結論
スミダコーポレーションは、電気を蓄え、変換し、整える部品「コイル」の専業メーカーだ。売上は1,472億円で、車載が58%、産業機器が27%、家電が15%を占める。
筆者の結論は、今の値段は妥当という見方だ。事業は世界に拠点を持つ堅実な会社だが、利益率が低く、借金が重い。そのため、うまくいっても資本コストを上回る水準にはなりにくい。
コイルは、顧客の注文に合わせて巻き方を変える受注品だ。数量が増えても、値段を自分で決めにくい。営業利益率は過去12年で7%を超えたことがなく、2025年も5.1%である。
2024年は欧州の電気自動車(EV)補助金の停止で需要が崩れ、利益が4割減った。2025年は人員削減と稼働率の回復で戻ったが、そのうち約10億円は顧客からの一度きりの補償金だった。
財務は重い。純有利子負債は502億円と、時価総額を上回る。利払いは営業利益の3分の1に当たる。借り換えで金利が上がると、利益はさらに削られる。
筆者は、会社の計画(2028年12月期に営業利益100億円)を信じたうえで、なお妥当と見る。上振れの芽は産業機器の伸びと、買収したドイツ企業の効果だ。一方、中国の地場メーカーとの価格競争が、下振れを深くする。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、スミダは「手堅い部品屋だが、持ちたい会社ではない」という評価になる。
事業の質は低い。薄利で、値段を自分で決められず、大手と中国勢に挟まれる。堀は弱い。資本コストを上回る稼ぎが出る年は少なく、時間が経つほど価値が積み上がる構造ではない。
資本の使い方も慎重に見る。借金を返しながら成長投資を行うので、株主に回るお金は限られる。前の中期計画は、売上で1,900億円を目標に、実績は1,471億円にとどまった。買収したSchmidbauerが収益に貢献するかは、まだ数字では確認できない。
安全域は、事業が悪くなった場合に残る資産の厚さで測る。ここは弱い。自己資本比率は38%で、純負債が時価総額を上回る。業績が崩れると、株主の取り分が急に減る構造だ。
10年後の価値を確率で加重すると、今の時価総額と同じ程度になる。割安とも割高とも言えない。
筆者がいちばん気にしているのは、借金の重さと薄利が重なることだ。利益の3分の1が利払いに消え、銅や賃金の上昇を価格に転嫁できないと、赤字に近づく。確信度は低めに置いた。
何で稼ぐ会社か
スミダはコイル、つまり電線を巻いた部品をつくる。コイルは電気を一時的に蓄え、電圧を変え、ノイズを抑える。あらゆる電子機器に入っているが、単価は安く、製品ごとに設計が違う。
売上の約6割は車載向けだ。EVの充電器、モーターの制御、ヘッドライトなどに使われる。主な顧客は欧州の自動車部品メーカーや、中国の自動車メーカーである。2025年の車載売上は854億円で、前年から2.8%減った。中国の地場メーカーの台頭で、欧州系の顧客向けが伸びなかった。
産業機器向けは393億円で、8%増えた。太陽光発電のインバーター、蓄電池、急速充電器、ロボットなどに使われる。欧州では急速充電と太陽光が落ち込んだが、アジアと北米の蓄電池が補った。2025年10月に、ドイツのコイル企業Schmidbauer(シュミットバウアー)を買収して、この分野を厚くした。
家電向けは225億円で、14%増えた。ノートパソコン、タブレット、スマートフォン向けの小型コイルが中心だ。
生産は中国で始まり、いまはベトナムなどに広げている。2026年1月にベトナム北部の新工場が動き出した。営業・開発・製造を、欧州・アジア・北米の各地域で完結させる「地産地消」を掲げる。
優良さと弱いところ
スミダの強みは、顧客に合わせて巻き方を変える設計力と、世界3地域に構えた生産拠点だ。一つの案件を取ると、次の案件の引き合いにつながる。実績が営業力になる、地味だが確かな仕組みである。
一方で、堀、つまり他社がまねできない強みは弱い。コイルは顧客が複数の会社から買うのが普通で、設計図が顧客の手にある。村田製作所、TDK、太陽誘電、京セラといった大手が相手になり、中国の新興メーカーも価格で攻めてくる。営業利益率は過去12年で最高が6.9%と、薄利の構造が続いている。
銅という原材料の影響も大きい。会社の計画によると、2028年までに銅価格が利益を17億円押し下げる。2026年の第2四半期には、銅が前年から約4割上がった。値上げを顧客に転嫁するまでに、時間差が生じる。
資本効率は低い。ROEは5.8%で、過去10年の中央値は7.0%だ。資本コストを下回る年がほとんどである。
経営は、損益分岐点の改善に動いている。欧州と中国で人員を減らし、生産の効率を上げた。ただ、2024年に出した中期計画の目標(営業利益135億円)には大きく届かなかった。計画の達成実績が乏しいことは、厳しく見る必要がある。
筆頭株主は信託銀行の口座(約14%)で、特定の支配株主はいない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
スミダの市場は、車載、産業機器、家電の3つで、事情が違う。
車載では、EVの普及が減速した。欧州の補助金停止と米国の環境政策の転換が、2024年に需要を急変させた。電動化が止まるわけではないが、普及の速度が読みにくくなった。中国では地場のEVメーカーが勢いを増し、欧州系の顧客の販売が落ちた。競合の中国メーカーは、日本の部品より安い。
産業機器は、スミダが最も期待をかける分野だ。太陽光、蓄電池、電力網の更新、データセンターの電源、ロボットなど、電力を扱う機器が増える。AI向けの電力需要の増加が追い風になる。ただ、この市場は拡大するほど参入者が増え、価格競争が厳しくなると会社自身も認めている。
家電は、パソコンやスマートフォンの数量が横ばいで、成熟した市場だ。価格の下落が続く。
全体として、コイルの数量は電動化と電力機器の増加で伸びる。しかし、値段は競争に押され、物価並みには上がりにくい。会社の中期計画でも、2028年までの売上の伸びは年3.9%にとどまる。物価を考えれば、実質では成長がほとんどない。
欧州、北米、アジアの各地域で地産地消を進める点は、関税や地政学のリスクに強い。この点は、中国一極の競合に対する利点だ。
資本政策と M&A
配当は、連結配当性向30%以上を基本に、株主資本配当率(DOE)3%も考慮する方針だ。2025年12月期の配当性向は48%だった。業績が悪い年にも配当を維持しやすい設計である。
2026〜2028年度の3年間で、営業キャッシュフロー490億円を、成長投資200億円超、既存投資130億円、財務改善100億円弱、株主還元60億円に振り向ける。最優先は成長投資で、次が株主還元だ。ネットD/Eレシオ(純負債が自己資本の何倍か)を、今の0.81倍から0.6倍へ下げる。
M&Aでは、2025年10月にドイツのSchmidbauerを買収した。産業機器向けの大型コイルを持ち、東欧・アジア・北米の工場で作る計画だ。買収の効果は2028年に営業利益8億円を見込む。うまくいけば成長の柱になる。
新事業として、岩手大学発のVPコイル(膝の痛みの治療器)と、京都大学との量子磁気センサーを進めている。夢のある話だが、収益は先で、筆者は価値に入れなかった。
純負債は502億円で、金利が3.5%に上がれば利払いが膨らむ。借金の返済が先で、株主還元は後回しになりやすい。株価は純資産の0.65倍で、会社はPBR1倍以上を目標にしている。M&Aや買収の可能性は、参考値で27.7%と高めだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
会社の計画は、実績で裏づけられ始めている。2025年は人員削減と稼働率の回復で、営業利益が45億円から74億円に戻った。計画では生産効率で25億円、原材料費の削減で24億円、製造間接費で13億円を積み、2028年に営業利益100億円を目指す。
産業機器は伸びる。太陽光、蓄電池、データセンターの電源、電力網の更新は、世界で投資が続く分野だ。獲得済みの案件は、産業機器で330億円、グリーンエネルギーで640億円にのぼる。Schmidbauerの買収で大型コイルの市場にも入り、クロスセルが効く。
車載は、電動化が止まったわけではない。EVだけでなく、ハイブリッド車やバイクの電動化も進み、1台あたりのコイルの搭載数は増える。中国と欧州で人員を減らしたことで、損益分岐点が下がり、少ない売上でも利益が出る。
財務も改善に向かう。純負債は、営業キャッシュフローで返済が進む。ネットD/Eが0.6倍になれば、利払いが減り、純利益は営業利益の6割に近づく。
利益率が7%台に乗れば、ROEは1割を超え、PBRは1倍を回復する。
慎重な見方
まず、前の計画が大きく外れた事実を見るべきだ。2024年に出した計画は、2026年に営業利益135億円だった。現実は74億円で、新しい計画は100億円に引き下げられている。今回の計画も、同じ道をたどる可能性がある。
利益率の低さは構造だ。営業利益率は過去12年の最高でも6.9%。大手と中国勢に挟まれ、値上げができない。銅価格が約4割上がっている今、転嫁の遅れで利益が削られる。会社の計画にも、銅で17億円、賃金で28億円の減益要因が入っている。
2025年の営業利益74億円には、顧客からの一度きりの補償金10億円が含まれる。これを除くと、実力は60億円台だ。2026年の会社予想の営業利益が75億円と伸びないのも、この反動を示す。
借金も重い。純負債は502億円で、時価総額より大きい。利払いが営業利益の3分の1を消している。金利が上がるたびに、利益が削られる。EVの需要が再び落ち込めば、赤字に戻る。
筆者は、中国の地場勢が欧州系顧客を奪う動きが、一時的な現象でないと見る。車載の売上が減り続ければ、固定費を吸収できなくなる。
どちらに重みを置いたか
計画の中身は具体的で、産業機器の伸びは確かだ。ただ、前の計画の未達、薄利の構造、重い借金は事実で、慎重な見方が重い。中立を4割弱に置き、やや悲観に2割強、悲観に14%を割り当てた。
10年後の価値は今の時価総額とほぼ同じだ。会社の計画どおり進んでも、ROEは資本コストにやや届かず、倍率は高くならない。上振れの幅も限られ、下振れの谷が深い非対称な形だ。確率を悲観側に厚く置いたのは、借金の重さが下振れを増幅するためである。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 2,288 円757 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 636 円211 億円)。 今の値に割り戻すと 1,435 円475 億円、今との差 +23.2%、 期待の年率 +9.6%(資本コスト 8.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 5,280 円1,748 億円 | 909 円301 億円 | +431.3% | +18.2% | 371 円123 億円 |
| やや楽観 | 18% | 3,981 円1,318 億円 | 819 円271 億円 | +312.0% | +15.2% | 864 円286 億円 |
| 中立 | 38% | 2,711 円897 億円 | 680 円225 億円 | +191.0% | +11.3% | 1,288 円426 億円 |
| やや悲観 | 24% | 729 円241 億円 | 574 円190 億円 | +11.8% | +1.1% | 313 円103 億円 |
| 悲観 | 14% | 356 円118 億円 | 272 円90 億円 | −46.1% | −6.0% | 88 円29 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,288 円757 億円 | 636 円211 億円 | +151.0% | +9.6% | 2,924 円968 億円 |
今の株価時価総額 1,165 円386 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 産業機器の伸びと借金の返済が重なる 利益 136 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 5,280 円1,748 億円
産業機器の受注が倍増する。太陽光、蓄電池、データセンターの電源、電力網の更新が世界で続き、Schmidbauerの大型コイルが加わる。獲得済みの案件が着実に売上になる。
車載は、電動化の再加速で搭載数が増える。人員削減で損益分岐点が下がり、少ない売上でも利益が出る。利益率は6%台半ばに上がる。
家電は、パソコンやタブレットの買い替えで堅調に推移する。単価は物価並みに近く上がる。
全社の営業利益率は7%台後半で、過去の最高を上回る。営業キャッシュフローで借金を返し、ネットD/Eは0.6倍を下回る。利払いが減り、ROEは1割を超える。
- 車載向けコイル:数量 338(出荷個数(百万個、推定))× 価格 4.58(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 1,545 億円・営業利益 100 億円。電動化で1台あたりの搭載数が増え、欧州・北米の顧客で受注が戻る
- 産業機器向けコイル:数量 140(出荷個数(百万個、推定))× 価格 7.53(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 1,054 億円・営業利益 111 億円。蓄電池・データセンター電源・電力網で受注が倍増
- 家電向けコイル:数量 440(出荷個数(百万個、推定))× 価格 0.70(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 309 億円・営業利益 15 億円。ノートPC・タブレット向けが堅調
倍率:事業の純利益 136 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.87 倍、時価総額 1,748 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:産業機器の倍増、車載の回復、借金の返済が10年そろう必要があり、薄利の構造を考えて6%に置いた。
やや楽観 18% 計画線をおおむね達成する 利益 107 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 3,981 円1,318 億円
会社の2028年計画(売上1,650億円、営業利益100億円)をほぼ達成し、その後も年4〜5%で伸びる。産業機器が牽引し、車載は数量を保つ。
生産効率の改善と原材料費の削減が、賃金と銅価格の上昇を相殺する。利益率は7%に届く。
借金は計画どおり返済が進み、ネットD/Eは0.6倍に下がる。配当は性向4割弱で、少しずつ増える。
ROEは1割に届き、資本コストをわずかに超える。会社の目標どおりの姿だ。
この筋書きを支えるのは、獲得済みの案件だ。産業機器で330億円、グリーンエネルギーで640億円(生涯の売上ベース)の案件が、すでに決まっている。新しい工場の立ち上がりと、Schmidbauerとのクロスセルが予定どおり進めば、会社の線に近づく。ただ、前の計画が大きく外れた経緯を踏まえ、上振れは限定的と見る。
- 車載向けコイル:数量 305(出荷個数(百万個、推定))× 価格 4.47(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 1,365 億円・営業利益 79 億円。計画の年3〜4%増を保ち、生産効率の改善が利益に残る
- 産業機器向けコイル:数量 123(出荷個数(百万個、推定))× 価格 7.41(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 908 億円・営業利益 86 億円。Schmidbauer統合と蓄電池で計画を上回る
- 家電向けコイル:数量 400(出荷個数(百万個、推定))× 価格 0.67(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 270 億円・営業利益 12 億円。数量は横ばい、単価は物価並み
倍率:事業の純利益 107 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.4 倍。全体の PER 12.36 倍、時価総額 1,318 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の2028年計画をその後も保つ筋書き。獲得済みの案件が裏づけになるが、前計画の未達を考え2割弱に置いた。
中立 38% 計画に届かず、薄利のまま成熟 利益 76 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,711 円897 億円
産業機器は数量が5割増え、全体の成長を牽引する。ただし単価は競争で物価に届かず、利益率は8%台半ばにとどまる。
車載は、数量が1割ほど増えるが、単価は中国勢の価格攻勢で物価に追いつかない。利益率は5%台前半だ。家電は数量が微減する。
全社の営業利益率は6%台前半で、過去の最高(6.9%)の手前に収まる。会社の計画をやや下回る。
借金は少しずつ減るが、金利上昇の分で利払いは減らない。配当は性向4割で維持され、ROEは8%にとどまる。資本コストにわずかに届かない。
中立では、会社の2028年の目標(営業利益100億円)には届かず、その後も伸びは緩やかだ。生産効率の改善は効くが、賃金と銅価格の上昇が利益を食う。10年の利益の伸びは、実質ではほぼゼロ、物価分だけ増える形である。
- 車載向けコイル:数量 280(出荷個数(百万個、推定))× 価格 4.37(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 1,224 億円・営業利益 64 億円。数量は微増、単価は競争で物価に届かず
- 産業機器向けコイル:数量 105(出荷個数(百万個、推定))× 価格 7.30(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 767 億円・営業利益 65 億円。電力・蓄電・産業で数量が5割増える
- 家電向けコイル:数量 380(出荷個数(百万個、推定))× 価格 0.65(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 246 億円・営業利益 10 億円。数量は微減、単価は物価に追いつかない
倍率:事業の純利益 76 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 897 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:産業機器は伸びるが、車載の価格競争で全体の利益率は6%前後にとどまる。最も蓋然性が高く4割弱。
やや悲観 24% 中国勢との価格競争で利益が伸びない 利益 27 億円 · PER 8.9 倍 · 株価時価総額 729 円241 億円
中国の地場メーカーが欧州系の顧客にも食い込み、車載の数量は5%減る。単価も物価に追いつかず、利益率は3%台半ばに下がる。
産業機器は、欧州の補助金の後退で伸びが鈍る。参入者が増えて価格競争も厳しくなる。
銅価格と賃金の上昇を転嫁できず、全社の営業利益率は4%に下がる。利払いが重く、純利益は営業利益の4割に届かない。
配当は維持するが、借金の返済は進まない。ROEは4%を割り、資本コストを大きく下回る。
この筋書きでは、会社の計画は実現しない。2024年の再来のように、需要が減り、固定費が重くなる年が出る。ただし、人員削減で損益分岐点が下がっているため、赤字には落ちない。薄い黒字が続く姿だ。
- 車載向けコイル:数量 238(出荷個数(百万個、推定))× 価格 3.93(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 933 億円・営業利益 33 億円。中国の地場勢に押され、欧州系顧客向けが減る
- 産業機器向けコイル:数量 80.5(出荷個数(百万個、推定))× 価格 6.74(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 543 億円・営業利益 30 億円。欧州の補助金後退で伸びが鈍る
- 家電向けコイル:数量 340(出荷個数(百万個、推定))× 価格 0.62(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 210 億円・営業利益 5 億円。価格競争で薄い利益のまま
倍率:事業のROE 3.6%はk 8.5%以下なので、正当化PERの上限は1÷k=11.1倍(ためた利益は額面未満)。この筋書きの稼ぐ力の弱さを反映して上限の8.0割の8.9倍に置いた。
確率:中国勢の攻勢で車載の利益が伸びず、金利上昇が利益を削る筋書き。前計画の未達と薄利の実績から、2割強と厚めに置いた。
悲観 14% 構造的に負ける:薄利と借金で赤字に戻る 利益 −20 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 356 円118 億円
EV需要が長く低迷し、顧客は自社生産や中国部品に切り替える。車載の数量は4分の1減り、固定費を吸収できなくなる。利益率は1%を割る。
産業機器は、補助金頼みの需要が戻らず、数量が落ちる。家電は低価格品に押されて赤字になる。
営業利益は十数億円に縮み、重い利払いで最終赤字に戻る。工場の減損で自己資本も目減りする。配当は大きく削られる。
資産の売却価値は、簿価の半分強にとどまる。営業資産から純負債を引いた残りは、わずかだ。株主の取り分は、今の時価総額を大きく下回る。
この筋書きは、2024年に実際に起きた利益の急減が、一時的でなく続く姿だ。需要の減少、固定費、利払いが同時に重なる。借金が重い分、悪化の速度が速く、株主の取り分は早く目減りする。
- 車載向けコイル:数量 188(出荷個数(百万個、推定))× 価格 3.59(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 673 億円・営業利益 5 億円。顧客の内製化と中国勢で数量が落ち、固定費を吸収できない
- 産業機器向けコイル:数量 63.0(出荷個数(百万個、推定))× 価格 6.18(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 389 億円・営業利益 10 億円。補助金頼みの需要が戻らない
- 家電向けコイル:数量 280(出荷個数(百万個、推定))× 価格 0.56(1百万個あたりの売上(億円))→ 売上 157 億円・営業利益 −2 億円。低価格品に押され赤字
倍率:悲観は赤字で、PERは当てられない。今の自己資本620億円に掛ける床の倍率として0.19倍に置いた。営業資産の簿価(自己資本+純負債で約1,120億円)を、売却で5割強に減らして純負債502億円を引いた残りに合わせた。稼ぐ力ではなく売れる資産の税後で測った。EV÷営業利益は46倍と高いが、営業利益が薄いための数字で、借金を引いたあとの株主の取り分で見ている。
確率:EV需要の落ち込み、顧客の内製化、中国勢の価格攻勢が重なり、重い借金が下振れを増幅する構造的な負け。2024年に利益率が3.1%に落ちた実績があり、14%と厚めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
車載向けコイル
EVの充電器、モーター制御、照明などに使うコイルとトランス。欧州・中国・北米の自動車部品メーカーが顧客。
| 数量出荷個数(百万個、推定) | 価格1百万個あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 250 | 3.42 | 854 | 44 |
| 10 年後 中立 | 280 | 4.37 | 1,224 | 64 |
取り方:出荷個数は非開示。売上を平均単価(1個あたり数百円規模)で割って約2.5億個と推定した。営業利益は市場別の開示がなく、全社74億円のうち5.2%と仮置きした(産業機器がより高い前提)。
産業機器向けコイル
太陽光インバーター、蓄電池、急速充電器、ロボット、データセンター電源向けの大型コイル。Schmidbauerを含む。
| 数量出荷個数(百万個、推定) | 価格1百万個あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 70.0 | 5.62 | 393 | 33 |
| 10 年後 中立 | 105 | 7.30 | 767 | 65 |
取り方:出荷個数は非開示。大型のため単価が車載より高いとみて、約7,000万個と推定した。営業利益は仮置きで8.5%。
家電向けコイル
ノートパソコン、タブレット、スマートフォン向けの小型コイル。
| 数量出荷個数(百万個、推定) | 価格1百万個あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 400 | 0.56 | 225 | 8 |
| 10 年後 中立 | 380 | 0.65 | 246 | 10 |
取り方:出荷個数は非開示。小型で単価が低いため約4億個と推定した。営業利益は仮置きで3.5%(全社74億円に合わせた)。
リスクと懸念
EV需要の再度の落ち込み
2024年は欧州のEV補助金停止で需要が急変し、営業利益が45億円に減った。車載は売上の6割近くを占める。電動化の遅れが再燃すれば、増設した設備の固定費が重くなる。
中国の地場メーカーとの価格競争
2025年の車載売上は、中国の地場メーカーの台頭で欧州系顧客向けが伸びず、2.8%減った。価格で中国勢に勝てないと、数量・単価とも落ちる。
銅価格と賃金の上昇
2026年は銅が前年から約4割上がった。会社は2028年までに銅で17億円、賃金で28億円の減益を見込む。値上げを顧客に転嫁できなければ、薄利が赤字に近づく。
重い借金と金利
純有利子負債は502億円で時価総額を上回り、利払いは営業利益の3分の1に当たる。借り換えで金利が上がるたびに、純利益が削られる。
計画の未達
2024年の計画は2026年に営業利益135億円を掲げたが、現実は74億円で、新計画は100億円に引き下げられた。今回の計画も届かない恐れがある。
一度きりの補償金
2025年の営業利益には、顧客からの補償金10億円が含まれている。これを除くと実力は60億円台で、2026年の会社予想の伸びが小さい理由と重なる。
Schmidbauerの統合
2025年10月に買収したドイツ企業の統合が計画どおり進むか未確認だ。営業利益8億円の貢献を見込むが、買収後の成果は数字で出ていない。
今後の分かれ目
- 産業機器向けの売上が2期連続で前年比10%超の伸びを示す
- 蓄電池・電力網の需要が実績で裏づけられ、楽観側の確率を上げる。
- 営業利益率が2期連続で4%を割り込む
- 2024年の再来で、悲観側へ確率を寄せる。
- ネットD/Eが0.6倍に下がる前に、大型のM&Aを発表する
- 借金が再び膨らみ、下振れの谷が深くなる。
- 銅価格の上昇を、顧客への価格転嫁で吸収する
- 利益率の下振れ懸念が和らぎ、中立の利益率を維持できる。
- 中国の地場メーカーが欧州系の顧客の主要品を獲得する
- 車載の数量・単価が崩れる兆しで、悲観側へ確率を寄せる。
- VPコイルの人での臨床試験が始まる
- 新事業が価値に加わる可能性が出るが、収益は先で、直接の影響は限られる。
見ておくもの
- 産業機器向け売上の伸び(蓄電池・電力網・データセンター)
- 営業利益率(4%を割らないか)
- ネットD/Eレシオ(0.6倍への低下)
- 銅価格と価格転嫁の状況
- 中国メーカーとの車載の受注競争
倍率と資本コストの決め方
今の株価は見ずに、3つの市場の数量×価格で10年後の売上と利益を積み上げ、その時点のROEとk 8.5%から正当化PERを決めた。堀が弱く借金が重いため、中立は上限の8.5割(9.4倍)とした。ROEは資本コストにやや届かず、PERは1÷kの近くに収まる。悲観は赤字で、売れる資産から純負債を引いた床に置いた。純利益÷営業利益は、金利上昇による利払いの増加を織り込み0.55とした。市場の倍率は根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.7→12.87 倍・やや楽観 PER 9.7→12.36 倍・中立 PER 9.4→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。