結論
トラスコ中山は、工場や建設現場で使う工具・消耗品・機器を、全国の販売店を通じて届ける専門卸である。ほかの卸が嫌がる「在庫を厚く持つ」ことを事業の中心に据え、在庫は62万アイテムを超える。筆者の結論を先に言う。事業は強いが、利益の伸びは物流投資の回収に縛られる。それでも今の値段は、10年の稼ぐ力に比べてやや安い。
稼ぎの源は単純だ。注文が来れば、その日のうちに在庫から出す。メーカーは在庫を持つ負担を卸に預け、販売店は在庫を持たずに商売ができる。この「即納」が、価格だけで競う相手との違いになる。2025年12月期の売上は3,200億円、営業利益は228億円。営業利益率は7%台で、卸としては悪くないが、通販に徹した相手ほどは厚くない。
成長は、在庫を増やし、販売店に頼られる範囲を広げることで出てくる。一方で、荷さばきの拠点を自前で建て続けるため、利益の伸びが売上に追いつきにくい。会社は2030年までに在庫を100万アイテムへ増やす構えで、物流への投資は当面続く。
脅威は、モノタロウのような通販型の流通と、メーカーや大口の取引先との直接取引の広がりだ。筆者は、この脅威が10年で販売店経由の仕組みを崩すところまでは進まないと見る。ただし、利益率を削る力は十分にある。
10年の中立では、利益は今の1.7倍ほどになるが、自己資本も同じ速さで膨らむ。ROEは8%前後にとどまり、倍率は13倍台が妥当と考える。それでも今の時価総額は、この稼ぐ力から出る価値を下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、トラスコは「長く持ちたい事業」に近い。在庫を持つという地味で重い仕事を、販売店とメーカーの双方にとって手放しにくい機能に育てたからだ。赤字を知らず、借金も軽い。
ただし、持ち主に残るお金の面では、まだ魅力が薄い。利益の4分の3を物流拠点に回し、自己資本が増えるほどにはROEが上がらない。投資が実を結ぶかどうかが、この会社の本質価値を決める。拠点が稼働して売上が伸び、減価償却を吸収すれば、利益は資本よりも速く伸びる。吸収できなければ、資本だけが太る。
筆者が見たいのは、10年後の営業利益率が7%台を保てるかだ。保てれば、中立の13倍台の倍率に見合う。保てなければ、堀は思ったより低いことになる。今の値段は、利益率の悪化をかなり織り込んだ形に見える。安全域はあるが、厚くはない。通販型の競争が強まる世界では、安さだけを理由に持つ株ではない。
何で稼ぐ会社か
トラスコ中山は、プロ向けの工具・消耗品・機器(プロツール)を扱う専門卸だ。商品は切削工具・測定機器・作業用品・梱包材・オフィス用品まで幅広く、仕入先はメーカー、売り先は全国の販売店やホームセンター、通販事業者である。2025年12月期の売上3,200億円の中身は、ファクトリールートが66%、e-Businessルートが24%、ホームセンタールートが9%、海外ルートが1%という構成になる。
中心のファクトリールートは、工場や現場に出入りする販売店を通じて、機械工具や消耗品を届ける。トラスコは販売店と競わず、エンドユーザーへの直販もしない。販売店の「在庫を持たずに売れる」という使い勝手を提供するのが仕事だ。商品は全国30か所の物流センターに62万アイテムを持ち、注文に対して在庫から即納する。自社ブランド「TRUSCO」は約8.8万アイテムあり、メーカー品より粗利を取りやすい領域になっている。
e-Businessルートは、通販事業者向けの卸である。2026年12月期の第1四半期は売上が前年同期の2割近く伸び、会社の成長を引っ張る。ホームセンタールートは低採算で、同期の経常損益は赤字だ。海外ルートは立ち上げ段階にある。
差別化の道具が物流とITだ。AIが最短5秒で見積もりを返す「即答名人」の利用率は30.5%、受注の88.6%がシステム経由で、人手を介さずに処理できる比率を上げている。2026年5月に稼働した「プラネット愛知」は在庫100万アイテムまで持てる大型拠点で、年に1,000億円規模の出荷を見込む。新潟にも約182億円を投じた拠点が続く。物流センターや支店の社屋は自社で持つ方針で、土地建物が資産の厚みになっている。
優良さと弱いところ
トラスコの優良さは、在庫の厚さと、それを回す仕組みにある。62万アイテムを持ち、100万まで増やす構えだ。長く売れない商品も、需要が終わるまで持つ。この方針は短期の在庫回転を悪くするが、「頼めば必ずある」という信頼が販売店に積み上がる。他社が同じ在庫を持つには、倉庫と物流機器と仕入れ交渉の積み上げが要り、数年では追いつけない。
資本の使い方も堅い。2017年に初めて100億円の借り入れをするまでは無借金で、いまも純有利子負債は326億円、自己資本比率は60%と高い。赤字の期は過去に見当たらず、最悪の営業利益率でも3%台後半だった。R&Iの格付は「A」を保つ。
弱みは三つある。第一に、利益率が薄い。営業利益率は7%台で、同じ規模のモノタロウは売上が3,300億円台で営業利益が460億円台と、利益は2倍近い。通販に徹した相手は、倉庫と販売店を抱えない分だけ身軽だ。第二に、ホームセンタールートの低採算が続いている。第三に、自前で拠点を持つため、売上が落ちても減価償却と人件費は落ちない。
筆者は、堀は「普通以上、強いとまでは言えない」と見る。即納の信頼は本物だが、販売店が通販へ移れば、堀は薄まりうる。ROEの過去10年の中央値は8%台で、資本コストをわずかに上回る水準だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
トラスコが属するのは、工場・建設・インフラの現場に間接資材を届ける流通の世界だ。需要は製造業の設備投資や稼働に連動するが、工具・消耗品は設備そのものよりも景気の波が小さい。人手不足と省人化の流れは、現場で使う消耗品や工具の量を底支えする。日本の人口は減るが、現場に必要な商品の量は人の数ほどは減らない。筆者は、国内の量はほぼ横ばいか小幅な増加を見込む。
競争は三方向から来る。一つは通販だ。モノタロウは2025年12月期に売上3,300億円台、前の期より16%近く伸び、利益は営業利益で460億円台に乗った。「ほしい時に、その場で」を価格と品ぞろえで取りにきている。二つ目はミスミ。FA部品の領域でカタログと短納期で戦い、設備や機械の設計者を握る。三つ目は山善などの同業卸で、在庫の持ち方や販売店網で競う。
トラスコの強みは、この三つのどれとも違う場所に立つことだ。通販は注文の便利さで、ミスミは設計の入口で戦う。トラスコは「あるものを即納する」という物流の場所を押さえる。通販事業者もまた、トラスコにとっては卸し先の一つであり、競争相手であり顧客でもある。
循環のどこにいるかといえば、2025年は増収増益で、2026年12月期は会社予想が営業利益で小幅に減る。拠点の稼働で費用が先に出るためで、筆者は景気の悪化ではなく投資の時期だと読む。10年の構造では、販売店経由の卸機能が通販や直接取引にどれだけ削られるかが最大の論点になる。
資本政策と M&A
還元は控えめだ。配当は連結配当性向25%が基準で、年間の最低配当額も決まっている。自社株買いは、見つかった範囲では実施の記載がない。利益の4分の3を内部に残し、物流センターや社屋の投資に回す。これが、ROEが8%台で頭打ちになる一因だ。
中期の経営目標は、売上や利益の数字ではなく「能力目標」で示される。在庫を2030年までに100万アイテムへ、AI見積の利用率を50%へ、システム受注率を95%へ。数字の約束がない代わりに、投資の中身がそのまま見える計画だ。
M&Aは目立たない。自前で拠点を建てて育てる会社で、買収で成長を買う色は薄い。2017年に100億円を借りたのも、拠点への投資のためだった。安定株主が上位に並び、買われる側になる可能性は小さいと見る。資本政策で変わりうる点があるとすれば、投資が一巡した時に配当や自社株買いが増えるかどうかで、それは10年の筋書きの上振れ要因になる。
点検済み(見落とし点検 2026-10-19):起点の純利益 159 億円に特別益は見当たらない。純有利子負債 326 億円の利払い増(10 年で税前 8 億円)は純利益に入れてある。出荷行数は実質・単価は物価で二重がけなし。中立の営業利益率 7.1% は今と同じ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
在庫は62万アイテムから100万へ向かい、プラネット愛知とプラネット新潟が稼働する。1か所に置ける商品が増えれば、1度の注文で複数の商品をまとめて出せる比率が上がり、運賃と梱包の費用が下がる。ユーザー直送の新しい梱包ラインは納期・資材・運賃を半分にする狙いで、顧客にも会社にも得になる。
e-Businessルートは前年同期比で2割近く伸びている。通販事業者が自前で在庫を持つより、トラスコの在庫を使うほうが早く安いという構図は、通販が伸びるほどトラスコの出荷が増える関係になる。AI見積の利用率が30.5%から50%に上がれば、人手を増やさずに出荷行を増やせる。
自社ブランドの約8.8万アイテムは粗利が高く、比率が上がれば利益率は押し上がる。ホームセンタールートの赤字も、拠点の稼働が安定すれば薄まる。物流への投資が一巡したあとは、自己資本比率の高さを生かした増配や自社株買いの余地がある。
こうして営業利益は10年で2.5倍ほどに伸び、ROEは10%を超える。売上3,200億円の会社が、物流という形のあるものを堀にしたまま、2倍以上の規模の利益を出す姿は、筋の通った上振れである。
慎重な見方
営業利益率は7%台と、通販最大手の半分以下の水準だ。モノタロウは売上が同じ規模で営業利益が2倍。通販が価格で販売店の市場に入り込み、メーカーも直接取引を広げれば、トラスコの卸機能は価格を下げて守るしかない。
物流センターは30か所、社屋も自社保有で、固定費が重い。売上の伸びが鈍れば、減価償却と人件費が利益を食う。2026年12月期の会社予想がすでに小幅な減益で、投資の費用が先に出ている。拠点を増やしても、荷動きが追いつかなければ、利益率は下がる。
自己資本は利益の4分の3を残すため膨らむが、ROEは資本コストをわずかに超える程度にとどまる。「在庫の厚さ」という強みは、顧客にとっては通販の翌日配送と大差ないと映る可能性がある。ホームセンタールートは赤字で、海外ルートはまだ売上の1%だ。
販売店が通販に流れ、メーカーが直接取引に動けば、この会社の価値の源である「販売店経由の即納」が目減りする。10年でこの筋書きに進めば、利益は今の半分以下にまで落ちうる。
どちらに重みを置いたか
筆者は、強気の見方のほうが少しだけ強いと見て、確率を楽観側にわずかに寄せた。理由は二つ。一つは、在庫と即納という堀が数年で作れるものではなく、通販が伸びるほど、通販向けの卸し先としての出番も増える構図だからだ。もう一つは、赤字の期がなく、悲観の側も「利益がなくなる」ほどの崩れ方は考えにくいからだ。
慎重な見方の指摘も重い。利益率が薄く、固定費が重く、ROEが資本コストを大きく超えない。このため中立でも倍率は13倍台にとどめ、確率は悲観側に2割を超えて置いた。結論は、確率で重みをつけて出した価値が今の時価総額を上回るかどうかで決まる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 6,252 円4,123 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 863 円569 億円)。 今の値に割り戻すと 3,876 円2,556 億円、今との差 +56.5%、 期待の年率 +11.1%(資本コスト 6.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 11,347 円7,483 億円 | 1,274 円840 億円 | +409.7% | +17.7% | 1,136 円749 億円 |
| やや楽観 | 23% | 8,978 円5,920 億円 | 1,062 円700 億円 | +305.5% | +15.0% | 2,309 円1,523 億円 |
| 中立 | 38% | 6,526 円4,304 億円 | 883 円582 億円 | +199.2% | +11.6% | 2,815 円1,856 億円 |
| やや悲観 | 21% | 2,850 円1,880 億円 | 640 円422 億円 | +41.0% | +3.5% | 733 円483 億円 |
| 悲観 | 9% | 971 円640 億円 | 378 円249 億円 | −45.5% | −5.9% | 121 円80 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,252 円4,123 億円 | 863 円569 億円 | +187.3% | +11.1% | 7,115 円4,691 億円 |
今の株価時価総額 2,476 円1,633 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 9% 在庫100万アイテムの即納が、通販の伸びも取り込む 利益 415 億円 · PER 18.0 倍 · 株価時価総額 11,347 円7,483 億円
在庫は100万アイテムに届き、プラネット愛知とプラネット新潟が満度に稼働する。1回の注文で複数の商品をまとめて出せる比率が上がり、運賃と梱包の費用が下がる。通販事業者は自前の在庫を持つより、トラスコの在庫に頼る方が早くて安いと判断し、e-Businessルートの出荷は10年で倍以上に増える。AI見積の利用率は5割に達し、人手を増やさずに出荷行を増やせる。自社ブランドの比率が上がり、ホームセンタールートの赤字も消える。物流投資が一巡したあとは、増配や自社株買いが現れ、ROEは10%を超える。10年でも営業利益率は8%台に乗り、卸として異例の水準を保つ。
- ファクトリールート:数量 96.0(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 4,422(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 4,245 億円・営業利益 348 億円。行数1.5倍・利益率8.2%
- e-Businessルート:数量 65.0(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 3,484(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 2,264 億円・営業利益 215 億円。通販向け2.2倍・利益率9.5%
- ホームセンタールート:数量 17.1(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 2,680(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 458 億円・営業利益 16 億円。利益率3.5%まで改善
- オーバーシーズルート:数量 3.5(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 5,360(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 188 億円・営業利益 17 億円。行数4倍・利益率9%
倍率:事業の純利益 415 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.0 倍。全体の PER 18.03 倍、時価総額 7,482 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:在庫と物流の投資が早く実り、通販向けの卸しも伸び続ける筋書き。成功すれば大きいが、利益率の改善が前提で、1割には届かない確率とした。
やや楽観 23% 投資が実り、利益が資本より速く伸びる 利益 346 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 8,978 円5,920 億円
投資は計画通りに稼働し、売上は年率7%近く伸びる。ファクトリールートは販売店の信頼を保ち、通販向けも伸びる。自社ブランドは少しずつ比率が上がり、利益率は8%近くまで改善する。海外ルートは小さいまま3倍に育つ。物流拠点の減価償却は重いが、売上の伸びで吸収する。還元は配当を中心に今の水準から少し上がる。ROEは9%台に乗り、資本コストを小さく上回る。大きな買収や構造変化はなく、会社の実力がそのまま10年先に出る筋書きになる。売上は10年で2倍に迫り、利益率の改善は小幅にとどまる。堀は保たれ、倍率も高く評価されすぎない。
- ファクトリールート:数量 88.3(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 4,422(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 3,906 億円・営業利益 305 億円。行数1.38倍・利益率7.8%
- e-Businessルート:数量 54.7(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 3,484(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 1,904 億円・営業利益 171 億円。通販向け1.85倍・利益率9%
- ホームセンタールート:数量 15.7(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 2,680(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 420 億円・営業利益 11 億円。利益率2.5%
- オーバーシーズルート:数量 2.6(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 5,360(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 140 億円・営業利益 11 億円。行数3倍・利益率8%
倍率:事業の純利益 346 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍。全体の PER 17.11 倍、時価総額 5,920 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:投資が計画通り稼働し、通販向けとファクトリールートがともに伸びる。同業の中でも実績の安定した会社なので、中立に次いで厚く置いた。
中立 38% 堀は保つが、利益率は7%台のまま 利益 271 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 6,526 円4,304 億円
人手不足と省人化の動きで、現場で使う工具や消耗品の量は小幅に増える。トラスコは在庫を厚くして販売店の信頼を保ち、行数は10年で2割ほど増える。通販向けは伸びるが、競争は続く。価格は物価並みに上がり、利益率は今の7%台を保つ。物流拠点の減価償却は重く、利益は売上ほど伸びない。還元は配当性向25〜30%にとどまり、利益の大半は再び拠点に回る。ROEは8%前後で安定し、資本コストをわずかに上回る。会社の実力どおりの、地味だが崩れない10年だ。売上は10年で1.7倍、営業利益は390億円ほどになる。筆者はこれを最も起こりやすい姿と見る。
- ファクトリールート:数量 78.1(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 4,422(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 3,453 億円・営業利益 249 億円。行数1.22倍・利益率7.2%
- e-Businessルート:数量 44.3(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 3,484(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 1,544 億円・営業利益 131 億円。通販向け1.5倍・利益率8.5%
- ホームセンタールート:数量 15.0(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 2,680(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 401 億円・営業利益 6 億円。利益率1.5%
- オーバーシーズルート:数量 1.8(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 5,360(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 94 億円・営業利益 7 億円。行数2倍・利益率7%
倍率:事業の純利益 271 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.88 倍、時価総額 4,304 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:人手不足と省人化で現場の消耗品の量は横ばいから小幅な増加、物流投資で少しシェアを取り、利益率は今の水準を保つ筋書き。2人の見方の落としどころ。
やや悲観 21% 通販に押され、価格が物価に追いつかない 利益 165 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 2,850 円1,880 億円
モノタロウなど通販型の流通が価格で現場に入り込み、卸の値付けは物価に追いつかない。メーカーの直接取引も一部で進み、ファクトリールートの行数は10年でほぼ横ばいになる。通販向けは伸びるが、利益率の低い品が増える。ホームセンタールートは赤字から抜けられない。物流拠点の固定費が重くのしかかり、営業利益率は6%を割る。自己資本は膨らむが、ROEは5%台に落ち、資本コストを下回る。赤字には落ちないが、優良な卸とは言えなくなる。売上は10年で4,000億円台にとどまり、物流投資に見合う稼ぎが出ない。筆者はこの姿を、中立の次に警戒すべき筋書きと見る。
- ファクトリールート:数量 67.2(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 4,158(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 2,794 億円・営業利益 162 億円。行数1.05倍・価格は物価に届かず・利益率5.8%
- e-Businessルート:数量 36.9(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 3,250(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 1,200 億円・営業利益 84 億円。通販向け1.25倍・利益率7%
- ホームセンタールート:数量 12.8(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 2,400(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 308 億円・営業利益 −3 億円。行数減・赤字
- オーバーシーズルート:数量 1.1(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 5,200(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 59 億円・営業利益 3 億円。行数1.3倍・利益率5%
倍率:事業の純利益165億円・ROE約5.4%はk 6.75%以下なので、上限は1÷k=13.3倍。構造的な価格競争で、ためた利益が簿価を下回る価値になる世界。RONICはk以下に落ち、上限1÷kから約2割引いた10.5倍に置いた。
確率:通販との価格競争で卸の値付けが物価に届かず、固定費の重さが利益を削る。会社が赤字を知らない点を踏まえて、中立に近い厚さにとどめた。
悲観 9% 販売店が離れ、固定費だけが残る 利益 64 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 971 円640 億円
販売店が通販に流れ、メーカーが大口の取引先と直接取引を広げる。トラスコの在庫と即納は「通販の翌日配送と大差ない」と見られ、ファクトリールートの行数も価格も同時に下がる。通販向けは頭打ちになり、ホームセンタールートは撤退に近い縮小を迫られる。物流センターは30か所、社屋も自社保有のため、固定費が重く残る。営業利益率は4%を割り、物流資産の一部は減損する。配当は最低線に近づき、自社株買いはなく、ROEは3%を割る。優良な卸という位置を失い、重い資産を抱えた中堅の卸に戻る。売上は3,000億円台で伸びず、利益は今の半分を大きく割る。投資の失敗が資本の重さとして残り、再建には時間がかかる。
- ファクトリールート:数量 54.4(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 3,795(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 2,065 億円・営業利益 83 億円。行数0.85倍・利益率4%
- e-Businessルート:数量 26.6(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 2,860(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 761 億円・営業利益 34 億円。通販向け0.9倍・利益率4.5%
- ホームセンタールート:数量 8.6(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 2,200(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 188 億円・営業利益 −6 億円。行数0.6倍・赤字
- オーバーシーズルート:数量 0.9(年間出荷行数(百万行・推定))× 価格 4,800(1行あたり出荷額(円・推定))→ 売上 42 億円・営業利益 1 億円。行数1倍・利益率3%
倍率:事業の純利益64億円・ROE約2.8%はk以下で、上限は1÷k=13.3倍。構造的な負けで、固定費の重い卸の利益は谷の水準。上限から約25%引いた10倍に置き、減損後の自己資本の約0.3倍にあたる。
確率:販売店とメーカーの直接取引が広がり、通販に市場を奪われる構造的な負け。赤字の期がない会社なので1割未満とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ファクトリールート
工場・建設現場に出入りする販売店を通じて、機械工具・消耗品・作業用品を在庫から即納する中核ルート。
| 数量年間出荷行数(百万行・推定) | 価格1行あたり出荷額(円・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 64.0 | 3,300 | 2,112 | 152 |
| 10 年後 中立 | 78.1 | 4,422 | 3,453 | 249 |
取り方:2025年12月期の売上のうちファクトリールートは約66%の約2,112億円。1行あたり約0.33万円は、プラネット愛知の年間出荷可能額1,000億円を1日約10万行×約300日で割った値を足がかりにした推定で、そこから約64百万行と置いた。営業利益は2026年第1四半期の経常39.6億円(利益率約7%)から約152億円と推定した。
e-Businessルート
通販事業者向けの卸。通販が伸びるほど出荷が増えるが、通販事業者は競争相手でもある。
| 数量年間出荷行数(百万行・推定) | 価格1行あたり出荷額(円・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 29.5 | 2,600 | 768 | 72 |
| 10 年後 中立 | 44.3 | 3,484 | 1,544 | 131 |
取り方:売上構成24%の約768億円。通販向けは1行の金額が小さいとみて約0.26万円と推定し、約29.5百万行と置いた。2026年第1四半期の経常利益は20.2億円(約9%)なので、営業利益は約72億円とした。 数量は実物(出荷行数)で、名目の市場の伸びからは置いていない。
ホームセンタールート
ホームセンター向けの卸。自社ブランドの供給が中心で、利益率は低く赤字の期もある。
| 数量年間出荷行数(百万行・推定) | 価格1行あたり出荷額(円・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 14.3 | 2,000 | 285 | 2 |
| 10 年後 中立 | 15.0 | 2,680 | 401 | 6 |
取り方:売上構成約9%の約285億円。1行約0.2万円と推定して約14.25百万行。2026年第1四半期は経常損益がわずかな赤字のため、営業利益は約2億円とした。
オーバーシーズルート
アジアを中心とした海外の販売店向け。立ち上げ段階で売上の約1%。
| 数量年間出荷行数(百万行・推定) | 価格1行あたり出荷額(円・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.9 | 4,000 | 35 | 3 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 5,360 | 94 | 7 |
取り方:売上構成約1%の約35億円。1行約0.4万円と推定して約0.875百万行。営業利益は第1四半期の経常利益率(約8%)から約2.5億円とした。 数量は実物(出荷行数)で、名目の市場の伸びからは置いていない。
リスクと懸念
通販型流通の価格攻勢
モノタロウは売上が同規模で、営業利益はトラスコの2倍。価格と品ぞろえで現場に入り込み、卸の値付けを物価以下に押さえる可能性がある。販売店が通販へ移れば、トラスコの機能が目減りする。
物流投資の回収遅れ
30か所の拠点とプラネット愛知・新潟への投資は、荷動きが増えて初めて報われる。売上が思ったほど伸びなければ、減価償却と人件費が利益を食い、2026年12月期の会社予想のような減益が長引く。
ホームセンタールートの低採算
ホームセンター向けは2026年第1四半期の経常損益が赤字。売上は伸びても利益にならず、拠点の稼働が上がらないと、全社の利益率を下げる足かせになる。
メーカー直接取引・大口の中抜き
メーカーが大口の取引先と直接取引を広げると、卸と販売店の間にある取り分が削られる。トラスコは販売店と競わない立場ゆえに、直接取引を拡げにくい弱さもある。
景気の悪化と設備稼働の低下
工具や消耗品は設備そのものより景気の波が小さいが、製造業の稼働が落ちれば出荷行数は減る。2009年前後には営業利益率が3%台まで低下した実績がある。
還元の薄さ
配当性向は25%が基準で、自社株買いは確認できない。利益が拠点投資に回り続けると、ROEが上がらず、株主に戻る額も増えない。投資が収益につながらなければ、自己資本だけが膨らむ。
今後の分かれ目
- e-Businessルートの伸びが2割近くで続き、通販事業者向けの出荷が定着したら
- 通販とトラスコが補い合う関係と見て、やや楽観・楽観側の確率を上げてよい。
- プラネット愛知・新潟の稼働後も、営業利益率が7%を割り込み続けたら
- 物流投資の回収が遅いと見て、中立の利益率を下げ、やや悲観側に確率を寄せる。
- 自社ブランド(TRUSCO)の比率が上がり、粗利益率が改善し始めたら
- 利益率の上振れ余地を評価し、やや楽観側に確率を寄せる。
- 大手メーカーが販売店を通さず通販事業者と直接取引を広げたら
- 卸機能の中抜きが進むと見て、悲観側の確率を上げる。
- 物流投資が一巡して配当性向や自社株買いを引き上げたら
- 還元の薄さが解消に向かうと見て、中立の倍率の上限を引き上げる余地がある。
- ホームセンタールートが赤字のまま続き、撤退や縮小の判断が出たら
- 全社の利益率には小さな追い風だが、売上の伸びの鈍化として中立の数量をやや下げて見る。
見ておくもの
- ファクトリールート・e-Businessルートの売上伸び率と経常利益率
- 在庫アイテム数(62万→100万)とプラネット愛知・新潟の稼働率
- 営業利益率と減価償却費の推移
- AI見積利用率(30.5%→50%)とシステム受注率(88.6%→95%)
- 配当性向・自社株買いの有無
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業のROEと資本コストから正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)を出し、中立はその上限の手前に置いた。ROEがk以下の悲観側は1÷kの手前から薄く置き、今の株価や過去の市場の倍率は使っていない。確率も、同業の物差しに合わせるために動かしていない。数量と価格はセグメントごとに積み上げ、今の値段が安くても高くても結論が動かないようにした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15→18.03 倍・やや楽観 PER 14.4→17.11 倍・中立 PER 13.4→15.88 倍)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality 0 を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 6.75%。