結論
日本タングステンは、タングステンと超硬合金を削り、焼き、部品にする福岡の中堅メーカーだ。衛生用品の製造ラインで使うカッターや、医療用ワイヤー、半導体装置の部材を作る。筆者の結論は割高。理由は、原料高の追い風が一時的で、10 年の稼ぐ力に比べて今の時価総額が重いことだ。
2026 年 3 月期は売上 128 億円、営業利益 7 億円。純利益は固定資産の減損で 3 億円に沈んだ。ところが 2026 年 8 月、会社は中間期の営業利益を 15 億円へ引き上げた。中国の輸出規制でタングステンが急騰し、安く仕込んだ原料が原価を軽くしているからだ。この差益は在庫が入れ替われば消える。長く続く稼ぐ力ではない。
事業そのものは堅い。NT ダイカッターは国内で約 5 割のシェアを持つ消耗品で、HDD 基板や医療用ワイヤーも育っている。ただ、原料の値段は自社で決められず、利益率は 10 年の山でも 8% 台だ。中立の見立てで 10 年後の純利益は 12 億円前後。自己資本利益率は資本コストに届かず、倍率を高く置ける会社ではない。強気の筋書きでも、今の時価総額を大きく超える水準には届かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社を持ち続けたいかと問えば、答えは慎重になる。
良い点は、事業が分かりやすく、消耗品で食べる部分があり、財務が堅いことだ。悪い点は、利益の質にある。原料の値段を自社で決められないため、利益は市況に振れる。直近の営業利益の急伸も、在庫の入れ替わりで薄れる性質のものだ。
稼ぐ力を物価込みで 10 年伸ばしても、自己資本利益率は資本コストに届かない。この水準の会社が先に払うべき倍率は、利益の約 10 倍までだ。安全域は、今の時価総額ではまず取れない。原料高の恩恵が長く続く、と読めない限り、割高に見える。
見直す条件は 2 つある。原料の調達で他社にない強みを持ち、利益率が 10% 近くで定着すること。そして純現金が積み上がり、株主に戻されることだ。どちらも、決算の数字で確かめられる。
何で稼ぐ会社か
事業は 2 本柱だ。売上のおよそ 5 割強が機械部品、残りが電機部品である。
機械部品の主役は NT ダイカッター。おむつや生理用品の製造機に付ける超硬のロータリーカッターで、刃は使うほど減り、研ぎ直しや交換の需要が続く。国内で約 5 割、世界でも上位のシェアを持つ。もう 1 つの柱が HDD 用の磁気ヘッド基板で、データセンター向けの大容量ディスクで需要が伸びる。主な顧客は米国のシーゲイトとウエスタンデジタルだ。
電機部品は、タングステン線・電気接点・電極が中心になる。カテーテルのガイドワイヤーなど医療用の細線、半導体製造装置の給電端子や静電チャックの部材、自動車の抵抗溶接用電極が主な出口だ。EV のリレー用接点は米国の EV 減速で苦戦している。
どの製品も、原料のタングステンを加工して付加価値を乗せる点が共通する。原料は世界の供給が中国に偏る。値決めは顧客との交渉で、原料の動きを後追いする時間差が利益の振れを生む。
製造は国内の工場が中心で、焼結炉や研磨機などの設備が要る。設備は一度買えば長く使うが、更新の時期には費用がかさむ。
優良さと弱いところ
優良な会社かと問えば、小さなニッチで堅実に稼ぐ会社だ。強い堀ではない。
強みは 3 つある。第一に、NT ダイカッターのように刃の摩耗で需要が続く消耗品を持つこと。第二に、超硬の焼結や精密研磨の技術が顧客の工程に組み込まれ、切り替えに手間がかかること。第三に、自己資本比率が 7 割で、純現金を持つことだ。
弱みも明らかだ。売上は 12 年間で 100 億円台から動かず、営業利益率は高くても 8% 台、赤字の期は過去 20 年で 4 回ある。原料の値段を自分で決められず、中国向けの消耗品は現地メーカーとの競争にさらされる。2024 年度までの中期計画は、営業利益 10 億円の目標に届かなかった。経営の資本配分は堅実だが、資本効率は低い。自己資本利益率の中央値は 5.7% だ。
このため筆者は、資本コストを 7.5% と、基本より 0.5 ポイント高く置いた。景気と原料の振れが利益を左右するのが理由である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業界を決めるのは、原料の値段と、顧客の工場の稼働だ。
原料のタングステンは、中国が世界の供給の大半を握る。2025 年に中国が輸出規制を強め、原料価格は 2025 年初から約 2 倍に上がった。超硬の大手は三菱マテリアルが素材の価格を大きく引き上げており、日本タングステンも顧客に価格改定を求めている。値上げが通れば売上は増える。だが原料が上がった分を乗せるだけでは、利益の額は増えにくい。利益が増えるのは、安く仕込んだ在庫が高い売値で出る間だけだ。
需要の側では、医療用の細線と半導体装置の部材が追い風になる。データセンターの増設で HDD 基板も伸びる。逆風は、中国の産業機械の調整と、米国の EV 減速によるリレー接点の低迷だ。衛生用品の製造機は台数が伸びにくく、数量は横ばいと見る。
10 年で見れば、数量は電機部品が少し伸び、機械部品は横ばいから微減になる。価格は物価並みに上がり、原料高の一部が定着すると見る。
市場の大きさは、同じ超硬・タングステン加工の世界の競合から見積もるのが現実的だ。大手は住友電工ハードメタルや京セラのように工具で数千億円を売る。日本タングステンは工具ではなく、衛生用品や医療用などの限られた用途を専有する小さな専門店だ。
資本政策と M&A
資本政策は堅実だが、積極的ではない。配当は下限を決めたうえで純利益の 4 割を目安とし、自社株買いも適宜行う。方針は 2026 年 3 月期に手厚い方向へ改められた。
手元は純現金が約 8 億円で、時価総額の 5% ほどにとどまる。大きな余り現金はなく、現金を分けて足す扱いはしない。買収を重ねて成長してきた会社でもない。新しい中期経営計画は見つからず、目標の公表も限られる。
小型株なので、事業会社による買収や TOB の可能性は残る。外部の推計は 10 年以内で約 2 割だが、確かな根拠がなく、筋書きの確率には織り込んでいない。設備投資は、償却を上回る更新が必要になる。今ある設備の償却は昔の値段のままだが、建て替えは物価の上昇で割高になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
タングステンの供給は中国に偏り、規制は一時的な話ではない。非中国の調達先を確保した会社は、原料高を価格に乗せられる。日本タングステンは原料を中国以外からも調達でき、需要に応えた実績がある。2026 年の中間期の見通しは、従来予想より売上が 18% 多く、営業利益は約 4 倍に上がった。
需要の側も追い風が続く。医療用のガイドワイヤーは北米で旺盛で、価格改定が利益率を押し上げている。半導体装置の給電端子は設備投資とともに伸びる。HDD 基板はデータセンターの増設で需要が続く。電機部品の利益は 2025 年の中間期に 4 割増えた。この流れが 10 年続けば、営業利益率は 9% 台に乗る。
さらに、小型株は事業会社に買われる余地がある。純現金があり、財務が軽い会社は買い手から見て扱いやすい。
加えて、会社は還元方針を手厚くしたばかりで、利益が増えれば配当と自社株買いの両方が増える。資本の使い方が株主寄りに変わる局面で、利益が段階的に切り上がる。これが楽観の核だ。
慎重な見方
今の利益は在庫の入れ替わりが生んだ一時の差益である。通期予想を据え置いたのが、会社自身が持続を信じていない証拠だ。原料が落ち着けば差益は消え、利益は元の 7 億円前後に戻る。
事業の足場も強くない。機械部品の利益は、中国向けの NT ダイカッターの減少で 2025 年の中間期に約 4 割減った。現地メーカーが育てば、価格と数量の両方を削られる。EV リレー接点は米国の EV 減速で縮み、戻る保証がない。
過去 12 年ほど売上は 100 億円台から動かず、営業利益率の山は 8% 台だった。成長の実績がない会社に、原料高の局面だけを根拠に高い倍率は付けられない。固定資産の減損を約 8 億円も計上した直後であり、設備の稼ぎ方にも疑いが残る。
自己資本利益率は過去 10 年の中央値でも 5.7% にとどまる。資本コストを下回る会社の純資産は、帳簿どおりの価値を持たない。時価総額が自己資本を上回っている今の水準は、期待が先に走った値付けにみえる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強い。原料高の差益は続かず、10 年の稼ぐ力は物価並みの伸びにとどまる、と筆者は読む。
強気の見方は、医療・半導体・HDD の需要が本物で、非中国の調達力が強みになりうる点では当たっている。そのため楽観とやや楽観に合わせて 3 割の確率を置いた。それでも自己資本利益率が資本コストを超える筋書きは少数にとどまる。確率は、中立に 4 割、悲観側に 3 割とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,319 円162 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 868 円42 億円)。 今の値に割り戻すと 2,215 円108 億円、今との差 −30.1%、 期待の年率 +2.8%(資本コスト 7.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 7,870 円383 億円 | 1,405 円68 億円 | +192.6% | +11.3% | 927 円45 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,600 円224 億円 | 1,049 円51 億円 | +78.2% | +5.9% | 1,130 円55 億円 |
| 中立 | 40% | 3,257 円159 億円 | 863 円42 億円 | +30.0% | +2.7% | 1,648 円80 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,084 円53 億円 | 750 円37 億円 | −42.1% | −5.3% | 367 円18 億円 |
| 悲観 | 10% | 924 円45 億円 | 226 円11 億円 | −63.7% | −9.6% | 115 円6 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,319 円162 億円 | 868 円42 億円 | +32.1% | +2.8% | 4,187 円204 億円 |
今の株価時価総額 3,170 円154 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 原料高が定着し、医療・半導体向けが主力に育つ 利益 24 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 7,870 円383 億円
原料のタングステンは中国の規制で高止まりし、日本タングステンは非中国の調達先を確保して、値上げを顧客に通し続ける。
機械部品は、データセンターの増設で HDD 基板が伸び、NT ダイカッターも世界でシェアを広げる。出荷点数は 1.2 倍近くに増え、単価は物価を 25% 上回る。
電機部品は、医療用ワイヤーと半導体装置の部材が主力になる。出荷点数は 1.5 倍、単価は物価を 2 割上回り、営業利益率は 12.5% に乗る。
10 年後の営業利益は 25 億円台、全社の利益率は 9% 台前半で、過去の山を超えない範囲にとどまる。
- 機械部品(超硬カッター・HDD基板):数量 100(出荷点数(万点/年・推定))× 価格 14(1 点あたり平均単価(千円))→ 売上 135 億円・営業利益 12 億円。原料高が定着、HDD基板とNTダイカッターが伸びる
- 電機部品(接点・タングステン線・半導体部材):数量 45.0(出荷点数(百万点/年・推定))× 価格 318(1 点あたり平均単価(円))→ 売上 143 億円・営業利益 18 億円。医療・半導体の需要と値上げが定着
倍率:事業の純利益 24 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.2 倍。全体の PER 16.17 倍、時価総額 383 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:原料の調達難が長引く中で非中国の調達先を握り、医療・半導体の需要も伸びる、と全部がそろう必要があり、1 割にとどめる。
やや楽観 20% 値上げが通り、電機部品が利益を引っ張る 利益 16 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 4,600 円224 億円
値上げは通るが、原料高の差益は在庫の入れ替わりで消え、安定した利益率に落ち着く。
機械部品は、HDD 基板が支えとなり、NT ダイカッターの中国向けは横ばいから微減にとどまる。単価は物価を 12% 上回る。
電機部品は、医療用細線と半導体部材が 10 年で 3 割強伸び、利益率は 11.5% まで上がる。営業利益は 17 億円台で、2019 年 3 月期の山より少し低い水準に収まる。
財務は堅く、自己資本利益率は資本コストをわずかに超える。原料高の水準は一部が定着するが、残りは顧客との再交渉で戻る。配当は純利益の 45% 程度を保つ。
- 機械部品(超硬カッター・HDD基板):数量 92.0(出荷点数(万点/年・推定))× 価格 12(1 点あたり平均単価(千円))→ 売上 111 億円・営業利益 8 億円。値上げが通る
- 電機部品(接点・タングステン線・半導体部材):数量 40.0(出荷点数(百万点/年・推定))× 価格 292(1 点あたり平均単価(円))→ 売上 117 億円・営業利益 13 億円。電機部品の利益率が改善
倍率:事業の純利益 16 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍。全体の PER 14 倍、時価総額 224 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電機部品の医療・半導体向けが育ち、機械部品もHDD基板で下支えされる展開。業界の上ぶれ側の本線として 2 割。
中立 40% 値上げは物価並みに落ち着き、細く長く稼ぐ 利益 12 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 3,257 円159 億円
原料高は一巡し、価格改定は物価並みに落ち着く。医療・半導体向けが少し伸びるが、中国向けと EV 向けが足を引っ張り、全体の数量はほぼ横ばいだ。
機械部品は出荷点数が横ばいで、単価は物価に原料高の定着分を 8% 加えた分だけ上がる。電機部品は出荷点数が 15% 増え、営業利益率は 10.5% を保つ。
全社の営業利益は 13 億円弱、利益率は 6.4% と、過去 12 年の山より低い。本社費などは物価で 1.34 倍に増える。自己資本利益率は 6.5% と資本コストを下回り、成熟したニッチ企業として落ち着く。
- 機械部品(超硬カッター・HDD基板):数量 86.0(出荷点数(万点/年・推定))× 価格 12(1 点あたり平均単価(千円))→ 売上 100 億円・営業利益 7 億円。物価並みの値上げで横ばい
- 電機部品(接点・タングステン線・半導体部材):数量 34.5(出荷点数(百万点/年・推定))× 価格 287(1 点あたり平均単価(円))→ 売上 99 億円・営業利益 10 億円。医療・半導体で数量が少し伸びる
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 159 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:原料高の転嫁は進むが、安定した利益率は物価並みの価格改定の範囲に収まる、という最もありそうな展開。4 割。
やや悲観 20% 中国の内製化とEV失速で、足場が削られる 利益 7 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,084 円53 億円
中国の衛生用品メーカーが国産のカッターに切り替え、NT ダイカッターの数量が 1 割強減る。単価は物価並みの上昇にとどまり、原料高の転嫁は進まない。
電機部品は、EV リレー接点の縮小が続く一方、医療・半導体は横ばいにとどまる。営業利益率は 9% に下がる。
全社の営業利益は 7 億円で、過去と同じ水準だが、物価で膨らむ本社費に食われて実質では縮む。配当の下限を保ち、還元は純利益の 55% まで高まる。
自己資本は伸びず、財務の堅さだけが残る。原料高の転嫁も遅れがちで、利益の額は物価に追いつけない。買い手がつく可能性はあるが、ここでは見込まない。
- 機械部品(超硬カッター・HDD基板):数量 75.0(出荷点数(万点/年・推定))× 価格 11(1 点あたり平均単価(千円))→ 売上 81 億円・営業利益 5 億円。中国の内製化で数量が減る
- 電機部品(接点・タングステン線・半導体部材):数量 30.0(出荷点数(百万点/年・推定))× 価格 265(1 点あたり平均単価(円))→ 売上 80 億円・営業利益 7 億円。EV 向けが縮み、利益率が低下
倍率:ROE 約 4% は資本コスト 7.5% を大きく下回り、構造的に稼ぐ力が落ちる筋書き。倍率は上限 12.5 倍に引き上げず、8 倍とした。
確率:NTダイカッターの中国向けの減少が戻らず、EVリレー接点の縮小も続く。実際に 2025 年の中間期に機械部品の利益が約 4 割減った実績があり 2 割。
悲観 10% 原料高を転嫁できず、中国勢に押される 利益 1 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 924 円45 億円
原料の値段は乱高下し、値上げの交渉がいつも後手に回る。中国の現地メーカーが超硬カッターと線材の両方で価格を下げ、単価は物価を下回る。
機械部品は出荷点数が 3 割近く減り、営業利益率は 3% まで落ちる。電機部品も EV リレー接点の失速と顧客の調達先の変更が重なり、6% まで下がる。
本社費は物価で膨らむ一方、売上は 117 億円と今を下回り、営業利益はほぼゼロになる。設備の減損も続き、自己資本は 120 億円まで削られる。
配当は下限を守れず、買い手による再編の可能性が残る。純現金が減り、営業利益が出ない年が続くと、会社は設備と人員の整理を迫られる。清算に近い価値が下値になる。
- 機械部品(超硬カッター・HDD基板):数量 62.0(出荷点数(万点/年・推定))× 価格 9.67(1 点あたり平均単価(千円))→ 売上 60 億円・営業利益 2 億円。価格競争で単価も下がる
- 電機部品(接点・タングステン線・半導体部材):数量 24.0(出荷点数(百万点/年・推定))× 価格 238(1 点あたり平均単価(円))→ 売上 57 億円・営業利益 3 億円。固定費が残り、利益率が大きく下がる
倍率:赤字寸前で稼ぐ力では測れないため、清算に近い価値で測る。今の自己資本 133 億円に約 0.34 倍を掛けた額が、純現金と売れる資産の税後の合計とほぼ一致する。
確率:原料価格の乱高下で値決めが後手に回り続け、設備の減損も重なる構造的な負け。小さい会社の単一市場依存を考え 1 割。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
機械部品(超硬カッター・HDD基板)
衛生用品の製造機に使う超硬のロータリーカッター(NT ダイカッター)、HDD 用磁気ヘッド基板、耐摩耗部品。
| 数量出荷点数(万点/年・推定) | 価格1 点あたり平均単価(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 85.0 | 8.06 | 69 | 5 |
| 10 年後 中立 | 86.0 | 12 | 100 | 7 |
取り方:開示は売上のみ。出荷点数は推定で、売上 68.5 億円を単価約 8 千円で割った数。利益 4.5 億円は 2025 年の中間期の利益 2.8 億円を通期に延ばして推定した。
電機部品(接点・タングステン線・半導体部材)
電気接点、抵抗溶接用電極、医療用タングステンワイヤー、半導体装置用の給電端子・セラミックス部材。
| 数量出荷点数(百万点/年・推定) | 価格1 点あたり平均単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.0 | 198 | 59 | 6 |
| 10 年後 中立 | 34.5 | 287 | 99 | 10 |
取り方:開示は売上のみ。出荷点数は推定で、売上 59.4 億円を単価が 2 百円前後として割った数。利益 6.0 億円は 2025 年の中間期の利益 3.0 億円を通期に延ばして推定し、全社の営業利益 7.1 億円との差は本社費などの調整とした。
リスクと懸念
原料のタングステン価格と中国の輸出規制
原料は中国に偏り、価格が急に動く。値上げを顧客に通す前に原料が上がると利益が削られ、逆に原料が下がると在庫評価が悪化する。中間期の利益の急伸は、この時間差が生んだ面が大きい。
NT ダイカッターの中国向け需要
機械部品の稼ぎ頭が衛生用品の製造機向けで、中国の景気と現地メーカーの台頭に左右される。2025 年の中間期にはこれで機械部品の利益が約 4 割減った。国産化が進めば、価格と数量が同時に落ちる。
EV 向けリレー接点の失速
電気接点の一部は EV 向けで、米国の EV 販売の減速を受けて低迷している。次世代の電池車で採用が広がらなければ、自動車向けの電機部品は縮む。
HDD と顧客の集中
HDD 基板の主な顧客は米国の 2 社に限られる。SSD への置き換えが進むか、顧客が調達先を変えれば、機械部品の成長が止まる。
設備の減損と更新負担
2026 年 3 月期に約 8 億円の減損を出した。設備の更新は建築費や機械価格の上昇で膨らみ、償却を上回る投資が続けば現金が細る。減損の再発も、純資産を削る可能性として残る。
今後の分かれ目
- 通期予想の修正で、営業利益が 15 億円を大きく超えて定着する
- 原料高の転嫁が利益率の底上げにつながった証拠。楽観とやや楽観の確率を上げ、割高の度合いは縮む。
- 原料価格が下がり、中間期の差益が下期に消える
- 利益は 7 億円前後に戻り、筋書きは中立と悲観側の比重が高まる。
- 中国向け NT ダイカッターの受注が回復する
- 機械部品の数量が戻り、やや楽観の確率を上げる。
- 電機部品の医療・半導体向けが、2 桁の増収を 2 年続ける
- 電機部品の利益率が定着し、楽観の確率を上げる。
- 他社による TOB の提案が出る
- 買収価格が割増しとなり、短期の価値は上ぶれする。10 年の本質価値の見立ては変えない。
見ておくもの
- 通期予想の修正(原料価格の見通しが示された時点)と、営業利益率の推移
- 機械部品と電機部品のセグメント利益(特に NT ダイカッターの中国向けと、医療用ワイヤー)
- タングステン(APT)の国際価格と、中国の輸出規制の動き
- 配当と自社株買い、純現金の積み上がり
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や同業の PER から置かず、事業の自己資本利益率と資本コストから決めた。中立の自己資本利益率は 6.5% で資本コスト 7.5% に届かないため、倍率の上限は 12.5 倍、置いた値はその 8 割だ。形が変わる点として、2028 年 3 月期からの新リース会計で営業利益が少し増え、純有利子負債が増えるが、ここでは今と同じ形で置いた。償却は現在およそ 6 億円と推定した(開示は取得していない)。既存設備の分は物価で増やさず、更新分だけ新しい値段で上乗せして、10 年後は約 7.5 億円とみた。本社費などは物価で 1.34 倍に増やした。償却より大きい更新投資は、現金と還元を削る形で反映している。今の株価は計算に使っていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13→16.17 倍・やや楽観 PER 10.75→14 倍・中立 PER 10→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.5% を足して 8.0%。強い堀ではないため下げる理由はない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.50%。