結論
ワールドは神戸生まれの老舗アパレルだ。百貨店向けの婦人服で育ち、今は子ども服のナルミヤ、中古衣料のRAGTAG、デニムのライトオンを抱える。2025年には三菱商事ファッションを買い、服づくりを請け負う裏方の事業も大きくした。
筆者の結論は「今の値段はやや割高で、安全域がない」だ。会社は10年で売上1兆円を掲げるが、国内の服の需要は人口と一緒に細る。伸びるとすれば、不振ブランドの整理と、受託・販売代行という景気に左右されにくい稼ぎが育つ場合だけだ。前期は主力のアパレルが「壊滅的な不振」と会社自身が認めた。計画を直さず、最後の年に実力を超える目標を抱えたのが傷を広げた。
気になるのは資本の使い方だ。純利益の半分近くを配当に回しつつ、買収も続ける。借入は約770億円あり、借り換えのたびに金利が上がる。稼いだお金が買収で消えれば、株主の取り分は増えない。
中立の筋書きでは、10年後の利益は今の1.2倍ほどにとどまる。物価の分は伸びるが、店舗と客数が増えないからだ。総合の本質価値は今の時価総額を1割ほど下回り、やや割高と出た。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社は「わからないところが多い」事業だ。服の売れ行きは天気と流行で決まり、10年先の利益を自信を持って言える人は少ない。
評価できるのは、規律を取り戻す姿勢だ。役員賞与の返上、不採算ブランドの整理、ROIC基準の買収。裏方のB2Bは、他社の需要の波を受けにくく、利益が積み上がる芽がある。
気がかりは三つある。主力のアパレルで、前期に計画を直せなかったこと。借金が重く、金利が上がる局面に入ること。買収を成長の柱にしていること。買収は、失敗すれば株主の取り分を直接削る。
株主のものになる利益、つまり事業を維持するために必要な投資を引いた後の利益は、見かけの純利益よりずっと小さいと見るべきだ。店の改装と在庫の積み増しが毎年かかる。
払う値段に見合うかは、筆者の目では「ぎりぎり」だ。中立の筋書きの価値は今の時価総額とほぼ同じで、悲観に傾けば大きく割る。安全域は薄く、積極的に持ちたいと思う水準ではない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎは大きく二つある。一つは個人客に服を売るB2Cで、売上の7割を占める。もう一つは企業向けのB2Bで、利益の3分の1以上を稼ぐ。
B2Cの中身は、ワールド生まれの婦人服ブランド、ナルミヤのベビー・子ども服、2025年に傘下に入れたライトオン、中古衣料のRAGTAGなどだ。百貨店とショッピングセンターに店を出し、ネット通販も手がける。服の売れ行きは天気と流行で振れ、売れ残れば値引きで利益が削られる。前期はここが崩れた。
B2Bは、服の企画・生産を請け負うOEM・ODMと、他社ブランドの販売代行、サービスの束ねだ。2025年に買った三菱商事ファッション(現エムシーファッション)がここに入る。工場と素材の調達網を持つため、小売が不調でも請負の注文は残りやすい。ワールドはこの裏方を「第3極」と呼び、ユニクロのような世界的な専門店チェーンや、大手流通とは別の道に育てようとしている。
会社は2027年2月期に売上3,000億円、事業利益185億円を計画する。国内の服の小売は約8.5兆円で、ワールドのシェアは2%台にとどまる。
東南アジアでは、中古衣料の店と子ども服の展開を始めた。まだ小さい。
優良さと弱いところ
筆者の見立てでは、堀は薄いが、裏方の事業に芽がある。ブランドの力は景気と流行で変わり、顧客を縛る仕組みは弱い。ユニクロやしまむらのように規模で原価を下げる強みもない。前期のように、売れ筋を外せば一年で利益が3割動く。
B2Bには別の強みがある。生産の調達網と、多くのブランドの在庫・物流を任される信頼だ。一度任された取引先は乗り換えにくい。ただし受託は単価が低く、利益率は小売より薄い。
資本効率は並だ。過去10年のROE(自己資本に対する利益)の中央値は11%ほどで、資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。コロナ禍の2021年3月期は赤字になった。
経営の規律には強弱の両面がある。ナルミヤの完全子会社化は、すでに支配している会社を株式交換で取り込むだけで、無理がない。一方、不振が見えた3年目に計画を直さなかった判断は、大きな減点だ。社長が役員賞与をゼロにしたのは筋が通っている。
財務は軽くない。純有利子負債は自己資本の7割近くあり、店舗の賃借はIFRSの形で負債に載っている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の服の需要は、静かに細っている。小売の市場規模は約8.5兆円(2024年)で、コロナ前の9割ほどだ。人口は減り、一人あたりの服代も長く落ちてきた。ここ数年は値上げで金額が戻ったが、点数は増えていない。
売り方は二極に分かれる。ユニクロとしまむらは、低価格と規模で客を集める。ネット通販は市場の約2割を占め、店を持たない企業にも客が流れる。百貨店向けのブランドを持つオンワードやTSIなど、同じ系統の会社は、店を減らして立て直す途中にある。ワールドの婦人服はこの系統に近く、構造的に追い風がない。
逆風だけではない。服を自分で作れないブランドや新興のネット企業は増えており、企画・生産・在庫管理を請け負う裏方の需要は伸びる余地がある。中古衣料の市場も育っている。ワールドが両方を持つのは、この変化に合わせた動きだ。
筆者は、10年で国内の服の実質的な量が1割弱減ると見る。値段は物価並みに上がる。この環境で売上を伸ばせるのは、他社から客を奪う会社か、買収で規模を足す会社に限られる。
収益の面では、在庫の持ち方が差を分ける。見込みで作って売れ残れば、値引きで利益が消える。注文を受けてから作る仕組みや、中古の循環は、この無駄を減らす。ワールドの前期の不振も、売れ残りの処分が主因だった。
資本政策と M&A
株主への還元は厚くなった。配当は純利益の4割に加え、自己資本の5%を下限とする累進方針で、今期は連続の増配を計画する。2025年10月にはナルミヤを株式交換で完全子会社にし、ライトオンもグループに入れた。
買収は続く。会社は、投資後3年でROICが15%を超える案件に絞ると言う。ROICは、投じたお金に対する稼ぎの率だ。目標は2029年2月期までに11〜12%で、半期の実績は9%程度だ。純資産は962億円から1,200億円へ積み上げ、シングルAの格付けをめざす。
筆者が重く見るのは、借金の水準と買収の癖だ。借入は約775億円で、ネットD/Eは会社目標より高い。借り換えで金利は上がる。その状態で、ライトオンのような赤字企業の再建を続けるなら、買収で稼ぐより先に利息が重くなる。
買収される側の目も残る。同社は一度非上場化を経験し、2018年に再上場した。今の時価総額は小さく、事業が組み替えやすい。公開買付けの可能性は低くないが、確かな根拠はない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
前期の不振は、ブランド運営の問題であって、事業そのものの問題ではない。会社は原因を認め、役員賞与をゼロにし、不振ブランドの統廃合に動いた。直近の決算でも、新規連結のライトオンとワールドスタイルレーベルズは計画を上回り、上期は全利益段階で計画を達成した。
本当の変化は、稼ぎの重心がB2Bに移っていることだ。エムシーファッションを買ったことで、請負と販売代行が利益の3分の1を超えた。ここは景気に左右されにくく、取引先の入れ替えも起きにくい。ブランドを自前で作れない企業が増えるほど、需要は伸びる。
資本の面でも変わった。自己資本の5%を下限とする累進配当を決め、ROICを基準に買収を絞り、純資産を厚くしてシングルAをめざす。ROEはすでに13%台で、資本コストを上回る。買収は規律を守れば、投じたお金より大きな稼ぎを生む。
売上3,300億円が既存事業だけで届き、M&Aで5,000億円が射程に入る。10年の構想は1兆円だ。そこに近づけば、今の時価総額は小さすぎる。
慎重な見方
国内の服の需要は、人口とともに細る。ワールドの主力は、百貨店とショッピングセンターに頼る中価格帯のブランドで、ユニクロやしまむらのような規模も、世界に通じるブランドもない。ここの利益は、値引きがかさむたびに削られる。
前期の不振は一過性ではない。会社自身が、計画の2年目から下振れしていたのに修正しなかったと認めた。管理の甘さは構造の問題だ。不振の中身が小さなブランド一つで済まず、「壊滅的」と書かれたのは、全体が弱っている証拠だと見るべきだ。
買収は薄氷だ。赤字続きのライトオンの再建はまだ途中で、黒字は見えていない。投資後3年で15%超という基準は、半期の実績9%とは遠い。借入は775億円あり、金利が上がる中で借金を増やして買収を続ければ、利息が稼ぎを食う。
B2Bの利益は利益の3分の1にとどまる。三菱商事ファッションの効果は一巡し、残りは大口の取引先に頼る。そこが離れれば、安定した稼ぎは消える。
今の時価総額は、ここまでの転換が成功する前提に近い。
どちらに重みを置いたか
事業の中身では、慎重な見方がやや強い。国内の服の需要が細る事実は動かず、前期に計画を直せなかった管理の弱さも軽くない。強気の見方が正しいのは、B2Bに稼ぎが移りつつある点と、配当・ROICの規律が改まった点だ。ただ、そこで増える利益は、小売の細りを埋める程度にとどまると見る。
このため中立の確率は3割台にとどめ、残りは悲観側に厚く置いた。楽観とやや楽観の合計は3割、やや悲観と悲観の合計は4割弱だ。借金が重く、金利が上がる局面で、買収に頼る成長は下振れの幅が大きい。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 2,152 円1,641 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 792 円604 億円)。 今の値に割り戻すと 1,451 円1,107 億円、今との差 +0.6%、 期待の年率 +7.4%(資本コスト 8.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,245 円3,238 億円 | 1,154 円880 億円 | +274.4% | +14.1% | 432 円329 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,265 円2,491 億円 | 996 円760 億円 | +195.5% | +11.4% | 937 円715 億円 |
| 中立 | 34% | 2,453 円1,871 億円 | 839 円640 億円 | +128.3% | +8.6% | 1,119 円854 億円 |
| やや悲観 | 24% | 835 円637 億円 | 682 円520 億円 | +5.2% | +0.5% | 364 円278 億円 |
| 悲観 | 12% | 497 円379 億円 | 262 円200 億円 | −47.4% | −6.2% | 91 円69 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,152 円1,641 億円 | 792 円604 億円 | +104.1% | +7.4% | 2,944 円2,245 億円 |
今の株価時価総額 1,442 円1,100 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 裏方の事業が伸び、買収も当たる 利益 258 億円 · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 4,245 円3,238 億円
B2Bが育つ。ブランドを自前で作れない企業からの受託と販売代行が広がり、エムシーファッションの調達網が他社の在庫・物流まで束ねる。B2Bの売上は今の1.8倍の1,400億円台になる。B2Cでは、不振の婦人服を絞り、ナルミヤとRAGTAGが東南アジアで根を張る。ライトオンも黒字になり、買収を通じて規模を足す。ROICの基準を守った買収が当たり、売上は5,000億円に迫る。国内の服の量は緩やかに減るが、値上げが通り、利益率は過去最高の7%台を超えて8%近くまで上がる。借入は返済が進み、格付けはシングルAに届く。配当は累進で、純資産は2,000億円を超える。ワールドが「第3極」として、世界的な専門店チェーンとも大手流通とも違う場所に立つ10年になる。
- B2C事業(ブランド・デジタル):数量 82,500(国内アパレル小売市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 3.9%(市場の規模に対するワールドの売上の比(シェア × 物価の倍率。10年の物価の倍率は1.34))→ 売上 3,245 億円・営業利益 260 億円。市場 8.25 万億円(実質)× シェア 2.85%(ライトオン通年・買収)× 物価 1.38、利益率 8%
- B2B事業(プラットフォーム):数量 82,500(国内アパレル小売市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 1.7%(市場の規模に対する受託・代行の取扱高の比(シェア × 物価の倍率))→ 売上 1,423 億円・営業利益 135 億円。取扱シェア 1.25%(今の 1.4 倍)× 物価 1.38、利益率 9.5%
倍率:ROE 12.8%(事業の純利益÷自己資本)。k 8.75%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC=k+残る割合 1/2×(ROE−k)=10.9%、長期の成長率 g 4.0% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=12.7 倍。B2B の比重が高まり利益の質は改善するが、小売の循環が残るので上限の 9.5 割の 12.55 倍に置いた。
確率:不振ブランドの整理、ライトオンの黒字化、受託の拡大、買収の成功が10年のうちに重なる必要がある。実現すれば強いが、国内市場が細る中で全部が当たる確度は低い。
やや楽観 22% B2Bが下支えし、小売は持ちこたえる 利益 206 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,265 円2,491 億円
会社計画の線に近い10年になる。B2Bはエムシーファッションの販売代行と人材サービスで伸び、売上は1,300億円近くになる。B2Cは不振ブランドの統廃合が進み、ライトオンも黒字に乗る。国内の服の量は1割ほど減るが、値上げが物価並みに通り、売上は今の1.4倍ほどになる。利益率は7%台前半まで上がる。買収は小粒の案件にとどまり、ROICの基準を外さない。配当は累進で、借入は少しずつ減る。ブランドの力は目立って強まらないが、前期のような計画の外れは避けられる。会社の規律が戻ることで、利益は物価の伸びを上回る。
- B2C事業(ブランド・デジタル):数量 81,000(国内アパレル小売市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 3.7%(市場の規模に対するワールドの売上の比(シェア × 物価の倍率。10年の物価の倍率は1.34))→ 売上 2,974 億円・営業利益 214 億円。市場 8.1 万億円(実質)× シェア 2.70% × 物価 1.36、利益率 7.2%
- B2B事業(プラットフォーム):数量 81,000(国内アパレル小売市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 1.6%(市場の規模に対する受託・代行の取扱高の比(シェア × 物価の倍率))→ 売上 1,267 億円・営業利益 111 億円。取扱シェア 1.15% × 物価 1.36、利益率 8.8%
倍率:事業の純利益 206 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.09 倍、時価総額 2,490 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画(2029年2月期に既存で売上3,300億円)の延長に近い。受託の拡大と不振ブランドの整理が進み、小売は縮まず物価分だけ伸びる想定。
中立 34% 国内の縮小を物価の値上げで埋める 利益 162 億円 · PER 11.6 倍 · 株価時価総額 2,453 円1,871 億円
国内の服の量は10年で1割弱減るが、値上げで金額は物価並みに伸びる。ワールドは不振ブランドを整理し、ライトオンは通年で連結に入って黒字化する。B2Cの売上は2,700億円まで増えるが、その大半は物価の分だ。利益率は6%台に戻り、前期の4%台を回復する程度にとどまる。B2Bは調達網と販売代行を足して1,150億円ほどになるが、受託の単価が薄く、利益率は8%前後で止まる。前期のような計画の外れを避けるため、会社は目標を現実的な線に引き直すが、10年を通じて目立った成長はない。買収はROIC基準を満たす小粒の案件が数件。金利上昇の分、利息の負担が増え、純利益は営業利益の伸びより小さくなる。10年後も同じ会社が、ほぼ同じ規模で続く。
- B2C事業(ブランド・デジタル):数量 79,000(国内アパレル小売市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 3.4%(市場の規模に対するワールドの売上の比(シェア × 物価の倍率。10年の物価の倍率は1.34))→ 売上 2,700 億円・営業利益 167 億円。市場 7.9 万億円(実質・今の 0.93 倍)× シェア 2.55% × 物価 1.34、利益率 6.2%
- B2B事業(プラットフォーム):数量 79,000(国内アパレル小売市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 1.5%(市場の規模に対する受託・代行の取扱高の比(シェア × 物価の倍率))→ 売上 1,150 億円・営業利益 92 億円。取扱シェア 1.09% × 物価 1.34、利益率 8%
倍率:ROE 9.1%(事業の純利益÷自己資本)。k 8.75%。ROE が k とほぼ等しいので RONIC≒k となり、長期の成長率 g 3.0% を入れても正当化 PER は 1÷k=11.55 倍に収まる(成長しても追加の投資が稼ぎを生まない)。国内の服が縮む事業なので g は物価分の 3% にとどめ、上限どおりの 11.55 倍に置いた。
確率:国内の服の量が1割弱減り、値上げと店の整理で売上は物価並みに伸びる。裏方の事業は伸びるが、小売の細りと相殺される、強気と慎重の議論の落としどころ。
やや悲観 24% ブランド不振が続き、買収が重しになる 利益 70 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 835 円637 億円
不振が長引く。ワールド生まれの婦人服は、ユニクロやしまむらと百貨店・ネット専業の間で居場所をなくし、店の閉鎖が続く。ライトオンは黒字化が遅れ、再建に追加の資金を食う。国内の服の量は1割強減り、値上げは物価に届かない。B2Cの売上は2,300億円弱にとどまり、利益率は3%台に沈む。B2Bはエムシーファッションの大口取引が減り、利益率が6%に落ちる。借入の金利は新しい水準に切り替わり、利息が稼ぎを削る。それでも配当は累進の方針で維持され、手元の資金が細る。会社は存続し、事業も回るが、資本コストを稼げない普通の会社に戻る。
- B2C事業(ブランド・デジタル):数量 76,500(国内アパレル小売市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 3.0%(市場の規模に対するワールドの売上の比(シェア × 物価の倍率。10年の物価の倍率は1.34))→ 売上 2,287 億円・営業利益 80 億円。市場 7.65 万億円(実質)× シェア 2.30% × 物価 1.30、利益率 3.5%
- B2B事業(プラットフォーム):数量 76,500(国内アパレル小売市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 1.2%(市場の規模に対する受託・代行の取扱高の比(シェア × 物価の倍率))→ 売上 915 億円・営業利益 55 億円。取扱シェア 0.92%(今並み)× 物価 1.30、利益率 6%
倍率:ROE 4.9%が k 8.75% を下回るので、ためた利益は額面未満の価値。稼ぐ力(純利益÷k)から、正当化 PER の上限に届かない 8.0 倍に置いた。
確率:前期に計画を直せなかった管理の弱さ、国内市場の縮小、借入775億円の金利上昇が同時に効く。慎重な見方が事業の中身で一歩強いと判断し、中立より少し薄い確率を置いた。
悲観 12% ブランドが陳腐化し、買収が裏目に出る 利益 −35 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 497 円379 億円
小売の客が離れ、買収も裏目に出る。ワールド生まれの婦人服は百貨店の縮小と若い世代のネット離れで売上が3割減る。ライトオンの再建は失敗し、赤字が続いて減損が出る。国内の服の量は1割半減り、値下げ競争で価格は物価に追いつかない。B2Cは赤字になるが、店の賃借料は固定費として残る。B2Bはエムシーファッションの顧客が国内の請負先に流れ、利益率は3%まで落ちる。借入は金利が上がって利息が重くなり、減損で自己資本が減る。会社は買収の失敗を整理するために事業を売り、配当を縮めて還元は大きく絞る。それでも続ける配当は、手元の資金と資産の売却で払う。再編や公開買付けの対象になるが、買い手は事業の価値しか払わない。
- B2C事業(ブランド・デジタル):数量 72,000(国内アパレル小売市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 2.2%(市場の規模に対するワールドの売上の比(シェア × 物価の倍率。10年の物価の倍率は1.34))→ 売上 1,555 億円・営業利益 −16 億円。市場 7.2 万億円(実質)× シェア 1.80% × 物価 1.20、利益率 −1%(賃借料は固定費として残る)
- B2B事業(プラットフォーム):数量 72,000(国内アパレル小売市場(億円・今の値段で測った実質))× 価格 0.9%(市場の規模に対する受託・代行の取扱高の比(シェア × 物価の倍率))→ 売上 648 億円・営業利益 19 億円。取扱シェア 0.75% × 物価 1.20、利益率 3%
倍率:利益がなく、稼ぐ力から値が付かない。今の自己資本 947 億円に 0.4 倍を掛けた。ブランド・調達網・店舗網の事業としての値と、借入を差し引いた残りの兼ね合いで、帳簿の 4 割の水準とみた(市場の値付けからは置いていない)。
確率:ブランドの陳腐化とライトオンの再建失敗、借金の重さが同時に来る複合の筋書き。小売は一度客が離れると戻りにくく、起きれば深いので、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
B2C事業(ブランド・デジタル)
ワールド生まれの婦人服、ナルミヤの子ども服、ライトオン、RAGTAGなど、個人客に売る事業。
| 数量国内アパレル小売市場(億円・今の値段で測った実質) | 価格市場の規模に対するワールドの売上の比(シェア × 物価の倍率。10年の物価の倍率は1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 85,000 | 2.4% | 2,058 | 102 |
| 10 年後 中立 | 79,000 | 3.4% | 2,700 | 167 |
取り方:国内アパレル小売の市場 8.5 兆円(矢野経済・2024年)に対し、ブランド事業 1,939 億円とデジタル事業 119 億円(決算短信のセグメント外部売上)の合計 2,058 億円がシェア 2.42%。セグメント利益はブランド事業 88.5 億円にデジタルの黒字を足して 102 億円と推定(事業利益ベース。会社の B2C・B2B の新区分の公表値は確認できていないので推定)。数量は実質の市場、物価は価格の欄に入れた。ライトオンは前期は一部の期間しか連結に入っていない。
B2B事業(プラットフォーム)
エムシーファッションの受託生産(OEM・ODM)、他社ブランドの販売代行、サプライチェーン、サービス。
| 数量国内アパレル小売市場(億円・今の値段で測った実質) | 価格市場の規模に対する受託・代行の取扱高の比(シェア × 物価の倍率) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 85,000 | 0.9% | 780 | 58 |
| 10 年後 中立 | 79,000 | 1.5% | 1,150 | 92 |
取り方:プラットフォーム事業の売上 780 億円(決算短信のセグメント外部売上)を、国内アパレル市場 8.5 兆円に対する取扱の比率 0.918% で表した推定。受託生産は輸出向けも含み、市場規模との対応は粗い。利益は会社が「B2B が利益の 3 分の 1 を超えた」と述べたことから 58 億円(全体 160 億円の約 36%)と推定した。
リスクと懸念
主力のアパレルが戻らない
前期は会社自身が「壊滅的な不振」と認めた。計画の2年目から下振れていたのに直さなかった。不振ブランドの統廃合が遅れれば、値引きと在庫処分で利益が削られ続け、B2Bの伸びを食う。
国内の服の需要が細る
人口が減り、一人あたりの服代も長く落ちてきた。ユニクロとしまむらが低価格で客を集め、ネット通販も伸びる中、中価格帯のブランドが居場所を失う圧力は強い。10年では実質の量が1割ほど減るとみる。
買収の失敗
ライトオンは赤字続きの再建途中で、買収後3年で15%超というROICの基準にはまだ届かない。買収が当たらなければ、借金だけが残る。会社は5,000億円まで買収で伸ばす構想だが、規律が続くかは見通せない。
金利の上昇と借入
借入は約775億円で、借り換えのたびに新しい金利になる。ネットD/Eは会社の目標より高い。金利が上がれば、営業利益の伸びを超えて利息が増え、純利益が削られる。
賃借料という固定の約束
店を借りて営むため、賃借料は売上が落ちても減らない。IFRSではすでに負債に載っているが、悲観の局面では固定費として利益を圧迫する。リースの残高は年度末の値を確認できていない。
B2Bの大口依存と一巡
エムシーファッションの連結効果は一巡した。受託は大口取引先の入れ替わりで売上が動き、単価も薄い。ここが利益の3分の1を支えるので、離反があると影響が大きい。
今後の分かれ目
- 不振ブランドの統廃合が進み、B2Cの利益率が6%台に戻ったら
- 中立の筋書きの利益率が固まり、やや楽観の確率を上げてよい。
- ライトオンが通期で黒字化したら
- 買収の規律が機能した証拠になり、楽観側に重みを移す。赤字が続くなら、やや悲観に寄せる。
- B2Bの利益が全体の4割を超えて安定したら
- 稼ぎの重心の移行が本物になる。利益の質が上がり、倍率の上限に近づける。
- 借り換えの金利が想定より高く、利息が営業利益の1割を超えたら
- 純利益の伸びが鈍り、やや悲観に寄せる。買収の続行も見直しの対象になる。
- 5,000億円をめざす大型の買収が発表されたら
- 借金と引き換えに規模を買う動きなので、ROICの見通しを確認し、失敗すれば悲観の確率を上げる。
- 他社が非上場化や再編の提案を出したら
- 公開買付けの価格は事業の価値に近い水準になるが、安全域の議論は変わらない。
見ておくもの
- B2C事業のセグメント利益率と、不振ブランドの統廃合の進み具合
- ライトオンの通期の黒字化と、既存店売上の推移
- B2B事業の利益が全体に占める割合と、大口取引先の動向
- ネットD/Eと、借入の借り換え金利、ROICの実績(目標 11〜12%)
倍率と資本コストの決め方
数量は国内アパレル小売の実質の市場(今の値段で測った 8.5 兆円)、価格はシェア × 物価の倍率として、物価 3% を価格の側だけに入れた。10 年の中立は、実質の市場 0.93 倍に値上げ 1.34 倍とシェアの小幅な改善で売上 3,850 億円とした。倍率は資本コスト 8.75%(基本 7.5%に、循環 0.25・値決め力 0.25・借金 0.5・寿命 0.5)と、国内の服が縮む事業に合わせた g 3% から、利益ベースの正当化 PER で決めた。10 年中立の ROE は 9.1% で k とほぼ等しく、PER は 1÷k に収まる。今の PER は 10 倍弱だが、そこへ寄せていない。悲観は稼ぐ力が出ないので、今の自己資本に 0.4 倍とした。IFRS の会社でリースはすでに BS に載るので、事業利益は賃借料でなく減価償却と利息の形。10 年後の数字も同じ形でそろえた。新リース会計基準(日本基準)の影響は受けない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12→12.55 倍・やや楽観 PER 11.5→12.09 倍・中立 PER 11.1→11.55 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。