結論
シップヘルスケアHDは、病院の物流と施設づくりを支える売上7,182億円の会社である。筆者の結論は、今の値段は本質価値とほぼ並ぶ「適正」。割安とも割高とも言い切れない。
稼ぎの柱は二つある。病院内の医療材料や薬を一括で管理するSPDが売上の7割を占めるが、利益は1.5%ほどしか残らない。利益の中身を見ると、病院の新築・改修や医療機器の納入を手がけるTPP事業が半分近くを稼ぐ。薄利の物流で規模を作り、高利益の施設案件で厚みを出す構造だ。
会社の質は同業の医薬品卸より良い。営業利益率は3%台、自己資本利益率は10年間ほぼ9〜12%で、卸としては高い。手元には482億円の純現金がある。株主還元も増えており、2026年6月には50億円を上限とする自社株買いを始めた。
気がかりは、顧客である病院の経営だ。赤字の病院は全体の6〜7割に上る。物流の委託は増えやすい一方、施設の新築や機器の更新は先送りされやすい。利益の半分を握るTPPは、まさにその影響を受ける。
筆者は、純利益の14〜15倍前後が妥当な水準で、10年の筋書きを確率でならすと今の値段とほぼ同じになると見る。堅い事業に払う値段として、買い手に大きな安全域はない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良い会社だが、値段は妥当」という評価になる。10年後も病院は物を必要とし、人手不足の病院ほど物流を外に出す。事業は残り、むしろ伸びる余地がある。堀は病院との関係と運営力にとどまるが、物流で信頼を得て施設案件を取る流れは、同業にまねしにくい。
オーナーの目で見て好ましいのは、資本の使い方だ。手元に純現金が482億円ある。それでも、買収で見境なく背伸びせず、配当と自社株買いも増やしている。自己資本利益率は10%前後と、薄利の卸としては高い。物流センターへの設備投資は軽く、稼いだ利益の多くを株主に回せる。
一方で、利益の半分近くをTPPが生む点は、オーナー目線では落ち着かない。TPPは病院の設備投資に左右され、来年の利益が読みにくい。利益の質は、純利益の数字が示すほど安定していない。
安全域は小さい。今の値段は、確率で重みをつけた本質価値とほぼ同じだ。大きく売られた時には買う価値がある会社だが、今は静かに見守る水準にある。
何で稼ぐ会社か
この会社の本業は、病院が使うモノを病院の代わりに管理して届けることだ。事業は四つに分かれる。
最大はメディカルサプライ事業で、売上5,100億円と全体の7割を占める。中核はSPD、つまり病院内の医療材料・医薬品・滅菌器材を一括で発注し、在庫を持ち、現場へ配る仕事だ。契約は277件・約10万2千床(2026年3月末)。病院は看護師が物品管理に割く時間を減らせる。会社は仕入れの差益と委託料を得るが、営業利益率は1.5%にとどまる。
利益の厚みを出すのが、トータルパックプロデュース、略してTPP事業である。大学附属病院などの新築・改修に合わせて医療機器と設備を納め、施設のプロジェクト全体を引き受ける。売上は1,366億円。営業利益は108億円で、全体の44%を稼ぐ。利益率は8%ほどと、物流の5倍以上ある。ただし案件の完成時期でぶれる。
三つ目の調剤薬局事業は売上347億円で、利益率は11%。小さな薬局の買収と統合で効率を上げてきた。四つ目のライフケア事業は売上373億円。介護・福祉施設への給食提供と介護サービスで、水光熱費と人件費の上昇に悩む。
M&Aは事業拡大の手段だ。中期計画「SHIP VISION 2030」は、売上を年5%で伸ばし、2030年3月期に営業利益率4%、自己資本利益率12%を目指す。5年で600〜800億円の成長投資を想定する。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、病院との深い結びつきと、事業の組み合わせの妙である。SPDは病院内に入り込む仕事で、一度受託すると院内の物の流れ全体を握る。データを見せる自社のツールも持つ。病院にとって乗り換えは手間がかかる。薄利でも、こうした長い取引がTPPの案件につながる。物流で信頼を得て、利益の高い施設案件を取る。ほかの卸にない流れだ。
資本効率は同業より良い。自己資本利益率は10年間、おおむね9〜12%で動いた。医薬品卸大手の5〜7%を上回る。営業利益率は3%台で、卸としては高い。効率化も進む。グループ会社の数を整理し、首都圏の大型物流センターでは自動化で人件費を約5分の1に抑えたという。
弱みは二つある。一つは、利益の半分近くをTPPが稼ぐことだ。案件は病院の設備投資に左右され、完成時期のずれで四半期ごとの利益が揺れる。2026年3月期もTPPの利益は10%減った。もう一つは顧客の病院が苦しいことだ。赤字病院は7割に近く、SPDの委託料や機器の値段への交渉圧力は強い。堀と呼べるのは病院との関係と運営の巧さで、ブランドや規制ではない。筆者は、この堀を並みの強さと見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
病院向けの物流と施設の市場は、数量は堅いが、顧客の懐が細る領域だ。患者数は高齢化で2040年前後まで高止まりする。ただ、病院の数と病床は地域医療構想のもとで少しずつ減る。国内の病床はおよそ150万床で、年に0.5%ほど減るペースだ。
苦しいのは経営である。四病院団体の調査では、2024年度に経常赤字の病院は6割を超えた。賃上げと物価高に、診療報酬が追いつかなかった。2026年度の診療報酬は本体で約3%上がり、30年ぶりの高い改定幅だが、団体が求めた10%には届かなかった。
この環境は物流の外部委託にとって追い風になる。人手が足りない病院は、看護師の手を物品管理から離そうとする。500床以上の病院の約8割はすでにSPDを入れており、これからは中規模の病院が伸びしろだ。メディセオやスズケンなど薬の卸も同じSPDを手がけ、医療材料の卸には三菱商事系のエム・シー・ヘルスケアなどもいる。競争は激しい。院内の医薬品だけを扱う競合に対し、会社は医療材料と機器まで一括で受ける点で差をつける。
一方、施設と機器の市場は逆風を受ける。国内の医療機器の市場は約4.7兆円(2024年)。納入先の病院が設備投資を絞れば、TPPの案件は減る。建築費の高騰も、案件の採算を圧迫する。
資本政策と M&A
資本政策は、株主を向いた方向に動いている。中期計画は配当性向30%以上を掲げるが、実際の配当は2026年3月期で純利益の約4割まで上がった。機動的な自社株買いも宣言し、2026年6月には上限50億円・330万株の枠を決めた。8月末までに約32億円を使った。
自己資本利益率12%の目標は、資本の使い方を変える約束でもある。会社は営業CFを5年で1,000〜1,200億円と見込み、成長投資に600〜800億円を充てる。残りが還元と現金の積み増しにまわる計算になる。現金は482億円と厚く、時価総額の2割に当たる。
M&Aは成長の手段だ。狙いは、同じ地域で重なる調剤薬局やSPD会社の買い増しと、経営が弱った介護事業の再生である。グループ会社を整理して効率を上げながら、買収も続ける。買収の失敗で価値を壊した例は、筆者の調べた範囲では見当たらない。
他社からのTOBの可能性は、公開情報から断定できない。上位株主は信託銀行や海外の金融機関が中心で、親会社はいない。
2026年6月決議の自己株式取得のうち8月末までの約32億円は実行済みで、株数に反映した。この分は10年の還元に入れていない。純現金は約450億円に減り、余った現金(excess_cash_oku)も同額減らした。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
病院の経営難が、むしろ会社の追い風になる。人手が足りない病院は、物品管理を外に出さざるを得ない。500床以上の病院はすでに8割がSPDを入れており、次は200〜500床の中規模病院だ。会社は277件・約10万2千床の実績と、物流データから病院の経営を支える自社ツールを持つ。入札では、安さより運営の質と見える化の力が効く。
数量は伸びる。SPDで取った病院に、医療材料や機器を一括で納め、利益の高い施設案件のTPPにつなげる循環ができあがっている。大学附属病院や重粒子線の施設など、大型案件の実績も厚い。診療報酬が3%上がった2026年度以降、病院の建て替えの先送りは限界を迎え、案件が戻る。
利益率も上がる。物流センターの自動化で人件費を5分の1に抑えた手法は、全国に広げられる。グループ会社の整理で、間接費が減る。中期計画の営業利益率4%、自己資本利益率12%は、すでに視野に入っている。
資本効率も改善する。純現金は厚く、買収の機会も多い。調剤薬局や介護の再生M&Aで利益を積み、株主還元は純利益の7割を超える。薬の卸と違い、医療機器と施設は薬価に縛られない。こうして営業利益は10年で倍近くになる。
慎重な見方
顧客の病院が持たない。赤字の病院は7割に近い。診療報酬が上がっても、賃上げと物価高で消える。病院は委託料を叩き、機器の更新を先送りする。TPPはその直撃を受ける。2026年3月期にすでに10%減益で、完成時期のずれと一過性費用を理由にしたが、案件そのものが減っている可能性もある。
SPDの利益は薄い。営業利益率は1.5%で、最低賃金の上昇で派遣費が増え、2026年3月期の上期にも仕入れ価格と人件費の上昇が重くのしかかった。委託料の値上げを病院に飲ませるのは難しい。薬の卸大手のメディセオやスズケンも同じ市場で攻めてくる。
病院の数そのものが減る。地域医療構想のもとで病床は減り、公立病院は統合される。統合されれば入札は大型になり、価格競争が強まる。10年先には、病院が物流を自前に戻す動きも出うる。
資本効率の目標も怪しい。営業利益率4%とROE12%は、TPPの回復が前提だ。これが外れれば、利益は伸びず、厚い現金を使った買収で稼ぎを買う無理が出る。買収で背伸びしたぶんだけ、資本効率はむしろ悪くなる。今の値段は、堅い事業という評価を織り込み済みだ。
どちらに重みを置いたか
両者は拮抗するが、筆者は慎重な見方をわずかに強いと判断した。物流の外部委託が増えるという強気の見方は確かで、10年の数量は伸びる。ただ、その利益は1.5%と薄く、利益の半分近くを握るTPPは病院の懐次第で揺れる。中立を4割弱に厚くし、悲観の確率は構造的な負けを想定して1割、楽観は1割弱に置いた。結果として、本質価値は今の値段とほぼ並ぶ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,829 円3,470 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,289 円1,168 億円)。 今の値に割り戻すと 2,923 円2,648 億円、今との差 +14.1%、 期待の年率 +7.2%(資本コスト 6.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,291 円5,701 億円 | 1,741 円1,578 億円 | +213.5% | +12.1% | 643 円582 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,267 円4,772 億円 | 1,532 円1,388 億円 | +165.4% | +10.3% | 1,496 円1,355 億円 |
| 中立 | 38% | 4,339 円3,931 億円 | 1,355 円1,228 億円 | +122.2% | +8.3% | 2,164 円1,960 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,976 円1,791 億円 | 1,024 円928 億円 | +17.1% | +1.6% | 660 円598 億円 |
| 悲観 | 10% | 840 円761 億円 | 726 円658 億円 | −38.9% | −4.8% | 157 円142 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,829 円3,470 億円 | 1,289 円1,168 億円 | +99.8% | +7.2% | 5,119 円4,638 億円 |
今の株価時価総額 2,562 円2,321 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 委託が中規模病院へ広がり、施設案件も戻る 利益 280 億円 · PER 19.8 倍 · 株価時価総額 6,291 円5,701 億円
人手不足の病院が物品管理を外へ出す流れは、500床以上から200〜500床の病院へ広がる。会社のSPDは10年で約15万床へ増え、医療材料や機器の一括納入で1床あたりの取扱額も伸びる。
TPPは、診療報酬の改定で経営が持ち直した病院が建て替えに動き、大学附属病院や重粒子線のような大型案件を重ねる。利益率は9%に乗る。物流センターの自動化は全国に広がり、メディカルサプライの利益率も1.75%へ上がる。
調剤とライフケアは再生型M&Aで厚みを増す。営業利益は480億円、純利益は約280億円。株主還元は10年で1,600億円ほどになる。自己資本利益率は15%に近づき、規模と資本効率を兼ね備えた会社として評価が上がる。
- メディカルサプライ(SPD・医療材料):数量 14.8(SPDの管理病床数(万床))× 価格 1.30(1床あたりの取扱額の水準を今を 1 とした指数(委託料と物の値段の合成。薬価・材料価格の引き下げと物価の上昇が混ざる))→ 売上 9,614 億円・営業利益 168 億円。メディカルサプライ(SPD・医療材料):数量 1.45 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 1.75%
- トータルパックプロデュース(施設・機器):数量 0.2(施設・機器の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.38(案件の値段の水準を今を 1 とした指数(建築費・機器価格は物価並みかそれ以上に上がる))→ 売上 2,357 億円・営業利益 212 億円。トータルパックプロデュース(施設・機器):数量 1.25 倍・価格 1.38 倍、営業利益率 9.00%
- 調剤薬局:数量 0.0(調剤医療費に占める自社の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.28(処方1件あたりの売上水準を今を 1 とした指数(薬価の下げと調剤報酬の加算、物価の合成))→ 売上 511 億円・営業利益 59 億円。調剤薬局:数量 1.15 倍・価格 1.28 倍、営業利益率 11.50%
- ライフケア(給食・介護):数量 0.0(給食・介護サービスの取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.34(食材費・サービス料金の水準を今を 1 とした指数(物価並みに上がるが、介護報酬に縛られる))→ 売上 624 億円・営業利益 41 億円。ライフケア(給食・介護):数量 1.25 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 6.50%
倍率:事業の純利益 278 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.7% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)168 億円。全体の PER 19.76 倍、時価総額 5,701 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:病院の人手不足が委託を押し、施設の建て替えも戻る、すべてがうまくいく姿。確率は1割に届かない。
やや楽観 22% 委託は堅調に伸び、利益率も少し上がる 利益 244 億円 · PER 18.9 倍 · 株価時価総額 5,267 円4,772 億円
SPDは中規模病院の取り込みとM&Aで数量が4割近く増える。院内医薬品に医療材料と機器を重ねる一括委託が定着し、メディカルサプライの利益率は1.6%まで上がる。
TPPは病院の建て替えが少しずつ戻り、利益率は8.5%を保つ。調剤は薬局の統合の効果で11%の利益率を維持し、ライフケアは水光熱費の上昇を価格に転嫁できる。
営業利益は約420億円、純利益は約240億円。還元は10年で約1,400億円。自己資本利益率は12%台。中期計画の2030年3月期の目標には届かないが、近づく姿だ。M&Aは調剤薬局とSPD会社の買い増しが中心で、買収額は営業CFの範囲に収まる。グループ会社の整理も進み、間接費の増加を抑える。
- メディカルサプライ(SPD・医療材料):数量 14.1(SPDの管理病床数(万床))× 価格 1.28(1床あたりの取扱額の水準を今を 1 とした指数(委託料と物の値段の合成。薬価・材料価格の引き下げと物価の上昇が混ざる))→ 売上 9,009 億円・営業利益 144 億円。メディカルサプライ(SPD・医療材料):数量 1.38 倍・価格 1.28 倍、営業利益率 1.60%
- トータルパックプロデュース(施設・機器):数量 0.2(施設・機器の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.36(案件の値段の水準を今を 1 とした指数(建築費・機器価格は物価並みかそれ以上に上がる))→ 売上 2,192 億円・営業利益 186 億円。トータルパックプロデュース(施設・機器):数量 1.18 倍・価格 1.36 倍、営業利益率 8.50%
- 調剤薬局:数量 0.0(調剤医療費に占める自社の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.25(処方1件あたりの売上水準を今を 1 とした指数(薬価の下げと調剤報酬の加算、物価の合成))→ 売上 476 億円・営業利益 52 億円。調剤薬局:数量 1.10 倍・価格 1.25 倍、営業利益率 11.00%
- ライフケア(給食・介護):数量 0.0(給食・介護サービスの取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.32(食材費・サービス料金の水準を今を 1 とした指数(物価並みに上がるが、介護報酬に縛られる))→ 売上 581 億円・営業利益 35 億円。ライフケア(給食・介護):数量 1.18 倍・価格 1.32 倍、営業利益率 6.00%
倍率:事業の純利益 242 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)168 億円。全体の PER 18.87 倍、時価総額 4,772 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:SPDの伸びは続き、TPPも底を打つ姿。中期計画に近い。確率は2割台前半。
中立 38% 堅い伸びが続くが、利幅は広がらない 利益 210 億円 · PER 17.9 倍 · 株価時価総額 4,339 円3,931 億円
病院の人手不足でSPDの委託は増え、管理病床は10年で3割ほど増える。ただ、委託料の値上げは病院との交渉で小さく、メディカルサプライの利益率は1.45%で動かない。物の値段は薬価と材料価格の引き下げで物価ほどは上がらない。
TPPは病院の設備投資の伸びを物価並みに保ち、利益率は8%。調剤は買収と統合で小さく伸び、ライフケアは人件費の上昇を価格に転嫁しながら食数を増やす。
営業利益は約360億円、純利益は約210億円。営業利益率は3%台前半に下がる。還元は10年で約1,300億円で、純利益の7割を返す。自己資本利益率は10%前後を保つ。今と同じ堅さが、10年続く姿だ。
- メディカルサプライ(SPD・医療材料):数量 13.3(SPDの管理病床数(万床))× 価格 1.25(1床あたりの取扱額の水準を今を 1 とした指数(委託料と物の値段の合成。薬価・材料価格の引き下げと物価の上昇が混ざる))→ 売上 8,288 億円・営業利益 120 億円。メディカルサプライ(SPD・医療材料):数量 1.30 倍・価格 1.25 倍、営業利益率 1.45%
- トータルパックプロデュース(施設・機器):数量 0.2(施設・機器の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.34(案件の値段の水準を今を 1 とした指数(建築費・機器価格は物価並みかそれ以上に上がる))→ 売上 2,014 億円・営業利益 161 億円。トータルパックプロデュース(施設・機器):数量 1.10 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 8.00%
- 調剤薬局:数量 0.0(調剤医療費に占める自社の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.22(処方1件あたりの売上水準を今を 1 とした指数(薬価の下げと調剤報酬の加算、物価の合成))→ 売上 444 億円・営業利益 47 億円。調剤薬局:数量 1.05 倍・価格 1.22 倍、営業利益率 10.50%
- ライフケア(給食・介護):数量 0.0(給食・介護サービスの取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.30(食材費・サービス料金の水準を今を 1 とした指数(物価並みに上がるが、介護報酬に縛られる))→ 売上 533 億円・営業利益 30 億円。ライフケア(給食・介護):数量 1.10 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 5.60%
倍率:事業の純利益 208 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.0% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)168 億円。全体の PER 17.92 倍、時価総額 3,931 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:病院は苦しいが委託は増え、利幅は物流の薄さに縛られる。最も確からしい姿として4割弱。
やや悲観 22% 病院の設備投資が細り、施設案件が痩せる 利益 146 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,976 円1,791 億円
病院の赤字が続き、新築・改修は先送りされる。TPPの数量は1割以上減り、建築費の高騰も重なって利益率は6.5%に落ちる。SPDは委託料の引き下げ圧力を受け、メディカルサプライの利益率は1.25%へ細る。
最低賃金の上昇で派遣費は増え続け、物流センターの自動化でも追いつかない。調剤とライフケアも利益率が下がる。
営業利益は約245億円、純利益は約145億円。還元は10年で約1,000億円に減る。自己資本利益率は8%まで落ち、中期計画の12%はかなり遠い。成長を買うためのM&Aも、価格が高く進めにくい。
- メディカルサプライ(SPD・医療材料):数量 11.4(SPDの管理病床数(万床))× 価格 1.20(1床あたりの取扱額の水準を今を 1 とした指数(委託料と物の値段の合成。薬価・材料価格の引き下げと物価の上昇が混ざる))→ 売上 6,854 億円・営業利益 86 億円。メディカルサプライ(SPD・医療材料):数量 1.12 倍・価格 1.20 倍、営業利益率 1.25%
- トータルパックプロデュース(施設・機器):数量 0.1(施設・機器の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.30(案件の値段の水準を今を 1 とした指数(建築費・機器価格は物価並みかそれ以上に上がる))→ 売上 1,563 億円・営業利益 102 億円。トータルパックプロデュース(施設・機器):数量 0.88 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 6.50%
- 調剤薬局:数量 0.0(調剤医療費に占める自社の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.15(処方1件あたりの売上水準を今を 1 とした指数(薬価の下げと調剤報酬の加算、物価の合成))→ 売上 399 億円・営業利益 36 億円。調剤薬局:数量 1.00 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 9.00%
- ライフケア(給食・介護):数量 0.0(給食・介護サービスの取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.25(食材費・サービス料金の水準を今を 1 とした指数(物価並みに上がるが、介護報酬に縛られる))→ 売上 475 億円・営業利益 21 億円。ライフケア(給食・介護):数量 1.02 倍・価格 1.25 倍、営業利益率 4.50%
倍率:事業の純利益144億円・事業 ROE 7.7%。RONIC=k 6.75%+1/2×(ROE−k)=7.5%、g 3.75% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=14.2倍。成長が鈍り、投じた資本の稼ぎも低い会社として、1÷kの8割に置いた。上限の約8割の11.4倍に置いた。
確率:赤字病院が多い今の環境が続けば起きやすい。TPPの減益は2026年3月期にすでに出ており、2割台前半を置いた。
悲観 10% 病院の統合と内製化で、取り分が痩せる 利益 81 億円 · PER 8.3 倍 · 株価時価総額 840 円761 億円
地域医療構想で病床が減り、公立病院が統合される。統合後の病院は大型の入札に切り替え、SPDの委託料は叩かれる。大手の薬卸が医療材料まで抱え込み、会社の差は消える。一部の病院は物流を自前に戻す。
病院の設備投資は止まり、TPPの数量は3分の2に減る。利益率は4.5%まで下がる。メディカルサプライは1%を割り込む。
営業利益は約130億円、純利益は約80億円。もう優良企業とは呼べない。還元は10年で約700億円に抑えられる。買収で稼ぎを買おうとした分も失敗に終わり、資本効率は4%台まで落ちる。厚かった現金は買収と赤字の穴埋めに消え、株主への還元も細る。規模はあっても、病院から選ばれる理由が薄れた会社になる。
- メディカルサプライ(SPD・医療材料):数量 9.7(SPDの管理病床数(万床))× 価格 1.12(1床あたりの取扱額の水準を今を 1 とした指数(委託料と物の値段の合成。薬価・材料価格の引き下げと物価の上昇が混ざる))→ 売上 5,426 億円・営業利益 52 億円。メディカルサプライ(SPD・医療材料):数量 0.95 倍・価格 1.12 倍、営業利益率 0.95%
- トータルパックプロデュース(施設・機器):数量 0.1(施設・機器の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.20(案件の値段の水準を今を 1 とした指数(建築費・機器価格は物価並みかそれ以上に上がる))→ 売上 1,066 億円・営業利益 48 億円。トータルパックプロデュース(施設・機器):数量 0.65 倍・価格 1.20 倍、営業利益率 4.50%
- 調剤薬局:数量 0.0(調剤医療費に占める自社の取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.05(処方1件あたりの売上水準を今を 1 とした指数(薬価の下げと調剤報酬の加算、物価の合成))→ 売上 328 億円・営業利益 21 億円。調剤薬局:数量 0.90 倍・価格 1.05 倍、営業利益率 6.50%
- ライフケア(給食・介護):数量 0.0(給食・介護サービスの取扱量(今の値段で測った兆円))× 価格 1.15(食材費・サービス料金の水準を今を 1 とした指数(物価並みに上がるが、介護報酬に縛られる))→ 売上 407 億円・営業利益 10 億円。ライフケア(給食・介護):数量 0.95 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 2.50%
倍率:事業の純利益80億円・事業 ROE 4.2% は k 6.75% 以下なので、上限は 1÷k=13.8倍。ROEが資本コストを大きく下回り利益も薄い構造的に負けた会社として、1÷kの6割に置いた。厚い現金は余った現金として別に足している。上限の約6割の8.3倍に置いた。
確率:10年の悲観は、病床の削減・病院の統合・物流の内製化が同時に来る構造的な負け。確率は1割。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
メディカルサプライ(SPD・医療材料)
病院の医療材料・医薬品・滅菌器材を一括で管理し、現場へ届ける。院内型・院外型のSPDが中核。
| 数量SPDの管理病床数(万床) | 価格1床あたりの取扱額の水準を今を 1 とした指数(委託料と物の値段の合成。薬価・材料価格の引き下げと物価の上昇が混ざる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.2 | 1.00 | 5,096 | 75 |
| 10 年後 中立 | 13.3 | 1.25 | 8,288 | 120 |
取り方:会社の開示で SPD は 277 件・約 10 万 2 千床(2026 年 3 月末)。売上 5,096 億円を管理病床で割ると 1 床あたり約 500 万円で、rev_factor は 500(億円÷万床)とした。国内の病院病床は約 150 万床なので、管理病床は約 7%。売上には院外での医療材料の販売も入るため、1 床あたりの額は推計で、開示値ではない。
トータルパックプロデュース(施設・機器)
大学附属病院などの新築・改修に合わせ、医療機器・設備の納入と施設プロジェクトの管理を引き受ける。
| 数量施設・機器の取扱量(今の値段で測った兆円) | 価格案件の値段の水準を今を 1 とした指数(建築費・機器価格は物価並みかそれ以上に上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.1 | 1.00 | 1,366 | 108 |
| 10 年後 中立 | 0.2 | 1.34 | 2,014 | 161 |
取り方:開示に市場規模とシェアが無い。国内の医療機器市場は約 4.7 兆円(2024 年出荷)で、施設工事と合わせた病院の設備投資は 1 兆円規模と見られるが、会社の取り分は推定できない。そのため今の売上 1,366 億円分(0.1366 兆円)を取扱量の基準にした。1 兆円 = 10,000 億円で換算。
調剤薬局
調剤薬局を運営する。小規模店の買収と統合で効率を上げている。
| 数量調剤医療費に占める自社の取扱量(今の値段で測った兆円) | 価格処方1件あたりの売上水準を今を 1 とした指数(薬価の下げと調剤報酬の加算、物価の合成) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.0 | 1.00 | 347 | 40 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 1.22 | 444 | 47 |
取り方:国内の調剤医療費は約 8 兆円と見積もる(筆者の推定)。会社の売上 347 億円はそのうち約 0.4%。数量はその取扱量(0.03467 兆円分)、価格は 1 件あたり売上の指数。市場規模は推定で、開示値ではない。
ライフケア(給食・介護)
介護・福祉施設への給食提供と、介護サービス。
| 数量給食・介護サービスの取扱量(今の値段で測った兆円) | 価格食材費・サービス料金の水準を今を 1 とした指数(物価並みに上がるが、介護報酬に縛られる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.0 | 1.00 | 373 | 22 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 1.30 | 533 | 30 |
取り方:開示に市場規模とシェアが無い。今の売上 373 億円分(0.0373 兆円)を基準にした推計。数量は高齢者施設の利用者の増加と M&A で動くとみて先を置いた。
リスクと懸念
病院の経営悪化
赤字の病院は6〜7割に上る。診療報酬が3%上がっても、賃上げと物価高で消える。病院は委託料を叩き、機器の更新を先送りする。SPDとTPPの両方に効く最大の下押し要因だ。
TPPへの利益依存
営業利益の44%を稼ぐTPPは、案件の完成時期で利益が動く。2026年3月期は10%の減益だった。大型案件が1つずれるだけで、連結の利益は1割ほど動く。利益の質はこの点で割り引いて見る必要がある。
物流の人件費と薄利
メディカルサプライの営業利益率は1.5%。最低賃金の上昇で派遣費と委託費が増え、仕入れ価格も上がる。委託料の引き上げは病院との交渉次第で、費用が先に上がれば利益はすぐ削られる。
薬価・材料価格の引き下げ
院内の医薬品と特定保険医療材料の価格は、制度の改定で下がり続ける。会社の売上は取扱量が伸びても金額では増えにくい。値下がりぶんを委託料や機器で補えるかが問われる。
M&Aの失敗とのれん
会社は成長投資に5年で600〜800億円を想定する。調剤薬局や介護の再生型M&Aは、買った後の立て直しが利益を左右する。高く買えば、のれんの償却で利益を削り、資本効率も落ちる。
SPDの競争と内製化
メディセオやスズケンなど薬の卸も、SPDを手がける。公立病院の統合で入札が大型になれば、価格競争が強まる。病院が物流を自前に戻す動きが出れば、受託の数量そのものが減る。
今後の分かれ目
- 診療報酬の改定が続けて大きく上がり、赤字病院の割合が下がった
- 病院の設備投資が戻り、TPPの案件が増える。楽観とやや楽観の確率を上げ、倍率も上限に近づける。
- TPPの営業利益が2期続けて100億円を割った
- 利益の半分近くが崩れたと判断し、やや悲観と悲観の確率を厚くする。営業利益率は3%を割る前提で見直す。
- SPDの契約が200〜500床の中規模病院へ急速に広がった
- 数量の伸びが上振れし、メディカルサプライの営業利益が増える。中期計画の営業利益率4%が現実味を帯び、楽観側へ確率を寄せる。
- 公立病院の統合で、大型の入札が増え、委託料の値下げ圧力が強まった
- メディカルサプライの営業利益率を1%前後で見る。やや悲観と悲観の確率を上げる。
- 自社株買いや配当を大きく増やし、総還元が純利益の8割を超えた
- 自己資本が圧縮され、自己資本利益率が上がる。還元の合計を上方に直す。ただし稼ぐ力は変わらないので、倍率は据え置く。
- 大型のM&Aが発表され、買収額が純現金を大きく超えた
- のれんと借入の負担を見て、買収先の利益率が既存事業を上回らなければ、確率を悲観側へ動かす。
見ておくもの
- TPP事業の営業利益(2026年3月期は108億円)と案件の完成時期
- SPDの契約件数・管理病床数(277件・約10万2千床)
- メディカルサプライ事業の営業利益率(1.5%)
- 病院の経営状況(四病院団体の調査)と診療報酬改定の幅
- 自社株買い・配当の実績と、成長投資(M&A)の規模
- 中期計画の目標(営業利益率4%・自己資本利益率12%)の進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は事業の経済性(成長・ROE・資本コスト)から式で決め、今の株価で測っていない。k は 6.75%(基本 7.5% に quality −0.25%)。事業の ROE は 10〜11% で k を上回るので、上限の約 87% に置いた。余った現金は事業の備え(売上の約 2 週間分)を引いた 200 億円だけを足した。店舗・倉庫の賃借は調剤・給食で一部あるが小さく、新リース会計基準(2028/03 期)で見かけの純負債は増える。10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17→19.76 倍・やや楽観 PER 15.8→18.87 倍・中立 PER 14.7→17.92 倍)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality −0.25% を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.25% → 6.75%。