結論
KPPグループは、紙の卸で国内首位の国際紙パルプ商事を中核に、欧州の Antalis、豪州の Spicers を持つ専門商社である。筆者の結論は、今の株価はやや割高で、安全域は薄いというものだ。
問題は稼ぐ力の低さにある。売上は 6,500 億円あるが、営業利益は 100 億円で、利益率は 1.6% しかない。主力の印刷・事務用紙は先進国で毎年縮み、供給過剰で値段も崩れた。2026 年 3 月期は営業利益が 4 分の 1 減った。
会社は、紙で稼いだお金を包装資材と大判印刷の素材に回し、利益の質を変えようとしている。この 2 つは売上の 4 分の 1 だが、粗利益では 4 割を超える。2022 年以降の買収は約 30 件。2026 年は、欧州の紙卸 Papyrus(売上約 380 億円)の取得も決めた。縮む市場で同業を束ねる手であり、規模は武器になる。ただし資金は借金で、利払いが利益を削る。
目標は 2030 年に売上 1 兆円、営業利益 300 億円。今の 3 倍である。筆者は、買収が当たっても ROE は資本コストをわずかに上回る程度までと見る。
中立の筋書きでは、10 年後の営業利益は 200 億円ほどだ。物価で名目の利益は膨らむが、配当を足しても資本コストには届かない。総合の本質価値は、今の時価総額を 1 割半ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安く見えるが、持ち続けたい会社」ではない。紙の卸は 10 年先も使われ続けるが、需要が縮む事業であり、利益が年々細る道を走っている。
オーナー利益、つまり再投資を引いて株主に残る利益は小さい。営業利益 100 億円から利払いと税を引くと、純利益は 50 億円台になる。そこから倉庫・車両の更新とリース返済が出ていく。この資金で買収を重ね、配当と自己株買いも払う。借金が増えない保証はない。
会社の目標は、2030 年の営業利益 300 億円だ。届けば ROE は 2 桁になる。ただ、第 3 次中計は営業利益 135 億円で、目標の 145 億円に届かなかった。買収の積み上げに頼る計画は、買収が割高なら価値を壊す。
安全域は薄い。PBR は 0.8 倍で安く見えるが、ROE が資本コストの 9% に届かない会社の正しい PBR は 1 倍未満である。筆者が評価するのは、規模を使って縮む市場の同業を束ねる姿勢と、株主還元の強化だ。この 2 つが利益に結び付けば、見方は変わる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、製紙会社から紙や資材を仕入れ、印刷会社・出版社・メーカーへ売る商社機能だ。2026 年 3 月期の売上は 6,504 億円。開示は地域別で、北東アジアが 2,851 億円、欧州・米州が 2,990 億円、アジアパシフィックが 646 億円である。
商品で見ると、紙が 5 割弱、板紙が 1 割、パッケージング(包装資材)が 2 割弱だ。残りがビジュアルコミュニケーション、古紙・パルプ、化成品である(2025 年 3 月期の構成)。粗利益ではパッケージングが 3 割、ビジュアルが 1 割強を占める。売上より、儲けの構成の方が成長分野に寄っている。
拠点は 3 つある。日本の国際紙パルプ商事は紙卸の国内最大手で、王子連合通商(1973 年)や日亜(1999 年)と合併して大きくなった。欧州は、2020 年に子会社にした Antalis が柱で、欧州最大とされる紙商社だ。豪州とアジアは Spicers が担う。2022 年 10 月に持株会社へ移り、事業会社に権限を渡した。
稼ぎ方は薄利多売である。粗利益は売上の 2 割弱だが、人件費と物流費が重く、営業利益率は 2% 前後にとどまる。2023 年 3 月期の 3% 台が最高だ。倉庫や車両の費用が大きく、売上が落ちても固定費は減りにくい。
海外の売上は半分を超える。為替は 1 ドル 150 円で置くので、円安の追い風は織り込まない。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは浅い。紙の卸は、製紙会社と顧客の間で在庫・物流・与信を引き受ける仕事で、ほかの商社でもできる。利益率が 1% 台なのは、値段を自分で決められない証拠だ。
強みは規模である。国内は首位、欧州では Antalis が最大級で、仕入れの量と物流網は同業に勝つ。縮む市場では、店じまいする同業の顧客と倉庫を引き受ける会社が生き残る。この点に、筆者は一定の価値を認める。
弱みは 3 つある。1 つ目は、主力の印刷・事務用紙の需要が毎年縮むこと。2 つ目は、粗利益の 5 割近くをこの紙に頼ること。3 つ目は借金だ。純有利子負債は 841 億円で自己資本の 0.94 倍、営業利益は支払利息の 2.5 倍しかない。
資本の使い方は強気だ。2022 年以降に約 30 件を買い、その多くは包装資材とビジュアル分野のボルトオン、つまり既存事業に足す小型の買収である。2025 年 3 月期の ROIC(投下資本に対する利益)は 4.8% で、会社が見積もる資本コスト 3.2% を上回る。だが筆者の置く資本コストは 9% だ。買収を重ねるほど、のれんと借金が積み上がる。
経営の目は、株主へ向きつつある。配当性向 30% 目安に、純資産配当率 3% の下限を付けた。自己株買いの枠も 2026 年 7 月に 72 億円へ広げた。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
向かい風が強い。紙の需要は先進国で縮み続けている。日本製紙連合会によると、2025 年の国内の紙・板紙は 4 年連続で減り、紙は 4.3% 減、印刷・情報用紙などのグラフィック用紙は 6.3% 減だった。新聞用紙は 9% を超える減少である。
欧州も同じ構図だ。広告・出版・事務のデジタル化で、印刷用紙の卸は取引先の統合と倒産で数が減る。伸びているのは包装用の紙・板紙で、ネット通販と脱プラスチックが支える。家庭紙も伸びるが、これは卸でなく製紙メーカーが取る。
構造の変化は 3 つある。1 つ目は同業の統合だ。需要が縮むと、卸は規模がなければ物流網を保てない。KPP が欧州で Papyrus の事業を買うのは、この流れの先頭に立つ手である。2 つ目は中抜きだ。大口の顧客が製紙会社と直接取引し、卸の口銭は削られる。3 つ目は物流費と人件費の上昇で、小さな卸は採算を保てない。
競合は、国内では日本紙パルプ商事が並ぶ 2 強で、その下に中堅の紙卸が連なる。欧州では Papyrus や Igepa が同じ市場を争う。紙の卸の市場は、国内で約 1.5 兆円と筆者は見積もる。
景気の位置は谷に近い。2026 年 3 月期は需要低迷と供給過剰で紙の値段が下がった。反動で値段が戻る年もありうるが、数量の長い下り坂は変わらない。
資本政策と M&A
資本政策は、成長投資と株主還元の両立を掲げる。第 4 次中計(2026 年 3 月期から 3 年)は、営業 CF 約 400 億円に、政策保有株の売却約 50 億円と借金を足して買収へ回す。自己資本比率は 20〜25% の範囲に収める方針だ。
還元は配当性向 30% 目安で、純資産配当率 3% を下限とする。自己株買いは、政策保有株の売却資金の一部と余った資金で行うのが原則だった。ところが 2026 年 6 月に枠を決め、7 月に 600 万株・72 億円へ倍にした。時価総額の 1 割にあたる額で、本気度は高い。ただし借金で買収を進めながら、自己株も買う形である。
買い手としての実績は、数が多く、中身は読みにくい。2019〜20 年の Spicers と Antalis で海外の足場を築いた。だが Antalis は英国でリストラが続き、2026 年 3 月期の減益の一因になった。2026 年は、ドイツの包装資材 Speidel と Papyrus の事業を買った。
株主では、筆頭の王子 HD が持ち分を 2025 年 3 月の 17.3% から 2026 年 7 月の 14.2% まで下げている。売りが続く間は株価の重しになる。買われる側としては、時価総額が小さく、紙の卸という事業の成長も乏しいので、大型の TOB は起こりにくいと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
縮む市場では、最後に残る会社が勝つ。紙の卸は同業の統合が必ず進む。KPP は国内首位、欧州でも最大級で、2026 年に Papyrus の事業を買って物流網を厚くする。同業が脱落するほど、仕入れの量と物流の密度で口銭を守れる。
利益の質は変わり始めている。包装資材とビジュアル分野は、売上の 4 分の 1 で粗利益の 4 割を稼ぐ。ネット通販と脱プラスチックで包装の需要は伸び続け、買収の余地も広い。2022 年以降に約 30 件を買い、小さな会社を自社の顧客網に載せる手が回っている。
足元の数字は底に近い。2026 年 3 月期は価格下落と英国のリストラ費用が重なった。費用が消え、買収が通期で寄与すれば、2028 年 3 月期の営業利益 200 億円は届く。2023 年 3 月期には 204 億円を出した実績もある。
資本の扱いも変わった。配当性向 30% に純資産配当率 3% の下限を付け、自己株買いの枠を 72 億円まで広げた。政策保有株は 3 割縮める。売上 1 兆円、営業利益 300 億円の目標は、買収と物価の上昇が重なれば背伸びではない。
王子 HD の売りも、需給の重しにすぎない。持ち分が下がり切れば、重しは消える。
慎重な見方
紙の卸は、構造的に縮む事業だ。国内の印刷・情報用紙は 6% 台の減少が続き、欧州も同じ道を歩む。買収は縮む市場の数量を買っているだけで、買った分が毎年細る。Papyrus も、印刷・事務用紙が中心である。
利益率は低いまま変わらない。営業利益率は 1.6% で、物価の分だけ売上が増えても、人件費と物流費も同じ率で増える。2023 年 3 月期の 204 億円は、紙の値上がりと運賃高が重なった例外で、通常の実力ではない。
借金が重い。純有利子負債は自己資本の 0.94 倍、営業利益は支払利息の 2.5 倍だ。金利が 3.5% に上がると、借り換えのたびに利益が削られる。そこへ買収の借金が重なる。会社は 3 年で営業 CF を約 400 億円(リース返済を引いたあと)と見込むが、自己株買いと買収で使い切る額だ。
買収の実績は評価が割れる。Antalis は英国のリストラが続き、パッケージングはドイツ・イタリアの需要低迷で 2026 年 3 月期は前年並みだった。のれんの減損の火種は残る。第 3 次中計は、売上は届いたが、営業利益と ROE は目標に届かなかった。
2030 年の営業利益 300 億円は今の 3 倍で、買収の積み上げが前提になる。買収が割高なら、価値は積み上がらず、壊れる。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、同業の統合で規模が効くという点で正しい。慎重な見方は、数量が縮む事業に買収で数量を足しても、毎年削れていくという点で正しい。利益率の低さと借金の重さは、慎重な見方を支える。
勝つのは慎重な見方だが、差は大きくない。中立の筋書きを中心に置き、悲観を 14% とした。縮む事業と重い借金の組み合わせでは、10 年で優良さを失う道が現実にあるからだ。楽観は 7% にとどめた。買収が割安で当たり続ける必要があるためである。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,763 円1,068 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 576 円349 億円)。 今の値に割り戻すと 1,119 円678 億円、今との差 −2.4%、 期待の年率 +7.4%(資本コスト 9.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,165 円2,523 億円 | 825 円500 億円 | +335.5% | +15.8% | 349 円212 億円 |
| やや楽観 | 19% | 2,811 円1,703 億円 | 693 円420 億円 | +205.7% | +11.8% | 666 円403 億円 |
| 中立 | 34% | 2,010 円1,218 億円 | 644 円390 億円 | +131.6% | +8.8% | 902 円547 億円 |
| やや悲観 | 26% | 777 円471 億円 | 512 円310 億円 | +12.5% | +1.2% | 335 円203 億円 |
| 悲観 | 14% | 369 円224 億円 | 248 円150 億円 | −46.2% | −6.0% | 86 円52 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,763 円1,068 億円 | 576 円349 億円 | +104.1% | +7.4% | 2,339 円1,417 億円 |
今の株価時価総額 1,146 円694 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 同業を束ね、包装と大判印刷が稼ぎ頭になる 利益 197 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 4,165 円2,523 億円
10 年後、KPP は縮む紙の市場で最後に残る卸の一つになり、利益の中心は包装資材と大判印刷に移っている。欧州で Papyrus に続く統合が進み、紙の取扱量(実質)は今とほぼ同じ水準を保つ。口銭は規模で守られ、営業利益率は 1.5% に上がる。包装資材は買収の積み上げと通販の伸びで、取扱量が 2 倍近く、売上は 2.6 倍になり、利益率は 3.6% に達する。ビジュアルは大判印刷の素材で伸び、5% の利益率を稼ぐ。営業利益は 350 億円ほどで、会社の 2030 年目標を超える。借金は増えるが、利益が追いつき、利払いは重荷にならない。ROE は 12% で資本コストを上回り、株主還元も厚くなる。
- 紙(印刷・事務用紙):数量 2,970(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 3,980 億円・営業利益 60 億円。市場 3.38 兆円 × シェア 8.8%、営業利益率 1.5%
- 包装・板紙:数量 3,744(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 5,017 億円・営業利益 181 億円。市場 14.40 兆円 × シェア 2.6%、営業利益率 3.6%
- ビジュアルコミュニケーション:数量 1,008(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,351 億円・営業利益 68 億円。市場 4.20 兆円 × シェア 2.4%、営業利益率 5.0%
- 古紙・パルプ・化成品・不動産:数量 1,344(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,801 億円・営業利益 47 億円。市場 8.40 兆円 × シェア 1.6%、営業利益率 2.6%
倍率:事業の純利益 197 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.0% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.4 倍。全体の PER 12.37 倍、時価総額 2,437 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:紙の縮小が緩み、買収がいずれも割安で当たる道。会社の 2030 年目標(営業利益 300 億円)を超える。成り立つ条件が多いので 1 割未満にとどめる。
やや楽観 19% 包装が育ち、紙の縮小も緩やかに収まる 利益 140 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 2,811 円1,703 億円
包装資材とビジュアルの買収が計画どおりに進み、紙の縮小は統合で下支えされる筋書きだ。紙の取扱量(実質)は今の 9 割弱で、口銭は 1.2% まで戻る。包装資材は欧州の需要が回復し、取扱量が 1.7 倍に増える。ビジュアルも通販向けの拡大で伸びる。営業利益は 260 億円ほどで、2028 年 3 月期の目標 200 億円に、物価分の伸びが乗る。借金は買収で増えるが、返済も進み、自己資本比率は 20〜25% の範囲に収まる。ROE は 10% 近くまで上がり、資本コストをわずかに超える。ただ、事業の薄利は残り、評価は普通の卸のままだ。
- 紙(印刷・事務用紙):数量 2,646(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 3,546 億円・営業利益 43 億円。市場 3.15 兆円 × シェア 8.4%、営業利益率 1.2%
- 包装・板紙:数量 3,312(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 4,438 億円・営業利益 138 億円。市場 13.80 兆円 × シェア 2.4%、営業利益率 3.1%
- ビジュアルコミュニケーション:数量 845(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,133 億円・営業利益 52 億円。市場 4.03 兆円 × シェア 2.1%、営業利益率 4.6%
- 古紙・パルプ・化成品・不動産:数量 1,224(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,640 億円・営業利益 38 億円。市場 8.16 兆円 × シェア 1.5%、営業利益率 2.3%
倍率:事業の純利益 140 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.8% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.5 倍。全体の PER 11.5 倍、時価総額 1,610 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:包装・ビジュアルの買収が計画どおり進み、紙は縮むが統合で下支えされる。会社の 2028 年 3 月期の目標(営業利益 200 億円)を超えて伸びる道。起こりやすさは中立に次ぐ。
中立 34% 紙は縮み、包装が支え、ROE は 8% 弱にとどまる 利益 101 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 2,010 円1,218 億円
紙の市場は毎年 4% 縮み、KPP は買収で取扱量を支えても、実質で 8 割弱に細る。口銭は物価分の値上げで守り、利益率は 1% 前後だ。包装資材は市場が年 1% 伸び、買収でシェアも上がって、取扱量は 1.5 倍になる。ビジュアルは 1.4 倍、古紙・パルプ・化成品は 1.1 倍である。営業利益は 200 億円で、2028 年 3 月期の目標を物価の分だけ上回る水準にとどまる。借金は買収で増え、営業外の費用が営業利益の 3 分の 1 を食う。ROE は 8% 弱で資本コストに届かず、普通の卸として評価される。売上は 9,700 億円ほどで、会社が 2030 年に掲げる 1 兆円に、10 年かけても届かない。
- 紙(印刷・事務用紙):数量 2,412(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 3,232 億円・営業利益 32 億円。市場 3.02 兆円 × シェア 8.0%、営業利益率 1.0%
- 包装・板紙:数量 2,904(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 3,891 億円・営業利益 105 億円。市場 13.20 兆円 × シェア 2.2%、営業利益率 2.7%
- ビジュアルコミュニケーション:数量 770(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,032 億円・営業利益 43 億円。市場 3.85 兆円 × シェア 2.0%、営業利益率 4.2%
- 古紙・パルプ・化成品・不動産:数量 1,120(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,501 億円・営業利益 32 億円。市場 8.00 兆円 × シェア 1.4%、営業利益率 2.1%
倍率:事業の純利益 101 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 1,122 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:紙の市場は年 4% 縮み、包装・ビジュアルは実質で年 1% 伸びる。買収は一定の成果を上げるが、大きくは上振れない。最も起こりやすい道。
やや悲観 26% 買収の数量が細り、口銭も削られる 利益 50 億円 · PER 6.9 倍 · 株価時価総額 777 円471 億円
紙の縮小が速まり、買収で足した数量も毎年細る。欧州は印刷用紙の需要が年 5% 近く減り、Papyrus の事業は統合の費用ばかり重くなる。大口の顧客は製紙会社との直接取引を広げ、口銭は 0.7% に削られる。包装資材は価格競争で利益率が 2% 台に下がる。営業利益は 130 億円で、物価の分は食われ、実質では今を下回る。利払いが重く、純利益は 50 億円にとどまる。配当は純資産配当率の下限を守るのがやっとで、自己株買いは止まる。ROE は 4% 台で、資本コストを大きく下回る。会社は買収で成長を取り戻そうとするが、価格が高く実りにくい。
- 紙(印刷・事務用紙):数量 2,093(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 2,804 億円・営業利益 20 億円。市場 2.79 兆円 × シェア 7.5%、営業利益率 0.7%
- 包装・板紙:数量 2,371(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 3,177 億円・営業利益 70 億円。市場 12.48 兆円 × シェア 1.9%、営業利益率 2.2%
- ビジュアルコミュニケーション:数量 607(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 813 億円・営業利益 27 億円。市場 3.57 兆円 × シェア 1.7%、営業利益率 3.3%
- 古紙・パルプ・化成品・不動産:数量 988(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,324 億円・営業利益 23 億円。市場 7.60 兆円 × シェア 1.3%、営業利益率 1.7%
倍率:事業の純利益 50 億円・事業 ROE 4.5% は k 9.0% 以下なので、上限は 1÷k=11.1 倍。ROE が資本コストを大きく下回り、利益も薄いため、上限の約 6 割強の 6.9 倍に置いた。
確率:紙の縮小が年 5% 近くに速まり、欧州の買収は統合の費用ばかり重くなる。借金の利払いで利益が伸びない。慎重な見方の主張が通る道で、中立に次いで厚く置く。
悲観 14% 紙の縮小と中抜きで、優良な卸ではなくなる 利益 −90 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 369 円224 億円
紙の需要が年 6% で縮み、大口顧客の直接取引が広がって、紙の卸は赤字に落ちる。欧州の買収で得た紙の事業は、のれんの減損を出す。包装資材も、欧州の需要の弱さと価格競争で利益率が 1% 台に下がる。営業利益は 55 億円まで細り、支払う利息を下回る。会社は減損と不採算の整理に追われ、買収を止める。配当は純資産配当率の下限を守れず、減額される。それでも赤字の間は、政策保有株や不動産の売却で払う。自己資本は 570 億円ほどに減り、自己資本比率は 20% の下限を割り込む。もはや縮む市場の整理役にすぎず、評価は稼ぐ力ではなく、売れる資産の価値で決まる。
- 紙(印刷・事務用紙):数量 1,485(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,990 億円・営業利益 −4 億円。市場 2.48 兆円 × シェア 6.0%、営業利益率 -0.2%
- 包装・板紙:数量 1,882(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 2,521 億円・営業利益 40 億円。市場 11.76 兆円 × シェア 1.6%、営業利益率 1.6%
- ビジュアルコミュニケーション:数量 466(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 624 億円・営業利益 16 億円。市場 3.33 兆円 × シェア 1.4%、営業利益率 2.5%
- 古紙・パルプ・化成品・不動産:数量 748(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,002 億円・営業利益 12 億円。市場 6.80 兆円 × シェア 1.1%、営業利益率 1.2%
倍率:稼ぐ力(純利益が赤字)では値が付かないので、売れる資産の税後で置く。今の自己資本 894 億円に 0.25 を掛けた約 224 億円。政策保有株・不動産・倉庫・運転資本を売って借金を返した後に株主へ残る額の見立てである。営業利益が支払利息を下回る筋書き。
確率:印刷用紙の需要が年 6% で縮み、中抜きとのれんの減損が重なる。借金を抱えたまま利益が出ない会社になる。10 年は何が起きてもおかしくなく、借金の重さもあるので 1 割強を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
紙(印刷・事務用紙)
国内の国際紙パルプ商事、欧州の Antalis、豪州の Spicers が扱う印刷・情報用紙、事務用紙。祖業で、利益の半分近くを今も稼ぐ。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,050 | 100.0% | 3,050 | 14 |
| 10 年後 中立 | 2,412 | 134.0% | 3,232 | 32 |
取り方:推定。取扱高 3,050 億円を、対象市場 約 4.5 兆円(実質。国内の紙 約 1.5 兆円+欧州・豪州・アジアの紙卸 約 3.0 兆円)× シェア 6.8% に分けて置いた。開示は商品別の売上構成(2025/03 に紙 48.6%)だけで、2026/03 の区分は 2025/03 の構成と減収から推定。営業利益 14 億円は、価格下落と英国のリストラ費用を含む推定。市場は国内でグラフィック用紙が前年比 6% 減、欧州も縮む。
包装・板紙
産業用の包装資材(段ボール・フィルム・包材)と板紙の卸、加工。買収で伸ばしてきた第 2 の柱。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,910 | 100.0% | 1,910 | 50 |
| 10 年後 中立 | 2,904 | 134.0% | 3,891 | 105 |
取り方:推定。取扱高 1,910 億円(板紙 約 700 億円+パッケージング 約 1,210 億円)を、対象市場 約 12 兆円(実質。日欧豪アジアの包装資材・板紙の流通)× シェア 1.6% に分けて置いた。2025/03 のパッケージングは売上の 17.7% だが粗利益では 31.0%。営業利益 50 億円は、粗利益の構成から配分した推定。ドイツ・イタリアの需要低迷で足元は横ばい。 数量は実質の市場(1.1 倍)×シェアの上昇(買収の取り込み、1.6%→2.2%)で、名目の伸びではない。
ビジュアルコミュニケーション
屋外広告・看板・店舗装飾向けの大判印刷用の素材と機器。売上の 1 割弱だが、粗利益率が高い。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 560 | 100.0% | 560 | 24 |
| 10 年後 中立 | 770 | 134.0% | 1,032 | 43 |
取り方:推定。取扱高 560 億円を、対象市場 約 3.5 兆円(実質。大判印刷用メディア・インク・機器の流通)× シェア 1.6% に分けて置いた。2025/03 は売上の 7.7%・粗利益の 12.3%。2026/03 はハード販売が好調で増益。営業利益 24 億円は粗利益の構成から配分した推定。
古紙・パルプ・化成品・不動産
製紙原料の古紙・パルプ、化成品、リサイクル、不動産賃貸。パルプ・古紙は景気と市況で動く。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 984 | 100.0% | 984 | 20 |
| 10 年後 中立 | 1,120 | 134.0% | 1,501 | 32 |
取り方:推定。取扱高 984 億円(古紙・パルプ 約 500 億円、化成品ほか 約 480 億円。不動産賃貸 15 億円を含む)を、対象市場 約 8 兆円(実質)× シェア 1.2% に分けて置いた。営業利益 20 億円は、粗利益の構成と不動産賃貸のセグメント利益(約 6 億円)から配分した推定。
リスクと懸念
紙の需要の構造的な縮小
印刷・情報用紙は国内で年 6% 前後、新聞用紙は 9% を超えて減っている。売上の 5 割弱、粗利益の 5 割近くが紙で、減り続ければ全体の利益を直撃する。口銭を上げて補うのは難しい。包装など成長分野の育ちが遅れれば、買収で数量を足しても全体は細る。
借金と金利
純有利子負債は 841 億円で、自己資本の 0.94 倍。営業利益は支払利息の 2.5 倍しかない。借り換えのたびに金利が 3.5% 前後へ上がり、10 年で純利益が約 20 億円削られる。買収を借金で続ければ、自己資本比率の下限 20% に近づく。
買収の失敗とのれんの減損
2022 年以降の買収は約 30 件で、2026 年も 7 件に及ぶ。Antalis は英国のリストラが 2026 年 3 月期の減益の一因だった。Papyrus は印刷・事務用紙が中心で、統合が遅れれば費用ばかり重くなる。割高な買収が続けば、のれんの減損で自己資本を傷める。
大口顧客の中抜き
大口の印刷会社や小売が製紙会社との直接取引を広げれば、卸の口銭は削られる。デジタル化で取引先の数も減る。欧州は顧客の集約が進みやすく、口銭の圧力が強い。
王子 HD の持ち分売却
筆頭株主の王子 HD は、持ち分を 17.3%(2025 年 3 月)から 14.2%(2026 年 7 月)へ下げた。持ち分が下がり切るまで、需給の重しが残る。売却先が事業会社になれば、経営の独立性の見方も変わる。
物流費・人件費と固定費
倉庫・車両・人件費の上昇は、営業利益率が 1〜2% の卸には重い。2027 年 3 月期の第 1 四半期は、物流費などの増加で営業利益が 3.4% 減った。売上が落ちても固定費は減りにくく、リース債務の返済も 3 年で約 200 億円ある。
今後の分かれ目
- 包装・ビジュアルの営業利益率が 3〜4% を超え、数年続いたら
- 稼ぎの構成が、卸から加工・提案型に移った証拠になる。楽観・やや楽観の確率を上げてよい。
- 欧州の印刷用紙の需要が年 5% を超えて減り続けたら
- Papyrus の統合の効果が打ち消され、やや悲観の筋書きに近づく。買った数量が毎年細るためだ。
- Antalis のリストラが 2027 年度に終わり、営業利益が会社予想の 110 億円を上回ったら
- 2026 年 3 月期の減益は一過性とわかり、中立の見方を少し上へ直す。
- 大口顧客の直接取引が広がり、紙の口銭が 1% を割ったら
- 悲観の筋書き(構造的な負け)の確率を上げる材料になる。
- 自己株買いが枠の 72 億円を使い切り、さらに追加されたら
- 利益そのものは変わらず、借金で買っているなら価値は増えない。評価は動かさない。
- 王子 HD が持ち分を売り切り、大手の事業会社に株が渡ったら
- 経営の独立性と TOB の可能性を見直す。ただ、買い手の有無は確率に織り込まない。
見ておくもの
- 包装・ビジュアルの営業利益率と、買収した会社の利益への寄与
- Papyrus の統合の進み具合と、Antalis のリストラ費用の終わり
- 国内の紙・板紙の内需(日本製紙連合会の月次)と、欧州の印刷用紙の需要
- 純有利子負債と営業利益の比、自己資本比率(20% の下限)
- 自己株買いの実行額と、政策保有株の売却額、王子 HD の持ち分
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業 ROE と資本コスト 9.0% から利益ベースの正当化 PER を出して置いた。中立は ROE が k を下回るので、1÷k(11.1 倍)× ROE÷k(0.87)× 0.9 の 8.8 倍に置いた。今の PER 12 倍・PBR 0.8 倍には寄せていない。総合が割高に出るのは、利益が薄く ROE が資本コストに届かないためで、逆算はしていない。純現金ではなく純負債の会社なので、余った現金は立てていない。金利は営業外の費用に、10 年で約 21 億円の増加を入れた。数量は開示が金額だけなので「対象市場(実質)× シェア」で置き(そのため数量と売上の値が同じになる注意が出る)、商品別の営業利益は 2025/03 の地域別利益と粗利益の構成から配分した推定である。リースは今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえ、新リース会計基準(2028/03 期から)で数字の形が変わる点は考えに入れた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.8→12.37 倍・やや楽観 PER 10.6→11.5 倍・中立 PER 8.8→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。同じ領域の日本紙パルプ商事と同じ +1.5%。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。