結論
デンキョーグループホールディングスは、季節家電や日用品を企画して量販店に卸す大阪の会社だ。筆者の結論は、資産の厚さに比べて稼ぐ力があまりに弱く、今の値段でも割高寄りというものだ。
自己資本は 275 億円と時価総額の 3 倍を超える。だが本業の営業利益は 2 億円に満たず、純利益の多くは持ち合い株の配当と賃料が支える。ROE は 1% 台で、資本コストの 8.75% に遠く届かない。
2026 年 4 月には、官公庁の事務局運営を請け負うトムスエージェンシーを約 21 億円で買った。今期の利益はこの子会社で底上げされる。ただ、事務局の仕事は政策の波に左右され、AI が人手を置き換えやすい分野でもある。
資産はたしかに厚い。それでも経営が資産を株主に戻さない限り、価値は利益の側でしか測れない。
10 年の中心の筋書きでも、営業利益は 9 億円ほどにとどまる。家電の薄利は構造で、子会社の高い利益率も AI と政策の波で削られると見るからだ。資産の価値が株主に届くのは、大きな還元か再編が起きた時だけになる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、この会社は資産の安さに目を奪われやすい典型だ。自己資本は時価総額の 3 倍ある。だが価値を決めるのは、資産そのものではなく、その資産が生む利益と、それが株主に戻るかどうかだ。
本業の家電は、量販店に値段を握られた薄利の商売で、10 年後に今より強くなる理由が見えない。利益の多くは持ち合い株の配当と賃料が占める。これは事業の力ではなく、持っている資産の利回りにすぎない。
経営は資産を株主に戻してこなかった。オーナーとして持ち続けたい事業とは言いにくい。安全域は帳簿の上にはあるが、手の届く安全域ではない。資本の使い方が変わる、つまり大きな還元か再編が起きるまでは、利益で測った価値が上限になる。
逆に言えば、経営が資産の一部でも自社株買いに回せば、価値は大きく変わる。その時は筆者も見方を改める。今はその兆しが乏しい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 3 つある。家電の企画卸、日用品の卸、そして自社ビルの賃貸だ。2026 年 4 月からは、事務局運営の子会社が 4 本目に加わった。
生活家電販売は売上の 8 割を占める。扇風機、ヒーター、加湿器、調理家電などを自社で企画し、中国などの工場で作らせる。売り先はエディオンをはじめとする家電量販店、ホームセンター、通販だ。エディオン 1 社で売上の 19% を占める。2026 年 3 月期は売上 406 億円で、セグメントは小さな赤字だった。
日用品販売は売上 95 億円で、ドラッグストアやホームセンターに家庭用品を届ける。利益は 2.5 億円と、家電より安定している。
不動産賃貸は売上 4 億円ながら利益は 2.8 億円あり、本業の利益の多くをここが稼ぐ。
トムスエージェンシーは、国や自治体の補助金・給付金の窓口や広報を請け負う。買収前の年は売上 32 億円、営業利益 6.8 億円と、グループのどの事業より利益率が高い。
ほかに、その他として家電の修理や物流の受託などが売上 16 億円ある。全社の本社費は年 3 億円ほどで、事業の利益の大半を食う。
営業外では、持ち合い株の配当が年 1.8 億円入る。本業より、持っている資産のほうがよく稼ぐ形だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは見当たらない。家電の企画卸は、量販店のバイヤーに売場を割り当ててもらう商売だ。値段も売場も相手が決める。
利益率の低さがそれを物語る。全社の営業利益率は過去 10 年、ほぼ 0〜2% の間を動いた。ROE の中央値は 1.9% にすぎない。
財務は堅い。自己資本比率は 75% 前後で、純現金と投資有価証券を合わせると 90 億円を超える。だがこの堅さは、稼いだ利益を事業にも株主にも回さずに置いてきた結果でもある。
トムスエージェンシーは利益率こそ高いが、案件は政策しだいで、入札で値段が決まる。買収で高い利益率を買った形だが、長く続くかは疑わしい。
経営の資本の使い方も物足りない。家電の利益率を上げる手は打ってきたが、中計の利益目標は前回も届かなかった。長期目標の経常利益率 5% は、過去 30 年で一度も届いていない水準だ。
強いて強みを挙げれば、季節家電の企画の早さと、量販店との長い付き合いだ。ただ、それは値段を決める力にはなっていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の家電市場は、数量で見ればほぼ横ばいから微減だ。人口が減り、買い替えの間隔も延びている。そのなかで季節家電は、猛暑や寒波で売れ行きが大きく振れる。
流通の形も変わってきた。ヤマダ、ケーズ、エディオンなどの量販店は、自社のプライベートブランドを増やしている。アイリスオーヤマや山善のように、企画から販売まで自前でこなす会社も強い。海外のメーカーが通販で直接売る動きも広がる。間に立つ企画卸の役割は、少しずつ細る方向にある。
物価が上がる世界では、値上げを量販店に飲んでもらえるかが利益を決める。円安で仕入れ値が上がった局面では、デンキョーの利益率は一段と削られた。
日用品の卸は、あらたや PALTAC のような大手が物流網で寡占を進めている。小さな卸は品ぞろえの隙間で生きる。
事務局運営の市場は、国の補助金や給付金の大きさで決まる。コロナ禍の給付金で膨らみ、その後は案件ごとの波が続く。AI の窓口や自動の書類審査は、この仕事の人手を確実に減らしていく。
10 年の見通しとして、筆者は家電の台数を 1 割減、値上げは物価をわずかに下回ると置く。量販店の PB 化と直販の流れが止まる材料は乏しい。
資本政策と M&A
還元は安定配当が中心だ。年 2.5 億円前後の配当を続け、配当性向は利益の薄い年には 70% を超える。自社株買いはほとんどしていない。
PBR が 0.3 倍前後なのに、持ち合い株と現金を抱えたままでいる。政策保有株は上場 29 銘柄で 46 億円あり、売ったのは昨年度 1 銘柄だけだ。
資本の使い道として選んだのが、トムスエージェンシーの買収だった。約 21 億円に、業績次第で最大 10 億円を足す。営業利益の 3 倍ほどで買った計算で、値段そのものは高くない。問題は、その利益が続くかどうかだ。
買収や持ち合いの売却よりも、自社株買いのほうが株主にとって確かな使い道だ。それを選ばない限り、資産は評価されにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
資産の厚さは本物だ。純現金と有価証券、それに大阪の土地を合わせれば、時価総額をはるかに上回る。いずれ株主の目が厳しくなれば、自社株買いや持ち合いの売却で一気に還元する余地がある。
本業も底を打った。前期は値上げと品目の絞り込みで利益率が改善した。今期は子会社の利益が加わり、会社予想の純利益は倍近くに増える。トムスエージェンシーは営業利益率 2 割の事業で、買った値段も利益の 3 年分と安い。
季節家電は猛暑で需要が底上げされる。自社企画の商品が当たれば、量販店の棚を取り戻せる。PBR 0.3 倍の会社は、少しの変化で大きく見直される。
さらに、持ち合い株の売却益は毎年のように出ており、手元の資産は少しずつ現金に変わっている。その現金を次の買収に回せば、事務局や広告のような利益率の高い事業を増やせる。創業家の持株も大きくなく、買収の提案が来る余地もある。
日用品の卸も地味ながら利益を増やしている。家電の赤字さえ止まれば、全社の利益は今の数倍になってもおかしくない。
慎重な見方
資産が厚いのは昨日今日の話ではない。20 年以上、PBR は 1 倍を大きく下回ったままで、経営は一度も資産を株主に戻していない。これからも戻ると考える根拠は弱い。
本業は 10 年以上、利益率 0〜2% の間を出られない。量販店はプライベートブランドを増やし、海外メーカーは通販で直接売る。間に立つ企画卸の役割は細る一方だ。エディオン 1 社に売上の 2 割を頼る形も危うい。
新しい子会社も安心できない。事務局の仕事は国の予算しだいで、コロナ禍の給付金のような大型案件はもう来ない。AI の窓口が広がれば、人手で稼ぐ利益率 2 割は保てない。買収の利益は、むしろ山で買った恐れがある。
資産が厚くても、少数株主が手にできるのは配当だけだ。年 2.5 億円前後の配当では、自己資本の 1% にも届かない。資産の価値は、清算か再編が起きない限り絵に描いた餅にとどまる。
買収も、資産を事業に戻す使い方としては悪くないが、利益の波が大きい事業を高値の局面で買った疑いが残る。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。資産の厚さは事実だが、20 年戻らなかった資産を価値に数えるには、還元の方針が変わったという証拠が要る。それがまだ無い。確率は中立の 4 割弱を軸に、悲観の側へ 3 割強を置いた。
強気の言い分の芯は「いつか還元が来る」だが、筆者はそれを待つ理由を見つけられなかった。還元の方針が変われば、見直しは素直に行う。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,540 円97 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 423 円27 億円)。 今の値に割り戻すと 926 円58 億円、今との差 −27.2%、 期待の年率 +4.4%(資本コスト 9.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 2,970 円187 億円 | 556 円35 億円 | +177.2% | +10.7% | 247 円16 億円 |
| やや楽観 | 19% | 2,193 円138 億円 | 477 円30 億円 | +109.9% | +7.7% | 507 円32 億円 |
| 中立 | 38% | 1,627 円102 億円 | 445 円28 億円 | +62.9% | +5.0% | 787 円50 億円 |
| やや悲観 | 23% | 874 円55 億円 | 381 円24 億円 | −1.3% | −0.1% | 289 円18 億円 |
| 悲観 | 13% | 742 円47 億円 | 286 円18 億円 | −19.2% | −2.1% | 134 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,540 円97 億円 | 423 円27 億円 | +54.4% | +4.4% | 1,964 円124 億円 |
今の株価時価総額 1,272 円80 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 自社企画の家電が当たり、事務局の受託も保つ 利益 15 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 2,970 円187 億円
自社で企画した家電が量販店の定番になり、生活家電の利益率が 1% 台に乗る。猛暑が続き、冷やす家電の需要が底上げされる。日用品はドラッグストアとの取引を広げる。
買ったトムスエージェンシーは、AI に置き換わりにくい企画や広報の仕事へ軸足を移し、案件の数を保つ。グループの家電を販促の景品やイベントに使う連携も効く。
それでも利益率は 2% に届かない。量販店に値段を決められる構図は変わらないからだ。純現金と有価証券はそのまま残り、株主への還元は安定配当にとどまる。
株主から見れば、利益が伸びても資産は寝たままで、評価は利益の伸びの分だけにとどまる。それでも、本業が 20 年来の薄利を抜け出す筋書きであり、確率は低い。
- 生活家電販売:数量 1,014(販売台数(万台・推定))× 価格 0.54(1 台あたりの卸値(万円・名目))→ 売上 544 億円・営業利益 7 億円。台数は横ばい、値上げは物価並み、利益率 1.2%
- 日用品販売:数量 2,090(販売個数(万個・推定))× 価格 0.07(1 個あたりの卸値(万円・名目))→ 売上 142 億円・営業利益 5 億円。取引先を広げ、利益率 3.5%
- 不動産賃貸:数量 2.1(賃貸面積(万㎡・推定))× 価格 2.79(1 ㎡あたりの年間賃料(万円・名目))→ 売上 6 億円・営業利益 4 億円。償却は取得時の値段のままで利益率 73%
- 広告・事務局運営(トムスエージェンシー):数量 160(受託案件数(件・推定))× 価格 0.27(1 件あたりの受託額(億円・名目))→ 売上 43 億円・営業利益 8 億円。案件は横ばい(AI を売り物にした実績は無いので 1.0 倍まで)、利益率 18%
倍率:事業の純利益 15 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.8% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)20 億円。全体の PER 11.11 倍、時価総額 187 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の長期目標(経常利益率 5%)に近づく筋書き。前の中計は未達で、家電の利益は 10 年以上ほぼ 0% なので低く置いた。
やや楽観 19% 家電は小さな黒字、買収した子会社が利益を支える 利益 11 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 2,193 円138 億円
家電は台数を少し落としながらも、値上げと品目の絞り込みで小さな黒字に戻る。日用品は今の利益率を保つ。
トムスエージェンシーは、国や自治体の補助金の窓口などを受け続け、AI の窓口に置き換わる分、案件は 15% 減り、利益率は買収時の 21% から 16% に下がる。
全社の営業利益は 10 億円前後になる。それでも自己資本に対する稼ぎは 3% 台で、資本コストには届かない。配当は少しずつ増える。
家電の黒字化は、品目を減らして売れる物に絞った結果だ。売上は大きく伸びないが、在庫の値引きが減って利益が残る。持ち合い株の配当も物価並みに増え、純利益を下支えする。
- 生活家電販売:数量 963(販売台数(万台・推定))× 価格 0.53(1 台あたりの卸値(万円・名目))→ 売上 509 億円・営業利益 4 億円。台数 0.95 倍、利益率 0.7%
- 日用品販売:数量 1,900(販売個数(万個・推定))× 価格 0.07(1 個あたりの卸値(万円・名目))→ 売上 127 億円・営業利益 4 億円。利益率 3%
- 不動産賃貸:数量 2.0(賃貸面積(万㎡・推定))× 価格 2.75(1 ㎡あたりの年間賃料(万円・名目))→ 売上 6 億円・営業利益 4 億円。賃料は物価並み、利益率 72%
- 広告・事務局運営(トムスエージェンシー):数量 136(受託案件数(件・推定))× 価格 0.27(1 件あたりの受託額(億円・名目))→ 売上 37 億円・営業利益 6 億円。AI エージェント代替で案件 0.85 倍、利益率 16%
倍率:事業の純利益 11 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.6% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)20 億円。全体の PER 11.11 倍、時価総額 138 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:買収した子会社の利益がおおむね保たれ、家電の赤字が消える筋書き。今期の会社予想(営業利益 6.6 億円)の延長で、起こりやすさは中程度。
中立 38% 家電は薄利のまま、子会社の利益は細る 利益 8 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 1,627 円102 億円
家電の台数は人口と量販店の売場の縮みで 1 割減る。値上げは物価にわずかに届かない。利益率は 0.3% で、過去 10 年とほぼ同じ薄さが続く。
日用品は今の利益率を保ち、賃貸は物価並みに賃料を上げる。建物の償却は取得時の値段のままなので、利益率は少し上がる。
トムスエージェンシーは、AI の窓口や自動の書類審査に仕事を奪われ、案件が 3 割減る。利益率も 14% に落ちる。本社の費用は物価で増える。
営業利益は 9 億円ほどで、配当と受取利息を足しても ROE は 3% 弱にとどまる。
全体として、資産の厚さは変わらず、稼ぐ力も変わらない 10 年になる。配当は安定配当のまま少しずつ増え、余った現金は大きくは減らない。株主から見ると、退屈だが倒れない会社が続く。
- 生活家電販売:数量 913(販売台数(万台・推定))× 価格 0.52(1 台あたりの卸値(万円・名目))→ 売上 475 億円・営業利益 1 億円。台数 0.9 倍、値上げは物価をやや下回る、利益率 0.3%
- 日用品販売:数量 1,805(販売個数(万個・推定))× 価格 0.07(1 個あたりの卸値(万円・名目))→ 売上 121 億円・営業利益 3 億円。今と同じ利益率 2.6%
- 不動産賃貸:数量 2.0(賃貸面積(万㎡・推定))× 価格 2.75(1 ㎡あたりの年間賃料(万円・名目))→ 売上 6 億円・営業利益 4 億円。賃料は物価並み、償却は増えないので利益率 72%
- 広告・事務局運営(トムスエージェンシー):数量 112(受託案件数(件・推定))× 価格 0.27(1 件あたりの受託額(億円・名目))→ 売上 30 億円・営業利益 4 億円。AI エージェント代替で案件 0.7 倍、利益率 14%
倍率:事業の純利益 7 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 2.6% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)20 億円。全体の PER 11.11 倍、時価総額 102 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:家電の利益率 0% 台は過去 10 年の実績どおり。子会社の利益率が AI と競争で下がるのも自然な流れなので、中心に 4 割弱を置いた。
やや悲観 23% エディオン向けが細り、子会社の案件も減る 利益 3 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 874 円55 億円
大口の量販店が自社のプライベートブランドを増やし、家電の台数が 2 割減る。値上げも通りにくく、生活家電は小さな赤字が続く。
事務局の受託は、大型の給付金や補助金の波が去り、AI の窓口も広がって、案件がほぼ半分に減る。AI の窓口が人の仕事を置き換え、利益率は 8% に下がる。
全社の営業利益は 3 億円台で、純利益の半分以上を配当と利息が占める形に戻る。現金は運転資金と赤字の穴埋めに少しずつ使われる。
量販店の棚を失うと、季節家電は在庫の値引きで利益がさらに削られる。本社費は物価で増え続けるので、売上が縮む分だけ利益率は下がる。持ち合い株は売られず、配当だけが利益を支える。
- 生活家電販売:数量 811(販売台数(万台・推定))× 価格 0.50(1 台あたりの卸値(万円・名目))→ 売上 406 億円・営業利益 −1 億円。台数 0.8 倍、利益率 −0.3%
- 日用品販売:数量 1,710(販売個数(万個・推定))× 価格 0.06(1 個あたりの卸値(万円・名目))→ 売上 109 億円・営業利益 2 億円。利益率 2%
- 不動産賃貸:数量 2.0(賃貸面積(万㎡・推定))× 価格 2.36(1 ㎡あたりの年間賃料(万円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 3 億円。賃料 1.15 倍
- 広告・事務局運営(トムスエージェンシー):数量 88.0(受託案件数(件・推定))× 価格 0.24(1 件あたりの受託額(億円・名目))→ 売上 21 億円・営業利益 2 億円。案件 0.55 倍、利益率 8%
倍率:ROE 1% 台で k を大きく下回る。稼ぐ力(純利益÷k + 余った現金)は 45 億円で、少数株主に戻る分の資産の床 52 億円のほうが高いので、今の自己資本に 0.19 倍。
確率:売上の 2 割を占める 1 社への依存は、量販店の PB 化で崩れやすい。事務局の受託は政策しだいで波が大きい。中立と同じくらい起こりうるので 2 割強。
悲観 13% 家電が赤字になり、資産を食いつぶす 利益 0 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 742 円47 億円
量販店と海外メーカーが直接つながり、間に立つ企画卸の出番が減る。家電の台数は 3 割減り、利益率は −1% の赤字になる。
事務局の受託は大型案件が途切れ、AI に置き換わって 6 割減る。買収ののれんも減損で消える。
全社では営業赤字が続き、配当と利息でかろうじて最終赤字が小さく収まる。配当は減らされる。
持っている現金、有価証券、土地は残る。だが清算は起きず、少数株主の手には届かない。
価値の下支えは、少数株主に戻る分だけの資産になる。それも赤字と配当で少しずつ削られる。資産の厚さが安全域にならない、という点がこの筋書きの核心だ。再編や買収が起きなければ、値段は資産の半分を大きく下回ったまま動かない。
- 生活家電販売:数量 710(販売台数(万台・推定))× 価格 0.48(1 台あたりの卸値(万円・名目))→ 売上 341 億円・営業利益 −3 億円。台数 0.7 倍、利益率 −1%
- 日用品販売:数量 1,520(販売個数(万個・推定))× 価格 0.06(1 個あたりの卸値(万円・名目))→ 売上 91 億円・営業利益 1 億円。利益率 1.5%
- 不動産賃貸:数量 2.0(賃貸面積(万㎡・推定))× 価格 2.26(1 ㎡あたりの年間賃料(万円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 3 億円。賃料 1.1 倍
- 広告・事務局運営(トムスエージェンシー):数量 64.0(受託案件数(件・推定))× 価格 0.22(1 件あたりの受託額(億円・名目))→ 売上 14 億円・営業利益 0 億円。案件 0.4 倍、利益率 3%
倍率:赤字なので PBR。今の自己資本に 0.17 倍。床は現金・有価証券・土地の税後から、少数株主に戻る分だけを数えた額(floor_assets_why)。
確率:量販店の PB と海外の直販に挟まれ、企画卸の役割が細る構造の負け。資産が厚く倒れはしないので 1 割強にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
生活家電販売
扇風機・暖房器具・調理家電などを企画し、海外の工場で作らせて量販店や通販に卸す。
| 数量販売台数(万台・推定) | 価格1 台あたりの卸値(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,014 | 0.40 | 406 | −1 |
| 10 年後 中立 | 913 | 0.52 | 475 | 1 |
取り方:売上 405.8 億円・セグメント損失 0.51 億円(短信)。台数は開示が無く、平均の卸値を 1 台 0.4 万円と見て 1,014 万台と推定した。
日用品販売
洗剤・紙製品・家庭用品などをドラッグストアやホームセンターへ卸す。
| 数量販売個数(万個・推定) | 価格1 個あたりの卸値(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,900 | 0.05 | 95 | 2 |
| 10 年後 中立 | 1,805 | 0.07 | 121 | 3 |
取り方:売上 95.0 億円・セグメント利益 2.47 億円(短信)。個数は開示が無く、平均単価 0.05 万円と見て 1,900 万個と推定した。
不動産賃貸
大阪などに持つビル・倉庫を外部に貸す。
| 数量賃貸面積(万㎡・推定) | 価格1 ㎡あたりの年間賃料(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.0 | 2.05 | 4 | 3 |
| 10 年後 中立 | 2.0 | 2.75 | 6 | 4 |
取り方:売上 4.11 億円・セグメント利益 2.83 億円(短信)。面積は開示が無く 2 万㎡と推定した。結論への影響は小さい。
広告・事務局運営(トムスエージェンシー)
2026 年 4 月に買った子会社。官公庁の事業の事務局運営と広告代理を請け負う。
| 数量受託案件数(件・推定) | 価格1 件あたりの受託額(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 160 | 0.20 | 32 | 7 |
| 10 年後 中立 | 112 | 0.27 | 30 | 4 |
取り方:買収前の単体(2025/09 期)の売上 32.1 億円・営業利益 6.81 億円(M&A の開示)。件数は開示が無く 1 件 2 千万円と見て推定した。
リスクと懸念
大口の量販店への依存
エディオン 1 社で売上の 19% を占める。量販店がプライベートブランドを増やせば、企画卸の棚はすぐに失われる。値段の交渉でも、相手のほうがはるかに強い。
円安と仕入れ値
家電の多くを中国などで作らせ、ドルで仕入れる。為替は 150 円で固定して考えるが、仕入れ値の上昇を量販店に転嫁できるかは別の話で、過去の円安局面では利益率が削られた。
買収した子会社の利益の持続
トムスエージェンシーの利益率 2 割は、国や自治体の大型の事務局案件に支えられる。予算が減れば案件は細る。AI の窓口が人手を置き換えれば、利益率も下がる。のれんの減損もありうる。
資産が株主に戻らない
純現金と持ち合い株、土地を合わせると時価総額を大きく上回るが、経営はこれを長く寝かせてきた。還元の方針が変わらなければ、資産は株主の価値として数えにくい。
天候
扇風機や暖房器具は、夏の暑さや冬の寒さで売れ行きが大きく変わる。冷夏や暖冬が重なると在庫が残り、値引きで利益が消える。
今後の分かれ目
- 大規模な自社株買いや政策保有株の売却が始まる
- 資産を株主の価値として数えられるようになり、余った現金の戻り方を上げて見直す。
- トムスエージェンシーが 2 年続けて営業利益 6 億円台を保ち、アーンアウトを払う
- 子会社の利益率は中立より高く続くと見て、やや楽観の側へ確率を寄せる。
- エディオンとの取引が大きく減る
- 家電の台数が 2〜3 割落ちる悲観の側へ寄る。
- 中計の経常利益率 1.4% を 2027 年 3 月期に達成する
- 値上げと品目の絞り込みが効いている証拠になり、家電の利益率を中立より上に置き直す。
- 創業家や同業による買収の提案が出る
- 資産の価値が値段に乗る。今の筋書きは単独で続く前提なので、別に考え直す。
見ておくもの
- 生活家電セグメントの利益率
- エディオン向けの売上の比率
- トムスエージェンシーの営業利益とアーンアウトの支払い
- 政策保有株の売却と自社株買い
- 中計の経常利益率 1.4%(2027/03)の達成
倍率と資本コストの決め方
倍率は ROE と k だけから決めた。全筋書きで ROE が k 9% を下回るので、PER の上限は 1÷k ≒ 11.4 倍で、その 6〜9 割に置いた。PBR 0.3 倍という今の値付けは見ていない。資産の厚さは、戻り方 0.5 を掛けた余った現金 20 億円と、悲観の床だけで数えた。投資有価証券は配当を利益に残すので余り資産に足していない(二重を避ける)。償却は取得時の値段のままで、物価で増やしていない。10 年後の数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→11.11 倍・やや楽観 PER 9.5→11.11 倍・中立 PER 8.5→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.25% を足して 8.75%。中身は値決めの弱さと、企画卸の役割の細りと事務局運営の AI 代替による寿命の短さ。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 9.00%。