結論
加賀電子は、半導体や電子部品を仕入れてメーカーに売る商社だ。もう一つの柱が、顧客に代わって電子機器を組み立てるEMS(受託製造)である。2026年3月期の売上は6,589億円で、過去最高だった。
筆者の結論は、10年の積み上げで見れば本質価値は今の時価総額とほぼ同じで、適正だ、というものだ。商社の利益率は低く、堀(他社がまねできない強み)は深くない。それでも世界の半導体需要は、10年先まで実質で伸びる。EMSはメキシコ・タイ・米国へ拠点を広げ、商社の取引を製造の受注につなげる形ができてきた。
割り引くべき点も多い。2026年3月期の純利益には、負ののれん益78億円という一度きりの益が入っている。電子部品のスポット(その場限り)の売上411億円も続かない。新光商事の買収は、純資産の約1.6倍を払う割高な買い物だ。
そのうえで、確率を最も厚く置いた中立の筋書きでも、利益は今の実力の2倍弱になる。一方、悲観の筋書きでは10年後の時価総額が今の4分の1にとどまる。上にも下にも差が大きい会社だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家の目で見ると、加賀電子は「良い商売」と「悪くない商売」の中間にある。商社部分は、仕入れ値を握られた薄利多売だ。利益が増えるほど、在庫と売掛金に資金を取られる。ROEの高さが長く続く保証は薄い。重く見るのは、EMSという別の収益源を育てている点と、持ち合い株の解消に自社株買いで応じる素直な資本配分だ。
オーナー利益(元手を増やさずに株主が受け取れる利益)で見ると、商社部分は成長のたびに運転資金が要る。配当に回せる分は限られる。そこで、還元の目安をDOEまで決めているのは、規律として評価できる。
安全域は、買収のあとに薄くなった。実質無借金という強みを、割高な買収に使ったからだ。新光商事の値付けが正しかったかは、数年の利益で確かめるしかない。見立てが外れても、会社が傷むほどの借金ではない。その点が救いだ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、電子部品商社の仕事だ。半導体や電子部品のメーカーから製品を仕入れ、車載・産業機器・家電・通信の顧客に納める。2026年3月期の売上は約4,100億円、セグメント利益は約114億円だった。メモリのように相場で値が動く品も扱う。需給が逼迫した年は、スポット取引の売上が一気に膨らむ。2026年3月期のスポット売上は411億円あり、今期はその反動が出る。
EMSは、顧客の電子機器を調達から組み立てまで請け負う仕事だ。世界10か国21拠点で生産し、売上は約1,550億円、利益率は5%を超える。商社として部品を集められる力が、コストと納期の強みになる。米中摩擦を受けて、メキシコ工場は北米向けの拠点として広げている。2026年10月には、米国にEMSの新会社も動き出した。
そのほかに、PC・周辺機器を売る情報機器、ソフトウェア、その他の事業がある。合わせた売上は約900億円で、利益率は9%台と高い。2026年3月期は、国内のPC買い替え需要が追い風となり、情報機器が27%伸びた。この特需は一巡する。
2026年8月には、同業の新光商事を買収して連結子会社にした。新光商事の売上は年に1,000億円を超え、電子部品商社の規模は一気に1.3倍ほどになる。
優良さと弱いところ
筆者が評価するのは、商社とEMSを組み合わせた点だ。部品の調達力があるから、EMSは仕入れで他社に差をつけられる。逆に、EMSの顧客基盤があるから、商社は部品の売り先に困らない。この組み合わせは、単純な転売より切り替えにくい。
ただ、堀は深くない。仕入れ値を決めるのは半導体メーカーだ。営業利益率は過去10年、2.3〜5.3%の中に収まった。ROEは7%台から18%まで動いている。値決め力はなく、需給で利益が振れる商売だ。
競合は多い。国内最大手のマクニカ、東京エレクトロンデバイス、レスター、リョーサン菱洋ホールディングスなどが並ぶ。EMSでは、鴻海(ホンハイ)のような巨大メーカーがいる。加賀電子は自らを「コンビニ型EMS」と位置づけ、大量生産型のメガEMSとは棲み分ける考えだ。
財務は堅い。2026年3月期末は実質無借金で、自己資本比率は45%台だった。ただし買収で借入が増える。前の中期計画では、新規M&Aは大きな成果を出せていなかった、と自己評価している。この点は正直で、評価できる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体の需要は、AIデータセンター向けを中心に急拡大している。世界の半導体市場は2025年に約8,000億ドルまで伸び、2026年の見通しはさらに上方修正された。10年で見れば、年率6〜8%の成長が続くというのが中立の置き方だ。ただし、急落の局面が消えたわけではない。過去の不況では、商社の営業利益が5〜7割減った。
商社の側は、寡占化に向かっている。半導体メーカーが取扱商社を絞り込み、商社どうしは統合を進める。リョーサン菱洋ホールディングスの誕生や、旧UKC・バイテックのレスターへの統合がその例だ。加賀電子の新光商事の買収も、この流れの上にある。規模を持てない商社は、仕入れ先との交渉力を失う。
EMSは、別の追い風を受ける。米中摩擦で、生産を中国から北米や東南アジアへ移す動きが出ている。世界のEMS市場は約6,000億ドルで、年5〜7%の伸びが見込まれる。メキシコは、米国向けに関税の面で利点がある。
一方、国内のPCや情報機器は逆風だ。2025年は国内のPC出荷が過去最高だったが、2026年度は法人向けが4割減るという予測がある。加賀電子の情報機器も、買い替えの特需が剥げ落ちる。
資本政策と M&A
還元は厚くなる方向だ。中期計画では、連結配当性向の目安を30〜40%に引き上げた。普通配当には、DOE(自己資本配当率)4%という目安も設けた。自社株買いも機動的に行う。2025年夏には、3メガバンクと北陸銀行が持ち株の売却意向を示し、会社は最大150億円の自社株買いを決めた。政策保有株の解消に自己株で応えた形で、ガバナンスの面では前向きだ。
買収は積極路線である。2025年に協栄産業を取り込み、2026年3月にはサンワテクノスの株を7%超取得した。そして同年8月、新光商事を子会社にした。支払いは約330億円だった。旧村上ファンド系の株主やレスターも応募の意向を示し、売り手は出口を得た。TOBの目的は完全子会社化なので、残る約27%も買い取る可能性が高い。その場合の追加負担は約125億円と、筆者は見ている。
中期計画は、3年で営業キャッシュフロー約600億円を稼ぎ、300億円超を成長投資に回すとする。資金が足りなければ借り入れ、余れば株主へ戻す方針だ。買収で、実質無借金の財務は借入に傾く。ここから先は、買った事業の稼ぎ方が問われる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電子部品商社として、加賀電子は追い風の中にいる。世界の半導体需要はAIで一段上がり、10年先も実質で伸びる。2027年3月期の第1四半期は、電子部品の売上が3割、利益が7割増えた。調達力のある商社がEMSを持つ強みは、供給網の組み替えで生きる。米中摩擦で生産が中国から北米へ移るなか、メキシコ工場と米国の新会社は、その需要を受け止める位置にある。EMSは会社の計画で年2割成長の看板だ。5年で売上500億円を目指すメキシコ工場が軌道に乗れば、利益率の高い売上が積み上がる。
新光商事の買収も、業界再編で生き残る側に立つ一手だ。メーカーが取扱商社を絞るなか、規模を取れる会社に商権が集まる。近い領域の商社を取り込めば、重複する費用を削り、顧客を広げられる。負ののれん益が出るのは、会計の上で割安に取得できたことを示すとも読める。協栄産業の新規連結が業績を押し上げた実績もある。
株主還元の姿勢も変わった。配当性向の目安は30〜40%に上がり、持ち合い解消にも自社株買いで応えた。資本効率を意識する会社は、10年で見れば価値を積み上げやすい。
慎重な見方
商社の本質は、仕入れ値を相手に握られた薄利多売だ。営業利益率は好況でも5%台で、需要が急に落ちれば利益は半分以下に沈む。2026年3月期の純利益311億円には、負ののれん益78億円が入る。電子部品のスポット売上411億円も、相場が荒れた年の一過性のものだ。今期の当初予想は大幅な減益だった。この年を平時の実力と見るのは危うい。
新光商事の買収は割高だ。払った価格は純資産の約1.6倍で、同社の営業利益は年に20億円に届かない。330億円の投資に見合う利益は出ていない。商社の統合は、仕入れ先との商権の整理を伴い、売上が減ることもある。完全子会社化に向けた追加の支出もありうる。
EMSは、メガEMSとの価格競争にさらされる。中国から生産が出ていく流れは追い風だが、メキシコやタイの新工場は、立ち上げの費用が先にかかる。顧客が定着するまで、稼働率は上がらない。国内のPC特需も、2026年度に反動減を迎える。
さらに、半導体メーカーが取扱商社を数社に絞る動きは、規模で劣る商社ほど不利になる。10年で見れば、仕入れ先を失うリスクは小さくない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方の根拠は、世界の半導体需要と、EMSという第二の柱だ。どちらにも事実の裏付けがあり、10年の方向としては強い。一方、慎重な見方が突く利益の質と買収の値段は、数字の上でも確かな割引材料になる。
そこで確率は、中立を最も厚く置き、悲観側を少し重くした(楽観10%・やや楽観22%・中立34%・やや悲観22%・悲観12%)。商社の利益は需給で振れ、10年の間に不況が一度はくる。優良さの核であるEMSが立ち上げの途中であることも、強気に寄せなかった理由だ。差はほとんど無く、適正と見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 12,379 円5,902 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,367 円1,128 億円)。 今の値に割り戻すと 7,498 円3,575 億円、今との差 +39.6%、 期待の年率 +10.6%(資本コスト 7.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 31,558 円1.50 兆円 | 3,369 円1,606 億円 | +550.4% | +20.6% | 3,493 円1,665 億円 |
| やや楽観 | 22% | 19,578 円9,334 億円 | 2,834 円1,351 億円 | +317.3% | +15.4% | 4,931 円2,351 億円 |
| 中立 | 34% | 11,598 円5,530 億円 | 2,462 円1,174 億円 | +161.8% | +10.1% | 4,781 円2,279 億円 |
| やや悲観 | 22% | 3,770 円1,797 億円 | 1,886 円899 億円 | +5.3% | +0.5% | 1,244 円593 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,196 円570 億円 | 1,288 円614 億円 | −53.8% | −7.4% | 298 円142 億円 |
| 加重平均 | 100% | 12,379 円5,902 億円 | 2,367 円1,128 億円 | +174.6% | +10.6% | 14,746 円7,030 億円 |
今の株価時価総額 5,370 円2,560 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% AI需要が続きEMSが北米で急拡大 利益 834 億円 · PER 18.0 倍 · 株価時価総額 31,558 円1.50 兆円
AI向け投資が10年続き、世界半導体市場は名目で年率10%伸びて今の約2.6倍(物価分を除く実質で約1.9倍)になる。メーカーが取扱商社を絞るなか、加賀電子は規模を持つ側に残る。新光商事の商権はほぼ維持され、電子部品商社の取扱シェアは今の1.5倍を超える。営業利益率も3.3%まで上がる。
EMSは、メキシコ・タイ・米国の三拠点が回り、北米向けの需要を取り込む。売上は今の4.7倍ほどになり、利益率は6%に達する。調達と製造をまとめて受ける形が、顧客の囲い込みにつながる。
情報機器は国内市場が横ばいでも、法人向けの導入支援で堅実に稼ぐ。営業利益は今の4倍ほどの1,100億円になる。会社の掲げる売上1兆円の先を、10年で現実にする筋書きである。
- 電子部品商社:数量 1,536(世界半導体市場(WSTS、億ドル・実質))× 価格 11(取扱シェア × 150円 × 物価の倍率(市場 1 億ドルあたりの売上・億円))→ 売上 16,592 億円・営業利益 548 億円。WSTS 市場 2,064 億ドル×シェア 1.55 倍、利益率 3.3%(数量は名目の市場を物価1.34倍で割った実質)
- EMS(電子機器の受託製造):数量 9,989(世界 EMS 市場(億ドル・実質))× 価格 73.6%(取扱シェア × 150円 × 物価の倍率(市場 1 億ドルあたりの売上・億円))→ 売上 7,356 億円・営業利益 441 億円。EMS 市場 1.0 兆ドル(名目の伸びを物価1.34倍で割った実質)×シェア 2.2 倍、利益率 6.0%
- 情報機器・ソフトウェア・その他:数量 42,000(国内の IT 機器・関連サービス市場(億円・実質))× 価格 3.3%(取扱シェア × 物価の倍率(市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 1,394 億円・営業利益 119 億円。国内市場ほぼ横ばい、シェア 1.1 倍、利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 834 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.0 倍。全体の PER 18.04 倍、時価総額 15,045 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI需要の持続、EMSの北米・東南アジアでの急拡大、新光商事の統合効果が全部そろう必要がある。実現すれば強いが、連続して成功する確度は高くない。
やや楽観 22% 市場は順調に伸び、EMSの投資が実る 利益 565 億円 · PER 16.5 倍 · 株価時価総額 19,578 円9,334 億円
世界半導体市場が年率8%で伸び、10年で名目約2.2倍(実質で約1.6倍)になる。新光商事の取り込みは順調に進み、取扱シェアは今の1.4倍まで広がる。営業利益率は3.0%と、足元より少し高い水準を保つ。
EMSは、市場の伸びと拠点の拡大で売上が今の3.3倍になる。メガEMSとの競争は続くが、少量多品種の仕事で利益率は5.6%を守る。
情報機器は、国内市場が横ばいのなかで特需の反動をこなし、利益率8%台を維持する。営業利益は今の2.7倍の約750億円になる。中期計画が描く方向が10年続く筋書きだ。半導体の需要は強く、新光商事の統合も大きくは崩れない。ただし、商社の利益率は上がりにくく、利益の伸びは市場の伸びと物価で説明できる範囲にとどまる。強気ではあるが、無理のない強気である。
- 電子部品商社:数量 1,278(世界半導体市場(WSTS、億ドル・実質))× 価格 9.76(取扱シェア × 150円 × 物価の倍率(市場 1 億ドルあたりの売上・億円))→ 売上 12,474 億円・営業利益 374 億円。WSTS 市場 1,718 億ドル×シェア 1.40 倍、利益率 3.0%(数量は名目の市場を物価1.34倍で割った実質)
- EMS(電子機器の受託製造):数量 9,102(世界 EMS 市場(億ドル・実質))× 価格 56.9%(取扱シェア × 150円 × 物価の倍率(市場 1 億ドルあたりの売上・億円))→ 売上 5,179 億円・営業利益 290 億円。EMS 市場 9,100 億ドル(実質)×シェア 1.7 倍、利益率 5.6%
- 情報機器・ソフトウェア・その他:数量 40,800(国内の IT 機器・関連サービス市場(億円・実質))× 価格 3.0%(取扱シェア × 物価の倍率(市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 1,232 億円・営業利益 99 億円。国内市場ほぼ横ばい、シェア 1.0 倍、利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 565 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.5 倍。全体の PER 16.52 倍、時価総額 9,334 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世界半導体市場が年8%で伸び、EMSの拠点投資が順調に実る筋書き。中期計画の方向に近いが、買収の統合が思惑どおり進むことまで要る。
中立 34% 市場は構造的に伸びるが、商社の取り分は平常化 利益 384 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 11,598 円5,530 億円
世界半導体市場は年率7%で伸び、10年後には名目で今の約2倍(物価分を除く実質で約1.5倍)になる。メーカーが取扱商社を絞る動きと、新光商事の取り込みが重なり、電子部品商社の取扱シェアは今の約1.2倍に収まる。新光商事の商権の一部は整理で失われ、買収で見込んだ上積みの大半は残らない。営業利益率は2.6%と、足元を少し下回る。
EMSは、市場の伸びに加えてメキシコ・タイ・米国の拠点で受注を広げ、売上は今の2.4倍になる。ただし価格競争があり、利益率は5.0%にとどまる。情報機器は、国内PCの特需が剥げ、縮む市場のなかで堅実な利益を保つ。
全体では、営業利益が今の約1.9倍の520億円になる。会社は中期計画の最終年度に360億円を掲げており、そこから10年でさらに4割強増える計算だ。物価が10年で3割強上がることも、利益の水準を押し上げる。加賀電子は、規模のとれた普通に強い商社として落ち着く。
- 電子部品商社:数量 1,165(世界半導体市場(WSTS、億ドル・実質))× 価格 8.50(取扱シェア × 150円 × 物価の倍率(市場 1 億ドルあたりの売上・億円))→ 売上 9,905 億円・営業利益 257 億円。WSTS 市場 1,565 億ドル×シェア 1.22 倍、利益率 2.6%(数量は名目の市場を物価1.34倍で割った実質)
- EMS(電子機器の受託製造):数量 8,286(世界 EMS 市場(億ドル・実質))× 価格 45.2%(取扱シェア × 150円 × 物価の倍率(市場 1 億ドルあたりの売上・億円))→ 売上 3,744 億円・営業利益 187 億円。EMS 市場 8,300 億ドル(実質)×シェア 1.35 倍、利益率 5.0%
- 情報機器・ソフトウェア・その他:数量 39,200(国内の IT 機器・関連サービス市場(億円・実質))× 価格 2.9%(取扱シェア × 物価の倍率(市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 1,124 億円・営業利益 84 億円。国内市場 0.98 倍、特需の反動でシェア 0.95 倍、利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 384 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.4 倍、時価総額 5,530 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの中心(年6〜8%の成長)と、商社の薄利構造、EMSの拡大、新光商事の取り込みを素直に組み合わせた中心の筋書き。
やや悲観 22% 商権の一部を失い、買収の効果も出ない 利益 204 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 3,770 円1,797 億円
半導体メーカーが取扱商社を数社に絞り、加賀電子は一部の商権を失う。市場の伸びも年5%に鈍る。新光商事の取り込みは、顧客の重なりと費用の重さで、期待した上積みにならない。電子部品商社の取扱シェアは、買収分を足しても今と同じ水準にとどまる。営業利益率は2.0%まで下がる。
EMSは立ち上げの費用がかさみ、メガEMSとの価格競争で利益率は4%に落ちる。売上は伸びるが、利益はほとんど増えない。情報機器は、PC特需の反動と国内市場の縮みで、売上も利益率も下がる。
営業利益は280億円ほどで、今とほぼ同じだ。物価の上昇を差し引けば、実質では2割ほど減る。それでも事業は壊れず、配当は細りながら続く。
- 電子部品商社:数量 964(世界半導体市場(WSTS、億ドル・実質))× 価格 6.97(取扱シェア × 150円 × 物価の倍率(市場 1 億ドルあたりの売上・億円))→ 売上 6,722 億円・営業利益 135 億円。WSTS 市場 1,296 億ドル×シェア 1.0 倍、利益率 2.0%(数量は名目の市場を物価1.34倍で割った実質)
- EMS(電子機器の受託製造):数量 7,185(世界 EMS 市場(億ドル・実質))× 価格 35.2%(取扱シェア × 150円 × 物価の倍率(市場 1 億ドルあたりの売上・億円))→ 売上 2,526 億円・営業利益 101 億円。EMS 市場 7,190 億ドル(実質)×シェア 1.05 倍、利益率 4.0%
- 情報機器・ソフトウェア・その他:数量 36,800(国内の IT 機器・関連サービス市場(億円・実質))× 価格 2.6%(取扱シェア × 物価の倍率(市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 944 億円・営業利益 57 億円。国内市場 0.92 倍、シェア 0.85 倍、利益率 6.0%
倍率:事業の純利益204億円・ROE 6.3% は k 7.75% 以下なので、PERの上限は1÷k=11.1倍。ためた利益は額面より低い価値にしかならない。成長と商権の持ちを低く見る筋書きなので、上限の約76%の8.5倍に置いた。
確率:半導体メーカーの絞り込みで商権の一部を失い、市場の伸びも鈍る。10年の間に不況が一度はくること、新光商事の統合が期待を下回ることを織り込み、中立に近い厚みを置いた。
悲観 12% 仕入先の絞り込みとメガEMSの攻勢で優良さを失う 利益 76 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 1,196 円570 億円
主要な半導体メーカーが取扱商社を絞り込み、加賀電子は複数の商権を失う。電子部品商社の取扱シェアは今の4分の3に下がり、新光商事の買収分も帳簿上で減損する。営業利益率は1.3%まで落ちる。
EMSは、メガEMSの価格攻勢に負けて顧客を失う。メキシコやタイの拠点は稼働率が上がらず、利益率は3%を割る。情報機器も、国内市場の縮みで利益がほぼ消える。
営業利益は120億円ほどと、今の半分弱になる。借入をした買収の利払いと減損が重なり、純利益は100億円を切る。商社としての強みを失い、普通の中小商社として評価される10年である。
- 電子部品商社:数量 876(世界半導体市場(WSTS、億ドル・実質))× 価格 5.23(取扱シェア × 150円 × 物価の倍率(市場 1 億ドルあたりの売上・億円))→ 売上 4,582 億円・営業利益 60 億円。WSTS 市場 1,178 億ドル×シェア 0.75 倍、利益率 1.3%(数量は名目の市場を物価1.34倍で割った実質)
- EMS(電子機器の受託製造):数量 6,849(世界 EMS 市場(億ドル・実質))× 価格 23.4%(取扱シェア × 150円 × 物価の倍率(市場 1 億ドルあたりの売上・億円))→ 売上 1,605 億円・営業利益 45 億円。EMS 市場 6,850 億ドル(実質)×シェア 0.7 倍、利益率 2.8%
- 情報機器・ソフトウェア・その他:数量 34,000(国内の IT 機器・関連サービス市場(億円・実質))× 価格 2.1%(取扱シェア × 物価の倍率(市場 1 億円あたりの売上・億円))→ 売上 718 億円・営業利益 32 億円。国内市場 0.85 倍、シェア 0.7 倍、利益率 4.5%
倍率:事業の純利益76億円・ROE 3.0% は k 7.75% 以下なので、PERの上限は1÷k=11.1倍。構造的に負けて利益が縮む筋書きなので、上限の約68%の7.5倍に置いた。純現金に近い手元は買収で使われ、現金の上乗せはしない。
確率:商権を失い、メガEMSとの競争に負け、買収した事業の減損が重なる複合の負け筋。一度始まると10年では戻りにくいので、5%を超えて12%を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子部品商社
半導体・電子部品を仕入れ、車載・産業機器・家電などのメーカーに納める商社事業。メモリなど相場品のスポット取引も含む。2026年8月に連結した新光商事は、将来の取扱シェアの伸びとして筋書きに入れる。
| 数量世界半導体市場(WSTS、億ドル・実質) | 価格取扱シェア × 150円 × 物価の倍率(市場 1 億ドルあたりの売上・億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 796 | 5.20 | 4,139 | 114 |
| 10 年後 中立 | 1,165 | 8.50 | 9,905 | 257 |
取り方:2026年3月期の電子部品事業の売上 5,688 億円・セグメント利益 193 億円から、EMS(売上 1,549 億円・利益 79 億円)を引いた値(売上 4,139 億円・利益 114 億円)。数量は世界半導体市場(WSTS の 2025 年実績 約 7,956 億ドル。業種ノートと同じ)、価格は『取扱シェア約 3.5% × 150 円』。取扱品は半導体だけでなく受動部品なども含むため、このシェアは参考の比率で、10 年の変化は『市場の伸び × シェアの変化』で置く。売上にはスポット 411 億円を含む。
EMS(電子機器の受託製造)
顧客の電子機器を調達から組み立てまで請け負う受託製造事業。世界10か国21拠点で、自社を「コンビニ型EMS」と位置づけ、大量生産型のメガEMSとは棲み分ける。メキシコ・タイ・米国が成長の舞台。
| 数量世界 EMS 市場(億ドル・実質) | 価格取扱シェア × 150円 × 物価の倍率(市場 1 億ドルあたりの売上・億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6,200 | 25.0% | 1,549 | 79 |
| 10 年後 中立 | 8,286 | 45.2% | 3,744 | 187 |
取り方:2026年3月期の EMS 売上 1,549 億円・利益 79 億円(中期計画の資料の区分)。数量は世界 EMS 市場(調査会社の 2025 年推定 約 5,900〜6,500 億ドルの中位 6,200 億ドル)、価格は『取扱シェア約 0.17% × 150 円』。シェアは推定。市場の伸びは名目で年 4.6〜6.9%(調査会社の幅)なので、筋書きの数量は名目の市場を物価 1.34 倍で割った実質で置き、物価は価格の側にだけ入れた。
情報機器・ソフトウェア・その他
PC・周辺機器・ネットワーク機器を販売・導入する情報機器、ソフトウェア開発、その他の事業を 1 つにまとめた。
| 数量国内の IT 機器・関連サービス市場(億円・実質) | 価格取扱シェア × 物価の倍率(市場 1 億円あたりの売上・億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40,000 | 2.3% | 901 | 83 |
| 10 年後 中立 | 39,200 | 2.9% | 1,124 | 84 |
取り方:2026年3月期の情報機器 542 億円(利益 44 億円)、ソフトウェア 33 億円(利益 3.7 億円)、その他 326 億円(利益 34.9 億円)の合計(売上 901 億円・利益 83 億円)。数量は国内の PC・周辺機器・IT サービスの市場を約 4 兆円(国内 PC 市場が 2025 年に 2 兆円超だったことからの推定)と置き、取扱シェアは約 2.3%。情報機器は国内 PC の買い替え特需で前期 27% 増えた年で、利益率は山に近い。
リスクと懸念
仕入れ値を握られた薄利多売
商社部分の営業利益率は、過去10年で2.3〜5.3%だった。仕入れ値は半導体メーカーが決め、加賀電子は値段を動かせない。メーカーが取扱商社を絞れば、規模で劣る商社ほど取引条件が悪くなる。商権を失えば、売上と利益が同時に落ちる。
半導体の急落と在庫評価損
過去の不況では、半導体商社の営業利益が5〜7割減った。需要の先読みで積んだ在庫は、市況が下がると評価損になる。AI向けが好調でも、循環そのものは消えていない。10年のあいだに、深い谷が一度はくると見ておく必要がある。
新光商事の統合と、追加の買収負担
純資産の約1.6倍を払う買収で、買った事業の利益は年に20億円に届かない。統合がうまくいかなければ、減損が出る。完全子会社化のために残る株を買えば、追加で約125億円かかる。実質無借金の財務は、借入のある形に変わる。
EMSの立ち上げ費用と競争
メキシコ・タイ・米国の拠点は、投資が先で、稼働率が上がるまで利益が出にくい。巨大EMSは規模で価格を下げられ、受注を取り合う。米国の関税政策が変われば、メキシコ拠点の優位も揺らぐ。EMSの成長は、この会社の10年の筋書きの中心にある。
PC特需の反動と国内情報機器の縮み
2025年は国内のPC出荷が過去最高で、2026年度は法人向けが4割減る見通しがある。加賀電子の情報機器は、2026年3月期に27%伸びた。その反動は、情報機器の売上と利益に出る。国内市場は人口減で、長い目では縮む。
一過性の益とスポット売上への依存
2026年3月期の純利益311億円には、負ののれん益78億円が入る。電子部品のスポット売上411億円も続かない。新光商事の買収でも、暫定で約60億円の負ののれん益が出る見込みだ。これらは稼ぐ力ではなく、その年だけの上積みである。
米中摩擦と地政学
半導体や電子部品は、米中の対立や輸出規制の影響を受けやすい。中国向けの取引が細れば、商社の売上は減る。一方で、生産の移動はEMSには追い風になる。どちらに振れるかは、加賀電子がコントロールできない。
今後の分かれ目
- 世界半導体市場の見通しが、2026年以降も上方修正され続けたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし、利益の振れも大きくなるので、中立の倍率は上げない。
- 新光商事の統合で、費用の削減と商権の拡大が数字に表れたら
- 電子部品商社の取扱シェアを上方修正する。逆に、売上の減少や減損が出たら、やや悲観に確率を移す。
- EMSの利益率が6%に近づき、メキシコ・米国の拠点が黒字になったら
- EMSの利益率とシェアの前提を引き上げる。10年の筋書きの重心が、商社からEMSに移る。
- EMSの利益率が4%を割り、拠点の稼働率が上がらなければ
- やや悲観・悲観の側に確率を寄せる。立ち上げ費用が重く、メガEMSとの競争に押されている合図だ。
- 半導体メーカーが、取扱商社を数社に絞る動きを具体化したら
- 取扱シェアの前提を下げる。加賀電子が残る側に入るかどうかが、10年の価値を大きく動かす。
- 半導体の需要が前年比で急減する決算が出たら
- 在庫評価損と営業利益率の下げ幅を確認し、やや悲観・悲観が近づいたと見る。
見ておくもの
- 電子部品商社の営業利益率(2.5〜3%台のどこに来るか)
- EMSの売上成長と利益率、メキシコ・タイ・米国の稼働状況
- 新光商事の連結後の営業利益と、完全子会社化の支出
- 純有利子負債と、買収後の利払い
- 半導体メーカーの取扱商社の絞り込み、商社の再編
- 情報機器のPC特需の反動の大きさ
倍率と資本コストの決め方
世界半導体市場は、業種ノートの名目の年率(中立7%)を物価の倍率1.34で割った実質を数量に置き、物価は価格の側にだけ入れた(二重に数えない)。世界EMS市場も名目の伸びを物価1.34倍で割った実質を数量に置き、世界半導体市場・世界EMS市場・国内IT機器市場に取扱シェアを掛けて売上を積み、物価3%は価格の側に入れた。倍率は資本コスト7.75%(基本7.5%+quality 1.5%)、長期成長4%、堀は普通として正当化PERを出し、楽観〜中立は上限の約9割に置いた。中立は1÷kの下限(11.1倍)を守る。やや悲観・悲観はROEがk以下で、1÷kの下に置いた。今のPERにも過去のPBRにも寄せていない。2026年3月期の純利益に入った負ののれん益(78億円)とスポット売上は、実力の利益に数えず、10年の出発点を低く見ている。新リース会計基準(2028年3月期)で営業利益とBSの形が変わるが、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.5% を足した(決まり v2)。個別の買収の出来などは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 7.75%。