結論
シキノハイテックは、半導体の検査装置と、車載 LSI の設計受託、産業用カメラを手がける小さな会社だ。売上は 65 億円で、ソニー系が 1 割強を占める。筆者の結論は、今の値段は割高ということだ。いちばんの理由は、2026 年 3 月期に営業赤字へ落ちた会社が、すでに先の回復を織り込んだ値段で売られていることにある。
会社は 2028 年 3 月期に売上 85 億円、ROE 15% を掲げる。AI・サーバー向けのバーンイン(出荷前の通電試験)の受注は確かに増えている。ただ、売上は 2024 年 3 月期の 71 億円から伸びておらず、利益は赤字だ。
設計受託は技術者の工数で稼ぐ事業で、AI による設計の自動化の影響を受ける。検査装置も、受注の山谷が大きい。中立では、売上が物価の分だけ増え、営業利益率は 5% 前後にとどまると見る。つまり成長ではなく、赤字からの回復が前提の会社だ。そこを割り引いて見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良い技術を持つ小さな会社が、まだ採算に乗っていない段階」と見る。AI 向けの検査需要は本物だが、会社が利益として手に入れられるかは別の話だ。
営業利益率が 10% 台から赤字へ振れた事実は、事業の経済性が安定していないことを示す。資材費と人件費の上昇を価格に移しきれず、成長が株主に届かない。
安全域は薄い。自己資本は小さく、先の利益を前提にした値段は、見通しが外れたときの下がり方が大きい。わからない事業には高い値段を払わない。利益が黒字で安定するまで、確信度は低く置く。経営が資本を事業に回すのか、配当に回すのかも、まだ見えていない。オーナーとして持ち続ける条件は、利益率が 6% 台で安定することだ。いまは、それを確かめる段階の会社である。数字が出る前に値段を払うのは、バリュー投資の流儀ではない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は 3 つある。最大は電子システムで、売上の約 5 割。半導体の出荷前に高温で通電して不良品をふるい落とすバーンイン装置とボード、車載用の専用計測器を作る。景気に左右されやすい事業だ。
次がマイクロエレクトロニクスで、売上の約 3 割。車載向けのアナログ LSI の設計を受託し、設計の部品(IP コア)も売る。顧客の依頼を技術者の工数で受けるので、人件費が原価の中心になる。
最後が製品開発で、約 2 割。産業用の組込カメラ、画像処理、ATM・セルフレジ向けの機器を、顧客の仕様で開発して納める。国内の現金処理機器は減っており、見守り・AI カメラを新たな柱にしようとしている。最大の顧客はソニーセミコンダクタソリューションズで、売上の 10.8% を占める。研究開発費は年 1.6 億円ほどで、設計受託の部分に集中している。受注残高は 2026 年 3 月末で 19.6 億円ある。従業員は技術者が中心で、人件費が原価の大半を占める。決算は単体(非連結)で開示しており、組織は小さい。売上の下期への偏りが大きいのも特徴だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、半導体の試験に必要な高電力・高精度の装置の設計力と、車載アナログ LSI の設計実績だ。顧客と長く付き合うので、切り替えには時間がかかる。ただ、規模が小さく、特定の顧客に偏る。
収益の質は弱い。営業利益率は 2023 年 3 月期に 10% 台まで上がったあと、2025 年 3 月期に 1%、2026 年 3 月期に赤字へ落ちた。原因は、資材費率の上昇、派遣単価の上昇による労務費、製品開発の減収、新しい基幹システムの償却だ。
値決めの力は弱い。装置は競合と比べられ、設計は工数の単価で決まる。財務も薄い。自己資本比率は 39.7% に下がり、短期借入が 8 億円増えた。経営は中期計画で ROE 15% を掲げるが、実績は 3 期連続で届いていない。資本の使い方を問うには、まず黒字の定着が先だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体の検査工程は、AI・サーバー向けの高性能チップの増加で、重要度が上がっている。チップが複雑になるほど、出荷前に不良をふるい落とす通電試験の時間と費用が増える。会社もこの流れで、AI 向け電源モジュールのバーンインボードや、高電力 LSI 向けのカスタム装置の受注が増えたと説明する。
一方、半導体の設備投資は波が大きい。車載向けの需要が落ち込んだ 2026 年 3 月期は、専用計測器が大幅に減った。大手の検査装置メーカーや、中国・台湾勢との競争もある。
設計受託は、人手で稼ぐ事業が AI に置き換えられる流れの中にある。設計ツールの自動化が進むと、同じ仕事に必要な技術者の工数が減る。専門性の高いアナログ設計は残りやすいが、単価の伸びは物価に届かないと見る。
産業用カメラは、国内の現金処理機器の需要が減り、見守りや AI カメラが代わる。海外の ATM やドローン向けは伸びているが、金額は小さい。会社が成長領域に挙げる産業・医療、防衛・宇宙、社会インフラは、いずれも参入が難しい分、立ち上がりに時間がかかる。
資本政策と M&A
還元は控えめだ。配当は据え置きで、2027 年 3 月期も同じ予定。会社は内部留保を重視し、安定配当を続ける方針である。中計では 2030 年に株主資本配当率 3% 以上を掲げる。
親会社や支配株主は確認できず、自己資本は 23 億円と小さい。純負債は 12 億円で、2026 年 3 月期に短期借入を 8 億円増やした。政策保有株式を売って損失を縮めており、資本の余裕は大きくない。
買収や再編の話は出ていない。余った現金は無い。TOB の確率を kabufu は 18% と見るが、公表された事実はない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI とデータセンターの需要が、バーンイン装置の追い風になる。サーバー向けの高電力 LSI は試験が長くなるので、専用のボードと装置が必要だ。会社はすでに受注増を開示している。受注残高は 20 億円前後で安定し、売上の 3 割に当たる。
設計受託は、車載アナログで堅調だ。海外顧客の設計も増えており、専門性の高い仕事は AI でも置き換えにくい。製品開発では、見守り・AI カメラの立ち上げが遅れているが、方向は正しい。
会社の 2030 年の目標は、売上 100 億円・経常利益 10 億円。ここまで届けば、利益は今の数十倍になる。今の値段は、その入り口にあるだけだ。売上のうち、AI・サーバー向けの比率が上がれば、利益率は一段上がる。規模が小さいぶん、1 件の大型受注が利益を大きく動かす。株主資本が小さいうちは、利益が出れば ROE は一気に上がる。電子部品の検査需要は、数年単位で見れば右肩上がりだ。
慎重な見方
売上は 2024 年 3 月期から 3 期、65〜71 億円で足踏みしている。利益は 2025 年 3 月期に急減し、2026 年 3 月期は赤字だ。前の中計の目標は、すでに達成が遠い。2027 年 3 月期の会社予想も営業利益 1.2 億円と小さい。
半導体の検査は波が大きく、車載向けの専用計測器は 2026 年 3 月期に大幅に減った。大手や中国・台湾勢との競争も続く。設計受託は工数で稼ぐ事業で、AI が設計を自動化すれば、単価と工数の両方が圧迫される。
自己資本は 23 億円と小さい。短期借入は 8 億円増え、自己資本比率は 5 ポイント低下した。利益が戻る証拠が出ない限り、今の値段は先の成長を織り込みすぎている。受注残が安定しているのは、売上が伸びていない裏返しでもある。会社の計画は、過去に何度も未達に終わった。ソニー系の需要が変われば、数億円の売上が動く。小さな会社の収益が、1 つの顧客の方針で決まるのは危うい。
どちらに重みを置いたか
受注残は安定し、AI 向けの検査需要は本物だと認める。ただ、売上は 3 年伸びず、利益は赤字に落ちた。中立の利益率は過去の山でなく、平均の 5% に置くべきだ。確率は、中立を最も重く置き、慎重な見方のほうがやや強いと判断した。楽観とやや楽観を合わせて 25%、やや悲観と悲観を合わせて 37% を置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 775 円34 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 153 円7 億円)。 今の値に割り戻すと 418 円18 億円、今との差 −49.0%、 期待の年率 +1.3%(資本コスト 9.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 2,462 円108 億円 | 455 円20 億円 | +256.1% | +13.5% | 204 円9 億円 |
| やや楽観 | 18% | 1,427 円63 億円 | 273 円12 億円 | +107.6% | +7.6% | 306 円13 億円 |
| 中立 | 38% | 711 円31 億円 | 159 円7 億円 | +6.3% | +0.6% | 331 円15 億円 |
| やや悲観 | 25% | 250 円11 億円 | 45 円2 億円 | −63.9% | −9.7% | 74 円3 億円 |
| 悲観 | 12% | 105 円5 億円 | 0 円0 億円 | −87.2% | −18.6% | 13 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 775 円34 億円 | 153 円7 億円 | +13.2% | +1.3% | 927 円41 億円 |
今の株価時価総額 819 円36 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.3% を下回るほど割高。
楽観 7% 楽観:AI・データセンター向けの検査が伸び、防衛・宇宙でも受注を取る 利益 8 億円 · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 2,462 円108 億円
AI 向けの電源モジュールやサーバー用の高電力 LSI は、出荷前の通電試験(バーンイン)の需要が増える。会社は専用ボードとカスタム装置を持ち、受注増を見込んでいる。電子システムの出荷は今の 1.8 倍になり、単価も物価をやや上回る。
設計受託は車載のアナログに加え、海外顧客の案件も増える。製品開発は、見守り・AI カメラ事業が立ち上がる。
全社の営業利益は 11 億円ほどで、利益率は 8% 台。純利益は 7〜8 億円になる。ROE は 20% を超えるが、成長を続けるには稼いだ資金を事業に回す必要があり、還元は純利益の 5 割ほどにとどまる。
- 電子システム:数量 540(装置・ボード・計測器の出荷(台相当))× 価格 0.14(1 台あたり売上(億円))→ 売上 77 億円・営業利益 7 億円。出荷 1.8 倍、利益率 9%
- マイクロエレクトロニクス:数量 165(設計・IP の受託工数(人年))× 価格 0.18(1 人年あたり売上(億円))→ 売上 30 億円・営業利益 3 億円。工数 1.1 倍、利益率 9%
- 製品開発:数量 15.0(機器の出荷(万台相当))× 価格 1.82(1 台あたり売上(万円))→ 売上 27 億円・営業利益 2 億円。見守り・AI カメラが立ち上がる
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 21.4% が k 9.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.1 倍。全体の PER 14.07 倍、時価総額 108 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社が掲げる 2030 年の売上 100 億円・経常利益 10 億円を、10 年かけて超える筋書き。電子システムの利益率が過去の山(10%)近くまで戻る。今の売上が 2022 年度から伸びていない点を考え、確率は低く置く。
やや楽観 18% やや楽観:検査装置の需要が戻り、利益率は 6% 台 利益 5 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 1,427 円63 億円
電子システムの出荷は今の 1.45 倍になる。車載計測器の落ち込みが戻り、サーバー向けのバーンインも加わる。単価は物価並みに上がり、資材費の上昇も転嫁できる。
設計受託は車載需要が堅調で、工数は横ばい。AI による設計の効率化で単価の伸びは物価より小さい。製品開発は国内の ATM が減る分を、海外とドローン向けが埋める。
全社の営業利益は 7 億円ほどで、利益率は 6〜7%。純利益は 5 億円弱になり、ROE は 15% 前後。還元は純利益の 3 割ほどにとどまり、稼いだ資金の大半は設備と開発に回る。会社の中計の水準に、10 年かけて届く姿だ。AI 向けの検査需要を取り込み、設計受託と組み合わせて顧客を増やせた場合に限る。
- 電子システム:数量 435(装置・ボード・計測器の出荷(台相当))× 価格 0.14(1 台あたり売上(億円))→ 売上 60 億円・営業利益 4 億円。出荷 1.45 倍
- マイクロエレクトロニクス:数量 143(設計・IP の受託工数(人年))× 価格 0.18(1 人年あたり売上(億円))→ 売上 26 億円・営業利益 2 億円。工数 0.95 倍
- 製品開発:数量 12.0(機器の出荷(万台相当))× 価格 1.78(1 台あたり売上(万円))→ 売上 21 億円・営業利益 1 億円。海外・ドローンが国内 ATM の減少を埋める
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.3% が k 9.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍。全体の PER 13.08 倍、時価総額 63 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の設備投資が戻り、電子システムが 4 割ほど伸びる筋書き。設計受託と製品開発は横ばいか、小さく伸びる。
中立 38% 中立:検査装置は伸びるが、設計受託が細り、売上は物価の分だけ増える 利益 3 億円 · PER 11.6 倍 · 株価時価総額 711 円31 億円
電子システムの出荷は今の 1.15 倍。AI・サーバー向けのバーンインが増えるが、車載の計測器は伸びない。単価は 10 年 1.30 倍で、資材費の上昇の一部は吸収する。
設計受託は、AI による設計の自動化で、技術者の工数が 15% 減る。単価は 1.25 倍にとどまる。製品開発は国内の現金処理機器が減るなか、新しいカメラ事業が支える。
全社の営業利益は 4 億円ほど、利益率は 5% 前後。売上は 86 億円で、会社が 2028 年 3 月期に目標とした水準に 10 年遅れて届く。受注の山谷を平らにならした姿で、ROE は 11% になる。還元は今の配当の水準が続き、純利益の 25% ほどだ。
- 電子システム:数量 345(装置・ボード・計測器の出荷(台相当))× 価格 0.13(1 台あたり売上(億円))→ 売上 46 億円・営業利益 2 億円。出荷 1.15 倍、価格 1.30 倍
- マイクロエレクトロニクス:数量 128(設計・IP の受託工数(人年))× 価格 0.18(1 人年あたり売上(億円))→ 売上 23 億円・営業利益 1 億円。工数 0.85 倍(AI 代替)、価格 1.25 倍
- 製品開発:数量 10.0(機器の出荷(万台相当))× 価格 1.74(1 台あたり売上(万円))→ 売上 17 億円・営業利益 1 億円。数量横ばい
倍率:事業の純利益 3 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 9.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.6 倍。全体の PER 11.61 倍、時価総額 31 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子システムの伸びを、設計受託の縮みが打ち消す筋書き。中立は、過去の山(利益率 10%)でなく、8 年の平均(5% 弱)に置く。最も重く置く。
やや悲観 25% やや悲観:検査装置の受注が細り、設計受託も減って利益は出ない 利益 0 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 250 円11 億円
電子システムの出荷は今の 9 割に減る。車載の計測器が戻らず、サーバー向けのバーンインも競合に取られる。単価は資材費の上昇を吸収できず、物価の 5 割ほどしか上がらない。
設計受託の工数は 3 割減る。AI を使った設計の自動化と、顧客の内製化が進む。製品開発は国内の機器の需要が減り続ける。
全社の営業利益は 1 億円弱で、利払いを引くとほぼ利益が出ない。売上は 61 億円と、今より減る。事業の稼ぐ力は小さく、価値は売れる資産の側が決める。短期の借入の返済が重く、新しい開発に回す資金もなくなっていく。
- 電子システム:数量 270(装置・ボード・計測器の出荷(台相当))× 価格 0.12(1 台あたり売上(億円))→ 売上 33 億円・営業利益 0 億円。出荷 0.9 倍、価格 1.2 倍
- マイクロエレクトロニクス:数量 105(設計・IP の受託工数(人年))× 価格 0.16(1 人年あたり売上(億円))→ 売上 17 億円・営業利益 1 億円。工数 0.7 倍
- 製品開発:数量 7.0(機器の出荷(万台相当))× 価格 1.63(1 台あたり売上(万円))→ 売上 11 億円・営業利益 0 億円。出荷 0.7 倍、利益なし
倍率:稼ぐ力(純利益÷k)は 2 億円ほどで、売れる資産の税後より小さい。今の自己資本に 0.48 倍を掛けた(内訳は floor_assets_why)。純負債 12 億円を含めた EV で見ても、営業利益は小さく、利益の倍率では評価できない。
確率:中国・台湾勢との競争と、特定顧客の投資抑制で電子システムが伸びず、設計受託が AI で細る筋書き。2026 年 3 月期の営業赤字は、すでにその入り口にある。
悲観 12% 悲観:主力の検査装置も設計受託も失い、構造的に赤字になる 利益 −2 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 105 円5 億円
電子システムの出荷は 4 割減る。主要顧客が調達先を変え、中国・台湾の装置メーカーの安値に価格も下がる。設計受託は顧客の内製化と AI の設計ツールで工数が半分に減る。
製品開発も国内の機器が消え、新しいカメラ事業は立ち上がらない。固定費の重い開発体制を縮められず、営業赤字に沈む。
営業損失は 1〜2 億円、純損失は 1.6 億円ほど。売上は 37 億円まで縮む。借入が残り、還元は止まる。株主の取り分は、売れる資産から純負債を引いた残りに近い。顧客の発注が減るなかで、技術者の人件費の固定費が残るのも痛い。小さな会社なので、買収や再編を受けても、株主に有利な価格になるとは限らない。
- 電子システム:数量 180(装置・ボード・計測器の出荷(台相当))× 価格 0.11(1 台あたり売上(億円))→ 売上 20 億円・営業利益 −1 億円。出荷 0.6 倍、赤字
- マイクロエレクトロニクス:数量 75.0(設計・IP の受託工数(人年))× 価格 0.15(1 人年あたり売上(億円))→ 売上 11 億円・営業利益 0 億円。工数 0.5 倍
- 製品開発:数量 4.0(機器の出荷(万台相当))× 価格 1.50(1 台あたり売上(万円))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。出荷 0.4 倍
倍率:赤字で PER は使えない。稼ぐ力はなく、売れる資産から純負債を引いた残り(約 5 億円)まで。今の自己資本に 0.2 倍を掛けた。
確率:特定顧客の撤退と、中国勢の価格攻勢、AI による設計の自動化が重なる筋書き。会社は小さく、固定費を落としきれない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子システム
半導体の初期不良をふるい落とすバーンイン装置・ボードと、車載向けの専用計測器。売上の約 5 割で、半導体の設備投資の波を受ける。
| 数量装置・ボード・計測器の出荷(台相当) | 価格1 台あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 300 | 0.10 | 31 | −1 |
| 10 年後 中立 | 345 | 0.13 | 46 | 2 |
取り方:有報の電子システム売上は 30.6 億円。台数は非開示のため、1 台 1,000 万円前後と推定して 300 台相当とした(推定)。セグメント利益も非開示で、2026 年 3 月期は車載計測器の落ち込みと資材費率の上昇で赤字と推定し、全社の営業損失 1.7 億円を 3 事業に配分して約 -0.9 億円とした。
マイクロエレクトロニクス
車載向けのアナログ LSI の設計受託と、設計の部品(IP コア)の提供。技術者の工数で売る事業。
| 数量設計・IP の受託工数(人年) | 価格1 人年あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 0.14 | 21 | 0 |
| 10 年後 中立 | 128 | 0.18 | 23 | 1 |
取り方:有報のマイクロエレクトロニクス売上は 21.2 億円。技術者の工数は非開示のため、1 人年 1,400 万円前後と推定して 150 人年相当とした(推定)。受注は堅調だが、派遣単価の上昇で労務費が増え、減益と開示。利益は約 0.4 億円と推定。
製品開発
産業用の組込カメラ、画像処理システム、ATM・セルフレジ向けの機器など。顧客の仕様で開発して納める。
| 数量機器の出荷(万台相当) | 価格1 台あたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.0 | 1.30 | 13 | −1 |
| 10 年後 中立 | 10.0 | 1.74 | 17 | 1 |
取り方:有報の製品開発売上は 13.0 億円。台数は非開示のため、1 台 1.3 万円と推定して 10 万台相当とした(推定)。国内 ATM・セルフレジ向けの減少で減収減益。利益は約 -1.2 億円と推定(3 事業の合計が全社の営業損失 -1.7 億円になるよう配分)。
リスクと懸念
半導体の設備投資の波
電子システムは、車載計測器の減少だけで 2026 年 3 月期に赤字へ落ちた。半導体の投資が冷えれば、受注残(約 20 億円)が細り、固定費の重い開発体制が重荷になる。
AI による設計の自動化
設計受託は技術者の工数で稼ぐ。AI が設計を自動化すれば、必要な工数が減り、単価も下がる。専門性の高いアナログ設計は残りやすいが、置き換えは進むと見る。
特定顧客への依存
ソニー系が売上の 10.8% を占める。同社が調達先や設計の方針を変えれば、受注が大きく動く。
原価の上昇と転嫁
資材費率の上昇と、派遣単価の上昇による労務費が、2026 年 3 月期の減益の主因だった。値上げが通らなければ、売上が増えても利益は増えない。
資金の余裕の乏しさ
自己資本は 23 億円、自己資本比率は 39.7% に下がった。短期借入が 8 億円増えており、借り換えの金利が 3.5% 前後へ上がると利払いが重くなる。
新事業の遅れ
見守り・AI カメラの「C-エイド」は販売を始めたが、進捗が遅れている。国内の現金処理機器の減少を埋められないと、製品開発の赤字が続く。
今後の分かれ目
- 2027 年 3 月期の営業利益が会社予想の 1.2 億円を超え、受注残が 25 億円を上回る
- 電子システムの回復が確かと見て、中立から楽観側へ確率を移す。
- 主要顧客の売上比率が下がり、新しい顧客が加わる
- 依存の低下を評価し、悲観側の確率を下げる。
- 設計受託の工数が 2 年続けて減り、単価も下がる
- AI による置き換えが想定より速いと見て、やや悲観・悲観側へ移す。
- AI・データセンター向けのバーンイン売上が、全社の伸びを支える
- 楽観・やや楽観側へ重みを移す。
- 借入が増え続け、自己資本比率が 35% を割る
- 財務の余裕がなくなったと見て、悲観側へ寄せる。
見ておくもの
- 受注残高(今は約 20 億円)と、電子システムの受注の動き
- AI・データセンター向けのバーンイン装置・ボードの売上
- 設計受託の工数と単価(AI 代替の進み具合)
- 営業利益率と、自己資本比率・短期借入の動き
- 見守り・AI カメラ(C-エイド)の販売の進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は利益ベースで置き、今の株価や過去・同業の PER は使っていない。中立は ROE 11% と k 9.25% から正当化 PER を約 11.5 倍とし、受注の山谷・顧客の偏り・規模の小ささから下限の 10.8 倍(式の約 9 割)に置いた。受注の山谷があるので、中立の利益率は過去の山(10%)でなく平均の 5% 弱にした。やや悲観・悲観は稼ぐ力でなく、運転資産の売れる価値から純負債を引いて今の自己資本に掛けた。今の時価総額(自己資本の約 1.6 倍)は、結果として比べただけだ。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→14.07 倍・やや楽観 PER 10.5→13.08 倍・中立 PER 10.8→11.61 倍)。
資本コスト 9.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。