結論
東テクは、半導体の商社ではない。ダイキン工業の業務用空調を設備工事会社へ卸し、自らも施工する会社だ。1960年からの代理店で、国内最大級を名乗る。ビル制御のアズビルの特約店でもある。名前から電子部品商社と誤解されやすいが、稼ぎの源は建物の設備の新設と更新である。
筆者の結論は、10年で見た本質価値は今の値段を下回る、というものだ。事業の質は高い。しかし今の利益は過去最高で、ここから10年、営業利益率を10%で保てるとは考えにくい。
強みは、仕入れ先との長い関係と、工事・保守まで抱える一貫体制だ。工事の粗利益率は3割を超える。新築に頼らず、更新と保守に重心を移す方針も理にかなう。純現金で自己資本比率は6割を超え、財務は固い。
弱みは、値段の決定権がメーカーにあること、人手が成長の天井になること、利益が数年で倍に跳ねた直後であることだ。中立でも、利益は今より4割近く増えるだけで、倍率は伸びない。
安全域は厚くない。事業そのものが傷む筋書きの確率は低い。それでも悪い筋書きでは、今の時価総額を大きく割る。良い会社だが、払う値段が見合うかは別の話だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、東テクは「良いが、並外れてはいない」会社だ。60年続く代理店の地位、工事と保守を抱える体制、固い財務は評価できる。しかし、値段を決めるのは仕入れ先で、仕事の量を決めるのは建設市場と技術者の数である。経営者が自分で握れる要素は多くない。
オーナーとして持ち続けたいかを問えば、答えは条件つきになる。利益が10%の営業利益率で保たれるなら、持ち続けたい。しかし、その保証はない。過去の利益率は4〜6%台が長かった。いまの水準は、実力の上振れを含むと見るのが自然だ。
資本の使い方は、悪くない。借金に頼らず、配当を厚くし、買収は小さい。ただ、稼いだ利益の戻りは遅く、現預金を厚めに持つ癖がある。会社自身が余剰を投資と還元に回すと言い出したのは、前進である。
安全域は、十分とは言えない。中立の筋書きでは、利益は今より4割近く増える。それでも倍率は、事業の経済性から12倍前後にとどまる。悪い筋書きでは、利益が今の3分の1まで落ちる。差を見る限り、慎重に構えるのが筋だ。
筆者がいちばん気にしているのは、この利益水準がどこまで続くかだ。計装・保守の比重が上がり、利益の質が変わるなら、評価は上がる。そうならなければ、普通の優良な商社の利益に戻る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は、ダイキンの業務用空調だ。メーカーから機器を仕入れ、サブコン(設備工事の専門会社)に卸す。自社でも設置と保守を請け負う。売上の4割強がここで、会社の祖業にあたる。ビルの大型再開発、データセンター、半導体工場、学校の空調など、案件が大きいほど商社の腕が試される。
利益の伸びを引っ張ったのは計装事業だ。ビルの空調や電力を自動で制御する仕組みを設計し、施工して保守する。アズビルの大手特約店で、利益率は高い。前の中期計画では、売上が計画を4割近く上回った。新築7、既設3の比率を、5対5へ寄せようとしている。
エネルギー事業は、太陽光、蓄電池、非常用発電機など電源まわりを扱う。データセンターと工場向けが重点だ。国内グループ会社は、日本ビルコン(保守・修繕)やアイ・ビー・テクノス(計装の自社製品)などで、売上の4分の1を占める。海外はシンガポールのBMS(ビル管理システム)が中心で、まだ小さい。
総利益の構成は、商品販売が5割強、工事が4割強だ。物を転がすだけの商社より、工事と保守で稼ぐ会社だと見たほうが実態に近い。保守契約は景気が悪くても残るため、売上の底を支える。
最近の業績は目覚ましい。2026年3月期は売上1,700億円、営業利益171億円で、いずれも過去最高だった。10年前の営業利益率は4%台で、いまは10%を超える。この差が本物の力なのか、山なのかが、評価の分かれ目になる。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、仕入れ先との長い関係と、工事・保守まで含めた総合力にある。ダイキンとの代理店契約は、60年以上続く。ダイキンは業務用空調の国内首位で、その製品を大量に、しかも工事付きで売れる代理店は限られる。ただし堀は「普通」と置く。値段を決めるのはメーカーで、代理店は登録ベースで全国に約380社あるからだ。
いまの高い利益率は、三つの要因が重なっている。大型案件の増加、メーカーの値上げに伴う粗利の増加、計装事業の拡大である。このうち最も長持ちするのは、計装と保守だ。大型案件の山は、受注の年度ずれで簡単に崩れる。
資本効率は高い。ROEは17.8%で、過去10年の中央値12.8%を5ポイント上回る。ただし利益が増えた分、自己資本も積み上がっている。会社も資本コストを9〜10%と見て、ROEは12〜15%を目標にしている。筆者も、今の水準より、この目標のあたりへ戻ると見る。
最大の制約は人だ。社員は約2,900人で、技術者の確保が売上の天井を決める。会社は2030年度に約3,600人を計画する。人件費は上がり続けるため、人を増やすほど利益率は薄くなる。
経営は堅実だ。第一次の中期計画を大きく上回り、第二次では目標を引き上げた。配当は「純資産の6%+累進」の方針に変えた。弱みは、大きな買収の実績がないことと、政策保有株が重いことだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の中心は、非住宅の建築設備だ。業務用空調の国内市場は、メーカー出荷でおよそ5,000億円で、2030年度に向けて名目で2割弱伸びる見通しがある。これは大半が値上げの分で、台数の伸びは小さい。
追い風は三つある。まず、大都市の再開発とデータセンターの新設だ。次に、1990年代に入れた空調機の更新が、これから本格化する。さらに、新冷媒(R32)への切り替えと省エネ規制が、買い替えを後押しする。
一方で、富士経済は2025年以降、建築物のストックが縮み、更新需要も減ると見る。新築は人口減で頭打ちになる。筆者は、この10年を「前半は強く、後半は鈍る」形と見ている。数量は実質でほぼ横ばいか、わずかな増加にとどまる。
競争の形は、メーカー、代理店、サブコンの三層だ。ダイキンの販売会社は、エンドユーザーに直売せず、商社や設備工事店の代理店に卸す。東テクは代理店の中で最大級だが、メーカーが工事会社と直接組む動きや、代理店同士の値引き競争は、いつでも起こりうる。
もうひとつの圧力は、人手不足と工期の制約だ。働き方の規制で、同じ人数でこなせる工事量は減る。逆に言えば、技術者を持つ会社に仕事が集まる。計装・保守のように技術者を抱え込む事業は、この環境ではむしろ守りやすい。
半導体工場やデータセンターの空調は、確かに需要を押し上げる。ただ、東テクにとっては需要先の一つにすぎない。半導体の循環を、そのまま受ける会社ではない。
資本政策と M&A
還元の方針は、第二次中期計画で変わった。配当は「純資産の6%+累進配当」で、利益の変動に左右されにくい形だ。5年間で約260億円を見込む。自社株買いは機動的に行うが、中心は社員向けの株式付与の目的だ。
手元の現預金は、月商の1.5か月分、約270億円を目安にする。それを超える分は、投資か株主還元に回すと明言している。5年間の戦略投資は約500億円で、営業拠点の拡充、M&A、人的資本が柱だ。
前の計画では、三王機工の子会社化が目立つ買収だった。買い物は小さく、現金で払える範囲に収まる。海外では、インドネシアとベトナムの子会社を、2030年度までに連結へ入れる計画だ。
政策保有株は、2030年度末までに連結純資産の15%以下へ減らす。売却代金は投資、負債の削減、株主還元に使う方針だ。実行すれば、使える資本が増える。
株主構成には特徴がある。筆頭株主の日本レイが約12.6%、ダイキン工業が約7%を持つ。ダイキンが株主であることは、仕入れ先との関係を強める。一方で、大株主の持ち分が重いことは、買収や再編が起きた場合の動きを読みにくくする。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
空調、計装、エネルギーの全部で、需要が重なる10年になる。データセンターと半導体工場の新設が続き、再開発の大型案件が相次ぐ。1990年代に入れた設備の更新が一斉に来る。東テクは大型案件を受けられる数少ない代理店として、取扱量をさらに伸ばせる。
利益の質も上がる。計装の保守契約が積み上がり、新築7対既設3の構成が、5対5まで変わる。保守は景気に左右されず、利益率が高い。工事の粗利益率が3割台を保てば、全体の営業利益率は10%を超えたまま定着する。
物価の上昇も味方になる。機器の値上げと工事単価の上昇を、顧客に転嫁できる。技術者の不足は、技術者を持つ会社への発注を集める。会社が掲げる2030年度の売上2,200億円、経常利益220億円は、通過点にすぎない。
資本の面でも余地がある。現預金を月商1.5か月分に絞り、政策保有株を売れば、投資と還元に回せる資金が生まれる。ROEが15%を超える状態が続けば、倍率も上がる。
海外は、シンガポールのBMS事業を土台に、インドネシア、ベトナムへ広がる。国内の新築が細っても、成長する地域で補える。小さな買収を積み重ねる型は、失敗しても傷が浅い。今の利益水準は山ではなく、新しい平常という見方が成り立つ。
慎重な見方
今の利益は山だ。営業利益率10%は、データのある過去30年で最高で、わずか3年前は7%だった。大型案件の集中、メーカーの値上げによる粗利の膨らみ、計装の好調が、同時に出ている。この三つが同時に続くことはまれだ。
需要の側にも陰りがある。新築は人口減と、建築費の高騰で頭打ちになる。富士経済も、2025年以降はストックの縮小で更新需要が減ると見る。データセンターは、建設の遅れも報じられている。
売り手としての立場も弱い。仕入れ値を決めるのはダイキンで、代理店は全国に約380社ある。メーカーが大口の工事会社と直接組む動きが強まれば、東テクの取り分は削られる。サブコン側も、人手不足で受注を絞るため、機器だけが売れても工事が追いつかない。
人件費は、物価を上回って上がる。会社は人を2割強増やす計画だが、売上がそれほど伸びなければ、固定費だけが残る。平均年収は、1,000万円を目標に掲げる。この人件費は、利益率を確実に押し下げる。
財務は固くても、利益が落ちれば倍率も縮む。今の規模の利益を前提に、10年後も同じ倍率を払う理由はない。悪い筋書きでは、営業利益は今の3分の1まで落ちる。良い会社であることと、割安であることは別だ。
どちらに重みを置いたか
需要の面では、更新と保守の追い風が確かで、会社の実力も高い。ただ、利益率が過去最高にあることと、値段と人の両方に制約があることが、強い逆風になる。強気の主張は「新しい平常」だが、その根拠は数年分の実績にすぎない。
そのため、確率は慎重な側へやや寄せた。楽観は8%、やや楽観は21%に抑え、やや悲観を24%、悲観を13%と置いた。悲観は、メーカーの直接取引と建設投資の反落が同時に起きる複合の筋書きで、起きれば10年の価値は大きく下がる。中立は、利益が4割近く増える一方で、倍率は事業の経済性に見合う12倍前後と見た。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,049 円2,891 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,202 円903 億円)。 今の値に割り戻すと 4,954 円2,032 億円、今との差 +13.1%、 期待の年率 +7.8%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 13,905 円5,704 億円 | 3,052 円1,252 億円 | +287.1% | +14.5% | 1,357 円556 億円 |
| やや楽観 | 21% | 10,467 円4,294 億円 | 2,577 円1,057 億円 | +197.8% | +11.5% | 2,739 円1,124 億円 |
| 中立 | 34% | 8,587 円3,522 億円 | 2,216 円909 億円 | +146.6% | +9.4% | 3,673 円1,507 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,904 円1,191 億円 | 1,936 円794 億円 | +10.5% | +1.0% | 1,161 円476 億円 |
| 悲観 | 13% | 936 円384 億円 | 1,531 円628 億円 | −43.7% | −5.6% | 321 円132 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,049 円2,891 億円 | 2,202 円903 億円 | +111.2% | +7.8% | 9,251 円3,795 億円 |
今の株価時価総額 4,380 円1,797 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 建設投資が重なり、取扱シェアも伸びる 利益 286 億円 · PER 19.9 倍 · 株価時価総額 13,905 円5,704 億円
データセンター、半導体工場、都心の再開発が10年続き、ダイキン製の空調の大型案件を受けられる代理店として取扱量が伸びる。空調のシェアは12%から13%台へ上がる。計装と保守の積み上げで、新築7対既設3の構成は5対5に近づく。会社が掲げる2030年度の目標は通過点になり、営業利益率は10%台を保つ。値上げと工事単価の上昇は、顧客へ転嫁できる。技術者の確保は進み、売上は今の2倍を超える。政策保有株の売却と現預金の圧縮で生んだ資金は、小さな買収と還元に回る。海外はシンガポールを軸にASEANへ広がる。建設投資が実質で伸び続け、東テクが選ばれ続ける、最も良い10年である。
- 空調事業:数量 771(国内の業務用空調設備の市場(機器出荷、実質・億円)× 東テクの取扱シェア)× 価格 1.38(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 1,327 億円・営業利益 126 億円。市場(実質)5750億円×取扱シェア、価格1.38倍
- 計装・エネルギー事業:数量 670(国内の非住宅向け計装・電源設備の需要(実質・億円)× 東テクの取扱シェア)× 価格 1.38(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 1,204 億円・営業利益 162 億円。市場(実質)10800億円×取扱シェア、価格1.38倍
- グループ会社(国内の保守・施工と海外):数量 554(国内のビル設備の保守・更新・施工需要(実質・億円)× 取扱シェア)× 価格 1.38(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 939 億円・営業利益 94 億円。市場(実質)13200億円×取扱シェア、価格1.38倍
倍率:事業の純利益 286 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.9 倍。全体の PER 19.86 倍、時価総額 5,680 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年の間、建設投資の実質の伸び、取扱シェアの上昇、利益率の維持が、同時に続く必要がある。三つが重なるのはまれなので、8%にとどめた。
やや楽観 21% 更新と保守の積み上げで計画を達成 利益 221 億円 · PER 19.1 倍 · 株価時価総額 10,467 円4,294 億円
更新需要と計装・保守の積み上げが、予想どおりに進む。空調の取扱量は市場の伸びを少し上回り、計装・エネルギーは、データセンターと工場向けの受注で堅調な伸びを保つ。営業利益率は今よりやや低い9%台に落ち着く。会社が計画した2030年度の売上2,200億円は達成し、そこから先は物価並みの成長に移る。技術者の増員は、ほぼ計画どおりに進む。配当は純資産の6%を軸に累進し、自社株買いは社員向けが中心になる。海外はシンガポール以外でも連結が増える。堀は普通のままだが、事業の底上げで資本の稼ぎが保たれる、堅実な好調の10年だ。
- 空調事業:数量 685(国内の業務用空調設備の市場(機器出荷、実質・億円)× 東テクの取扱シェア)× 価格 1.36(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 1,162 億円・営業利益 99 億円。市場(実質)5350億円×取扱シェア、価格1.36倍
- 計装・エネルギー事業:数量 566(国内の非住宅向け計装・電源設備の需要(実質・億円)× 東テクの取扱シェア)× 価格 1.36(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 1,003 億円・営業利益 120 億円。市場(実質)9600億円×取扱シェア、価格1.36倍
- グループ会社(国内の保守・施工と海外):数量 504(国内のビル設備の保守・更新・施工需要(実質・億円)× 取扱シェア)× 価格 1.36(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 841 億円・営業利益 76 億円。市場(実質)12600億円×取扱シェア、価格1.36倍
倍率:事業の純利益 221 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.1 倍。全体の PER 19.14 倍、時価総額 4,230 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:更新と保守の積み上げが計画どおりに進み、会社の2030年度の目標を達成する筋書き。実績の強さを踏まえ、2割強に置いた。
中立 34% 前半は強く後半は鈍る。利益率は平常へ 利益 182 億円 · PER 18.7 倍 · 株価時価総額 8,587 円3,522 億円
需要は、前半に強く、後半に鈍る。大都市の再開発、データセンター、既設の更新が前半を支え、新築の頭打ちが後半に効く。空調は実質の取扱量がわずかに増え、価格は物価並みに上がる。計装と保守は着実に伸びる。ただ、人手不足で売上の伸びは年4%台にとどまる。営業利益率は、今の10%台から9%近くへ下がる。人件費の上昇と、案件の競争が、粗利益率の上振れを削る。それでも利益は、今より4割近く増える。配当は純資産の6%を軸に、自社株買いも加えて利益の約6割を戻す。M&Aは小さな買収が中心で、堀は普通のままだ。良い会社が良いまま、特別な超過成長はない10年である。
- 空調事業:数量 630(国内の業務用空調設備の市場(機器出荷、実質・億円)× 東テクの取扱シェア)× 価格 1.34(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 1,054 億円・営業利益 84 億円。市場(実質)5000億円×取扱シェア、価格1.34倍
- 計装・エネルギー事業:数量 493(国内の非住宅向け計装・電源設備の需要(実質・億円)× 東テクの取扱シェア)× 価格 1.34(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 860 億円・営業利益 95 億円。市場(実質)8800億円×取扱シェア、価格1.34倍
- グループ会社(国内の保守・施工と海外):数量 444(国内のビル設備の保守・更新・施工需要(実質・億円)× 取扱シェア)× 価格 1.34(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 730 億円・営業利益 62 億円。市場(実質)12000億円×取扱シェア、価格1.34倍
倍率:事業の純利益 182 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.7 倍。全体の PER 18.68 倍、時価総額 3,400 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:更新の追い風と新築の頭打ちが釣り合い、利益率が過去最高から平常へ戻る筋書き。両側の意見の落としどころとして、最も厚く置いた。
やや悲観 24% 並の商社になり、利益率が7%近くへ下がる 利益 113 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 2,904 円1,191 億円
新築が人口減と建築費の高騰で細り、更新需要も2030年代に入ると頭打ちになる。メーカーの大口顧客への直接対応が増え、空調のシェアは12%から11%台へ下がる。工事の競争は強まり、機器の値上げを顧客へ転嫁しきれない。価格は物価を下回って、10年で3割の上昇にとどまる。人件費は上がり続け、営業利益率は7%近くまで下がる。計装と保守は残るが、新築の落ち込みを埋めきれない。配当は純資産の6%の水準を保ち、利益に占める割合は上がる。海外や小さな買収は、損益を支えるほどの力にならない。事業は傷まないが、特別な強みを持たない並の商社として評価される10年だ。
- 空調事業:数量 534(国内の業務用空調設備の市場(機器出荷、実質・億円)× 東テクの取扱シェア)× 価格 1.30(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 866 億円・営業利益 56 億円。市場(実質)4600億円×取扱シェア、価格1.30倍
- 計装・エネルギー事業:数量 384(国内の非住宅向け計装・電源設備の需要(実質・億円)× 東テクの取扱シェア)× 価格 1.30(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 650 億円・営業利益 55 億円。市場(実質)8000億円×取扱シェア、価格1.30倍
- グループ会社(国内の保守・施工と海外):数量 388(国内のビル設備の保守・更新・施工需要(実質・億円)× 取扱シェア)× 価格 1.30(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 618 億円・営業利益 43 億円。市場(実質)11400億円×取扱シェア、価格1.30倍
倍率:事業の純利益113億円・事業ROE9.7%。RONIC=k 7.5%+1/2×(9.7%−8.5%)=9.1%、g 4.0%から正当化PER=12.5倍。成長も堀の持ちも低く見るため上限の約76%の9.5倍に置いた。
確率:営業利益率10%は過去最高で、人件費と競争の圧力が続けば、平常に戻る力が強く働く。この点を重く見て、中立に近い確率を置いた。
悲観 13% メーカー直接取引と建設反落で堀を失う 利益 48 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 936 円384 億円
ダイキンが大口の工事会社やゼネコンと直接組む動きを強め、代理店の取り分が削られる。同時に、建設投資が反落し、データセンターの投資も一巡する。東テクは空調の取扱量を大きく失い、計装・エネルギーも案件の競争で利益率が崩れる。価格は、値引き競争で物価を大きく下回る。人員は計画どおりに増やしたため、固定費が重くのしかかり、営業利益率は4%台まで落ちる。赤字には至らないが、利益は今の3分の1になる。配当は純資産の6%を守ろうとするが、余裕は薄れる。保守は残るものの、堀は消え、優良さを失う。値段を決められない商社に、事業の独自性はない。そういう10年である。
- 空調事業:数量 400(国内の業務用空調設備の市場(機器出荷、実質・億円)× 東テクの取扱シェア)× 価格 1.20(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 599 億円・営業利益 27 億円。市場(実質)4000億円×取扱シェア、価格1.20倍
- 計装・エネルギー事業:数量 274(国内の非住宅向け計装・電源設備の需要(実質・億円)× 東テクの取扱シェア)× 価格 1.20(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 428 億円・営業利益 24 億円。市場(実質)7200億円×取扱シェア、価格1.20倍
- グループ会社(国内の保守・施工と海外):数量 324(国内のビル設備の保守・更新・施工需要(実質・億円)× 取扱シェア)× 価格 1.20(値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目))→ 売上 477 億円・営業利益 21 億円。市場(実質)10800億円×取扱シェア、価格1.20倍
倍率:事業の純利益48億円・事業ROE4.8%はk 7.5%以下なので、上限は1÷k=11.8倍。優良さを失い、ためた利益が額面より低い価値になる筋書き。上限の約68%の8.0倍に置いた。純現金は小さく、床の上乗せはしていない。
確率:メーカーの直接取引と建設投資の反落が重なる複合の筋書き。起きにくいが、起きれば堀が消える。quality の理由とは別に、構造の負けとして1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
空調事業
ダイキン工業の業務用空調機器を、設備工事会社へ卸し、自社でも設置・保守を請け負う。会社の祖業で、売上の4割強。
| 数量国内の業務用空調設備の市場(機器出荷、実質・億円)× 東テクの取扱シェア | 価格値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 1.00 | 749 | 67 |
| 10 年後 中立 | 630 | 1.34 | 1,054 | 84 |
取り方:市場は矢野経済研究所の2023年度4,831億円から2026年度で約5,000億円と置き、取扱シェアを12%とした。749億円はこの取扱量に、代理店の売値と工事分の上乗せ(1.248倍)を掛けた額に合わせた。セグメント別の営業利益は開示が無く、全社の営業利益171億円と事業の性格から推定した。
計装・エネルギー事業
ビルの制御(アズビル特約店)の設計・施工・保守と、太陽光・蓄電池・非常用発電機など電源設備の販売。利益の伸びを引っ張る柱。
| 数量国内の非住宅向け計装・電源設備の需要(実質・億円)× 東テクの取扱シェア | 価格値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 400 | 1.00 | 521 | 63 |
| 10 年後 中立 | 493 | 1.34 | 860 | 95 |
取り方:計装316億円とエネルギー205億円の合計521億円。国内の市場規模の統計が見つからないため、需要を約8,000億円、取扱シェアを5%と推定した(1.3025倍は工事と流通の上乗せ)。営業利益は、計装が高収益という会社の説明から推定した。
グループ会社(国内の保守・施工と海外)
日本ビルコン(保守・修繕)、アイ・ビー・テクノス(計装)、東テク北海道、シンガポールのBMS子会社など。保守のストック収益が土台。
| 数量国内のビル設備の保守・更新・施工需要(実質・億円)× 取扱シェア | 価格値段の指数(2026年度=1.00、物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 396 | 1.00 | 486 | 40 |
| 10 年後 中立 | 444 | 1.34 | 730 | 62 |
取り方:国内グループ会社430億円と海外56億円の合計486億円。保守・更新の需要を約1.2兆円、取扱シェアを3.3%と推定した(1.227倍は施工と流通の上乗せ)。各事業の合計は1,756億円で、連結の1,700億円との差56億円は内部取引の消去。営業利益は推定。
リスクと懸念
利益率が過去最高にある
営業利益率は10%を超え、データのある30年で最高だ。3年前は7%、10年前は4%台だった。大型案件の集中と値上げの粗利が剥げれば、平常へ戻る力が働く。10年中立では9%近くまで下がると置いた。
仕入れ先に値段を握られる
機器の値段と代理店の取り分は、ダイキンが決める。メーカーが大口の工事会社や施主と直接組めば、代理店を通さない取引が増える。代理店は全国に約380社あり、東テクの代わりは効く。
人手が成長の天井になる
社員は約2,900人で、2030年度は約3,600人を計画する。技術者の確保が難しく、人件費は物価を上回って上がる。働き方の規制で、同じ人数でこなせる工事量は減る。人が増えなければ、売上は伸びない。
新築の頭打ちと更新需要の先細り
新築は人口減と建築費の高騰で伸びが鈍る。富士経済は、2025年以降に建築物のストックが縮み、更新需要も減ると見る。再開発とデータセンターの追い風は、前半に集中する。
データセンターと半導体工場の案件の波
大型案件は、工期の延長や年度ずれで、売上と利益が半年から1年単位で動く。データセンターは建設の遅れも報じられている。需要先として期待が先行しやすい。
大株主と政策保有株の扱い
筆頭株主の日本レイが約12.6%、ダイキンが約7%を持つ。大株主の売買は需給を動かす。政策保有株は、2030年度末までに純資産の15%以下へ減らす方針で、実行の時期と使い道が読みにくい。
買収の失敗
第二次の中期計画で、M&Aは営業拠点の拡充や人材の確保が目的になる。過去は小さな買収が中心だったが、人材を買う目的で規模を広げれば、のれんの減損が出うる。
今後の分かれ目
- 営業利益率が10%を下回り、3年続けて8%台へ下がったら
- 過去最高の山だったと確認でき、やや悲観の筋書きに重みを移す。工事の粗利益率が3割を割るかが分かれ目になる。
- 計装・保守の売上比率が上がり、新築7対既設3が5対5へ動いたら
- 利益の質が変わったと見て、中立の利益率を上げ、楽観側の確率を増やす。
- ダイキンが大口顧客との直接取引を広げたと開示されたら
- 代理店の取り分が削られ始めたとして、悲観の筋書きを重く見る。空調の取扱シェアの低下を確認する。
- 政策保有株の売却と現預金の圧縮が進み、還元が上積みされたら
- 資本の使い方が改善したと見る。ROEの水準を保ちつつ、倍率を上げる余地を再評価する。
- データセンターや再開発の大型案件で、受注の年度ずれが続いたら
- 売上の山谷が大きくなるので、中立の利益の伸びを下げて見直す。
- 技術者の採用が計画を大きく下回ったら
- 人手の制約が成長の天井になっていると見て、売上の伸びを下方に直す。
見ておくもの
- 営業利益率(10%を保てるか、9%近くへ戻るか)
- 工事セグメントの粗利益率(3割台を維持できるか)
- 計装・保守の売上比率(新築と既設の構成)
- 技術者の人数と離職率
- ダイキンとの取引条件と大口の直接取引の動き
- 政策保有株の売却と現預金の水準(月商1.5か月分)
- 日本レイとダイキンの持ち株の変化
倍率と資本コストの決め方
空調・計装エネルギー・グループ会社の三つで、市場の実質規模に取扱シェアを掛けた取扱量と、物価を含む値段の指数に分けて10年を置いた。倍率は、資本コスト7.5%(基本7.5%に quality +1.0%)、長期成長4%、堀は普通から、利益ベースの正当化PERを出し、楽観〜中立は上限の約85〜88%に置いた。今の株価や今のPERは見ていない。悲観は、事業ROEがkを下回る筋書きで上限1÷kの約68%、谷のPBRは使っていない。本社の賃借は小さく、新リース会計基準(2028年3月期から)の形の変化は、家賃を費用に入れた今の形にそろえて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.3→19.86 倍・やや楽観 PER 12.5→19.14 倍・中立 PER 12.3→18.68 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +1.0%を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.50%。