結論
ダイコー通産は、ケーブルテレビ局や通信工事会社に光ケーブル・同軸ケーブル・材料・機器を卸す、松山発の専門商社だ。筆者の結論は「適正」で、確率で重みを付けた本質価値は今の時価総額とほぼ同じ所に落ち着く。
支えは二つある。一つは 4 万点を超える品ぞろえと四国・東日本の物流網で、小口の注文に早く応える力だ。もう一つは時価総額の 8 割に迫る純現金である。定期預金を含む現金は約 80 億円あり、借金は 7 億円に満たない。
それでも割安とは言い切れない。現金の一部は仕入先への支払いを待ってもらっている分で、事業が縮めば出ていく。残りも大株主の資産管理会社が 3 分の 1 を持つ構図の中で、配当性向 4 割の配当しか戻ってこない。
事業そのものも、光回線の敷設が一巡に近づく市場で数量を守る戦いになる。値決め力の乏しい卸で、利益率は 6% 前後が天井だ。現金の厚さが下値を支え、市場の成熟が上値を抑える。今の値段は、その両方をおおむね映している。割安への分かれ目は、現金が株主に戻るかどうかだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、これは「わかりやすいが、伸びない事業」だ。何を売り、誰が買い、なぜ同社から買うのかがはっきりしている。10 年後もケーブルや部材は要り、同社はおそらく今と同じ仕事をしている。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、純利益に近い。設備はほとんど要らず、在庫も直送が多いので膨らまない。稼いだ利益の 6 割は会社に残り、現金として積み上がっていく。
問題はその現金が株主の手に戻るかだ。オーナーが 3 分の 1 を持ち、配当は利益の 4 割にとどまる。現金を帳簿どおりに数えるのは楽観に過ぎる。筆者は余った現金を半分の値打ちで数える。
安全域、つまり払う値段と本質価値の差は、今の値段では厚くない。現金の厚さが大きな損を防いでくれる一方、事業が伸びて価値を押し上げる道は細い。値段が大きく下がった時に、初めて魅力が出る会社だ。あるいは、経営が現金を株主に戻すと決めた時である。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は単純だ。電線・光ファイバーのメーカーや機器メーカー約 450 社から仕入れ、全国約 2,700 社の顧客へ売る。顧客はケーブルテレビ局、通信工事会社、電気工事会社、自治体の防災無線を手がける業者などだ。1 社で売上の 1 割を超える先はない。
単一セグメントだが、中身は三つに分かれる。売上の約半分が材料で、クロージャ・コネクタ・金具など、ケーブルをつなぎ固定する細かな品だ。約 3 割が機器で、光伝送の装置やケーブルテレビの増幅器がここに入る。残る約 4 分の 1 がケーブルそのものだ。
取引の 7 割は仕入先から現場へ直接届ける直送で、同社は在庫を持たずに差益を取る。残りは松山の 3 つの物流センターと東京の拠点から出す。急な工事に合わせて細かな部材をそろえて届けられることが、工事会社が同社を使う理由だ。
地域は東日本が 4 割弱で最も大きく、西日本、地元の四国九州、東海北陸が続く。営業所は 13 で、従業員は 140 人と小さい。1 人あたり 1.5 億円を売る、典型的な薄利多売の卸である。
近年は光回線の整備に加え、防災行政無線のデジタル化と更新、建築・土木・医療の施設向けの配線へと売り先を広げようとしている。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは浅い。扱う品の多くは汎用品で、同じケーブルは他の電材商社やメーカーの直販でも買える。値段を決めるのは市場で、同社ではない。
それでも長く生き残ってきた理由はある。4 万点を超える品ぞろえを、工事の日程に合わせて小口でそろえる手間を引き受けていることだ。現場の工事会社にとって、部材を一つずつ別の問屋に頼む手間は大きい。この便利さが、薄いが安定した差益を生んでいる。
資本の使い方は保守的だ。自己資本比率は 5 割を超え、借金はほとんどない。ROE は過去 8 年で 8〜12% と、資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。現金を厚く抱えていることが、その数字を押し下げている。
弱いのは、需要の源がケーブルテレビと通信網の投資に偏っている点だ。光回線の敷設が一巡すれば、残るのは保守と更新の需要になる。そこでは数量より、細かな品を早く届ける力の勝負になる。そこでは規模の大きな電材商社が有利で、同社は地元と得意先の深さで戦うしかない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
市場は成熟の入り口にある。国内の光回線は世帯のほとんどに届き、ケーブルテレビ局も同軸から光への張り替えを進めてきた。新しく線を引く仕事は、これから細っていく。
代わりに増えるのは更新と保守だ。光回線の機器は十数年で入れ替えの時期が来る。初期にデジタル化した自治体の防災無線も、経年で入れ替えが始まっている。災害の多い国で、通信網と防災無線の更新は景気に左右されにくい。
需要は大型案件で波打つ。2025 年 5 月期の売上は 26% 伸びたが、これは光回線の大型案件が重なったためだ。逆に通信会社が投資を絞った年は減益になる。10 年で見れば数量はほぼ横ばいで、物価の分だけ単価が上がる姿を筆者は中心に置く。
競争の相手は二つある。一つは、全国に拠点を持つ大手の電材商社だ。もう一つは住友電気工業やフジクラのような電線メーカーで、大口の通信事業者には直接売る。同社の居場所は、その間の中小の工事会社と地方のケーブルテレビ局である。
ケーブルテレビ局は再編が進み、局の数は減っている。大きな事業者グループにまとまるほど、仕入れはメーカー直販や大手商社へ寄りやすい。これがこの領域の、ゆっくり効く逆風だ。
資本政策と M&A
還元は配当が中心だ。会社は配当性向 35% 程度を目安に掲げ、実際は 4 割前後を払っている。配当は利益に合わせて少しずつ上がり、次の期も増配の予定だ。自社株買いの実績は見当たらない。株主優待もない。
現金の使い道がいちばんの論点だ。定期預金を含めて約 80 億円の現金があり、時価総額は 100 億円に届かない。筆者はこのうち約 35 億円を、事業に要らない余った現金と見る。残りは仕入先への支払い待ちと手元の資金だ。
筆頭株主はディー・ケー・コーポレーションで、議決権の約 3 分の 1 を持つ。個人の大株主も上位に並ぶ。オーナー色の強い会社で、現金を一度に吐き出す動機は弱い。M&A の大きな計画もない。上場が 2019 年と新しく、市場の評価をどこまで気にするかは、これから見えてくる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
この会社は値段のわりに中身が詰まっている。現金は約 80 億円、借金は 7 億円に満たず、時価総額の 8 割近くが現金で裏打ちされている。事業の価値は、ほぼ只で手に入る計算になる。
事業も見かけより強い。2,700 社の顧客に 4 万点の品をそろえて届ける仕組みは、一朝一夕にはまねできない。売上は 2017 年 5 月期の 135 億円から 220 億円へ伸び、その間に赤字の年は一度もない。
需要も消えない。光回線の機器は十数年ごとに入れ替わり、防災無線のデジタル化も更新の時期に入った。地震や豪雨のたびに、通信網を強くする投資が求められる。建築・医療など新しい売り先が育てば、数量は横ばいどころか伸びる。
金利が上がれば、80 億円の現金は年 1 億円を超える利息を生む。配当も毎年のように増えている。上場から 7 年、現金の使い方に市場の目が向けば、還元が厚くなる余地は大きい。今の値段は、この現金の値打ちさえ十分に映していない。
慎重な見方
現金が厚いのは事実だが、全部が株主のものではない。買掛金など無利子の負債が約 80 億円あり、売上が縮めば仕入先への支払いで現金は出ていく。本当に余っているのは半分ほどだ。
その余りも戻ってこない。筆頭株主が 3 分の 1 を持ち、個人の大株主も多い。配当性向は 4 割で、自社株買いはしていない。現金は会社の中に積もり続け、少数株主には利息ほどの値打ちしか届かない。
事業も伸びしろが乏しい。光回線の敷設は終わりに近く、ケーブルテレビ局は再編で数が減る。大きなグループにまとまった局は、メーカー直販や大手商社から買う。汎用品の卸に値決め力はなく、営業利益率は 6% 台の前半が過去の山だ。
2025 年 5 月期の売上の急増は大型案件の重なりで、続く保証はない。通信会社が投資を絞れば、売上は 1 割単位で落ちる。人が 140 人しかいない小さな会社で、人手の確保も簡単ではない。現金の厚さに目を奪われると、縮む事業を高く買うことになる。
どちらに重みを置いたか
事業の評価では慎重な見方に分がある。市場は成熟し、値決め力も乏しい。一方で、現金の厚さが下値を支えるという強気の見方も正しい。両者の言い分を足すと、価値は今の値段の近くに落ち着く。確率は中立を厚くし、やや悲観をやや楽観とほぼ同じ重さにした。現金の戻り方が変われば、評価は上に動く。逆に大口の直販化が見えれば、下に動く。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/05 期)
確率で加重した株価時価総額 4,223 円225 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 782 円42 億円)。 今の値に割り戻すと 2,540 円135 億円、今との差 +48.4%、 期待の年率 +11.3%(資本コスト 7.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 6,395 円341 億円 | 985 円53 億円 | +331.1% | +15.7% | 738 円39 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,470 円292 億円 | 891 円48 億円 | +271.6% | +14.0% | 1,399 円75 億円 |
| 中立 | 38% | 4,720 円252 億円 | 812 円43 億円 | +223.1% | +12.4% | 2,102 円112 億円 |
| やや悲観 | 20% | 2,494 円133 億円 | 641 円34 億円 | +83.1% | +6.2% | 627 円33 億円 |
| 悲観 | 10% | 876 円47 億円 | 503 円27 億円 | −19.5% | −2.1% | 138 円7 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,223 円225 億円 | 782 円42 億円 | +192.3% | +11.3% | 5,004 円267 億円 |
今の株価時価総額 1,712 円91 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 防災と更新の波で数量が伸びる 利益 17 億円 · PER 17.9 倍 · 株価時価総額 6,395 円341 億円
光回線の機器が入れ替えの時期を迎え、ケーブルテレビ局は高速通信に向けて設備を一新する。初期にデジタル化した自治体の防災無線も次々に更新される。同社は中堅の工事会社を着実に取り込み、販売先は 3,000 社を超える。
建築・土木・医療の施設向けの配線でも、細かな部材をまとめて届ける強みが生きる。自社で企画した商品が増え、差益は少し厚くなる。営業利益率は過去の山を少し上回る 6.6% に届く。
金利 2% の世界で、厚い現金は毎年 1 億円を超える利息を生む。配当は利益に合わせて増え、上場企業としての経験を積むにつれ、現金の使い方にも市場の目が届くようになる。それでも余った現金を一度に戻す動きまでは起きない。
- CATV・情報通信向け ケーブル・材料・機器の卸:数量 3,100(販売先の数(社))× 価格 0.11(1 社あたりの年間の売上(億円・名目))→ 売上 348 億円・営業利益 23 億円。販売先 3,100 社(中堅顧客と新領域)× 1 社 0.112 億円(実質 +3%・物価 1.34 倍)、利益率 6.6%
倍率:事業の純利益 17 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)26 億円。全体の PER 17.92 倍、時価総額 322 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:全国の防災無線の更新と光回線の機器の入れ替えが重なり、中堅顧客の開拓と建築・医療の新領域も実る筋書き。過去 10 年で売上が 1.6 倍になった実績はあるが、市場の成熟の中で続けるのは難しいので 1 割。
やや楽観 22% 更新需要で数量を保つ 利益 15 億円 · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 5,470 円292 億円
新しく光回線を引く仕事は減るが、機器の更新と保守、防災無線の入れ替えがそれを埋める。ケーブルテレビ局の再編で一部の大口はメーカー直販に移るものの、中堅の工事会社の開拓で販売先はやや増える。
1 社あたりの取引は実質でほぼ横ばいで、単価は物価に沿って上がる。人件費と物流費も上がるが、自社の物流網と直送の組み合わせで吸収し、営業利益率は 6% 強を保つ。
配当性向は 4 割前後のまま、利益の残りは現金として積み上がる。会社の形は今とほとんど変わらず、少しずつ大きくなった姿で 10 年後を迎える。現金の使い道だけが、最後まで課題として残る。
- CATV・情報通信向け ケーブル・材料・機器の卸:数量 2,950(販売先の数(社))× 価格 0.11(1 社あたりの年間の売上(億円・名目))→ 売上 319 億円・営業利益 20 億円。2,950 社 × 1 社 0.108 億円(実質 −1%・物価 1.34 倍)、利益率 6.2%
倍率:事業の純利益 14 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)26 億円。全体の PER 17.51 倍、時価総額 272 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:更新と保守の需要が新設の減少をほぼ埋め、顧客の開拓が少し進む筋書き。会社の当面の計画(2028 年 5 月期の売上 232 億円)の延長線にあたるので 22%。
中立 38% 成熟した市場で数量を守る 利益 12 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 4,720 円252 億円
光回線の敷設は終わり、需要の中心は更新と保守に移る。ケーブルテレビ局の再編で大口の一部は離れるが、同社は中小の工事会社と地方の局を中心に販売先を少し増やす。1 社あたりの取引は実質で 5% ほど細る。
単価は物価に沿って上がり、売上は 10 年で 290 億円ほどになる。人件費と物流費の上昇は値上げで転嫁し、営業利益率は今と同じ 6% 弱にとどまる。値決め力がない卸に、利益率を押し上げる道は乏しい。
還元は配当性向 4 割で続き、残りの利益は現金として会社に残る。現金の利息が増える分だけ純利益はかさ上げされるが、事業の稼ぐ力そのものは大きく変わらない。オーナーが握る会社の姿も、今のままだ。
- CATV・情報通信向け ケーブル・材料・機器の卸:数量 2,800(販売先の数(社))× 価格 0.10(1 社あたりの年間の売上(億円・名目))→ 売上 290 億円・営業利益 17 億円。2,800 社 × 1 社 0.104 億円(実質 −5%・物価 1.34 倍)、利益率 5.8%
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)26 億円。全体の PER 17.11 倍、時価総額 230 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:光回線の一巡とケーブルテレビ局の再編を、更新需要と顧客開拓でほぼ相殺するという、業界の成熟に沿った中心の筋書き。最もありそうなので 38%。
やや悲観 20% 大口がメーカー直販へ流れる 利益 8 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 2,494 円133 億円
ケーブルテレビ局は大きな事業者グループに集まり、仕入れは住友電気工業やフジクラなどの直販と、全国網を持つ大手の電材商社に寄っていく。同社の販売先は 2,500 社ほどに減り、残った顧客も小口が中心になる。
1 社あたりの取引は実質で 1 割強細り、値下げの圧力も強まる。人件費と物流費の上昇を値段に移しきれず、営業利益率は 4.5% まで下がる。建築・医療の新領域は、専門の商社の壁に阻まれて大きくならない。
利益が減るので配当も伸びが止まる。現金は残るが、その一部は売上の縮小とともに仕入先への支払いに回る。会社はつぶれないが、事業の稼ぎは資本コストを下回る。
- CATV・情報通信向け ケーブル・材料・機器の卸:数量 2,500(販売先の数(社))× 価格 0.10(1 社あたりの年間の売上(億円・名目))→ 売上 239 億円・営業利益 11 億円。2,500 社 × 1 社 0.095 億円(実質 −12.5%)、利益率 4.5%
倍率:事業の ROE 6.5% が k 7.75% を下回るので、ためた利益は額面未満の値打ちしかなく PER は 1÷k=11.8 倍が上限。顧客が直販へ流れ利益率が下がる筋書きの稼ぐ力から 12.44 倍に置いた。余った現金は谷で食う分を引いて今の 0.75 倍、戻り方 0.5 で足した。
確率:ケーブルテレビ局と通信会社の再編で大口が直販や大手商社に移り、新領域も育たない筋書き。通信会社の投資抑制で減益になった年の実績があり、起こりうるので 20%。
悲観 10% 通信網の投資が細り、卸の役割がやせる 利益 4 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 876 円47 億円
通信網の新設はほぼ止まり、更新の多くは大手の通信事業者がメーカーから直接買う。工事会社も通販や大手商社のネット発注に移り、細かな部材をそろえて届ける同社の便利さは薄れる。販売先は 2,200 社まで減る。
1 社あたりの取引は実質で 2 割細り、売上は物価の分を足しても今より小さくなる。物流網と人の固定費が重くのしかかり、営業利益率は 3% に落ちる。現金は残るが、仕入の信用の分は縮小とともに流れ出る。
オーナーが現金を抱えたまま事業を続け、少数株主に届くのは細った配当だけになる。稼ぐ力は資本コストに遠く届かず、価値は稼ぐ力と半分の値打ちの現金でしか測れない。
- CATV・情報通信向け ケーブル・材料・機器の卸:数量 2,200(販売先の数(社))× 価格 0.09(1 社あたりの年間の売上(億円・名目))→ 売上 192 億円・営業利益 6 億円。2,200 社 × 1 社 0.087 億円(実質 −20%)、利益率 3.0%
倍率:事業の ROE 3.5% が k 7.75% を下回るので、ためた利益は額面未満の値打ちしかなく PER は 1÷k=11.8 倍が上限。構造的に負けた卸の稼ぐ力から 8.5 倍に置いた。余った現金は谷で食う分を引いて今の 0.5 倍、戻り方 0.5 で足した。
確率:光回線の一巡と局の再編に、メーカーの直販と通販の広がりが重なる構造的な負けの筋書き。値決め力のない卸には現実の脅威だが、更新需要は残るので 1 割。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
CATV・情報通信向け ケーブル・材料・機器の卸
電線・光ファイバー・同軸ケーブル、コネクタ・クロージャなどの材料、光伝送・増幅器などの機器を、ケーブルテレビ局・通信工事会社・自治体向けの業者へ卸す。
| 数量販売先の数(社) | 価格1 社あたりの年間の売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 2,700 | 0.08 | 220 | 13 |
| 10 年後 中立 | 2,800 | 0.10 | 290 | 17 |
取り方:有報の販売先約 2,700 社(実数)を数量に、売上 219.8 億円を割った 1 社あたり約 0.081 億円を単価に置いた。1 社あたりの実質の取引量の変化と物価 3% は単価に入れる(推定)。材料 48%・機器 27%・ケーブル 25% はまとめて扱う。
リスクと懸念
光回線の一巡と更新需要の読み違い
国内の光回線は世帯のほとんどに届き、新しく線を引く仕事は細っていく。更新と保守の需要がその穴を埋めるという見立てが外れれば、数量は 10 年で 1〜2 割落ちる。大型案件の有無で売上が年に 1 割以上振れることも、読み違いを大きくする。
ケーブルテレビ局の再編と直販化
ケーブルテレビ局は大きな事業者グループにまとまりつつある。グループの仕入れはメーカーの直販や全国網を持つ大手の電材商社に寄りやすく、地方の局と中小の工事会社に強い同社の売り先が細る。卸を通す理由そのものが問われる。
余った現金が戻らない
現金は時価総額の 8 割に迫るが、筆頭株主が約 3 分の 1 を持ち、配当性向は 4 割、自社株買いの実績はない。現金が会社に積もるだけなら、少数株主にとっての値打ちは帳簿の半分ほどにとどまる。買収で現金を使い、資本コストに届かない事業を抱える恐れもある。
仕入の信用の巻き戻し
現金の一部は、仕入先への支払いを待ってもらっている分で立っている。売上が縮めば買掛金が減り、その分の現金が出ていく。見かけの純現金をそのまま余りと数えると、谷で思ったより現金が細る。
人と物流の費用
従業員 140 人の小さな会社で、物流網と営業の人手は固定費だ。人件費と運賃が物価を超えて上がり、それを汎用品の値段に移せなければ、6% 弱の営業利益率は簡単に削られる。採用が難しくなれば、小口を早く届ける強み自体が揺らぐ。
今後の分かれ目
- 自社株買いや配当性向の大幅な引き上げを打ち出したら
- 余った現金の戻り方を 0.5 から引き上げてよい。現金の厚さがそのまま株主の値打ちになり、価値は今の値段を上回る側へ動く。
- 防災無線や通信網の更新で大型案件が続き、売上が 250 億円を超えて定着したら
- やや楽観の筋書きに近づく。数量が横ばいでなく伸びる証拠として、中立の販売先の数を見直す。
- 大手のケーブルテレビ事業者グループとの取引を失ったら
- やや悲観の筋書きに重みを移す。直販化が地方の局まで及ぶかを続けて見る。
- 営業利益率が 5% を割り込む年が続いたら
- 値決め力の弱さが表に出たと見て、中立の利益率を下げる。人件費と物流費の転嫁の遅れか、値下げの圧力かを分けて見る。
- 現金を使った買収を発表したら
- 買う事業の ROE が資本コストに届くかを見る。届かなければ余った現金の値打ちを下げる。
見ておくもの
- 販売先の数と大型案件の有無(短信・株主通信)
- 営業利益率と販管費の伸び
- 現金預金と買掛金・電子記録債務の動き
- 配当性向と自社株買いの有無
- ケーブルテレビ局の再編の動き
倍率と資本コストの決め方
倍率は資本コスト 7.75%(基本 7.5%+循環・値決め力・寿命)と長期の g 4% から、利益ベースの正当化 PER で決め、楽観〜中立は上限の 9.2 割に置いた。中立の PER は 11.6 倍で、1÷k の 11.8 倍の近くにとどまる。今の値付け(PER 約 10 倍)には寄せていない。facts の純有利子負債は現金同等物だけなので、定期預金を含む現金預金 80 億円と借入 7 億円から純現金 73 億円を見直し、仕入の信用と手元資金を引いた 35 億円だけを余った現金とした。店舗を借りる業態でなく、新リース会計基準の影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.59→17.92 倍・やや楽観 PER 12.09→17.51 倍・中立 PER 11.56→17.11 倍・やや悲観 PER 10→12.44 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。