結論
市光工業は、自動車のヘッドランプとリアランプを専業でつくる会社だ。フランスのヴァレオが議決権の約 6 割を持つ親子上場である。2025 年 12 月期の売上は 1,171 億円、営業利益は 58 億円で、利益率は 5% にとどまる。
筆者の結論は「ほぼ適正」だ。10 年の筋書きを確率で重ねた価値は、今の時価総額とほぼ同じという計算になった。事業は堅いが、稼ぐ力が資本コストに届かない。
強みは、親会社との共同購買と共同開発だ。純現金が 124 億円あり、自己資本比率も 6 割を超える。ミラー事業と PIAA を手放し、ランプに集中した。
弱みは、第三位という立ち位置である。国内では小糸製作所が 6 割を占め、自動車メーカーの値下げ要請も厳しい。ROE は過去 10 年の中央値で 1 割、直近は 8% を切る。
中立の 10 年後は、ROE が 7% 前後にとどまる。会社の中計は営業利益率 7% を掲げるが、過去 10 年の最高が 6.4% であり、筆者は慎重に見る。上振れ要因は、親会社による TOB(完全子会社化)と新規顧客の獲得である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、市光は「持ち続けたい会社」とは言いにくい。理由は、稼ぐ力が資本コストに届かないことだ。ROE が 7% 前後では、利益を積み上げても価値はあまり増えない。
堀は薄い。自動車メーカーが値段を決め、毎年の値下げに耐える立場にある。第三位で、規模の利益も小さい。ただし事業は壊れにくい。ランプは車に必ず載る部品であり、純現金と 6 割の自己資本比率がある。
経営は資本の使い方に慎重だ。ミラーと PIAA を売り、ランプに絞った点は評価できる。ただ親会社が 6 割を持つため、少数株主の取り分は親会社の意思に左右される。
安全域の目で見ると、今の時価総額は 10 年後の本質価値とほぼ同じ水準で、割安の余裕はない。純現金が時価総額の 2 割ある点は下支えだが、事業の稼ぐ力が弱い分、その価値は薄まる。わかりやすい事業だが、安く買える会社ではない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、自動車メーカーへ納めるランプだ。ヘッドランプ、リアランプ、LED 光源ユニットを開発し、組み立てて納める。顧客はトヨタ、日産をはじめとする国内の自動車メーカーと、海外の主要メーカーである。海外ではヴァレオ経由でフォード向けなども扱う。
拠点は国内と ASEAN に分かれる。国内は伊勢原と厚木がヘッドランプ、藤岡がリアランプのマザー工場だ。ASEAN はインドネシア、タイ、マレーシアにある。インドネシアとタイの子会社は、それぞれ売上が連結の 1 割を超える。中国は持分法の合弁で、売上には載らない。インドでは TATA AutoComp との合弁で新しい市場に入る。
事業は絞り込まれた。2023 年にミラー事業を英国の会社に譲渡し、2024 年に補修用品の PIAA を宇佐美鉱油へ売った。ランプ一本に経営資源を集める形だ。
収益は車の生産台数と、1 台に載る搭載額で決まる。LED やデジタル制御のランプは搭載額が高い。一方で、自動車メーカーは毎年、部品の値下げを求める。この綱引きが利益率を決める。
優良さと弱いところ
市光の優良さは、控えめに見積もる必要がある。堀、つまり他社がまねできない強みは薄い。国内のヘッドランプは小糸製作所が最大で、スタンレー電気と市光が追う三つどもえだ。自動車メーカーの調達力が強く、値決めは取引先に握られる。
良い点は財務と親会社との連携だ。純現金は 124 億円、自己資本比率は 61% で、借金で行き詰まる心配は小さい。ヴァレオとは購買を統合し、センサーなどを共同で開発している。2016 年に TOB で子会社になって以降、調達費の改善は進んだ。
悪い点は利益の低さと波だ。営業利益率は 2018 年の 6.4% が最高で、2020 年は 2.2% まで落ちた。ROE は 25% から 6% まで振れる。2018 年の中計は 2022 年に利益率 8% を狙ったが、実績は 3% を切った。
筆者は、経営の資本配分は堅実だと見る。事業を絞り、配当性向 3 割と DOE 2.5% を約束した。ただし第三位の事業に厚い堀はなく、高い倍率を付ける理由もない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
車載ランプは、車の生産台数が伸びない中で搭載額が上がる市場だ。世界のヘッドランプ市場は 100 億ドル規模とされ、LED 化で年 7% ほど伸びるとの見方がある。国内の生産台数は人口減で細る。伸びは新興国と、高機能品への切り替えにある。
競争は三つの面で厳しい。第一に、自動車メーカーの値下げ要請が毎年ある。第二に、中国の自動車メーカーとランプ会社が台頭し、日系メーカーの市場を侵している。第三に、電動化と自動運転でランプが電子部品に近づき、ソフトウエアを持つ大手が有利になる。
日本のランプ会社は小糸製作所が最大で、世界でも上位だ。スタンレー電気も特色を持つ。市光は規模で劣るが、ヴァレオという世界大手の傘下にあり、海外の取引先を紹介してもらえる。
循環のどこにいるか。自動車の生産は 2023 年に回復し、市光の営業利益は 74 億円まで戻った。しかし 2024 年は 49 億円に下がった。会社の 2026 年度予想は 59 億円で、緩やかな回復にとどまる。需要の波より、値下げの圧力のほうが利益を左右する。
資本政策と M&A
資本政策は堅実だが、積極性に乏しい。還元は配当性向 30% 以上と純資産配当率 2.5% を方針とする。自社株買いは目立たない。純現金は 124 億円あるが、売上の 1.5 か月分の運転資金を考えると、余る額は小さい。
M&A は売る側に回ってきた。ミラー事業と PIAA を手放し、ランプに絞った。買収で価値を壊したことは近年ない。
最大の論点は親子上場だ。ヴァレオが議決権の 61% を持つ。親会社が完全子会社にする TOB は、10 年以内に 4 分の 1 ほどの確率でありうる。ただし、その値段は本質価値ではなく親会社の判断で決まる。少数株主にとって、価格が公正になる保証はない。
親会社の都合で、国内の工場や技術が再配置されるリスクもある。筆者はこれを、筋書きの悲観側に織り込んだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
市光は親会社のヴァレオと購買を統合し、センサーなどを共同で開発している。調達費の改善と共同開発の成果は、これから数字に表れる。会社は 2028 年に売上 1,415 億円、営業利益率 7%、ROE 12% を掲げ、成長の中身も示している。新規顧客で 120 億円、新技術で 80 億円、インドなど新しい地域で 90 億円という内訳だ。
ヘッドランプは LED 化とデジタル化で、1 台あたりの搭載額が上がり続ける。路面に光で情報を描く機能や電子制御は、付加価値が高い。国内では 2019 年に稼働した厚木の新工場が償却を終えていく。
財務は強い。純現金は 124 億円、自己資本比率は 6 割で、ミラーと PIAA を売ってランプに集中した。2024 年の営業利益は 49 億円まで落ちたが、2025 年は 58 億円に回復し、2026 年は 59 億円の予想だ。
さらに親会社による TOB の可能性がある。純現金が時価総額の 2 割あり、親会社にとって買いやすい。中計が実現すれば、利益は今の 2 倍近くになり、割安は明らかになる。
慎重な見方
稼ぐ力が資本コストに届かない会社に、高い値段は付けられない。営業利益率は過去 10 年で最高でも 6.4%。会社が掲げる 7% は、一度も達成したことのない数字だ。2018 年の中計も 2022 年に 8% を狙ったが、実際は 3% を切った。計画は信用できない。
自動車メーカーの値下げ要請は毎年続く。国内では小糸製作所が 6 割を握り、市光は規模で勝てない。中国のランプ会社が日系メーカーの市場を侵し、電動化でランプが電子部品に近づけば、ソフトウエアを持つ大手が有利になる。
親会社が 6 割を持つ構造も重い。少数株主の利益は、親会社の戦略に左右される。TOB があっても、価格を決めるのは親会社だ。
ROE は 7% 前後にとどまり、資本コスト 8.75% を下回る。純現金が 2 割あっても、事業が稼がなければ、ためた現金は額面未満の価値しか持たない。国内の自動車生産が減る中で、利益を伸ばし続けるのは難しい。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、親会社の支援と新規顧客の数字を具体的に示していて、説得力はある。ただ、過去 10 年で営業利益率が会社の目標に届いたことがない事実は重い。慎重な見方の指摘が一歩強い。
確率は中立に最も厚く置き、やや悲観にも同じ重みを置いた。ヴァレオの TOB の可能性は上振れだが、その価格は親会社が決めるので、本質価値としては織り込まなかった。結果は今の時価総額とほぼ釣り合う。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 999 円962 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 312 円300 億円)。 今の値に割り戻すと 636 円613 億円、今との差 +18.7%、 期待の年率 +9.3%(資本コスト 8.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 1,936 円1,865 億円 | 467 円450 億円 | +348.4% | +16.2% | 192 円185 億円 |
| やや楽観 | 24% | 1,374 円1,324 億円 | 395 円380 億円 | +230.0% | +12.7% | 425 円409 億円 |
| 中立 | 36% | 1,044 円1,006 億円 | 332 円320 億円 | +156.8% | +9.9% | 496 円477 億円 |
| やや悲観 | 24% | 451 円435 億円 | 208 円200 億円 | +23.0% | +2.1% | 158 円152 億円 |
| 悲観 | 8% | 371 円357 億円 | 125 円120 億円 | −7.6% | −0.8% | 40 円38 億円 |
| 加重平均 | 100% | 999 円962 億円 | 312 円300 億円 | +144.4% | +9.3% | 1,310 円1,262 億円 |
今の株価時価総額 536 円516 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 親会社との連携が実り、利益率 7% 台が定着 利益 150 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 1,936 円1,865 億円
ヴァレオとの共同購買と共同開発が効き続け、固定費の削減も進む。新規顧客の獲得と電子制御を載せた高付加価値ランプが積み上がり、会社が掲げる売上の伸び 5.6% を 10 年続ける。
インドでは現地の合弁が立ち上がり、ASEAN と並ぶ第二の海外拠点になる。国内ではヘッドランプの高機能化で 1 台あたりの搭載額が上がる。
営業利益率は 7% 台まで上がり、過去の最高を超える。ROE も 1 割を超える。ただし資本コストを大きく上回る水準ではない。電気自動車の普及で車の構造が変わっても、灯火器は残る部品である。ここまで順調に進めば、今の時価総額の 3 倍に届く。
- 国内(日本)のランプ事業:数量 300(ランプを納める車の台数(万台・推定))× 価格 4.30(1 台あたりの搭載額(万円・名目))→ 売上 1,291 億円・営業利益 90 億円。新規顧客と新技術が積み上がる
- ASEAN・インドのランプ事業:数量 230(ランプを納める車の台数(万台・推定))× 価格 3.17(1 台あたりの搭載額(万円・名目))→ 売上 730 億円・営業利益 69 億円。インド合弁が立ち上がる
倍率:事業の純利益 150 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.4 倍。全体の PER 12.43 倍、時価総額 1,864 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の売上 5.6% 成長を 10 年続け、利益率も 7% 台に乗せる必要がある。過去 10 年で最高だった 6.4% を超えるので、確率は低めに置く。
やや楽観 24% 高付加価値化が進み、利益率は 6% 台 利益 115 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 1,374 円1,324 億円
ヘッドランプの LED 化とデジタル化で、1 台あたりの搭載額は着実に上がる。国内の台数は人口減で細るが、新しい取引先や ASEAN の拡大が穴を埋める。
親会社との共同購買は引き続き効くが、自動車メーカーの値下げ要請は消えない。利益率は 6% 台で、会社の目標の 7% には届かない。
配当は性向 3 割と純資産配当率 2.5% の方針を守る。純現金は積み上がらず、還元で適度に回る。経営は堅実だが、資本効率は資本コストを少し上回るにとどまる。電動化の波に乗れるかが、この筋書きの分かれ目になる。
筆者は、この筋書きを中立に次ぐ重さで見る。値下げの圧力が続く中でも、搭載額の上昇が一部の利益を守る。海外の取引先が増えれば、国内の細りを補える。
- 国内(日本)のランプ事業:数量 290(ランプを納める車の台数(万台・推定))× 価格 4.16(1 台あたりの搭載額(万円・名目))→ 売上 1,205 億円・営業利益 72 億円。高付加価値のランプが主力に
- ASEAN・インドのランプ事業:数量 200(ランプを納める車の台数(万台・推定))× 価格 3.11(1 台あたりの搭載額(万円・名目))→ 売上 621 億円・営業利益 53 億円。ASEAN が堅調
倍率:事業の純利益 115 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.5 倍。全体の PER 11.51 倍、時価総額 1,324 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:価格の下押しは続くが、LED 化や電子制御で搭載額が上がる流れは確かだ。中計を一部達成する形で、やや楽観に厚めに置く。
中立 36% 中立:国内は細り、ASEAN とインドが支える 利益 88 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,044 円1,006 億円
市光は第三位のランプ会社として、地味に生き残る。国内は車の生産台数が減り、1 台あたりの搭載額が上がっても全体では横ばいに近い。
ASEAN とインドの台数が伸び、売上の伸びを支える。ただし自動車メーカーの値下げ要請と原材料・人件費の上昇で、利益率は 5〜6% 台にとどまる。
新技術への投資負担と、国内工場の償却費も重い。結果として ROE は 7% 前後で、資本コストに届かない。配当性向 3 割は守るが、価値を大きく積み上げる事業ではない。株主が得るのは、堅実な配当と、緩やかな利益の伸びである。
- 国内(日本)のランプ事業:数量 270(ランプを納める車の台数(万台・推定))× 価格 3.98(1 台あたりの搭載額(万円・名目))→ 売上 1,074 億円・営業利益 54 億円。国内は台数が細り、搭載額で補う
- ASEAN・インドのランプ事業:数量 175(ランプを納める車の台数(万台・推定))× 価格 3.04(1 台あたりの搭載額(万円・名目))→ 売上 532 億円・営業利益 43 億円。ASEAN とインドで台数が伸びる
倍率:事業の純利益 88 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 1,006 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去 10 年で営業利益率が 5% を超えたのは 3 期だけ。中計の 7% には届かず、5〜6% 台で推移する姿を中心に置く。
やや悲観 24% 値下げと取引先の再編で、利益が細る 利益 50 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 451 円435 億円
日系自動車メーカーが調達先を絞り、中国・韓国のランプ会社が低価格で食い込む。国内の台数は細り、価格の下げ幅が物価の上昇を打ち消す。
ASEAN の拠点は固定費が重く、台数が伸びても採算は薄い。親会社との連携で調達費は下がるが、売上の落ち込みを埋めるには足りない。
営業利益率は 3% 前後に沈み、ROE は資本コストを大きく下回る。それでも黒字は保ち、配当は続く。事業が壊れるのでなく、優良会社として評価されなくなる 10 年である。親会社との連携も、売上の落ち込みを止めるには力が足りない。
配当性向 3 割の方針は守られるが、利益が減るので、還元の額も細る。株価は成長期待を失い、資本コストを下回る稼ぎに見合う水準へ下がる。
- 国内(日本)のランプ事業:数量 240(ランプを納める車の台数(万台・推定))× 価格 3.80(1 台あたりの搭載額(万円・名目))→ 売上 912 億円・営業利益 32 億円。取引先の値下げで国内の利益が薄れる
- ASEAN・インドのランプ事業:数量 150(ランプを納める車の台数(万台・推定))× 価格 2.90(1 台あたりの搭載額(万円・名目))→ 売上 435 億円・営業利益 26 億円。ASEAN も採算が落ちる
倍率:ROE 4.7% は資本コストを大きく下回る。稼ぐ力(純利益÷k、PER は 1÷k=11.4 倍が上限)の 70% を置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8 倍・時価総額 400 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:自動車メーカーの調達先の見直しと中国勢の低価格が重なる確度は小さくない。過去も 2020 年に営業利益が 25 億円まで落ちた。
悲観 8% ランプが自動車の電子部品に取り込まれ、国内が縮む 利益 −15 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 371 円357 億円
灯火器は光るだけの部品ではなくなり、電子制御と一体で選ばれるようになる。大手のランプ会社や中国のシステム供給者が主導権を握り、市光は大口の取引先を失う。
国内は生産台数が落ち、工場の稼働が下がって赤字が続く。ASEAN も薄利に落ち、親会社が事業の整理を進めて国内拠点を縮小する。
純現金と売れる資産は残るため、倒れることはない。ただし事業の価値は純現金と売れる資産に近づく。配当は積み上げた純現金から払い(資産の売却は要らない)、利益が細る間も続く。親会社が持ち続けるか、手放すかは見通せない。
筆者は、この筋書きを起こりにくいが無視できないものと見る。ランプ会社が電子部品の下請けになる流れが、10 年かけてゆっくり進む姿だ。事業の中身は壊れず、価値だけが現金と資産に近づく。
- 国内(日本)のランプ事業:数量 180(ランプを納める車の台数(万台・推定))× 価格 3.41(1 台あたりの搭載額(万円・名目))→ 売上 614 億円・営業利益 −12 億円。国内の大口顧客を失い赤字になる
- ASEAN・インドのランプ事業:数量 110(ランプを納める車の台数(万台・推定))× 価格 2.61(1 台あたりの搭載額(万円・名目))→ 売上 287 億円・営業利益 6 億円。ASEAN は薄利に落ちる
倍率:悲観は赤字で稼ぐ力では測れない。床は純現金と売れる資産の税後 357 億円(内訳は floor_assets_why)で、今の自己資本 791 億円に対する比として 0.47 倍を置いた。
確率:電動化と自動運転で灯火器が電子システムの一部になり、大手に主導権を握られる構造的な負け。親会社の戦略次第で国内拠点が縮小する可能性もあり、確率は 1 割弱とする。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内(日本)のランプ事業
伊勢原・厚木・藤岡の工場でつくるヘッドランプとリアランプ。トヨタ、日産など国内の自動車メーカー向けが中心。
| 数量ランプを納める車の台数(万台・推定) | 価格1 台あたりの搭載額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 280 | 2.97 | 831 | 36 |
| 10 年後 中立 | 270 | 3.98 | 1,074 | 54 |
取り方:開示は地域別の売上の一部だけなので推定した。全社売上 1,171 億円のうち、ASEAN の子会社(インドネシア 166 億円・タイ 148 億円ほか)を約 340 億円とみて、残り約 830 億円を国内とした。国内の自動車生産は年 800 万台台で、輸出と海外生産向けも含めて市光が約 280 万台に納めると推定し、1 台あたり約 3 万円(ヘッドランプとリアランプの合計)と逆算した。営業利益率は全社の 5.0% を基に、国内 4.3%・ASEAN 7% とみた。数量は実質、価格は名目で、中立の 10 年は物価並みの 1.34 倍とした(LED やデジタル化の搭載額の上昇と、自動車メーカーの値下げ要請が釣り合う)。
ASEAN・インドのランプ事業
インドネシア、タイ、マレーシアの子会社でつくるランプ。インドは TATA AutoComp との合弁で、これから立ち上がる。
| 数量ランプを納める車の台数(万台・推定) | 価格1 台あたりの搭載額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 150 | 2.27 | 340 | 24 |
| 10 年後 中立 | 175 | 3.04 | 532 | 43 |
取り方:インドネシアとタイの子会社の売上が合わせて約 313 億円で、マレーシアを足して約 340 億円とみた。ASEAN の自動車生産は年 400 万台前後で、市光が約 150 万台に納めると推定し、1 台あたり約 2.3 万円(国内より低い)とした。営業利益率は 7%。インドは今は売上に含まれず、10 年の筋書きで台数の増加として加えた。数量は実質、価格は名目で、中立の 10 年は物価並みの 1.34 倍。
リスクと懸念
自動車メーカーの値下げ要請
部品供給者の宿命として、毎年、価格の引き下げを求められる。LED 化による搭載額の上昇があっても、値下げがそれを打ち消せば、売上が伸びても利益は増えない。第三位の市光は交渉力が弱く、利益率が 5% を超えにくい構造にある。
中国勢と電動化による構造変化
中国の自動車メーカーとランプ会社が台頭し、日系メーカーの市場を侵している。電動化と自動運転でランプが電子部品に近づけば、ソフトウエアと半導体を持つ大手が有利になる。市光は単独では対応しきれない可能性がある。
取引先の集中と国内生産の縮小
トヨタ、日産など国内の自動車メーカーへの依存が高い。日産の経営再建で調達先の見直しが進めば、市光の売上に響く。国内の自動車生産は人口減で細る方向にあり、国内工場の稼働率が下がると固定費が重くなる。
親会社ヴァレオの戦略
ヴァレオが議決権の 61% を持つ。親会社の事業再編や財務の都合で、市光の国内拠点や研究開発が再配置されるリスクがある。また TOB があっても、価格の決定権は親会社にあり、少数株主に公正な価格が付く保証はない。
中計の未達の歴史
2018 年の中計は 2022 年に営業利益率 8.3% を狙ったが、実績は 3% を切った。今回の中計も 2028 年に 7% を掲げるが、過去 10 年の最高は 6.4% だ。基盤強化の 2024〜26 年度の固定費削減が利益に表れなければ、成長期の 2027 年度以降の計画も遅れる。
新リース会計基準と償却負担
新リース会計基準は 12 月決算の市光では 2028 年 12 月期から適用され、賃借が BS に載る。賃借は工場や事務所が中心で、小売ほど大きくない。ただ、厚木の新工場などの償却費が重く、台数が伸びない局面で利益を圧迫する。
今後の分かれ目
- ヴァレオが市光の完全子会社化を発表したら
- 価格は親会社が決めるので、本質価値とは別に判断する。純現金が時価総額の 2 割ある点は、親会社にとって魅力で、上振れの機会になる。
- 営業利益率が 2 年続けて 6% を超えたら
- 共同購買と固定費削減が効いた証拠になる。やや楽観・楽観の確率を上げ、価値を見直す。
- 日産や国内大手の自動車メーカーが調達先を絞り、市光の取引が減ったら
- 国内の台数が前提を割る。やや悲観の確率を上げ、国内工場の再編の可能性を考える。
- インドの合弁で新規受注が決まり、量産が始まったら
- ASEAN・インドの台数の伸びを上方修正し、楽観寄りに見直す。
- 中国メーカーが日系の ASEAN 工場の取引先に食い込んだら
- ASEAN の採算が前提を割る。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 電動化で灯火器が電子システムに統合され、ランプ単体の発注が減ったら
- 悲観の構造的な負けに近づく。確率を悲観側に寄せる。
見ておくもの
- 営業利益率が 6% を超えて推移するか(中計は 2028 年に 7%)
- 自動車メーカーとの価格交渉の結果(搭載額の上昇が値下げを上回るか)
- インドの合弁(TATA AutoComp)の受注と量産の開始
- 親会社ヴァレオの市光への持ち方(TOB・事業再編の動き)
- 国内工場の稼働率と固定費削減の進み方
倍率と資本コストの決め方
国内とASEAN・インドの 2 つに分け、台数(実質)× 搭載額(名目)で積み上げた。開示が地域別の一部だけなので、台数と搭載額は推定で、howに根拠を書いた。資本コストは基本 7.5% に quality +1.25%(循環 +0.5・値決め +0.5・借金 0・寿命 +0.25)で 8.75%。中立の ROE は 7% 前後で k に届かないため、PER の上限は 1÷k の 11.4 倍とし、堀が薄いので 85% を置いた。今の PER(約 9 倍)には寄せていない。純現金 124 億円は売上の 1.5 か月分(約 146 億円)の運転資金を下回るので、余った現金は分けなかった。10 年後の数字は、リース料を営業費用に入れる今の形でそろえた(新リース会計基準で BS の形は変わる)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.19→12.43 倍・やや楽観 PER 9.79→11.51 倍・中立 PER 9.71→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本 7.5% に quality +1.25% を足した 8.75%。同じランプの小糸製作所(8.25%)より高い。第三位で値決め力が弱く、事業が一本足であるためだ。親会社との関係や国内工場の再編リスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。