結論
日本電子材料(JEM)は、半導体の検査に使う「プローブカード」の専業メーカーだ。プローブカードは、ウェハー上のチップの端子に細い針を当て、動作を確かめる部品である。売上の99%を占め、顧客はマイクロンとキオクシア・サンディスクの合弁など、メモリの大手が中心になる。筆者の結論は、事業は優良だが10年の価値で測ると今の値段は高い、というものだ。
追い風は強い。HBM(積層した高速メモリ)の検査は接点も時間も増え、同社の主力であるMEMS方式の「Mタイプ」が伸びている。2026年3月期は営業利益が前期の1.6倍になり、営業利益率は25%近くまで上がった。2026年2月には約200万株の増資を決め、尼崎に125億円の新工場を建てる。
一方で、弱みも見えている。顧客のうち3社で売上の45%を占め、メモリの投資が止まれば受注は急に細る。2009年から2013年まで赤字が続いた会社でもある。競合のTechnoprobeやFormFactor、日本マイクロニクスも同じ市場を狙う。
10年後の中立では、売上は今の2.4倍になるが、利益率は平時の20%へ戻る。10年の中立でも時価総額は今と同じ程度で、還元を足しても年率2%台にとどまる。確率で重ねた本質価値は今の時価総額の5割強で、割高と判定した。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず10年後も稼ぎ続けているかを見る。メモリの検査需要は長く伸びるので、事業そのものは消えない。ただ、同社のカードは顧客の検査機が変われば買い替えられる品で、値段を自分で決める力は弱い。
次に、稼いだ利益が株主に残るかを見る。いまは増資と大型投資で、現金を工場に変えている最中だ。工場が稼働して初めて利益に変わるので、資本の稼ぎはまだ証明されていない。配当も利益の2割にとどまる。
最後に、払う値段に安全域があるかを見る。利益率は歴史的な山にあり、顧客3社で売上の45%を占める。利益を平時の水準に直し、10年の中立で測ると、価値は今の値段をはるかに下回る。事業は好ましいが、いまの値段は山の利益が長く続くと決め打ちしている。
同業の日本マイクロニクスと比べると、顧客の偏りと規模の小ささで、同社の方が信用の厚みは薄い。筆者が持ち続けたいと思う会社に近づくには、新工場が稼働し、顧客が分散して、利益率が平時でも十分に高いことを確かめる必要がある。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は単純だ。メモリやロジックのチップは、出荷前にウェハーの状態で一つずつ検査される。その検査機に取り付ける「針の板」がプローブカードで、顧客は検査する品種ごとに別のカードを買う。針の数や並びが違えば作り直しになるため、消耗品と設計品の両方の性格を持つ。
製品は3種類ある。古い方式のカンチレバー型(Cタイプ)、針を垂直に立てた垂直型(VT・VS・VEシリーズ)、半導体の微細加工で針を作るMタイプだ。成長の中心はMタイプで、HBMのような細かい配置の検査に向く。従業員は連結で1,234人で、国内の熊本・三田と、台湾・上海・米国の子会社で作り、売る。
顧客の偏りは大きい。2026年3月期は、マイクロンの日本法人と台湾法人で売上の約3割、キオクシア・サンディスクの合弁のフラッシュフォワードで約14%を占めた。前期はソニーのイメージセンサー工場が1割あり、顧客が入れ替わる速さもうかがえる。陰極・フィラメントなど電子管部品は売上の1%未満で、事業の評価には効かない。
中期経営計画(2024〜26年度)では、Mタイプの強化と生産能力の増強を柱にした。熊本の新棟は2025年4月に動き出し、能力は3割増えた。尼崎の新工場は2028年8月に完成する予定で、将来は今の2倍以上を目指す。
優良さと弱いところ
筆者が気にしているのは、堀、つまり他社がまねできない強みの厚さだ。同社は日本で最初にプローブカードを作った会社で、メモリ向けの技術は長い。ただ世界ではTechnoprobe、FormFactor、日本マイクロニクス、MPIと並ぶ一角で、首位ではない。上位5社で市場の7割強を占める寡占だが、この中で同社は小さい方に入る。
値段は顧客に決められやすい。メモリ各社は設備の償却費を抑えるため、カードの値下げを強く求める。同社が利益率を25%近くに保てたのは、HBM向けの需要が供給を上回ったからだ。需給が緩めば、利益率は平時の水準に戻るとみるのが自然である。
資本の使い方は、いまは慎重だ。増資で調達した資金は新工場に回し、配当性向は2割ほどにとどまる。創業家の持株は3%台まで下がり、オーナー支配ではない。上場している同業と比べても、特別に株主還元が手厚い会社とは言えない。
強みは技術の蓄積と、顧客の検査機との相性にある。弱みは顧客の偏り、赤字を経験した利益の波、HBM向けの特需への依存である。強い堀と呼べるほどではなく、堀は普通と置くのが妥当だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
プローブカードの需要は、チップの生産量と検査の難しさで決まる。世界市場は調査会社によって26億ドルから44億ドルまで推計が割れるが、2030年にかけて年7〜9%で伸びるという見方は共通する。筆者は2025年を35億ドルほどとみる。同社の売上は約2億ドルで、世界のシェアは5〜6%という計算になる。
追い風はHBMとチップレットだ。HBMは積層が増えるほど検査の接点が増え、1枚あたりの単価と数量が同時に上がる。AI向けのGPUも複数のチップを並べるので、ウェハーの段階での検査が重みを増す。半導体製造装置の世界需要が大きく伸びる流れの中で、検査部品もその恩恵を受ける。
逆風は競合と顧客の動きだ。TechnoprobeはFormFactorと並び、MEMS方式を持つ。日本マイクロニクスはDRAM向けで首位級にあり、同社の最大の競合になる。台湾と中国では現地メーカーが標準品で価格を崩しにくる。顧客のマイクロンも、調達先を分けて値段を保つ動きを強める。
メモリの投資は山と谷の差が大きい。同社の営業利益率は2024年3月期に5%まで落ち、2009年から2013年は赤字が続いた。今は山の高いところにいる。長い目では市場は伸びるが、年ごとの利益は大きく振れると考えておく必要がある。
資本政策と M&A
資本政策は、成長に資金を振り向ける姿勢だ。2026年2月に約200万株の増資を決め、約120億円を集めた。使い道は尼崎の新工場(投資125億円、2028年8月完成予定)で、熊本と三田の増強を合わせた設備投資は、3年で約150億円に膨らんだ。
還元は控えめで、2026年3月期の配当性向は2割に届かない。中計は「利益に見合った配当」というだけで、数字の約束はない。自社株買いの実績もなく、むしろ増資で株を増やす側にいる。
M&Aの動きは見えない。創業家の持株は下がり、最大株主は信託銀行の名義で、買収を受けにくい構造でもない。ただ、小型で顧客が偏った会社は、同業や装置メーカーからすれば取り込みたい相手になりうる。TOBの可能性は否定しないが、材料は乏しい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
HBMの検査は始まったばかりだ。積層が12段から16段、20段へ進むほど、検査の接点と時間は増え、プローブカードの数量と単価が上がる。同社はMEMS方式のMタイプで出遅れを取り戻し、熊本の新棟で能力を3割増やし、尼崎でさらに倍以上にする。
顧客の裾野も広がる。マイクロンに加え、キオクシア・サンディスクの合弁向けが売上の14%に達した。NANDも積層が進み、チップレットでロジックにも検査が広がる。会社は中計の目標を何度も上方修正し、第1四半期の売上は前年の8割増しになった。
利益の質も上がった。営業利益率は2024年3月期の5%から25%近くへ跳ね、有価証券報告書のROEは15%台に乗った。資本コストを大きく上回る事業を、新工場で2倍にするのだから、この会社の価値は過去の水準で測るべきではない。顧客も、検査の品質が歩留まりに直結するため、実績のある供給元から簡単には替えにくい。
会社は設備投資を3年で約150億円に引き上げ、増資で資金も確保した。需要が見えているから投資するのであり、経営の自信が数字に出ている。10年で市場が実質1.7倍に伸びるなら、シェアを少し上げるだけで売上は2倍を超える。
慎重な見方
利益率25%は特需の値段だ。メモリの投資は3年から5年ごとに山と谷を繰り返し、同社は2009年から2013年まで赤字を出した。2024年3月期にも営業利益率は5%に落ちた。今の利益は、谷の年を全部飛ばして、山の高さだけで語られている。
顧客3社で売上の45%を占める点も重い。前期に1割を占めたソニーのイメージセンサー工場は、今期は上位の顧客から外れた。同じことがマイクロンで起きれば、売上の3割が揺れる。調達先を分ける動きは、顧客には当たり前の防衛策だ。
TechnoprobeとFormFactorはMEMS方式の量産で先行し、日本マイクロニクスもHBM向けで強い。値段を決める力が弱い会社が、125億円の新工場を建てる。稼働したときに需要が山を過ぎていたら、償却だけが残る。株式市場は特需の最中の利益を前提にするが、平時の利益で測れば値段はまったく違って見える。
特需の最中に増資で株主から資金を集め、工場に変える経営は、山の高みで資金を使う典型でもある。株主に返すより先に、拡大へ賭ける選択をしている。
どちらに重みを置いたか
追い風の強さは強気の言い分に分がある。ただ、値段と顧客の偏りでは、慎重な見方が明確に上回る。利益率は山の水準が10年続くとは言えず、平時の20%に戻るとみるのが妥当だ。確率は中立を最も重くし、悲観側(やや悲観と悲観)を4割弱置いた。顧客の偏りと赤字の経験は、すでに資本コストに入れたので、確率では重ねていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 9,009 円1,320 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,614 円237 億円)。 今の値に割り戻すと 5,058 円741 億円、今との差 −18.5%、 期待の年率 +5.5%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 21,351 円3,129 億円 | 3,139 円460 億円 | +294.4% | +14.7% | 2,449 円359 億円 |
| やや楽観 | 21% | 14,150 円2,074 億円 | 2,272 円333 億円 | +164.4% | +10.2% | 3,449 円505 億円 |
| 中立 | 32% | 9,862 円1,445 億円 | 1,692 円248 億円 | +86.1% | +6.4% | 3,697 円542 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,831 円415 億円 | 976 円143 億円 | −38.7% | −4.8% | 875 円128 億円 |
| 悲観 | 14% | 682 円100 億円 | 409 円60 億円 | −82.4% | −16.0% | 153 円22 億円 |
| 加重平均 | 100% | 9,009 円1,320 億円 | 1,614 円237 億円 | +71.1% | +5.5% | 10,623 円1,557 億円 |
今の株価時価総額 6,210 円910 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:メモリ検査の大波に乗り、Mタイプで首位集団に入る 利益 209 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 21,351 円3,129 億円
メモリ検査の市場は、HBMの積層が深まるほど接点と検査時間が増え、実質で2倍強に伸びる。同社はMタイプの量産が軌道に乗り、熊本と尼崎の新棟で能力を倍以上にして、DRAMとNANDの両方でシェアを1割近く増やす。世界の上位メーカーと肩を並べ、価格もMEMSの付加価値で物価並みを保つ。営業利益率は2026年3月期の水準に近い25%を保つ。チップレット向けにウェハーテストの需要も広がり、ロジック向けの売上が育つ。ただ、これは顧客の投資が10年途切れず、競合の追い上げも抑え込む場合に限る。全部がうまくいった姿と考えてよい。それでも資本コストを考えれば、今の値段を正当化するほどではない。
- プローブカード(メモリ向け中心):数量 78.0(世界のプローブカード市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 14(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,097 億円・営業利益 274 億円。実質の市場 78.0 億ドル × シェア 7.0%、営業利益率 25%
- 電子管部品(陰極・フィラメント):数量 1,100(年間の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.00(1万個あたりの売上(億円・名目))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。1100 万個 × 1 万個 0.0027 億円
倍率:事業の純利益 209 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.0% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍。全体の PER 14.97 倍、時価総額 3,129 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:メモリ検査の需要が10年先まで強く、Mタイプで他社との差を詰める筋書き。顧客と投資の波を考えると、確率は1割にとどめる。
やや楽観 21% やや楽観:顧客の増設に歩調を合わせ、利益率も高めを保つ 利益 148 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 14,150 円2,074 億円
顧客のHBM向け投資が続き、プローブカードの数量が市場とともに伸びる。同社は新工場でMタイプの供給力を2倍にし、シェアは6.5%まで上がる。マイクロン向けは堅く、キオクシア・サンディスクの合弁向けも増える。値上げは物価並みにとどまるが、数量の伸びで売上は今の3倍に近づく。営業利益率は22%と、平時より高めを保つ。減価償却と研究費は増えるが、新製品の単価が負担を吸収する。株主還元は利益の3分の1ほどに高まる。ただし、強い景気のあとには必ず調整が来る。その谷を一度はしのぐ想定である。熊本と尼崎の新棟が計画どおりに動くことが、この筋書きの前提になる。
- プローブカード(メモリ向け中心):数量 67.0(世界のプローブカード市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 13(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 876 億円・営業利益 193 億円。実質の市場 67.0 億ドル × シェア 6.5%、営業利益率 22%
- 電子管部品(陰極・フィラメント):数量 1,050(年間の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.00(1万個あたりの売上(億円・名目))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。1050 万個 × 1 万個 0.0027 億円
倍率:事業の純利益 148 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.1% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍。全体の PER 14.01 倍、時価総額 2,074 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:HBMとNANDの増設が続き、新工場も計画どおり稼働する筋書き。強気の言い分に分があるので2割強を置く。
中立 32% 中立:市場は伸びるが、利益率は平時の水準に戻る 利益 111 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 9,862 円1,445 億円
メモリ検査の市場は実質で1.7倍に伸び、同社のシェアは6%まで小幅に上がる。主力のMタイプは顧客に受け入れられ、売上は10年で2.4倍ほどになる。一方で、HBMの特需で膨らんだ利益率は続かない。TechnoprobeやFormFactorが追いつき、顧客のマイクロンも調達先を分ける。営業利益率は24%から20%まで平時の水準に戻る。尼崎の新工場の償却が重くのしかかり、増えた売上ほどには利益は増えない。還元は利益の3割で、手元には現金がたまり続ける。優良な部品会社ではあるが、ROEは11%と資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。
- プローブカード(メモリ向け中心):数量 59.5(世界のプローブカード市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 12(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 718 億円・営業利益 144 億円。実質の市場 59.5 億ドル × シェア 6.0%、営業利益率 20%
- 電子管部品(陰極・フィラメント):数量 1,000(年間の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.00(1万個あたりの売上(億円・名目))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。1000 万個 × 1 万個 0.0027 億円
倍率:事業の純利益 111 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 13.02 倍、時価総額 1,445 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場は伸び、シェアは小幅に上がる。ただ競争で利益率は24%の絶頂から平時に戻る。いちばん起こりやすいので3割強と最も重くした。
やや悲観 23% やや悲観:値下げ圧力と顧客の偏りで、利益が細る 利益 48 億円 · PER 7.6 倍 · 株価時価総額 2,831 円415 億円
メモリの設備投資が2〜3年止まり、プローブカードの需要は市場全体で伸びが鈍る。同社は上位顧客の値下げ要求に応じざるをえず、シェアは5%に下がる。台湾と中国の現地メーカーも標準品で攻めてくる。営業利益率は13%まで下がり、尼崎の新工場の償却が利益を圧迫する。2024年3月期に利益率が5%まで落ちた経験は、そう遠い話ではない。還元は減らさないものの、配当を払うと現金は減る。売上は伸びても利益は今の水準に届かない。市場が伸びても、同社だけが取り残される。堀の薄さがはっきり出た姿だ。顧客の投資が戻っても、利益率が元に戻る保証はない。
- プローブカード(メモリ向け中心):数量 46.0(世界のプローブカード市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 10(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 462 億円・営業利益 60 億円。実質の市場 46.0 億ドル × シェア 5.0%、営業利益率 13%
- 電子管部品(陰極・フィラメント):数量 900(年間の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.00(1万個あたりの売上(億円・名目))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。900 万個 × 1 万個 0.0025 億円
倍率:ROE 5.9%(事業の純利益÷自己資本)は k 8.5% に届かないので、PER の上限は 1÷k=10.8 倍。競合の追い上げと値下げで利益率が13%まで下がる局面なので、上限の 7.0 割の 7.6 倍に置いた。
確率:顧客の投資が止まる年や、競合の値下げが続く局面。赤字を何度も経験した会社だが、その振れは資本コストの循環に入れたので、確率では重ねず23%にとどめた。
悲観 14% 悲観:大口顧客の調達先が変わり、設備だけが重く残る 利益 5 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 682 円100 億円
マイクロン・キオクシア向けの調達先が、TechnoprobeやFormFactor、中国の現地メーカーに移る。同社は主力のDRAM向けとNAND向けの両方でシェアを3%近くまで失う。価格競争が激しく、営業利益率は3%まで下がる。尼崎で建てた新工場は稼働率が上がらず、一部は減損になる。2009年から2013年にかけて赤字が続いた記憶が戻る。もう技術で稼ぐ会社ではなく、量で戦う下請けに近い。顧客が3社に偏る弱さが、そのまま表に出る。残るのは、わずかな稼ぐ力と、使い残した現金と設備の値打ちだけである。
- プローブカード(メモリ向け中心):数量 36.0(世界のプローブカード市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 5.79(実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 208 億円・営業利益 6 億円。実質の市場 36.0 億ドル × シェア 3.2%、営業利益率 3%、価格は競争で 1 割下がる
- 電子管部品(陰極・フィラメント):数量 700(年間の出荷数量(万個、推定))× 価格 0.00(1万個あたりの売上(億円・名目))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。700 万個 × 1 万個 0.0022 億円
倍率:構造的に負けた後の純利益は5億円とほぼゼロで、稼ぐ力(純利益÷k)は50億円ほどにしかならない。売れる資産の床は、今の純現金188億円から尼崎の新工場に使う分を引いた残り60億円強と、工場の一部を売った税引き後の40億円ほどを足して100億円とした。これを時価総額とし、今の自己資本449億円に対する倍率に直すと0.22倍になる。
確率:マイクロンやキオクシア向けのシェアを、TechnoprobeやFormFactor、中国勢に奪われる。顧客3社に偏る弱さは資本コストの寿命に入れたので、確率は14%にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
プローブカード(メモリ向け中心)
半導体ウェハーの検査で、チップの端子に針を当てて動作を確かめる部品。DRAM・NAND・HBM向けが中心で、ロジック・イメージセンサー向けにも広げている。
| 数量世界のプローブカード市場(億ドル・今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの同社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 35.0 | 8.33 | 291 | 72 |
| 10 年後 中立 | 59.5 | 12 | 718 | 144 |
取り方:2026年3月期の売上293.7億円のうち、半導体検査用部品が99.2%の291.4億円。これを世界市場約35億ドル(調査会社の推計26〜44億ドルの中間、HBMで上振れた分を含む)で割ると、150円換算で同社のシェアは約5.5%になる。開示がないので、シェアは推定。市場は実質(今の値段のまま)で置き、物価3%は価格(シェア×150円×物価の倍率)に入れた。営業利益は全社72.5億円から、電子管部品のほぼ収支ゼロを除いた形。
電子管部品(陰極・フィラメント)
電子管に使う陰極やフィラメント。外注に作らせる小さな事業で、売上の1%未満。
| 数量年間の出荷数量(万個、推定) | 価格1万個あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,100 | 0.00 | 2 | 1 |
| 10 年後 中立 | 1,000 | 0.00 | 3 | 0 |
取り方:全社売上293.7億円から半導体検査用部品を引いた残りが約2.2億円。開示がないので、出荷数量を推定した。物価の分は単価に入る。
リスクと懸念
メモリ投資の山と谷
売上の大半がメモリ向けで、顧客の設備投資が止まれば受注は急に細る。2009年から2013年は赤字が続き、2024年3月期は営業利益率が5%に落ちた。今は山の高みにあり、10年の間に谷は何度か来る。
顧客3社への偏り
マイクロン(日台合計で3割)とキオクシア・サンディスクの合弁で、売上の45%を占める。1社が調達先を変えれば、売上と稼働率が同時に落ちる。前期の顧客の顔ぶれが1年で入れ替わった事実もある。
新工場の稼働と減損
尼崎の新工場は125億円で、2028年8月に完成する予定だ。需要が山を過ぎたあとに稼働すると、償却だけが利益を圧迫し、一部は減損になりうる。熊本と三田の増強もある。
競合の追い上げと値下げ
TechnoprobeとFormFactorはMEMS方式で先行し、日本マイクロニクスもHBM向けで強い。台湾・中国の現地メーカーは標準品で値段を崩しにくる。値決め力が弱いので、利益率は平時の水準へ戻りやすい。
HBM特需の一巡
AI向け投資が一巡すれば、HBMの増設は急に鈍る。検査の単価と数量が同時に上がった今の好況は、同じ速さで逆回転しうる。会社の計画は繰り返し上方修正されたが、それが続く保証はない。
株の増加と資本効率
2026年2月の増資で株は約200万株増えた。調達資金が工場に変わるまでは、現金がたまり、ROEは下がる。配当性向は2割ほどで、還元で資本効率を高める姿勢は弱い。
今後の分かれ目
- HBMの次の世代でカードの接点がさらに増えたら
- 1枚あたりの単価と数量が上がり、楽観・やや楽観の確率を上げてよい。顧客別の売上とMタイプの比率で確かめる。
- マイクロンが調達先を分け、同社の割合を下げたら
- 売上と稼働が同時に落ち、やや悲観と悲観の確率を上げる。大口顧客の売上比率の推移が最初の手がかりになる。
- 尼崎の新工場の稼働が遅れる、または需要が先に落ちたら
- 償却だけが先行し利益率が下がる。減損の可能性も高まり、悲観の確率を上げる。
- 配当性向を4割へ引き上げる、自社株買いを始めるなど還元が厚くなったら
- 同じ利益でも自己資本が膨らまず、ROEが高く保たれる。ただ本質価値は利益で決まるので、評価の変化は小さい。
- 同業や装置メーカーによるTOBの話が出たら
- 買収価格が本質価値を上回るかどうかは、その時点の利益と確率で測り直す。顧客の偏りが買い手の関心を呼ぶ可能性はある。
見ておくもの
- 四半期の売上・営業利益率と、顧客別の売上比率
- マイクロン・キオクシア・サンディスクのHBM・NAND設備投資
- Mタイプの売上比率と、熊本・尼崎の稼働の進み
- TechnoprobeやFormFactorのHBM向けの受注と値段の動き
倍率と資本コストの決め方
市場の大きさは実質で置き、物価3%は価格(シェア×150円×物価の倍率)に入れた。倍率は今のPERを見ず、資本コスト8.5%(基本7.5%に、循環+1.0%・値決め力+0.25%・寿命+0.5%)・長期の成長率4%・事業のROEから、利益ベースの正当化PERで決めた。中立の利益率は24%の山を使わず20%にしたが、これは数字を合わせたのではなく、顧客の値下げ圧力と競合の追い上げという構造から出した。純現金は工場の約束で使うので分けず、全社の純利益で測った。悲観は稼ぐ力と純現金の残りの床から出し、市場の底値の倍率には寄せていない。リース会計の変更(2028年3月以降)は同社にほとんど影響しない。10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。同じ領域の日本マイクロニクス(k 9.0%)に比べ、顧客の偏りの分だけkを0.25ポイント高くした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.72→14.97 倍・やや楽観 PER 10.41→14.01 倍・中立 PER 9.74→13.02 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.75% を足して 9.25%。同じ領域の日本マイクロニクス(9.0%)より、顧客の偏りの分だけ寿命を重くした。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.25% → 8.50%。