結論
エスケーエレクトロニクスは、液晶や有機ELのパネルを作るときの回路の原版、大型フォトマスクの専業メーカーだ。世界シェアは3割弱で、パネルメーカーのどこにも属さない中立の立場が売りになっている。半導体の会社ではなく、ディスプレイ産業の消耗品を売る会社である。
筆者の結論は「ほぼ適正。割安とは言いにくい」だ。無借金で純現金が厚く、配当も利益の半分を出す。ただ、ここから3年で250億円超の設備投資に踏み切る。年間の売上に迫る額を工場に投じて、稼ぐ力がどこまで戻るか。それが最大の分かれ目だ。
追い風は、IT機器向け有機ELの第8.6世代ラインだ。サムスンが量産を始め、京東方(BOE)も続く。ラインが立ち上がるたびに、原版は新しく大量に要る。向かい風は中国のマスクメーカーで、BOEの8.6世代ラインに食い込み始めている。主要顧客4社で売上の7割。値段を決める力は強くない。
10年後の利益は、中立で今の1.7倍ほどと見る。それでも資本の効率は資本コストに届かず、倍率は低く抑えるしかない。強気の筋書きで初めて、今の値段をはっきり超える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社を持ち続けたいかと問えば、答えは「条件つき」だ。無借金で、配当に積極的で、事業は地味ながら必要とされる。好ましい点は多い。
最大の気がかりは、資本の使い方だ。会社は3年で250億円超を投じる。これは売上の1年分近い額である。投資が成功すれば利益は増える。だが過去の例では、新しい工場の稼働が遅れると減価償却だけが先に重くなった。投下した資本に見合う利益が出るのか、そこを見る。
もう一つは、値段を決める力の弱さだ。顧客は巨大で、競合は中国で伸びている。マスクの単価は、物価が3%上がる世界でも、同じ割合では上げにくいだろう。
安全域は、今の値段に最低限ある。純現金が時価総額の3割あり、悲観の筋書きでもその一部は残る。ただ、中立の価値が今の値段をやや上回る程度では、十分な安全域とは言いにくい。強気の筋書きが実現して、はじめて魅力が出る。
何で稼ぐ会社か
主力の大型フォトマスク事業が売上の約99%を占める。フォトマスクは、ガラス基板に電子回路の形を焼き付けるための原版だ。パネルを新しい型で作るたびに、層の数だけ原版が要る。スマートフォン、テレビ、ノートPCの画面の数だけ、同社の仕事がある。
創業は江戸時代の印刷業にさかのぼる。1988年に大型の電子ビーム描画機を入れてディスプレイ用マスクに進出し、京都、滋賀の工場で第8世代から第11世代の大型品まで作ってきた。売上の約9割は海外で、中国が6割を占める。
顧客は上位4社で約7割。BOE、TCL華星光電、サムスン、天馬微電子だ。どれも世界のパネル大手で、1社ごとの発注の波が大きい。一方で、パネルメーカー自身がマスクを内製する例も多く、同社は内製しない顧客の外注分を取る立場にある。
小さな柱が2つある。2025年4月に買収したアサヒテックは、車載ガラスや電子部品、半導体パッケージの印刷に使うスクリーンマスク、メタルマスクを作る。もうひとつはソリューション事業で、超小型RFIDタグと医療機器を手がける。後者は売上が1億円未満で赤字が続き、会社は早期の黒字化を掲げている。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、描画の精度と納期の信頼に尽きる。大型マスクは、基板が大きく線が細くなるほど作りにくい。8.6世代の有機EL向けは、描画機の精度も検査の手間も一段上がる。対応できる会社は世界でも限られ、同社はその一角にいる。
ただ、強い堀、つまり他社が追いつけない強みとまでは言えない。理由は3つある。ひとつは、競合のHOYAやLGイノテック、フォトロニクスが同じ土俵にいること。ふたつ目は、顧客が少数の巨大メーカーで、値下げ交渉の力が向こうにあること。三つ目は、中国の清溢光電や路維光電が、国内の囲い込みを武器に先端品へ上ってきたことだ。
数字にもそれが出ている。過去12年の営業利益率は、赤字から23%まで大きく振れた。2020年と2012年には営業赤字に沈んだ。直近の資本利益率は8%前後で、自己資本の厚さの割に稼げていない。
経営の弱みは計画の達成力だ。前の中期計画では、2026年9月期に売上351億円を掲げたが、会社の予想は305億円前後にとどまる。強みは財務で、借入はゼロ、自己資本比率は8割を超える。谷の年でも潰れない余裕が、新工場の投資を可能にしている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ディスプレイ産業は、この20年で液晶から有機ELへ軸足を移しつつある。大型マスクの需要は、パネルの出荷面積ではなく、新しい機種や新しいラインの数で決まる。機種の入れ替えが多いほど、原版は売れる。
いま注目すべきは第8.6世代の有機ELだ。ノートPCやタブレット向けで、サムスンディスプレイは2026年に量産を始めた。BOEも2026年後半の量産を目指す。ラインの立ち上げ期には、試作と量産で大量の原版が要る。同社が投資の中心を有機EL対応に置くのは、この波に乗るためだ。
競争は2つの方向から来る。ひとつは世界の大手4社で、同社、HOYA、LGイノテック、フォトロニクスが市場の約4分の3を握る。もうひとつは中国勢で、清溢光電と路維光電が合わせて1割強を占め、路維はBOEの8.6世代ラインで量産を始めた。中国で中国製を使う流れが強まれば、同社の売上の6割を占める中国向けが削られる。
液晶は成熟し、大きな世代の新設が減っている。アップルがノートPCに有機ELを採用する流れは追い風だが、パネルメーカーの投資は景気で止まる。2020年のように、投資が凍れば受注は半年で落ちる。
資本政策と M&A
還元は配当が中心で、連結配当性向50%を目標にしている。実績もほぼ半分だ。自社株買いの実績は見つからない。2026年9月期も増配の見込みだ。
一方で、投資は大きい。2026年9月期から3年で250〜270億円を投じる計画で、うち170億円規模が有機EL対応の設備だ。手元の純現金は約100億円、営業キャッシュフローは年60億円前後。配当を引くと、3年でほぼ使い切る計算になる。足りなければ借入に頼る。
買収の経験は浅い。2025年4月のアサヒテックが最初の本格案件で、規模も小さい。M&Aを中期計画の柱に据えているが、前の計画は100億円規模の新規事業・M&A投資を掲げたが、確認できた買収はこの1件だけだ。
株主には、写真化学、ニコン、京都銀行、SCREENホールディングスなど、取引先や地元の企業が並ぶ。創業家の関連の持ち分もある。単独で過半を握る支配株主はいない。持ち合い株は少なく、資産の水増しにはなっていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
第8.6世代の有機ELは、これから数年で複数のラインが立ち上がる。サムスンが先行し、BOEも続く。ラインの立ち上げごとに、原版は試作と量産で大量に要る。同社は大型品の描画で定評があり、サムスン、BOE、TCL華星光電、天馬微電子という上位顧客をすでに押さえている。
中国勢の追い上げは確かだが、最先端の精度は別の話だ。8.6世代の高精細マスクには、描画機の精度と検査の経験がものを言う。同社は1988年から大型マスクを作ってきた。しかも、内製しない顧客の外注を一手に取れる、中立の立場がある。
財務は盤石だ。無借金で、利益の半分を配当に回しても、投資の原資を出せる。前の中期計画は未達だったが、売上は過去最高圏にあり、利益率は回復しつつある。新工場が立ち上がれば、固定費の分散で営業利益率は2割に近づく余地がある。
IT向け有機ELは、ノートPCやタブレットの全体に広がる可能性がある。画面が増えれば、機種の数も増え、マスクの枚数も増える。需要は、液晶の縮小を補って余りある。
慎重な見方
投資の規模が重い。3年で250億円超という額は、年間売上に迫る。それで増える売上は、会社の計画でも300億円台前半までにすぎない。投資に見合う増収が、そもそも計画の中に見えない。稼働が遅れたり、顧客の投資が止まったりすれば、減価償却だけが先に利益を圧迫する。
中国勢の脅威は、これまでの局面とは質が違う。路維光電はBOEの8.6世代で量産を始め、中国は国産化を国策にしている。同社の売上の6割は中国向けだ。国内調達が進めば、シェアは数字以上に目減りする。しかも上位4社に売上の7割が集中し、1社の方針転換が直撃する。
収益力にも疑問が残る。2009年、2012年、2020年と3度営業赤字に沈み、資本利益率は10年の中央値で9%。資本コストを下回る年が多い。ためた利益を投資に回しても、額面以上の価値を生まない。
前の中期計画の未達も軽くない。M&Aは小さな1件にとどまり、ソリューション事業は赤字のままだ。計画を達成する力を、まだ示していない。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも根拠がある。強気の見方は、有機ELの波と財務の余裕で支えられる。慎重な見方は、中国勢と投資の重さ、顧客の集中で支えられる。
より強いのは慎重な見方だ。理由は、投資に見合う利益の裏づけが計画に見えないことと、中国勢の浸食が構造的であることにある。確率は、楽観を1割、やや楽観を2割強に抑え、やや悲観と悲観を合わせて3割強に厚く置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 5,053 円525 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,698 円177 億円)。 今の値に割り戻すと 3,301 円343 億円、今との差 +11.9%、 期待の年率 +8.6%(資本コスト 8.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 10,908 円1,134 億円 | 2,828 円294 億円 | +365.8% | +16.6% | 1,374 円143 億円 |
| やや楽観 | 22% | 7,484 円778 億円 | 2,251 円234 億円 | +230.1% | +12.7% | 2,142 円223 億円 |
| 中立 | 34% | 5,013 円521 億円 | 1,799 円187 億円 | +131.0% | +8.7% | 2,316 円241 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,053 円213 億円 | 1,068 円111 億円 | +5.8% | +0.6% | 687 円71 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,331 円138 億円 | 616 円64 億円 | −34.0% | −4.1% | 234 円24 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,053 円525 億円 | 1,698 円177 億円 | +128.9% | +8.6% | 6,751 円702 億円 |
今の株価時価総額 2,949 円307 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 8.6世代の波を取り込み、先端の中立マスク供給者に 利益 85 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 10,908 円1,134 億円
第8.6世代の有機ELが、ノートPC、タブレット、モニターへ広がる。サムスンに続き、BOEと中国の各社もラインを増やし、大型マスクの市場は実質で4割ほど膨らむ。同社は8.6世代の高精細品でサムスン、BOE、TCL華星光電から受注を取り、シェアを28%まで上げる。値段も、高精細化の分だけ物価を上回って上がる。新工場の稼働は順調で、固定費が薄まり、営業利益率は19%に届く。それでも、過去12年の最高(23%)には及ばない。ソリューション事業は黒字になり、アサヒテックも伸びる。配当は利益の半分を続ける。会社が掲げるROE15%には、ほぼ近づく。
- 大型フォトマスク:数量 2.8(世界の大型マスク市場(億ドル、実質、今の値段)× シェア)× 価格 213(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。物価で10年1.34倍が中立))→ 売上 596 億円・営業利益 113 億円。市場 1498 億円(実質、今の値段)× シェア 28.0%、営業利益率 19.0%。億ドル建て(150 円)
- スクリーンマスク・メタルマスク:数量 0.1(受注量(億ドル換算、実質、今の値段))× 価格 201(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。10年1.34倍が中立))→ 売上 25 億円・営業利益 3 億円。スクリーン/メタルマスク 売上 25 億円、営業利益率 10%。億ドル建て(150 円)
- ソリューション:数量 0.1(販売量(億ドル換算、実質、今の値段))× 価格 201(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。10年1.34倍が中立))→ 売上 15 億円・営業利益 2 億円。ソリューション 売上 15 億円、営業利益率 10%。億ドル建て(150 円)
倍率:事業の純利益 85 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.2% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍。全体の PER 13.39 倍、時価総額 1,134 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中国勢の浸食を最小限に抑え、有機ELの新ラインで受注を取り続ける必要がある。投資の成功も条件になり、実現のハードルは高い。
やや楽観 22% 有機ELの新ラインが立ち上がり、シェアを守る 利益 63 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 7,484 円778 億円
有機ELの8.6世代は計画どおり立ち上がり、大型マスクの市場は実質で3割弱増える。同社は先端品で中国勢に一部を譲るが、ほかの顧客で補い、シェアは26.5%に落ち着く。新工場は想定より遅れず、利益率は17.5%まで戻る。値段は物価並みに上がるが、競争で上乗せは小さい。売上は今の1.7倍、会社の目標(2028年9月期に342億円)は、数年遅れで超える。配当は利益の半分、投資の原資は営業キャッシュフローと借入で賄う。競合のHOYAやLGイノテックとは互角で、ここ数年の技術差は縮まらないが開かない。ソリューション事業は小さな黒字に届き、アサヒテックは営業の拡大で売上が10億円台に乗る。ニコンや写真化学など株主との関係も安定したまま、経営は大きく変わらない。
- 大型フォトマスク:数量 2.4(世界の大型マスク市場(億ドル、実質、今の値段)× シェア)× 価格 204(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。物価で10年1.34倍が中立))→ 売上 494 億円・営業利益 86 億円。市場 1370 億円(実質、今の値段)× シェア 26.5%、営業利益率 17.5%。億ドル建て(150 円)
- スクリーンマスク・メタルマスク:数量 0.1(受注量(億ドル換算、実質、今の値段))× 価格 201(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。10年1.34倍が中立))→ 売上 16 億円・営業利益 1 億円。スクリーン/メタルマスク 売上 16 億円、営業利益率 9%。億ドル建て(150 円)
- ソリューション:数量 0.0(販売量(億ドル換算、実質、今の値段))× 価格 201(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。10年1.34倍が中立))→ 売上 9 億円・営業利益 1 億円。ソリューション 売上 9 億円、営業利益率 5%。億ドル建て(150 円)
倍率:事業の純利益 63 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.4 倍。全体の PER 12.43 倍、時価総額 778 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:有機ELの新ラインは複数の会社が確定投資しており、実現しやすい。その上で、シェアを維持できる筋書きに強気の確率を寄せた。
中立 34% 大型マスクは物価並みに成長、中国勢にシェアを少し譲る 利益 46 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 5,013 円521 億円
大型マスクの市場は、有機ELの新ラインと機種の増加で実質2割ほど増える。ただ、中国の国産化が進み、同社のシェアは27%から25%へ少し下がる。高精細化で単価は上がるが、中国勢の値下げ圧力で物価ほどは上がらない。新工場の減価償却は重く、営業利益率は15.5%と、直近の13%から小幅に改善するにとどまる。ソリューション事業は赤字を脱し、収支はとんとんになる。配当性向は50%を守り、利益は今の1.7倍ほどになる。ただ、投資のために自己資本が積み上がり、ROEは8%台と資本コストに届かない。投資が増えた分だけ営業キャッシュフローの余裕は薄く、純現金は3年で尽きて小さな借入に移る。株主の目線では、安定した配当は続くが、利益の伸びは物価を少し上回る程度にとどまる。有機ELへの対応は間に合い、事業としては生き残る。
- 大型フォトマスク:数量 2.1(世界の大型マスク市場(億ドル、実質、今の値段)× シェア)× 価格 195(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。物価で10年1.34倍が中立))→ 売上 417 億円・営業利益 65 億円。市場 1284 億円(実質、今の値段)× シェア 25.0%、営業利益率 15.5%。億ドル建て(150 円)
- スクリーンマスク・メタルマスク:数量 0.1(受注量(億ドル換算、実質、今の値段))× 価格 201(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。10年1.34倍が中立))→ 売上 12 億円・営業利益 1 億円。スクリーン/メタルマスク 売上 12 億円、営業利益率 8%。億ドル建て(150 円)
- ソリューション:数量 0.0(販売量(億ドル換算、実質、今の値段))× 価格 201(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。10年1.34倍が中立))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。ソリューション 売上 6 億円、営業利益率 0%。億ドル建て(150 円)
倍率:事業の純利益 46 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 521 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:有機ELの追い風と中国勢の浸食が、ほぼ相殺する筋書きを中心にした。大きく外れない、最も起こりやすい姿として、確率を最も厚くした。
やや悲観 22% 中国勢がシェアを削り、新工場の償却が重くのしかかる 利益 18 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 2,053 円213 億円
中国のパネルメーカーが、国産マスクの採用を広げる。路維光電、清溢光電が8.6世代でも実績を重ね、同社のシェアは21%まで下がる。市場は実質で1割弱しか増えず、単価は競争で物価を下回る。新工場の稼働率は上がらず、減価償却が利益を押し下げて、営業利益率は10%に低下する。ソリューション事業は赤字のまま、アサヒテックの伸びも小さい。会社は配当性向50%を維持できず、投資の借入利息が重い。ROEは4%、資本コストを大きく下回る。新工場の稼働が遅れた分は、人員と償却の負担として残る。ほかの顧客で穴を埋めようとするが、値下げに頼る受注になり、利益率は上がらない。会社は有機EL向けの投資を続けるが、回収の見通しは立ちにくい。それでも赤字には落ちず、純現金は借入に変わる。
- 大型フォトマスク:数量 1.6(世界の大型マスク市場(億ドル、実質、今の値段)× シェア)× 価格 180(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。物価で10年1.34倍が中立))→ 売上 291 億円・営業利益 29 億円。市場 1156 億円(実質、今の値段)× シェア 21.0%、営業利益率 10.0%。億ドル建て(150 円)
- スクリーンマスク・メタルマスク:数量 0.0(受注量(億ドル換算、実質、今の値段))× 価格 201(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。10年1.34倍が中立))→ 売上 8 億円・営業利益 0 億円。スクリーン/メタルマスク 売上 8 億円、営業利益率 5%。億ドル建て(150 円)
- ソリューション:数量 0.0(販売量(億ドル換算、実質、今の値段))× 価格 201(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。10年1.34倍が中立))→ 売上 3 億円・営業利益 −1 億円。ソリューション 売上 3 億円、営業利益率 -20%。億ドル建て(150 円)
倍率:ROEは約4%と資本コストを大きく下回る。ためた利益は額面未満の価値しかなく、稼ぐ力に見合う倍率に落とす。上限(約11.4倍)の7割を割り込む水準に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8.5 倍・時価総額 153 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:中国の国産化は国策で、すでに最先端でも実績が出ている。投資の回収が遅れる筋書きは、十分に起こりうる。慎重な見方の強さを反映して、確率を厚めに置いた。
悲観 12% 中国勢に先端も奪われ、新工場が重荷になる 利益 −7 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,331 円138 億円
中国で中国製マスクを使う流れが決定的になり、BOE、TCL華星光電、天馬微電子の発注が国産に移る。同社のシェアは14%に落ち、売上は今の半分に届かない。新工場は稼働率が上がらず、設備に100億円規模の減損が出る。営業利益は赤字になり、配当は大きく削られる。ソリューション事業は撤退する。ただし、無借金に近い財務と京都、滋賀の自社の土地建物が残り、事業は縮小しながら続く。BOEなど上位顧客の発注が、国産に移る流れは数年で固まる。残るのは日本、韓国、台湾向けの高精細品だけで、規模は今の半分以下になる。経営はコストを削り、配当は無配に近づく。株主構成の安定が、買収や再編の話を呼ぶ可能性もあるが、この筋書きには織り込まない。
- 大型フォトマスク:数量 0.9(世界の大型マスク市場(億ドル、実質、今の値段)× シェア)× 価格 153(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。物価で10年1.34倍が中立))→ 売上 138 億円・営業利益 −6 億円。市場 963 億円(実質、今の値段)× シェア 14.0%、営業利益率 -4.0%。億ドル建て(150 円)
- スクリーンマスク・メタルマスク:数量 0.0(受注量(億ドル換算、実質、今の値段))× 価格 201(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。10年1.34倍が中立))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。スクリーン/メタルマスク 売上 6 億円、営業利益率 0%。億ドル建て(150 円)
- ソリューション:数量 0.0(販売量(億ドル換算、実質、今の値段))× 価格 201(1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。10年1.34倍が中立))→ 売上 1 億円・営業利益 0 億円。ソリューション 売上 1 億円、営業利益率 -30%。億ドル建て(150 円)
倍率:赤字で利益の倍率は使えない。今の自己資本に掛ける形で、売れる資産(現金・有価証券と、土地建物・設備の売却価値の税後)の水準に置いた。
確率:顧客が少数で、1社の方針転換が売上の2割に響く。中国の国産化と投資の失敗が重なる筋書きを、残る確率で置いた。同社は2009年、2012年、2020年に営業赤字を出しており、現実味のない筋書きではない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
大型フォトマスク
液晶・有機ELパネルの回路を焼き付ける、大型ガラス基板用の原版。売上の約99%。
| 数量世界の大型マスク市場(億ドル、実質、今の値段)× シェア | 価格1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。物価で10年1.34倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 1.9 | 150 | 288 | 43 |
| 10 年後 中立 | 2.1 | 195 | 417 | 65 |
取り方:開示は売上のみなので、市場規模とシェアで置く。世界シェアは約27%(キタイシホン)で、売上287.8億円からの逆算で市場は約1,070億円(約7.1億ドル、実質、2025/09期の値段)と推定。競合は世界4社で約75%、中国2社で約15%という調査(観研報告網)と矛盾しない。営業利益はセグメント別の開示がなく、全社38.5億円からソリューションの赤字(約3億円)とアサヒテックの小利益、全社費用を除いた推定。
スクリーンマスク・メタルマスク
車載ガラス・電子部品・半導体パッケージの印刷に使う製造用の原版。2025年4月に買収したアサヒテック。
| 数量受注量(億ドル換算、実質、今の値段) | 価格1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。10年1.34倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 0.0 | 150 | 3 | 0 |
| 10 年後 中立 | 0.1 | 201 | 12 | 1 |
取り方:連結は買収後の約5か月分の売上3.3億円(年換算で8億円規模)。市場規模やシェアは開示がないので、受注量そのものを数量とした。営業利益は小幅の黒字と推定。
ソリューション
超小型RFIDタグ(エクストリームタグ)と医療機器(電気刺激装置・デジタルコルポスコープ)。
| 数量販売量(億ドル換算、実質、今の値段) | 価格1 億ドルあたり売上(億円)=150 円 × 値段の指数(今=1.00。10年1.34倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 0.0 | 150 | 1 | −3 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 201 | 6 | 0 |
取り方:売上は0.84億円。赤字の額は開示がなく、会社が黒字化を目標に掲げていることと開発費の規模から、約3億円の赤字と推定。
リスクと懸念
中国勢の国産化
売上の6割は中国向けだ。路維光電はBOEの8.6世代向けで量産を始め、中国は高精度マスクの国産化率を引き上げる方針を持つ。国内調達の流れが強まれば、同社の受注は数量も単価も削られる。
顧客の集中
BOE、TCL華星光電、サムスン、天馬微電子の4社で売上の約7割を占める。どれか1社が投資を止めたり、内製や他社へ振り替えたりすれば、売上の2割が動く。値下げ交渉でも買い手が強い。
設備投資の回収
3年で250〜270億円という投資は、年間売上に迫る規模だ。稼働率が上がらなければ、減価償却と借入の利息だけが残る。前の計画では売上目標を1割強下回ったので、新計画の達成にも疑いが残る。
パネル市況の波
ディスプレイ各社の設備投資は景気で止まる。2020年9月期は営業赤字、2012年9月期は営業利益率がマイナス21%だった。受注は数か月で急に落ち、固定費の重い同社は、利益が大きく振れる。
ソリューション事業の赤字
RFIDと医療機器は売上が1億円に届かず、赤字が続く。会社は黒字化を掲げているが、新しい事業で成功した実績は乏しい。投資や人員が増えれば、全体の利益を押し下げる。
有機EL技術の変化
有機ELの製造方式は、メタルマスクを使う方式から別の方式へ移る可能性がある。マスクの層数や仕様が変われば、同社の強い領域が狭まる。液晶の大型投資が減り続ける点も重い。
今後の分かれ目
- BOEが8.6世代ラインの量産を始め、同社が受注を発表する
- 中国向けの懸念が一部和らぐ。強気側の筋書きに確率を寄せてよい。
- 路維光電や清溢光電が、サムスンやTCL華星光電の8.6世代でも採用される
- シェア低下が先端品にも及ぶ。やや悲観と悲観の確率を上げる。
- 新工場の稼働が予定より遅れ、減価償却が先行して営業利益率が10%台前半に戻らない
- 投資の回収に疑いが生じる。慎重な筋書きの確率を高める。
- 会社が自社株買いを発表する、または配当性向を引き上げる
- 資本の使い方に改善が見える。純現金の戻り方を高く見てよい。
- ソリューション事業が黒字化する、または撤退を決める
- 全社の営業利益が約3億円改善する。収益の質を見直す材料になる。
- TCL華星光電や天馬微電子が、新しい世代の大型投資を中止する
- 受注の2〜3割が揺らぐ。悲観側の確率を引き上げる。
見ておくもの
- 第8.6世代有機EL(サムスン、BOE)の量産の進み具合
- 路維光電、清溢光電の採用顧客の広がり
- 新工場の稼働開始時期と営業利益率
- 上位4社の売上比率と中国向けの比率
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価ではなく、資本コスト8.75%と事業のROE、成長率4%から式で置いた。10年後のROEが資本コストを下回る中立では、ためた利益の価値が額面を下回るので、PERは約10倍にとどまる。強気の筋書きだけが12倍に届く。数量は市場と市場シェアで置き、市場は実質、値段の指数に物価を入れた。中国勢の競争を理由に、中立の値段の伸びは1.30倍と、物価並み(1.34倍)をやや下げた。本社費も物価で増やした。工場・倉庫の賃借は少なく、新リース会計基準の影響は小さい。数字は今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12→13.39 倍・やや楽観 PER 11.2→12.43 倍・中立 PER 10.1→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。