結論
中央自動車工業は、カーディーラーにボディコーティング剤を卸す会社だ。社名や東証の業種は卸売業だが、中身は化学品の製造業に近い。飲酒運転を防ぐアルコール検知器と、損保の全損車を処分する代行も手がける。
筆者の結論は「適正」だ。確率をかけた本質価値は今の値段を1割ほど上回る。ただ、安全域と呼べるほどの差ではない。事業は強い。ただ、10年先の稼ぎを大きく伸ばす確かな道筋は、まだ見えていない。
稼ぎの源は、営業利益率が24%にのぼるコーティング剤の販売だ。ディーラーの営業と技術が一体で動き、他社が入りにくい。海外でも日本車向けの部品と自社品を売り、利益を積んできた。
財務はほぼ無借金で、自己資本比率は88%ある。現金は260億円と、時価総額の2割を超える。この現金が価値を生むかどうかが、筆者のいちばんの関心事である。会社は新しい中計で、大型の買収に挑むと言い出した。
懸念は3つある。新車の台数が人口とともに細ること。損保との処分契約が少数の相手に集中していること。そして、買収で現金を使い損ねることだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家は、この会社の事業を気に入る。営業利益率が高く、借金がなく、現金が潤沢だからだ。
ただ、事業の質には限りがある。堀は、ディーラーとの関係と切り替えの手間にある。しかし、商材そのものは特許で守られた独占品ではない。10年後に高い利益率が続く保証はない。
株主に残る利益は、純利益の多くになる。営業活動で得る現金は、純利益とほぼ同じ規模だ。利益がそのまま現金になっている。この現金をどう使うかで、価値は大きく変わる。
筆者が最も慎重に見るのは、大型の買収である。経営陣の資本配分の腕は、小さな案件では見えない。現金が時価総額の2割を超える会社が、慣れない大型案件に踏み出す。バリュー投資家には、警戒の材料だ。
安全域は薄い。中立の本質価値は今の値段の1割増しほどだ。買い増しに動くには、もう少し安い場面を待ちたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、メーカー系のカーディーラーに売るケミカル商材だ。主力はボディコーティング剤の「CPC」で、オイル添加剤、ヘッドライトやシートのコーティング剤も扱う。売上の約77%が、この部品・用品の販売事業である。
売り方に特徴がある。営業担当は全員が技術者で、新車のコーティングの施工指導までする。ディーラーが自前で磨く手間を、商材と技術の両方で肩代わりする形だ。認定中古車にも、剤と施工をセットで出す。
2つ目の柱はアルコール検知器「ソシアック」である。2023年12月に、社用車を一定台数以上持つ事業所へ、検知器の使用の義務化が始まった。需要は一度盛り上がり、その後は落ち着いたが、直近は売上が15.7億円まで戻っている。
海外は、日本車の補修部品と自社の商材を、約10の国と地域にある営業拠点から売る。ASEANと中東に強い。拠点は小さく、大きな投資は要らない。
3つ目は子会社ABTだ。損保が全損と認めた車を、解体業者やオークションに売る手続きを代行し、売却額の一部を受け取る。売上は2割強だが、利益率は10%と低い。災害が多い年は台数が増える。
新しい柱の候補が、車体に貼る保護フィルムだ。飛び石の傷を防ぎ、はがせば新車の塗装に戻る。下取りの査定が上がるのが売りである。
優良さと弱いところ
堀は、ディーラーとの深い関係と、技術者が営業を兼ねる体制にある。ただし、他社が絶対にまねできる強みとまでは言えない。
コーティングの競合はKeePer技研だ。こちらは自社店舗とガソリンスタンドを通じ、既販車のオーナーに売る。中央自動車工業はディーラーに特化し、客層が分かれている。ただ、KeePerも新車ディーラー向けに力を入れている。差は縮まりうる。
営業利益率24%は、化学品の商材としては高い。ディーラーは商材を一度決めると、施工の手順や研修ごと変えにくい。この切り替えの手間が、利益率を守っている。筆者は、この点を堀の中身と見ている。
資本効率は良い。ROEは過去10年の中央値が14%で、直近は15%だ。借金はなく、現金が厚い。
弱みは3つある。1つ目は、トヨタ系・日産系に偏り、他のメーカー系ではシェアが低いこと。2つ目は、最大の取引先ユー・エス・エスが売上の12%を占めること。3つ目は、買収の経験が小さな案件に限られることだ。
経営は堅実である。創業から80年。14期連続の増収という実績がある。ただ、小さな買収は重ねてきたが、大型の案件で試された経験はない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
市場の数量は、新車の台数に結びつく。日本の新車販売は、直近で約453万台。前の年より0.9%減った。登録車は3.5%減である。人口減とカーシェアで、数量は長く細る方向だ。
それでも、この会社の売上は伸びてきた。理由は施工率にある。コーティングを付ける新車の割合は、社長の話では一部で1割台と低い。ディーラーの利益源として根づけば、数量の減少を上回って伸びる余地がある。ただし、これは社長の見立てで、実際の数字は確かめられていない。
比べる材料はKeePer技研だ。新車ディーラー向けは約32億円と、会社の目標だった50億円に届かなかった。ディーラーの現場は、思ったほど動かない。この点は割り引いて見るべきだ。
検知器は、法律で需要が決まる。義務化の特需が過ぎたあとも、センサーの交換と買い増しの需要が続く。一方で価格は技術の進歩で下がりやすい。
ABTの市場は、事故の件数と修理費で決まる。修理費が上がれば全損と判定される車が増える。事故の件数そのものは、ここでは見通せない。
日本車は海外でも広く使われ、補修部品の需要がある。中東の情勢が悪化した期は、売上の一部が止まった。
資本政策と M&A
資本政策は変わり目にある。会社は2026年8月、100万株・25億円を上限とする自社株買いを決めた。同時に、損保3社が持っていた株式の売出しも行われた。売出しは新株の発行ではなく、持ち合い株の売却だ。
売出しは、政策保有株の見直しと、個人株主の拡大が狙いだ。新しい中計は、個人株主を「現状の数倍」にすることまで掲げている。需給の悪化を、自社株買いで和らげた形である。
買収は、これまで小さな案件が中心だった。2019年に三菱商事からABTを取得し、2025年に森田産業、2026年にYOOコーポレーションを完全子会社にした。いずれも自己資金の範囲だ。
新中計で、会社は「大型M&Aに挑戦する」と明言した。260億円の現金をどう使うかが、これから問われる。買収が成功すれば成長が加速する。失敗すれば、積み上げた現金が減損に変わる。
還元は、配当性向30%以上を目標にしてきた。現金が積み上がる速さを考えると、還元は控えめだった。
還元の点検(P3 2026-10-19):方針は配当性向30%以上で、新しい中計に総還元の数値は無い(2026年8月の25億円の自社株買いのみ)。中立の還元を純利益の合計の53%から40%(配当30%+自社株買い10%)に下げ、留保は自己資本に残した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ディーラー向けのコーティングは、まだ入口にすぎない。施工率は一部で1割台と低く、社長は5〜6割まで上げられれば売上は2〜3倍になりうると語っている。新車の台数が減っても、1台あたりの付加価値が上がれば売上は伸びる。
保護フィルムが加われば、ディーラーの収益源が一つ増える。下取りの査定が上がるため、ディーラー側にも導入の動機がある。トヨタ系・日産系で培った関係を、他のメーカー系に広げる余地も大きい。
検知器は、義務化のあとも法人の買い替えが続く。公式サイトによれば5万社以上が使っており、交換の需要が積み上がる土台がある。
海外は拠点が10か国あり、拠点は軽い。中国、台湾、ベトナムを強化する方針で、日本車の保有増がそのまま追い風になる。
前の中計は目標を上回って終わり、14期連続の増収、11期連続の最高益だった。利益率は24%の高さで、現金は260億円ある。買収に成功すれば、販路が一気に広がる。商社機能を持つ会社がグループに加わり、海外の販路が広がったという実例もある。
慎重な見方
新車の台数は、10年かけて確実に減る。登録車はすでに前年比3.5%減だ。施工率の上昇が数量減を打ち消す保証はない。KeePer技研の新車ディーラー向けが、会社の目標の50億円に届かず約32億円で止まったことは、ディーラーの現場が思ったほど動かないことを示している。
検知器は、義務化の特需が一度終わった。2025年3月期は売上が4分の3に落ちた。直近の15.7億円は戻りだが、買い替えが続く前提は、まだ証明されていない。価格も技術の進歩で下がる。
ABTは、東京海上との契約に収益が偏る。損保が自前で処理を始めたり、契約先を変えたりすれば、売上の2割強が揺らぐ。
最大の取引先ユー・エス・エスは売上の12%を占める。ディーラー向けは、大手ディーラーが調達を一本化して値下げを迫る危険がある。
そして買収だ。経営陣は小さな買収しか経験がないのに、大型案件に挑むと宣言した。260億円の現金が、減損に化ける危険は小さくない。利益率24%は、これを超えて続くと考えにくい。
どちらに重みを置いたか
事業の質と財務の強さは、強気の言い分が正しい。利益率の高さと無借金は、10年先まで中核を支える。
一方で、買収で現金を使い損ねる心配と、損保・取引先への集中は、慎重な言い分が正しい。堀は深くない。ここは確率を悲観寄せにした。
確率は中立を厚くし、悲観は構造的な負けとして1割に置いた。結果として、確率をかけた本質価値は今の値段を1割ほど上回る。やや割安だが、強く買える水準ではない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,180 円2,323 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 775 円431 億円)。 今の値に割り戻すと 2,852 円1,585 億円、今との差 +40.9%、 期待の年率 +9.4%(資本コスト 6.3%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 7,083 円3,937 億円 | 997 円554 億円 | +299.2% | +14.8% | 646 円359 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,874 円3,265 億円 | 892 円496 億円 | +234.3% | +12.8% | 1,353 円752 億円 |
| 中立 | 40% | 5,007 円2,783 億円 | 817 円454 億円 | +187.7% | +11.1% | 2,329 円1,295 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,746 円971 億円 | 658 円366 億円 | +18.8% | +1.7% | 529 円294 億円 |
| 悲観 | 10% | 516 円287 億円 | 448 円249 億円 | −52.4% | −7.1% | 96 円54 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,180 円2,323 億円 | 775 円431 億円 | +144.8% | +9.4% | 4,955 円2,754 億円 |
今の株価時価総額 2,024 円1,125 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.3% を下回るほど割高。
楽観 8% コーティングの施工率が上がり、海外と買収が当たる 利益 181 億円 · PER 21.2 倍 · 株価時価総額 7,083 円3,937 億円
ディーラーでのコーティングが、新車の標準的な売り物に育つ。施工率が上がり、保護フィルムも収益源に加わる。トヨタ系・日産系で築いた関係を他のメーカー系にも広げ、取扱いの台数が3割増える。
海外は、中国・台湾・ベトナムでの販売が軌道に乗る。買収した商社機能の会社が自社ブランドの販路を開き、海外の取扱いは実質で約2倍になる。
大型の買収も当たる。現金のうち使い道に回した分が、稼ぎに変わる。利益率は25%台を保ち、営業利益は今の2倍になる。
検知器は法人の買い替えが定着し、台数が3割増える。ABTは修理費の上昇で全損認定が増え、台数が1割伸びる。個人株主も増え、還元は厚くなる。創業80年の現場主義が、10年続く姿だ。
- 国内ケミカル(コーティング剤等・ディーラー向け):数量 195(施工対象の台数(万台。新車・認定中古車・既販車の合計))× 価格 2.10(1台あたり商材売上(万円・名目))→ 売上 410 億円・営業利益 123 億円。施工台数150万台の1.3倍、1台あたり売上は物価を上回って1.4倍、利益率30%
- アルコール検知器(ソシアック):数量 10.2(販売台数(万台))× 価格 2.50(1台あたり売上(万円・名目))→ 売上 26 億円・営業利益 8 億円。台数1.3倍、価格1.25倍、利益率33%
- 海外部品・自社品の輸出とその他:数量 1,501(海外向けなどの出荷点数(万点))× 価格 0.20(1点あたり売上(億円/万点・名目。0.15は1点あたり約0.15万円))→ 売上 302 億円・営業利益 82 億円。取扱い1.9倍(実質)、価格1.34倍、利益率27%
- 自動車処分(ABT):数量 4.4(処分の取扱台数(万台))× 価格 36(1台あたり売上(万円・名目))→ 売上 159 億円・営業利益 18 億円。台数1.1倍、1台あたり1.34倍、利益率11%
倍率:事業の純利益 177 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.0% が k 6.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 2.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)188 億円。全体の PER 21.16 倍、時価総額 3,937 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:施工率の上昇、保護フィルム、海外、大型買収の成功が重なる道は描ける。ただ、新車の数が減るなかで、すべて当たる確率は低い。
やや楽観 20% 中計どおり、施工率と海外がじわり伸びる 利益 152 億円 · PER 20.7 倍 · 株価時価総額 5,874 円3,265 億円
中計の路線がおおむね実を結ぶ。施工率は少しずつ上がり、コーティングの台数が1割7分ほど増える。保護フィルムは小さな柱になる。
海外は、拠点を軽く保ったまま取引を広げ、取扱いは実質で6割増える。価格は物価並みに上がる。
大型の買収は1件だけ行い、まずまずの成果を出す。営業利益率は24%台を維持し、営業利益は今の1.7倍になる。
検知器は買い替えで横ばいから微増、ABTは災害のある年に台数が増える。還元は配当と自社株買いで利益の4〜5割が株主に戻る。前の中計が目標を超えて着地したように、今回も計画に近い水準で終わる姿だ。人件費の上昇は工賃ではなく商材の値上げで吸収でき、現場の定着率も保たれる。
- 国内ケミカル(コーティング剤等・ディーラー向け):数量 176(施工対象の台数(万台。新車・認定中古車・既販車の合計))× 価格 2.01(1台あたり商材売上(万円・名目))→ 売上 353 億円・営業利益 102 億円。施工台数1.17倍、価格1.34倍、利益率29%
- アルコール検知器(ソシアック):数量 9.0(販売台数(万台))× 価格 2.44(1台あたり売上(万円・名目))→ 売上 22 億円・営業利益 7 億円。台数1.15倍、価格1.22倍、利益率32%
- 海外部品・自社品の輸出とその他:数量 1,264(海外向けなどの出荷点数(万点))× 価格 0.20(1点あたり売上(億円/万点・名目。0.15は1点あたり約0.15万円))→ 売上 254 億円・営業利益 66 億円。取扱い1.6倍、価格1.34倍、利益率26%
- 自動車処分(ABT):数量 4.2(処分の取扱台数(万台))× 価格 36(1台あたり売上(万円・名目))→ 売上 152 億円・営業利益 16 億円。台数1.05倍、価格1.34倍、利益率10.5%
倍率:事業の純利益 148 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.7% が k 6.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 2.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)210 億円。全体の PER 20.7 倍、時価総額 3,265 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:前の中計は目標を上回って終えており、路線が大きく外れずに進むのは十分ありうる。ただ、競合のKeePerが新車ディーラーで伸び悩んだ例もあり、厚くは置かなかった。
中立 40% 新車は細るが、施工率と物価で伸びる 利益 130 億円 · PER 20.3 倍 · 株価時価総額 5,007 円2,783 億円
新車の台数は細るが、施工率の上昇がそれを上回り、コーティングの台数は5%ほど増える。物価の上昇は商材の値段に乗る。
保護フィルムは育つが、利益を左右するほどの規模にはならない。海外は取扱いが実質で4割増え、中東の混乱のような波があっても、数量は戻る。
利益率は、KeePerなど競合との競り合いと人件費の上昇で、24%から23%台へ少し下がる。営業利益は今の1.4倍になる。
検知器は特需の山を越え、台数は横ばいだ。価格はセンサーの性能向上と競争で、物価に届かず10年で1.2倍にとどまる。ABTも台数は横ばいだ。
買収は小さな案件を続け、大型は見送るか、まずまずの結果にとどまる。現金は積み上がる一方で、自社株買いも続く。大きく化けず、大きく崩れない10年である。
- 国内ケミカル(コーティング剤等・ディーラー向け):数量 158(施工対象の台数(万台。新車・認定中古車・既販車の合計))× 価格 2.01(1台あたり商材売上(万円・名目))→ 売上 317 億円・営業利益 89 億円。施工台数1.05倍、価格は物価並みの1.34倍、利益率28%
- アルコール検知器(ソシアック):数量 7.9(販売台数(万台))× 価格 2.40(1台あたり売上(万円・名目))→ 売上 19 億円・営業利益 6 億円。台数は横ばい、価格1.2倍(技術の進歩で物価に届かない)、利益率30%
- 海外部品・自社品の輸出とその他:数量 1,106(海外向けなどの出荷点数(万点))× 価格 0.20(1点あたり売上(億円/万点・名目。0.15は1点あたり約0.15万円))→ 売上 222 億円・営業利益 56 億円。取扱い1.4倍、価格1.34倍、利益率25%
- 自動車処分(ABT):数量 4.0(処分の取扱台数(万台))× 価格 36(1台あたり売上(万円・名目))→ 売上 145 億円・営業利益 14 億円。台数は横ばい、価格1.34倍、利益率10%
倍率:事業の純利益 126 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 6.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 2.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)225 億円。全体の PER 20.27 倍、時価総額 2,783 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新車の数量は細り、物価分の値上げと施工率の上昇がそれを補う姿がもっとも起こりやすい。実績に近く、中立を厚く置いた。
やや悲観 22% ディーラーの値引き要求と買収の傷で利益率が痩せる 利益 87 億円 · PER 10.2 倍 · 株価時価総額 1,746 円971 億円
新車の台数が人口とともに減り、ディーラーが調達先を絞って値引きを迫る。コーティングの台数は1割減り、値上げも物価に追いつかない。
海外は、中東の混乱と為替の影響を受け、取扱いは1割しか伸びない。KeePerが新車ディーラーでも攻勢を強め、シェアを一部失う。
営業利益率は19%まで下がる。大型の買収は高い値段で行い、のれんの償却と減損で利益が削られる。
検知器は買い替えが続かず、台数が2割減る。ABTは契約先の損保が処理を一部内製に切り替え、台数が1割減る。
それでも、無借金の財務は崩れない。還元は縮むが、配当は守る。優良な製造業から、普通の会社に近づく10年である。
- 国内ケミカル(コーティング剤等・ディーラー向け):数量 135(施工対象の台数(万台。新車・認定中古車・既販車の合計))× 価格 1.95(1台あたり商材売上(万円・名目))→ 売上 263 億円・営業利益 61 億円。施工台数0.9倍、値上げは物価に届かず1.30倍、利益率23%
- アルコール検知器(ソシアック):数量 6.3(販売台数(万台))× 価格 2.20(1台あたり売上(万円・名目))→ 売上 14 億円・営業利益 4 億円。台数0.8倍、価格1.1倍、利益率25%
- 海外部品・自社品の輸出とその他:数量 869(海外向けなどの出荷点数(万点))× 価格 0.20(1点あたり売上(億円/万点・名目。0.15は1点あたり約0.15万円))→ 売上 170 億円・営業利益 34 億円。取扱い1.1倍、価格1.30倍、利益率20%
- 自動車処分(ABT):数量 3.6(処分の取扱台数(万台))× 価格 35(1台あたり売上(万円・名目))→ 売上 126 億円・営業利益 11 億円。台数0.9倍、価格1.30倍、利益率8.5%
倍率:ROE約9.9%。k 6.25%。RONIC=8.6%、g 3.75%から正当化PER=16.1倍。ただし利益率が痩せ、買収の傷もある構造的な負けなので、稼ぐ力から出して11.0倍に置いた(上限の7割に引き上げない)。余った現金は筋書きに書かず、今の200億円の0.75倍=150億円で、時価総額は(純利益−150億円×1.4%)×PER+150億円×0.5。(還元を方針に合わせて再計算:還元 520→366 億円、自己資本 1000→1154 億円、事業の ROE 9.9%→8.4%、正当化 PER の上限 16.1→14.9 倍。上限に対する置き方の割合は変えず 10.17 倍)
確率:損保・ディーラー・特定の取引先に偏った収益構造と、大型買収の失敗の恐れを重く見て、慎重側をやや厚く置いた。
悲観 10% 新車の急減と契約の喪失で、優良さを失う 利益 28 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 516 円287 億円
構造的な負けの筋書きだ。新車の台数が想定より速く減り、大手ディーラーが調達を一本化して、商材の値段を下げさせる。コーティングの取扱いは3分の1減り、値上げもできなくなる。
検知器は低価格の輸入品に押され、台数が4割落ちる。ABTは東京海上との契約を失い、処分の台数が4割減る。
海外は、中東の紛争の長期化や貿易の摩擦で、取扱いが3割縮む。大型の買収は失敗して、のれんの減損が出る。
営業利益率は9%まで下がり、営業利益は今の3割にとどまる。優良な製造業ではなくなり、現金と小さな事業が残る会社になる。配当は守るが、自社株買いはできない。
- 国内ケミカル(コーティング剤等・ディーラー向け):数量 97.5(施工対象の台数(万台。新車・認定中古車・既販車の合計))× 価格 1.80(1台あたり商材売上(万円・名目))→ 売上 176 億円・営業利益 25 億円。施工台数0.65倍、価格1.2倍、利益率14%
- アルコール検知器(ソシアック):数量 4.7(販売台数(万台))× 価格 2.00(1台あたり売上(万円・名目))→ 売上 9 億円・営業利益 1 億円。台数0.6倍、価格は横ばい、利益率15%
- 海外部品・自社品の輸出とその他:数量 553(海外向けなどの出荷点数(万点))× 価格 0.18(1点あたり売上(億円/万点・名目。0.15は1点あたり約0.15万円))→ 売上 100 億円・営業利益 12 億円。取扱い0.7倍、価格1.2倍、利益率12%
- 自動車処分(ABT):数量 2.4(処分の取扱台数(万台))× 価格 32(1台あたり売上(万円・名目))→ 売上 78 億円・営業利益 4 億円。台数0.6倍、価格1.2倍、利益率5%(契約先の喪失)
倍率:ROE約3.4%はk 6.25%に届かず、正当化PERの上限は1÷k=13.8倍。構造的に負けた会社として、稼ぐ力から出して8.0倍に置いた。余った現金は筋書きに書かず今の200億円の0.5倍=100億円で、時価総額は(純利益−100億円×1.4%)×8.0+100億円×0.5。この額は今の純現金260億円とほぼ同じ水準で、床は割っていない。(還元を方針に合わせて再計算:還元 250→249 億円、自己資本 886→887 億円、事業の ROE 3.4%→3.4%、正当化 PER の上限 13.8→13.8 倍。上限に対する置き方の割合は変えず 8.00 倍)
確率:新車の急減とディーラーの調達一本化、損保の契約変更が重なる構造的な負け。競合の少ない寡占的な商材なので、低めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内ケミカル(コーティング剤等・ディーラー向け)
ボディコーティング剤CPCなどを、メーカー系のカーディーラーに売り、施工の技術指導まで担う。
| 数量施工対象の台数(万台。新車・認定中古車・既販車の合計) | 価格1台あたり商材売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 1.50 | 225 | 65 |
| 10 年後 中立 | 158 | 2.01 | 317 | 89 |
取り方:部品・用品等販売の売上359億円から、検知器15.7億円と海外・その他の推定を引いた国内ケミカルを約225億円と置く(国内と海外の比は2023年の公表の58対24が目安、開示なし)。1台あたりの商材売上を1.5万円と置いて台数を約150万台とした(新車453万台の約3分の1に当たる。推定)。利益は部品・用品等販売の営業利益103億円を事業間で配分した推定。
アルコール検知器(ソシアック)
法人・官公庁向けのアルコール検知器を製造・販売する。2023年12月の義務化で需要が急増した。
| 数量販売台数(万台) | 価格1台あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7.9 | 2.00 | 16 | 5 |
| 10 年後 中立 | 7.9 | 2.40 | 19 | 6 |
取り方:2026年3月期の検知器売上15.71億円(開示)。1台あたりの売上を2万円と置いて台数を約7.9万台とした(推定)。利益率は部品・用品等販売の平均を参考に33%と置いた。今後の価格は、センサーの性能向上と競争で物価に届かず、10年で1.2倍とみる。
海外部品・自社品の輸出とその他
日本車向けの補修部品や自社の商材を、約10の国と地域の営業拠点から売る。商社機能と、2025年に取り込んだ森田産業なども含む。
| 数量海外向けなどの出荷点数(万点) | 価格1点あたり売上(億円/万点・名目。0.15は1点あたり約0.15万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 790 | 0.15 | 119 | 33 |
| 10 年後 中立 | 1,106 | 0.20 | 222 | 56 |
取り方:部品・用品等販売の売上359億円から国内ケミカルと検知器を引いた残り(開示なし、推定)。出荷点数は、1点あたり平均売上を約0.15万円(補修部品と用品の混合)と置いて約790万点とした推定。数量は実質の点数、物価は価格に入れる(ドル円は150円で固定)。
自動車処分(ABT)
損保が全損と認めた車の処分を代行し、売却額の一部を収益とする。廃車の在庫は持たない。
| 数量処分の取扱台数(万台) | 価格1台あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.0 | 27 | 108 | 11 |
| 10 年後 中立 | 4.0 | 36 | 145 | 14 |
取り方:自動車処分事業の売上107.78億円・利益10.78億円(開示)。台数は開示がなく、1台あたり売上を約27万円(中古車の売却額に近い水準)と置いて約4万台とした(推定)。
リスクと懸念
新車の台数の減少
国内の新車販売は人口減で長く細る。直近でも登録車は前の年より3.5%減った。施工率の上昇がこれを埋める保証はなく、ディーラー向けの数量が落ちれば、利益率の高い商材ほど利益の落ち込みが大きい。
損保との処分契約への集中
自動車処分事業は、子会社ABTと東京海上日動との契約に収益が偏る。契約の見直しや、損保が自前で処理を始める動きが出れば、売上の2割強が揺らぐ。災害の多い年は台数が増えるが、年ごとの振れも大きい。
大型買収での現金の使い損ない
新しい中計は大型のM&Aに挑むとしている。これまでは自己資金の範囲の小さな案件が中心で、大型の経験はない。260億円の現金が、割高な買収やのれんの減損に変わる危険がある。
取引先とディーラーへの集中
最大の取引先ユー・エス・エスが売上の12%を占める。ディーラー向けも、トヨタ系・日産系に偏る。大手ディーラーが調達を一本化して値下げを迫れば、利益率が崩れやすい。
検知器の需要の持続
義務化の特需のあと、売上は一度4分の3に落ち、直近は15.7億円に戻った。買い替えが続くかは、まだ確かめられていない。価格は技術の進歩で下がりやすく、低価格品との競争もある。
海外の地政学リスク
海外は約10の国と地域に営業拠点がある。直近の期は中東の情勢の急変で、一部の売上が止まった。為替と貿易の摩擦も響く。拠点が小さいぶん撤退は早いが、売上は大きく振れる。
競合の追い上げ
KeePer技研は新車ディーラー向けにも力を入れている。ディーラー向けの商材は、一度切り替わると戻りにくい反面、価格競争に入ると利益率が下がる。化学品の商材は、技術の差が縮みやすい。
今後の分かれ目
- コーティングの施工率が上がり、ディーラー向けの売上が新車の台数を上回って伸び続けたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げる。中立の台数の前提(10年で5%増)を上方に直す。
- 大型の買収が決まり、現金の使い道が見えてきたら
- 買収先の稼ぐ力と値段で、余った現金の戻り方の見方を変える。安い値段で良い会社を買うなら価値は増え、高い値段なら減る。
- 東京海上との契約が見直される、または損保が自前処理に動いたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。自動車処分事業の台数を下げる。
- 検知器の売上が15億円台を保ち、買い替えが定着したら
- 中立の検知器の台数を横ばいから微増へ直す。
- 営業利益率が23%を割り込み、2年続けて下がったら
- 競合と値引き要求が効いてきたと見て、やや悲観に確率を寄せる。
- 売出しのあと、自社株買いが続き、還元の方針が上がったら
- 余った現金の戻り方を0.5から1.0へ見直せる。
見ておくもの
- コーティング剤の施工率と、ディーラー向けの売上の伸び
- 営業利益率(今は24%台)の推移
- 大型M&Aの案件と、のれんの残高(今は約30億円)
- ABTの処分台数と、東京海上との契約の動き
- 検知器の売上(今は約16億円)と買い替えの動き
倍率と資本コストの決め方
今の株価・PERは見ずに、セグメントごとに数量×価格で売上を積み、利益率から純利益を出した。倍率は式(k 6.25%、g 3.75%、RONIC=k+1/2×(ROE−k))の上限の7〜8.5割で、利益の質に応じて置いた。悲観側は稼ぐ力(純利益÷k)で置き、今の純現金を割らない。余った現金は帳簿の半分で足した。数量は施工台数・検知器の台数・出荷点数・処分台数の実質で、物価は価格の側に入れた(検知器は技術の進歩で物価に届かない)。新リース会計基準(2028/03期から)で営業利益と負債の形が変わるが、営業拠点が小さく影響は小さいとみて、10年後の数字は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.04→21.16 倍・やや楽観 PER 14.07→20.7 倍・中立 PER 13.79→20.27 倍)。
資本コスト 6.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に品質の調整-0.25%を加え7.25%。個別のリスク(損保への集中・大型買収)は筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.25% → 6.25%。