結論
蝶理は、1861 年に京都の西陣で生まれた繊維と化学品の専門商社である。東レが議決権の 5 割超を持つ親子上場の会社だ。筆者の結論は、今の値段は本質価値に近く、安全域は厚くないというものだ。
強みは財務である。純現金は時価総額の 4 分の 1 に当たり、自己資本比率は 6 割を超える。ROE は 10 年の中央値で 10% を超え、商社としては高い。会社は新しい中期計画で配当性向を 4 割へ上げ、成長投資も厚くする。
弱みは利益の薄さと偏りだ。営業利益率は 4% 台で、粗利益の大半を人件費と経費が食う。売上の半分は繊維で、国内の縮小が続く。中国向けの売上が 16% を占める点も気がかりだ。
中立の筋書きでは、営業利益は 10 年で 190 億円台に増え、ROE は 9% 前後にとどまる。資本コストをわずかに上回るだけで、高い倍率は付かない。
親会社の東レは、上場を保ったまま支配している。完全子会社化の話は確認できず、少数株主に割増しが付く保証もない。純現金を価値に足してもなお、評価は妥当の範囲に収まる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、蝶理は「堅実だが、持ち主に残る利益が小さい会社」に見える。事業は 160 年を超えて続き、財務は堅い。純現金が毎年積み上がる点は、安全域として評価できる。
持ち主に残る利益で考えると、数字は見かけより小さい。商社は売上が増えるたびに運転資金が要る。ROE は高いが、稼ぎの大半は在庫と売掛金に化ける。10 年で純現金は増えたが、それは還元を抑えてきた結果でもある。
堀は広がる途中にある。化学品の機能品は、顧客の乗り換えが難しい。一方、衣料の OEM と汎用化学品は、価格で選ばれやすい。10 年先も強いと言い切れるのは、全体の 3 割ほどだ。
経営は計画の目標を達成してきた実績がある。ただ、東レが支配する構造では、少数株主の利益が最優先とは限らない。還元を厚くする新しい方針は歓迎できるが、同時に買収を増やす点には警戒が要る。
値段は妥当に近く、安全域は薄い。筆者は、純現金の厚さに価値を認めたうえで、強気の見方が当たらなければ得にならない銘柄だと見る。
何で稼ぐ会社か
蝶理の稼ぎは、仕入れと販売の差にある。2026 年 3 月期の売上は約 3,000 億円で、繊維が約 1,460 億円、化学品が約 1,530 億円。機械は 8 億円と小さい。
繊維は 2 つの柱である。1 つは衣料で、アパレルの注文を受けて素材から縫製まで束ねる。もう 1 つは資材で、産業用やカーシート周辺の部材を扱う。東レ系の素材に強く、ASEAN とインドの生産網を持つ。
化学品は樹脂やナイロン原料、食品向けのブドウ糖、ガラス原料、コンデンサ向けの電子材料、医農薬の中間体だ。機能性の高い品が中心で、中期計画はこれを No.1 戦略と呼ぶ。海外で作る力を付け、メーカーの立場へ寄せていく。
営業利益は約 130 億円、売上総利益は 410 億円ほどで、利益率は 4% 台だ。人件費と経費が粗利益の 6 割ほどを食う。従業員は 1,444 人で、1 人当たりの粗利益は大きい。
中国の売上は約 475 億円で、全体の 16% を占める。為替は 1 ドル 150 円で置くので、円安の追い風は織り込まない。
優良さと弱いところ
堀は浅めから中程度だ。強みは、東レ系を含む長い取引と、用途の提案から在庫・与信までを引き受ける力にある。化学品では医農薬やコンデンサ向けの中間体が、顧客の工程に入りやすい。
弱みは、値段を取引先と市場に決められることだ。衣料の OEM は価格競争が激しく、汎用の化学品は中国メーカーの値下げに押される。堀が深いと言える事業は、利益の 3 割ほどだ。
資本効率は良い。ROE は 10 年の中央値が 10% 台で、2021 年の落ち込みを除けば 9% を割らなかった。純現金が増え続け、財務の不安がない。ただし自己資本の厚さは、取引の資金繰りの余裕でもある。
経営は新しい計画で資本の使い方を変えた。配当性向を 3 割から 4 割に上げ、DOE 3.5% の下限を置いた。一方、成長投資 175 億円とレバレッジの活用も打ち出した。還元を増やしながら、買収も厚くする方針である。
東レが支配するため、独立した経営判断には限りがある。ただ、親会社の信用が資金調達に効き、東レ系の取引が底支えになっている点も見逃せない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
追い風は化学品の機能品と海外の製造、向かい風は国内の衣料と汎用品である。化学品商社の市場は約 4.3 兆円で、ほぼ横ばいだ。その中でも医農薬の中間体、食品素材、電子材料は、世界の需要が伸びる分だけ数量も増える。
繊維は国内の衣料が人口とともに細る。ただ、世界のアパレル生産は ASEAN・インド・中東・アフリカへ広がり、蝶理はそこに出口を持つ。資材分野は、インフラ向けとカーシート周辺で需要が堅い。
構造の変化は 2 つある。1 つ目は、メーカーが商社を通さず直接つながる動きだ。大手の衣料ブランドと化学メーカーは調達を一元化する。2 つ目は、米中の摩擦と日中関係だ。中国は蝶理の売上の 16% で、国産化が進めば日本の商社を通す量は減る。
競合は、繊維では東レ系や豊島、帝人フロンティアなど、化学品では長瀬産業や稲畑産業、総合商社の化学品部門である。蝶理は化学品の首位級に及ばず、領域を絞って勝つ立場にある。
景気の位置は、2026 年度に会社が 14 億円の増益を見込む回復の途中である。ただ、化学品の汎用分野は中東情勢と中国の過剰生産で上値が重い。
資本政策と M&A
資本政策は、還元を厚くしつつ成長投資も増やす両にらみだ。新しい中期計画は、配当性向を 30% から 40% に引き上げ、純資産に対する配当(DOE)を 3.5% 以上に保つ。3 年の営業キャッシュ 350 億円のうち、成長投資に 5 割、還元に 4 割を回す。
成長投資は 175 億円に上乗せがあり、借入の活用も視野に入れる。繊維は海外に出口を持つ企業、化学品はメーカーとしての立場を作れる企業を買う方針だ。純現金が厚いので、買収の財源は足りる。
買い手としての実績は、まだ限られる。海外の合弁と小さな買収が中心で、大型の失敗はない。投資有価証券は約 120 億円で、取締役会が保有の意味を毎年点検する。
買われる側としては、東レが議決権の 5 割超を持つため、第三者の TOB は成立しにくい。東レによる完全子会社化は、確認できる資料がない。起きれば少数株主に割増しが付く可能性はあるが、見込みには入れない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
蝶理は、2 つの中期計画で目標を達成してきた。ROE は商社として高い 10% 台で、純現金は積み上がり続けている。新しい計画は、配当性向を 4 割に引き上げ、成長投資も厚くする。還元と成長を同時に動かせるのは、財務に余裕があるからだ。
化学品は機能品に軸足を移している。医農薬の中間体、コンデンサ向けの電子材料、ブドウ糖は、顧客の工程に入りやすく、利益率が上がる。インドと ASEAN に拠点を広げ、メーカーの立場へ近づく。営業利益 175 億円は通過点で、300 億円という「ありたい姿」も遠くない。
繊維も出口が広がる。衣料は国内ではなく、ASEAN とインド、中東向けの生産と販売で伸びる。資材は社会インフラとカーシート周辺で、数量が安定する。東レ系の取引が底を支え、景気が悪くても数量は落ちにくい。
東レは親会社として、資金調達と取引の両面で蝶理を支える。純現金が時価総額の 4 分の 1 を占める会社が、利益の 8 倍前後で評価される。完全子会社化の話が出れば、割増しが付く余地もある。
慎重な見方
今の営業利益は、中期計画の目標より先にある。2026 年 3 月期は営業利益が 14 億円減り、化学品は市況の悪化で利益が落ちた。2027 年 3 月期の見通し 145 億円も、中東情勢と中国の需要に左右される。
利益の厚みは化学品と繊維の 2 本にあり、どちらも値段を市場に決められる。衣料の OEM は価格競争が激しく、汎用の化学品は中国メーカーの値下げに押される。中国向けは売上の 16% で、日中関係が悪化すれば一夜で止まりうる。
ROE は 10 年の中央値で 10% 台だが、これは純現金と高い自己資本比率を抱えたうえでの数字だ。事業だけの ROE は 9% 前後で、資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。成長投資にレバレッジを使うなら、金利が 3% 台に上がる世界では利払いが利益を削る。
東レが支配する構造は、少数株主に不利に働く。完全子会社化の話が出ても、割増しの保証はない。親会社の都合で取引条件が決まる面もあり、独立した成長には限りがある。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、財務の強さと機能品への移行を正しく突いている。ただ、利益の半分は繊維と汎用の化学品で、値段を自分で決められない。慎重な見方は、事業だけの ROE が資本コストに近い点を冷静に見ている。
勝つのは慎重な見方だが、差はわずかだ。確率は中立を中心に置き、悲観を 13% とした。純現金が厚く、東レの支えもあるので、悲観の確率は 1 割強にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 8,002 円1,972 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,381 円587 億円)。 今の値に割り戻すと 5,541 円1,366 億円、今との差 +30.5%、 期待の年率 +9.4%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 13,716 円3,380 億円 | 3,043 円750 億円 | +294.8% | +14.7% | 1,341 円330 億円 |
| やや楽観 | 20% | 11,351 円2,798 億円 | 2,719 円670 億円 | +231.4% | +12.7% | 2,814 円694 億円 |
| 中立 | 36% | 9,383 円2,313 億円 | 2,435 円600 億円 | +178.4% | +10.8% | 4,254 円1,049 億円 |
| やや悲観 | 23% | 4,324 円1,066 億円 | 2,110 円520 億円 | +51.6% | +4.2% | 1,480 円365 億円 |
| 悲観 | 13% | 2,018 円497 億円 | 1,785 円440 億円 | −10.4% | −1.1% | 494 円122 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,002 円1,972 億円 | 2,381 円587 億円 | +144.6% | +9.4% | 10,383 円2,559 億円 |
今の株価時価総額 4,245 円1,046 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 電子材料と海外が伸び、素材メーカーに近い収益へ 利益 197 億円 · PER 16.8 倍 · 株価時価総額 13,716 円3,380 億円
電子材料や医農薬の中間体で顧客の工程に入り込み、化学品が商社というより機能品メーカーに近い稼ぎ方になる。ナイロン原料やブドウ糖は自社の生産拠点を持ち、インドと ASEAN で製造まで担う。コンデンサ向けの電子材料も伸びる。繊維は衣料の垂直統合が効き、資材分野でカーシート周辺部材やインフラ資材が育つ。会社が掲げる営業利益 300 億円には届かないが、その背中が見える水準だ。海外で買った企業が収益に乗り、買収で価値を壊さない。配当は純利益の 55% 前後まで厚くなる。東レが持ち株を整理する場合でも、市場の評価が下がらない会社になる。
- 繊維:数量 1,677(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 2,247 億円・営業利益 112 億円。市場と取扱高の比 1.15 倍、営業利益率 5.0%
- 化学品:数量 2,138(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 2,865 億円・営業利益 160 億円。市場と取扱高の比 1.40 倍、営業利益率 5.6%
倍率:事業の純利益 195 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.0% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)98 億円。全体の PER 16.82 倍、時価総額 3,380 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子材料と海外の製造が両方うまくいく強気の道。会社の「ありたい姿」に近いので、確率は 1 割に届かせない。
やや楽観 20% 計画どおり進み、ROE は 11% 近くへ 利益 169 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 11,351 円2,798 億円
中期計画の営業利益 175 億円を 2028 年度に達成し、その後も化学品が数量で年 2% ほど伸びる。繊維は国内の縮小を海外のアパレル OEM と資材で補い、数量は 1 割弱増える。インドと中東の合弁が軌道に乗り、化学品の利益率は 5% を超える。成長投資の 175 億円は期待どおりの稼ぎを生み、レバレッジの活用も利益を崩さない範囲にとどまる。持ち合い株は計画的に減り、還元は純利益の 4 割台に収まる。ROE は 10% を超え、商社としては優等生と呼ばれる。ただ、構造が変わるほどではなく、薄利という性格は残る。
- 繊維:数量 1,575(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 2,110 億円・営業利益 99 億円。市場と取扱高の比 1.08 倍、営業利益率 4.7%
- 化学品:数量 1,909(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 2,558 億円・営業利益 133 億円。市場と取扱高の比 1.25 倍、営業利益率 5.2%
倍率:事業の純利益 167 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)98 億円。全体の PER 16.08 倍、時価総額 2,786 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:計画の達成を前提にした道。蝶理は 2 つの中計で目標を達成してきたため、起こりやすさは中立に次ぐ。
中立 36% 化学品は伸びるが、繊維は横ばい 利益 141 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 9,383 円2,313 億円
化学品は新規の商材とインド・ASEAN の拡大で数量が 1 割強伸び、繊維は国内の縮小と海外の伸びが釣り合って横ばいになる。中期計画の 175 億円は達成するが、その先は物価と数量の伸びで利益が増える程度だ。営業利益は 190 億円台で、ROE は 9% 前後に落ち着く。配当は 40% の性向と DOE 3.5% の下限が支え、純利益の半分を還元する。M&A は繊維で 1 件、化学品で 1 件の中規模にとどまり、買収の失敗も大成功も起きない。東レの 5 割超の持ち株は 10 年後も変わらず、上場は維持される。堅実な、だが驚きのない道である。
- 繊維:数量 1,458(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,954 億円・営業利益 84 億円。市場と取扱高の比 1.00 倍、営業利益率 4.3%
- 化学品:数量 1,710(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 2,292 億円・営業利益 112 億円。市場と取扱高の比 1.12 倍、営業利益率 4.9%
倍率:事業の純利益 139 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)98 億円。全体の PER 15.47 倍、時価総額 2,251 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:化学品の数量が年 1% 強伸び、繊維は横ばいで、利益率は現状の延長。最も起こりやすい道。
やや悲観 23% 中国と衣料の停滞で、利益が伸びない 利益 109 億円 · PER 8.2 倍 · 株価時価総額 4,324 円1,066 億円
中国と衣料の停滞が、数年にわたって利益を押し下げる。中国の売上は 475 億円あり、国産化と日中関係で数量が細る。繊維は世界のアパレル需要が弱く、衣料の OEM は価格競争で口銭が削られる。化学品は汎用品で中国メーカーの値下げに押され、利益率が 4% 台前半にとどまる。営業利益は 150 億円ほどで、今の水準から伸びない。成長投資で買った会社の利益が計画に届かず、配当は性向 40% を守るが、利益の方が小さい。ROE は 7% 前後で資本コストを下回り、評価は 1 倍を割る。東レ系の取引にも依存が残り、独自の伸びしろは小さい。
- 繊維:数量 1,312(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,758 億円・営業利益 67 億円。市場と取扱高の比 0.90 倍、営業利益率 3.8%
- 化学品:数量 1,481(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,985 億円・営業利益 85 億円。市場と取扱高の比 0.97 倍、営業利益率 4.3%
倍率:ROE が約 7% で k 7.5% 以下。上限は 1÷k=11.8 倍。新しく投じる資本の稼ぎが k 未満のため、上限の約 7 割の 8.2 倍に置いた。
確率:中国の停滞と繊維の価格競争で、利益が伸びない道。商社の薄い利ざやでは起こりやすい。
悲観 13% 構造的に商権を失い、普通の会社に戻る 利益 65 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 2,018 円497 億円
メーカーの直接取引が広がり、商社を通る量が構造的に減る。繊維は大手アパレルが産地と直接組み、衣料 OEM の数量が 3 割近く落ちる。化学品もパフォーマンスケミカルで中国メーカーが日本の顧客に直接売り、数量は 2 割強減って口銭も細る。海外で買った企業の減損が出て、自己資本が傷つく。営業利益は 90 億円ほどで、今の 7 割に縮む。もう優良な専門商社とは見られず、東レの出資比率が変わらないことが、経営の独立性をさらに弱める。純現金はなお厚いが、稼ぎの縮みを埋めることはできない。配当は据え置きとなり、会社が掲げた性向 4 割も守れなくなる。経営は不採算の整理に追われ、成長投資に回す余力は細る。
- 繊維:数量 1,050(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,407 億円・営業利益 42 億円。市場と取扱高の比 0.72 倍、営業利益率 3.0%
- 化学品:数量 1,191(取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア)× 価格 134.0%(値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍))→ 売上 1,596 億円・営業利益 54 億円。市場と取扱高の比 0.78 倍、営業利益率 3.4%
倍率:ROE が約 5% で k 7.5% を大きく下回る。上限は 1÷k=11.8 倍。構造的に負け、利益も薄いので上限の約 6 割の 7.0 倍に置いた。床は純現金と売れる資産の税後 約 360 億円(下記)より、稼ぐ力の方が大きい。
確率:メーカーの直接調達と中国の国産化が重なる構造的な負け。純現金が厚く、東レという親の支えもあるので、1 割強にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
繊維
衣料(OEM・ODM、素材販売)と資材(産業・インフラ資材、カーシート周辺部材)。東レ系の素材も扱い、ASEAN・インドなど海外の生産網を持つ。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,458 | 100.0% | 1,458 | 61 |
| 10 年後 中立 | 1,458 | 134.0% | 1,954 | 84 |
取り方:推定。取扱高 1,458 億円を、対象市場 約 1.8 兆円(実質)× シェア 8.1% に分けて置いた。市場は日本の繊維専門商社が扱う衣料・資材向けの繊維。開示は金額だけで数量は無い。営業利益は開示がセグメント利益(税前純利益ベース、70.5 億円)のため、全社の営業利益 131 億円に合わせて 0.85 倍し、推定した。
化学品
輸入ナイロン原料、ブドウ糖、ガラス原料、コンデンサ向け電子材料、医農薬中間体など。パフォーマンスケミカルと呼ぶ機能品が中心。インド・中東・ASEAN に拠点を広げる。
| 数量取扱高(億円・今の値段の実質)=対象市場 × シェア | 価格値段の指数(今 = 1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,527 | 100.0% | 1,527 | 71 |
| 10 年後 中立 | 1,710 | 134.0% | 2,292 | 112 |
取り方:推定。取扱高 1,527 億円を、対象市場 約 1.9 兆円(実質)× シェア 8.0% に分けて置いた。市場は化学品商社市場(約 4.3 兆円)のうち、樹脂原料・食品素材・ガラス・電子材料の部分。開示は金額だけ。営業利益は全社の 131 億円に合わせ、セグメント利益(79.5 億円)を 0.85 倍して推定した。
リスクと懸念
東レの支配と少数株主の立場
東レが議決権の 5 割超を持つ。取引条件や配当、買収の判断で、少数株主の利益が最優先とは限らない。完全子会社化の話は確認できず、起きても割増しが付く保証はない。上場が続く間は、独立の経営判断に限りがある点を見ておく必要がある。
中国向けの集中
中国の売上は約 475 億円で、全体の 16% を占める。国産化と日中関係の悪化、米中の貿易摩擦で、数量が一気に細る可能性がある。会社は中国総代表を置いて対応しているが、売上の規模が大きいので、影響は利益に直接響く。
繊維の国内縮小と価格競争
繊維は売上の半分を占める。国内の衣料は人口とともに細り、OEM は価格競争で口銭が削られる。海外の伸びで補えるかが、全社の利益を左右する。2026 年 3 月期は素材・資材の分野が低調で、繊維は減収減益だった。
化学品の市況と貸倒れ
化学品は汎用の分野で中国メーカーの値下げに押される。2026 年 3 月期の減益は、前年の貸倒引当金の戻入れの反動もあった。中国の取引先に対する債権は過去に問題になった経緯があり、再び回収が滞れば利益に響く。
成長投資とレバレッジの活用
新しい計画は成長投資に 175 億円以上を回し、借入の活用も視野に入れる。金利が 3% 台に上がる世界では、利払いが利益を削る。買収が計画に届かなければ、のれんの減損が自己資本を傷つける。
政策保有株の価格
投資有価証券は約 120 億円で、株価の下落は自己資本に響く。取締役会が保有の意味を点検しており、売却は進む見込みだが、時期は市場に左右される。
今後の分かれ目
- 化学品の営業利益率が 5% を超え、2 年続いたら
- 機能品への移行が実績に変わった証拠になる。楽観・やや楽観の確率を上げてよい。
- 2028 年度の営業利益が 175 億円に届かなかったら
- 中期計画の信頼が揺らぎ、やや悲観の確率を上げる材料になる。2 つ続けて外せば、悲観の可能性も増す。
- 東レが完全子会社化を打診したら
- 少数株主に割増しが付く可能性はあるが、本質価値は変わらない。今の値段との差で、得か損かが決まる。
- 中国向けの売上が 2〜3 割落ちたら
- 化学品と繊維の利益が細り、やや悲観の筋書きに近づく。ただし他地域で一部は埋まる。
- 海外の買収で大型の減損が出たら
- 自己資本が傷つき、資本の使い方への信頼が落ちる。悲観の確率を上げる材料になる。
- 景気後退で繊維と化学品の数量が 2 割落ちたら
- 営業利益は 3 割ほど減る。純現金が厚いので配当は維持できる見込みで、価値を測り直す機会になる。
見ておくもの
- 化学品の営業利益率と、インド・ASEAN の拠点の稼働
- 中期計画 CIP2028 の進み具合(2027 年度の営業利益)
- 中国向けの売上と、貸倒引当金の動き
- 東レの保有方針と、完全子会社化の動き
- 配当性向と DOE の実績、自社株買いの有無
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE・資本コスト 7.5%・長期成長率 4% から利益ベースの正当化 PER を出し、楽観・やや楽観は上限の 9 割前後、中立は ROE が k を超える下限 1÷k に置いた。やや悲観・悲観は ROE が資本コスト以下なので、上限 1÷k の 7 割と 6 割に置いた。今の PER や PBR、同業の倍率には寄せていない。純現金 277 億円のうち、運転資金の余裕(月商の半分ほど、約 150 億円)を引いた 130 億円を余った現金として分けた。東レが支配するので戻り方は 0.5 とした。金利は純利益に 10 年で約 5 億円の増益として入れた。蝶理は店舗を持たず、リースの約束は小さい。新リース会計基準(2028/03 期から)は、今と同じ形(賃料を営業費用に入れた形)でそろえて置いた。営業利益の内訳は、開示がセグメント利益(税前ベース)なので、全社の営業利益に合わせて割り付けた推定である。売上と数量が同じ値になる注意が出るが、開示が金額だけなので市場 × シェアの推定を使った。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。個別のリスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.50%。