結論
山善は、工作機械・切削工具などを工場に卸す機械工具商社である。家電と住宅設備も扱い、売上は5,400億円と業界で十指に入る。
筆者の結論は、今の値段は割高寄りというものだ。理由は単純で、売上の大きさに比べて利益が薄い。営業利益率は2%台で、ROEは6〜7%にとどまる。
中核の生産財は、半導体・データセンター・航空宇宙・造船・防衛と需要の追い風が強い。会社は今期の営業利益を150億円と見込み、前期から25%増になる。ただ、この増益は景気の追い風と原価低減によるもので、利益の質が変わったとは言えない。商社は仕入れと販売の差で稼ぐ。差が小さいほど、需要が一服した時の傷は大きい。
純現金が時価総額の3割あるのは強みだ。だが売上に対する運転資金と、500億円規模の企業買収の原資を考えると、余った現金とは見ない。
10年後の中立は、売上が8,000億円弱、営業利益が200億円強。ROEは8%台で、資本コストをわずかに下回る。この水準では帳簿の純資産に上乗せの価値は付かない。強気の見方が通れば利益は倍近くになりうるが、そこへ至る道筋は買収の成否に大きく左右される。
筆者がいちばん気にしているのは、商社機能の中抜きだ。ネット通販とメーカー直販が広がるほど、薄い利益はさらに薄くなる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、山善は「悪くないが、選びたい会社ではない」と見る。
理由は、利益が薄く、堀が見えにくいからだ。事業が10年後に存在することは疑わない。工場も家も、機械と設備を必要とする。だが、10年後に今より強くなっているかと問われると、確信は持てない。通販や直販が広がるほど、薄い利益率はさらに薄くなる。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、純利益から増えた運転資金を引いた額になる。商社は売上が伸びると、売掛金と在庫が増え、資金が先に出ていく。山善の純利益が100億円でも、そこから自由に取り出せる額はもっと小さい。
資本配分は、今は評価の途中だ。配当は安定しているが、目標のROE 8%は資本コストに届かない水準だ。500億円の買収計画がうまく回れば評価は変わる。失敗すれば、純現金の安全域を自ら削ることになる。
安全域の目で見ると、純現金540億円は支えになる。ただ、それは事業に要る運転資金とほぼ同じ額であり、余りとして足す性格のものではない。稼ぐ力で測った価値に、今の値段は届いていない。
何で稼ぐ会社か
山善は専門商社で、事業は3つある。生産財、家庭機器、住建だ。前期の売上は、生産財が3,492億円で全体の64%、家庭機器が1,016億円で19%、住建が874億円で16%を占めた。
稼ぎの中心は生産財である。工作機械、切削工具、ロボットやセンサーなどのメカトロ機器を、自動車・電機・半導体などの工場や、建設・工事業者に届ける。メーカーの製品を仕入れて売るだけでなく、工場の自動化・省人化の提案や保守まで付ける。これが商社としての付加価値になる。利益率は前期で3.0%と低いが、売上が大きいので営業利益は104億円と全体の中心だ。
家庭機器は、扇風機・ヒーター・エアコン・ファン付ウェアなどを量販店やネット通販に卸す。前期は猛暑で移動式エアコンとファン付ウェアが売れた。利益率は4.7%と生産財より高い。ただ、天候と流行に左右される。
住建は、システムキッチン・浴室・建材を工務店やリフォーム会社に供給する。前期は売上が11%伸びた。新築は人口減で細るが、リフォームと省エネ改修が下支えする。
地域では日本が4,455億円、アジアが759億円、北米が206億円。海外は2割弱で、2026年にマレーシアとインドネシアの機械工具商社を買収し、アジアの厚みを増している。従業員は約3,300人である。
優良さと弱いところ
山善の優良さは、中くらいと見る。強い堀(他社がまねできない強み)と呼べるものは、今のところ見当たらない。
長所は幅広さだ。取扱品目が多く、全国と海外の販売網があり、メーカーにとっても顧客にとっても使い勝手がよい。機械工具・家電・住宅設備の3つが同時に崩れにくい点も強みだ。財務も堅い。純現金は540億円あり、自己資本比率は約4割ある。
弱点は利益の薄さだ。生産財の利益率は3%で、売上が5,000億円あっても営業利益は100億円前後にとどまる。過去10年のROEは、高い年で13%、低い年で5%と振れが大きい。中央値は9%台だが、直近は6%台まで下がっている。値段を自分で決められる事業ではなく、メーカーの値上げを転嫁できるかどうかで利益が決まる。
また、トラスコ中山は在庫を厚く持つカタログ型で、ミスミは短納期と自社製造で、それぞれ強い独自のモデルを築いている。MonotaROのような通販も、消耗品で存在感を増している。山善はこれらの間にいて、「何でも扱える」ことが強みであると同時に、「これだ」という看板を持ちにくい。
経営の資本の使い方は、今は改善の途中だ。中期経営計画は、2027年度のROE 8%を掲げる。目標自体が控えめで、資本コストを超える水準までは踏み込んでいない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
機械工具商社の需要は、工場の設備投資と建設投資で決まる。今は追い風が強い。半導体・AI向けのデータセンター、航空宇宙、造船、防衛で設備投資が増え、山善は今期に生産財の売上を前期比で1割伸ばす計画を立てている。
10年で見ると、日本の国内需要は人口減で横ばいから微減だ。それでも人手不足で、自動化・省人化の投資は続く。世界のFA(工場の自動化機器)市場は年に数%から1割近く伸びる予測が多い。ただ、その成長を取り込めるのは、自動化機器を提案し、設置と保守まで担える商社に限られる。
競争は分散している。地域ごと、品目ごとに専門商社が多くいる。その中で、トラスコ中山(売上3,200億円)は在庫の厚さで、ミスミは短納期と自社部品で、MonotaROは通販の価格で伸びてきた。これらは、卸の中間に位置する会社の利益を削る。メーカーの直販も増える。商社が生き残るには、物流、与信、技術提案など、メーカーや顧客が自前でやるより安い機能を持つ必要がある。
循環の位置は、山の手前から中ほどだ。2024年3月期に営業利益が99億円まで落ち、今は120億円、今期は150億円の計画で、回復の途上にある。リーマン後の2009年には、機械商社の受注が3〜5割減った。需要が急に冷え込めば、薄い利益率は一気に赤字に近づく。
家庭機器と住建は別の動きをする。家庭機器は天候に左右され、住建は人口減のなか、リフォームの比重が高まる。どちらも成長の主役にはならないが、生産財の波を和らげる役割を果たす。
資本政策と M&A
還元は安定している。配当は配当性向と純資産配当率(DOE)の併用で、前期の配当性向は約49%だった。中期経営計画では、資本コストを上回るROEを目指す。2027年度の目標は、ROE 8%、自己資本比率40〜45%である。
資金の使い道の中心は企業買収だ。会社は2026年3月期から6期で、500億円ほどの買収を見込む。すでに2026年にマレーシアとインドネシアの機械工具商社を傘下に入れた。海外の商社を買って販売網を広げるのは筋がよい。ただ、買収は期待どおりに稼ぐとは限らない。500億円は純現金とほぼ同じ額で、失敗した時の重みは小さくない。
株主構成には変化がある。2026年3月に、AP PS IV Investment, Inc.が保有割合15.98%の大量保有報告書を出した。報告者の素性と意図は、開示資料からは確かめられていない。大口の外部株主が入ってきたことは、資本政策の変化を促す材料になりうる。
政策保有株を含む投資有価証券は324億円ある。内訳は確認できていない。含み益は税引き後で見ると資産の上乗せになるが、売却の方針は開示から読み取れなかった。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
生産財は、構造的な追い風の中にいる。半導体・AI向けのデータセンター、航空宇宙、造船、防衛と、日本の製造業の設備投資が久しぶりに太い流れになっている。会社は今期の営業利益を150億円と見込み、8月に上方修正した。受注が好調だからだ。
10年を通して、人手不足は自動化・省人化の需要を押し上げる。山善は機械の仕入れだけでなく、自動化の提案と保守まで担える。この付加価値が積み上がれば、利益率は3%から4%台に上がりうる。
海外もこれから伸びる。アジアの売上は760億円で、マレーシアとインドネシアで買収を実行したばかりだ。500億円の買収枠をうまく使えば、アジアの生産財商社として規模が一段上がる。
財務は堅い。純現金540億円と自己資本比率約4割で、買収の原資は自前でまかなえる。大口の外部株主(保有約16%)が入ったことで、資本効率を高める圧力もかかる。ROEは8%に向かい、買収の成果が出れば10%を超える。
家庭機器と住建は安定した下支えだ。猛暑で家庭機器が伸び、住建はリフォーム需要で前期に11%伸びた。景気の波を和らげつつ、利益率は4〜5%と生産財より高い。
これらが重なれば、10年後の営業利益は400億円規模、純利益は250億円に近づく。そこでの倍率は、ROE 12%のもとで13倍近くが妥当になる。
慎重な見方
利益率が薄すぎる。生産財の営業利益率は3%で、売上が1割落ちれば利益は3割落ちる構造だ。2024年3月期には、営業利益が99億円まで落ちた。景気の追い風が止まれば、同じことが起こる。
今期の増益は、半導体・AI・防衛の需要が想定を上回った結果だ。構造的な変化とは言えない。過去10年で全社の営業利益率が3.4%を超えたことはなく、150億円の営業利益はすでに過去最高圏にある。ここから先の伸びしろは、思うほど大きくない。
中抜きの圧力は止まらない。MonotaROは通販で消耗品を安く売り、ミスミは自社部品と短納期で設計者を囲い込み、トラスコ中山は在庫の厚さで現場を取る。山善の「何でも扱える」は、「何でも中途半端」と紙一重だ。メーカーの直販が広がれば、商社の取り分はさらに細くなる。
買収は賭けだ。500億円の買収枠は純現金とほぼ同額で、全部が成功する保証はない。海外の商社は、のれんの減損で利益を食うことが多い。
ROEの目標も控えめだ。2027年度に8%という目標は、資本コストを下回る。目標を達成しても、株主の期待する水準には届かない。
純現金540億円は運転資金に消えており、「余った現金」ではない。それを時価総額に上乗せして割安と言うのは、帳簿の数字だけを見た見方だ。
どちらに重みを置いたか
利益の薄さと、堀の見えにくさを重く見た。強気の見方は追い風の強さを正しく突いているが、それは景気の山の利益であり、10年続くとは言い切れない。慎重な見方の「利益率が薄い、ROEが資本コストに届かない」という指摘のほうが、事業の構造に根ざしている。
そのため、確率は中立を軸に、やや悲観の側へわずかに厚く置いた。楽観は7%に抑え、やや悲観を23%に置いた。悲観は、純現金と投資有価証券の床があるため、10%にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,241 円1,935 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 778 円672 億円)。 今の値に割り戻すと 1,598 円1,380 億円、今との差 −19.3%、 期待の年率 +4.3%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,481 円3,869 億円 | 1,086 円938 億円 | +181.0% | +10.9% | 390 円336 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,269 円2,822 億円 | 921 円795 億円 | +111.5% | +7.8% | 922 円796 億円 |
| 中立 | 38% | 2,417 円2,087 億円 | 799 円690 億円 | +62.4% | +5.0% | 1,222 円1,055 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,008 円870 億円 | 671 円579 億円 | −15.3% | −1.6% | 386 円333 億円 |
| 悲観 | 10% | 577 円498 億円 | 417 円360 億円 | −49.8% | −6.7% | 99 円86 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,241 円1,935 億円 | 778 円672 億円 | +52.4% | +4.3% | 3,019 円2,607 億円 |
今の株価時価総額 1,981 円1,710 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% アジアの買収と自動化提案が実を結ぶ 利益 248 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 4,481 円3,869 億円
生産財が10年で顧客数・提案の厚みともに大きく広がる。アジアでの買収が成功し、海外の売上が倍近くに育つ。自動化・省人化の提案から保守までを一括で受ける取引が増え、利益率が4%台に乗る。
家庭機器は猛暑と省エネ家電の需要で堅調を保ち、住建はリフォームの比重が高まって利益率が上がる。大口の外部株主の圧力もあり、資本効率が改善して還元も増える。
この筋書きでは、純利益が250億円近くまで増え、ROEが12%に届く。商社としては最高の成績で、構造的に強い会社になったと言える水準である。筆者はこの筋書きを、商社が堀を築いた場合の上限とみている。
- 生産財関連事業:数量 5.6(取引顧客数(万社))× 価格 1,205(1社あたり年間売上(万円))→ 売上 6,748 億円・営業利益 290 億円。利益率4.3%
- 家庭機器事業:数量 600(販売点数(万台・万個))× 価格 2.27(1点あたり平均単価(万円))→ 売上 1,361 億円・営業利益 68 億円。利益率5.0%
- 住建事業:数量 40.0(供給した住宅・リフォーム件数(万件))× 価格 29(1件あたり設備売上(万円))→ 売上 1,171 億円・営業利益 54 億円。利益率4.6%
倍率:事業の純利益 248 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍。全体の PER 15.6 倍、時価総額 3,869 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:買収の成功、利益率の4%台への上昇、需要の追い風の持続が10年続く必要があり、確度は高くない。
やや楽観 22% 生産財が着実に伸び、買収もまずまず 利益 196 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 3,269 円2,822 億円
国内外の自動化投資が続き、生産財の顧客数は着実に増える。アジアの買収も、見込みの7〜8割の成果を挙げる。利益率は3%台後半に上がり、営業利益は250億円台になる。
家庭機器と住建は物価並みの価格上昇を保ち、数量は人口減の分だけわずかに縮む。ROEは10%に近づき、資本コストをようやく超える。
商社としては悪くない10年で、利益は今の2倍ほどに伸びる。ただ、堀が強くなったわけではなく、倍率は商社の水準にとどまる。会社の目標である、ROE 8%の一段上に行った10年とも言える。買収も、期待の半分以上は回収できる。海外の売上は今の1.5倍ほどに育ち、生産財の取引口座の広がりが利益を押し上げる。
- 生産財関連事業:数量 5.1(取引顧客数(万社))× 価格 1,170(1社あたり年間売上(万円))→ 売上 5,990 億円・営業利益 228 億円。利益率3.8%
- 家庭機器事業:数量 588(販売点数(万台・万個))× 価格 2.27(1点あたり平均単価(万円))→ 売上 1,334 億円・営業利益 63 億円。利益率4.7%
- 住建事業:数量 39.2(供給した住宅・リフォーム件数(万件))× 価格 29(1件あたり設備売上(万円))→ 売上 1,148 億円・営業利益 51 億円。利益率4.4%
倍率:事業の純利益 196 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.4 倍、時価総額 2,822 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要の追い風が続き、買収が及第点という多くの業界見通しの上位レンジ。
中立 38% 自動化投資は続くが、商社の薄い利益率は変わらない 利益 158 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 2,417 円2,087 億円
人手不足で自動化・省人化の投資は続き、生産財の取引は緩やかに広がる。アジアの買収は一部が実を結び、一部は期待を下回る。
利益率は景気の波を挟みながら、3%台前半に落ち着く。家庭機器は天候に左右され、住建は人口減のなかリフォームで踏みとどまる。売上は8,000億円弱、営業利益は200億円強になる。
ROEは8%台で、資本コストをわずかに下回る。還元は純利益の5割を保ち、純資産もゆるやかに積み上がる。会社の実力どおり、堅実だが稼ぐ力は並みの10年である。大きな成功も大きな失敗もない代わりに、株主が資本コストを上回る利益を得ることもない。
- 生産財関連事業:数量 4.7(取引顧客数(万社))× 価格 1,170(1社あたり年間売上(万円))→ 売上 5,522 億円・営業利益 188 億円。利益率3.4%
- 家庭機器事業:数量 582(販売点数(万台・万個))× 価格 2.27(1点あたり平均単価(万円))→ 売上 1,321 億円・営業利益 59 億円。利益率4.5%
- 住建事業:数量 38.8(供給した住宅・リフォーム件数(万件))× 価格 29(1件あたり設備売上(万円))→ 売上 1,136 億円・営業利益 48 億円。利益率4.2%
倍率:事業の純利益 158 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.21 倍、時価総額 2,087 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの10年中立(人手不足による自動化投資の伸び)と、会社の過去の実力を組み合わせた中心の筋書き。
やや悲観 23% 中抜きが進み、利益率が2%台に戻る 利益 100 億円 · PER 8.7 倍 · 株価時価総額 1,008 円870 億円
メーカーの直販と通販が広がり、生産財の1社あたりの売上の伸びが物価に届かない。顧客数もわずかに縮み、アジアの買収は期待を下回る。
利益率は2%台後半に戻り、営業利益は130億円ほどで足踏みする。家庭機器は量販店の再編で価格が下がり、住建は新築の細りを補いきれない。
ROEは5〜6%で資本コストに届かず、倍率も上限の1÷kをはるかに下回る。還元は純利益の6割を維持するのが精一杯になる。商社のなかでも、規模は大きいが稼げない会社という評価が定着する。中期経営計画のROE 8%という目標すら、10年かけても届かない。投資家から見れば、純現金は運転資金に消え、配当だけが残る会社になる。
- 生産財関連事業:数量 4.2(取引顧客数(万社))× 価格 1,135(1社あたり年間売上(万円))→ 売上 4,766 億円・営業利益 129 億円。利益率2.7%
- 家庭機器事業:数量 540(販売点数(万台・万個))× 価格 2.20(1点あたり平均単価(万円))→ 売上 1,189 億円・営業利益 45 億円。利益率3.8%
- 住建事業:数量 35.2(供給した住宅・リフォーム件数(万件))× 価格 28(1件あたり設備売上(万円))→ 売上 1,000 億円・営業利益 35 億円。利益率3.5%
倍率:事業の純利益100億円・事業 ROE 5.6% は k 以下なので、上限は 1÷k=12.1倍。新しく投じる資本の稼ぎが資本コストを下回る筋書きのため、上限の約7割の8.7倍に置いた。
確率:通販・直販による中抜きが10年かけて進む、業種ノートの弱めの筋書き。商社の利益率は元々薄く、実現の確度は低くない。
悲観 10% 買収の失敗と中抜きで、商社の薄い利益さえ守れない 利益 27 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 577 円498 億円
アジアの買収が裏目に出て、のれんの減損を計上する。メーカーの直販と通販に顧客が流れ、生産財の顧客数と取引額がともに縮む。家庭機器と住建も、量販店と工務店の再編で値下げを迫られる。
利益率は2%を割り、営業利益は100億円を下回る。本社の固定費は売上ほど減らず、利益はさらに薄くなる。
自己資本は減損で目減りし、配当も純利益に合わせて減る。ここでの価値は稼ぐ力ではなく、純現金と売れる資産の床で決まる。景気の山で買収を急いだ会社の末路としては、ありうる姿だ。純現金は買収の失敗で半分が消え、残るのは投資有価証券と、かろうじて黒字を保つ事業である。株主への還元は、純利益を超えて純資産を取り崩す形でしか維持できない。
- 生産財関連事業:数量 3.4(取引顧客数(万社))× 価格 1,029(1社あたり年間売上(万円))→ 売上 3,500 億円・営業利益 63 億円。利益率1.8%
- 家庭機器事業:数量 450(販売点数(万台・万個))× 価格 2.00(1点あたり平均単価(万円))→ 売上 898 億円・営業利益 23 億円。利益率2.5%
- 住建事業:数量 30.0(供給した住宅・リフォーム件数(万件))× 価格 26(1件あたり設備売上(万円))→ 売上 773 億円・営業利益 16 億円。利益率2.0%
倍率:事業の純利益は小さく、稼ぐ力で測ると床を下回るため、純現金と売れる資産の税後(500億円)を床とする。今の自己資本1,384億円に掛けて0.36倍相当。減損200億円を引いた後の自己資本1,424億円に0.35倍を掛けた。
確率:買収の失敗、直販・通販への顧客流出、景気の急落が重なる構造的な負け。純現金と有価証券の床があるため10%にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
生産財関連事業
工作機械・切削工具・メカトロ機器・産業機械を、製造現場に供給する機械工具商社の本業。海外のアジア・北米の販売会社を含む。
| 数量取引顧客数(万社) | 価格1社あたり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.0 | 873 | 3,492 | 104 |
| 10 年後 中立 | 4.7 | 1,170 | 5,522 | 188 |
取り方:生産財の売上3,492億円、営業利益104億円(利益率3.0%)。取引のある顧客を国内外で約4万社と推定し(開示なし。国内の製造業・工事業の取引口座数の規模感から)、1社あたり年間売上873万円を逆算した。顧客数の伸びにはアジアの商社買収を含み、1社あたり売上の伸びには実質の伸びと物価の両方が入る。
家庭機器事業
扇風機・ヒーター・エアコン・キッチン家電・ファン付ウェアなどを、量販店・ネット通販・ホームセンターに卸す。
| 数量販売点数(万台・万個) | 価格1点あたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 1.69 | 1,016 | 48 |
| 10 年後 中立 | 582 | 2.27 | 1,321 | 59 |
取り方:売上1,016億円、営業利益48億円(利益率4.7%)。平均単価約1.7万円(エアコン・ヒーターなど高額品と小物の平均、推定)で割って年600万点と置いた。猛暑で移動式エアコンとファン付ウェアが好調だった年で、数量はやや高めの水準。
住建事業
システムキッチン・ユニットバス・建材などの住宅設備を、工務店・リフォーム会社・ビルダーに供給する。
| 数量供給した住宅・リフォーム件数(万件) | 価格1件あたり設備売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 22 | 874 | 37 |
| 10 年後 中立 | 38.8 | 29 | 1,136 | 48 |
取り方:売上874億円(前期比+11.2%)、営業利益37億円(利益率4.2%)。1件あたり設備売上を約22万円(キッチン・浴室・建材の組み合わせ、推定)として年40万件相当と置いた。新設住宅着工は約80万戸でその半分に当たる規模ではなく、リフォームや法人案件を含む取引件数。
リスクと懸念
景気の山で利益が過大になっている
今期は営業利益150億円の見込みで、過去最高圏にある。半導体・AI・防衛の設備投資が一服すると、利益率2%台の事業は、売上が1割落ちるだけで利益が3割近く落ちる。2024年3月期には営業利益が99億円まで落ちた実績がある。
中抜き(通販・メーカー直販)の広がり
MonotaROやミスミの通販、メーカーの直販が広がると、商社の取り分は細くなる。山善は看板となる独自モデルを持たず、価格競争に巻き込まれやすい。生産財の利益率は3%しかなく、わずかな値下げが利益に響く。
買収の実行
6期で500億円規模の買収を計画しており、純現金とほぼ同額に当たる。海外の機械工具商社の買収は、のれんの減損や統合の遅れが起きやすい。失敗すると、純現金の安全域を自ら削ることになる。
運転資金の膨張
売上が伸びるほど売掛金と在庫が増え、資金が先に出ていく。純現金540億円は余りではなく運転資金に近い。景気が急に冷え込むと、在庫の評価損と回収の遅れが重なる。
家庭機器の天候依存
前期は猛暑で移動式エアコンとファン付ウェアが売れた。冷夏や暖冬になれば売上は落ちる。利益率が高い事業なので、天候による振れが全体の利益に響く。
住建の国内市場の縮小
新設住宅は人口減で細る。前期は売上が11%伸びたが、リフォームの需要は一巡する可能性もある。住建の利益率は4%台で、数量の減少は全社の利益に直結する。
大口株主の動向
2026年3月に、保有割合約16%の大量保有報告書が出た。報告者の素性と意図は確認できていない。大量の売却が出れば需給が悪化し、逆に資本政策の見直しを迫る可能性もある。
今後の分かれ目
- 生産財の営業利益率が3%台後半で定着したら
- 利益の質が変わったとみて、やや楽観・楽観の確率を上げる。
- アジアの買収先が、買収後の2年で計画を上回る利益を出したら
- 買収の実行力への評価を上げ、500億円の枠を前向きに見る。
- 買収先で大きな減損が出たら
- 資本配分の評価を下げ、やや悲観側に確率を寄せる。
- 半導体・データセンター・防衛の設備投資が急に冷え込んだら
- 利益率の落ち込みを織り込み、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 通販・メーカー直販への顧客流出が数字に出てきたら
- 生産財の顧客数と価格の前提を引き下げる。
- 大口株主が資本政策の変更(政策保有株の売却、増配、自社株買い)を求めたら
- ROEの改善が早まるとみて、中立の自己資本の増え方を見直す。
見ておくもの
- 生産財の営業利益率(前期3.0%、今期計画は3.8%)
- 受注残と半導体・データセンター向けの受注
- アジアの買収先の売上・利益
- 運転資金(売掛金・在庫)の増減
- 大口株主の保有割合の変化、政策保有株の売却
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROEが資本コストを下回る会社の上限1÷kを出発点に、利益の質(薄い利益率、堀の弱さ)に応じて上限の7〜9割に置いた。今の株価や同業の倍率からは置いていない。10年の純利益は、セグメントの顧客数・件数と1件あたりの売上から積んだ。今の値段が割高に出た場合も、それを避けて数字を直してはいない。新リース会計基準(2028年3月期から)で営業利益や負債の形は変わるが、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.6→15.6 倍・やや楽観 PER 11→14.4 倍・中立 PER 10.9→13.21 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。