結論
ムサシは、選挙の機械と用品で国内のほぼ独占に近い位置にある会社だ。投票用紙の読取分類機では 8 割ほどの推計シェアを持つ。売上は約 400 億円。筆者の結論は「適正」に近い。事業の稼ぐ力は選挙の回数に大きく振れるが、時価総額を上回る現金を抱えている。
2026 年 3 月期は、都議選・参院選・衆院選が重なり、営業利益が 47 億円と過去最高になった。翌期は大型の国政選挙がなく、会社予想の営業利益は 6 億円まで落ちる。足元の 4〜6 月期は営業利益がほぼゼロだった。数字が山と谷を行き来するのが、この会社の姿だ。
選挙以外は薄利だ。文書のデジタル化、印刷機材、紙の卸、金融機関向けの機器は、合わせて売上が 270 億円あっても、利益は数億円にとどまる。紙と印刷は縮む市場にいる。
財務は極端に強い。純現金は 200 億円、自己資本比率は 70%。時価総額は 180 億円で、現金のほうが大きい。ただ、配当は利益の 2 割前後で、特別配当は業績次第。現金は社内にたまりやすい。
10 年後の中立は、選挙の波をならした姿で、売上 460 億円、営業利益 33 億円、純利益 27 億円。電子投開票の競合と、現金が少数株主に戻らない点が、割り引く要因になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、ムサシは「現金が厚く、事業が気まぐれな会社」だ。選挙という強い独占と、紙・印刷という縮む市場が、同じ決算に入っている。
オーナー利益は、見かけの利益より安定している。選挙の売上を 10 年でならすと、年 85 億円前後で、営業利益は 20 億円台。選挙のない年は 5〜10 億円。そこに 10 年あたりの電子投開票の競合と、価格の入札化が加わる。強さは本物だが、利益は伸びない。
物価が上がる世界では、機械の値段も上がる。選挙の機材は自治体の予算で買われ、価格を上げやすい部分と、入札で押される部分がある。固定費も人件費で上がる。
安全域の源は現金だ。時価総額と純現金がほぼ並ぶ水準では、事業が値打ちゼロでも損は小さい。ただ、現金が少数株主に戻る保証は弱い。戻り方を半分と見て、現金の値打ちを割り引く。
筆者は、この会社を「現金を買えば事業がただで付く」とは見ない。事業は、波をならすと資本コストと同じ程度の利益を生む普通の会社だ。
何で稼ぐ会社か
事業は 4 本ある。最大の稼ぎ頭が選挙システム機材で、2026 年 3 月期の売上は約 120 億円。投票用紙の交付機、揃え機、読取分類機、計数機、開票集計のシステム、自然に開く投票用紙、投票箱までそろえ、自治体に売る。読取分類機は、手書きの文字を読んで候補者ごとに仕分ける機械で、本体と分類機で 1 台 700 万円近い。
2 つ目が情報・印刷・産業システム機材で、売上は約 178 億円。官公庁の文書をデジタル化する事業(売上 34 億円、前の期は大口案件が終わって 3 割減)、スキャナー、富士フイルムの業務用ろ過フィルター(約 8 億円)、非破壊検査機材、印刷機器と印刷材料の販売が入る。利益は 2026 年 3 月期にほぼゼロだった。
3 つ目が紙・紙加工品で、売上は約 86 億円。印刷用紙と情報用紙は細り、医薬品・化粧品向けの紙器用板紙が支える。利益は 1 億円台で薄い。1946 年に紙の卸として創業した、いわば原点の事業だ。
4 つ目が金融汎用機器で、貨幣処理機、通帳証書管理機、セキュリティ機器を銀行などに売る。売上は約 19 億円。ほかに不動産賃貸があり、売上 3 億円、利益 2 億円と、小さいが利益率は高い。
次の柱として、自治体システムの標準化に合わせた選挙用業務管理ソフト(保守料・利用料が積み上がる形)と、避難者情報を管理する防災システム「テラック」を育てている。本社は東京、東証スタンダード市場に上場する。
優良さと弱いところ
優良さは「普通」。選挙事業は強いが、会社全体で見ると薄利の卸が大半を占める。
強みは選挙だ。分類機の推計シェアは 8 割、自然に開く投票用紙は全国でほぼ独占と言われる。投票用紙は、自治体が長く使い慣れた機械と運用の手順に結びつき、他社への乗り換えが起きにくい。投開票の機器と用品、ソフト、啓発までそろえる総合力も、後発には作りにくい。
弱みは 3 つある。1 つ目は需要の波だ。国政選挙の有無で選挙事業の売上は 3 倍近く動き、営業利益率は 2021 年 3 月期の −0.3% から 2026 年 3 月期の 11.5% まで振れた。固定費が重く、売上が減ると利益はそれ以上に減る。2 つ目は、選挙以外の事業の薄さ。紙・印刷は構造的な縮小で、デジタル化事業も官公庁の大口に左右される。3 つ目は、資本の使い道だ。現金が時価総額を上回るのに、配当は利益の 2 割前後にとどまってきた。
競合の動きも見ておく。京セラが人材会社などと組み、2027 年の統一地方選を狙って電子投開票を本格展開する。紙の投票用紙を前提にした今の機械は、電子化が進めば需要を削られる。ただ、国政選挙は紙が続く公算が大きい。
堀は普通と見る。選挙の部分は強いが、会社全体の利益の質を引き上げるほどではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の選挙機材は、自治体と選挙の回数で数量が決まる。全国の自治体は約 1,700 で、機械は更新サイクルで入れ替わる。国政選挙は衆院が約 3 年に 1 回、参院が 3 年に 1 回、統一地方選が 4 年に 1 回あり、年によって機器の発注が偏る。
筆者は、選挙システム機材の国内市場を、選挙の波をならして年 100 億円前後と推定する。ムサシの直近 4 期の選挙機材売上(約 55〜120 億円)の平均が 85 億円ほどで、シェアが 8 割なら、市場は 100 億円強になる計算だ。電子投開票を含む新しい調達(京セラなど)が加わるが、まだ小さい。数量は選挙の回数に連動し、人口減による投票所の統廃合は緩い逆風になる。
紙・印刷・情報機器の側は、逆風が強い。国内の紙の需要は、印刷用紙と情報用紙を中心に毎年数 % 減る。印刷機材も同じ縮小の中にある。成長を引っ張るのは、官公庁・大学のデジタルアーカイブ、半導体向けのフィルター、インフラ向けの検査機材といった小さな分野だ。
追い風は、標準化と防災だ。国が進める自治体システムの標準化で、選挙人名簿も共通化の対象になる。ムサシの選挙用業務管理ソフトがガバメントクラウド上で動けば、選挙のない年にも保守料が入る。避難者管理の「テラック」も、同じ保守の形になる。
逆風は、電子投票と、機械不正の風評だ。陰謀論に対しては選管などが否定しているが、調達の入札化や、メーカーの分散を求める声が出れば、シェアは削られる。
資本政策と M&A
資本の使い道は、保守的に過ぎる。純現金は 200 億円、時価総額は 180 億円。自己資本比率は 70% で、借金はほとんどない。
還元は、普通配当を年 2.5 億円規模で出し、業績に応じて特別配当を足す方式だ。2026 年 3 月期は特別配当を足して年間約 5 億円、純利益の 2 割弱だった。今期は普通配当だけの予定で、純利益が小さいため配当性向は 6 割を超える。自社株買いは目立たない。筆者は、選挙の波のたびに現金が積み上がる構造に、少数株主の取り分が現金のまま眠る危うさを見る。
設備投資は小さい。2026 年 3 月期は 8 億円、減価償却は 4 億円台で、拠点の大型投資は無い。標準化対応のソフトと、文書のデジタル化の拠点(DigiArk センター)に投資している。今ある設備の償却は取得した時の値段のままで、新しく作るソフトと設備だけが新しい値段で足される。10 年後の償却は年 5 億円台と見る。
持分法の関連会社は 1 社で、前の期に 13 億円の持分法益が出たが、2026 年 3 月期は消えた。株主は互助会や信託銀行、銀行、光通信などで、特定の親会社はない。買収の可能性は、10 年以内で 2 割ほどという外部の推計がある。
M&A は目立たない。株主優待は無い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方はこうだ。選挙の稼ぐ力は、今期の谷でも失われていない。国政選挙は 10 年で 6〜7 回あり、機械の更新も重なる。固定費を超える限界利益が、選挙のたびに積み上がる。
標準化が収益の形を変える。選挙用業務管理ソフトがガバメントクラウドで動けば、選挙のない年にも保守料が入り、波が小さくなる。防災の「テラック」も同じ形で、沿岸の自治体から引き合いがある。
選挙以外も戻る。文書のデジタル化は、官公庁の大口が戻れば 5 割増える見通しだ。半導体向けのフィルターやインフラ検査は小さいが伸びる。
現金の使い道が変われば、評価が一気に変わる。スタンダード市場への資本コスト意識の高まりで、増配や自社株買いが出れば、時価総額 180 億円の 1 割超を占める還元が戻る。電子投票は国政に及ばず、紙の機械が続く。
業績の面でも、2027 年 3 月期の予想はもともと選挙のない谷の年で、営業利益 6 億円は底だ。翌期以降に選挙が戻れば、利益は 10 倍の水準に跳ね返る。文書のデジタル化の回復と、ろ過フィルターなどの小さな成長分野が上積みになる。
慎重な見方
慎重な見方はこうだ。2026 年 3 月期の営業利益 47 億円は、衆院選と参院選と都議選が 1 年に重なった特異な年だ。会社の今期予想は営業利益 6 億円、4〜6 月期はほぼゼロだった。選挙の波の谷では、利益はほとんど出ない。
電子投開票は、地方選挙から始まる。京セラが 2027 年の統一地方選を狙い、地方自治体に電子投票を売り込む。自治体が電子化に進めば、紙の機械の更新は減る。入札でシェアが分散すれば、限界利益率も下がる。
選挙以外は、利益を生んでいない。情報・印刷・産業は 2026 年 3 月期に営業利益ほぼゼロ、紙は 1 億円台。印刷と紙は毎年縮む。
現金は少数株主に戻らない。純現金が時価総額を上回るのは、市場がそう見ているからだ。配当性向は 2 割前後で、現金は積み上がり、事業に使われるのは小さな設備投資だけ。
標準化の保守料も、まだ数字になっていない。自治体のシステムが共通化されれば、他社の選挙ソフトも入り込める。ムサシの独占を支えてきた運用の手順が、標準化で崩れる側面もある。売上の 4 割を占める紙・印刷が縮み続けることも、全体の利益率を押し下げる。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は、選挙の独占と現金に根拠がある。ただ、選挙の回数に利益が左右されること、電子投票の動きがあること、現金が戻りにくいことを考えると、慎重な見方もほぼ同じ重さで成り立つ。
確率は、楽観を 5%、やや楽観を 17%、中立を 36%、やや悲観を 27%、悲観を 15% とした。電子投開票の競合と選挙の回数の不確かさがあるので、悲観は同じ領域の会社より厚い 15% にした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,679 円523 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 647 円44 億円)。 今の値に割り戻すと 3,997 円272 億円、今との差 +52.0%、 期待の年率 +12.2%(資本コスト 8.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 15,164 円1,033 億円 | 1,247 円85 億円 | +524.0% | +20.1% | 821 円56 億円 |
| やや楽観 | 17% | 11,686 円796 億円 | 954 円65 億円 | +380.6% | +17.0% | 2,149 円146 億円 |
| 中立 | 36% | 8,917 円608 億円 | 734 円50 億円 | +266.9% | +13.9% | 3,474 円237 億円 |
| やや悲観 | 27% | 5,195 円354 億円 | 440 円30 億円 | +114.3% | +7.9% | 1,522 円104 億円 |
| 悲観 | 15% | 2,143 円146 億円 | 264 円18 億円 | −8.5% | −0.9% | 361 円25 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,679 円523 億円 | 647 円44 億円 | +216.6% | +12.2% | 8,326 円567 億円 |
今の株価時価総額 2,630 円179 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 5% 選挙が続き、標準化の保守料が立ち上がる 利益 46 億円 · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 15,164 円1,033 億円
選挙の回数が多く、機材の更新も重なって、選挙事業の数量は今の山の年の 8 割で安定する(波をならした年の水準)。標準化対応の保守料が積み上がり、電子投票は地方の一部にとどまる。価格は物価を少し上回る。
文書のデジタル化と産業フィルター、検査機材が伸び、情報・印刷・産業は数量が 15% 増える。営業利益率は 1.8% まで戻る。紙は縮むが、板紙は底堅い。
営業利益は 61 億円で、利益率は 11% 前後。過去 12 年の山(11.5%)の手前にとどまる。10 年の償却は 6 億円ほどで、設備は軽い。純現金は使われないまま積み上がり、10 年で余りが 380 億円ほどになる。還元は約 85 億円。
この筋書きには、選挙の回数が多いことと、標準化の保守が実際に立ち上がることが必要だ。
- 選挙システム機材:数量 6,400(自治体向けの案件数(件、推定))× 価格 210(万円/件(機器・用品・ソフトの混合単価))→ 売上 135 億円・営業利益 44 億円。数量 0.80 倍・価格 1.40 倍(名目)・限界利益率 52%・固定費 25.9 億円
- 金融汎用・不動産賃貸ほか:数量 1,800(案件数(件、推定))× 価格 163(万円/件(機器・賃貸の混合単価))→ 売上 29 億円・営業利益 5 億円。数量 1.00 倍・価格 1.36 倍(名目)・営業利益率 18.0%
- 情報・印刷・産業システム機材:数量 10,224(案件・商品の数(件、推定))× 価格 276(万円/件(サービス・機器・材料の混合単価))→ 売上 282 億円・営業利益 10 億円。数量 1.15 倍・価格 1.38 倍(名目)・営業利益率 3.5%
- 紙・紙加工品:数量 6.2(取扱量(万トン、推定))× 価格 17(万円/トン(紙・板紙の混合単価))→ 売上 106 億円・営業利益 2 億円。数量 0.90 倍・価格 1.36 倍(名目)・営業利益率 1.8%
倍率:事業の純利益 41 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)381 億円。全体の PER 16.04 倍、時価総額 1,033 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:選挙の回数の多さと、標準化の保守料の立ち上がりが同時に当たる必要がある。過去 12 年の山に近い利益率を 10 年の平均で保つことになり、5% とした。
やや楽観 17% 選挙の波をならした利益が積み上がる 利益 35 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 11,686 円796 億円
選挙事業は、数量が山の年の 7 割。標準化の保守料が少し立ち上がり、地方の電子化は小さい。価格は物価並みよりやや上。
情報・印刷・産業は数量が 5% 増え、デジタル化がけん引する。利益率は 1.5%。金融汎用は横ばい、紙は 12% 減る。
この筋書きが成り立つには、選挙の回数が直近 4 期の平均並みで、標準化の保守が立ち上がり、電子投票の広がりが地方の一部にとどまることが条件になる。
営業利益は 46 億円、利益率は 9%。償却は年 5〜6 億円で、今ある設備の償却は取得時の値段のまま増えず、ソフトの分だけが足される。還元は約 65 億円で、現金は 340 億円ほど余る。ROE は事業だけで 12% 前後に上がる。
- 選挙システム機材:数量 5,600(自治体向けの案件数(件、推定))× 価格 206(万円/件(機器・用品・ソフトの混合単価))→ 売上 115 億円・営業利益 33 億円。数量 0.70 倍・価格 1.37 倍(名目)・限界利益率 51%・固定費 25.7 億円
- 金融汎用・不動産賃貸ほか:数量 1,746(案件数(件、推定))× 価格 162(万円/件(機器・賃貸の混合単価))→ 売上 28 億円・営業利益 5 億円。数量 0.97 倍・価格 1.35 倍(名目)・営業利益率 16.0%
- 情報・印刷・産業システム機材:数量 9,335(案件・商品の数(件、推定))× 価格 272(万円/件(サービス・機器・材料の混合単価))→ 売上 254 億円・営業利益 7 億円。数量 1.05 倍・価格 1.36 倍(名目)・営業利益率 2.6%
- 紙・紙加工品:数量 6.1(取扱量(万トン、推定))× 価格 17(万円/トン(紙・板紙の混合単価))→ 売上 103 億円・営業利益 2 億円。数量 0.88 倍・価格 1.35 倍(名目)・営業利益率 1.5%
倍率:事業の純利益 31 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)340 億円。全体の PER 14.94 倍、時価総額 796 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:選挙の波をならした利益が直近 4 期の平均を上回り、デジタル化も育つ筋書き。標準化の保守が計画どおり立ち上がる前提で 17% に置いた。
中立 36% 波をならすと普通の会社 利益 27 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 8,917 円608 億円
選挙事業は、波をならした数量が山の年の 6 割。直近 4 期の平均(85 億円)に、物価の上昇を乗せた水準で、中立の 10 年目も山でも谷でもない年と置く。電子投開票は地方の一部で進み、標準化の保守料が小さく足される。限界利益率は 50%、固定費は人件費で 1.34 倍になる。
情報・印刷・産業は、デジタル化の伸びと印刷の縮みが釣り合って数量はほぼ横ばい、営業利益率は 1.3% の薄利。紙は 15% 減る。金融汎用は 5% 減る。
営業利益は 33 億円で、利益率は 7.2%。10 年の償却は年 5 億円台(今は 4 億円台)。今ある設備の償却は増えず、ソフトとセンターの分だけ新しい値段で足される。受取利息は、純現金が 2% で回って 4 億円増える。純利益は 27 億円で、還元は約 50 億円。現金は 300 億円ほど余る。
- 選挙システム機材:数量 4,960(自治体向けの案件数(件、推定))× 価格 201(万円/件(機器・用品・ソフトの混合単価))→ 売上 100 億円・営業利益 24 億円。数量 0.62 倍・価格 1.34 倍(名目)・限界利益率 50%・固定費 25.6 億円
- 金融汎用・不動産賃貸ほか:数量 1,710(案件数(件、推定))× 価格 161(万円/件(機器・賃貸の混合単価))→ 売上 28 億円・営業利益 4 億円。数量 0.95 倍・価格 1.34 倍(名目)・営業利益率 14.0%
- 情報・印刷・産業システム機材:数量 8,712(案件・商品の数(件、推定))× 価格 268(万円/件(サービス・機器・材料の混合単価))→ 売上 234 億円・営業利益 4 億円。数量 0.98 倍・価格 1.34 倍(名目)・営業利益率 1.6%
- 紙・紙加工品:数量 5.9(取扱量(万トン、推定))× 価格 17(万円/トン(紙・板紙の混合単価))→ 売上 98 億円・営業利益 1 億円。数量 0.85 倍・価格 1.34 倍(名目)・営業利益率 1.3%
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)305 億円。全体の PER 13.55 倍、時価総額 608 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:選挙の波をならした数量が直近 4 期の平均並みで、物価が価格に乗る筋書き。最も重く 36% とした。
やや悲観 27% 電子投開票で選挙の数量が減る 利益 14 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 5,195 円354 億円
選挙の数量が山の年の 5 割に下がる。地方選挙から電子投開票が広がり、入札でシェアが分かれる。価格は物価に届かない。
情報・印刷・産業は数量が 1 割減り、利益率は 0.5% まで下がる。紙は 25% 減る。金融汎用は 15% 減る。
選挙事業の固定費は人件費で増えるのに、数量が減るので、選挙の利益は 12 億円ほどに縮む。この筋書きでは、標準化の保守料は小さく、電子化による機器の更新減が効く。
営業利益は 16 億円、利益率は 4%。純利益は 14 億円。還元は約 30 億円に絞り、普通配当だけが残る。現金は 260 億円ほど余るが、事業の稼ぎは資本コストを下回り、評価は低い。
- 選挙システム機材:数量 4,000(自治体向けの案件数(件、推定))× 価格 192(万円/件(機器・用品・ソフトの混合単価))→ 売上 77 億円・営業利益 12 億円。数量 0.50 倍・価格 1.28 倍(名目)・限界利益率 48%・固定費 24.8 億円
- 金融汎用・不動産賃貸ほか:数量 1,530(案件数(件、推定))× 価格 154(万円/件(機器・賃貸の混合単価))→ 売上 24 億円・営業利益 2 億円。数量 0.85 倍・価格 1.28 倍(名目)・営業利益率 10.0%
- 情報・印刷・産業システム機材:数量 8,001(案件・商品の数(件、推定))× 価格 256(万円/件(サービス・機器・材料の混合単価))→ 売上 205 億円・営業利益 1 億円。数量 0.90 倍・価格 1.28 倍(名目)・営業利益率 0.5%
- 紙・紙加工品:数量 5.2(取扱量(万トン、推定))× 価格 16(万円/トン(紙・板紙の混合単価))→ 売上 83 億円・営業利益 1 億円。数量 0.75 倍・価格 1.28 倍(名目)・営業利益率 0.8%
倍率:事業の ROE は約 5.6% で資本コストに届かない。PER の上限は 1÷k=12.1 倍。選挙の数量が落ち、利益が薄い局面で、上限の約 7 割の 8.82 倍に置いた。余った現金は別に数える。
確率:地方の電子投開票が進み、入札でシェアが分かれる筋書き。京セラなど競合が動いている点から、強気側より厚く 27% に置いた。
悲観 15% 電子投票が広がり、選挙事業が赤字になる 利益 0 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 2,143 円146 億円
電子投開票が国政選挙にも広がり、選挙事業の数量が山の年の 3 割まで落ちる。価格競争で単価は物価の半分しか上がらず、限界利益率も 45% に下がる。固定費は人員の削減で 25% 増にとどめるが、選挙事業は赤字になる。
情報・印刷・産業は数量が 2 割減り、紙は 4 割減る。金融汎用も 3 割減る。営業利益は約 −5 億円。受取利息を含めても、純利益はほぼゼロ。
会社は存続する。現金は約 200 億円余るが、少数株主には戻らない。還元は約 18 億円。値打ちは、稼ぐ力ではなく、現金の半分と営業用資産の 3 割で測る。
- 選挙システム機材:数量 2,400(自治体向けの案件数(件、推定))× 価格 173(万円/件(機器・用品・ソフトの混合単価))→ 売上 41 億円・営業利益 −5 億円。数量 0.30 倍・価格 1.15 倍(名目)・限界利益率 45%・固定費 23.8 億円
- 金融汎用・不動産賃貸ほか:数量 1,260(案件数(件、推定))× 価格 144(万円/件(機器・賃貸の混合単価))→ 売上 18 億円・営業利益 1 億円。数量 0.70 倍・価格 1.20 倍(名目)・営業利益率 6.0%
- 情報・印刷・産業システム機材:数量 7,112(案件・商品の数(件、推定))× 価格 244(万円/件(サービス・機器・材料の混合単価))→ 売上 174 億円・営業利益 −1 億円。数量 0.80 倍・価格 1.22 倍(名目)・営業利益率 -0.5%
- 紙・紙加工品:数量 4.1(取扱量(万トン、推定))× 価格 15(万円/トン(紙・板紙の混合単価))→ 売上 62 億円・営業利益 0 億円。数量 0.60 倍・価格 1.20 倍(名目)・営業利益率 0.3%
倍率:この筋書きは赤字で、稼ぐ力は 0 に近い。値打ちは売れる資産で測り、余った現金の半分(約 100 億円)と、営業用資産の 3 割(約 46 億円)で約 146 億円。今の自己資本 369 億円に約 0.40 倍を掛けた。
確率:電子投開票が国政に及び、紙の機械の更新が止まる構造的な負け。選挙事業が赤字になり、現金も戻らない複合なので、同じ領域の会社より厚い 15% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
選挙システム機材
投票用紙の交付機・揃え機・読取分類機・計数機、開票集計システム、投票用紙・投票箱などの用品、選挙用業務管理ソフトを自治体に売る。
| 数量自治体向けの案件数(件、推定) | 価格万円/件(機器・用品・ソフトの混合単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8,000 | 150 | 120 | 41 |
| 10 年後 中立 | 4,960 | 201 | 100 | 24 |
取り方:選挙システム機材の売上(単体)120.1 億円を、自治体向けの案件 8,000 件(推定。開示は無い)で割った混合単価。2026 年 3 月期は、都議選・参院選・衆院選が重なった山の年。利益は、金融汎用・選挙セグメントの利益 43.2 億円から金融汎用の分(約 2 億円)を除いた約 41 億円(推定)。選挙の営業利益は、限界利益率を 50%、固定費を約 19 億円と置いた(2025 年 3 月期と 2027 年 3 月期予想の 2 点から推定)。
金融汎用・不動産賃貸ほか
貨幣処理機、通帳証書管理機、セキュリティ機器を金融機関などに売る。不動産の賃貸と保険代理店を含む。
| 数量案件数(件、推定) | 価格万円/件(機器・賃貸の混合単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,800 | 120 | 22 | 4 |
| 10 年後 中立 | 1,710 | 161 | 28 | 4 |
取り方:金融汎用の売上(グループ内を除く約 18.7 億円)と不動産賃貸の売上 3.0 億円の合計を、案件 1,800 件(推定)で割った混合単価。利益は、金融汎用・選挙セグメントの利益から選挙の分を引いた約 2.2 億円と、不動産賃貸の利益 2.1 億円の合計。
情報・印刷・産業システム機材
官公庁の文書のデジタル化、スキャナー、業務用ろ過フィルター、非破壊検査機材、印刷機器・印刷材料の販売。
| 数量案件・商品の数(件、推定) | 価格万円/件(サービス・機器・材料の混合単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8,890 | 200 | 178 | 0 |
| 10 年後 中立 | 8,712 | 268 | 234 | 4 |
取り方:セグメント売上 177.8 億円を、案件・商品 8,890 件(推定)で割った混合単価。利益は決算の 0.12 億円。文書のデジタル化の大口案件が終わって大幅に減益した。デジタル化は今期 5 割増の予想で、回復の途中にある。
紙・紙加工品
印刷用紙、情報用紙、板紙、特殊紙、感圧紙などを印刷会社や紙器業者に売る。
| 数量取扱量(万トン、推定) | 価格万円/トン(紙・板紙の混合単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.9 | 13 | 86 | 1 |
| 10 年後 中立 | 5.9 | 17 | 98 | 1 |
取り方:セグメント売上 86.3 億円を、取扱量 6.9 万トン(推定)で割った混合単価。利益は決算の 1.33 億円。印刷用紙と情報用紙は縮み、板紙が支える。
リスクと懸念
選挙の回数と谷
選挙機材の売上は国政選挙の有無で 3 倍近く動く。2027 年 3 月期は会社予想の営業利益が 6 億円、4〜6 月期はほぼゼロ。解散の時期は読めない。
電子投開票の競合
京セラなどが 2027 年の統一地方選から電子投開票を展開する。自治体が紙から電子に移れば、読取分類機の更新需要が減る。
調達の入札化と風評
陰謀論は選管などが否定しているが、特定メーカーへの集中を問う声が調達に影響すれば、シェアが分散する。
紙・印刷の縮小
印刷用紙、情報用紙、印刷機材は構造的に縮む。紙・印刷で売上の 4 割近くあるが、利益は薄い。
官公庁案件の波
文書のデジタル化は、大口の官公庁案件の有無で売上が 3 割動く。前の期は 3 割減、今期は 5 割増の予想。
現金の使い道
純現金が時価総額を上回るのに、還元は利益の 2 割前後。買収や投資で無駄遣いされる懸念もある。
標準化対応の遅れ
選挙用業務管理ソフトの標準化対応が遅れると、保守収入を取り逃し、他社に入り込まれる。
今後の分かれ目
- 選挙用業務管理ソフトのガバメントクラウド版が稼働し、保守料の売上が開示される
- 選挙のない年の利益の底が上がる。確率を楽観側に寄せる。
- 総還元性向を 5 割以上に引き上げる方針を出す
- 現金の戻り方を 0.5 から 1.0 に上げる余地が出る。
- 電子投開票が国政選挙の候補に入る
- 悲観の筋書きに近づく。紙の機械の更新が止まる。
- 自治体の入札で、読取分類機の落札が他社に分かれる
- シェアの低下が始まった証拠。選挙の数量を下げる。
- 文書のデジタル化の売上が 50 億円を超え、営業利益が出る
- 選挙以外の柱が育った証拠。情報・印刷・産業の利益率を上げる。
- 純現金を使った M&A を発表する
- 買収額と利益の見込みを見て、現金の価値を割り引く。
見ておくもの
- 選挙の日程と選挙機材の売上
- 電子投開票の導入自治体の数
- 選挙用業務管理ソフトの標準化と保守料
- 文書のデジタル化と官公庁の大口案件
- 純現金と還元(特別配当・自社株買い)
- 紙・印刷の売上の縮小ペース
- 防災システム「テラック」の導入数
倍率と資本コストの決め方
今の株価や PER から筋書きを作らず、選挙・金融ほか・情報印刷・紙の数量と名目の単価から利益を積み、倍率は利益ベースで置いた。選挙事業は、波の大きい需要を『波をならした年』で置いた。直近 4 期の選挙機材の売上の平均(約 85 億円)を基に、10 年目は山の年の約 6 割に物価を乗せた。選挙の営業利益は、限界利益率 50% と固定費(今の値段で約 19 億円、10 年で 1.34 倍)で出した。減価償却は物価で一律に増やさず、設備を軽く置いた。今ある設備の償却は取得した時の値段のままで、ソフトとデジタル化センターの分だけ新しい値段で足される。10 年目の償却は年 5 億円台(今は 4 億円台)で、更新の投資は小さく、現金は出ていかない。純現金 200 億円のうち 140 億円を『余った現金』として別に数え、戻り方は 0.5。純現金の受取利息は、金利 2% で 10 年に 4 億円増えると見て純利益に入れた。この領域の業界ノートは未作成なので、市場の見通しは自分で調べ、近い『OA機器・オフィスIT』と『化学品・紙』の置き方(紙の数量は毎年数 % 減)に揃えた。新リース会計基準(2028 年 3 月期ごろ)の影響は、借りている拠点が小さいので軽いと見た。結論は適正。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +0.75% を足した 8.25%。事業は傾いていないので extra は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 8.00%。