結論
稲畑産業は、1890 年に京都の染料店として始まった化学品の専門商社である。樹脂、電子材料、食品などを仕入れて売り、国内では長瀬産業と並ぶ独立系の雄だ。筆者の結論は、今の株価はほぼ適正(本質価値を1割ほど上回る)で、安全域は薄いというものだ。
稼ぐ力は着実に上がった。営業利益は 10 年で 2 倍を超え、2026 年 3 月期は過去最高の 262 億円だった。柱は合成樹脂で、利益の半分を稼ぐ。顧客に近い場所で樹脂を配合する加工を持ち、単なる右から左の商社とは違う。
それでも資本の稼ぎは平凡だ。商社は売上が増えるほど運転資金が要り、利益率は 3% 前後にとどまる。ROE は 9% 前後で、資本コストとほぼ同じである。成長が止まれば、株主の取り分は増えない。
もう 1 つの懸念は、情報電子の中身だ。液晶パネル向けの材料が土台で、成熟した市場に中国メーカーの内製化が迫る。AI 向けの先端半導体材料は伸びているが、まだ利益全体を動かすほど大きくはない。
会社は中期計画で、ROE 10% 以上と PBR 1 倍の定着を掲げる。届けば株主にはうれしいが、今の筋書きでは中立でも ROE は資本コスト並みだ。10 年先の価値は、今の時価総額を 1 割ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「堅実だが、資本の稼ぎが平凡な商社」である。130 年を超えて続き、財務は軽く、赤字の期も無い。事業が 10 年後にも存在することには、確信が持てる。
ただ、持ち主に残る利益は見かけより小さい。商社は売上が増えるたびに運転資金が要り、純利益の約半分は配当と自社株買いで出ていくが、残りは設備と運転資金に吸われる。ROE は 9% 前後で、資本コストとほぼ同じだ。利益が増えても、株主の取り分は増えにくい。
堀は部分的である。情報電子と合成樹脂のコンパウンドは顧客と結びつくが、化学品や汎用樹脂は価格で選ばれる。10 年先も強いと言えるのは、利益の 4 割ほどだ。
経営は誠実で、資本効率の改善にも前向きだ。政策保有株の売却と自社株買いは、評価できる。ただ、資本を大きく成長に回して高い稼ぎを得る、という段階にはまだ入っていない。
安全域は厚くない。今の株価は、ROE が 10% に近づくことを織り込んだ水準に見える。筆者は、強気の見方がかなり当たらないと、割安にならない銘柄だと考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、化学メーカーから樹脂や化学品を仕入れ、電機・自動車・日用品のメーカーに売る商社機能だ。2026 年 3 月期の売上は約 8,300 億円で、合成樹脂が約 4,100 億円、情報電子が約 2,400 億円、化学品が約 1,300 億円、生活産業が約 600 億円である。
合成樹脂は、全社の営業利益の半分、約 132 億円を稼ぐ。汎用樹脂やエンジニアリングプラスチックを売るだけでなく、中国・ベトナム・インドネシアなど 7 カ国で樹脂の配合加工(コンパウンド)を手がける。顧客の工場の近くで、少量・多品種を短い納期で作るのが強みだ。2024 年には加工を担うノバセルを設立し、ダイセルとも合弁を組む。
情報電子は、液晶・有機 EL パネルの偏光板材料が主力で、半導体・フォトマスク材料、LED 封止材、電池材料も扱う。顧客は中国・台湾・韓国のパネルメーカーだ。営業利益は約 70 億円で、前期にあった大型装置の販売が無く、17% 減った。一方、先端半導体向け材料と中国向け半導体材料は大きく増えた。
化学品は、自動車部品原料、塗料・インキ・接着剤原料、製紙薬剤、建築資材を扱い、営業利益は約 36 億円。生活産業は、医薬品原料、食品、茶を扱い、営業利益は約 22 億円と前期の 2 倍近くになった。冷凍野菜・水産物・うなぎ加工品に加え、佐藤園の連結が加わった。
海外は 19 カ国 70 拠点で、アジアの人員が全体の 6 割を占める。顧客は約 1 万社に及ぶ。為替は 1 ドル 150 円で置くので、円安の追い風は織り込まない。
優良さと弱いところ
堀は中程度である。強みは、130 年を超える取引先との付き合いと、顧客の近くで加工して供給する機能だ。メーカーが自前で持ちにくい在庫・与信・小口の配合を引き受けることで、乗り換えにくい取引を作っている。
弱みは、利益率の薄さだ。営業利益率は 3% 台で、取引先の値下げ要求や原料の変動が、そのまま利益を揺らす。扱う商品の多くは他社からも買えるため、値段を自分で決める力は弱い。
質の高い部分もある。情報電子の液晶・有機 EL 材料は、顧客の工程に組み込まれ、切り替えに時間がかかる。コンパウンドは、顧客ごとに配合が違い、他社に移しにくい。堀が深いと言える事業は、利益の 4 割ほどだ。
経営は資本効率を意識し始めている。ROE 10% 以上と PBR 1 倍の定着を掲げ、政策保有株の売却と自社株買いを進める。政策保有株は 2027 年 3 月末までに、2021 年 3 月末比で 8 割減らす計画だ。独立社外取締役が過半を占める体制にもなった。
ただ、ROE は 9% 前後で止まり、10% の目標には届いていない。買収で増えた、のれんの償却も続く。商社としては堅実だが、資本の使い方で際立つ会社とは言えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
追い風は電子材料と自動車の軽量化、向かい風は国内の成熟需要と中抜きである。化学品商社の国内市場は約 4.3 兆円で、ほぼ横ばいだ。その中で、半導体材料は AI 向けの投資に支えられ、実質で年 5〜8% の伸びが見込める。
液晶パネルは成熟している。テレビ向けは低調で、中国メーカーが世界の生産を握った。稲畑産業は、中国の有力パネルメーカーに早くから食い込んだが、パネルメーカーが材料を内製したり、直接調達に切り替えたりすれば、商社の口銭は削られる。有機 EL への移行は追い風になる。
樹脂は、コンパウンドの市場が年 2〜3% 伸びる見通しだ。自動車の軽量化や金属の置き換えが需要を支え、リサイクル材も増える。ただ、食器や容器などの汎用向けは減り続ける。インドとメキシコの自動車向けは伸びている。
競合は長瀬産業と、総合商社の化学品部門だ。上位 2 社で市場の 4 割を占める寡占に近い形だが、品目ごとに専門商社が多い。メーカー側の力が強い品目も多い。
もう 1 つの変数は、中東情勢とナフサの価格だ。稲畑産業は、ナフサ由来の樹脂と化学品原料を多く扱う。供給が乱れれば、在庫の評価損が出やすい。一方で、調達力のある商社には、商権が集まる面もある。
資本政策と M&A
資本政策は、還元の強化と持ち合い株の圧縮が柱だ。2024 年 5 月に出した中期計画 NC2026 は、総還元性向を 50% 以上、配当総額を株主資本の 4〜4.5% とし、減配をしない累進配当を掲げる。2026 年 3 月期の自社株買いは約 32 億円だった。
政策保有株は、2027 年 3 月末までに 2021 年 3 月末比で約 8 割減らす。売却で得た資金は、成長投資と還元に回す。純有利子負債は自己資本の 0.07 倍と軽く、グリーンボンドなど資金調達の手段も広げた。
買収は、小さく数をこなす型である。2023 年に大五通商と丸石化学品の持ち分を引き上げ、2024 年にノバセルを設立し、佐藤園を連結に加えた。大型の買収はまだ無く、成否の評価は定まっていない。
買われる側としては、時価総額が約 2,400 億円で、財務が堅く、TOB の標的になりうる大きさだ。住友化学が主要株主に名を連ねるが、親会社ではない。同業の再編や、総合商社による取り込みの可能性は、筆者は低くないと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI 向けの先端半導体材料は、まだ序盤である。情報電子では、中国向け半導体材料と先端材料の販売が大きく増え、液晶の落ち込みを埋め始めた。稲畑産業は、フォトマスクや先端材料の取り扱いを広げており、実質で年 2 桁の伸びが続けば、利益の構成が変わる。
合成樹脂は、まだ伸びしろがある。コンパウンドの市場は年 2〜3% 伸び、自動車の軽量化とリサイクル材が追い風だ。インドとメキシコの自動車向けは伸びており、7 カ国の加工拠点は、他社が真似しにくい資産である。炭素繊維など新しい商材も動き出した。
生活産業は、食品の収益改善が進み、営業利益が前期の 2 倍近くになった。佐藤園の連結や米国のデザート製品が加わり、中期計画の目標にも近づいている。利益率が 4% 台に上がれば、全社の質を引き上げる。
資本政策も変わる。政策保有株を 8 割減らし、総還元性向 50% 以上を守る。営業利益は 2027 年 3 月期に 275 億円と、中期計画の目標を前倒しで上回る見通しだ。ROE 10% の達成は、現実的な目標である。
慎重な見方
営業利益の伸びは、すでに頭打ちに近い。2026 年 3 月期の営業利益は前期比 1.3% しか増えず、売上は減った。2027 年 3 月期の見通しは、中東情勢と原料の変動という不確実さを抱える。
情報電子は、利益が 17% 減った。液晶は成熟し、中国のパネルメーカーが力を持つ。材料の内製や直接調達が進めば、商社の取り分は細る。太陽光や電池の材料も、価格競争と需要の鈍りで苦しい。AI 向けの材料はまだ小さく、液晶の穴を埋めきれていない。
合成樹脂の利益は、前期比で 1% しか増えていない。汎用樹脂は国内の需要が減り、アジア向けのポリオレフィン輸出も落ちた。ナフサの価格が揺れる中で、在庫の評価損や、値上げを転嫁できない局面が出やすい。
ROE は 9% 前後で、資本コストと変わらない。それなのに、PBR 1 倍の達成を掲げるのは、評価を先に上げる賭けに近い。10% の目標を 3 年続けて外しており、計画の信頼度は高くない。商社の利ざやは薄く、景気が悪くなれば営業利益は 3 割は減る。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、半導体材料と食品の改善を正しく突いている。慎重な見方は、液晶の成熟と、ROE が資本コストの近くから動いていない点を冷静に見ている。
わずかに慎重な見方が強い。確率は中立を中心に置き、悲観を 12% とした。中抜きと中国の内製化は、10 年では起こりうる構造変化なので、悲観をやや厚くしている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,051 円3,764 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,458 円1,312 億円)。 今の値に割り戻すと 5,133 円2,740 億円、今との差 +14.7%、 期待の年率 +7.8%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 12,559 円6,704 億円 | 2,930 円1,564 億円 | +246.1% | +13.2% | 1,239 円661 億円 |
| やや楽観 | 20% | 9,983 円5,329 億円 | 2,718 円1,451 億円 | +183.8% | +11.0% | 2,540 円1,356 億円 |
| 中立 | 36% | 8,094 円4,321 億円 | 2,478 円1,323 億円 | +136.3% | +9.0% | 3,806 円2,032 億円 |
| やや悲観 | 24% | 3,715 円1,983 億円 | 2,274 円1,214 億円 | +33.8% | +3.0% | 1,437 円767 億円 |
| 悲観 | 12% | 2,035 円1,086 億円 | 2,018 円1,077 億円 | −9.4% | −1.0% | 486 円260 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,051 円3,764 億円 | 2,458 円1,312 億円 | +112.5% | +7.8% | 9,509 円5,076 億円 |
今の株価時価総額 4,475 円2,389 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 半導体材料と食品が育つ高収益の商社 利益 419 億円 · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 12,559 円6,704 億円
10 年後、稲畑産業は液晶に頼らない収益構造に変わっている。AI と中国の国産化を背景に、先端半導体材料の数量が実質で 2 倍近くに増え、情報電子の営業利益率は 3.7% に上がる。
合成樹脂は、インドとメキシコの自動車向けと、リサイクル材のコンパウンドで数量を伸ばす。生活産業は、佐藤園と米国のデザートが育ち、利益率が 4% 台半ばに届く。
営業利益は 560 億円ほどになり、今の 2 倍を超える。政策保有株は売り終わり、浮いた資金は成長投資と還元に回る。ROE は 10% を超え、会社が掲げる売上 1 兆円も実現する。
- 合成樹脂:数量 5,100(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 6,834 億円・営業利益 239 億円。市場 2.30 兆円 × シェア 22.2%、営業利益率 3.5%
- 情報電子:数量 4,068(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 5,451 億円・営業利益 202 億円。市場 1.59 兆円 × シェア 25.5%、営業利益率 3.7%
- 化学品:数量 1,439(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,928 億円・営業利益 62 億円。市場 0.84 兆円 × シェア 17.1%、営業利益率 3.2%
- 生活産業:数量 962(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,289 億円・営業利益 59 億円。市場 1.68 兆円 × シェア 5.7%、営業利益率 4.6%
倍率:事業の純利益 419 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.0 倍。全体の PER 16 倍、時価総額 6,704 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:先端半導体材料が実質で 2 倍近くに伸び、食品も育つ強気の道。液晶の落ち込みと両立させる必要があり、確率は 1 割弱にとどめる。
やや楽観 20% 電子と生活産業が伸び、ROE が 9.5% に 利益 352 億円 · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 9,983 円5,329 億円
情報電子と生活産業の 2 本が計画どおりに育つ筋書きだ。先端半導体材料は実質で年 4% 台の伸びを保ち、液晶は横ばいで踏みとどまる。情報電子の営業利益率は 3.3% に上がる。化学品は国内の成熟需要で、数量はほぼ横ばいだ。
合成樹脂は、自動車向けとコンパウンドで数量が 2 割近く増える。生活産業は食品の収益改善が定着し、利益率が 4% を超える。
営業利益は 470 億円ほどに増える。還元は純利益の約半分を保ち、ROE は 9.5% 前後に上がる。会社の中期目標である ROE 10% には、わずかに届かない。電子と生活産業で利益の半分を稼ぐ構成に近づき、商社の薄利という印象は少し薄れる。
- 合成樹脂:数量 4,814(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 6,451 億円・営業利益 216 億円。市場 2.24 兆円 × シェア 21.5%、営業利益率 3.4%
- 情報電子:数量 3,470(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 4,650 億円・営業利益 153 億円。市場 1.45 兆円 × シェア 23.9%、営業利益率 3.3%
- 化学品:数量 1,376(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,844 億円・営業利益 55 億円。市場 0.82 兆円 × シェア 16.7%、営業利益率 3.0%
- 生活産業:数量 841(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,127 億円・営業利益 47 億円。市場 1.56 兆円 × シェア 5.4%、営業利益率 4.2%
倍率:事業の純利益 352 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.1 倍。全体の PER 15.14 倍、時価総額 5,329 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:情報電子と生活産業が計画どおり育ち、ROE が 9.5% 前後まで上がる道。2027 年 3 月期の営業利益が 275 億円と伸びる見通しなので、2 割を置く。
中立 36% 着実に伸びるが、ROE は資本コスト並み 利益 303 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 8,094 円4,321 億円
数量はゆるやかに増え、利益率は今の水準を保つ筋書きだ。情報電子は、半導体材料が伸びる一方、液晶は横ばいで、数量は 1.25 倍。合成樹脂は 1.12 倍、生活産業は食品の拡大で 1.25 倍になる。
化学品は国内の成熟需要で、ほぼ横ばいだ。価格は物価並みに上がり、各事業の利益率は今の 3% 前後を保つ。営業利益は 400 億円ほどになる。
還元は純利益の約半分で、政策保有株の売却が資金を支える。ROE は 8〜9% で、資本コストとほぼ同じだ。堅実だが、驚きは無い。10 年後も、普通の優良な商社として評価される。
- 合成樹脂:数量 4,570(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 6,123 億円・営業利益 196 億円。市場 2.16 兆円 × シェア 21.2%、営業利益率 3.2%
- 情報電子:数量 2,991(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 4,008 億円・営業利益 120 億円。市場 1.32 兆円 × シェア 22.7%、営業利益率 3.0%
- 化学品:数量 1,314(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,760 億円・営業利益 51 億円。市場 0.80 兆円 × シェア 16.4%、営業利益率 2.9%
- 生活産業:数量 751(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,007 億円・営業利益 39 億円。市場 1.44 兆円 × シェア 5.2%、営業利益率 3.9%
倍率:事業の純利益 303 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍。全体の PER 14.26 倍、時価総額 4,321 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体材料が伸び、樹脂と化学品は横ばいに近い。最も起こりやすい道で、4 割弱を置く。
やや悲観 24% 液晶が細り、口銭が薄くなる 利益 235 億円 · PER 8.2 倍 · 株価時価総額 3,715 円1,983 億円
液晶パネルの材料が細り、口銭が薄くなる筋書きだ。中国のパネルメーカーが材料の内製や直接調達を進め、情報電子の営業利益率は 2.6% に下がる。
合成樹脂は、国内の汎用需要が減り、数量はほぼ横ばい。化学品は国内の人口減で、数量が 5% 減る。生活産業は伸びるが、食品の利益率は 3% 台前半にとどまる。
営業利益は 320 億円ほどで、今から 2 割増えるにとどまる。物価の分を除くと、実質では減益だ。ROE は 7% に下がり、資本コストを下回る。会社は買収で成長を補おうとするが、収益には結びつかない。
- 合成樹脂:数量 4,080(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 5,467 億円・営業利益 159 億円。市場 2.06 兆円 × シェア 19.8%、営業利益率 2.9%
- 情報電子:数量 2,513(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 3,367 億円・営業利益 88 億円。市場 1.21 兆円 × シェア 20.8%、営業利益率 2.6%
- 化学品:数量 1,189(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,593 億円・営業利益 41 億円。市場 0.77 兆円 × シェア 15.5%、営業利益率 2.6%
- 生活産業:数量 661(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 886 億円・営業利益 29 億円。市場 1.32 兆円 × シェア 5.0%、営業利益率 3.3%
倍率:事業の純利益 235 億円・事業 ROE 7.0% は k 7.5% 以下なので、上限は 1÷k の 11.8 倍。口銭が細る構造的な負けに入る筋書きのため、上限の約 7 割の 8.2 倍に置いた。
確率:液晶の内製化と口銭の低下が進む道。足元でも情報電子の営業利益が 17% 減っており、中立に近い確率を置く。
悲観 12% 中抜きと中国の内製化で優良さを失う 利益 153 億円 · PER 7.1 倍 · 株価時価総額 2,035 円1,086 億円
メーカーによる直接調達が主流になり、商社を通す取引が構造的に減る。中国のパネルメーカーは材料を内製し、情報電子の数量は 2 割減る。営業利益率は 2% まで落ちる。化学品も、国内の自動車と建材の需要が細り、数量が 2 割減る。
合成樹脂も、汎用の価格競争で口銭が 2% 台前半に細り、数量は 15% 減る。中東の供給混乱で、ナフサ由来の原料の調達も乱れる。
営業利益は 210 億円と、今の 8 割ほどにとどまる。買収で増えたのれんの減損や、持ち合い株の値下がりで、自己資本も目減りする。もはや優良な商社とは見られず、配当は据え置きとなる。経営は不採算の整理に追われ、成長投資に回せる資金も細る。
- 合成樹脂:数量 3,468(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 4,647 億円・営業利益 107 億円。市場 1.96 兆円 × シェア 17.7%、営業利益率 2.3%
- 情報電子:数量 1,914(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 2,565 億円・営業利益 51 億円。市場 1.10 兆円 × シェア 17.4%、営業利益率 2.0%
- 化学品:数量 1,001(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,341 億円・営業利益 30 億円。市場 0.74 兆円 × シェア 13.6%、営業利益率 2.2%
- 生活産業:数量 541(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 725 億円・営業利益 19 億円。市場 1.20 兆円 × シェア 4.5%、営業利益率 2.6%
倍率:事業の純利益 153 億円・事業 ROE 5.4% は k 7.5% 以下なので、上限は 1÷k の 11.8 倍。構造的に負けて優良な商社ではなくなる筋書きで、稼ぐ力も薄いため、上限の約 6 割の 7.1 倍に置いた。
確率:中抜きと中国の内製化が重なり、商社として優良さを失う道。10 年は何が起きてもおかしくないので 1 割強を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
合成樹脂
汎用樹脂・エンジニアリングプラスチック・フィルムの販売と、アジアなど 7 カ国での樹脂コンパウンド(配合加工)。自動車・OA・日用品メーカーが顧客。売上と営業利益の半分を占める。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,080 | 100.0% | 4,080 | 132 |
| 10 年後 中立 | 4,570 | 134.0% | 6,123 | 196 |
取り方:推定。取扱高 4,080 億円を、対象市場 約 2.0 兆円(実質)× シェア 20.4% に分けて置いた。市場は汎用樹脂・エンジニアリングプラスチック・フィルムの商社経由の流通。会社の資料では、コンパウンド樹脂の世界市場は年 2〜3% 伸びる見通しだが、汎用の食器・容器向けは減る。開示は金額だけで数量は無いため、市場とシェアの推定で置いた。
情報電子
FPD(液晶・有機 EL)の偏光板材料、半導体・フォトマスク材料、LED 封止材、リチウムイオン電池材料、複写機・インクジェット用の材料。顧客は中国・台湾・韓国のパネルメーカーなど。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,393 | 100.0% | 2,393 | 70 |
| 10 年後 中立 | 2,991 | 134.0% | 4,008 | 120 |
取り方:推定。取扱高 2,393 億円を、対象市場 約 1.1 兆円(実質)× シェア 21.8% に分けて置いた。市場は FPD 材料・半導体材料・電池材料・複写機やインクジェット用の材料。FPD は成熟、半導体材料は AI 向けで伸びる。大型装置の販売は前期の山の反動で減った。
化学品
自動車部品原料、樹脂・ゴム用原料、塗料・インキ・接着剤原料、製紙用薬剤、染料、建築資材。国内の自動車・建築・塗料メーカーが中心。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,251 | 100.0% | 1,251 | 36 |
| 10 年後 中立 | 1,314 | 134.0% | 1,760 | 51 |
取り方:推定。取扱高 1,251 億円を、対象市場 約 0.8 兆円(実質)× シェア 15.6% に分けて置いた。自動車部品原料・塗料・インキ・接着剤原料・製紙薬剤・建材など、国内の成熟した需要が中心。実質ではほぼ横ばい。
生活産業
医薬品原料、化粧品・日用品原料、冷凍野菜・水産物・うなぎ加工品・茶などの食品。米国向けのデザート製品も手がける。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 601 | 100.0% | 601 | 22 |
| 10 年後 中立 | 751 | 134.0% | 1,007 | 39 |
取り方:推定。取扱高 601 億円を、対象市場 約 1.2 兆円(実質)× シェア 5.0% に分けて置いた。医薬品原料・日用品原料・加工食品・水産物・農産物の商社流通。分散した市場で、シェアは小さい。
リスクと懸念
液晶パネル材料の内製化と中国依存
情報電子の土台は、液晶・有機 EL 向け材料である。顧客は中国・台湾・韓国のパネルメーカーで、中国の比重が大きい。顧客が材料を内製したり、直接調達に切り替えたりすれば、商社の取り分は細る。米中関係の悪化や輸出規制も、需要を一気に止めうる。
中東情勢とナフサの価格
合成樹脂と化学品は、ナフサ由来の原料が中心である。会社自身も、短信で中東情勢の影響が大きくなりうると書く。供給が乱れれば在庫の評価損が出やすく、値上げを転嫁できなければ利益率が削られる。
商社の中抜き
大手メーカーが大口の顧客へ直接売る動きは、長い目で口銭を削る。コンパウンドや現地の加工で付加価値を足せるかが、中抜きに耐える分かれ目になる。
資本効率が資本コストの近くから動かない
ROE は 9% 前後で、資本コストとほぼ同じだ。会社は PBR 1 倍の定着を掲げるが、利益が増えない限り、評価は上がりにくい。計画の ROE 目標を外し続ければ、期待が先にはげる。
買収ののれんと投資の失敗
小型の買収が続き、のれんが積み上がっている。ノバセルなど新しい連結子会社が利益を出せなければ、償却や減損が自己資本を傷つける。大型の買収に踏み切れば、規律が問われる。
国内の成熟需要と人口減
化学品と合成樹脂の国内需要は、人口減とともに細る。自動車・塗料・建材の数量が減る分を、海外とコンパウンドで補えるかが問われる。
持ち合い株の値下がり
投資有価証券は約 430 億円ある。株価が下がれば自己資本が減り、売却を進める計画にも響く。売却益は一時的で、利益の質を見るときは差し引いて考える必要がある。
今後の分かれ目
- 情報電子の営業利益が 100 億円を超え、先端半導体材料が数年続けて伸びたら
- 液晶に頼らない収益構造に変わった証拠で、楽観・やや楽観の確率を上げてよい。
- 中国の有力パネルメーカーが材料の直接調達を広げたら
- 情報電子の口銭が細り、やや悲観の筋書きに近づく。他の事業で一部は埋まるが、悲観まで下がるかは内製化の広がりで決まる。
- 合成樹脂の営業利益率が 3.5% を超え、コンパウンドの拠点が増えたら
- 商社から製造を持つ会社へ質が上がる兆しで、中立の ROE を上げる材料になる。
- 中東情勢でナフサの供給が長く乱れたら
- 合成樹脂と化学品の数量と在庫評価に響き、営業利益は 1〜2 割減る。調達力で商権が集まれば、損失の一部は取り戻せる。
- 政策保有株の売却資金で、大型の買収に踏み切ったら
- 買収先の利益率と価格が焦点になる。高値づかみなら悲観に近づき、利益率の高い製造事業なら上振れの材料になる。
- 景気後退で自動車と電機の生産が 2 割以上落ちたら
- 数量が落ち、営業利益は 3 割ほど減る。財務は軽く配当は維持できるが、PBR 1 倍の達成は遠のく。
見ておくもの
- 情報電子の営業利益と、先端半導体材料・中国向け半導体材料の販売の伸び
- 合成樹脂の営業利益率と、コンパウンド拠点の稼働
- NC2026 の最終年度(2027 年 3 月期)の営業利益 270 億円と ROE 10% の達成
- 政策保有株の売却ペースと、自社株買いの規模
- 中東情勢とナフサ価格、中国のパネルメーカーの材料調達の動き
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE・資本コスト 7.5%・長期の成長率 4.0% から、利益ベースの正当化 PER の上限を出し、その 6〜9.5 割に置いた。今の株価には寄せていない。純有利子負債の会社で余った現金は無く、現金は運転資金に使う。金利は純利益から約 3 億円を引いた。セグメントの数量は、開示が金額だけなので「市場(実質)× シェア」の取扱高で置き、価格は物価の指数にした(そのため売上と数量が同じ値になる注意が出る)。純利益は、投資有価証券の売却益を除いた経常的な水準で置いた。新リース会計基準(2028/03 期から)は、今と同じ形(賃料を営業費用に入れた形)でそろえて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.3→16 倍・やや楽観 PER 11.1→15.14 倍・中立 PER 10.6→14.26 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.50%。