結論
八洲電機は、日立製作所の特約店として、製鉄所・上下水道・鉄道などの電気設備を売り、据え付けて保守まで請け負う会社だ。単なる商社ではなく、設備の設計・施工・保守を自社の技術者が担う。2026年3月期は売上746億円、営業利益73億円で、4期続けて最高益を更新した。
筆者の結論は、今の株価は中立の10年後の価値に対してやや割高、というものだ。事業の質は悪くない。受注残は786億円あり、業績の見通しは立てやすい。だが営業利益率は2023年3月期の4.6%から9.8%まで一気に上がった。この水準が10年続くと見るのは強気にすぎる。
日立への依存も重い。仕入の55%が日立グループで、特約店契約が崩れれば事業の土台が揺らぐ。一方で純現金は157億円と時価総額の約4分の1あり、財務の安全域は厚い。中計は2028年度に売上850億円・経常利益95億円を掲げるが、筆者はそこまでは届かず、利益率が元の水準へ半分ほど戻る姿を中心に置く。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、八洲電機は「止められない設備の保守を握る会社」だ。上下水道・鉄道・製鉄所は、設備が止まると損害が大きいので、納めた会社に保守を任せ続ける。この粘り強さが事業の本質である。
一方で、堀は強いとは言えない。仕入の半分以上を日立に頼り、日立が方針を変えれば立場が揺らぐ。技術者の腕は財産だが、他社も同じ人材市場で競う。筆者は堀を普通と見る。
気になるのは資本配分だ。純現金は157億円と大きい。事業に使わず、株主にも返さなければ、ROEは薄まる一方だ。経営者が稼いだお金を、買収と還元のどちらに使うかが、今後10年の価値を左右する。
安全域はある。借金がなく、受注残が厚い。ただ、4年続けた最高益が利益率の急上昇によるものなので、払う値段には余裕を持ちたい。今の水準は中立の価値をやや上回るので、安全域は薄い。
何で稼ぐ会社か
八洲電機の仕事は、電気設備のエンジニアリングだ。日立グループの機器を仕入れて売るだけでなく、設計・据え付け・試運転・保守まで一括で請け負う。連結従業員1,062人のうち、プラントと公共・設備の技術者が大半を占める。
プラント事業(売上263億円)は、製鉄所・非鉄金属・化学・製薬工場の電気制御設備を扱う。電炉への転換やグリーン鉄鋼向けの設備更新が当面の需要になる。利益率は19%と3事業で最も高い。
公共・設備事業(売上321億円)は最大の事業で、上下水道や空港の監視制御、ビルの空調、データセンターの冷却装置を手がける。2026年3月期は売上が21.5%、営業利益が59.4%伸びた。
交通事業(売上161億円)は、鉄道車両の電気品や変電設備、信号の保守が柱だ。一度納めた車両や設備は何十年も保守が続くので、収益が安定する。
各事業の利益は合計103億円だが、本社費などで30億円が引かれ、連結の営業利益は73億円になる。グループには八洲冷熱、東京キデン(電源システム)、八洲プラント建設など子会社が8社あり、施工と保守を分担している。売上の大半は、官公庁・電力・鉄道・鉄鋼といった大口顧客の更新案件から生まれる。
優良さと弱いところ
八洲電機の強みは、日立の特約店という立場と、現場で設備を直せる技術者の層にある。上下水道や鉄道の設備は止められないので、納めた会社がそのまま保守を担いやすい。保守と更新が積み重なって、安定した受注の土台になっている。
受注残は786億円と売上の1年分を超える。公共・設備と交通の受注は2桁で伸びた。
弱みは三つある。第一に日立依存だ。仕入の55%が日立グループで、直販への切り替えや契約条件の変更があれば、利益の源泉を失う。第二に利益率の水準だ。2023年3月期までは営業利益率が2〜4%台で、いまの9.8%は例外的に高い。第三に規模だ。時価総額は650億円台で、大型案件の採算が崩れると利益が大きく動く。
資本の使い方は堅実だ。借金は実質ない。政策保有株は19.8億円と小さく、日立の株が半分近い。配当は安定を旨とし、自社株買いの実績は確認できなかった。ROEは14%まで上がったが、純現金が積み上がるほど薄まる構造でもある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
八洲電機が属するのは、設備・工機・産業機械を扱う専門商社の領域だが、ここでの競争の中身は、同じ日立系・三菱電機系・東芝系などの総合電機メーカーの特約店どうしの競争に近い。顧客は製鉄所、水道局、鉄道会社といった大口で、案件ごとに入札や相見積もりがある。
需要の出どころは三つだ。鉄鋼・非鉄では、電炉への転換とカーボンニュートラル投資が続く。公共では、高度成長期に造った上下水道の更新が進み、データセンターの冷却設備も増えている。鉄道は、車両の更新と保守が一定のペースで続く。国内の製造業の設備投資は底堅いが、人口減少で全体の量は大きく伸びない。
工事・保守の人手不足は、競合も同じだ。技術者を抱える会社ほど案件を取れるので、人の確保が競争力を決める。2026年3月期に売上が12.9%伸びたのは、更新需要が重なった面が強く、この勢いが10年続くとは限らない。
循環の位置は、設備投資の上り坂にある。リーマン後の2009年に同業の受注が3〜5割減った例があり、山のあとには谷が来ると見ておくべきだ。メーカー側が保守まで直販で取り込む動きも、長い目では商社機能を削る。
資本政策と M&A
資本政策は守りに寄っている。配当は安定が基本方針で、2026年3月期は記念配当を含めて総額約10億円だった。2027年3月期は記念配当を増やし、配当を約2割積む予想を出している。自社株買いの実績は見当たらない。
M&Aは小粒だ。2024年に電源システムの東京キデンを買い、2025年にグループ内の整理を進めている。中計はグループシナジーの柱に設備投資とM&Aを掲げており、技術者と案件を持つ中小のエンジニアリング会社を買う道は残っている。
他社に買われる可能性は、日立が特約店契約の相手として大株主に近い位置にあるため、ゼロではない。ただ親会社はなく、日立の持分も大きくない。筆者はTOBよりも、純現金157億円の使い道に注目している。ためるだけで終われば、資本効率は年々下がる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
受注残は786億円と1年分を超え、公共・設備と交通の受注は2割以上伸びている。この厚い受注残が、向こう数年の売上を裏付ける。上下水道の更新、データセンターの冷却、鉄道の保守という需要は、景気に左右されにくく、10年は続く。中計が掲げる経常利益95億円は、足元の延長線にある。
利益率の上昇は一時的ではない。優良顧客の開拓と西日本の強化で、案件の質が変わった。技術者の単価が上がり、保守の比率が増えれば、利益率は元に戻らない。
純現金は157億円ある。これを東京キデンのような電源・冷熱の会社の買収に使えば、案件の幅が広がる。ROEが14%まで上がった今、還元を厚くすれば資本効率はさらに上がる。時価総額が小さく、増配や自社株買いの余地も大きい。中計の最終年度に経常利益95億円という目標は、会社自身が示した数字でもある。日立の特約店という立場は、信頼の積み重ねの結果であり、簡単には崩れない。人手不足の時代に、技術者を抱える会社が選ばれる流れは強まる。
慎重な見方
営業利益率が9.8%まで上がったのは、2023年までの2〜4%台と比べて異例だ。しかも上昇は急で、構造が変わった証拠はまだ薄い。大型案件の採算が良かった年が重なっただけなら、案件が一巡すれば利益率は戻る。中計の経常利益95億円は、その高い利益率が続く前提でできている。
仕入の55%を日立グループに頼っている。特約店契約は一方的に変わりうるし、日立が保守まで直販で取り込む動きを強めれば、八洲電機は施工を請け負うだけの下請けに近づく。
設備投資は景気の波を受ける。同業は2009年に受注が3〜5割減った。工事・保守の人手不足で、技術者の人件費は上がり続ける。純現金は多いが、工事の前受金や運転資金に支えられた面があり、すべてが自由に使えるわけではない。政策保有株も小さく、現金のほかに積み増せる資産はない。配当の水準も、利益が落ちれば維持しにくくなる。中計の数字を達成しても、そのあとに利益率が元の水準に戻れば、株価は大きく崩れる。
どちらに重みを置いたか
上昇した利益率が半分ほど戻る中立を中心に置いた。保守と更新需要の強さは認めるが、日立依存と利益率の高さは、確率を悲観側へ少し寄せる理由になる。強気の主張は、受注残という裏付けがある分だけ重く、楽観・やや楽観にも十分な確率を残した。悲観は、日立の直販化と案件の縮小が重なる構造的な負けで、実績に照らして1割強を置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,884 円1,032 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,104 円233 億円)。 今の値に割り戻すと 3,204 円677 億円、今との差 +6.1%、 期待の年率 +7.1%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 9,205 円1,945 億円 | 1,514 円320 億円 | +254.9% | +13.5% | 750 円159 億円 |
| やや楽観 | 21% | 7,018 円1,483 億円 | 1,372 円290 億円 | +177.8% | +10.8% | 1,762 円372 億円 |
| 中立 | 38% | 5,777 円1,221 億円 | 1,230 円260 億円 | +132.0% | +8.8% | 2,663 円563 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,229 円471 億円 | 828 円175 億円 | +1.2% | +0.1% | 703 円149 億円 |
| 悲観 | 11% | 521 円110 億円 | 473 円100 億円 | −67.1% | −10.5% | 109 円23 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,884 円1,032 億円 | 1,104 円233 億円 | +98.3% | +7.1% | 5,988 円1,265 億円 |
今の株価時価総額 3,020 円638 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 7% 更新需要が続き、データセンターと保守が伸びる 利益 96 億円 · PER 19.1 倍 · 株価時価総額 9,205 円1,945 億円
上下水道の更新、データセンターの冷却設備、鉄道の保守が10年にわたって続く。公共・設備は受注が毎年伸び、案件の数は1.3倍に増える。プラントも電炉化とグリーン鉄鋼の大型案件を取り、保守契約の比率が上がって利益率は今の水準を保つ。買収した電源・冷熱のグループ会社が案件を押し広げ、東京キデンとの相乗効果も出る。純現金の一部は買収と増配に回り、ROEは12%台で安定する。中計の経常利益95億円をさらに超える、会社にとって理想の10年だ。日立の機器の高度化で、設計と保守の付加価値も高まる。人手不足の中で、技術者を抱える会社として選ばれる立場が強まる。
- プラント事業:数量 1,430(年間の案件数(件))× 価格 2,837(1件あたり売上(万円))→ 売上 406 億円・営業利益 77 億円。保守比率が上がり利益率19%を保つ
- 公共・設備事業:数量 3,240(年間の案件数(件))× 価格 1,875(1件あたり売上(万円))→ 売上 607 億円・営業利益 76 億円。データセンター・上下水道で利益率12.5%
- 交通事業:数量 805(年間の案件数(件))× 価格 3,218(1件あたり売上(万円))→ 売上 259 億円・営業利益 27 億円。車両保守と変電の拡大
倍率:事業の純利益 96 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.3% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.1 倍。全体の PER 19.08 倍、時価総額 1,839 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:更新需要・データセンター・保守の拡大が10年続き、中計の水準を超える必要があり、連続して当たる確度は高くない。
やや楽観 21% 中計に近い水準で着実に伸びる 利益 76 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 7,018 円1,483 億円
公共・設備が上下水道とデータセンターで着実に伸び、案件の数は10年で1.25倍になる。プラントは電炉化の更新が一巡したあとも保守が残り、交通は車両の更新が続く。利益率は今の9.8%から9%台前半へ少し下がるが、保守の積み上がりで底堅い。中計の経常利益95億円には届かないが、それに近い水準が続く。還元は配当を中心に厚くなり、ROEは10%台で落ち着く。日立との関係は今のまま続き、小粒の買収で技術者を増やす。保守契約の積み上がりが、景気の波を和らげる。上下水道の更新は国の方針でもあり、予算が付きやすい。
- プラント事業:数量 1,365(年間の案件数(件))× 価格 2,715(1件あたり売上(万円))→ 売上 371 億円・営業利益 67 億円。利益率18%
- 公共・設備事業:数量 3,000(年間の案件数(件))× 価格 1,794(1件あたり売上(万円))→ 売上 538 億円・営業利益 59 億円。利益率11%
- 交通事業:数量 770(年間の案件数(件))× 価格 3,080(1件あたり売上(万円))→ 売上 237 億円・営業利益 23 億円。利益率9.5%
倍率:事業の純利益 76 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.1 倍。全体の PER 18.09 倍、時価総額 1,369 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注残の厚さと公共・設備の受注の伸びからみて、中計に近い成長が続く可能性は十分ある。
中立 38% 利益率が半分ほど戻り、堅実に伸びる 利益 64 億円 · PER 17.3 倍 · 株価時価総額 5,777 円1,221 億円
公共・設備は上下水道の更新で案件が増えるが、プラントは電炉化の更新が一巡し、横ばいになる。交通は車両保守が着実に伸びる。ただ、利益率は2023年までの2〜4%台と今の9.8%の中間、8%台まで戻る。大型案件の採算が正常化し、技術者の人件費が上がるためだ。日立との関係は続くが、直販化の圧力は少しずつ強まる。純現金は配当と小粒の買収に使われ、ROEは9%台に落ち着く。売上は10年で4割ほど増えるが、その大半は物価の分で、実質の伸びは小さい。設備の更新と保守は、景気が悪くても止められない仕事が多く、利益は底堅い。会社は堅実だが、成長株とは言えない10年になる。
- プラント事業:数量 1,300(年間の案件数(件))× 価格 2,715(1件あたり売上(万円))→ 売上 353 億円・営業利益 60 億円。電炉化の更新が一巡し利益率17%
- 公共・設備事業:数量 2,760(年間の案件数(件))× 価格 1,794(1件あたり売上(万円))→ 売上 495 億円・営業利益 50 億円。利益率10%
- 交通事業:数量 735(年間の案件数(件))× 価格 3,080(1件あたり売上(万円))→ 売上 226 億円・営業利益 20 億円。利益率9%
倍率:事業の純利益 64 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍。全体の PER 17.3 倍、時価総額 1,102 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の利益率が半分ほど戻るのが、受注の厚さと過去の利益率の双方に照らして最も自然な落としどころ。
やや悲観 23% 利益率が元の水準近くまで戻る 利益 36 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 2,229 円471 億円
大型案件の採算が正常化し、同業との値下げ競争が公共・設備にも広がり、官公庁の入札では価格が重視される。製造業の設備投資が一服し、プラントの案件が減る。日立が保守を直販で取り込み始め、保守の収益が細る。受注残は消化されるが、新しい案件の質が落ち、売上の伸びも物価に届かなくなる。利益率は5%台に落ち、技術者の人件費だけが上がる。ROEは6%まで下がり、資本コストを割る。純現金は積み上がり、還元も配当にとどまる。技術者は確保できるが、案件の採算が追いつかず、中計の目標は遠のく。会社の評価は、安定した工事会社の水準にとどまる。
- プラント事業:数量 1,170(年間の案件数(件))× 価格 2,634(1件あたり売上(万円))→ 売上 308 億円・営業利益 40 億円。利益率13%
- 公共・設備事業:数量 2,400(年間の案件数(件))× 価格 1,741(1件あたり売上(万円))→ 売上 418 億円・営業利益 31 億円。利益率7.5%
- 交通事業:数量 665(年間の案件数(件))× 価格 2,988(1件あたり売上(万円))→ 売上 199 億円・営業利益 15 億円。利益率7.5%
倍率:事業の純利益36億円・事業ROE 5.9% は k 7.25% 以下なので、上限は 1÷k=12.5倍。新しく投じる資本の稼ぎが資本コストを下回るので、上限の約8割の10.0倍に置いた。
確率:利益率が2000年代からの低い水準に近づく可能性は、高い今の利益率の水準を考えると小さくない。
悲観 11% 日立の直販化と案件の減少で優良さを失う 利益 13 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 521 円110 億円
日立が特約店契約を見直し、保守や更新を直販で取り込む。製鉄所や化学工場の国内投資が縮み、プラントの案件が3割近く減る。公共・設備も入札で価格が下がり、利益率は4%台まで沈む。技術者の人件費だけが上がり、本社費が重くなる。八洲電機は施工を請け負うだけの会社になり、優良さを失う。配当も減らし、人員の削減にも踏み込まざるをえず、ROEは1桁台前半に落ちる。純現金は事業の備えに残り、時価総額はそれを下回らない水準で下げ止まる。リストラで本社費を削るが、減った案件を補えない。東京キデンなどの買収も当初の狙いを果たせず、のれんの減損が出る。若い技術者は処遇のよい他社へ移り、保守の品質も落ちる。
- プラント事業:数量 975(年間の案件数(件))× 価格 2,432(1件あたり売上(万円))→ 売上 237 億円・営業利益 19 億円。利益率8%
- 公共・設備事業:数量 2,040(年間の案件数(件))× 価格 1,607(1件あたり売上(万円))→ 売上 328 億円・営業利益 15 億円。利益率4.5%
- 交通事業:数量 595(年間の案件数(件))× 価格 2,758(1件あたり売上(万円))→ 売上 164 億円・営業利益 8 億円。利益率5%
倍率:今の自己資本361億円に0.305倍を掛けた約110億円で、純現金のうち運転資金を除いた分と保有株の税後を合わせた売れる資産の下限(110億円)と同じ。純利益13億円にやや悲観の10倍より低い約8.5倍を掛けた額とも近い。市場の倍率からは置いていない。
確率:利益率が元の2%台に戻る実績があり、日立依存と製造業の海外移転が重なれば無視できない確率がある。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
プラント事業
製鉄所・非鉄金属・化学・製薬工場向けの電気制御設備と保守。
| 数量年間の案件数(件) | 価格1件あたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,300 | 2,026 | 263 | 50 |
| 10 年後 中立 | 1,300 | 2,715 | 353 | 60 |
取り方:開示に件数は無い。連結従業員のうちプラント365人の規模と、受注額292億円から、年間の案件数を1,300件と推定し、売上263億円から1件あたりを逆算した。営業利益は有報のセグメント利益50億円。
公共・設備事業
上下水道・空港の監視制御、ビルの空調、データセンター冷却装置。
| 数量年間の案件数(件) | 価格1件あたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,400 | 1,339 | 321 | 37 |
| 10 年後 中立 | 2,760 | 1,794 | 495 | 50 |
取り方:従業員436人と、小口の空調・設備案件が多いことから、年間の案件数を2,400件と推定した。売上321億円から1件あたりを逆算。営業利益は有報のセグメント利益37億円。
交通事業
鉄道車両の電気品、信号、変電設備、駅設備の提供と保守。
| 数量年間の案件数(件) | 価格1件あたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 700 | 2,298 | 161 | 16 |
| 10 年後 中立 | 735 | 3,080 | 226 | 20 |
取り方:車両の電気品は1件が大きく、保守は小口なので、年間の案件数を700件と推定した。売上161億円から1件あたりを逆算。営業利益は有報のセグメント利益16億円。
リスクと懸念
日立グループへの依存
仕入の55%が日立グループで、1950年からの特約店契約が事業の土台にある。契約条件の変更や、日立が直販で保守まで取り込む動きがあれば、利益の源泉を失う。日立製品の品質問題も業績に響く。
利益率が元に戻る可能性
営業利益率は2023年3月期の4.6%から9.8%まで上がった。大型案件の採算や、一過性の更新需要が効いた面があり、受注が一巡すれば2〜4%台へ戻りうる。中計の経常利益95億円はこの高い水準が前提になっている。
設備投資の景気循環
鉄鋼・化学・鉄道は設備投資の波が大きい。同業は2009年のリーマン後に受注が3〜5割減った。公共・交通が下支えするが、プラントの不振は全体の利益を大きく動かす。
技術者の確保と人件費
利益の源泉は技術者であり、人手不足で採用も定着も難しくなっている。処遇改善(中計のウェルビーイング投資)は必要だが、費用が先に増えて利益率を削る可能性がある。
買収の統合と使い道の見えない現金
東京キデンなど小粒の買収が続くが、のれんの減損リスクがある。純現金157億円は、使い道が示されなければ資本効率を下げ、還元も不十分なままになる。
大型案件の採算悪化
プラントの電気設備工事は固定価格の契約が多く、資材や人件費が上がると採算が崩れる。時価総額が650億円台と小さいので、1件の失敗が決算を大きく動かす。
今後の分かれ目
- 受注残が800億円を超え、受注高が売上を上回り続けたら
- 更新需要が想定より長く続くので、楽観・やや楽観の確率を上げる。
- 営業利益率が8%を下回り、受注の質が落ちたら
- 利益率が元に戻る筋書きの重みを増やし、やや悲観へ寄せる。
- 日立が特約店契約の条件を見直す、または直販を拡げたら
- 悲観の確率を上げ、堀の評価を下げる。
- 純現金を使った大型の買収や、自社株買いが出たら
- 資本配分の評価を見直す。買収なら統合の実行力を、還元ならROEの底上げを確かめる。
- データセンター向け冷却や上下水道の大型受注が相次いだら
- 公共・設備の伸びが続くと見て、やや楽観に重みを置く。
- 鉄鋼・化学の設備投資が急に冷えたら
- プラントの利益が落ちるので、やや悲観に確率を寄せる。
見ておくもの
- 四半期の受注高と受注残(特に公共・設備と交通)
- セグメント別の営業利益率
- 日立グループからの仕入比率
- 純現金の使い道と配当・自社株買い
- 中計Happiness2028の進捗(売上850億円・経常利益95億円)
倍率と資本コストの決め方
倍率は正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)で決めた。堀は普通(残る割合1/2)、gは4%、kは7.25%。今の株価や同業の倍率からは置いていない。10年の純利益は、案件数と1件あたりの売上を積み、利益率は今の9.8%から8%台へ半分ほど戻る前提で出した。確率は今の株価に合わせず、利益率の急上昇と日立依存という事業の事情で決めた。10年後の数字は賃料を営業費用に入れた今と同じ形でそろえている(新リース会計基準で形は変わるが価値はほぼ変わらない)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.2→19.08 倍・やや楽観 PER 13→18.09 倍・中立 PER 12.6→17.3 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality を足した。日立依存などの個別の事情は筋書きと確率で表している。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.25%。