億円・営業利益 259 億円。2,794万台×0.84万円(実質下押し)、営業利益率11%
- SSB(社会システム):数量 132(鉄道・道路システムの契約・納入件数(万件、推定))× 価格 16(1件あたり単価(万円・名目))→ 売上 2,129 億円・営業利益 298 億円。132万件×16.1万円、営業利益率14%
- DSB(データソリューション):数量 1,520(健康保険組合・医療機関の発行ID数(万ID、推定))× 価格 0.83(1IDあたり年間売上(万円・名目))→ 売上 1,268 億円・営業利益 140 億円。1,520万ID×0.83万円、営業利益率11%
倍率:事業の純利益 867 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍。全体の PER 13.11 倍、時価総額 11,366 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:IABの循環性とHCBの価格競争という構造的な綱引きが10年続く、最も標準的な見方。
やや悲観 24% やや悲観:中国依存とヘルスケアの価格競争で収益性の回復が鈍い 利益 486 億円 · PER 7.1 倍 · 株価時価総額 1,745 円3,431 億円
中国の設備投資サイクルが構造的に弱含み、IABのシェアは伸びず価格も実質下押しが続く。2024年の構造改革で削減した固定費の効果だけでは、中国依存から来る需要の鈍さを打ち消せない。HCBは中国系・新興国メーカーとの価格競争が一段と強まり、世界シェア5割というブランド力があっても実質価格は下がり続ける。SSBは国内の成熟需要にとどまり蓄電需要の伸びも鈍い。DSBの成長は続くがIAB・HCBに比べ規模が小さく、全社の収益性を支えきれない。10年を通じてROEは5%程度にとどまり、SF 2nd Stageが掲げる2030年度ROE10〜12%の目標は実現しない。
- IAB(制御機器):数量 480(世界FA機器(センサー・コントローラ等)市場(億ドル)× オムロンのシェア)× 価格 8.2%(シェア(1あたりの売上換算、×円ドル換算))→ 売上 5,922 億円・営業利益 563 億円。市場480億ドル×シェア6.8%・価格実質下押し、営業利益率9.5%
- HCB(ヘルスケア):数量 2,530(血圧計等ヘルスケア機器の出荷台数(万台、推定))× 価格 0.78(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 1,975 億円・営業利益 188 億円。2,530万台×0.78万円(実質下押し)、営業利益率9.5%
- SSB(社会システム):数量 120(鉄道・道路システムの契約・納入件数(万件、推定))× 価格 16(1件あたり単価(万円・名目))→ 売上 1,877 億円・営業利益 225 億円。120万件×15.6万円、営業利益率12%
- DSB(データソリューション):数量 1,200(健康保険組合・医療機関の発行ID数(万ID、推定))× 価格 0.77(1IDあたり年間売上(万円・名目))→ 売上 929 億円・営業利益 84 億円。1,200万ID×0.77万円、営業利益率9%
倍率:ROE 5.1% が k 7.75% 以下なので、伸びても価値は増えず(ためた利益は額面未満)、正当化 PER は 1÷k=11.8 倍。ROE5.1%まで落ち、制御機器とヘルスケアの両方で価格競争に負けて稼ぎの質が下がる筋書きなので、上限の 6.0 割の 7.1 倍に置いた。
確率:中国経済の構造的な減速とヘルスケアの価格競争が長引くシナリオ。
悲観 12% 悲観:構造的に負ける10年。中国依存とヘルスケアの価格破壊でもう優良ではなくなっている 利益 35 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 850 円1,672 億円
中国系FA機器メーカー(エストゥンなど)の技術キャッチアップと、中国系・新興国系ヘルスケア機器メーカーの台頭で、IAB・HCBともに実質価格が持続的に下押しされ、シェアも徐々に失っていく。構造改革「NEXT2025」で削減した固定費や、2023年に買収したJMDCとのシナジーも、価格決定力そのものの低下を打ち消すには力不足になる。SSBの蓄電システムも新規参入が増えて利益率が下がり、DSBの成長も企業向けデータ利活用予算の縮小で鈍化する。10年を通じてROEは資本コスト7.75%を大きく下回り続け、「高いシェアを持つが優良ではない制御機器・ヘルスケアの複合メーカー」という評価に変わる。自己資本比率55.1%という健全な財務で財務の脆さはほとんど出ないが、本質的な稼ぐ力の低下が主因の10年になる。DOE3%ベースの配当方針は、この10年の純利益の合計を上回る分を厚い自己資本の取り崩しで補う前提である。配当と自社株買いは利益ではなく、手元の現金と資産の売却で払う。
- IAB(制御機器):数量 340(世界FA機器(センサー・コントローラ等)市場(億ドル)× オムロンのシェア)× 価格 7.3%(シェア(1あたりの売上換算、×円ドル換算))→ 売上 3,729 億円・営業利益 112 億円。市場は伸びてもシェアを失い340億ドル相当・価格実質20%下押し、営業利益率3%
- HCB(ヘルスケア):数量 2,200(血圧計等ヘルスケア機器の出荷台数(万台、推定))× 価格 0.71(1台あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 1,561 億円・営業利益 94 億円。2,200万台×0.71万円(価格破壊)、営業利益率6%
- SSB(社会システム):数量 108(鉄道・道路システムの契約・納入件数(万件、推定))× 価格 15(1件あたり単価(万円・名目))→ 売上 1,568 億円・営業利益 125 億円。108万件×14.5万円、営業利益率8%
- DSB(データソリューション):数量 880(健康保険組合・医療機関の発行ID数(万ID、推定))× 価格 0.69(1IDあたり年間売上(万円・名目))→ 売上 606 億円・営業利益 24 億円。880万ID×0.69万円、営業利益率4%
倍率:ROE は 0.5% まで落ち、利益だけでは測れない。稼ぐ力(純利益 35 億円÷k 7.75%≒410 億円)より、事業を畳んでも回収できる資産の方が大きいので、床は資産から置いた。今の自己資本 8,359 億円の 0.2 倍。
確率:IAB・HCBともに中国系との競争で構造的にシェア・価格決定力を失うという業種ノートの10年悲観シナリオ。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
IAB(制御機器)
PLC・センサー・リレー・スイッチ等のFA機器。シーメンス・三菱電機・ロックウェルと競合。
| 数量世界FA機器(センサー・コントローラ等)市場(億ドル)× オムロンのシェア | 価格シェア(1あたりの売上換算、×円ドル換算) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 400 | 6.8% | 4,080 | 428 |
| 10 年後 中立 | 560 | 8.9% | 7,447 | 856 |
取り方:世界のFAセンサー・コントローラ市場を約400億ドルと推定し、IAB売上4,095億円(約27.3億ドル)からシェアを約6.8%と逆算した。150円/ドルで換算(revenue_oku=volume×price×150)。営業利益率は実績10.4%。
HCB(ヘルスケア)
家庭用血圧計(世界シェア5割)・ネブライザ・体温計等。
| 数量血圧計等ヘルスケア機器の出荷台数(万台、推定) | 価格1台あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,200 | 0.66 | 1,452 | 154 |
| 10 年後 中立 | 2,794 | 0.84 | 2,354 | 259 |
取り方:HCB売上1,453億円を、血圧計(カテゴリ別売上の約68%)を主体にネブライザ・体温計等を含めた平均単価約0.66万円と推定し、出荷約2,200万台に分けた。世界累計販売4億台・世界シェア5割の実績と整合する規模感。営業利益率は実績約10.6%。
SSB(社会システム)
鉄道駅務機器・自動改札、道路交通信号システム、蓄電システム。
| 数量鉄道・道路システムの契約・納入件数(万件、推定) | 価格1件あたり単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 12 | 1,440 | 197 |
| 10 年後 中立 | 132 | 16 | 2,129 | 298 |
取り方:SSB売上1,443億円を、鉄道駅務機器・道路交通信号システムの更新・新設・保守契約と蓄電システムの納入件数、合計約120万件×単価約12万円と推定して分けた。旅客者数の回復と蓄電システム需要で営業利益率は実績約13.7%。
DSB(データソリューション)
JMDC(2023年連結子会社化)の医療ビッグデータ・健康情報プラットフォーム「Pep Up」。
| 数量健康保険組合・医療機関の発行ID数(万ID、推定) | 価格1IDあたり年間売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 800 | 0.64 | 512 | 36 |
| 10 年後 中立 | 1,520 | 0.83 | 1,268 | 140 |
取り方:DSB売上512億円を、JMDC「Pep Up」の発行ID数拡大を背景に約800万ID×1IDあたり年間売上約0.64万円と推定して分けた。4部門の中で最も高い成長率(前期比19.7%増収)。全社営業利益599億円に対し4部門合計815億円との差額216億円は本社費等・残る構造改革費用の調整(adjust_oku)。
リスクと懸念
中国の設備投資サイクルへの連動
IABの顧客基盤・需要地域は中国を含むアジア比率が大きく、中国経済の減速やサプライチェーン混乱が起きると2023〜2024年度のような在庫調整・減収減益を再び招きやすい。制御機器は量産型のFA機器が中心で、顧客の設備投資計画の変化が数量・価格の両方に直接響きやすく、業績の振れ幅が他の3事業より大きい構造になっている。
ヘルスケア機器の価格競争
家庭用血圧計は世界シェア5割を持つが、中国系・新興国系メーカーの低価格品との競争が強まっており、2026年3月期はHCBが減収減益になった。単一カテゴリー(血圧計がカテゴリ別売上の約68%)への依存度の高さが、価格決定力の低下をそのまま事業全体の収益性に伝えやすくしている点もリスクを増幅する。
JMDC買収のシナジー実現
2023年に最大855億円のTOBで連結子会社化したJMDCは、医療データとヘルスケア機器の組み合わせという戦略の中核だが、収益化とシナジーの実現にはまだ時間がかかる可能性がある。買収からの年数が浅く、血圧計等の既存顧客基盤とJMDCの医療データ基盤を実際にどこまで結び付けられるかの実績はまだ十分に積み上がっていない。
構造改革の実効性
2024年の国内外計約2,000人の人員削減を含む構造改革「NEXT 2025」の効果が計画通りに出るかどうかが、ROEを資本コスト10%に近づけられるかを左右する。固定費300億円削減という目標の達成が遅れれば、IABの需要回復が進んでも利益率の改善が追いつかない展開になりやすい。
中期計画の再度の未達
当初のSF 1st Stageは数値目標を取り下げて構造改革期間に移行した経緯があり、新しいSF 2nd Stage(2030年度ROE10〜12%、営業利益率12%)も、IAB・HCBの事業環境が想定より悪化すれば再び未達になるリスクがある。一度目標を取り下げた経緯は、市場の信頼回復にも時間を要する要因になりうる。
為替(ドル円・人民元)の変動
IAB・HCBともに海外売上比率が高く、1ドル150円という共通前提から円高に振れると売上・利益の下方修正要因になる。人民元・新興国通貨の変動も、現地生産・現地販売の多いヘルスケア事業の採算に影響する。
社会システム(SSB)の公共投資依存
鉄道駅務機器・道路交通システムは公共投資・鉄道事業者の投資計画に依存し、財政事情の変化で需要が左右される。蓄電システムは新しい伸びしろだが、再生可能エネルギー政策の変化や新規参入の増加で利益率が下がるリスクも抱える。
今後の分かれ目
- 中国の工場自動化投資・AI関連需要が会社計画を上回って加速したら
- 楽観・やや楽観側の筋書きに重みを移してよい。ただし中国依存が一段と高まる分、次の中国景気の下振れへの感応度も高まる点を合わせて見る。
- 中国・新興国系ヘルスケア機器メーカーが日本・欧米市場で本格的にシェアを取り始めたら
- HCBの価格決定力の構造的な侵食が始まったと見て、10年の筋書きの営業利益率前提を下げ、悲観側の確率を上げる。
- JMDCのデータ利活用取引が製薬・保険業界で本格的に拡大し収益化が進んだら
- DSBの成長率前提を上げ、楽観・やや楽観側の筋書きに重みを移す。
- SF 2nd Stageの数値目標(2030年度ROE10〜12%)の進捗が複数四半期連続で計画を下回ったら
- SF 1st Stageと同様の目標取り下げを想定し、やや悲観側の筋書きに重みを移す。
- 1ドル140円程度まで円高が進んだら
- 売上・利益の前提を下方修正し、筋書きをやや悲観側に寄せる。ドル円150円という共通前提からの乖離として扱う。
- IABの営業利益率が過去のピーク(2022年3月期11.7%)を上回る水準まで回復する兆しが出たら
- 楽観・やや楽観側の筋書きに重みを移し、構造改革の成果が実を結んだと見る。
- 追加の大型M&Aや不振事業の切り出し・売却が実行されたら
- ポートフォリオ再構築の進捗として確認し、価格が合理的で既存事業とのシナジーが見込めるなら楽観側、割高な買収や成長事業の売却なら悲観側に重みを移す。
見ておくもの
- IABの営業利益率の推移(2026年3月期10.4%が過去のピーク11.7%に近づくか、構造改革期間の低水準に戻るか)
- HCBの増収減益・減収減益の継続有無と血圧計カテゴリーの価格動向
- DSB(JMDC)の発行ID数・データ利活用取引額の拡大ペース
- SF 2nd Stageの数値目標(2030年度ROE10〜12%、営業利益率12%)の進捗
- 構造改革「NEXT 2025」の固定費削減300億円目標の達成状況
- 中国の工場自動化・設備投資動向(IABの主要な需要地域)
倍率と資本コストの決め方
今の実績PER40.4倍・PBR1.38倍には寄せていない。k7.75%は基本7.5%に、循環+0.75%・値決め力+0.25%を入れた値。事業のROEがkを下回る中立・やや楽観・やや悲観の筋書きでは、成長を加味したRONIC計算ではなく正当化PER=1÷k(11.8倍)を上限とし、中立はROE÷kを掛けた約8.5割・やや楽観8割に置いた。ROEがkを上回る10年楽観だけRONICベースの計算で、上限の8.5割に置いた。悲観側は稼ぐ力(純利益÷k)から出し、売れる資産の根拠を積めない分は資産で上げていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.39→15.67 倍・やや楽観 PER 9.96→14.43 倍・中立 PER 9.95→13.11 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。
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- sectors/電気機器.md 「FA・ロボット・計測制御機器」節
- scripts/brief.py 6645 出力(facts/6645.json)