結論
イエローハットは、全国に765店を持つカー用品店の最大手級である。タイヤ・バッテリー・オイルを売り、取り付けから車検までを店で請け負う。二輪のバイク館・2りんかん・ワイズロードも傘下にある。
筆者の結論は「適正」だ。確率をかけた本質価値は今の値段を7%ほど上回るが、安全域と呼ぶには薄い。事業は堅いが、育つ市場ではない。割安と言い切れないのは、国内の車の数が10年で確実に減るからである。
稼ぎの中心は、タイヤの販売と、それに付く工賃だ。値上げはメーカーが決め、通販とも競う。強い値決め力はない。だから利益率は8〜9%で、10年たっても大きくは動かないと見る。
追い風は2つある。1つは、車が古くなるほど整備と交換の需要が増えること。もう1つは、会社が還元を厚くしていることだ。中計は3年の総還元性向を100%以上と掲げ、自社株買いも進めている。
懸念は、整備士の確保と家賃・人件費の固定費である。売上が落ちても店は減らせない。悲観の筋書きでは、これが利益を一気に削る。
もう1つ気になるのは、株主の顔ぶれだ。旧村上ファンド系の投資会社が1割超を持つ。株主還元や資産の使い方に圧力がかかる余地があり、これは利益を増やす力というより、還元を後押しする力として働く。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家が見るのは、10年後も続く事業かどうかと、株主に回る利益の大きさだ。
事業は続く。車が走る限り、タイヤと整備は要る。ただし、規模が伸びる事業ではない。再投資の多くは、店の維持と整備士の確保に消え、成長の分は小さい。株主が自由に使える利益は、純利益のおよそ7〜8割と見るのが妥当だ。
堀は浅い。店舗網は強みだが、通販やディーラーに置き換えられる部分がある。値決め力もメーカー次第で、長く高い利益率を保てる事業ではない。
一方で、資本の使い方は評価できる。借金は小さく、無理な拡大もない。還元を厚くする方針は、株主から見て筋が通っている。
安全域を考えると、中立の本質価値は今の値段より1割前後上にとどまる。悲観では今の値段を大きく割る。上振れの余地も限られる。安全域は薄い。バリュー投資家は、もっと安く買える機会を待つだろう。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、カー用品の販売と、それに付く取付・整備の工賃である。売上の97%がこの事業で、残りの3%が賃貸不動産だ。
中核はイエローハットの店で、国内に765店ある。直営店とフランチャイズ(FC)の2本立てで、FC向けにタイヤやバッテリーを卸す機能も持つ。メーカーから仕入れ、店に流す卸の顔と、客に直接売る小売の顔を併せ持つ会社だ。
二輪にも力を入れている。バイク館が78店、2りんかんが65店、自転車のワイズロードが28店ある。四輪の客層とは別の趣味性の高い客を取り込む狙いだ。ほかに車検センター、コイン洗車場、ニコニコレンタカー(101店)も持つ。
賃貸不動産は、郊外の店舗用地などを貸す事業で、利益率は24%と高い。売上は小さいが、営業利益の1割ほどを稼ぐ安定収益だ。
中計(2028年3月期まで)の柱は、出店、商品、ロイヤルカスタマーの育成、整備士の育成、二輪の強化の5つ。公式アプリのオイル交換の予約が伸びていて、客との接点がデジタルでも増えている。
タイヤは大手メーカーが価格を決める商品だ。値上げの前には駆け込み需要が出て、会社の売上を一時的に押し上げる。この波には注意が要る。
優良さと弱いところ
堀は、全国を覆う店舗網と、整備の信頼である。ただし、他社がまねできない強みと言えるほど深くはない。
同じ形の競合はオートバックスセブンだ。2社で用品店の市場を分け合う寡占の形だが、客はタイヤを通販で買い、取り付けだけを店に頼むこともできる。店の粗利は、この選択肢にいつも削られる。
強みは、取付と車検を一緒に扱えることだ。車を持つ人は、買ったものを自分で付けない。安全に関わる作業は店に頼むしかなく、ここにお金が落ちる。整備士を育てて抱えることは、競合や通販が簡単にまねできない。
資本効率は並みだ。ROEは過去10年、9%前後で安定している。大きく伸びず、大きく崩れもしなかった。自己資本比率は約6割で、財務は堅い。
弱点は2つある。1つは、人手だ。整備士の確保が成長の天井になる。もう1つは、店舗の賃借による固定費で、売上が減ってもすぐには減らせない。
経営の資本配分は、堅実だ。無理な買収で価値を壊した形跡はない。近年は自社株買いと増配に動いていて、株主の顔を見る姿勢が強まっている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
市場は成熟し、数量はゆるやかに縮む。車の保有台数は人口とともに減り、若者の車離れとカーシェアが追い打ちをかける。
一方で、車の平均使用年数は延びている。古い車ほど、タイヤ・バッテリー・オイルの交換と整備が要る。この需要は景気に左右されにくく、車検も法律で決まった定期の需要だ。業界の整備の市場は約5.9兆円、用品の市場は約1.7兆円とされる。
競争は、店舗型の大手2社、ディーラー、ガソリンスタンド、通販が入り乱れる。ディーラーは新車の客を囲い込み、整備まで抱えようとしている。通販はタイヤや用品の価格を引き下げる。
構造の変化はEVだ。エンジンオイルや排気系の部品の需要は減るが、バッテリーや電装、タイヤ(EVは減りが速い)の需要が出る。整備の中身が変わる中で、整備士の技能を更新できる店が残る。
人口が減る国内だけの事業であることは、変えられない。数量は10年で1割ほど縮むのが中立だ。物価の上昇分を価格に乗せられるかどうかが、利益を決める。
業界の再編も起きうる。店舗網の維持費が重くなれば、同業の統合や売却が現実味を帯びる。
資本政策と M&A
還元は厚くなった。中計は3年の総還元性向を100%以上とし、配当性向は45%を目安にする。2026年5月には、上限75億円・600万株(発行済みの7%)の自社株買いを発表した。取得した株は全部消却する予定だ。
買収は小さな店舗網の取り込みが中心で、大型の買収はない。2026年1月にはナルネットコミュニケーションズを持分法の会社にした。二輪の店舗を束ねたことで、買収の経験は積んでいる。
株主は変わりつつある。最大の株主は幸栄企画で、約15%を持つ。そこに旧村上ファンド出身の丸木氏が率いるストラテジックキャピタルが約12%を持ち、保有目的を「純投資および状況に応じた重要提案」としている。
このことは、TOBや非公開化の可能性にもつながる。ただし、株主提案やTOBの具体的な動きは確認できていない。還元の強化は、この株主の目を意識した動きとも読める。
無借金に近い財務を保ち、賃貸不動産と持分法の資産もある。資本の使い方は、これから問われる。
還元の置き方:中計は3年の総還元性向100%以上、配当性向45%の目安。10年の中立は純利益の合計の約8割(配当に自社株買いの足し)で、方針の内側に置いた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
車が減っても、整備の需要は減らない。むしろ車が古くなるほど増える。イエローハットは765店の店舗網と、整備士の育成に投資を続けてきた。ここに、公式アプリの予約という新しい入口が加わった。作業予約の件数は大きく伸びている。
二輪は、店舗を束ねて収益の柱に育ちつつある。バイク館、2りんかん、ワイズロードは、用品・中古・整備を一体で回せる。四輪とは別の客層を取り込むので、国内の車の減少を一部相殺できる。
還元も強い。3年の総還元性向100%以上の方針に、自社株買いが乗る。株主の顔ぶれも変わり、旧村上ファンド系の投資会社が株主にいる。資産の効率的な使い方や還元の強化が、さらに後押しされる。
タイヤの値上げは、メーカーの価格に沿って通る。人件費の上昇分も、工賃と用品の値上げで吸収できる。中計は営業利益168億円、利益率9.3%を掲げ、今より1ポイント高い。達成できれば、10年の利益は今の1.5倍を超える。
無借金に近い財務で、不況でも崩れない。車検という法律で決まった需要が下支えになる。
慎重な見方
国内の車の数は、10年で確実に減る。人口が減り、若者は車を持たず、カーシェアが広がる。市場の数量が縮む中で、店の数だけを増やしても、1店あたりの稼ぎは下がる。
通販でタイヤや用品を買う客が増えている。客は安く買い、取り付けだけを店に頼む。店にとっては粗利の薄い仕事が増える形で、ここは削られ続ける。
固定費は重い。直営店の多くは賃借で、売上が落ちても家賃は減らない。整備士の確保にも賃上げが要る。物価が上がる中で、人件費の負担は重くなる一方だ。
EVが広がると、エンジンオイルや排気系の部品の需要が消える。整備の中身が変わる中で、技能の更新に失敗した店は競争に負ける。ディーラーも整備の囲い込みを強めている。
中計の利益率9.3%は、今より1ポイント高い。人手不足と固定費の中で、これを達成するのは簡単ではない。還元が厚いのは、成長の投資先が乏しいことの裏返しでもある。
自社株買いと増配は、株価を支えるが、事業を強くはしない。利益が伸びない会社が還元を増やせば、再投資に回る分は減る。10年後の店舗の姿を描く資金が細るのは、成長の乏しさを映している。
どちらに重みを置いたか
還元の強さと整備の需要の底堅さは、強気の言い分が正しい。しかし、国内の車の数が減り、通販とディーラーに挟まれる構図は、慎重な言い分が正しい。堀が浅く、値決め力がない以上、高い利益率が10年続くと期待するのは危ない。
確率は中立に厚く置き、悲観は構造的な負けとして1割にとどめた。楽観は、整備と二輪が育つ姿を1割置いた。
結果として、中立の時価総額に10年の還元を足すと、今の値段を1割ほど上回る。割安と言うには足りず、割高でもない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,634 円2,210 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,203 円1,009 億円)。 今の値に割り戻すと 2,116 円1,775 億円、今との差 +31.3%、 期待の年率 +9.1%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,230 円3,549 億円 | 1,490 円1,250 億円 | +255.0% | +13.5% | 572 円480 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,497 円2,934 億円 | 1,371 円1,150 億円 | +202.2% | +11.7% | 1,071 円899 億円 |
| 中立 | 38% | 2,847 円2,389 億円 | 1,251 円1,050 億円 | +154.4% | +9.8% | 1,558 円1,307 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,418 円1,190 億円 | 1,049 円880 億円 | +53.1% | +4.4% | 493 円414 億円 |
| 悲観 | 10% | 764 円641 億円 | 667 円560 億円 | −11.2% | −1.2% | 143 円120 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,634 円2,210 億円 | 1,203 円1,009 億円 | +138.2% | +9.1% | 3,837 円3,219 億円 |
今の株価時価総額 1,611 円1,352 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 店舗網が磨かれ、整備と二輪が稼ぎ頭になる 利益 199 億円 · PER 17.2 倍 · 株価時価総額 4,230 円3,549 億円
来店のきっかけが「用品を買う」から「整備を任せる」に移る。公式アプリの予約が定着し、オイル交換やタイヤ交換から車検・鈑金の入口まで客を引き込む。整備士の採用と育成が進み、イエローハットは車を持つ人の「かかりつけの店」になる。
バイク館、2りんかん、ワイズロードを束ねた二輪も、中古・用品・整備を一体で回して収益の柱に育つ。出店と買収でシェアは今の6.6%から8%へ上がる。
人件費は上がるが、整備の工賃と用品の値上げで吸収できる。営業利益率は9.5%まで上がり、利益は今の1.7倍になる。創業の理念である掃除と店づくりの文化が、現場の定着率を支える10年だ。
- カー用品・二輪用品等販売:数量 23,750(国内のカー・バイク用品と取付整備の対象市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 10.7%(シェア × 物価の倍率(10年1.34倍)=実質の市場に対する売上の割合(名目))→ 売上 2,546 億円・営業利益 242 億円。市場 2.4兆円弱(実質、今の0.95倍)× シェア8.0%、営業利益率9.5%
- 賃貸不動産:数量 40.0(賃貸面積(万㎡・推定))× 価格 2.05(1万㎡あたり年賃料(億円・名目))→ 売上 82 億円・営業利益 20 億円。40万㎡ × 年賃料 2.05億円/万㎡(今の1.34倍)、利益率25%
倍率:事業の純利益 199 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.2 倍。全体の PER 17.16 倍、時価総額 3,415 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:整備士を育て、整備と二輪で客単価を上げ続ける道は描けるが、人口減の逆風の中で10年続けるのは難しい。確率は低めに置いた。
やや楽観 22% 整備の入口を広げ、シェアをじわり伸ばす 利益 171 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 3,497 円2,934 億円
中計の路線が着実に実を結ぶ。出店は年10〜20店のペースで続き、不採算店の閉鎖も同時に進める。タイヤの値上げは吸収され、整備の予約が増えて、1店あたりの来店頻度が上がる。
二輪は店舗の相乗りと中古車の取り込みで黒字の幅を広げる。シェアは7.6%まで上がる。
人口減で車の保有は細るが、車が古くなるほど整備と部品の需要は増える。営業利益率は8.8%と今より少し高く、物価の上昇分を上回る利益の伸びが10年続く。
配当は業績に合わせて増え、自社株買いも続く。中計の目標に近い利益水準を10年保つ姿だ。ストラテジックキャピタルのような株主の目もあり、資本の使い方も緩まず、還元は利益の8割ほどが株主に戻る。
- カー用品・二輪用品等販売:数量 23,000(国内のカー・バイク用品と取付整備の対象市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 10.2%(シェア × 物価の倍率(10年1.34倍)=実質の市場に対する売上の割合(名目))→ 売上 2,342 億円・営業利益 206 億円。市場 2.3兆円(実質、今の0.92倍)× シェア7.6%、営業利益率8.8%
- 賃貸不動産:数量 39.0(賃貸面積(万㎡・推定))× 価格 2.05(1万㎡あたり年賃料(億円・名目))→ 売上 80 億円・営業利益 20 億円。39万㎡ × 年賃料 2.05億円/万㎡(今の1.34倍)、利益率24.5%
倍率:事業の純利益 171 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍。全体の PER 16.29 倍、時価総額 2,786 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の路線(出店・整備士育成・二輪強化)が大きく外れず進む、強気よりの現実的な姿として厚めに置いた。
中立 38% 車は減るが古くなり、物価分だけ伸びる 利益 146 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 2,847 円2,389 億円
車の保有台数は減るが、車が古くなって整備と交換の需要は底堅い。市場の数量は10年で1割ほど縮み、イエローハットは出店と二輪の取り込みでシェアを7.2%へ少し上げる。
タイヤの値上げは続くが、メーカーの値決めに従うので上乗せの利益は小さい。人件費と整備士の確保にコストがかかり、営業利益率は8.0%と今より少し低い。
売上は物価並みの年3%で伸び、利益も同じペースで増える。新車のEV化で整備の中身は変わるが、タイヤ・バッテリー・オイル・車検の入口は残る。大きく化けず、大きく崩れもしない10年だ。
還元は中計の方針に沿って続き、利益の7〜8割が株主に戻る。ストラテジックキャピタルのような株主の目もあり、資本の使い方は緩まない。
- カー用品・二輪用品等販売:数量 22,500(国内のカー・バイク用品と取付整備の対象市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 9.6%(シェア × 物価の倍率(10年1.34倍)=実質の市場に対する売上の割合(名目))→ 売上 2,171 億円・営業利益 174 億円。市場 2.25兆円(実質、今の0.90倍)× シェア7.2%、営業利益率8.0%
- 賃貸不動産:数量 38.0(賃貸面積(万㎡・推定))× 価格 2.05(1万㎡あたり年賃料(億円・名目))→ 売上 78 億円・営業利益 19 億円。38万㎡ × 年賃料 2.05億円/万㎡(今の1.34倍)、利益率24%
倍率:事業の純利益 146 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍。全体の PER 15.22 倍、時価総額 2,222 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の成熟市場で数量はゆるやかに縮み、物価の分だけ売上が伸びる姿がもっとも起こりやすい。還元の強さと店舗網の厚みで、悲観よりも中立を厚く置いた。
やや悲観 20% 値決めと人手の板挟みで利益率が痩せる 利益 102 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,418 円1,190 億円
車の保有減と若者の車離れで、市場の数量は10年で2割近く縮む。通販でタイヤや用品を買って取り付けだけ頼む客が増え、店の粗利が薄くなる。ディーラーも整備の囲い込みを強める。
整備士の確保に賃上げが要り、賃借した店の家賃も重い。売上が伸びても、利益率は6.5%まで落ちる。シェアは6.6%のまま動かず、出店の効果は閉店で相殺される。
稼ぎは今より3割ほど細り、還元の余力も縮む。ただ、タイヤ・車検の需要は景気に左右されにくく、事業が傾くほどではない。
還元は利益の7割ほどに下がるが、配当は維持される。店舗網の見直しと整備への投資で、悪化を食い止める10年になる。
- カー用品・二輪用品等販売:数量 20,500(国内のカー・バイク用品と取付整備の対象市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 8.8%(シェア × 物価の倍率(10年1.34倍)=実質の市場に対する売上の割合(名目))→ 売上 1,813 億円・営業利益 118 億円。市場 2.05兆円(実質、今の0.82倍)× シェア6.6%、営業利益率6.5%
- 賃貸不動産:数量 36.0(賃貸面積(万㎡・推定))× 価格 2.05(1万㎡あたり年賃料(億円・名目))→ 売上 74 億円・営業利益 17 億円。36万㎡ × 年賃料 2.05億円/万㎡(今の1.34倍)、利益率23%
倍率:ROE 6.8%はk 7.5%に届かない。ためた利益は額面未満の価値で、正当化PERの上限は1÷k=12.5倍。稼ぐ力から出して、上限の7.2割の9.0倍に置いた。
確率:整備士不足と家賃・人件費の上昇、通販とディーラーの囲い込みが重なり、利益率が痩せる姿。店舗網の重さを考えると十分ありうる。
悲観 10% 車離れと通販に押され、店舗網が重荷になる 利益 41 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 764 円641 億円
車を持たない暮らしが都市部から地方に広がり、市場の数量は10年で3割以上縮む。通販とディーラー系の整備に客を奪われ、シェアは5.5%に落ちる。
店舗は賃借が多く、売上が落ちても家賃と整備士の人件費は減らない。粗利が薄い中で固定費が残り、営業利益率は3.5%まで下がる。二輪の拡大で買った店の減損も出る。
閉店と再編で立て直しを図るが、稼ぎは今の3割ほどにとどまる。配当は守っても、自社株買いは続けられない。優良な小売ではなく、縮む市場の中堅になる10年だ。
賃貸不動産の安定した稼ぎが下支えになるものの、本業の傷は深い。
- カー用品・二輪用品等販売:数量 17,000(国内のカー・バイク用品と取付整備の対象市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 7.4%(シェア × 物価の倍率(10年1.34倍)=実質の市場に対する売上の割合(名目))→ 売上 1,253 億円・営業利益 44 億円。市場 1.7兆円(実質、今の0.68倍)× シェア5.5%、営業利益率3.5%
- 賃貸不動産:数量 34.0(賃貸面積(万㎡・推定))× 価格 2.05(1万㎡あたり年賃料(億円・名目))→ 売上 70 億円・営業利益 15 億円。34万㎡ × 年賃料 2.05億円/万㎡(今の1.34倍)、利益率22%
倍率:ROE 3.4%はk 7.5%に届かず、正当化PERの上限は1÷k=12.5倍。稼ぐ力から出して、構造的に負けた会社として上限の7.2割の9.0倍に置いた。減損で自己資本は今より減らした。
確率:保有台数の減少がシェアリングや都市部の車離れで想定より速まり、固定費の重い店舗網が赤字寸前まで追い込まれる構造的な負け。小売の寡占は崩れにくいので低めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
カー用品・二輪用品等販売
イエローハットの直営店とFC向け卸売、二輪のバイク館・2りんかん・ワイズロード、車検・整備、レンタカー。
| 数量国内のカー・バイク用品と取付整備の対象市場(億円・今の値段で測った実質) | 価格シェア × 物価の倍率(10年1.34倍)=実質の市場に対する売上の割合(名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25,000 | 6.6% | 1,655 | 137 |
| 10 年後 中立 | 22,500 | 9.6% | 2,171 | 174 |
取り方:業種ノートのカー用品市場約1.7兆円に、整備・二輪用品の取り込み分を足して対象市場を約2.5兆円と置いた(開示なし、推定)。売上1,655億円÷2.5兆円でシェア約6.6%。市場は実質、物価は価格の側に入れた。国内936店(イエローハット765店)を持つ。
賃貸不動産
所有する土地・建物を店舗用地などとして貸す事業。
| 数量賃貸面積(万㎡・推定) | 価格1万㎡あたり年賃料(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 38.0 | 1.53 | 58 | 14 |
| 10 年後 中立 | 38.0 | 2.05 | 78 | 19 |
取り方:売上58億円を、郊外ロードサイドの賃料水準から面積約38万㎡・年賃料約1.5万円/㎡と置いた(面積は開示なし、推定)。賃料は物価並みに上がる。
リスクと懸念
国内の車の保有台数の減少
人口減と若者の車離れ、カーシェアの普及で、車の数は長期で減る。店舗網は固定費が重く、数量が1割落ちると利益はそれ以上に削られる。中立でも10年で市場の数量は約1割縮むと置いた。
通販とディーラーの攻勢
タイヤや用品を通販で買い、取り付けだけを店に頼む客が増えると、店の粗利が薄くなる。ディーラーも整備を囲い込み、新車の客が店に来なくなる恐れがある。
整備士の確保と人件費
成長の天井は整備士の数だ。採用と定着に賃上げが要り、育成に時間がかかる。人手が足りない店は予約を断るしかなく、売上の伸びが人員に縛られる。
家賃などの固定費
直営店の多くは土地や建物を借りて営む。売上が落ちても家賃は減らない約束で、悲観の筋書きでは利益率が3.5%まで落ちる。新リース会計基準でBSにこの約束が載る点にも注意がいる。
EV化による整備の中身の変化
エンジンオイルや排気系の部品の需要は減る。バッテリーや電装の整備に対応できなければ、整備の入口を失う。技能の更新に投資が要る。
タイヤの値上げと駆け込み需要の反動
メーカーの値上げ前に駆け込み需要が出て、その後に反動で売上が落ちる。この波は一時的で、実力の見極めを難しくする。
株主構成と還元の持続
ストラテジックキャピタルが約12%を持ち、重要提案を行う可能性を保有目的に残している。還元は強まるが、成長の投資先が乏しい中で続けると、事業の再投資が細る恐れもある。
今後の分かれ目
- 整備と作業予約の件数が伸び続け、既存店の来店頻度が上がったら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。整備が入口の事業になる道が開く。
- 営業利益率が9%台に定着し、中計の利益168億円に届いたら
- 中立の利益率の前提(8.0%)を上方修正し、価値を見直す。
- 通販やディーラーに客が流れて、既存店の来店件数が減り続けたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。粗利の薄い仕事が増える。
- ストラテジックキャピタルが株主提案や保有の積み増しに動いたら
- 還元と資産の使い方が変わる可能性がある。ただしTOBが成立しても事業の本質価値は変わらないので、確率の見直しは慎重に行う。
- 整備士の採用が追いつかず、賃上げが続いたら
- 利益率の前提を下げる。やや悲観に寄せる。
- EVの比率が急に上がり、店の整備がEVに対応できないと分かったら
- 整備の入口を失う姿として、悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 国内の自動車保有台数と平均車齢の推移
- 既存店の来店件数と整備の作業予約件数
- 営業利益率(中計の最終年度は9.3%の計画)
- ストラテジックキャピタルの保有目的の変更と株主提案の有無
- 整備士の採用数と離職、人件費の伸び
倍率と資本コストの決め方
今の株価・PERは見ずに、対象市場の数量×シェア×物価で売上を積み、営業利益率から純利益を出した。倍率は式(k 7.5%、g 4.0%、RONIC=k+1/2×(ROE−k))で決めた。中立はROE 9.6%がkを上回るのでPERは下限の1÷k=12.5倍を踏まえ12.7倍。10年後の中立の時価総額に10年の還元を足しても、今の値段からの上振れは1割前後にとどまる。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)で置き、帳簿の自己資本は床にしていない。純有利子負債はプラスで余った現金は立てていない。新リース会計基準(2028/03期から)で営業利益は少し増え負債も増えるが、10年後の数字は今と同じ家賃を費用に入れた形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.7→17.16 倍・やや楽観 PER 12.8→16.29 倍・中立 PER 12.7→15.22 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。