結論
日本紙パルプ商事は、紙の卸売で国内の大手に数えられる商社だ。製紙会社から紙を仕入れ、印刷会社や出版社に届ける。いまは売上の過半を海外が占める。筆者の結論は、稼ぐ力に比べて今の株価は割高で、安全域がないというものだ。
最大の問題は、利益の質である。営業利益率は 1〜3% 台の薄利で、過去 10 年の ROE の中央値は 6.7% にとどまる。資本コストを下回る年が多く、ためた利益が株主に価値をもたらしてこなかった。2026 年 3 月期は営業利益が 108 億円、純利益は 47 億円まで落ちた。
足を引っ張ったのは海外だ。2024 年末にドイツで破綻した卸の事業を買い、フランスの紙卸も加えた。売上は一気に膨らんだが、ドイツでは仕入先と顧客の離反が想定以上に進み、海外卸売は経常赤字に転じた。のれんの減損も出た。
国内では紙の数量が毎年 3% ほど細る。段ボールと再生家庭紙を作る製紙加工が、いま利益の中心だ。ただ再生家庭紙の値上がりは、いつまでも続く保証はない。
会社は 2027 年 3 月期に純利益 80 億円への回復を見込む。実現しても ROE は 6% 台だ。10 年先まで丁寧に積み上げると、中立の筋書きは今の時価総額の半分に届かない。強気の筋書きでも、ようやく今の水準に並ぶ程度である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を持ち続けたいとは思いにくい。理由は 3 つある。
第 1 に、事業の先が細る。主力の紙は国内で毎年数%ずつ減る。次の柱として育てる海外の卸も、紙の需要が縮む国々で買った事業だ。縮む市場で規模を買っても、投じたお金あたりの稼ぎは増えない。
第 2 に、資本の使い方だ。株主が預けた自己資本に対して、稼ぐ力は資本コストに届いてこなかった。そのうえ、ドイツで失敗した買収は、経営の資本配分の目利きに疑問を残す。薄利の卸が借金で買収を重ねると、失敗の傷が深くなる。
第 3 に、安全域だ。時価総額は純利益の 30 倍、会社の来期予想でも 18 倍になる。稼ぐ力から導く価値の 2 倍を払っている。
良い面は 2 つ。製紙加工が、卸より高い利益率を稼いでいること。そして、売れる資産と株主還元の余地があることだ。資産を売って借金を減らし、自社株を買えば、1 株の価値は上がる。ただ、その実行はまだ見えない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、紙を右から左へ動かす口銭(手数料のような利ざや)だ。売上は 6 千億円を超えるが、営業利益は 100 億円前後しかない。数字の大きさのわりに、手元に残る額は小さい商売である。
事業は 5 つに分かれる。国内卸売は洋紙・板紙・加工紙を扱う本体で、売上は約 1,900 億円。海外卸売は売上が約 3,400 億円と最大になった。オセアニアの Ball & Doggett、英国、東南アジアに続き、2024 年にドイツとフランスへ広げた。サイン・ディスプレイ用素材や包装資材も扱う。
製紙加工は売上 500 億円ほどだが、経常利益は 70 億円を超える。再生家庭紙(トイレットペーパーなど)と段ボールを自社で作る。メーカー機能を持つため、卸より利益率が高い。環境原材料は古紙・パルプと木質バイオマス燃料、リサイクルを手がける。不動産賃貸は全国のビルや土地を貸し、安定した 15 億円ほどを稼ぐ。
利益の構成を見ると、国内卸売・製紙加工・不動産が土台で、海外は当面の足かせになっている。卸売の本業が稼ぐ力を、製紙加工が補っている姿だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、厚くない。紙卸の強みは、全国の販売網と物流、製紙メーカーとの長い取引にある。ただ、メーカーが直接売る動きや、同業の国際紙パルプ商事などとの値下げ競争があり、値段を自分で決める力は弱い。
資本効率は低い。過去 10 年の ROE の中央値は 6.7% で、資本コストを下回る年が多かった。2023 年 3 月期の ROE 21% は一過性の利益によるもので、実力ではない。営業利益率は 2〜3% 台の域を出ない。
財務は見た目より重い。純有利子負債は 768 億円あり、時価総額の半分を超える。営業利益に対する支払利息の余裕は 3 倍台だ。売掛金をつなぐための借入が中心だが、金利が上がれば利益を削る。
良い点もある。製紙加工の利益率は高く、政策保有株は純資産の 15.8% まで減った。保有する不動産には含み益が眠る。経営は還元を強めており、配当は連結配当性向 30% 以上と、自己資本に対する配当率 3% 以上の累進配当を掲げる。ただ、買収の目利きには疑問が残る。ドイツの案件で、一度破綻した会社の顧客離れを見誤った。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の紙市場は、2000 年をピークに縮んでいる。電子化で出版・広告・事務用の紙が減り、印刷用紙の数量は毎年 3% ほど落ちる。日本製紙は 2025 年に八代工場の新聞用紙を止めるなど、メーカー側も生産を絞っている。
板紙(段ボール原紙など)は堅調だ。通販の荷造りが支える。ただ板紙はメーカーと加工業者の直接取引が多く、卸が割り込める余地は小さい。決算でも、国内の紙の販売数量は前期比で 7.6% 減り、板紙はほぼ横ばいだった。
欧州でも事情は同じだ。雑誌やカタログ向けの紙は減り続ける。ドイツではグラフィック用紙の値上げがようやく進み始めたが、需要そのものが戻るわけではない。会社は包装資材やサイン・ディスプレイ用素材などの成長品目に軸足を移そうとしている。ただ、これらの品目の市場は紙に比べて小さく、利益が育つまでには時間がかかる。
紙卸の業界は、数量が減る中で再編が進む。生き残るのは、物流網の効率が高い会社と、紙以外の商材を持つ会社だ。同社は両方を目指すが、前者は同業と変わらず、後者はまだ利益になっていない。
資本政策と M&A
資本政策は、守りと攻めが同居している。守りは株主還元だ。2024〜25 年度に配当 72 億円と自社株買い 89 億円、合わせて 161 億円を払った。3,000 万株を消却し、さらに 55 億円を上限とする自社株買いを続けている。政策保有株の縮減も進む。
攻めは海外の M&A だ。中期計画の 3 年間で成長投資を最大 800 億円とし、2 年間で約 309 億円を使った。うち約 290 億円が海外卸売の買収に向かった。ドイツとフランスの案件は、買った価格に見合う利益をまだ生んでいない。
大株主には、名前が公表されていない個人が複数いるほか、王子ホールディングスが 7% 台、北越コーポレーションと中越パルプ工業が 2% 台で続く。製紙会社は政策投資の目的で持つ。安定株主は厚く、敵対的な買収は起こりにくい。一方で、大量保有報告の提出者に投資会社が名を連ねており、資本効率への圧力は強まりうる。
会社は経常利益 220 億円・ROE 8% 以上を掲げたが、最終年度の目標は未達の見通しだ。売れる資産(政策保有株、保有不動産)を自社株買いに回せるかが、これからの焦点になる。
2026年2月決議の自己株式取得のうち期末後の約29億円と、8月の新枠の約11億円(推定)の合計約40億円は実行済みで、株数に反映した。この分は10年の還元に入れていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
海外の傷は、一時的なものだ。ドイツ子会社は 2025 年後半から第 2 弾の大規模な構造改革に入り、グラフィック用紙の値上げも進み始めた。仕入先からの信用はほぼ戻った。会社は 2027 年 3 月期に営業利益 155 億円、純利益 80 億円への回復を見込んでいる。
海外は買収で規模が 6 割増えた。欧州の拠点が黒字になれば、海外卸売だけで 80 億円規模の経常利益がありうる。会社の中期計画は、まさにそれを狙っている。環境原材料も、マレーシアの新しい拠点が動き出し、バイオマス燃料の仕入れコストが下がり始めた。
資産の面でも余地は大きい。政策保有株は純資産の 15.8% まで下がり、さらに減らす。値上がりした保有不動産は売却を検討中だ。大量保有報告に投資会社の名前も出ており、売却益で自社株を買い、ROE を引き上げる動きが強まる可能性がある。製紙加工の利益率は 14% あり、再生家庭紙の値上げが定着すれば、卸の薄利を補い続ける。
慎重な見方
利益の土台が崩れている。国内の紙は数量が毎年 3% 細り、海外は買った事業が赤字になった。製紙加工の高い利益は、再生家庭紙の値上がりという一時の追い風に支えられた面が強い。紙の値段が戻れば、利益の中心が細る。
資本効率は 10 年前から変わらない。ROE の中央値は 6.7% で、資本コストを下回る。会社が掲げる 8% は、一度も達成していない水準だ。純利益 80 億円の予想でも ROE は 6% 台で、資本コストに届かない。
借金は純資産と同じ規模の 768 億円ある。金利が上がれば、利払いだけで年 10 億円以上の利益が消える。海外 M&A に最大 800 億円を使う計画も、薄利の卸が借金で規模を買う構図で、失敗の傷が深い。ドイツがその実例になった。
今の時価総額は、純利益の 30 倍にあたる。回復を織り込んでも、稼ぐ力から導く価値の 2 倍の値段だ。強気の主張が頼る資産売却も、会社はこれまで検討と言うだけで、金額も時期も示していない。実行されるまでは、価値として数えられない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強い。国内の紙の数量減は、すでに決算に出ている。海外の回復は会社の予想で、実績はまだない。強気の主張は、海外の回復と資産の売却という、まだ実行されていない前提に依存する。一方、国内の紙の数量減と ROE の低さは、すでに数字に出ている。確率は中立に 36% を置き、やや悲観と悲観を合わせて 36% とした。楽観は、会社の目標が実現した場合だけで 8% にとどめた。慎重な側の根拠のほうが、確かめられる事実に近いからだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,093 円1,196 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 411 円450 億円)。 今の値に割り戻すと 729 円798 億円、今との差 −45.1%、 期待の年率 +1.2%(資本コスト 9.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 1,906 円2,086 億円 | 786 円860 億円 | +102.6% | +7.3% | 215 円236 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,508 円1,650 億円 | 512 円560 億円 | +52.0% | +4.3% | 404 円442 億円 |
| 中立 | 36% | 1,203 円1,317 億円 | 420 円460 億円 | +22.2% | +2.0% | 585 円640 億円 |
| やや悲観 | 24% | 712 円779 億円 | 302 円330 億円 | −23.7% | −2.7% | 243 円266 億円 |
| 悲観 | 12% | 294 円322 億円 | 183 円200 億円 | −64.1% | −9.7% | 57 円63 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,093 円1,196 億円 | 411 円450 億円 | +13.2% | +1.2% | 1,504 円1,646 億円 |
今の株価時価総額 1,329 円1,454 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 海外が黒字に戻り、資産売却で ROE が 11% に 利益 150 億円 · PER 12.0 倍 · 株価時価総額 1,906 円2,086 億円
ドイツの構造改革が実り、海外卸売は計画どおり稼ぐ事業になる。サイン・ディスプレイ用素材や軟包装などの成長品目が育ち、利益率は 2% 台前半まで上がる。数量は 15% 伸びる。
国内は紙の数量減がゆるやかになる。同業との再編で物流を共有し、利益率は 3% 台に乗る。製紙加工は再生家庭紙の価格が高止まりし、段ボールも底を打つ。環境原材料はマレーシアの拠点が貢献する。
資本政策は大きく変わる。政策保有株と保有不動産を売り、その資金を自社株買いと増配に充てる。10 年で純利益の合計に近い額を株主に返し、自己資本は増えない。営業利益は約 290 億円、ROE は 11% 近くまで上がる。会社が掲げる経常利益 250 億円の目標に、ほぼ並ぶ姿である。
- 国内卸売:数量 1,699(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 2,277 億円・営業利益 73 億円。数量 0.88 倍、利益率 3.2%
- 海外卸売:数量 3,888(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 5,210 億円・営業利益 125 億円。ドイツが黒字化、利益率 2.4%(会社の目標並み)
- 製紙加工:数量 514(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 689 億円・営業利益 90 億円。利益率 13%
- 環境原材料:数量 300(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 402 億円・営業利益 28 億円。マレーシアの拠点が育つ、利益率 7%
- 不動産賃貸:数量 41.0(賃貸収入(億円・今の賃料の実質))× 価格 1.25(賃料の指数(今 = 1.00。長期契約で物価に遅れ、10 年 1.25 倍))→ 売上 51 億円・営業利益 18 億円。再開発で賃料が伸びる
倍率:事業の純利益 150 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.0 倍。全体の PER 11.96 倍、時価総額 1,794 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ドイツの立て直しと海外の高付加価値品が計画どおり進み、売れる資産を自社株買いに回しきる道。会社の目標に近いが、実行が必要な前提が多く、1 割弱にとどめる。TOB の可能性(王子 HD などが安定株主)も、ここに含めて見ている。
やや楽観 20% 海外は黒字化するが、ROE は資本コストの手前 利益 120 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 1,508 円1,650 億円
ドイツの改革が一定の成果を出し、海外卸売は黒字に戻る。ただ欧州の紙需要が戻るわけではなく、利益率は 2% にとどまる。国内の紙は毎年 2% 台後半で減るが、価格の適正化と物流の効率化で利益率は 3% を保つ。
製紙加工は再生家庭紙の値上がりがおおむね続き、利益は 80 億円規模を守る。環境原材料は少し回復する。営業利益は 240 億円ほどで、会社の予想を上回る。
政策保有株の売却を進め、還元は純利益の 7 割まで高める。それでも自己資本は 1,500 億円台に増え、ROE は 8% 近くにとどまる。資本コストを超えるには届かず、評価も上がらない。堅実に直るが、投資家に報いるほどの収益力にはならない筋書きだ。
- 国内卸売:数量 1,622(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 2,173 億円・営業利益 65 億円。数量 0.84 倍、利益率 3.0%
- 海外卸売:数量 3,618(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 4,848 億円・営業利益 97 億円。利益率 2.0%
- 製紙加工:数量 499(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 668 億円・営業利益 80 億円。利益率 12%
- 環境原材料:数量 260(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 348 億円・営業利益 21 億円。利益率 6%
- 不動産賃貸:数量 41.0(賃貸収入(億円・今の賃料の実質))× 価格 1.25(賃料の指数(今 = 1.00。長期契約で物価に遅れ、10 年 1.25 倍))→ 売上 51 億円・営業利益 18 億円。横ばい
倍率:事業の純利益 120 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 1,333 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の回復と製紙加工の堅調で利益が会社予想の線に乗るが、国内の縮小と薄利は変わらない道。起こりやすさは中立の次に高い。
中立 36% 利益は回復するが、ROE は 6% 台にとどまる 利益 90 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 1,203 円1,317 億円
国内の紙の数量は 10 年で 2 割減る。価格の適正化で利益率は 2% 台後半を保つが、売上の規模は縮む。海外卸売は構造改革でドイツの赤字が止まり、利益率は 1% 台半ばに戻る。ただし欧州の紙需要が戻るわけではなく、買収の元は取れない。
製紙加工は再生家庭紙の値上がりが一部戻り、利益率は 11% まで下がる。環境原材料は少し伸びる。営業利益は 190 億円ほどで、会社が今期に見込む 155 億円から、物価と海外の回復の分だけ増える。
還元は純利益の 7 割で、配当と自社株買いを続ける。自己資本は 1,500 億円近くに増え、ROE は 6% 台だ。過去 10 年の中央値と変わらない。堅実だが、株主の預けた資本を資本コスト以上に働かせることはできない、普通の薄利の卸である。
- 国内卸売:数量 1,545(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 2,070 億円・営業利益 54 億円。数量 0.80 倍、利益率 2.6%
- 海外卸売:数量 3,381(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 4,531 億円・営業利益 68 億円。利益率 1.5%
- 製紙加工:数量 488(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 654 億円・営業利益 72 億円。利益率 11%
- 環境原材料:数量 240(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 322 億円・営業利益 16 億円。利益率 5%
- 不動産賃貸:数量 41.0(賃貸収入(億円・今の賃料の実質))× 価格 1.25(賃料の指数(今 = 1.00。長期契約で物価に遅れ、10 年 1.25 倍))→ 売上 51 億円・営業利益 18 億円。横ばい
倍率:事業の純利益 90 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.1% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 1,000 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ドイツの赤字は止まるが、欧州の需要は戻らず、国内の紙は縮み続ける。利益は会社予想の 8 割程度の水準で落ち着き、ROE は過去の中央値並みに戻る。最も起こりやすい道。
やや悲観 24% ドイツの改革が遅れ、国内の紙も細る 利益 48 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 712 円779 億円
ドイツの立て直しが遅れ、仕入先との取引条件も厳しいままで、海外卸売の利益率は 1% を割る。欧州の紙は電子化で想定より速く縮み、数量は 1 割近く減る。海外 M&A は価格が高く、追加の買収でも稼げない。
国内の紙は数量が 3 割近く減る。メーカーが直接販売を強め、卸の口銭は細る。製紙加工は再生家庭紙の価格が元に戻り、利益率は 9% 台に下がる。営業利益は 115 億円ほどで、今の水準に戻るだけだ。
金利上昇で利払いが増え、純利益は 50 億円を割る。のれんの追加減損で自己資本も目減りする。ROE は 3% 台で、資本コストを大きく下回る。増配は止まり、評価は大きく下がる。
- 国内卸売:数量 1,390(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,863 億円・営業利益 41 億円。数量 0.72 倍、利益率 2.2%
- 海外卸売:数量 3,111(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 4,168 億円・営業利益 33 億円。ドイツの改革が遅れ、利益率 0.8%
- 製紙加工:数量 452(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 606 億円・営業利益 58 億円。再生家庭紙の値段が戻り、利益率 9.5%
- 環境原材料:数量 200(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 268 億円・営業利益 7 億円。利益率 2.5%
- 不動産賃貸:数量 38.9(賃貸収入(億円・今の賃料の実質))× 価格 1.25(賃料の指数(今 = 1.00。長期契約で物価に遅れ、10 年 1.25 倍))→ 売上 49 億円・営業利益 17 億円。空室が増える
倍率:事業の純利益 48 億円・事業 ROE 3.6% は k 9.0% 以下なので、上限は 1÷k=11.1 倍。ROE が資本コストを大きく下回り、利益も薄いため、上限の約 6 割強の 7.0 倍に置いた。
確率:ドイツの改革が想定より長引き、グラフィック用紙の需要減が加速する道。決算でドイツの回復遅れが 2 年続いた実績があり、起こりやすさは中立に近い。
悲観 12% 構造的に負け、欧州から撤退する 利益 5 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 294 円322 億円
ドイツの子会社は立て直しに失敗し、のれんと事業の損失を計上して縮小する。ほかの欧州の子会社にも波及し、海外の利益は消える。メーカーの直接販売と電子化で、国内の紙の数量は 10 年で 4 割近く減る。利益率は 1% 台半ばに落ちる。
製紙加工は再生家庭紙の値段が崩れ、段ボールも減る。利益は 40 億円に減る。環境原材料もほぼ利益が出ない。営業利益は 30 億円ほどで、利払いが利益を食う。純利益は数億円にとどまる。
もはや稼ぐ力で測る会社ではなく、持つ資産で測る会社になる。減損で自己資本は 1,100 億円まで目減りし、増配は止まり、政策保有株や不動産の売却で借金を返す局面に入る。
- 国内卸売:数量 1,197(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,604 億円・営業利益 24 億円。数量 0.62 倍、利益率 1.5%
- 海外卸売:数量 2,705(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 3,624 億円・営業利益 −4 億円。欧州で撤退・縮小、利益率ほぼゼロ
- 製紙加工:数量 422(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 565 億円・営業利益 40 億円。利益率 7%
- 環境原材料:数量 180(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 241 億円・営業利益 2 億円。利益率 1%
- 不動産賃貸:数量 34.9(賃貸収入(億円・今の賃料の実質))× 価格 1.25(賃料の指数(今 = 1.00。長期契約で物価に遅れ、10 年 1.25 倍))→ 売上 44 億円・営業利益 15 億円。一部を売却
倍率:稼ぐ力(純利益 5 億円÷k)では値が付かないので、売れる資産の税後で置く。今の自己資本 1,288 億円に 0.25 を掛けた 322 億円。政策保有株・不動産・製紙加工の売却で借金を返した後に株主に残る額を、床の額(floor_assets_oku)として見た。営業利益が薄く EV÷営業利益は 34 倍になるが、利益では測らない筋書き。
確率:欧州の事業が立て直せず撤退・縮小に至り、国内でも口銭が細って優良さを失う道。紙の電子化は 10 年で何が起きてもおかしくなく、1 割強を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内卸売
国内の洋紙・板紙・加工紙・パッケージ資材を製紙メーカーから仕入れ、印刷会社・出版社・加工業者へ届ける紙卸の本体。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,931 | 100.0% | 1,931 | 57 |
| 10 年後 中立 | 1,545 | 134.0% | 2,070 | 54 |
取り方:推定。取扱高 1,931 億円を、国内の紙・板紙の卸売市場(推定 約 2.0 兆円・実質)× シェア 約 9.7% に分けて置いた。開示は金額と販売数量の前期比だけで、市場の大きさは製紙の出荷統計からの粗い推定。紙は減り板紙は横ばいで、実質の市場は毎年 2〜3% 細る。
海外卸売
オセアニア(Ball & Doggett)・英国・シンガポール・マレーシア・ドイツ・フランスの紙卸と、サイン&ディスプレイ、パッケージ、軟包装材の卸。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,381 | 100.0% | 3,381 | −6 |
| 10 年後 中立 | 3,381 | 134.0% | 4,531 | 68 |
取り方:推定。取扱高 3,381 億円を、対象市場(欧州・オセアニア・東南アジアの紙・包装資材卸、推定 約 8 兆円・実質)× シェア 約 4.2% に分けて置いた。ドイツ・フランスの買収で前期から約 6 割増えたが、ドイツが赤字で経常は損失。開示は金額のみで、市場は粗い推定。
製紙加工
再生家庭紙(トイレットペーパー等)と段ボールの製造・販売。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 514 | 100.0% | 514 | 73 |
| 10 年後 中立 | 488 | 134.0% | 654 | 72 |
取り方:推定。取扱高 514 億円を、再生家庭紙と段ボールの対象市場(推定 約 1.1 兆円・実質)× シェア 約 4.7% に分けて置いた。再生家庭紙の販売価格が上がり、経常利益率は 14% と高い。段ボールは減収減益。
環境原材料
古紙・パルプ・木質バイオマス燃料の販売、総合リサイクル、木質バイオマス発電への出資。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 200 | 100.0% | 200 | 6 |
| 10 年後 中立 | 240 | 134.0% | 322 | 16 |
取り方:推定。取扱高 200 億円を、古紙・木質燃料・リサイクルの対象市場(推定 約 0.8 兆円・実質)× シェア 約 2.5% に分けて置いた。バイオマス燃料の採算悪化と持分法の減損損失で、経常は 5.6 億円まで落ちた(前期 20 億円)。
不動産賃貸
全国の保有ビル・土地の賃貸。
| 数量賃貸収入(億円・今の賃料の実質) | 価格賃料の指数(今 = 1.00。長期契約で物価に遅れ、10 年 1.25 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 41.0 | 1.00 | 41 | 15 |
| 10 年後 中立 | 41.0 | 1.25 | 51 | 18 |
取り方:推定。賃貸収入 41 億円を、賃貸面積と賃料の積で置いた(面積を数量の指数とする)。テナント退去で減収。
リスクと懸念
欧州の紙需要が戻らない
ドイツ・フランスの買収は、グラフィック用紙という縮む市場への投資だ。仕入先と顧客の離反が続けば、海外卸売は赤字から抜けられず、のれんの追加減損も出る。会社が買った価格に見合う利益が出ない構図が長引くことが、最大の懸念だ。
国内の紙の数量減が速まる
国内の紙の販売数量は前期比で 7.6% 減った。価格の適正化を先行した影響もあるが、電子化の流れは変わらない。数量が毎年 3% 超で減れば、物流や人件費の固定費が重くなり、卸の口銭だけでは利益を守れない。
再生家庭紙の値上がりが一時の追い風
製紙加工の経常利益は 70 億円を超え、全社の利益を支える。ただ再生家庭紙の値上がりが主因で、古紙の値段や競合の増産で戻りうる。この利益の柱が細ると、卸の薄利だけが残る。
借金と金利上昇
純有利子負債は 768 億円で、時価総額の半分を超える。借り換えで金利が上がると、10 年で利払いが約 19 億円増える。海外 M&A を借金で続ければ、純負債の対自己資本の比はさらに上がる。
買収の規律
中期計画は成長投資を最大 800 億円と置く。実績の 309 億円のうち約 290 億円が海外卸売の買収で、ドイツの案件が失敗した。次の買収で同じ見誤りをすれば、自己資本が削られる。
環境原材料の採算
木質バイオマス燃料の仕入れコストと発電の採算が悪化し、経常利益は 20 億円から 5.6 億円に落ちた。持分法の関連会社の減損も出た。再エネ向けの投資が重荷になりうる。
新リース会計基準と固定費
倉庫・事務所・車両などの賃借が 2028 年 3 月期から貸借対照表に載り、純負債と自己資本比率の見え方が変わる(本業の価値は変わらない)。賃借の約束の額は確認できていない。売上が落ちても家賃は固定費として残る。
今後の分かれ目
- ドイツ子会社が 2027 年 3 月期に黒字化し、欧州の他社へ波及しない
- 海外卸売の利益率は 1% 台後半へ戻り、中立から強気の筋書きに近づく。ただし欧州の需要が戻るわけではない。
- 国内の紙の販売数量が 2 年続けて前期比 8% 超で減る
- 卸の口銭だけでは固定費を賄えず、利益率は 2% を割る。やや悲観の筋書きに寄る。
- 政策保有株と保有不動産を売り、自社株買いに 200 億円以上を回す
- 自己資本が圧縮され、ROE は 8% を超える。強気の筋書きの確率が上がる。
- 再生家庭紙の販売価格が元の水準まで戻る
- 製紙加工の経常利益が 40 億円台に下がり、全社の純利益は 40 億円台に落ちる。
- 日本の長期金利が 3% を大きく超え、借り換えの金利が 4% 台になる
- 利払いが増え、純利益は 10 億円以上押し下げられる。
- 王子 HD や製紙会社、あるいは投資会社が出資比率を引き上げる
- 再編や TOB の可能性が高まる。ただし資本効率の低さから、プレミアムは大きくならないと見る。
見ておくもの
- 海外卸売(ドイツ)の経常損益と、構造改革の進み具合
- 国内の紙・板紙の販売数量の前期比
- 製紙加工(再生家庭紙)の販売価格と経常利益
- 政策保有株・保有不動産の売却額と自社株買いの規模
- 中期計画の修正後の目標(経常利益・ROE)と純有利子負債
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業 ROE と資本コスト 9.0% から利益ベースの正当化 PER を出して置いた。中立は ROE が 6% 台で k を下回るため、上限の 1÷k(11.1 倍)の 7 割の 7.8 倍に置いた。今の PER 30 倍(予想で 18 倍)・PBR 1.1 倍には寄せていない。そのため総合が大きな割高になるが、逆算はしていない。純現金ではなく純負債の会社で、余った現金は立てていない。金利は純利益から 10 年で約 19 億円を引いた。数量は開示が金額のみのため「対象市場(実質)× シェア」の推定で置き、市場の大きさは粗い推定である。新リース会計基準(2028/03 期から)は、今と同じ形(賃借料を営業費用に入れた形)でそろえて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→11.96 倍・やや楽観 PER 9→11.11 倍・中立 PER 7.8→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。同じ領域の長瀬産業・稲畑産業は +1.0%。借金の重さと主力市場の縮小の分、差をつけた。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。