結論
日本光電は、病院のICU・手術室・病棟で使う生体情報モニタ、AED、除細動器、脳波計などを作る医療機器メーカーだ。国内の生体情報モニタ、脳波計、AEDで首位を持つ。筆者の結論は、今の値段は10年で測るとやや割高というものだ。堀はあるが、それが利益率に現れていない。
2026年3月期の売上は2,351億円、営業利益率は8%だった。海外は北米を軸に13%増えたが、国内は横ばいで、利益の厚みは増えていない。営業利益率は過去10年のほとんどで8〜10%にとどまる。
会社の計画は強気だ。中期計画では2027年3月期に営業利益率15%、ROE12%を掲げた。だが今期の予想は営業利益率10%で、目標との距離は大きい。この目標に届く筋書きは楽観側の1つとして置き、確率は低く見る。
低収益のアボット製品の取り扱いをやめる決断もした。売上は減るが、利益の質は上がる。経営が収益改革に動いている点は評価できる。ただ、これが利益率を5ポイント押し上げるほどの力を持つかは、まだ見えていない。
財務は強い。自己資本比率は7割、純現金で借金はない。還元も厚くなり、直近は自社株買いを含めて総還元性向が7割に達した。倒れる心配はない会社だが、安く買える会社とも言えない。強い堀を持つのに稼ぐ力が平凡という点を、筆者は最も気にしている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、日本光電は「安心して持てるが、安くない」会社だ。国内首位の製品、病院に根を張る販売とサービス、借金のない財務。この3つは長く続く。10年後もこの会社は病院の中で動いているだろう。
問題は、その強さが利益になっていないことだ。8%という営業利益率は、堀のある会社の水準ではない。オーナー利益、つまり再投資のあとに株主の手に残る利益は、年に100億円台にとどまる。
経営が資本を使う姿勢は誠実だ。割に合わない買収で資本を壊してこなかった。自社株買いも出始めた。だが会社が掲げる営業利益率15%を前提に値段を決めるつもりはない。過去10年は8〜10%が定位置で、それが5ポイント上がるには値決めか海外の構造が変わる必要がある。
わからない部分は、北米で自社販売が黒字を定着させるか、低収益品を切った後の利益の質、中国メーカーの価格攻勢の3点だ。確信度は中程度に置き、安全域は今の値段にはまだ足りない。
何で稼ぐ会社か
日本光電の稼ぎ方は「病院の中に入り込む」ことに尽きる。患者の心拍・血圧・酸素飽和度を映す生体情報モニタ、心停止に使うAEDと除細動器、脳の活動を測る脳波計、人工呼吸器を扱う。ベッドサイドから手術室までを1社で揃えられる。
売上は機器の販売だけでなく、設置工事、保守、センサなどの消耗品が積み上がる。消耗品とサービスは前期に5%増え、機器の伸びを上回った。景気で落ちにくい部分だ。
売上の約4割が海外で、北米を中心に自社で販売網を作ってきた。国内は病院向けが主力で、診療報酬と病院の設備予算が需要を決める。国内では診断情報システムや臨床情報システムといった病院のIT部分が2桁で伸びている。機器だけの会社から、病院の情報の流れをつかむ会社へ軸足を動かしている。
アボット製品の取り扱いは2026年12月末で終わる。国内の売上は減るが、粗利の低い品なので利益には効く。本稿では事業を、生体情報モニタ、治療機器(AED・除細動器・人工呼吸器)、その他(生理検査・検体検査・情報システム・消耗品とサービス)の3つに分けて見る。
優良さと弱いところ
優良さの核は、病院の中での存在感と、一度入れたら替えにくい構造にある。モニタは病棟の患者データを集めるシステムの一部になり、電子カルテとつながる。入れ替えには教育と配線のやり直しが要る。つまり他社が簡単にまねできない強み、堀が働く。
弱みははっきりしている。国内の公立病院は入札で買うことが多く、値段を決めるのは病院側だ。海外ではフィリップスやGEヘルスケアという巨人が同じ棚を取りに来る。日本光電の利益率が8〜10%にとどまるのは、この値決め力の弱さの表れだ。
資本効率も平凡だ。ROEは過去10年の中央値で9%台、資本コストを少し超える程度だ。純現金と厚い自己資本が効率を押し下げている面もある。
経営の姿勢は変わりつつある。低収益品を切り、北米の黒字化を進め、自社株買いを加えた。方向は正しい。筆者が見たいのは、これが利益率の底上げとして数字に出るかどうかだ。国内トップの座は強いが、国内の人口は減る。伸びを外で取れるかが問われる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
医療機器の需要は景気に左右されにくい。高齢化で患者が増え、新興国でも病院が整う。数量は世界で年2〜3%、長く伸びる見通しだ。ただし診療報酬の改定や、病院の予算が価格を押さえる。
生体情報モニタは成熟市場だ。世界ではフィリップス、GEヘルスケア、中国のマインドレイが主役で、日本光電は国内の強みを軸に北米と新興国へ出ている。除細動器・AEDは救命の現場で信頼が物を言うが、価格の競争は強い。
足元の国内は、AEDの代理店在庫の調整などで弱い。2027年3月期の第1四半期も国内は15%減った。アボット製品の終了と在庫調整が重なった影響が大きい。海外は同じ期に10%増え、堅調だ。
10年の分かれ目は2つある。1つは北米で自社の販売網が黒字を積み上げられるか。もう1つは中国メーカーが低価格のモニタで新興国と欧州の入札を取りに来るかどうかだ。筆者は後者を、10年で最も大きな構造リスクと見る。高性能な機器の差は縮まりやすく、値段の勝負になれば堀は薄くなる。
国内ではフクダ電子が同じ病院向けで競い、シスメックスのような検体検査の専業は別の棚で戦う。国内の医療政策の影響を受ける点は共通している。
資本政策と M&A
還元の姿勢は前向きだ。連結総還元性向35%以上を指標とし、直近は約50億円の自社株買いを加えて70%に達した。借金はなく、自己資本比率は7割。余力は十分にある。
政策保有株は11銘柄で、毎年見直しを行い、一部を売却した実績がある。比重は大きくない。
M&Aは大型の買収で名を上げた会社ではない。北米で自前の販売網を作る道を選び、投資はその販売網と製品開発に向かっている。手元の現金が積み上がり過ぎないかは、見ておきたい点だ。親会社はなく、TOBの確率は市場の推計で19%程度と中程度だ。敵対的な買収の可能性は高くない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
海外の伸びが数量と価格の両方で積み上がる。北米で自社の販売網が機能し、2026年3月期の海外13%増が一時のものでなく、構造になる。生体情報モニタは病棟全体をつなぐシステムとして採用が進み、消耗品とサービスの積み上げで収益のぶれが小さくなる。
低収益のアボット製品をやめた分、利益率は素直に上がる。会社が掲げる営業利益率15%、ROE12%は、遠くない目標だ。国内の診断情報システムや臨床情報システムは、病院のIT化で2桁の伸びを続け、機器より利益率が高い。
財務は純現金で、自社株買いをさらに増やせる。総還元性向はすでに7割まで上がっており、資本効率は改善に向かう。国内トップのモニタ、脳波計、AEDの顧客基盤に、新しい製品を重ねて売る余地は大きい。
医療機器は景気に左右されない。高齢化は世界で進み、10年先まで需要が細ることはない。今の営業利益率8%は、投資を先に入れた数字にすぎず、これから利益として戻ってくる。
慎重な見方
利益率が上がらない構造は変わらない。過去10年を見ても、営業利益率が10%を超えたのはコロナ特需の数年だけだ。会社の計画は毎回、達成が先送りされる。今回の15%も同じ道をたどる可能性が高い。
国内の公立病院は入札で買い、値段を病院が決める。診療報酬の改定が続く限り、国内の価格は伸びにくい。国内の人口は減り、病床の数も減る。アボット製品をやめると国内の売上は目に見えて減り、固定費の重さが利益率を押し下げる。
海外は北米の黒字化が道半ばだ。第1四半期は現地通貨で前年を下回った。自前の販売網には人と在庫のコストがかかり、規模が出る前に価格競争に巻き込まれる。フィリップスやGEは資金力が桁違いで、同じ病院の同じ棚を取りに来る。
さらに中国のマインドレイなどが、モニタの価格を下げて新興国と欧州で入札を取り始めている。性能の差が縮めば、堀は値段の勝負に変わる。ROEは9%前後で資本コストをわずかに超える程度。この水準の会社に、高い倍率を払う理由はない。
どちらに重みを置いたか
堀の強さでは強気の主張に分があるが、堀が利益率に表れていない事実は重い。国内の価格決定力の弱さ、北米の黒字化が道半ばであること、中国メーカーの価格攻勢という3点は、慎重な見方が強い。
アボット製品の終了と収益改革は利益の質を上げる材料で、中立の利益率を過去より少し上に置く根拠になる。ただし会社目標の15%は楽観の側にとどめた。確率は中立を軸に置き、やや悲観に少し寄せた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,367 円3,788 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 651 円1,042 億円)。 今の値に割り戻すと 1,667 円2,668 億円、今との差 +1.8%、 期待の年率 +6.3%(資本コスト 7.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,541 円7,267 億円 | 844 円1,350 億円 | +228.8% | +12.6% | 431 円689 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,384 円5,416 億円 | 750 円1,200 億円 | +152.5% | +9.7% | 827 円1,323 億円 |
| 中立 | 40% | 2,762 円4,420 億円 | 719 円1,150 億円 | +112.6% | +7.8% | 1,392 円2,228 億円 |
| やや悲観 | 20% | 928 円1,485 億円 | 562 円900 億円 | −9.0% | −0.9% | 298 円477 億円 |
| 悲観 | 12% | 302 円483 億円 | 281 円450 億円 | −64.4% | −9.8% | 70 円112 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,367 円3,788 億円 | 651 円1,042 億円 | +84.3% | +6.3% | 3,018 円4,830 億円 |
今の株価時価総額 1,638 円2,621 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 北米と情報システムが効き、利益率15%に届く 利益 396 億円 · PER 18.4 倍 · 株価時価総額 4,541 円7,267 億円
北米の自社販売が規模に乗り、海外の売上は2桁成長を続ける。生体情報モニタは病棟全体をつなぐ仕組みとして採用が進み、消耗品とサービスの積み上げで収益は安定する。低収益のアボット製品が消えた国内は、診断情報システムなど病院ITの伸びで利益率が上がる。
営業利益率は会社の掲げる15%に近づき、ROEは12%台に乗る。数量は世界の医療需要の伸びを上回り、価格は物価並みに上がる。国内トップの顧客基盤に新製品を重ねる形で、成熟した高収益企業へ変わる。純現金は自社株買いに回り、総還元性向は6割台で続く。この筋書きでは、会社の中期計画で掲げた収益の底上げが10年のうちに実現し、市場の見方も変わる。
- 生体情報モニタ:数量 88.0(世界の生体情報モニタ市場(億ドル、実質))× 価格 15(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 1,302 億円・営業利益 221 億円。北米と新興国でシェア上昇
- 治療機器(AED・除細動器・人工呼吸器):数量 148(世界の対象市場(億ドル、実質))× 価格 6.00(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 888 億円・営業利益 133 億円。AED・除細動器の海外拡大
- 生理検査・検体検査・情報システム・消耗品とサービス:数量 490(世界の対象市場(億ドル、実質))× 価格 4.20(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 2,058 億円・営業利益 226 億円。情報システムと消耗品が伸びる
倍率:事業の純利益 396 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.6% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.4 倍。全体の PER 18.35 倍、時価総額 7,267 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米の黒字定着、国内の収益改革、病院IT化の3つが10年続いて重なる必要があるため8%にとどめた。会社自身の中計目標が未達で、過去10年のほとんどで営業利益率は8〜10%だった。
やや楽観 20% 収益改革が実り、利益率が10%台前半で安定する 利益 312 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 3,384 円5,416 億円
アボット製品の取り扱い終了で利益の質が上がり、営業利益率は11%前後で安定する。北米は黒字を維持し、海外売上は国内より速く伸びる。国内のモニタとAEDは更新需要で堅調、情報システムは2桁の伸びを続ける。
中国メーカーの価格攻勢は新興国で一部の入札を取られる程度にとどまり、日本光電は病棟全体を提案できる強みで先進国のシェアを守る。ROEは10%台に乗るが、会社目標の15%には届かない。北米の黒字定着と国内の収益改善が、10年かけてじわじわ数字に出る形だ。大きな買収に頼らず、自力で積み上げる。国内の人口減を、海外と病院ITの伸びで埋めていく姿である。
- 生体情報モニタ:数量 85.0(世界の生体情報モニタ市場(億ドル、実質))× 価格 14(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 1,207 億円・営業利益 181 億円。北米でじわじわシェア上昇
- 治療機器(AED・除細動器・人工呼吸器):数量 130(世界の対象市場(億ドル、実質))× 価格 5.80(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 754 億円・営業利益 98 億円。更新需要とAED
- 生理検査・検体検査・情報システム・消耗品とサービス:数量 480(世界の対象市場(億ドル、実質))× 価格 4.00(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 1,920 億円・営業利益 182 億円。情報システムと消耗品
倍率:事業の純利益 312 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.4 倍。全体の PER 17.36 倍、時価総額 5,416 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:低収益品の整理と海外の伸びという、すでに動いている材料が10年続く蓋然性の高い上振れ。
中立 40% 数量は緩やかに伸び、利益率は10%弱で定着 利益 265 億円 · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 2,762 円4,420 億円
世界の医療機器の数量は年2%前後で伸びる。日本光電は国内で首位を保ち、北米は黒字を維持するが規模は小さいまま推移する。低収益品をやめた分、営業利益率は過去より1ポイントほど上がって9〜10%で定着する。
モニタ、治療機器、情報システムそれぞれの数量は市場並みに伸び、価格は物価並みに上がる。中国メーカーの低価格品は新興国で一部のシェアを取るが、先進国の病院では日本光電の統合提案が残る。ROEは10%近辺で、資本コストを少し上回る水準にとどまる。最も起きやすい姿は、派手さはないが崩れもしない、医療機器の中堅メーカーとしての安定だ。株主への還元は利益の5割強で続く。
- 生体情報モニタ:数量 82.0(世界の生体情報モニタ市場(億ドル、実質))× 価格 14(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 1,115 億円・営業利益 145 億円。市場並みの数量と物価並みの価格
- 治療機器(AED・除細動器・人工呼吸器):数量 140(世界の対象市場(億ドル、実質))× 価格 5.60(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 784 億円・営業利益 94 億円。市場並みの伸び
- 生理検査・検体検査・情報システム・消耗品とサービス:数量 470(世界の対象市場(億ドル、実質))× 価格 3.88(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 1,824 億円・営業利益 155 億円。消耗品・情報システムが堅調
倍率:事業の純利益 265 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.7 倍。全体の PER 16.68 倍、時価総額 4,420 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の安定需要と海外の緩やかな伸びが続き、利益率は過去の8〜10%を少し上回る位置に落ち着く最も蓋然性の高い筋書き。
やや悲観 20% 中国メーカーと入札で値下がりし、利益が細る 利益 135 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 928 円1,485 億円
国内は診療報酬の抑制で入札価格が下がり、モニタの値段が伸びない。中国メーカーが新興国と欧州の入札を取り、日本光電のモニタのシェアが落ちる。北米は自前の販売網の費用が重く、黒字が安定しない。
AEDと除細動器も価格競争が強まり、治療機器の利益率は1桁前半に下がる。消耗品とサービスで下支えするが、固定費が重く営業利益率は6%台まで戻る。ROEは6%と資本コストを割り、配当と自社株買いは利益に見合う水準まで縮む。この筋書きでも事業は赤字にならず、国内の保守と消耗品が土台として残る。ただし成長の物語は描きにくくなる。
- 生体情報モニタ:数量 76.0(世界の生体情報モニタ市場(億ドル、実質))× 価格 12(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 912 億円・営業利益 73 億円。シェア侵食と価格下押し
- 治療機器(AED・除細動器・人工呼吸器):数量 112(世界の対象市場(億ドル、実質))× 価格 4.60(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 515 億円・営業利益 36 億円。価格競争
- 生理検査・検体検査・情報システム・消耗品とサービス:数量 440(世界の対象市場(億ドル、実質))× 価格 3.50(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 1,540 億円・営業利益 100 億円。情報システムのみ堅調
倍率:ROE 6.0% が k 7% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k=13.8 倍。中国メーカーの価格攻勢で利益率が薄く、上限の 8.0 割の 11.0 倍に置いた。
確率:診療報酬の抑制と中国メーカーの低価格攻勢が重なる、医療機器の領域では普通に起きうる負け筋。北米の黒字化が道半ばな点を考えて2割に置いた。
悲観 12% 構造的に負ける:主要市場で値段の勝負に巻き込まれる 利益 42 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 302 円483 億円
中国メーカーが性能面でも追いつき、欧州と新興国の入札で価格を大きく下げる。日本光電のモニタは数量も価格も落ち、北米の自社販売網は赤字が続いて縮小する。国内は診療報酬の引き下げと病院の統廃合で、機器の更新が先送りされる。
治療機器は他社の価格攻勢に押され、利益は薄くなる。固定費が重いため営業利益率は2〜3%まで落ち、北米の撤退と減損で自己資本も減る。それでも国内の保守と消耗品、病棟の既設のモニタが下支えになり、事業は残る。配当は利益でなく手元の現金で払う。それでも財務は純現金で、倒れることはない。ただ、病院の中で首位を保つという強みは、価格の勝負の前に価値を失う。
- 生体情報モニタ:数量 70.0(世界の生体情報モニタ市場(億ドル、実質))× 価格 9.50(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 665 億円・営業利益 20 億円。価格競争で数量・価格とも低下
- 治療機器(AED・除細動器・人工呼吸器):数量 100(世界の対象市場(億ドル、実質))× 価格 3.80(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 380 億円・営業利益 8 億円。価格競争が激化
- 生理検査・検体検査・情報システム・消耗品とサービス:数量 400(世界の対象市場(億ドル、実質))× 価格 3.00(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数)→ 売上 1,200 億円・営業利益 36 億円。消耗品と国内保守が残る
倍率:中国メーカーに主要市場を侵食され、ROE 2.7%、純利益は42億円まで縮む。床は稼ぐ力(純利益 42÷k 7%=約 580 億円)で、売れる資産の根拠は純現金 206 億円にとどまり、これより大きい稼ぐ力から出した。減損で自己資本は 1,550 億円まで減る前提。
確率:中国メーカーが先進国の入札でも取り始め、北米の自社販売が撤退を迫られる構造的な負け。悲観が5%以上である理由は、同領域のフクダ電子やシスメックスでも12%以上に置いており、国内の人口減と入札主体の価格形成を考えると同程度の確率が必要なため。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
生体情報モニタ
ICU・手術室・病棟で患者の心拍・血圧・酸素飽和度を映すモニタと、データをつなぐシステム。国内首位。
| 数量世界の生体情報モニタ市場(億ドル、実質) | 価格市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 70.0 | 10 | 700 | 75 |
| 10 年後 中立 | 82.0 | 14 | 1,115 | 145 |
取り方:世界市場を実質約70億ドルと推定し、シェア約6.5%から売上を逆算(開示無し、推定)。営業利益は全社の利益率と製品の特性から配分した推定。
治療機器(AED・除細動器・人工呼吸器)
心停止に使うAED・除細動器と人工呼吸器。国内のAEDで首位。
| 数量世界の対象市場(億ドル、実質) | 価格市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 4.17 | 500 | 55 |
| 10 年後 中立 | 140 | 5.60 | 784 | 94 |
取り方:除細動器・AED・人工呼吸器の市場を実質約120億ドルと推定し、シェア約2.8%から売上を逆算(推定)。第1四半期の治療機器は約122億円で、通期約500億円と置いた。
生理検査・検体検査・情報システム・消耗品とサービス
脳波計・心電計などの生理検査、検体検査、病院情報システム、センサなどの消耗品と保守。
| 数量世界の対象市場(億ドル、実質) | 価格市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア×為替(150円)×単価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 400 | 2.88 | 1,151 | 75 |
| 10 年後 中立 | 470 | 3.88 | 1,824 | 155 |
取り方:生理検査・検体検査・情報システム・消耗品を合わせた市場を実質約400億ドルと推定し、シェア約1.9%から売上を逆算(推定)。全社売上2,351億円からの残り。アボット製品の終了影響が含まれる。
リスクと懸念
北米の黒字化が定着しない
2026年3月期は北米が海外の伸びをけん引したが、2027年3月期の第1四半期は現地通貨で前年を下回った。自前の販売網は人と在庫の費用が先に出るため、規模が出る前に価格競争に巻き込まれれば、赤字が長引く。会社の15%目標の前提はここにある。
低収益品の終了で国内売上が目減りする
アボット製品の取り扱いは2026年12月末で終わる。粗利の低い品とはいえ、国内売上は減る見込みで、第1四半期は国内が15%減った。固定費がそのままなら、利益率の改善は想定ほど出ない。
中国メーカーの低価格攻勢
マインドレイなど中国メーカーは生体情報モニタを低価格で供給している。新興国と欧州の入札で取り始めれば、日本光電は数量と価格の両方を失う。性能差が縮めば、堀が値段の勝負に変わる。10年で最も大きな構造リスクだ。
国内の診療報酬と病院予算
国内は公立病院の入札で値段を病院が決める。診療報酬の抑制や病院の統廃合が続けば、モニタとAEDの更新が先送りされ、価格も伸びない。国内は人口も減るため、数量の増加を見込みにくい。
大手との資金力の差
フィリップスやGEヘルスケアは病院全体を1社で提案でき、研究開発と販売の資金も桁違いだ。病棟情報システムの競争で劣れば、モニタの更新時に他社へ一括で切り替えられる恐れがある。
AED・治療機器の需要の振れ
第1四半期は治療機器が6.5%減った。AEDは代理店在庫の調整もあり、更新と新規の需要が読みにくい。安全規制や認証の変更で、供給に制約が出る可能性もある。
為替
海外が売上の約4割を占め、円高は円換算の収益を縮める。本稿は150円で固定しているが、大きな円高は北米の黒字化を遅らせる。
今後の分かれ目
- 北米の売上が2桁成長を続けながら黒字を維持する
- 会社目標の営業利益率15%が現実味を帯び、楽観とやや楽観の確率が上がる。
- アボット製品終了後も営業利益率が10%を超える
- 利益の質の改善が確認でき、中立の利益率を上方に直せる。
- 中国メーカーが先進国の入札で採用される事例が増える
- 堀が値段の勝負に変わる兆しで、悲観側の確率が上がる。
- 診療報酬の引き下げが国内の病院予算を直撃する
- 国内のモニタとAEDの更新が遅れ、やや悲観に近づく。
- 自社株買いの額が毎年増える
- 資本効率の改善が進み、ROEが10%台に乗る道が開ける。
- 病院情報システムの採用が国内外で広がる
- 機器に偏らない収益構造に近づき、利益率の下限が上がる。
見ておくもの
- 北米の売上成長と損益
- アボット製品終了後の国内利益率
- 営業利益率10%の定着
- 中国メーカーの先進国入札での採用
- 総還元性向と自社株買いの規模
- 病院情報システムの売上成長
- 診療報酬改定の方向
倍率と資本コストの決め方
今の株価は見ずに、モニタ・治療機器・その他の3つで実質の市場規模×シェアから売上を積み、利益率は過去10年が8〜10%で、低収益品の終了で少し上と置いた。倍率は k 7%・ROE・g 3.75% の式の上限に対する割合で置き、市場の倍率には寄せていない。リースは家賃より製品の開発費と在庫が主で、新リース会計の影響は小さい。数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.1→18.35 倍・やや楽観 PER 14.8→17.36 倍・中立 PER 14→16.68 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。