結論
ナガホリは、ダイヤや真珠のジュエリーを作り、百貨店や専門店に卸し、自社ブランドの店でも売る東京・上野の宝飾会社だ。2026年3月期は売上294億円、営業利益17億円と過去最高になった。金の価格が上がり、金製品の販売が伸びたことが主因だ。筆者の結論は「大幅な割高」である。
理由は、稼ぐ力の履歴にある。営業利益率が3%を超えたのは直近3年だけで、その前の約10年は1%に届かなかった。会社自身が今期は営業利益を13億円と、24%の減益で見ている。配当も下げる。金価格が戻れば、在庫の評価益も消える。
時価総額は366億円で、直近の純利益の33倍にあたる。値段を支えているのは事業より思惑だ。物言う株主のリ・ジェネレーションが1割強を持ち、2022年から経営陣と争ってきた。買収の期待は残る。だが買収されても、事業の価値を大きく超える値段が付く保証はない。
純負債は104億円ある。借り換えで金利負担は増える。10年後の中立で、時価総額は今の1割台半ばにとどまる。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額の1割ほどにとどまる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ナガホリは「10年先の利益が読めない会社」だ。金価格、百貨店、婚姻数という3つの外部要因に、利益が大きく振れる。値段を自分で決める力は弱い。わからない事業には、確信度を下げて向き合うのが原則だ。
資本の使い方にも疑問が残る。2026年3月期は利益が伸びたのに、営業キャッシュフローは赤字だった。利益は在庫に変わり、借り入れで支えられている。稼いだ利益が、手元の現金に残らないのは、オーナーにとって好ましい形ではない。
物言う株主の存在は、一見すると救いに見える。しかし、買い手が払う値段は、事業の価値を基準に決まる。事業の価値が低ければ、買収で報われる額にも限りがある。今の値段は、事業の価値ではなく、思惑の値段だと筆者は見る。
安全域はない。10年後の中立でも、自己資本利益率は3%台にとどまる。確信度は低い。
何で稼ぐ会社か
仕事は川上から川下まで通っている。ダイヤ、真珠、貴金属を仕入れ、茂原工場と子会社のソマで加工し、百貨店、専門店チェーン、二次卸、ネット通販に卸す。直営店はナガホリリテールが運営する。売上のほぼ全て(99%超)が宝飾事業で、貸ビルと太陽光発電はごくわずかだ。
ブランドは価格帯ごとに3層ある。看板は自社の「NADIA」で、銀座の店を旗艦にしている。イタリアの「SCAVIA」は帝国ホテルに店を持ち、英国の「DAVID MORRIS」は2024年に日本の総代理店になった。ほかに軽い価格帯の「WISP」、ライセンスブランドもある。人気アニメ記念の金の小判のように、金そのものを売る商品も売上を押し上げた。
2023年以降は、売り場を買って広げている。2023年6月に浅井商店から、松坂屋名古屋店を中心とする宝飾品販売事業を譲り受けた。2025年9月には札幌の宝石卸の翔を完全子会社にした。翔は大丸札幌店との取引を持つ。
人は連結で484人、臨時雇用が92人だ。株主は1,167人と少ない。中期経営計画『Beyond Growth』は、2028年3月期に売上240億円、営業利益12.5億円を掲げる。2026年3月期の実績は、すでにこの目標を上回った。
優良さと弱いところ
強みは、製造から小売まで一貫して持っていることだ。ダイヤの取引所には、アントワープで1973年、イスラエルで1976年から会員になっている。仕入れの入口を握っていることは、他社がすぐにまねできない。価格帯ごとにブランドをそろえ、売り場も百貨店、直営店、ネットと広い。
弱みは、利益が出ない時代が長かったことだ。営業利益率は2015年3月期から2022年3月期まで、ほぼゼロから1%台だった。20年のうち6期は赤字だ。自己資本利益率の10年の中央値は0.5%にとどまる。この3年の改善は、金価格の上昇と、買い足した売り場の効果が混ざっている。
堀、つまり他社がまねできない強みは、決して深くない。ジュエリーはブランドと売り場で値段が決まる商売だ。NADIAは国内の高級帯に届くが、世界の高級ブランドと比べれば弱い。主要な売り場である百貨店は、店の数が減っている。
経営は物言う株主との争いに時間を取られてきた。2026年3月期にも、株主対応の費用0.56億円を特別損失に出した。事業を磨く手間は、その分削られている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の宝飾品の小売市場は、矢野経済研究所の推計で2025年に1兆1,741億円。前年比3.8%増で、増加は主に値上げによる単価の上昇だ。ブライダルは回復したが、婚姻の数は減り続けている。買う人の数は細り、1点あたりの値段が上がる構図である。
金の価格が、この商売の振れ幅を決める。国内小売価格は2026年3月に1グラム3万円近くまで上がり、10月は2万3千円台に戻った。金製品は売りやすくなるが、値段が上がると買う点数は減る。ナガホリは金の在庫を持つため、値上がりでは評価益が出る。値下がりでは、その逆が来る。
競争は三方向からくる。カルティエやティファニーなど海外の高級ブランド、4℃やジュエリーツツミのような国内の小売大手、ネット専門店だ。卸は中間にいて、小売が自前で仕入れるほど出番を失う。合成ダイヤが安い選択肢として広がることも、天然ダイヤ中心の会社には逆風だ。
自社の売り場を持つことは、この向かい風への備えだ。ナガホリは売り場の買収と海外の展示会出展で、卸一本から離れようとしている。ただ、成果が出るまでには時間がかかる。
資本政策と M&A
配当は性向40%を目安とする。2026年3月期は前の期の2倍に増やし、性向は28%。2027年3月期は利益の減少にあわせて引き下げ、性向38%とする予想だ。自己株式は発行済みの約8.6%にあたる144万株を持つ。中期計画は、これをM&Aに使うことも検討するとしている。
物言う株主への備えが、資本政策の中心にある。2022年4月に「買収への対応方針」を入れ、毎年更新している。2026年5月も継続・更新を決めた。リ・ジェネレーションらの持ち分の合計は、20%以上になりうる状況が続くと会社は見ている。
財務は、在庫に資金が縛られている。2026年3月期の営業キャッシュフローは約10億円の赤字で、借り入れで補った。有利子負債は134億円、現金は31億円で、純負債は104億円だ。借り換えで金利が3.5%まで上がれば、利払いは年3億円ほど増える。
株主優待は、日経の銘柄ページは「無」とするが、割引があるとする情報もあり、確認できなかったので数えない。株主が1,167人と少なく、あっても額は小さい。新リース会計基準は2028年3月期から強制になる。売り場の賃借料の約束の額は有価証券報告書で確認できず、影響は読めない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金の高騰は一時の追い風にとどまらない。世界の中央銀行が金を買い、金は高値圏で定着した。金製品の需要は強く、ナガホリは金そのものを扱う会社として、その波に乗れる。
売り場の拡大も実を結び始めた。2023年に松坂屋名古屋店の売り場を取得し、2025年に札幌の翔を迎え入れた。百貨店の外商顧客に届くDAVID MORRISやSCAVIAは、高い単価を取れるブランドだ。2026年3月期の営業利益17億円は、中期計画の2028年3月期の目標12.5億円を、すでに超えた。
物言う株主の圧力も、株主に有利に働く。リ・ジェネレーションは1割強を持ち、2022年から経営の改善と配当を迫ってきた。会社も性向40%を掲げ、自己株式を持つ。値上がり益で膨らんだ在庫や、上野の自社ビルを活用すれば、還元を増やす余地はある。
市場の追い風も続く。宝飾品の小売市場は3年続けて伸び、単価の上昇が数量の減少を上回っている。物価が年3%で上がる世界では、金も宝石も名目の値段が上がりやすく、在庫を持つ会社には有利に働く。海外の展示会への出展と、ASEANや中東への進出も、数字に入っていない上積みだ。
慎重な見方
2026年3月期の利益は、金価格の上昇という特殊な要因で膨らんだ。会社自身が今期を営業利益13億円、経常利益10億円の減益と見て、配当も引き下げる。
体質が変わった証拠は、3年分しかない。営業利益率は2022年3月期まで、ほぼゼロだった。20年で6期の赤字がある。自己資本利益率の10年の中央値は0.5%だ。好調な3年を過去最高として、先に延ばす根拠は弱い。
利益の質も悪い。営業キャッシュフローは約10億円の赤字で、在庫が増えた分を借り入れが支えた。有利子負債は134億円ある。借り換えで金利が上がれば、利払いは年3億円ほど増え、薄い利益を削る。
今の値段は思惑の値段だ。物言う株主との争いは4年になる。株主提案は2023年も2024年も賛成が約2割にとどまり、否決された。裁判所も、リ・ジェネレーション側の請求を退けた。買収が実現しても、事業の価値を超える値段が付く保証はない。
市場は、買う人の数が減る構造だ。婚姻の数が減り、百貨店の店も減る。金の価格が戻れば、在庫の評価益は消える。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、直近の改善が事実であることに根拠を置く。慎重な見方は、改善が3年しか続いていないことと、その3年の質を突く。筆者は慎重な見方が強いと考える。好調の3年でも、自己資本利益率は資本コストに届かないからだ。
確率は慎重な側に寄せた。やや悲観を28%、悲観を14%に置いた。楽観は6%にとどめた。物言う株主の動きは上振れの材料だが、買い取り価格が事業の価値を超える保証はないため、強気側の確率は上げなかった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 464 円71 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 169 円26 億円)。 今の値に割り戻すと 300 円46 億円、今との差 −87.2%、 期待の年率 −12.3%(資本コスト 9.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 888 円136 億円 | 391 円60 億円 | −45.4% | −5.9% | 77 円12 億円 |
| やや楽観 | 16% | 661 円101 億円 | 293 円45 億円 | −59.3% | −8.6% | 153 円23 億円 |
| 中立 | 36% | 566 円87 億円 | 215 円33 億円 | −66.7% | −10.4% | 281 円43 億円 |
| やや悲観 | 28% | 290 円44 億円 | 65 円10 億円 | −84.9% | −17.2% | 99 円15 億円 |
| 悲観 | 14% | 143 円22 億円 | 20 円3 億円 | −93.0% | −23.4% | 23 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 464 円71 億円 | 169 円26 億円 | −73.0% | −12.3% | 633 円97 億円 |
今の株価時価総額 2,345 円360 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.3% を下回るほど割高。
楽観 6% 金高が定着し、高級帯の売り場で単価を取る 利益 13 億円 · PER 10.8 倍 · 株価時価総額 888 円136 億円
金の価格が高値圏で定着し、高級帯の宝飾品の単価が物価を上回って上がる。DAVID MORRISとSCAVIAの店が増え、百貨店の外商顧客に直接届く。翔や浅井商店のように、売り場を持つ同業を買い足し、卸一本の会社から小売を持つ会社に変わる。
取扱点数は今の水準を保つ。婚姻の減少は、自分用と記念品の購入に埋められる。営業利益率は今期の水準である6%に乗る。売上は410億円を超える。
資本の面では、物言う株主の圧力が還元の増加に結びつく。10年の還元は60億円で、利益の半分を超える。それでも自己資本利益率は6%台にとどまり、資本コストを下回る。小さな会社の宝飾卸としては、ここが上限に近い。
- 宝飾事業(貸ビル・太陽光を含む):数量 49.0(年間の取扱点数(万点))× 価格 8.52(1点あたりの平均単価(万円))→ 売上 417 億円・営業利益 25 億円。営業利益率6.0%
倍率:事業の純利益 13 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.3% が k 9.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.8 倍。全体の PER 10.81 倍、時価総額 136 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金価格の高止まり、売り場買収の成功、高級ブランドの単価上昇が10年続き、営業利益率が今期の山の水準を保つ必要がある。20年のうち6期が赤字だった会社で、それが続く確率は低い。6%にとどめた。
やや楽観 16% 売り場の拡大が実り、利益率が5%で定着する 利益 9 億円 · PER 10.8 倍 · 株価時価総額 661 円101 億円
売り場の買収と新ブランドの効果で、取扱点数の減少は8%にとどまる。価格は物価をやや上回る1.37倍。営業利益率は5%で定着し、中期計画の目標である5.2%に近づく。
ただし金の価格は今の水準から下がり、金製品の売上は伸びない。在庫の評価益は出ず、利益は本業だけで積み上がる。借り換えで利払いが増え、純利益は営業利益の半分に届かない。
配当は性向40%を超えて、10年の還元は45億円となる。自己資本利益率は4%台で、資本コストには届かない。
良い筋書きではあるが、勝ち筋は売り場の拡大に限られる。婚姻数の減少と百貨店の縮小という向かい風は、この筋書きでも消えない。ナガホリは、その風を受けながら前に進む会社になる。
- 宝飾事業(貸ビル・太陽光を含む):数量 45.1(年間の取扱点数(万点))× 価格 8.22(1点あたりの平均単価(万円))→ 売上 370 億円・営業利益 19 億円。営業利益率5.0%
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.6% が k 9.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.8 倍。全体の PER 10.81 倍、時価総額 92 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足元の改善は事実で、売り場の買収と新ブランドの展開は計画どおりに進んでいる。ただし過去の利益率は低く、5%の定着は強い仮定になる。16%にとどめた。
中立 36% 金高は一巡し、利益率は4%台で落ち着く 利益 6 億円 · PER 10.8 倍 · 株価時価総額 566 円87 億円
金の価格は今の水準から落ち着き、金製品の売上は平常に戻る。取扱点数は婚姻の減少と百貨店の縮小で15%減る。価格は物価並みに上がり、売上は335億円になる。
営業利益率は4.3%に落ち着く。売り場の買収と、新しい基幹システムの導入で、過去より良い体質にはなった。それでも卸の値決め力は弱く、金のブームを除けば、中計の目標である5.2%には届かない。
借り換えで利払いが増え、純利益は6億円台にとどまる。配当は性向40%を保ち、10年の還元は33億円。自己資本利益率は3%台で、資本コストを大きく下回る。物言う株主は居続けるが、事業の価値を変えるほどの動きにはならない。
- 宝飾事業(貸ビル・太陽光を含む):数量 41.6(年間の取扱点数(万点))× 価格 8.04(1点あたりの平均単価(万円))→ 売上 335 億円・営業利益 14 億円。営業利益率4.3%
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.6% が k 9.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.8 倍。全体の PER 10.81 倍、時価総額 67 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:この3年の営業利益率は4.7%、3.2%、5.9%と振れた。金高の追い風が一巡すれば、4%台前半が妥当だ。中計の目標(5.2%)より低く、直近の山(5.9%)より低い。10年の長い見通しでは、過去の低利益率の影響も無視できず、中立は36%と、やや慎重に低めに置いた。
やや悲観 28% 婚姻の減少と百貨店の縮小で、利益が薄くなる 利益 1 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 290 円44 億円
金の価格が下がり、在庫の評価益が消える。取扱点数は24%減り、価格は物価の伸びを下回る1.24倍にとどまる。営業利益率は2%台に沈む。
借り換えで利払いが増え、経常利益はほぼゼロになる。純利益は1億円に届かない。配当は性向を守れず、10年の還元は10億円にとどまる。事業は赤字を避けるが、資本コストを稼ぐ力はなくなる。
値段は、売れる資産の価値に近づく。在庫と売掛金を現金にして借り入れを返した後の純資産を、今の自己資本に対する倍率で置いた。
この筋書きでは、物言う株主の要求も実を結びにくい。稼ぐ力が薄い会社に、買い手は高い値段を付けないからだ。会社は買収防衛策を更新し続け、時間だけが過ぎていく。
- 宝飾事業(貸ビル・太陽光を含む):数量 37.2(年間の取扱点数(万点))× 価格 7.44(1点あたりの平均単価(万円))→ 売上 277 億円・営業利益 6 億円。営業利益率2.2%
倍率:稼ぐ力(事業の純利益÷資本コスト)が小さいため、売れる資産の価値で値を付ける。床は今の自己資本141億円に対する倍率で置いた(ためた利益には掛けない)。純負債104億円を足したEV÷営業利益でも見ると約23倍と高く、借金の重さを考えれば、株式の値段は売れる資産の価値より上には置けない。
確率:売り場の百貨店が減り、婚姻数が減るのは確かな流れだ。金の価格も下がれば、在庫の評価益が消える。この会社には6期の赤字がある。28%と厚めに置いた。
悲観 14% 金高の反動と百貨店の縮小で、構造的に負ける 利益 −5 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 143 円22 億円
金の価格が下がり、在庫で損が出る。取扱点数は4割近く減り、価格は物価の伸びに追いつかない。営業利益率はマイナスに落ち、赤字が続く。
借り入れの金利が上がり、利払いが赤字を広げる。百貨店の店が減り、売り場も失う。DAVID MORRISなど新ブランドへの投資は回収できず、減損となる。配当はほぼ払えず、10年の還元は3億円。
自己資本は減損と赤字で減る。値段は、在庫と売掛金を現金にし、借り入れを返した後に残る額で付く。金は相場で売れるため地金の在庫は簿価どおりに、そのほかを保守的に回収率を置くと、純資産の約16%まで下がる。
物言う株主が清算や売却を迫っても、在庫は簿価どおりに売れず、借り入れの返済が先になる。少数株主に回る額は小さい。ここまで崩れる確率は低いが、20年に6期の赤字を出した会社の履歴からは、無視できない。
- 宝飾事業(貸ビル・太陽光を含む):数量 30.4(年間の取扱点数(万点))× 価格 6.30(1点あたりの平均単価(万円))→ 売上 191 億円・営業利益 −1 億円。営業利益率-0.5%
倍率:稼ぐ力(事業の純利益÷資本コスト)が小さいため、売れる資産の価値で値を付ける。床は今の自己資本141億円に対する倍率で置いた(ためた利益には掛けない)。
確率:構造的に負ける筋書きだ。金の価格が大きく下がり、在庫で損が出る。合成ダイヤの普及、婚姻の減少、百貨店の閉鎖が重なる必要がある。20年のうち6期が赤字で、借り入れも重いため、14%と厚めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
宝飾事業(貸ビル・太陽光を含む)
ダイヤ・真珠・金のジュエリーを作り、百貨店・専門店・ネットに卸し、自社ブランドの店でも売る。売上の99%超。
| 数量年間の取扱点数(万点) | 価格1点あたりの平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 49.0 | 6.00 | 294 | 17 |
| 10 年後 中立 | 41.6 | 8.04 | 335 | 14 |
取り方:宝飾事業の売上293.8億円を、卸と小売、金製品をならした1点あたり6.0万円で割り、年間の取扱点数を約49万点と推定した(点数の開示は無い)。貸ビル・太陽光は売上の0.6%で合算した。数量は、金高の追い風が去ることと婚姻数の減少で10年0.85倍を中立に置く。価格は物価並みの1.34倍(金の値動きは物価並みとし、山谷は楽観と悲観で表す)。市場の大きさは、国内の宝飾品小売市場1兆1,741億円に対し、卸の売上でその約2.5%。競合は海外高級ブランド、4℃などの小売大手、ネット専門店。
リスクと懸念
金価格の反転
2026年3月期の増益は、金価格の上昇が大きく効いた。金は3月に1グラム3万円近くまで上がり、10月は2万3千円台に戻った。さらに下がれば在庫で評価損が出て、金製品の売上も減る。
在庫と借り入れの重さ
営業キャッシュフローは約10億円の赤字で、有利子負債は134億円に達した。借り換えで金利が3.5%に上がれば、利払いは年3億円ほど増える。在庫の評価が下がると、財務の余裕も薄れる。
婚姻数の減少と百貨店の縮小
ブライダルは宝飾の需要の柱で、婚姻の数は減り続けている。主な売り場の百貨店も店の数が減る。単価の上昇が、数量の減少を埋め続けられるとは限らない。
物言う株主との争い
リ・ジェネレーションとは2022年から争っており、株主提案や訴訟の対応で時間と費用が取られる。2026年3月期も株主対応の費用0.56億円を計上した。争いが続く限り、経営の力は事業から削られる。
合成ダイヤの広がり
天然ダイヤを中心とする会社にとって、合成ダイヤは安い代替品になる。ブランドで値段を支えられない価格帯から、需要を奪われる可能性がある。
新ブランド投資の回収
DAVID MORRISの大阪の店、SCAVIAの帝国ホテルの店など、高級ブランドの出店は初期費用が重い。売上が思うように伸びなければ、減損が出る。2026年3月期にも宝飾事業で減損が出ている。
今後の分かれ目
- リ・ジェネレーションなどが公開買い付けを提案したら
- 買い取り価格が、事業の価値と売れる資産の合計を超えるかを確かめる。超えるなら楽観側を見直し、満たなければ現状の見立てを変えない。
- 金価格が1グラム2万円を割り込む水準まで下がったら
- 在庫の評価損が出て、金製品の売上も減る。やや悲観と悲観の確率を上げる。
- 営業利益率が2期続けて5%を超え、営業キャッシュフローが黒字になったら
- 利益の質が改善した証拠。やや楽観以上の確率を上げる。
- 配当性向40%を上回る増配、または大きな自己株式の消却が発表されたら
- 株主還元の改善として、還元の額を見直す。ただし事業の稼ぐ力が変わらなければ、倍率は変えない。
- 有利子負債が150億円を超えて増え続けたら
- 在庫を借り入れで積んでいる合図。金利負担の増加と、財務の余裕の低下を織り込み、悲観の確率を上げる。
- 婚姻数の減少が加速する、または百貨店の閉鎖が相次いだら
- 取扱点数の減少を深くし、中立の売上を下げる。
見ておくもの
- 営業利益率と営業キャッシュフロー、在庫の水準
- 金の国内小売価格の推移
- 有利子負債と利払いの増減
- リ・ジェネレーションらの保有割合と買収への対応方針の更新
- DAVID MORRISなど新ブランド店の売上と減損の有無
倍率と資本コストの決め方
宝飾事業を取扱点数と平均単価で積み、倍率は自己資本利益率と資本コスト9.25%の関係から決めた。事業の自己資本利益率は3%台で資本コストを大きく下回り、PERの上限は1÷kの10.3倍。中立は上限の約87%に置いた。今の株価のPER(約33倍)は参考にせず、物言う株主や買収の期待は倍率に入れていない。買収が起きた場合の上振れは、楽観の確率で表した。純負債104億円の利払いは、借り換えで年3億円ほど増えるとみて純利益に入れた。新リース会計基準でBSの形が変わるが、10年後の数字は賃借料を営業費用に入れた今の形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→10.81 倍・やや楽観 PER 9.5→10.81 倍・中立 PER 9→10.81 倍)。
資本コスト 9.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality+2.25%を足して9.75%。赤字が続く会社ではなく、上乗せ(extra)は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.75% → 9.25%。