結論
バイタルケーエスケーHDは、売上 6,100 億円の医薬品卸である。東北・新潟と近畿に配送網を持ち、国内の医療用卸では 5 番手に位置する。営業利益率は 0.7% しかない。売上の 94% が薬の配送で、残りは薬局・動物薬・介護用品だ。筆者の結論は、今の値段は本質価値を 2 割ほど上回る「やや割高」、というものだ。
本業は薄利で、これから大きく伸びる理由が見当たらない。薬価は毎年下がり、人件費と物流費は物価と一緒に上がる。大手 4 社より小さく、仕入れや価格の交渉力も弱い。資本コストは 8% と、大手並みの 7.0% より半歩厳しく置いた。新しい製薬事業は、まだ年 13 億円の損失を出している。
一方で、バランスシートには重い資産がある。取引先の上場株を中心に、投資有価証券が約 530 億円ある。時価総額の 7 割にあたる額だ。会社は中計で、これを純資産の 1 割程度まで減らすと約束した。
この売却代金がどこへ行くかが、価値の分かれ目になる。株主に返れば、手元の資産がそのまま価値になる。買収や開発に使えば、稼ぎの低い資産が稼ぎの低い事業に変わるだけだ。筆者は、半分程度が株主に戻ると見て値を置いた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「事業は並、資産は厚い」という見え方になる。薬は 10 年後も届け続けるので、事業は残る。だが本業の稼ぎは薄く、オーナーが自由に使える利益は、設備投資を引いた後で純利益の 6 割ほどと見る。
本業だけを見ると、価値は時価総額の半分に届かない。時価総額の残りを支えているのは、保有株である。ここがこの会社を読む鍵になる。保有株の価値は帳簿にあるが、本当に株主のものになるのは、売って株主へ返された分だけだ。
経営の資本の使い方は、評価が割れる。保有株の縮減を進め、還元を厚くする方向は正しい。ただ、持ち合いの相手に製薬メーカーがいて、売却の速さには限りがある。製薬事業の赤字は、新しい賭けでもある。
安全域は大きくない。今の値段は、確率で重みづけた本質価値より 2 割ほど高い。小さな卸の悲観の深さを考えると、払える値段は限られる。保有株が株主に戻る道筋が見えれば、評価は変わる。いまは、そこが約束にとどまっている。
何で稼ぐ会社か
バイタルケーエスケーは、二つの卸を束ねる持株会社だ。仙台に本社を置くバイタルネットが東北・新潟を、大阪のケーエスケーが近畿を受け持つ。2009 年の統合で今の形になった。
中核は医療用医薬品の卸で、売上 6,105 億円のうち 94% を占める。製薬会社から薬を仕入れ、病院・診療所・薬局へ毎日届ける。薬の値段は国が決める薬価で、卸の取り分は仕入値との小さな差だ。この事業の営業利益率は 0.9% にとどまる。
残りは三つに分かれる。薬局事業は売上 200 億円で、利益率は 1.3%。動物用医薬品の卸は売上 126 億円で、利益率は 2.4% と高い。薬価に縛られないからだ。ほかに介護用品のレンタルがある。
新しい試みが製薬事業だ。2025 年に子会社を作り、海外で承認済みで国内にない薬を導入する。第一弾は肺動脈性肺高血圧症の薬で、国内での申請は 2028 年度以降の見込みだ。売上はまだゼロで、年 13 億円ほどの損失が出ている。
顧客は特定の大口に偏らない。10% 以上を占める取引先はない。従業員は約 3,900 人で、卸の人員が 6 割を占める。配送拠点と人員を抱えるため、売上が落ちても費用はすぐには減らない。
子会社の持ち分は、バイタルネットとケーエスケーがともに 100% だ。金沢のファイネスは持分法の会社で、北陸の取引を補う。持株会社自体の従業員は 50 人ほどで、現場は二つの卸が動かしている。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、地域に根を張った配送網である。東北は病院との結びつきが深く、薬の欠品を出さない信頼が取引の土台になっている。ただし、これは堀というより、続けるために必要な参入の壁に近い。
弱みは三つある。一つは規模だ。売上は首位メディパルの 6 分の 1 で、仕入れ交渉でも物流の投資でも大手に及ばない。二つ目は利幅で、営業利益率は 0.7% しかなく、費用が少し上がるだけで利益が消える。2021 年 3 月期には、営業赤字に落ちた実績もある。三つ目は資本効率で、自己資本利益率は 10 年間 1% 台から 7% 台を動き、中央値は 5% 台だ。
資本効率が低い理由は、自己資本の厚さにある。1,172 億円の自己資本のうち、投資有価証券が約半分を占める。この資産は配当で年 2% 台しか稼がない。経営が堅実でも、株主のお金を低い利回りで寝かせる形になっている。
経営は手堅く、財務は純現金だ。大きな買収の失敗は、筆者の調べた範囲では見当たらない。製薬事業という新しい試みは、これまでの堅実さとは違う賭けになる。筆者がいちばん気にしているのは、この賭けに使う金額が小さな会社の利益に対して大きいことだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
医薬品卸は、数量が伸び、価格が下がる市場だ。高齢化で処方の数量は緩やかに増える。一方で薬価は、ほぼ毎年改定される。2026 年度の改定は、薬剤費ベースで約 4% の引き下げだった。卸の売上は、数量が伸びても金額では横ばいに近い。
競争は大手 4 社の寡占だ。メディパル・アルフレッサ・スズケン・東邦の売上合計は約 11 兆円で、利益率は 1.3% にすぎない。バイタルケーエスケーは、この 4 社の次に位置する。全国の医療用医薬品を約 11.5 兆円の市場と見ると、シェアは 5% 前後になる。
価格を決める力は卸にない。流通改善ガイドラインで、単品ごとの価格交渉と、物流費の価格への反映が進められている。成果が出れば粗利は守られ、出なければ費用高が利益を削る。
製薬メーカーが取引先の卸を絞る動きは、小さな卸にとっては脅威だ。大手に仕入れを集めれば、配送の効率が上がるからだ。再編の流れもある。1970 年代に 600 社を超えた卸は、いまや約 70 社に減った。
長い目では、2040 年前後に高齢者人口が減り始める。数量の伸びは止まり、毎年の薬価引き下げだけが残る。
東北は人口の減り方が全国でも速い地域で、数量の伸びは近畿より鈍い。近畿は大阪の大病院が多く、競合する大手の拠点も厚い。二つの地域に分かれた配送網は、どちらも大手との競争にさらされる。
資本政策と M&A
資本政策では、政策保有株の縮減が最大の論点だ。中計は、保有株を 2028 年 3 月期に連結純資産の 20% 未満、最終的に 10% 未満へ減らすと掲げる。2025 年 3 月期は 37.5% だった。上場株は、ケーエスケーが 21 銘柄で約 200 億円、バイタルネットが 17 銘柄で約 180 億円ある。当期は 13 銘柄を売った。
還元は、配当性向 40〜45%、総還元性向 50% 以上、純資産に対する配当率(DOE)3% 以上が方針だ。年間配当の性向は 46% である。成長投資は 3 年で 200 億円を見込む。
株主には特徴がある。筆頭は仙台の合同会社 MH で、10% を持つ。目的は安定株主としての保有だ。大塚製薬など製薬メーカーも関係会社として株を持つ。持ち合いが厚く、会社が自由に動ける余地は大きい。
M&A は小粒だ。2025 年に介護の八千代ケアホールディングス、物流の共和運送を子会社にした。外部の調べでは、10 年以内に TOB や買収を受ける確率は 18% と見積もられている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
保有株が株主に戻れば、価値は大きく動く。中計は純資産の 1 割までの縮減を約束し、当期だけで 13 銘柄を売った。売却代金は約 380 億円分あり、時価総額の半分にあたる。配当と自社株買いに回れば、1 株の価値は直接増える。総還元性向 50% 以上、DOE 3% という方針は、その受け皿になる。
本業も悪くない。医療用の数量は高齢化で増え、流通改善ガイドラインが効けば粗利は守られる。薬局事業は利益率が上がり、動物薬は薬価に縛られない。製薬事業が実れば、薬価に頼らない収益の柱になる。導入した薬は、希少疾患の薬として価格を保てる。
筆頭株主の合同会社 MH は、安定株主として持ち続ける。経営は安定し、再編の流れの中でも独立を保てる。大手 4 社の寡占は動かず、5 番手が生き残る余地は十分にある。純現金は 130 億円台で、借金に追われる心配もない。外部の見積もりで 18% ある買収の可能性も、上振れの要因になる。小さな卸は、持株会社の下に地域の卸を二つ束ねた分、再編の受け皿にもなりやすい。
慎重な見方
本業が薄すぎる。営業利益率は 0.7% で、自己資本利益率は資本コストに届かない。薬価は毎年下がり、費用は物価で上がる。5 番手の卸は、仕入れの交渉でも物流の投資でも、大手に勝てない。製薬メーカーが取引先を大手に絞れば、数量そのものを失う。
保有株の売却は、思ったほど進まない。持ち合いの相手は製薬メーカーで、関係を壊す売却は難しい。売れても、代金が株主に戻る保証はない。買収や製薬事業の開発に使われれば、利回りの低い資産が、利回りの低い事業に変わるだけだ。製薬事業は売上ゼロで年 13 億円の損失を出し、承認まで 2 年以上かかる。しかも、薬価の下がる国内で、導入薬が利益を生むかどうかは別の話だ。
筆頭株主は安定株主を名乗るが、経営に口を出さない保証も、売らない保証もない。10 年先には、高齢者人口の減少と中抜きが重なる。大手に統合された卸との差は開く。人件費と物流費が物価で上がれば、薄い利益は先に消える。今の値段は、この下振れを織り込んでいない。保有株の価値も、株式市場が崩れれば同時に目減りする。
どちらに重みを置いたか
本業の薄さと規模の弱さという慎重な指摘が、やや強い。保有株の縮減は確かな上振れだが、持ち合いの相手が製薬メーカーで、速さに限りがある。また、代金が株主に戻るのは半分程度と見る。確率は中立に 35% を置き、悪い側に 4 割近くを寄せた。10 年の悲観は、取引の絞り込みで構造的に負ける姿として 14% とした。大手 4 社より悲観を厚く置いたのは、規模の差が利幅の差になるからだ。資本コストは 8% に置き、本質価値は今の値段を 2 割ほど下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,088 円994 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 762 円363 億円)。 今の値に割り戻すと 1,486 円708 億円、今との差 −5.3%、 期待の年率 +6.2%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,967 円1,413 億円 | 1,092 円520 億円 | +158.8% | +10.0% | 325 円155 億円 |
| やや楽観 | 19% | 2,593 円1,235 億円 | 924 円440 億円 | +124.3% | +8.4% | 668 円318 億円 |
| 中立 | 35% | 2,329 円1,109 億円 | 798 円380 億円 | +99.4% | +7.1% | 1,094 円521 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,705 円812 億円 | 672 円320 億円 | +51.6% | +4.2% | 570 円272 億円 |
| 悲観 | 14% | 953 円454 億円 | 420 円200 億円 | −12.5% | −1.3% | 192 円92 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,088 円994 億円 | 762 円363 億円 | +81.7% | +6.2% | 2,850 円1,357 億円 |
今の株価時価総額 1,568 円747 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 流通改善が効き、新薬の導入も実る 利益 87 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,967 円1,413 億円
医療用卸では、単品ごとの価格交渉が定着して、粗利が守られる。配送の共同化と自動化で費用も抑えられ、医療用の営業利益率は 0.95% へ戻る。数量は高齢者向けの高額薬で 15% 増える。
製薬事業は、導入した未承認薬が国内で承認され、10 年後には年間 50 億円ほどの売上と黒字をもたらす。薬局と動物薬も伸び、連結の営業利益は 80 億円台に乗る。
政策保有株の売却は進み、売却代金は成長投資と還元に回る。10 年で約 520 億円を株主へ返す。東北と近畿に厚い配送網を持つ地域卸として、病院との結びつきを強めた姿になる。保有株が減る分、自己資本は稼ぐ資産の割合が高まる。
- 医療用医薬品等の卸:数量 0.7(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.97(薬価・売値の水準を今を 1 とした指数(薬価改定で下がる。物価では動かない))→ 売上 6,391 億円・営業利益 61 億円。医療用卸:数量 1.15 倍・価格 0.97 倍、営業利益率 0.95%
- 薬局:数量 0.0(調剤・販売の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.20(処方の単価水準の指数(薬価の下がりと調剤報酬の上がりで、物価よりゆるやかに上がる))→ 売上 276 億円・営業利益 5 億円。薬局:数量 1.15 倍・価格 1.20 倍、営業利益率 1.8%
- 動物用医薬品の卸:数量 0.0(取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.34(商品の卸値の水準を今を 1 とした指数(物価並みに上がる))→ 売上 186 億円・営業利益 5 億円。動物薬:数量 1.10 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 2.5%
- 介護レンタル・製薬ほか:数量 0.0(売上(今の値段で測った兆円))× 価格 1.00(水準の指数)→ 売上 50 億円・営業利益 12 億円。介護・製薬:未承認薬が上市して黒字、売上 50 億・利益 12 億
倍率:事業の純利益 82 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)380 億円。全体の PER 13.18 倍、時価総額 1,456 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。(見直し R4:余り資産を rental・holdings に移して上限が下がったので、倍率の上限と時価総額を機械で置き直した(置き直し後は PER 12.5 倍)。この文中の余った現金・倍率・時価総額の数字は置き直す前のもの)
確率:すべてがうまくいく姿。小さな卸でこれほど噛み合うのは難しく、1 割に届かない 8% とした。
やや楽観 19% 薬局と動物薬が伸び、医療用は守る 利益 69 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,593 円1,235 億円
医療用卸は、数量の伸びが薬価の下がりを補い、営業利益率は 0.85% で落ち着く。薬局と動物用医薬品は、物価並みの値上げで売上が増え、利益率も少し上がる。
中計が掲げる営業利益率 1.15% には届かない。それでも営業利益は 60 億円ほどで、今より 5 割増える。配当は 40〜45% の性向を守り、10 年で約 440 億円を返す。
製薬事業は、開発費に見合う収入が出て、赤字を止める。保有株の縮減で、自己資本のうち稼がない部分が減り、資本効率が少しずつ上がる。売却の代金は、一部が成長投資と還元に回る。東北の病院との取引も、配送の質で守られる。
- 医療用医薬品等の卸:数量 0.6(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.95(薬価・売値の水準を今を 1 とした指数(薬価改定で下がる。物価では動かない))→ 売上 6,096 億円・営業利益 52 億円。医療用卸:数量 1.12 倍・価格 0.95 倍、営業利益率 0.85%
- 薬局:数量 0.0(調剤・販売の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.15(処方の単価水準の指数(薬価の下がりと調剤報酬の上がりで、物価よりゆるやかに上がる))→ 売上 253 億円・営業利益 4 億円。薬局:数量 1.10 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 1.6%
- 動物用医薬品の卸:数量 0.0(取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.34(商品の卸値の水準を今を 1 とした指数(物価並みに上がる))→ 売上 182 億円・営業利益 4 億円。動物薬:数量 1.08 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 2.3%
- 介護レンタル・製薬ほか:数量 0.0(売上(今の値段で測った兆円))× 価格 1.00(水準の指数)→ 売上 24 億円・営業利益 0 億円。介護・製薬:開発費と収益が見合う、売上 24 億・利益ほぼ 0
倍率:事業の純利益 64 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.2% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)380 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 1,176 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。(見直し R4:余り資産を rental・holdings に移して上限が下がったので、倍率の上限と時価総額を機械で置き直した(置き直し後は PER 12.5 倍)。この文中の余った現金・倍率・時価総額の数字は置き直す前のもの)
確率:医療用卸の利幅が保たれ、中計の方向に近づく姿。確率は 2 割弱。
中立 35% 売上は緩やかに増え、利幅は少し細る 利益 56 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,329 円1,109 億円
医療用卸の数量は、高齢化で 10 年に 1 割ほど増える。薬価は累積で 7% 下がり、売上は 5,900 億円ほどにとどまる。人件費と物流費は物価で上がるので、営業利益率は 0.75% に下がる。
薬局と動物薬は物価並みに伸びる。製薬事業の開発費は残り、全体の営業利益は 45 億円前後と、今とほぼ変わらない。物価で費用が増える分、実質の稼ぐ力は細る。
政策保有株は、中計どおり純資産の 1 割へ向けて減る。売却代金の一部は還元に回り、10 年の還元は約 380 億円。自己資本利益率は 5% 台で、資本コストを下回る。地方の卸としての安定は保つが、伸びる要素は乏しい。大手 4 社との差は今と同じ程度に保たれ、再編の話は出ない。
- 医療用医薬品等の卸:数量 0.6(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.93(薬価・売値の水準を今を 1 とした指数(薬価改定で下がる。物価では動かない))→ 売上 5,861 億円・営業利益 44 億円。医療用卸:数量 1.10 倍・価格 0.93 倍、営業利益率 0.75%
- 薬局:数量 0.0(調剤・販売の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.15(処方の単価水準の指数(薬価の下がりと調剤報酬の上がりで、物価よりゆるやかに上がる))→ 売上 242 億円・営業利益 3 億円。薬局:数量 1.05 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 1.3%
- 動物用医薬品の卸:数量 0.0(取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.34(商品の卸値の水準を今を 1 とした指数(物価並みに上がる))→ 売上 177 億円・営業利益 4 億円。動物薬:数量 1.05 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 2.2%
- 介護レンタル・製薬ほか:数量 0.0(売上(今の値段で測った兆円))× 価格 1.00(水準の指数)→ 売上 16 億円・営業利益 −6 億円。介護・製薬:開発費が残り、小さな赤字(売上 16 億・損失 6 億)
倍率:事業の純利益 51 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.9% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)380 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 1,014 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。(見直し R4:余り資産を rental・holdings に移して上限が下がったので、倍率の上限と時価総額を機械で置き直した(置き直し後は PER 12.5 倍)。この文中の余った現金・倍率・時価総額の数字は置き直す前のもの)
確率:薬価は毎年下がり、費用は物価で上がる。大手 4 社の次に位置する卸の最も確からしい姿として 35% を置いた。
やや悲観 24% 薬価の累積と費用高で、利益が目減りする 利益 38 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 1,705 円812 億円
薬価の引き下げが累積で 1 割に達し、卸の取り分は削られる。物流の人手不足で費用は膨らみ、医療用の営業利益率は 0.58% まで下がる。営業利益は 25 億円を割る水準だ。
製薬メーカーが取引先の卸を絞る動きも広がり、数量は 4% 増にとどまる。薬局と動物薬の利益も伸びない。製薬事業は、導入した薬の開発が遅れて、撤退費用を含む損失が続く。
純利益は 40 億円弱。配当は続けるが、10 年の還元は約 320 億円に細る。自己資本利益率は 3% 台と、資本コストを大きく下回る。保有株の価値も一部目減りする。薬局と動物薬は小さく、全体の落ち込みを埋められない。
- 医療用医薬品等の卸:数量 0.6(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.90(薬価・売値の水準を今を 1 とした指数(薬価改定で下がる。物価では動かない))→ 売上 5,362 億円・営業利益 31 億円。医療用卸:数量 1.04 倍・価格 0.90 倍、営業利益率 0.58%
- 薬局:数量 0.0(調剤・販売の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.10(処方の単価水準の指数(薬価の下がりと調剤報酬の上がりで、物価よりゆるやかに上がる))→ 売上 220 億円・営業利益 2 億円。薬局:数量 1.00 倍・価格 1.10 倍、営業利益率 0.9%
- 動物用医薬品の卸:数量 0.0(取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.30(商品の卸値の水準を今を 1 とした指数(物価並みに上がる))→ 売上 164 億円・営業利益 3 億円。動物薬:数量 1.00 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 1.8%
- 介護レンタル・製薬ほか:数量 0.0(売上(今の値段で測った兆円))× 価格 1.00(水準の指数)→ 売上 12 億円・営業利益 −12 億円。介護・製薬:開発の撤退費用などで損失 12 億
倍率:事業 ROE は 3% 台で資本コストを大きく下回るため、上限は 1÷k の約 13.3 倍。成長せず資本の稼ぎも低い会社として 7.5 割の 10.0 倍に置いた。(見直し R4:余り資産を rental・holdings に移して上限が下がったので、倍率の上限と時価総額を機械で置き直した(置き直し後は PER 11 倍)。この文中の余った現金・倍率・時価総額の数字は置き直す前のもの)
確率:毎年の薬価引き下げと物流費の上昇は、足元の決算がすでに示す方向。5 位の卸は大手より交渉力が弱く、2 割台半ばを置いた。
悲観 14% 取引絞り込みと中抜きで、規模の小さい卸が押される 利益 18 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 953 円454 億円
製薬メーカーが取引卸を大手に絞り、直接配送も広がる。数量は 12% 減り、薬価は 10 年で 15% 下がる。医療用の営業利益率は 0.35% まで落ち、営業利益はほぼゼロになる。
製薬事業は成果が出ないまま損失が続き、薬局と動物薬も縮む。配当と保有株の売却益で純利益は 20 億円近くに保たれるが、本業はもう稼げていない。
還元は 10 年で約 200 億円に抑えられる。規模の優位を持たない卸が、固定費だけを抱えて縮む姿だ。地方の病院との取引は残るが、価格を決める力は持てない。保有株の一部は谷で目減りし、売却の代金も株主には戻りにくい。
- 医療用医薬品等の卸:数量 0.5(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.85(薬価・売値の水準を今を 1 とした指数(薬価改定で下がる。物価では動かない))→ 売上 4,285 億円・営業利益 15 億円。医療用卸:数量 0.88 倍・価格 0.85 倍、営業利益率 0.35%
- 薬局:数量 0.0(調剤・販売の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.05(処方の単価水準の指数(薬価の下がりと調剤報酬の上がりで、物価よりゆるやかに上がる))→ 売上 200 億円・営業利益 1 億円。薬局:数量 0.95 倍・価格 1.05 倍、営業利益率 0.5%
- 動物用医薬品の卸:数量 0.0(取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.20(商品の卸値の水準を今を 1 とした指数(物価並みに上がる))→ 売上 144 億円・営業利益 2 億円。動物薬:数量 0.95 倍・価格 1.20 倍、営業利益率 1.2%
- 介護レンタル・製薬ほか:数量 0.0(売上(今の値段で測った兆円))× 価格 1.00(水準の指数)→ 売上 8 億円・営業利益 −15 億円。介護・製薬:損失 15 億が続く
倍率:事業 ROE が 1% 台で資本コストを大きく下回る。構造的に負けた筋書きとして 1÷k の約 13.3 倍の 6 割、8.0 倍に置いた。余った現金(保有株)は 0.5 倍に減らして足している。(見直し R4:余り資産を holdings に移したので、時価総額は事業の純利益 × PER に置いた。保有株は R4 の足し直しで数える)
確率:10 年の悲観は構造的な負け。大手 4 社に仕入れと取引が集まる流れで、5 位の卸は押される。14% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
医療用医薬品等の卸
製薬会社から薬を仕入れ、東北・新潟と近畿の病院・診療所・薬局へ配送する。バイタルネットとケーエスケーが担う中核事業。
| 数量国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア | 価格薬価・売値の水準を今を 1 とした指数(薬価改定で下がる。物価では動かない) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.6 | 1.00 | 5,729 | 49 |
| 10 年後 中立 | 0.6 | 0.93 | 5,861 | 44 |
取り方:国内の医療用医薬品市場を、薬価ベースで約 11.5 兆円(調査会社の 2024 年度の数字。メディパルの分析と同じ値を使う)とみる。売上 5,729 億円を市場で割ると、シェアは約 5.0%。数量は市場 11.5 兆円 × シェア 5.0%=0.573 兆円分の取扱量、価格は薬価と売値の指数で今を 1 とした。1 兆円=10,000 億円で換算する。
薬局
調剤薬局を運営する。売上は小さく、卸の顧客でもある。
| 数量調剤・販売の取扱量(今の値段で測った兆円) | 価格処方の単価水準の指数(薬価の下がりと調剤報酬の上がりで、物価よりゆるやかに上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.0 | 1.00 | 200 | 3 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 1.15 | 242 | 3 |
取り方:開示に市場規模とシェアが無いため、今の売上 200 億円分(0.02 兆円)の取扱量を基準にした推計。小さな事業なので、数量は人口に近い緩やかな動きとして置く。
動物用医薬品の卸
動物病院や畜産向けに動物用の薬を卸す。薬価に縛られない。
| 数量取扱量(今の値段で測った兆円) | 価格商品の卸値の水準を今を 1 とした指数(物価並みに上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.0 | 1.00 | 126 | 3 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 1.34 | 177 | 4 |
取り方:開示に市場規模とシェアが無いため、今の売上 126 億円(0.0126 兆円)を基準にした推計。数量は緩やかな動き、価格は物価並みとして置く。
介護レンタル・製薬ほか
介護用品のレンタルと、未承認薬を導入する製薬事業(損失先行)。
| 数量売上(今の値段で測った兆円) | 価格水準の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.0 | 1.00 | 50 | −15 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 1.00 | 16 | −6 |
取り方:全社の売上 6,105 億円から、卸・薬局・動物薬の合計を引いた約 50 億円。営業利益は、全社の約 40 億円から他の 3 つを引いた約 −15 億円(製薬事業の損失約 13 億円を含む)。
リスクと懸念
薬価の引き下げと流通改善の不発
薬価は毎年のように改定され、卸の売上は数量の伸びほど増えない。流通改善ガイドラインで、単品ごとの価格交渉や必要経費の反映が進まなければ、粗利は細る。営業利益率が 0.7% から 0.5% に落ちるだけで、営業利益は 3 割近く減る。
人件費と物流費の高騰
物流は人手不足で、運転手と倉庫の人件費が物価以上に上がっている。大手 4 社の 2026 年 3 月期は営業利益が減った。費用の上昇を価格に載せにくい構造なので、売上が 6,000 億円を超えても利益は 40 億円台にとどまる。自動化と共同配送が追いつくかが問われる。
取引卸の絞り込みと規模の差
製薬メーカーが取引先の卸を大手に絞る動きは、5 番手の卸には脅威になる。大手 4 社の売上は約 11 兆円で、規模の差が仕入れと物流の効率の差につながる。取引を失えば、固定費を抱えた配送網の稼働が下がる。
保有株の縮減が進まない
投資有価証券は約 530 億円で、時価総額の 7 割にあたる。持ち合いの相手に製薬メーカーがいて、売却の速さには限りがある。売れても代金が株主に戻らず、低い利回りの買収や開発に回れば、価値は増えない。
製薬事業という新しい賭け
未承認薬の導入事業は、売上ゼロで年 13 億円の損失を出している。第一弾の薬の国内申請は 2028 年度以降の見込みで、承認される保証はない。開発が失敗すれば、損失と撤退費用が残る。小さな会社には、利益の 3 割にあたる負担だ。
株主構成と経営の不確実性
筆頭株主の合同会社 MH は 2025 年に設立された会社で、10% を持つ。目的は安定株主だが、背後の意図は開示から読み取れない。関係会社の製薬メーカーも株主に並ぶ。持ち分の動きが、経営と資本政策に影響する可能性がある。
今後の分かれ目
- 保有株の売却が計画より速く進み、代金が配当や自社株買いに回った
- 余った資産が株主に戻る確率が上がり、戻り方を引き上げる。やや楽観の確率を厚くし、還元の合計も上に直す。稼ぐ力は変わらないので、倍率は据え置く。
- 薬価の中間年改定が毎年の本格改定になり、深さも増した
- 卸の売上と粗利が同時に削られる。医療用の利益率を 0.6% 前後で見て、やや悲観と悲観の確率を厚くする。
- 流通改善ガイドラインが効いて、単品ごとの価格交渉が定着した
- 医療用の粗利が守られ、営業利益率は 0.85% 前後で安定する。楽観とやや楽観の確率を上げる。
- 製薬メーカーが取引先の卸を絞り込み、当社の取引が減り始めた
- 数量の伸びが止まり、固定費の重さが利益を削る。10 年の筋書きを悲観寄りに直す。
- 導入した未承認薬の治験が成功し、国内申請に進んだ
- 製薬事業が損失から収益の柱へ変わる道が開く。やや楽観の確率を上げ、他の事業への依存を下げる。
- 合同会社 MH や関係会社の持ち分が動き、大手卸との再編の話が出た
- 買収の価格が価値に上乗せされる可能性がある。ただし、価格の水準は不明なので、確率は動かさず値だけ見直す。
見ておくもの
- 中計 2027 の最終年(2028 年 3 月期)の営業利益率 1.15%・調整後 ROE 8% の達成度
- 政策保有株の残高と、純資産に対する比率(20% 未満、のち 10% 未満)
- 売却代金の使い道(還元・成長投資・製薬事業)
- 薬価改定(中間年を含む)の下げ幅と流通改善ガイドラインの運用
- 医療用卸の営業利益率(0.9%)と、取引卸の絞り込みの動き
- 製薬事業の導入薬の治験の進み具合と、損失の規模
倍率と資本コストの決め方
倍率は事業の ROE と資本コスト 8% から決め、今の株価では測っていない。事業 ROE が資本コストを下回るので、上限は 1÷k の約 13.3 倍とし、中立はその 8 割に置いた。保有株の約 380 億円は事業に要らない資産として別に足し、戻り方は半分とした。悲観は事業の稼ぐ力から出し、谷の PBR は使っていない。リースは固定債務が約 10 億円と小さく、2028 年 3 月期からの新リース会計基準の影響は小さい。10 年後の数字は今と同じ形で揃えた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→13.18 倍・やや楽観 PER 11.7→12.5 倍・中立 PER 10.7→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 8.00%。