結論
日邦産業は、電子部品の素材と治具を売る商社機能と、自動車・医療向けのプラスチック成形部品を作るメーカー機能を併せ持つ、名古屋の中堅企業である。売上は約460億円、営業利益は約21億円。利益率は5%に届かない。
筆者の結論は「割高」だ。理由は単純で、稼ぐ力に比べて値段が高い。自己資本利益率は8%前後と、筆者の置く資本コストの8.5%を下回っている。資本コストに届かない会社に、高い倍率を付けることはできない。
追い風はある。ウエハ研磨キャリアなど生成AI向けの半導体関連が伸び、直近の四半期は電子部材の営業利益が4割増えた。会社は新しい中期経営計画で、営業利益を3年累計65億円、配当性向を50%とした。シンガポールの運用会社が約16%の大株主として建設的な対話を求めていることも、株主に優しい方向に働く。
それでも10年を見ると、全社の費用が利益を食う。本社費などの調整額は1年で3割増え、16億円を超えた。内燃機関の部品は電動化で細る。営業キャッシュフローは前期に7億円まで落ちた。
確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額の半分前後にとどまる。AI向けが想定以上に育ち、利益率が10%近くに乗る筋書きでだけ、今の値段を超える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を長く持ちたいとは思いにくい。
まず事業の質。自動車と電子材料の部品は、顧客の工程に入り込む強みがあるが、価格を決める力は弱い。利益率が5%を超えた年はほとんどなく、本社費が営業利益の相当部分を食う。
次に資本の使い方。営業キャッシュフローが7億円に落ちた年に、特別配当まで出して配当性向が約97%に達した。株主には嬉しいが、投資の余力を削る選択でもある。新しい中計が定める配当性向50%は、利益の半分を再投資に回すことになる。その再投資が資本コストを上回る収益を生むかが、価値を決める。会社は自己資本利益率12%以上を掲げるが、これまでの実績は8%前後だ。
最後に安全域。今の値段は、利益の20倍を超えている。生成AI向けの伸びがこの先も続くことを織り込んだ値段であり、少しでも外れると守りがない。
筆者の見立ては、事業の稼ぐ力を超える値段が付いている、というものだ。ただし、AI向けが予想以上に育ち、資本効率が改善する可能性は残る。その筋書きには、1割の確率を置いた。
何で稼ぐ会社か
稼ぎは3つの事業から成る。最も大きいのがエレクトロニクスで、売上の約46%を占める。電子部品や住宅設備のメーカー向けに、高機能の材料、加工部品、治具を売る。ウエハ研磨キャリア(半導体の板を磨く時に支える部品)や、回路基板に使う感光性のドライフィルムが中心だ。
次がモビリティで約38%。自動車メーカーと部品メーカー向けに、樹脂成形品を核とした部品を作る。ブレーキ関連部品、排気関連部品、コイル部品などがあり、最大の顧客であるデンソーが売上の約17%を占める。
3つ目が医療・精密機器で約16%。医療機器とプリンターのメーカー向けに、樹脂成形品を作る。直近は医療向けの採算が良く、営業利益が前期の約1.8倍に増えた。
この会社は、モノを仕入れて売る機能と、自分で作る機能の両方を持つ。会社は長期目標で、メーカー事業の比率を今の約半分から3分の2に上げるとする。メーカーの方が付加価値は高いが、設備と人が要る。
工場は国内の稲沢のほか、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピンにある。連結子会社は13社で、従業員は約2,800人だ。全社の費用(調整額)が16億円と、3事業の営業利益の合計の4割強にのぼる点は、見逃せない。
優良さと弱いところ
優良さは中位だ。強みと弱みがはっきりしている。
強みは、顧客との長い取引だ。自動車の部品は一度採用されれば何年も続き、デンソーとの関係は安定している。電子材料も、治具や加工部品は顧客の工程に合わせた作り込みが要り、切り替えにくい。
弱みは3つある。第1に、利益率が低い。営業利益率は過去12年の最高でも約5%で、ほとんどの年は1〜3%台だった。第2に、価格を自分で決めにくい。自動車部品は年ごとの値下げ要請があり、電子材料は仕入先の値付けに左右される。第3に、資本の効率が悪い。自己資本利益率の過去10年の中央値は6.8%で、資本コストに届かない年が多い。
さらに、前期の営業キャッシュフローは7億円で、設備投資の20億円を下回った。それでも配当性向が約97%(特別配当を含む)だったのは、手元の現金を取り崩したことを意味する。
経営は、前の中期計画で営業利益の目標を3年連続で達成した点を評価できる。ただし自己資本利益率は目標の10%に届かなかった。数字の約束を守る姿勢はあるが、資本効率はまだ課題である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の顧客は、3つの異なる産業にまたがる。
半導体では、生成AIの普及でデータセンター向けの投資が続く。ウエハ研磨に使う治具や、回路基板のドライフィルムの需要は、半導体の生産量と連動する。世界の半導体市場は、実質で10年に1.3〜1.5倍になるとみるのが妥当だが、スマートフォン向けの部材は低迷が続いている。タイのドライフィルム事業は採算に届いていない。
自動車は、日本の生産が横ばいで、世界の生産も実質で緩やかにしか伸びない。内燃機関の部品は電動化で長期に縮み、ブレーキなど車種を問わない部品が残る。会社はインドと北米での現地調達も検討するとしている。
医療機器は、高齢化と新興国の普及で世界の市場が実質年3%前後で伸びる。プリンター向けは市場が縮むので、医療に軸足を移せるかが鍵だ。会社も、医療機器部品の受託から完成品の受託製造へ移る狙いを持つ。
競争は、同じ規模の成形メーカーや、材料商社との間で起きる。材料商社は仕入先の直販に押され、成形メーカーは顧客の内製化と値下げ要請に挟まれる。人手不足による人件費の上昇も、薄い利益率に直撃する。
資本政策と M&A
株主還元は、ここ数年で姿を変えた。前の中期計画では配当性向を約45〜49%に置き、最終年度は特別配当を加えて約97%まで上げた。新しい中期経営計画2028では、配当性向を50%目途とし、増配を続ける方針である。余った資金が出れば株主に還元するとも明記した。
成長投資は40億円ほどの枠を持つ。使い道は、ウエハ研磨キャリアの増産、ドライフィルムの加工拡大、医療の完成品への展開、バイオプラスチックのLIMEXなど環境関連だ。M&Aの金額は示されていない。運転資本は50億円前後に圧縮する計画で、これが実現すれば現金が浮く。
大株主には、シンガポールの運用会社アクシウム・キャピタルが入る。2025年7月に16%超を持ち、純投資として建設的な対話を行うとし、事業ポートフォリオの見直しやガバナンスの改善で重要提案をする可能性にも触れている。直近の報告では保有を減らした記載もあり、最新の比率は確かめられていない。
会社が不採算事業を縮小・撤退するとしたのは、この圧力への応答とも読める。TOBや再編の可能性は排除できない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
生成AIの投資はまだ序盤で、半導体の生産量が増えるほど、ウエハ研磨キャリアやドライフィルムなどの消耗材・治具の需要は増える。直近の四半期は、電子部材の売上が前年より約26%増え、営業利益は約40%増えた。会社は研磨キャリアの生産能力を増やし、スリット加工を広げる。自社企画の治具も作る。この部門の営業利益率は、すでに8%を超えている。
株主還元が根本的に変わった点も大きい。前の中期計画の最終年に特別配当まで出し、新計画でも配当性向50%を明記した。16%を超える大株主が、事業の見直しとガバナンスを求めている。不採算を切り、資本の効率を上げる圧力が働けば、自己資本利益率は12%に近づく。
医療向けは受託から完成品の受託製造に移れば、利益率はさらに高まる。10年後に電子材料が全社の稼ぎの半分以上を占め、営業利益率が10%近くに乗るなら、倍率も上がる。TOBで事業が評価される可能性も無視できない。
慎重な見方
稼ぐ力に比べて、今の値段は高すぎる。自己資本利益率は8%前後で、資本コストを下回る。利益率は5%に届かず、営業利益の3割近くを本社費などの調整額が食っている。この費用は1年で3割増えた。
成長の中心の電子材料にも不安がある。スマートフォン向けは低迷し、タイのドライフィルム事業は採算に届かず、稲沢工場の新製品は歩留まりの改善が遅れた。AI向けの追い風は、半導体の投資サイクルの一部にすぎない。サイクルが反転すれば、研磨キャリアなどの需要は大きく落ちる。
自動車は、最大の顧客であるデンソーに売上の約17%を依存し、年ごとの値下げ要請を受ける。内燃機関の部品は電動化で縮む。ブレーキなど新しい部品の立ち上げが、その穴を埋められる保証はない。
配当性向50%は、利益の半分を再投資に回すことを意味するが、営業キャッシュフローは前期に7億円まで落ち、設備投資の20億円を賄えなかった。特別配当は一度きりで、次は出ない。TOBの可能性にも期待はできるが、価格は事業の稼ぐ力で決まる。
どちらに重みを置いたか
事業の勢いでは強気の見方に分があり、資本効率と値段では慎重な見方に分がある。AI向けの伸びと株主圧力は本物だが、10年の利益率の上限を決めるのは、自動車と医療を含む全体の構造だ。確率は、中立に最も厚く置き、悪いほうの筋書きに3割を寄せた。AI向けが大きく育つ筋書きには、2割強を割いた。それでも中立の価値が今の値段の6割程度にとどまるため、結論は割高になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,513 円319 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 986 円89 億円)。 今の値に割り戻すと 2,298 円209 億円、今との差 −38.2%、 期待の年率 +1.9%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 8,888 円806 億円 | 1,929 円175 億円 | +190.8% | +11.3% | 1,082 円98 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,165 円469 億円 | 1,290 円117 億円 | +73.5% | +5.7% | 1,420 円129 億円 |
| 中立 | 38% | 3,126 円284 億円 | 992 円90 億円 | +10.7% | +1.0% | 1,565 円142 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,171 円106 億円 | 562 円51 億円 | −53.4% | −7.4% | 347 円31 億円 |
| 悲観 | 10% | 661 円60 億円 | 198 円18 億円 | −76.9% | −13.6% | 86 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,513 円319 億円 | 986 円89 億円 | +20.9% | +1.9% | 4,499 円408 億円 |
今の株価時価総額 3,720 円338 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% AI向けが育ち、利益率が1割に乗る 利益 49 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 8,888 円806 億円
世界の半導体市場が実質で1.6倍に伸び、日邦のウエハ研磨キャリア・ドライフィルム・自社企画の治具が広く採用される。電子材料は取り込み率を1割強伸ばし、営業利益率が11%に達する。モビリティはブレーキなどの量産が立ち上がり、内燃機関の縮小を埋めて利益率が7.5%に乗る。医療は完成品の受託製造に移り、利益率が11%になる。大株主の圧力で不採算が整理され、費用の伸びも抑えられる。配当性向は55%に上がり、積み上がった資本が高い収益を生み続ける。会社は『AI時代の素材・治具のメーカー』として評価され、自己資本利益率が15%を超える10年になる。
- エレクトロニクス:数量 11,200(世界の半導体・電子部品市場の規模(億ドル・実質。今の値段で測る))× 価格 0.05(市場1億ドルあたりの当社売上(億円)=取り込み率×150円×物価の倍率)→ 売上 532 億円・営業利益 59 億円。市場11,200億ドル(今の1.6倍)× 取り込み率の1.15倍、営業利益率11%
- モビリティ:数量 9,270(世界の自動車生産台数(万台))× 価格 0.03(1万台の生産あたりの当社売上(億円)=1台あたり搭載額×物価の倍率)→ 売上 268 億円・営業利益 20 億円。世界生産9,270万台(今の1.03倍)、1台あたり売上の1.10倍(物価1.34倍込み)、営業利益率7.5%
- 医療・精密機器:数量 8,400(世界の医療機器市場の規模(億ドル・実質))× 価格 0.02(市場1億ドルあたりの当社売上(億円)=取り込み率×150円×物価の倍率)→ 売上 137 億円・営業利益 15 億円。市場8,400億ドル(今の1.4倍)、取り込み率1.0倍、営業利益率11%
倍率:事業の純利益 49 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍。全体の PER 16.39 倍、時価総額 806 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:生成AI投資の持続、医療の完成品化、大株主の圧力による資本効率の改善が重なる必要がある。実績は8%前後の低利益率で、全部が当たる確率は高くない。
やや楽観 22% AI向けが堅調に伸び、中計の目標に近づく 利益 33 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 5,165 円469 億円
半導体市場が実質で1.45倍に伸び、日邦の電子材料はシェアを保つ。営業利益率は9.5%まで上がる。モビリティは電動化で内燃機関部品が縮むが、ブレーキなどの新しい部品が埋め、利益率は7%を保つ。医療は完成品化が進み、利益率が10%になる。配当性向は50%で、増配が続く。全社の費用は物価並みに増える。会社は中計の目標(営業利益23億円)を超えて伸び、営業利益は今の2倍強になる。自己資本利益率は11%程度で、資本コストをわずかに上回る。
10年の後半は、AI向けの伸びが落ち着いても、取り込んだ顧客との取引が残る。大株主との対話で不採算の整理が進み、費用の伸びは物価並みに収まる。会社は『堅実に稼ぐ素材・部品メーカー』として評価され、資本コストをわずかに上回る水準で安定する。
- エレクトロニクス:数量 10,150(世界の半導体・電子部品市場の規模(億ドル・実質。今の値段で測る))× 価格 0.04(市場1億ドルあたりの当社売上(億円)=取り込み率×150円×物価の倍率)→ 売上 419 億円・営業利益 40 億円。市場10,150億ドル(今の1.45倍)× 取り込み率1.0倍、営業利益率9.5%
- モビリティ:数量 9,000(世界の自動車生産台数(万台))× 価格 0.03(1万台の生産あたりの当社売上(億円)=1台あたり搭載額×物価の倍率)→ 売上 237 億円・営業利益 17 億円。世界生産9,000万台(今と同じ)、1台あたり売上は物価並みの1.0倍、営業利益率7%
- 医療・精密機器:数量 8,100(世界の医療機器市場の規模(億ドル・実質))× 価格 0.01(市場1億ドルあたりの当社売上(億円)=取り込み率×150円×物価の倍率)→ 売上 119 億円・営業利益 12 億円。市場8,100億ドル(今の1.35倍)、取り込み率0.9倍、営業利益率10%
倍率:事業の純利益 32 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.42 倍、時価総額 469 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中計2028(最終年の営業利益23億円)を上回る伸びが10年続く筋書き。直近の電子材料の伸びを見れば、あり得る範囲。
中立 38% 電子材料は伸びるが、全社の利益率は4%台にとどまる 利益 22 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 3,126 円284 億円
半導体市場は実質で1.35倍になるが、スマートフォン向けの低迷と競合で、日邦の取り込み率は1割弱下がる。電子材料の利益率は8.4%で、今とほぼ同じ。モビリティは世界の生産が横ばいで、内燃機関部品の縮小をブレーキ部品が部分的に埋め、1台あたり売上は物価ほど伸びない。医療は受託から完成品へ移る試みが一部で成功するにとどまる。全社の費用は物価並みに増え、営業利益は今の5割増ほどになる。配当性向は50%を守り、営業利益率は4.6%程度、自己資本利益率は8%前後で、資本コストに届かない。
大株主は動くが、決定的な変化は起きない。TOBは起きず、会社は独立を保ったまま、増配を続ける。株主にとっては、配当の利回りを受け取りながら、資本コスト並みのリターンを得る10年になる。突出した成功も、深い失敗もない。
- エレクトロニクス:数量 9,450(世界の半導体・電子部品市場の規模(億ドル・実質。今の値段で測る))× 価格 0.04(市場1億ドルあたりの当社売上(億円)=取り込み率×150円×物価の倍率)→ 売上 359 億円・営業利益 30 億円。市場9,450億ドル(今の1.35倍)× 取り込み率0.92倍、営業利益率8.4%
- モビリティ:数量 8,730(世界の自動車生産台数(万台))× 価格 0.02(1万台の生産あたりの当社売上(億円)=1台あたり搭載額×物価の倍率)→ 売上 211 億円・営業利益 13 億円。世界生産8,730万台(今の0.97倍)、1台あたり売上の0.92倍(物価1.34倍込み)、営業利益率6.2%
- 医療・精密機器:数量 7,800(世界の医療機器市場の規模(億ドル・実質))× 価格 0.01(市場1億ドルあたりの当社売上(億円)=取り込み率×150円×物価の倍率)→ 売上 99 億円・営業利益 9 億円。市場7,800億ドル(今の1.3倍)、取り込み率0.78倍、営業利益率9%
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.76 倍、時価総額 277 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向けの追い風と、自動車・医療の伸び悩み、費用の増加が相殺される中心の筋書き。過去12年の最高利益率(約5%)を超えない前提。
やや悲観 20% 電子材料の競争と自動車の縮小で利益が痩せる 利益 11 億円 · PER 8.2 倍 · 株価時価総額 1,171 円106 億円
AI向けの半導体投資が落ち着き、日邦の電子材料は競合に取り込み率を1割強奪われる。利益率は7%に下がる。モビリティは電動化で内燃機関の部品が縮み、新部品の立ち上げも遅れて、1台あたり売上が物価に届かない。デンソーの値下げ要請も続く。医療もプリンター向けの縮小が響く。全社の費用は物価並みに増えるため、営業利益は今より小さくなる。配当性向は40%に落ち、新規投資も控える。『過去の1〜3%の利益率の会社』に戻る10年である。
株主還元は中計の約束より小さくなり、大株主は不満を強める。事業の分離や売却の議論が起き、会社は防戦に追われる。それでも黒字は保ち、配当も出し続けるが、投資家の関心は薄れる。
- エレクトロニクス:数量 8,400(世界の半導体・電子部品市場の規模(億ドル・実質。今の値段で測る))× 価格 0.04(市場1億ドルあたりの当社売上(億円)=取り込み率×150円×物価の倍率)→ 売上 305 億円・営業利益 21 億円。市場8,400億ドル(今の1.2倍)× 取り込み率0.88倍、営業利益率7%
- モビリティ:数量 8,370(世界の自動車生産台数(万台))× 価格 0.02(1万台の生産あたりの当社売上(億円)=1台あたり搭載額×物価の倍率)→ 売上 187 億円・営業利益 9 億円。世界生産8,370万台(今の0.93倍)、1台あたり売上の0.85倍、営業利益率5%
- 医療・精密機器:数量 7,200(世界の医療機器市場の規模(億ドル・実質))× 価格 0.01(市場1億ドルあたりの当社売上(億円)=取り込み率×150円×物価の倍率)→ 売上 88 億円・営業利益 6 億円。市場7,200億ドル(今の1.2倍)、取り込み率0.75倍、営業利益率7%
倍率:事業の自己資本利益率は4.3%で k 8% 以下のため、稼ぐ力から見て上限の約7割の8.2倍に置いた。
確率:AI向けの反動、仕入先の直販化、デンソーなど顧客の値下げ要請が重なる筋書き。過去の利益率(1〜3%台)に戻る範囲で、起こりやすい。
悲観 10% 構造的に負け、赤字の続く部品メーカーに戻る 利益 −2 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 661 円60 億円
半導体投資の反動と、顧客の内製化や仕入先の直販化で、電子材料の取り込み率は3割下がる。利益率は4.5%に落ちる。モビリティは電動化で内燃機関の部品がほぼ消え、1台あたり売上が3分の2に落ちる。医療も新規顧客を得られない。全社の費用は物価で増えるが、不採算事業の撤退で少し減らす。営業利益は赤字に沈み、配当は性向30%に絞られる。事業ポートフォリオの縮小や、大株主との対立が続く。それでも、資産は残り、純現金と投資有価証券がこの会社の最後の支えになる。
この筋書きの10年後、会社は規模を縮めた部品メーカーになっている。再編やTOBの対象になる可能性もあるが、買い手が付く価格は資産の価値に近い水準にとどまる。
- エレクトロニクス:数量 7,350(世界の半導体・電子部品市場の規模(億ドル・実質。今の値段で測る))× 価格 0.03(市場1億ドルあたりの当社売上(億円)=取り込み率×150円×物価の倍率)→ 売上 212 億円・営業利益 10 億円。市場7,350億ドル(今の1.05倍)× 取り込み率0.7倍、営業利益率4.5%
- モビリティ:数量 7,920(世界の自動車生産台数(万台))× 価格 0.02(1万台の生産あたりの当社売上(億円)=1台あたり搭載額×物価の倍率)→ 売上 136 億円・営業利益 3 億円。世界生産7,920万台(今の0.88倍)、1台あたり売上の0.65倍、営業利益率2.5%
- 医療・精密機器:数量 6,600(世界の医療機器市場の規模(億ドル・実質))× 価格 0.01(市場1億ドルあたりの当社売上(億円)=取り込み率×150円×物価の倍率)→ 売上 59 億円・営業利益 2 億円。市場6,600億ドル(今の1.1倍)、取り込み率0.55倍、営業利益率4%
倍率:純利益が赤字のため、稼ぐ力ではなく残る資産で測る。今の自己資本180億円に対して0.36倍。減損は入れず、自己資本は積み上げた額(223億円)より今の180億円を基準にした。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.333 倍・時価総額 60 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:AI向けの反動、顧客の内製化、内燃機関部品の消滅が同時に起きる筋書き。過去にも2016年、2019年に赤字の期があった。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
エレクトロニクス
電子部品・住宅設備メーカー向けの高機能材料(ドライフィルムなど)、加工部品、ウエハ研磨キャリアなどの治具。
| 数量世界の半導体・電子部品市場の規模(億ドル・実質。今の値段で測る) | 価格市場1億ドルあたりの当社売上(億円)=取り込み率×150円×物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7,000 | 0.03 | 216 | 18 |
| 10 年後 中立 | 9,450 | 0.04 | 359 | 30 |
取り方:世界の半導体市場を約7,000億ドル(実質)と置き、当社のセグメント売上215.6億円を割って、市場1億ドルあたり0.0308億円(取り込み率は0.02%強)とした。開示はなく筆者の推定。市場は実質で10年に1.3〜1.5倍、物価3%は価格に入れた。
モビリティ
自動車メーカー・部品メーカー向けの樹脂成形品を核とした自動車部品(ブレーキ・排気・コイル)。
| 数量世界の自動車生産台数(万台) | 価格1万台の生産あたりの当社売上(億円)=1台あたり搭載額×物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 9,000 | 0.02 | 177 | 12 |
| 10 年後 中立 | 8,730 | 0.02 | 211 | 13 |
取り方:世界の自動車生産を約9,000万台と置き、セグメント売上176.8億円を割って1万台あたり0.01964億円とした。推定。台数は実質で横ばい前後、電動化で内燃機関部品が減る分は価格(搭載額)の側に入れた。
医療・精密機器
医療機器・プリンターメーカー向けの樹脂成形品。医療の完成品受託へ移ることを狙う。
| 数量世界の医療機器市場の規模(億ドル・実質) | 価格市場1億ドルあたりの当社売上(億円)=取り込み率×150円×物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6,000 | 0.01 | 73 | 7 |
| 10 年後 中立 | 7,800 | 0.01 | 99 | 9 |
取り方:世界の医療機器市場を約6,000億ドル(実質)と置き、セグメント売上73.0億円を割った推定。プリンター向けも含むため、医療市場の伸びより遅れる前提を取り込み率の低下で表した。
リスクと懸念
生成AI向けの需要の反転
ウエハ研磨キャリアやドライフィルムの需要は、半導体メーカーの設備投資と生産量に連動する。投資が一巡すれば、いま伸びている電子材料の売上が落ちる。すでに値段が先行しているので、業績が崩れる前に株価が動く可能性が高い。
本社費など全社費用の増加
調整額は前期に3割増えて16億円を超えた。人件費の上昇と研究開発・DXへの投資が続けば、営業利益の伸びを食い続ける。売上が伸びなくても費用は減らない。
自動車の電動化と顧客の集中
デンソーに売上の約17%を依存する。内燃機関の部品は電動化で縮み、ブレーキなどの新部品が代わりになる保証はない。顧客の値下げ要請も年ごとに続く。
新しい工場・事業の立ち上がり遅れ
タイのドライフィルム事業は採算に届かず、稲沢工場の新製品は歩留まりの改善が遅れた。成長投資の40億円が収益を生まなければ、のれんでなく設備の減損が起きる。
キャッシュフローの弱さ
前期の営業キャッシュフローは7億円で、設備投資の20億円を下回った。特別配当を出した年のあとで、配当性向50%を続けながら投資を賄えるかが問われる。
大株主の動き
16%超を持った運用会社は、建設的対話を求める一方、保有を減らした報告もある。提案が強まれば経営の自由度が下がり、売却されれば需給が悪化する。逆にTOBなら、値段は上振れうる。
今後の分かれ目
- 電子材料の売上が前年比2割以上の増加を2年以上続け、営業利益率が10%を超えたら
- 楽観・やや楽観の筋書きに確率を移す。ただし費用の増加が利益を食っていないかも確かめる。
- 営業キャッシュフローが設備投資を下回る状態が2年続いたら
- 配当性向50%の維持が難しいとみて、還元の額を下方修正する。
- デンソーなど主要顧客の発注が内燃機関から他へ移り、モビリティの売上が減り続けたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 大株主が事業の分離やTOBなどの具体的な提案を出したら
- 株主価値の再評価につながるため、楽観側の確率を少し上げる。ただし価格は稼ぐ力で決まる。
- 全社費用(調整額)が売上の3.5%を超えて増え続けたら
- 営業利益の下方修正が続くとみて、中立の利益率を引き下げる。
- タイのドライフィルムや稲沢工場の新製品が黒字化したら
- 電子材料と医療の利益率を上方修正する。
見ておくもの
- 電子材料の四半期の売上・営業利益と、ウエハ研磨キャリアの増産計画の進捗
- 営業キャッシュフローと設備投資、運転資本の圧縮(50億円前後)の進み方
- 全社費用(調整額)の水準と、不採算事業の縮小・撤退の開示
- アクシウム・キャピタルの保有比率の変更報告と、会社への提案
倍率と資本コストの決め方
3事業を、世界の半導体市場・自動車生産台数・医療機器市場(いずれも実質)に当社の取り込み率を掛けた数量と、取り込み率×物価の価格で10年を積んだ。取り込み率は開示がなく、売上÷市場の逆算で置いた推定である。倍率は資本コスト8%(基本7.5%+品質1.0%)と g 4% の式から決め、今のPERや過去の倍率には寄せていない。中立は自己資本利益率8.0%が k を下回り、倍率の上限は 1÷k=11.8倍となる。会社の新しい中計(営業利益23億円)を上回る水準を中立に置いたが、全社費用は物価並みに増やした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.26→16.39 倍・やや楽観 PER 11.1→14.42 倍・中立 PER 9.41→12.76 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。