結論
東邦ホールディングスは、売上 1.55 兆円の医薬品卸である。国内の大手 4 社のなかで最も小さい。病院や薬局に薬を届ける仕事で、営業利益率は 1.1% にすぎない。筆者の結論は、今の値段は本質価値を大きく上回る「割高」、というものだ。いちばんの理由は、同業より薄い利幅にある。
稼ぎの 9 割以上は、医療用医薬品の卸が生む。薬の値段は国が決める。卸の取り分は薬価と仕入れ値のわずかな差と、配送の効率で決まる。人件費と物流費は物価と一緒に上がるが、薬価は毎年下がる。利益は伸びにくい。
会社は新しい中期計画で、営業利益 300 億円・利益率 1.5% を掲げた。直近の 166 億円の倍近い数字だ。今期の会社予想はさらに減益の 148 億円で、目標までの距離は遠い。
もう一つの話題が、投資ファンド 3D との争いだ。3D は議決権の 24.66% を握る。会社が決めた対抗措置は総会で 54.70% の賛成を得たが、9 月に東京地裁が差し止めた。10 月にはPHCHDの買収を検討し、9 日後に取りやめた。経営の判断は揺れている。ただ、争いは事業の稼ぐ力を変えない。筆者は、資本コスト 7.5% に届かない稼ぎに見合う倍率を、純利益の 12 倍前後と見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「事業は残るが、持ち主の取り分が小さい」会社だ。10 年後も薬は届け続けるので、事業は消えない。しかし利益の源泉は薄利の配送業で、堀は規模の壁にとどまる。物流センターと自動化に毎年投資が要り、オーナーが自由に使える利益は純利益の 6 割ほどと筆者は見る。
経営の資本の使い方は、評価が割れる。純現金は 10 年で積み上がったが、利益に見合う還元は進まなかった。投資ファンドに迫られて初めて資本効率の目標を掲げた、というのが筆者の見立てだ。PHCHDの話は、買い手としての規律を示す材料になるが、結論が出るまで評価は保留する。
安全域はない。今の値段は、確率で重みづけた本質価値を 3 割あまり上回る。争いの行方で値段は動くが、それは稼ぐ力ではなく、持ち分や支配権の話だ。事業そのものを持ち続けたいかと問われれば、筆者は同業の他社を先に選ぶ。
何で稼ぐ会社か
東邦ホールディングスは、薬の卸を中心とする持株会社だ。売上 1.55 兆円のうち 93% が医薬品卸売で、製薬会社から薬を仕入れ、全国の病院・診療所・薬局へ毎日届ける。薬の値段は薬価で決まり、卸の取り分は薄い。この事業の営業利益率は 1.2% である。
二つ目が調剤薬局で、売上は約 1,000 億円。処方箋を受け付けて薬を渡す店だ。利益率は 1.4% と卸より少し高い。ただ規模は小さく、グループの薬局会社を 4 社に束ねたところで、最終的に 1 社へ統合する途中にある。
三つ目が医薬品の製造販売と周辺事業で、合わせても売上は 80 億円ほどだ。羽田のパッケージングセンターを軸に、新しい薬の製造と物流を請け負う事業を育てている。利益率は高いが、全体への貢献はまだ小さい。
中期計画は、この周辺事業とアライアンス・M&Aで利益の柱を増やす構えだ。成長投資には 500 億円以上を充てる。だが、目標の営業利益 300 億円の大半は、卸の利益率を 1.5% へ戻すことに頼る。直近の利益率は 1.2% で、同業のスズケンの 1.5% に近い水準との差が埋まるかが最初の関門になる。顧客は病院・診療所・薬局が中心で、薬局を自社で持つことで現場の情報も得られる。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、全国に張った配送網と、大手 4 社の一角という位置にある。薬は欠品が許されないので、確実に届くこと自体が価値になる。新規参入は難しく、中小の卸の統合も終わった。ただし、これは堀というより参入の壁にすぎない。値段は国と製薬会社が決め、卸が値上げで利益を守る力は弱い。
最大の弱点は利幅の薄さだ。連結の営業利益率は 1.1% で、同業の中でも低い。人件費と物流費は物価で上がるが、薬価は毎年下がる。2026 年 3 月期は営業利益が 12% 減り、今期も減益の予想だ。
資本効率も平凡である。自己資本利益率は過去 10 年の中央値が 6.7% で、資本コストを下回る年が多い。新しい中期計画は 2029 年 3 月期に 8% を掲げるが、実績は 6% 台にとどまる。
経営については、評価が割れる。投資ファンドから、ガバナンスの是正と第三者委員会の設置を求められてきた。一方、会社は取締役会を見直し、資本効率の目標を掲げた。目標に実績が追いつくかを、筆者はまだ判断できない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
医薬品卸は、数量が伸び、価格が下がる市場だ。国内の医療用医薬品は薬価ベースで約 11.5 兆円(2024 年度)にのぼる。高齢化で処方の数量は増え、高額な専門薬が売上を押し上げる。ただ薬価は毎年のように改定され、2026 年度は薬剤費ベースで約 4% 下がった。卸の売上は、数量の伸びほどには増えない。
競争は大手 4 社の寡占だ。2026 年 3 月期の売上は、メディパルが 3.8 兆円、アルフレッサが 3.1 兆円、スズケンが 2.5 兆円、東邦が 1.6 兆円。4 社の営業利益は合わせて約 1,420 億円で、利益率は 1.3% だった。東邦の 1.1% は 4 社のなかで下位にある。
値段を決める力は卸にない。流通改善ガイドラインで、単品ごとの価格交渉や流通経費の反映が進められている。成果が出れば粗利は守られるが、出なければ費用高が利益を食う。
長い目では、2040 年前後に高齢者の数が減り始める。製薬会社の直接配送や、オンライン服薬指導の広がりも、卸の仕事を薄める可能性がある。調剤薬局の側は、大手チェーンへの集約が進み、小規模な薬局の運営は厳しくなっている。
資本政策と M&A
資本政策は、2 つの力に引っ張られている。会社は新しい中期計画で、総還元性向 100% 以上と DOE(純資産に対する配当の割合)4% 以上を掲げた。政策保有株も、2029 年 3 月期までに純資産の 10% 未満へ減らす。3 年間の投資計画は、成長 500 億円以上、物流 250 億円、人財 100 億円、株主還元 500 億円以上だ。
もう一つの力が、3D だ。2025 年の総会で社長らの再任に反対し、議決権を 24.66% まで買い上げた。会社は大量買付への対抗措置を導入し、2026 年 6 月の総会で 54.70% の賛成を得た。だが 9 月、東京地裁が差し止めを決めた。会社は不服を申し立てている。
10 月 1 日には、医療機器メーカーのPHCHDに初期の買収提案を出した。9 日に検討終了を発表したが、理由は開示していない。買い手としての規律を示せたとは言いがたい。成長投資のハードルレートは 8〜10% と、資本コストを上回る水準だ。ただ、実績の稼ぎがそこに届くかが問われる。
10年の還元は、中計の総還元性向100%以上より薄い8割で置いた(株主資本配当率4%は守る)。純利益を超えないので、余った現金は別に足してよい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
中計の営業利益 300 億円は、手が届く。会社は物流の拠点を新設し、営業と配送を一体で見直す。AI を使った需要予測と、専門薬の流通インフラの増強も進める。卸の利益率が 1.5% に戻れば、売上 1.6 兆円で 240 億円が出る。薬局と周辺を足せば 300 億円に近い。
資本政策も変わる。総還元性向 100% と DOE 4% は、自己資本の約 4% を毎年配る約束だ。さらに 3D が議決権の 24.66% を握り、最大の株主として還元と資本効率を迫る。余った現金が株主に返れば、自己資本利益率は上がる。
周辺事業は伸びしろが大きい。羽田のCDMOは、国内に拠点のない外資のバイオ企業に、製造から配送までを一括で請け負う。薬価に縛られない収益になる。
4 社の寡占は崩れず、新規参入もない。守りの事業で純現金が 758 億円あり、下振れの余地は小さい。再編の芽もある。卸は 4 社体制に至るまで統合を重ねてきた。最小の東邦は、規模を求める相手に狙われやすく、3D もそれを視野に入れうる。
慎重な見方
利幅が構造的に細る。卸の営業利益率は 1.2% で、人件費と物流費は物価と同じ速さで上がる。薬価は毎年下がり、費用を価格に転嫁する力はない。2026 年 3 月期は営業利益が 12% 減り、今期も 11% の減益予想だ。目標の 300 億円とは、倍近い開きがある。
同業との差も開いている。スズケンは利益率 1.5% を目標に掲げ、すでに近い水準にある。東邦は 1.1% で、規模も最小だ。物流の投資競争で、小さい会社ほど不利になる。
資本効率の改善は、実績を伴っていない。自己資本利益率は過去 10 年の中央値が 6.7% で、目標の 8% にはほど遠い。純現金をためてきた姿勢は、争いが決着しても変わるとは限らない。
経営の揺れも見逃せない。対抗措置は総会で 5 割強の賛成にとどまり、地裁に差し止められた。PHCHDの提案は 9 日で撤回された。争いが長引けば、新しい中期計画に使う経営の時間が削られる。
どちらに重みを置いたか
利幅の薄さと資本効率の低さという慎重な指摘が強い。上振れの根拠は、計画と、3D による還元の圧力だが、どちらも稼ぐ力そのものを高めるものではない。還元が増えても、本質価値は返した額の分だけ動くにすぎない。
そのため確率は、中立に 36% を置き、悲観寄りに少し厚く寄せた。10 年の悲観は、薬価と中抜きの両方で構造的に負ける姿として 12% を置いた。資本コストは同領域のメディパル・スズケンと同じ 7.0% に揃えた。差は倍率と利益率に出した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,476 円2,272 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,931 円1,262 億円)。 今の値に割り戻すと 3,032 円1,982 億円、今との差 −24.4%、 期待の年率 +3.0%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,806 円4,448 億円 | 3,213 円2,100 億円 | +150.0% | +9.6% | 801 円524 億円 |
| やや楽観 | 18% | 5,173 円3,381 億円 | 2,601 円1,700 億円 | +94.0% | +6.8% | 1,399 円915 億円 |
| 中立 | 36% | 3,748 円2,450 億円 | 1,989 円1,300 億円 | +43.1% | +3.7% | 2,065 円1,350 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,908 円1,247 億円 | 1,530 円1,000 億円 | −14.2% | −1.5% | 894 円584 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,295 円846 億円 | 765 円500 億円 | −48.6% | −6.4% | 247 円162 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,476 円2,272 億円 | 1,931 円1,262 億円 | +34.9% | +3.0% | 5,407 円3,534 億円 |
今の株価時価総額 4,008 円2,620 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 中計の利益 300 億に届き、還元も厚くなる 利益 254 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 6,806 円4,448 億円
医療用卸は、バイオ医薬品や再生医療等製品など、高額で扱いに手間のかかる薬の取扱いが広がる。温度管理と小口配送の機能に手数料がつき、利益率は 1.4% まで上がる。羽田の製造受託(CDMO)も育ち、周辺の事業が利益の柱の一つになる。
調剤薬局は 1 社に統合され、運営の標準化で利益率が 2% に届く。連結の営業利益は 240 億円台。会社が掲げる 300 億円には届かないが、倍の水準に戻る。
3D の圧力もあって資本政策が変わり、10 年で約 2,100 億円を株主に返す。資本効率が上がり、事業の稼ぎに見合う高い倍率が付く。
- 医薬品卸売:数量 1.7(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.97(薬価・売値の水準を今を 1 とした指数(薬価改定で下がり、新薬の高い値段で上がる。物価では動かない))→ 売上 16,116 億円・営業利益 226 億円。医療用卸:数量 1.15 倍・価格 0.97 倍、営業利益率 1.40%
- 調剤薬局:数量 0.1(国内の調剤医療費(実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 1.15(売上単価の指数(薬代は薬価で下がり、調剤報酬は改定で動く。物価には追いつかない))→ 売上 1,156 億円・営業利益 23 億円。調剤薬局:数量 1.00 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 2.00%
- 医薬品製造販売・その他周辺:数量 0.0(取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.40(商品・サービスの値段の指数(物価並み))→ 売上 125 億円・営業利益 19 億円。製造販売・周辺:数量 1.10 倍・価格 1.40 倍、営業利益率 15.0%
倍率:事業の純利益 250 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 15.94 倍、時価総額 4,243 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の営業利益 300 億円(利益率 1.5%)は、会社自身が掲げる目標である。薬価の下がりを高額薬と効率化で補えれば届くが、直近は減益続きで、8% にとどめた。
やや楽観 18% 卸の利幅を守り、薬局と周辺が少し育つ 利益 208 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 5,173 円3,381 億円
卸の利益率は 1.25% で落ち着く。薬価は 10 年で 6% ほど下がるが、数量は高齢化で 1 割あまり増え、売上は 1.5 兆円台に乗る。物流センターの新設と配送体制の見直しで、人手不足の費用上昇を一部吸収する。
薬局は統合の効果で利益率が 1.7% まで上がる。製造受託と検査薬などの周辺が、薬価に縛られない収益として少しずつ育つ。
連結の営業利益は 190 億円前後。還元は 10 年で約 1,700 億円と、利益の 8 割を超える水準を保つ。自己資本利益率は 7% 台となり、資本コストにほぼ並ぶ。
- 医薬品卸売:数量 1.6(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.94(薬価・売値の水準を今を 1 とした指数(薬価改定で下がり、新薬の高い値段で上がる。物価では動かない))→ 売上 15,210 億円・営業利益 190 億円。医療用卸:数量 1.12 倍・価格 0.94 倍、営業利益率 1.25%
- 調剤薬局:数量 0.1(国内の調剤医療費(実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 1.10(売上単価の指数(薬代は薬価で下がり、調剤報酬は改定で動く。物価には追いつかない))→ 売上 1,106 億円・営業利益 19 億円。調剤薬局:数量 1.00 倍・価格 1.10 倍、営業利益率 1.70%
- 医薬品製造販売・その他周辺:数量 0.0(取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.34(商品・サービスの値段の指数(物価並み))→ 売上 114 億円・営業利益 16 億円。製造販売・周辺:数量 1.05 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 14.0%
倍率:事業の純利益 204 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 14.26 倍、時価総額 3,166 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:物流の効率化と高額薬の取扱いで利幅を守り、還元も続く姿。同領域の他社と同じく 2 割弱を置いた。
中立 36% 数量は増えるが、薬価と費用に挟まれて横ばい 利益 152 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 3,748 円2,450 億円
卸の数量は、高齢化の天井が見え始めるなかで 10 年に 1 割ほど増える。薬価は累積で 7% ほど下がり、売上は 1.5 兆円台で伸び悩む。費用は物価で 3 割以上増えるので、利益率は 1.0% に下がる。
薬局は数量が横ばいで、利益率は 1.3% を保つ。周辺の事業は小さく、利益は 10 億円台にとどまる。連結の営業利益は 150 億円弱、純利益は 150 億円ほどになる。
還元は 10 年で約 1,300 億円。配当性向の目標(DOE 4%)は守るが、利益が伸びないので自社株買いは限られる。自己資本利益率は 5% 台で、資本コストの 7.0% を下回ったままだ。
- 医薬品卸売:数量 1.6(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.93(薬価・売値の水準を今を 1 とした指数(薬価改定で下がり、新薬の高い値段で上がる。物価では動かない))→ 売上 14,779 億円・営業利益 148 億円。医療用卸:数量 1.10 倍・価格 0.93 倍、営業利益率 1.00%
- 調剤薬局:数量 0.1(国内の調剤医療費(実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 1.05(売上単価の指数(薬代は薬価で下がり、調剤報酬は改定で動く。物価には追いつかない))→ 売上 1,055 億円・営業利益 14 億円。調剤薬局:数量 1.00 倍・価格 1.05 倍、営業利益率 1.30%
- 医薬品製造販売・その他周辺:数量 0.0(取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.34(商品・サービスの値段の指数(物価並み))→ 売上 109 億円・営業利益 13 億円。製造販売・周辺:数量 1.00 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 148 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.8% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 13.33 倍、時価総額 2,230 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量はゆるやかに増え、薬価は毎年削られ、費用は物価で上がる。会社予想の減益も出発点にある。最も確からしい姿として最大の 36% を置いた。
やや悲観 26% 薬価の累積と費用高で、利益が目減りする 利益 98 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,908 円1,247 億円
薬価の引き下げが毎年続き、累積で 1 割に達する。人手不足で物流費は膨らみ、卸の利益率は 0.75% まで下がる。大手 4 社のなかで利益率が低い東邦は、費用高の影響を最初に受ける。
薬局も、調剤報酬の改定と人件費の上昇で利益率が 1.0% に下がる。事業の統合を急ぐ過程で、整理の費用も出る。
連結の営業利益は 90 億円台、純利益は 100 億円弱。還元は 10 年で約 1,000 億円に減る。資本の使い方でも、買収や物流投資が稼ぎに結びつかず、自己資本利益率は 4% を切る。PHCHDのような周辺の買収が高い値段で実行されれば、さらに利益を食う。株主との争いが長引き、中計の施策を進める力も鈍る。
- 医薬品卸売:数量 1.5(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.90(薬価・売値の水準を今を 1 とした指数(薬価改定で下がり、新薬の高い値段で上がる。物価では動かない))→ 売上 13,652 億円・営業利益 102 億円。医療用卸:数量 1.05 倍・価格 0.90 倍、営業利益率 0.75%
- 調剤薬局:数量 0.1(国内の調剤医療費(実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 1.00(売上単価の指数(薬代は薬価で下がり、調剤報酬は改定で動く。物価には追いつかない))→ 売上 975 億円・営業利益 10 億円。調剤薬局:数量 0.97 倍・価格 1.00 倍、営業利益率 1.00%
- 医薬品製造販売・その他周辺:数量 0.0(取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.30(商品・サービスの値段の指数(物価並み))→ 売上 106 億円・営業利益 11 億円。製造販売・周辺:数量 1.00 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 10.0%
倍率:事業の純利益約95億円・事業の ROE 約3.8% は k 7.5% 以下なので、上限は 1÷k=14.3倍。稼ぐ力が資本コストを下回る会社として、上限の約60% の8.5倍に置いた。余った現金は戻り方 0.5 で別に足す。
確率:毎年の薬価改定と人件費の上昇は、足もとの決算が示す方向である。利益率が同業より低い分、下振れの余地も大きいと見て 26% を置いた。
悲観 12% 中抜きと人口減で、卸の機能が縮む 利益 68 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 1,295 円846 億円
製薬会社が一部の薬を直接配送し、薬局チェーンも物流を内製する。オンライン服薬指導の広がりで、卸の取扱量は減る。薬価は 10 年で 15% 下がり、卸の利益率は 0.65% まで落ちる。
薬局は人口減で処方箋が減り、利益はほぼ消える。連結の営業利益は 70 億円を割り、もう優良な卸とは言えない。
買い手との攻防や統合の費用が重なり、資本政策も定まらない。還元は 10 年で 500 億円に絞られ、利益に見合う額を払う余力しか残らない。規模の優位が価格に結びつかず、事業は縮小均衡に入る。会社は規模より採算を優先せざるをえなくなる。
- 医薬品卸売:数量 1.4(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.85(薬価・売値の水準を今を 1 とした指数(薬価改定で下がり、新薬の高い値段で上がる。物価では動かない))→ 売上 11,666 億円・営業利益 76 億円。医療用卸:数量 0.95 倍・価格 0.85 倍、営業利益率 0.65%
- 調剤薬局:数量 0.1(国内の調剤医療費(実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 1.00(売上単価の指数(薬代は薬価で下がり、調剤報酬は改定で動く。物価には追いつかない))→ 売上 904 億円・営業利益 7 億円。調剤薬局:数量 0.90 倍・価格 1.00 倍、営業利益率 0.80%
- 医薬品製造販売・その他周辺:数量 0.0(取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.20(商品・サービスの値段の指数(物価並み))→ 売上 88 億円・営業利益 7 億円。製造販売・周辺:数量 0.90 倍・価格 1.20 倍、営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益約66億円・事業の ROE 約2.7% は k 7.5% 以下なので、上限は 1÷k=14.3倍。稼ぐ力が資本コストを下回る会社として、上限の約49% の7.0倍に置いた。余った現金は戻り方 0.5 で別に足す。 還元は純利益の合計とほぼ同じ額に絞っている。構造的に負けた筋書きなので、上限の約半分まで下げた。
確率:製薬会社の直接配送や大口顧客の内製化、オンライン服薬指導の広がりは、10 年なら起こりうる。構造的に負ける姿として 12% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
医薬品卸売
製薬会社から薬を仕入れ、全国の病院・診療所・薬局へ配送する中核事業。
| 数量国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア | 価格薬価・売値の水準を今を 1 とした指数(薬価改定で下がり、新薬の高い値段で上がる。物価では動かない) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.4 | 1.00 | 14,447 | 168 |
| 10 年後 中立 | 1.6 | 0.93 | 14,779 | 148 |
取り方:市場は薬価ベース約 11.5 兆円(2024 年度、実質は今の薬価のまま)。卸売の売上 1.4447 兆円を市場で割ると、シェアは約 12.6%。数量はこの取扱量、価格は薬価と卸の取り分の指数で今を 1 とした。1 兆円 = 10,000 億円で換算。セグメント利益は 168.2 億円。
調剤薬局
処方箋を受け付けて薬を渡す薬局。グループの薬局会社を 4 社に統合し、1 社化を目指す。
| 数量国内の調剤医療費(実質、兆円)× 自社シェア | 価格売上単価の指数(薬代は薬価で下がり、調剤報酬は改定で動く。物価には追いつかない) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.1 | 1.00 | 1,005 | 14 |
| 10 年後 中立 | 0.1 | 1.05 | 1,055 | 14 |
取り方:国内の調剤医療費を約 8 兆円と筆者が見積もり(公的な数字は確認していない推計)、売上 1,005 億円はそのシェア約 1.3%。数量は 8 兆円 × 1.3% = 0.1005 兆円分、価格は売上単価の指数。セグメント利益は 14.0 億円。
医薬品製造販売・その他周辺
医薬品の製造販売と、羽田の製造受託・医療 IT などの周辺事業。
| 数量取扱量(今の値段で測った兆円) | 価格商品・サービスの値段の指数(物価並み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.0 | 1.00 | 81 | 11 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 1.34 | 109 | 13 |
取り方:開示に市場規模とシェアが無いので、今の売上 81 億円(製造販売 27 億円・周辺 55 億円)を基準にした推計とする。数量は人口と同じ緩やかな動き、価格は物価並みに置く。セグメント利益は 11.1 億円。
リスクと懸念
薬価の引き下げと流通改善の不発
薬価は毎年のように改定され、卸の売上は数量の伸びほど増えない。流通改善ガイドラインで、単品ごとの価格交渉や必要経費の反映が進まなければ、粗利は細る。利益率が 1.2% から 0.8% に落ちるだけで、卸の営業利益は 3 分の 1 減る。
人件費と物流費の高騰
運転手と倉庫の人件費は物価以上に上がっている。2026 年 3 月期は大手 4 社が営業利益を減らした。東邦は利益率が低く、費用高の影響を先に受けやすい。物流拠点の新設と配送体制の見直しで追いつけるかが問われる。
3D との争いと経営の不確実性
3D は議決権の 24.66% を持ち、27% までの買い増しの意向を示した。対抗措置は総会で 54.70% の賛成を得たが、地裁が差し止めた。争いが長引けば、経営の時間と費用が奪われる。取締役の入れ替えや還元の大幅な拡大も起こりうる。
買収と投資の規律
中計は成長投資に 500 億円以上、周辺のアライアンスとM&Aを掲げる。PHCHDへの提案は 9 日で撤回された。高い価格で周辺事業を買えば、資本効率はさらに下がる。ハードルレート 8〜10% を守れるかが焦点だ。
薬局事業の収益性
調剤薬局は売上 1,000 億円で、利益率は 1.4%。大手チェーンの規模の経済や調剤報酬の改定、薬剤師の人件費に左右される。4 社を 1 社へ統合する費用が出る一方、効果の見えるまで数年かかる。
高齢化の天井と中抜き
高齢者の数は 2040 年前後に減り始め、処方の数量の伸びは止まる。製薬会社の直接配送や、薬局チェーンの物流の内製化、オンライン服薬指導の広がりで、卸の機能が薄まる恐れもある。
今後の分かれ目
- 流通改善ガイドラインが効き、単品ごとの価格交渉が定着した
- 卸の粗利が守られ、利益率は 1% 台前半で安定する。強気の筋書きの確率を上げ、倍率も上限に近づける。
- 薬価の中間年改定が毎年の本格改定になり、下げ幅も増えた
- 卸の売上と粗利が同時に削られる。慎重な筋書きの確率を厚くし、利益率を 0.7% 前後で見る。
- 3D が取締役の入れ替えに成功した、または会社が大型の自社株買いを打ち出した
- 還元の合計を上方に直す。ただ稼ぐ力は変わらないので、倍率は据え置く。
- 2027 年度の決算で営業利益が 200 億円を超えた
- 中計の道筋が数字で見えたと判断し、強気の筋書きの確率を引き上げる。
- PHCHD以外の周辺事業の買収を、ハードルレートを下回る価格で行った
- 資本の使い方に難があると判断し、慎重な筋書きを厚くする。
- 大手薬局チェーンや製薬会社が、物流を自前化して取引が減り始めた
- 数量と利益率を下方に直す。10 年の筋書き全体を悲観寄りにする。
見ておくもの
- 2027 年 3 月期の営業利益(会社予想 148 億円)と、中計 300 億円までの道筋
- 3D の保有比率と、地裁の差し止めをめぐる異議申し立ての結果
- 薬価改定の下げ幅と、流通改善ガイドラインの運用
- 卸の営業利益率(1.2%)と、薬局の営業利益率(1.4%)の推移
- 総還元性向 100%・DOE 4% の実行(配当と自社株買いの額)
- 周辺事業のアライアンスやM&Aの案件と、その価格
倍率と資本コストの決め方
倍率は事業の ROE と資本コスト 7.5%(基本 7.5%、quality −0.5%)から式で置き、今の株価では測っていない。事業の ROE は 5〜6% と k を下回るので、上限は 1÷k の 14.3 倍。中立はその約 8 割に置いた。余った現金は事業の備えを引いた残りだけを、戻り方(半分)込みで足した。悲観は稼ぐ力と売れる資産から出し、谷の PBR は使っていない。数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえ、新リース会計基準で BS の形が変わる点は価値に影響しない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.8→15.94 倍・やや楽観 PER 13.3→14.26 倍・中立 PER 11.8→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.00% → 7.50%。