結論
Cominix は、超硬の切削工具を自動車や航空機の工場へ売る専門商社だ。大阪で1945年に始まった工具店が前身で、住友電気工業の特約店という顔を持つ。筆者の結論は「今の値段は10年の価値に対してやや高い」。
2026年3月期の売上は411億円と、前の期より4割近く増えた。主因は2024年12月に買った機械工具商社 Kamogawa の連結化だ。ただ営業利益率は2.4%にとどまる。規模は買えても、利ざやの薄い商売であることは変わらない。
今期は前半の好調を受けて、営業利益の予想を16億円へ引き上げた。それでも筆者は、10年先の利益率を過去の山(4.4%)より低い3%台前半と見る。顧客は自動車に偏り、エンジン部品の加工は電動化で細る。仕入れは住友電工に頼る。タングステンの高騰を売値に移せるかも読み切れない。
資本効率も高くない。自己資本利益率は8%台で、資本コスト8.25%と並ぶ程度だ。買収資金は借入で賄ったため、純有利子負債が31億円ある。株主に冷たい会社ではないが、持ち続けて資本が増える会社でもない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、Cominix は「持ち続けて価値が増える会社」とは言いにくい。理由は三つある。
一つ目は、堀が細いこと。住友電工の特約店という地位は、契約が1年更新で、相手の都合に左右される。顧客の自動車産業は電動化の途中にある。10年後もこの利ざやが残る保証はない。
二つ目は、資本の戻り方だ。事業のROEは8%前後で、資本コストの8.5%に届かない。稼いだ利益のうち配当に回るのは3割で、残りは買収と借入の返済に使われる。買収が当たれば価値は増えるが、薄い利ざやの商社を買い続けても、資本コストを超える稼ぎは生まれにくい。
三つ目は、安全域だ。時価総額は純資産の1.2倍ほどで、純有利子負債が31億円ある。悲観の筋書きでは稼ぐ力も資産の売却額も今の値段を下回る。
一方で、経営は誠実に見える。計画は達成し、借入は減らし、買収した会社の整理も進めた。値段が下がり、純資産を大きく下回る水準まで来れば、候補になりうる。今の値段では、10年で資本コストをやや下回る見込みと筆者は見ている。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、工場の機械加工で使う工具を売ることだ。主力は超硬の切削工具で、売上の約4割を占める。1945年創業の工具店が起源で、いまは連結子会社21社、従業員669人の企業グループになった。
販売は2つの経路がある。直販部門は工場へ工具を直接納め、使い方の相談にも乗る。卸部門は同業の工具店に商品を流す。住友電工の「イゲタロイ」などを扱う特約店で、契約は2004年から1年ごとに自動更新されている。
海外は売上の約2割。中国、ASEAN、インド、北米、メキシコの現地法人が工具を売る。インドと北米の開拓、それに鉱物資源の販売が今期の増収を支えた。
2024年12月に買った Kamogawa は、機械・自動化設備と工具を製造業へ納める商社だ。取得額は43億円で、売上は年100億円規模。いまの連結では「KMS」というセグメントになり、売上の4分の1を占める。
残りは、国内の製缶業界向けが多い耐摩工具、光ファイバーなどの光製品、工具の通販(EC)だ。ECは会員が増えたが、赤字が続く。
顧客は自動車関連が最大で、航空機・防衛向けの直需が今期は伸びた。業績は自動車の設備投資に連動しやすい。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、細くて浅い。住友電工の特約店という地位と、超硬工具を扱う長年の知識、直販と卸の二本立ての販売網。この3つがあるが、どれも決定的ではない。特約店の契約は1年更新で、相手の都合で変えられうる。
利益率は薄く、ぶれる。営業利益率は過去12年で0.3%から4.4%の間にあり、中央値は2%台だ。今期の2.4%は平均より少し上にすぎない。
資本効率も平凡だ。自己資本利益率の過去10年の中央値は8%、今期は8.5%。会社が掲げた今期の目標(7.5%)は超えたが、資本コスト8.25%に届いていない。自己資本比率は33.8%。買収後に借入が増え、財務は厚くない。
経営は堅実だ。前の中期計画は売上400億円・営業利益10億円が目標で、実績は411億円・9.8億円とほぼ計画どおりだった。今期は借入を21億円返し、子会社が持つ事業に使わない資産の売却益も出した。
筆者が弱みと見るのは顧客の偏りだ。自動車向けの切削工具、製缶向けの耐摩工具と、特定の業界に寄りかかる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
商社の稼ぎは、顧客の工場がどれだけ工具を使うかで決まる。国内の工場は人手不足のなか自動化を進めているが、自動車の部品加工は電動化で長い目では減る。エンジンや変速機は、削る部品が多いからだ。
その穴を埋めるのが航空機と防衛、半導体製造装置、EV電池まわりの加工だ。今期は航空機・防衛向けの直需が伸び、EV電池向けの耐摩工具も増えた。ただ、規模は自動車の減りを補うほど大きくはない。
値段の面では、主要メーカーが工具を値上げした。商社はこの値上げを受けて売上を増やしている。一方、超硬の原料であるタングステンは中国の輸出管理で調達が難しく、高騰している。仕入れが上がっても売値に移せなければ、利ざやが縮む。
競争の形は変わりつつある。標準品の工具は、ミスミやトラスコ中山、通販各社が全国に直接届ける。特注品や使い方の提案は専門商社の領域だが、そこでも工具メーカー自身が直販を強める動きがある。専門商社が生き残る条件は、在庫と技術提案で顧客の手間を減らし続けられるかどうかだ。
海外は新興国の工場投資が追い風で、インドと北米が伸びている。ただ関税の影響で、北米とメキシコでは粗利率が下がった。
資本政策と M&A
配当は連結配当性向30%を目処とする。今期の年間配当は性向でおよそ3割強で、自社株買いは行っていない。株主への還元は控えめだ。
資本政策の中心は買収だ。2020年に大西機工、東新商会、澤永商店、川野辺製作所を相次いで傘下に入れ、2024年に Kamogawa を43億円で買った。買収資金は一時的な借入で賄い、4000百万円のシンジケートローン(2032年まで、財務制限条項つき)で借り換えた。
今期は借入を21億円返し、投資有価証券(持ち合い株)も8.8億円売って、財務を整える方向に動いた。持ち合い株は住友電工、不二越、日産自動車、OSGなどを持つ。毎年見直す方針だ。
株主は個人の大株主と従業員持株会が上位で、支配する親会社はいない。流通株が少なく、時価総額は約100億円と小さい。
筆者は、買収に強い会社だと見る一方で、次の買収が借入頼みになることを気にする。財務制限条項があるので、買収の余力は限られる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
Cominix の本当の強みは、買収を重ねて規模を作り、そこに自動化の追い風を乗せる点にある。Kamogawa の取得で売上は400億円を超えた。KMS は機械と自動化設備を扱い、工場の人手不足が続くかぎり需要は底堅い。今期の営業利益予想はすでに16億円まで上がっている。
海外は2桁の伸びだ。インドと北米はこれから拠点が育つ段階にあり、鉱物資源の販売まで手を広げた。国内の切削工具も、航空機・防衛の直需が自動車の減りを補いつつある。主要メーカーの値上げが続くかぎり、売上の水準は上がり、利ざやの率もゆっくり改善する。
財務の面では、今期に借入を21億円返し、持ち合い株も売った。買収後の借入が重い会社が、返済を進めている。この調子で5年続ければ、自己資本比率は4割を超え、配当性向の引き上げや買収の再開もできる。時価総額は純資産の1.2倍ほどにすぎず、利益率がもう1ポイント上がるだけで、今の値段は割安に変わる。
慎重な見方
利ざやの薄い商社が、10年の物価上昇と電動化を乗り切るのは簡単ではない。営業利益率はたった2.4%で、人件費と物流費が上がれば、残りはさらに薄くなる。今期予想の3.6%は、前半の好調を織り込んだ数字で、通年で続く保証はない。
仕入れは住友電工の特約店契約に依る。契約は1年更新で、相手が販売網を見直せば、切削工具の取り分は一気に減る。主要メーカーの値上げに乗った売上増は、いつ巻き戻ってもおかしくない。タングステンの高騰も、売値に移せなければ利ざやを削る。
顧客は自動車と製缶に偏る。電動化でエンジン部品の加工は減り、航空機やEV電池向けの伸びでは埋まりにくい。買収したKMSも景気の影響が大きく、のれんの減損が出れば自己資本が削られる。借入には財務制限条項が付き、金利は上がっていく。
事業のROEは8%前後で、資本コストに届かない。そうした会社に、純資産の1.2倍の値段は高い。10年たっても、配当を受け取る程度の収益では、資本コストに見合わない。
どちらに重みを置いたか
筆者は、慎重な見方がやや強いと判断した。理由は、利益率が薄く、10年先の自動車向け需要と特約店契約に確信を持てないことだ。ただ、今期の計画達成と借入の返済は事実で、買収も統合の途上にある。このため中立の38%を最大にしつつ、やや悲観と悲観を合わせて35%に厚く置いた。強気の見方の根拠である海外とKMSの伸びは、中立に取り込んでいる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,118 円145 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 487 円33 億円)。 今の値に割り戻すと 1,286 円88 億円、今との差 −13.5%、 期待の年率 +5.8%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,118 円283 億円 | 670 円46 億円 | +222.0% | +12.4% | 335 円23 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,138 円216 億円 | 582 円40 億円 | +150.2% | +9.6% | 744 円51 億円 |
| 中立 | 38% | 2,418 円166 億円 | 524 円36 億円 | +97.9% | +7.1% | 1,118 円77 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,061 円73 億円 | 437 円30 億円 | +0.7% | +0.1% | 359 円25 億円 |
| 悲観 | 11% | 262 円18 億円 | 175 円12 億円 | −70.6% | −11.5% | 48 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,118 円145 億円 | 487 円33 億円 | +75.2% | +5.8% | 2,605 円179 億円 |
今の株価時価総額 1,487 円102 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 7% 自動化と海外が伸び、買収も当たる 利益 19 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 4,118 円283 億円
切削工具は航空機・防衛・半導体装置向けが自動車の減りを補い、数量は今の水準を保つ。値上げは物価並みに通る。海外はインドと北米で拠点が育ち、数量が1.7倍に増える。KMS は工場の人手不足を背景に自動化設備が売れ、数量が1.35倍になる。
営業利益率は3.8%まで上がる。過去の最高は4.4%で、そこには届かない。商社の利ざやは、規模を増やしても急には広がらないからだ。営業利益は約27億円。
10年のうちに小さな買収を続け、住友電工以外の仕入れ先も増える。借入は返し終え、配当性向は30%台後半へ上がる。
- 切削工具(国内):数量 105(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 2.34(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 246 億円・営業利益 9 億円。数量 1.05 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 3.5%
- 海外:数量 170(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 1.20(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 205 億円・営業利益 7 億円。数量 1.70 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 3.4%
- Kamogawa ものづくりソリューション(KMS):数量 135(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 1.36(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 183 億円・営業利益 8 億円。数量 1.35 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 4.2%
- 耐摩工具・光製品・EC・その他:数量 120(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 0.61(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 73 億円・営業利益 4 億円。数量 1.20 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 19 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.44 倍、時価総額 274 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:買収で厚みが出て、海外のインド・北米が育ち、KMS の自動化設備が伸びる筋書き。薄い利ざやの商社が10年で売上を7割増やし、利益率も上げる必要があり、起こる確率は低いが、無視はできないので7%。
やや楽観 20% 海外とKMSが育ち、国内は横ばい 利益 15 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 3,138 円216 億円
国内の切削工具は自動車の減りを航空機・防衛が埋め、数量は横ばい。海外は数量が1.45倍、KMS は1.2倍になる。
営業利益率は3.3%。会社が今期に見込む3.6%を、10年かけて下回る水準に抑えた。物価で人件費も上がり、利ざやの改善は一部だけが残る。
配当性向は30%を超え、借入の返済も進む。
中計の延長線にある筋書きだが、国内の自動車向けが減らないことと、Kamogawa の統合費用が小さく済むことが条件になる。ここでも住友電工との契約は続き、タングステンの調達は安定する前提だ。営業利益は約21億円、純利益は15億円。
- 切削工具(国内):数量 100(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 2.34(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 234 億円・営業利益 7 億円。数量 1.00 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 3.0%
- 海外:数量 145(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 1.20(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 174 億円・営業利益 5 億円。数量 1.45 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 2.9%
- Kamogawa ものづくりソリューション(KMS):数量 120(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 1.36(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 163 億円・営業利益 6 億円。数量 1.20 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 3.8%
- 耐摩工具・光製品・EC・その他:数量 110(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 0.61(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 67 億円・営業利益 3 億円。数量 1.10 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 4.5%
倍率:事業の純利益 15 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.7% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍。全体の PER 13.6 倍、時価総額 204 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画(営業利益率3.6〜4.0%)に近い筋書きで、買収後の統合も進んでいる。ただ値上げが通る前提が強いので、中立より低い20%。
中立 38% 国内は細り、海外とKMSが補う 利益 12 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 2,418 円166 億円
国内の切削工具は、エンジン部品の加工が電動化で減る分を、航空機・防衛の直需と主要メーカーの値上げが埋める。数量は今の0.92倍。
海外はインドと北米が伸び、数量は1.25倍。KMS は自動化設備の需要で1.05倍。
営業利益率は3.2%。過去12年の最高4.4%を下回り、今期予想の3.6%よりも低い。10年かけて人件費と物流費が上がり、値上げで吸収できるのは一部と見る。営業利益は18億円、純利益は12億円。
配当性向は30%台を保ち、自社株買いはしない。住友電工との契約は続く。
KMS は景気の波を受けるが、機械と自動化設備の需要が人手不足で下支えされ、のれんの減損は出ない。海外は北米の関税の影響が薄れ、粗利率が少し戻る。買収は小粒のものを数件だけ行う。
- 切削工具(国内):数量 92.0(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 2.34(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 215 億円・営業利益 7 億円。数量 0.92 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 3.0%
- 海外:数量 125(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 1.20(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 150 億円・営業利益 4 億円。数量 1.25 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 2.8%
- Kamogawa ものづくりソリューション(KMS):数量 105(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 1.36(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 143 億円・営業利益 5 億円。数量 1.05 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 3.6%
- 耐摩工具・光製品・EC・その他:数量 100(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 0.61(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 61 億円・営業利益 2 億円。数量 1.00 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 4.0%
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.67 倍、時価総額 152 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:買収で規模が増した商社が、物価並みの値上げを続けて利益を実質で保つ筋書き。事業の変化が小さく、いちばん起こりやすいので最大の38%。
やや悲観 24% 自動車向けが細り、値上げも通りにくい 利益 8 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,061 円73 億円
国内の切削工具は自動車向けの加工が減り、数量は0.8倍。航空機が増えても追いつかない。仕入れ値の上昇を売値に移しきれず、価格は10年で1.30倍にとどまる。
海外は関税の影響が続き、数量は1.05倍。KMS も景気の谷で設備投資が止まり、0.95倍。
営業利益率は2.3%に下がり、営業利益は11億円。借入の金利が3.5%へ上がる分も効く。配当は性向30%を保つが、金額は減る。
借入の返済は進まず、自己資本比率は3割台前半で横ばいになる。買収の余力はなく、財務制限条項への対応が経営の中心になる。ただ事業は黒字を保ち、特約店の地位も失わないため、会社は存続し続ける。
- 切削工具(国内):数量 80.0(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 2.27(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 182 億円・営業利益 4 億円。数量 0.80 倍・価格 1.30 倍・営業利益率 2.2%
- 海外:数量 105(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 1.17(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 123 億円・営業利益 3 億円。数量 1.05 倍・価格 1.30 倍・営業利益率 2.0%
- Kamogawa ものづくりソリューション(KMS):数量 95.0(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 1.32(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 125 億円・営業利益 3 億円。数量 0.95 倍・価格 1.30 倍・営業利益率 2.5%
- 耐摩工具・光製品・EC・その他:数量 90.0(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 0.59(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 53 億円・営業利益 2 億円。数量 0.90 倍・価格 1.30 倍・営業利益率 3.0%
倍率:ROEが約5%でkを下回る。上限の1÷k=11.8倍に対し、約7割の8.0倍。
確率:電動化で自動車向けが細る流れは足もとでも見える。タングステンの高騰を価格に移せない年もある。商社の利ざやが縮む筋書きとして24%。
悲観 11% 特約店の地位を失い、自動車向けも崩れる 利益 3 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 262 円18 億円
住友電工が販売網を見直し、特約店の取り分が小さくなる。あわせて電動化が進み、国内の自動車向けの数量は0.55倍。価格は物価を移せず1.20倍にとどまる。
海外は0.8倍、KMS は0.75倍に縮む。営業利益率は1%台前半まで落ち、営業利益は4億円。借入の返済と固定費が重く、配当は性向でなく利益の残りから出す程度になる。
Kamogawa の買収で生じたのれんの減損も出る。自己資本は削られ、借入の借り換えは条件が悪くなる。事業は小さくなりながら続くが、株主に回る利益は細る。
会社は買収で広げた事業を畳みながら、借入の返済を最優先にする。10年で数量は国内0.55倍、海外0.8倍、KMS0.75倍に縮み、価格は1.20倍にとどまる。
- 切削工具(国内):数量 55.0(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 2.10(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 115 億円・営業利益 1 億円。数量 0.55 倍・価格 1.20 倍・営業利益率 1.0%
- 海外:数量 80.0(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 1.08(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 86 億円・営業利益 1 億円。数量 0.80 倍・価格 1.20 倍・営業利益率 1.2%
- Kamogawa ものづくりソリューション(KMS):数量 75.0(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 1.22(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 91 億円・営業利益 1 億円。数量 0.75 倍・価格 1.20 倍・営業利益率 1.3%
- 耐摩工具・光製品・EC・その他:数量 80.0(売上の実質指数(2026/03 期=100))× 価格 0.54(指数 1 点あたり売上(億円・名目))→ 売上 43 億円・営業利益 1 億円。数量 0.80 倍・価格 1.20 倍・営業利益率 1.5%
倍率:ROEが約2%でkを下回る構造的な負けの筋書き。稼ぐ力は小さく、純利益の7倍。床の資産18億円とほぼ同じ水準で、床に支えられる。
確率:住友電工が直販や他社への切り替えを進める、中国のタングステン輸出管理で調達が止まる、買収先の統合に失敗する、などが重なる筋書き。10年では無視できないので11%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
切削工具(国内)
超硬の切削工具・保持工具・測定機器を自動車・航空機・防衛などの工場へ直販し、同業の工具店へも卸す。住友電工の特約店。
| 数量売上の実質指数(2026/03 期=100) | 価格指数 1 点あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 1.75 | 175 | 4 |
| 10 年後 中立 | 92.0 | 2.34 | 215 | 7 |
取り方:2026/03 期の切削工具セグメント売上 174.6 億円・セグメント利益 3.54 億円。数量は実質の指数 100、価格は 1 点あたり売上。セグメント外の本社費・調整は「その他」に含めた。
海外
中国・ASEAN・インド・北米・メキシコの現地法人から工具を売る。鉱物資源の販売も含む。
| 数量売上の実質指数(2026/03 期=100) | 価格指数 1 点あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 0.90 | 90 | 2 |
| 10 年後 中立 | 125 | 1.20 | 150 | 4 |
取り方:2026/03 期の海外セグメント売上 89.8 億円(前期比 +23.2%)・利益 1.61 億円。数量は実質の指数、価格は 1 点あたり売上。
Kamogawa ものづくりソリューション(KMS)
2024 年 12 月に買った機械工具商社 Kamogawa。機械・自動化設備と工具を製造業へ納める。
| 数量売上の実質指数(2026/03 期=100) | 価格指数 1 点あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 1.01 | 101 | 2 |
| 10 年後 中立 | 105 | 1.36 | 143 | 5 |
取り方:2026/03 期の KMS セグメント売上 101.4 億円・利益 2.19 億円。取得時の売上 103 億円と同水準。数量は実質の指数、価格は 1 点あたり売上。
耐摩工具・光製品・EC・その他
製缶向けなどの耐摩工具、光ファイバー・光学部品、工具の通販、その他。本社費・調整を含む。
| 数量売上の実質指数(2026/03 期=100) | 価格指数 1 点あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 0.45 | 45 | 2 |
| 10 年後 中立 | 100 | 0.61 | 61 | 2 |
取り方:耐摩 22.6 億・光製品 13.9 億・EC 1.3 億・その他 7.4 億円の合計 45.2 億円。利益は連結営業利益 9.8 億円から上の 3 つを引いた残り 2.46 億円(耐摩 0.78・光 1.08・EC −0.65 のほか、セグメント外の調整を含む)。
リスクと懸念
住友電工の特約店契約
仕入れの要は住友電気工業の特約店契約で、契約は1年ごとの自動更新だ。販売網の見直しや直販の拡大で取り分が小さくなれば、切削工具の利ざやが崩れる。解消や変更の可能性は有価証券報告書にも書かれている。
自動車の電動化
顧客は自動車関連が中心だ。エンジンや変速機の加工は電動化で減る。航空機・防衛・EV電池向けで埋められるかが10年の勝負で、足もとでは自動車の設備投資の抑制も出ている。
タングステンなど原料の高騰
超硬工具の原料は中国の輸出管理の影響を受ける。調達が細れば売る物がなくなり、高騰を売値に移せない年は利ざやが縮む。会社は安全在庫と調達先の複線化で対応するが、在庫評価損のリスクも抱える。
買収の統合と減損
Kamogawa は43億円で買い、KMS は売上の4分の1を占める。のれんの減損や、買った商社の取引先が離れるリスクがある。過去にも大西機工などを買ってきた会社で、買収の成否が利益を大きく左右する。
借入と金利
有利子負債は88億円で、シンジケートローンには財務制限条項が付く。変動金利の借入が残り、金利が上がると利益が減る。今期は21億円を返したが、利益率が低いので利払いの余裕は大きくない。
製缶・光製品など特定業界への偏り
耐摩工具は国内の製缶業界向けの比率が高い。製缶の設備投資が止まれば耐摩の利益は半分以下に減りうる。光製品もマシンビジョンやLEDビジョンの受注に左右され、通販のEC事業は赤字が続く。
中抜きと通販の拡大
ミスミやトラスコ中山、通販各社が工具の標準品を直接売る流れが広がる。標準品は価格比較がしやすく、卸部門の取り分を削る。特注や技術相談で差をつけられない分野から利ざやが細る。
今後の分かれ目
- 住友電工が特約店契約を見直す、または直販を強める
- 切削工具の利益が大きく減り、悲観の筋書きの確率が上がる。
- 営業利益率が3%台後半で2年続く
- 今期予想の水準が定着したことになり、中立の利益率を上げて見直せる。
- Kamogawa の統合が進み、KMS の利益率が4%を超える
- 買収が当たったと判断でき、強気の筋書きの確率が上がる。
- タングステン価格の高騰が続き、売値に移せない
- 粗利率が下がり、買い置き在庫の評価損も出る。中立でも利益が薄くなる。
- 配当性向の引き上げや自社株買いが発表される
- 資本の戻りが改善し、純負債の返済後は価値に上乗せできる。
- 大型の買収を借入で行う
- のれんと金利負担が増える。買収価格と相手の利益率を見て、悲観側の確率を上げる。
見ておくもの
- 切削工具セグメントの利益率と住友電工との契約
- KMS の売上と営業利益率
- 海外のインド・北米の売上
- 純有利子負債と財務制限条項
- 自動車向けと航空機・防衛向けの比率
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から置いた。kは8.25%で、中立の事業のROEは約8%とkに届かず、PERの上限は1÷k=11.8倍。その約85%の10倍に置いた。今の株価や同業のPERは使っていない。中立の営業利益率は過去12年の最高(4.4%)を下回る3.2%で、今期予想の3.6%よりも低い。10年の人件費上昇と値上げの一部しか移せないことを見込んだ置き方だ。純利益÷営業利益は過去の中央値0.70に近い0.66に置いた。新リース会計基準は2028/03期から効くが、10年後の数字は家賃を営業費用に入れた今の形で揃えた。賃借料は大阪本社など合計で年1.5億円ほどで、影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→14.44 倍・やや楽観 PER 11.2→13.6 倍・中立 PER 10→12.67 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。