結論
兼松は、食料・電子デバイス・ICT・鉄鋼素材・車両航空の五つで稼ぐ中堅の専門商社だ。総合商社の小型版ではなく、ニッチな分野で「目利き」を効かせる会社である。稼ぐ力は年々強くなっている。純利益は10年前の3倍以上だ。
筆者の結論は、今の値段はほぼ適正というものだ。理由は単純で、商社の利益は景気の波に乗り、倍率が伸びる余地が小さいからだ。利益が増えても、売上に対する利益の薄さは変わらない。
利益の柱は意外な所にある。営業利益の3割はICTソリューションが稼ぐ。売上は1割なのに利益率が高い。電子デバイスは半導体や電子材料の需要に乗る。食料は売上の3分の1を占めるが、利益は薄い。
会社の計画どおり進めば、2027年3月期に純利益350億円、ROE16〜18%に届く。筆者はこの計画を、手堅いが山の高さを映したものと見る。ROEが高いのは、借金を使い、自己資本が薄いためでもある。
10年で見ると、事業の数量は大きくは伸びない。国内の食料と鉄鋼は人口とともに細る。伸びるのはICTと電子デバイスだけだ。この二つが利益の半分を超えれば、会社の質は変わる。
一方で、不況の底は深い。2009年3月期には赤字に落ちた。純負債は自己資本の半分近くあり、悲観の筋書きでは配当の余力が削られる。10年後の中立の時価総額は今を上回る。ただし、年8.5%の収益を求めて割り引くと、本質価値は今より1割弱低い。安くもなく、余裕がない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、兼松は「良い会社」だが「安く買える会社」ではない。事業は10年後も残る。ICTと電子デバイスが育ち、利益の質も上がっている。経営も慎重だ。
問題は値段だ。利益のうち、再投資なしに株主へ渡せる分(オーナー利益)は、純利益の半分前後と見る。商社は仕入れと在庫に資金が要り、利益を増やすには借金か内部留保が欠かせない。そのため、利益の割に配当できる額は小さい。
次に、倍率だ。商社は景気が良い時ほど利益が膨らみ、悪い時は赤字すれすれまで落ちる。山の利益に高い倍率を付けるのは危うい。筆者は、中立の倍率を、利益の質から見て12倍前後に抑える。
安全域は、悲観の筋書きでも自己資本を割らないことで確かめる。兼松の自己資本比率は3割弱で、大手商社より薄い。底の年にも、配当の維持と借り換えが可能かを見ておく必要がある。
結局のところ、この会社を長く持つなら、ICTの積み上がりに期待することになる。それは魅力的だが、今の値段にはもう織り込まれている部分が多いと筆者は考える。
何で稼ぐ会社か
兼松は1889年に創業した商社で、いまは五つの事業に分かれる。売上のうち3分の1強が食料、3割弱が電子・デバイス、残りを鉄鋼・素材・プラント、車両・航空、ICTソリューションが分け合う。
食料は、果物・野菜・コーヒー・ナッツなどの食品原料と、牛肉などの畜産物、飼料原料まで手広く扱う。顧客は食品メーカーと飼料会社が中心で、売り手と買い手の間に入って品質と物流を保証する仕事だ。ウルグアイ産牛肉のように、仕入れ先を押さえた分野が利益を支える。
電子・デバイスは、電子部品、半導体や液晶の製造装置、電子材料、通信機器、携帯端末を扱う。2023年に子会社の兼松エレクトロニクスを完全子会社にし、グループの中でIT商材を一体で運営するようになった。半導体の製造装置と電子材料は、需要が世界の設備投資に連動する。
ICTソリューションは、企業のITインフラの設計・構築から保守・運用までを引き受ける。複数のメーカーの製品を組み合わせて売れるのが強みで、セキュリティを月額で売る契約も増やしている。毎年の契約が積み上がるため、利益が読みやすい。
鉄鋼・素材・プラントは、鋼管や鋼材の取引に、プラントやエネルギーが加わる。国内の鉄鋼子会社を売却して規模は縮んだ。車両・航空は、自動車の輸出入や航空機の部品・サービスを扱い、利益は安定している。
優良さと弱いところ
筆者がこの会社に見る強みは、ニッチ分野での専門性だ。大手の総合商社が手を出さない小さな市場で、メーカーや顧客と深く付き合う。畜産原料や電子材料のように、取引先と長く組む分野は、他社が割り込みにくい。
ただし、堀(他社がまねできない強み)は深くない。商社の本業は仕入れと販売の差で稼ぐことで、規模が小さいほど価格交渉力は弱い。利益率は営業利益で4〜5%にとどまる。ICTだけが例外的に高い。
資本の効率は良い。ROEは直近で15%を超え、前の中期計画の目標10〜12%を上回った。ただし、これは自己資本比率が3割に届かない財務の薄さと表裏一体だ。借金を減らせば、ROEは下がる。
経営は資本の使い方に慎重になってきた。政策保有株を連結資本の1割以下にする方針を掲げ、約100億円の縮減を進めている。売った資金は成長投資と還元に回る。この姿勢は、オーナーとして歓迎できる。
弱みは三つある。一つは、利益の大半を握る少数の事業に偏ること。もう一つは、食料と鉄鋼の薄利が景気で振れること。最後は、規模が小さく、大型の買収で競り負けやすいことだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
兼松の業界は、五つの別々の市場の寄せ集めだ。市場ごとに景気の波と競争相手が違う。
食料は、人口が減る国内では数量が伸びない。ただし輸入の食品原料と畜産物は、価格が物価とともに上がるため、売上は名目で増えやすい。競合は伊藤忠商事や双日のような総合商社と、食品専門の中堅商社だ。大手に劣る規模を、扱う品目の絞り込みで補っている。
電子・デバイスは、世界の半導体と電子部品の設備投資に乗る。AIデータセンター向けの需要が追い風だが、設備投資は数年ごとに急に冷える。2020年代前半の半導体不況のように、売上が一気に落ちる局面は今後も来る。
ICTは、企業のIT投資とセキュリティ対策の需要が数量を押し上げる。人手不足を背景に、システムの運用を外に任せる動きが続く。競合は電機メーカー系のSIerと、半導体商社系の同業だ。ここでは兼松はニッチな立場で、代理店と自社サービスの両方を持つ点が違う。
鉄鋼は、国内の建設投資と製造業の需要が長期で細る。世界では中国の過剰生産が鋼材価格を押さえ続ける。商社の取扱量は伸びにくく、価格決定力は鉄鋼メーカーと中国側にある。車両・航空は、航空機の整備需要が世界で戻り、安定して伸びる。
資本政策と M&A
還元は厚い。配当性向は5割近く、前の中期計画の総還元性向30〜35%を超える水準が続く。2023年には還元の目安を総還元性向45%へ引き上げたとされる。
買収は、完全子会社化が中心だ。2023年に兼松エレクトロニクスと兼松サステックを完全子会社にした。いずれも、すでに傘下にあった会社を取り込む動きで、新しい事業を大金で買うものではない。筆者はこの慎重さを評価する。
政策保有株は、東京海上ホールディングスや食品メーカーの株が中心だ。2027年3月末までに約100億円を減らし、連結資本の1割以下にする方針を出している。今後も売却益が出る可能性がある。
M&Aの標的になる可能性は低くない。時価総額が4,000億円ほどで、IT部門の収益力が高い。TOBの確率は、外部の推計で10年以内に1割台半ばとされる。ただし、確かな材料は見当たらない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、利益の質が変わったことに注目する。ICTソリューションは利益率が13%を超え、全体の営業利益の3割を稼ぐ。この部門は企業のIT運用を月額で受ける契約が増え、景気に左右されにくい。10年でさらに3割ほど数量が増えれば、全体の利益率は目に見えて上がる。
電子・デバイスでは、AIとデータセンター向けの設備投資が長く続く。半導体製造装置と電子材料の需要は、世界の工場の増設に連動する。ここでシェアを少しでも取れれば、利益は大きく伸びる。会社自身、前の中期計画の目標を上回る実績を出した。
経営の姿勢も変わった。政策保有株を売り、成長投資と還元に回す。完全子会社化で、グループの動きもそろいやすくなった。ROEは15%台に乗り、中期計画の最終年度には16〜18%を目指す。
さらに、10年以内にTOBの対象になる可能性もある。時価総額は小さく、IT部門を欲しがる買い手は多い。これらを合わせると、利益が10年で2倍近くになる筋書きは、十分に現実的だ。
慎重な見方
慎重な見方は、まず利益率の低さを突く。営業利益率は5%に届かず、わずかな値下がりで利益が吹き飛ぶ。食料と鉄鋼は、売上の半分を占めながら、利益は4分の1ほどしかない。景気が崩れれば、全体の利益は急に落ちる。
電子デバイスの好調は、半導体の設備投資が山に近いことを映している。半導体は数年ごとに設備投資が止まる。2009年3月期には、リーマン危機で赤字へ落ちた経験もある。
財務も気になる。自己資本比率は3割に届かず、純負債は自己資本の半分近くに積み上がっている。金利が上がれば、借り換えのたびに利払いが増える。大手商社に比べ、資金調達の力も弱い。
さらに、ROEの高さは割り引いて見るべきだ。借金が支える高さであり、稼ぐ力そのものではない。国内の食料と鉄鋼は人口とともに細り、国内の売上は伸びにくい。10年で数量が伸びるのはICTと電子だけで、その二つも他社との競争が激しい。倍率が低い業種で、今の値段は先取りが大きいと考える。
どちらに重みを置いたか
確かな強みはICTと電子デバイスにあるが、利益の山の高さと財務の薄さの指摘は重い。そのため確率は、中立を最も厚くしたうえで、やや悲観と悲観を楽観側より厚く置いた。
10年の悲観は、構造的に負ける筋書きとして1割強を置く。理由は、国内の食料と鉄鋼の細りに加え、電子デバイスの利益が一度の不況で長く戻らない可能性があるためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,033 円6,711 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,252 円2,084 億円)。 今の値に割り戻すと 2,720 円4,527 億円、今との差 +16.9%、 期待の年率 +8.6%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 6,869 円1.14 兆円 | 1,540 円2,562 億円 | +261.4% | +13.7% | 589 円980 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,714 円9,508 億円 | 1,379 円2,295 億円 | +204.9% | +11.8% | 1,419 円2,361 億円 |
| 中立 | 38% | 4,761 円7,923 億円 | 1,370 円2,280 億円 | +163.5% | +10.2% | 2,330 円3,877 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,171 円3,613 億円 | 1,145 円1,906 億円 | +42.6% | +3.6% | 763 円1,269 億円 |
| 悲観 | 12% | 841 円1,399 億円 | 705 円1,174 億円 | −33.5% | −4.0% | 186 円309 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,033 円6,711 億円 | 1,252 円2,084 億円 | +127.2% | +8.6% | 5,285 円8,795 億円 |
今の株価時価総額 2,327 円3,872 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 楽観:ITと半導体の専門商社に変わる 利益 700 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 6,869 円1.14 兆円
10年後、AIと半導体の需要が長く続き、電子デバイスの取扱高が6割以上伸びる。ICTは月額契約と運用の受託が育ち、利益の最大の柱になる。ICTと電子で、営業利益の7割を稼ぐ。食料は畜産の仕入れ先を押さえ、利益率が上がる。鉄鋼は横ばいで収益が安定する。純利益は700億円に達し、ROEは15%を超える。会社は商社というより、ITと半導体の専門商社として見られる。ただし、倍率は商社の域を出ず、PERは13倍台にとどまる。 国内の食料と鉄鋼は細るが、会社の利益の中で占める割合が小さくなる。競合の総合商社が、ITや半導体の領域に力を入れても、兼松は専門性で守る。政策保有株の売却資金はICTの買収に使われ、買収の成否は価格次第だ。TOBの対象になる可能性もある。
- 食料(食品原料・畜産・飼料):数量 126(取扱数量(万トン換算))× 価格 41(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 5,199 億円・営業利益 156 億円。食料は数量が小さく伸び利益率も上がる
- 電子・デバイス:数量 33.8(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 207(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 6,988 億円・営業利益 405 億円。AIと半導体の需要で電子の取扱高が6割以上伸びる
- 鉄鋼・素材・プラント:数量 250(取扱数量(万トン、鋼材・素材の換算))× 価格 9.35(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 2,338 億円・営業利益 56 億円。鋼材は横ばいで利益率が改善
- 車両・航空:数量 10.0(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 207(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 2,068 億円・営業利益 103 億円。航空整備の世界需要で数量が伸びる
- ICTソリューション:数量 99.0(取扱件数(万件換算。案件・契約・端末の合計))× 価格 25(1件あたり平均売上(万円))→ 売上 2,523 億円・営業利益 353 億円。ICTの月額契約が育ち件数が6割以上伸びる
倍率:事業の純利益 700 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍。全体の PER 16.33 倍、時価総額 11,431 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年続けて電子とICTが高成長する筋書きで、起こりにくいため小さく置いた。
やや楽観 20% やや楽観:電子とICTが期待どおり育つ 利益 593 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 5,714 円9,508 億円
10年後、電子とICTが期待どおりに育つ。電子の取扱高は5割伸び、ICTの件数も4割強増える。食料は横ばい、鉄鋼は縮小が小さく、車両・航空は安定する。純利益は600億円に迫り、ROEは13%台を保つ。還元は純利益の半分を続け、政策保有株の売却資金は成長投資に回る。事業構成の変化で利益の質は上がるが、商社の倍率は12倍台半ばにとどまる。 物価の分は、価格に乗る。経営は完全子会社化の効果を活かし、グループ全体で顧客を共有する。半導体の設備投資に一度の不況は来るが、ICTの月額契約が利益を支える。食料と鉄鋼は縮小しても、全体の1割強の利益にとどまる。
- 食料(食品原料・畜産・飼料):数量 122(取扱数量(万トン換算))× 価格 41(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 4,977 億円・営業利益 142 億円。食料は小幅に伸びる
- 電子・デバイス:数量 30.7(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 204(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 6,261 億円・営業利益 338 億円。電子の取扱高が5割伸びる
- 鉄鋼・素材・プラント:数量 238(取扱数量(万トン、鋼材・素材の換算))× 価格 9.22(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 2,189 億円・営業利益 48 億円。鋼材は縮小が小さい
- 車両・航空:数量 9.4(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 204(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 1,924 億円・営業利益 92 億円。車両・航空が2割弱伸びる
- ICTソリューション:数量 87.0(取扱件数(万件換算。案件・契約・端末の合計))× 価格 25(1件あたり平均売上(万円))→ 売上 2,185 億円・営業利益 295 億円。ICTの件数が4割強伸びる
倍率:事業の純利益 593 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.87 倍、時価総額 9,411 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子とICTが期待どおり伸び、利益の質が変わる筋書き。
中立 38% 中立:国内の縮小を電子とICTが補う 利益 504 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 4,761 円7,923 億円
10年後、国内の食料と鉄鋼は人口とともに細り、数量が1割ほど減る。その分を電子とICTの伸びが補う。電子は取扱高が4割弱、ICTは件数が3割増える。物価の分は価格に乗り、営業利益は800億円近くまで増える。純利益は500億円で、今の1.5倍ほどだ。ROEは13%程度に落ち着き、10年の間に電子の不況が一度は来るが、会社は赤字にはならない。倍率は12倍前後と見る。 競合は、大手の総合商社と半導体商社、IT系の同業だ。兼松は大手に規模では及ばず、専門性で戦い続ける。借金の利払いは増えるが、営業利益の伸びが吸収する。政策保有株は計画どおり圧縮され、還元の原資になる。筆者は、この筋書きが10年の落としどころと見る。
- 食料(食品原料・畜産・飼料):数量 120(取扱数量(万トン換算))× 価格 40(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 4,808 億円・営業利益 130 億円。食料は数量横ばい、価格は物価並み
- 電子・デバイス:数量 28.0(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 201(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 5,634 億円・営業利益 282 億円。電子は取扱高が10年で4割弱伸びる
- 鉄鋼・素材・プラント:数量 225(取扱数量(万トン、鋼材・素材の換算))× 価格 9.08(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 2,043 億円・営業利益 41 億円。鋼材は国内縮小で数量が1割減
- 車両・航空:数量 8.8(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 201(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 1,767 億円・営業利益 80 億円。車両・航空は1割伸びる
- ICTソリューション:数量 78.0(取扱件数(万件換算。案件・契約・端末の合計))× 価格 25(1件あたり平均売上(万円))→ 売上 1,930 億円・営業利益 251 億円。ICTは件数が3割伸びる
倍率:事業の純利益 504 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍。全体の PER 15.53 倍、時価総額 7,827 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の食料・鉄鋼が細り、ICTと電子が伸びる穏やかな成長。最も厚くした。
やや悲観 23% やや悲観:競争で利益率が下がる 利益 368 億円 · PER 8.9 倍 · 株価時価総額 2,171 円3,613 億円
10年後、電子は競争で利益率が下がり、ICTは価格競争に巻き込まれる。国内の食料と鉄鋼の細りが重く、営業利益は600億円に届かない。純利益は370億円前後で、今より少し増えるだけだ。ROEは10%まで下がる。還元は維持するが、成長投資には使えない。商社の倍率は、地味な成長にふさわしくPER9倍に下がる。 経営は成長投資を絞り、還元に回すが、倍率は上がらない。電子の取引先がメーカーの自前調達に動けば、商社の取り分はさらに縮む。国内の食料と鉄鋼は、数量が1割以上減る。会社は赤字にはならないが、成長する商社としては見られなくなる。
- 食料(食品原料・畜産・飼料):数量 114(取扱数量(万トン換算))× 価格 39(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 4,431 億円・営業利益 106 億円。食料は国内需要が細り数量減
- 電子・デバイス:数量 23.5(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 195(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 4,588 億円・営業利益 202 億円。電子は伸びが鈍り利益率も下がる
- 鉄鋼・素材・プラント:数量 205(取扱数量(万トン、鋼材・素材の換算))× 価格 8.81(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 1,806 億円・営業利益 29 億円。鋼材は縮小が加速する
- 車両・航空:数量 8.0(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 195(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 1,558 億円・営業利益 62 億円。車両・航空は横ばい
- ICTソリューション:数量 66.0(取扱件数(万件換算。案件・契約・端末の合計))× 価格 24(1件あたり平均売上(万円))→ 売上 1,585 億円・営業利益 182 億円。ICTは競争で伸びが鈍る
倍率:事業の純利益368億円・事業 ROE 10.1%。RONIC=k 8%+1/2×(ROE−k)=9.3%、g 4.0% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=12.7倍。利益の山が過ぎた局面で、ROEが資本コストに近づく筋書きのため。上限の約7割の8.9倍に置いた。
確率:10年の間に電子の不況が一度は来る前提で、利益が伸び悩む筋書き。強気より慎重の見方が強いと見て厚めに置いた。
悲観 12% 悲観:構造的に負ける 利益 197 億円 · PER 7.1 倍 · 株価時価総額 841 円1,399 億円
10年のあいだに、構造的に負ける。中抜きと価格競争で商社の取り分は縮み、電子の大口顧客を失う。ICTも大手SIerに押されて利益率が落ちる。鉄鋼は国内の需要が縮み、事業の整理を迫られる。純利益は200億円を割り、ROEは5%台まで下がる。もう優良な商社ではなく、倍率は利益の7倍ほどに落ちる。配当は半分以下に減る。自己資本は積み上がるが、稼ぐ力が低いため、値段は自己資本の半分にとどまる。 人口減少と中国の過剰生産が重なり、国内の事業の整理が進む。のれんの減損や撤退損も出て、利益の質が落ちる。それでも、完全な赤字にはならず、一定の配当は続く。投資家の評価は、成長株から、資産価値で測る株へ移る。
- 食料(食品原料・畜産・飼料):数量 106(取扱数量(万トン換算))× 価格 37(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 3,947 億円・営業利益 71 億円。食料は需要減と競争で利益率が低下
- 電子・デバイス:数量 17.4(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 188(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 3,261 億円・営業利益 98 億円。電子で大口の顧客を失い取扱高が減る
- 鉄鋼・素材・プラント:数量 163(取扱数量(万トン、鋼材・素材の換算))× 価格 8.47(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 1,376 億円・営業利益 12 億円。鋼材が構造的に縮小
- 車両・航空:数量 6.8(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 188(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 1,273 億円・営業利益 36 億円。車両・航空も縮む
- ICTソリューション:数量 54.0(取扱件数(万件換算。案件・契約・端末の合計))× 価格 23(1件あたり平均売上(万円))→ 売上 1,247 億円・営業利益 112 億円。ICTも価格競争で利益率が下がる
倍率:事業の純利益197億円・事業 ROE 5.6% は k 8% 以下なので、上限は 1÷k=11.8倍。構造的に負けて優良な商社でなくなる筋書き。事業のROEが資本コストを下回るため上限は1÷k、その約6割に置いた。含み益のある上場株式も下を支えるが、床としては足していない。上限の約6割の7.1倍に置いた。
確率:10年で構造的に負ける筋書き(国内の縮小、電子の大口顧客の喪失、ICTの価格競争)。商社の中抜きの圧力が長期で続くことを考えて1割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
食料(食品原料・畜産・飼料)
果物・野菜・コーヒー・ナッツなどの食品原料、牛肉などの畜産物、飼料原料を仕入れて食品・飼料メーカーに売る。
| 数量取扱数量(万トン換算) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 30 | 3,589 | 88 |
| 10 年後 中立 | 120 | 40 | 4,808 | 130 |
取り方:食料の売上3,589億円を、取扱数量の合計120万トン換算と平均単価29.9万円に分けた推定値。開示は金額だけで、数量は果物・穀物・飼料(1トン数万円)と畜産物(同数十〜百万円)の構成から置いた。国内の需要は人口で細るため、数量の中立は10年でほぼ横ばい。
電子・デバイス
電子部品・材料、半導体・液晶の製造装置、通信機器、携帯端末を扱う。顧客は電子部品メーカーや装置メーカー。
| 数量取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア) | 価格1ドルあたり円(為替150円×物価の指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.5 | 150 | 3,069 | 161 |
| 10 年後 中立 | 28.0 | 201 | 5,634 | 282 |
取り方:電子・デバイスの売上3,069億円を、ドル建てで20.5億ドル(実質)と、ドル円150円に分けた推定値。為替は150円で固定し、物価の分は価格の指数に入れた。数量は世界の電子部品・製造装置の対象市場に対するシェア分で、開示が無いため推定。
鉄鋼・素材・プラント
鋼管・鋼材などの鉄鋼製品、素材、プラントやエネルギー関連の取引。国内の鉄鋼子会社を売却して規模が縮んだ。
| 数量取扱数量(万トン、鋼材・素材の換算) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 250 | 6.78 | 1,694 | 35 |
| 10 年後 中立 | 225 | 9.08 | 2,043 | 41 |
取り方:鉄鋼・素材・プラントの売上1,694億円を、鋼材・素材換算の250万トンと平均単価6.8万円に分けた推定値。プラントやエネルギーの売上も含むため、数量はトン換算の目安。国内の鋼材需要は縮み続けるため、数量の中立は10年で0.9倍。
車両・航空
自動車・二輪の輸出入、航空機の部品や整備サービス、防衛関連の取引。
| 数量取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア) | 価格1ドルあたり円(為替150円×物価の指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.0 | 150 | 1,198 | 53 |
| 10 年後 中立 | 8.8 | 201 | 1,767 | 80 |
取り方:車両・航空の売上1,198億円を、ドル建て8.0億ドル(実質)とドル円150円に分けた推定値。為替は150円で固定。数量は航空機整備と車両の対象市場に対するシェア分で、開示が無いため推定。世界の航空需要の回復で数量は緩やかに伸びる。
ICTソリューション
企業のITインフラの設計・構築から保守・運用まで、セキュリティを月額で売るサービス、携帯端末の販売を手がける。
| 数量取扱件数(万件換算。案件・契約・端末の合計) | 価格1件あたり平均売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 18 | 1,108 | 152 |
| 10 年後 中立 | 78.0 | 25 | 1,930 | 251 |
取り方:ICTソリューションの売上1,108億円を、案件・契約・端末の合計60万件と1件あたり18.5万円に分けた推定値。開示は金額だけで、件数は端末と大型案件・月額契約の構成から置いた。企業のIT投資とセキュリティ需要で件数が伸びる。
リスクと懸念
電子デバイスの景気循環
半導体と電子材料の取扱いは、世界の設備投資が止まると一気に冷える。営業利益の3割を電子が稼ぐため、2〜3年に一度の波が全体の利益を揺らす。AI向けの追い風が止まった時に、会社が収益を守れるかが課題だ。
ICTの利益率の維持
ICTソリューションは売上の1割で営業利益の3割を稼ぐ。この高い利益率が崩れると、会社全体の質が下がる。大手のSIer(システム構築会社)や半導体商社系の同業との競争が強まれば、価格が下がる。人材の確保も欠かせない。ICTの利益率が1割に下がると、全体の営業利益は1割弱減る計算になる。
薄い財務と金利の上昇
自己資本比率は3割に届かず、純有利子負債は自己資本の半分近くある。金利が上がると、借り換えのたびに利払いが増える。会社のICT・電子の好調を支える運転資金も、金利の上昇で重くなる。不況と金利の上昇が重なる場合、配当の維持が課題になる。
国内の食料と鉄鋼の縮小
食料と鉄鋼で売上の半分を占める。ただし、国内の人口減少と建設の縮小で、数量は長期で細る。食料は海外の食品原料の取扱いで補えるが、鉄鋼は中国の過剰生産で価格が上がりにくい。国内の鉄鋼子会社を売却した後も、残る事業の利益率は2%前後にとどまる。
商社の中抜き圧力
メーカーが直接販売する動きが強まれば、商社の取り分は縮む。電子部品や食品原料は、大手メーカーが調達を自前化する場合がある。兼松のように規模の小さい商社は、価格交渉力が弱く、取引先の方針転換の影響を受けやすい。専門性で守れる分野を広げられるかが分かれ目だ。
買収の失敗・減損
電子機器・電子材料事業と鋼管事業は、のれんの減損を計上した経験がある。小規模でも買収を重ねれば、のれんの減損が利益を削る。新しい事業を買う時に、価格を払いすぎないか、経営陣の資本配分の規律が問われる。過去の失敗を繰り返さないことが、これからの評価を決める。
少数の事業に偏る利益
営業利益の約半分をICTと電子の2事業が稼ぐ。どちらかが崩れると、残りの事業では穴を埋めきれない。食料や車両・航空の利益は安定しているが、金額が小さい。ICTと電子はともに、企業の投資意欲や半導体の景気という外部の力に左右される。事業の幅が狭まれば、商社としての安定感も薄れる。
今後の分かれ目
- 電子デバイスの取扱高が半導体の設備投資とともに2割以上落ちる
- 楽観側の確率を下げ、やや悲観と悲観を厚く見直す。利益率の低下が長引くなら、倍率も下げて見る。
- ICTソリューションの営業利益率が2期続けて12%を下回る
- 会社の質が変わらない前提が崩れる。中立の利益と倍率を下方に直し、やや悲観の確率を上げる。
- 政策保有株の売却が計画の約100億円を超え、成長投資や自社株買いに回る
- 資本の使い方が改善する。還元を厚くした筋書きの確率を上げてよい。ただし、自社株買いの水準が割高で買っていないかは確かめる。
- 大型の買収(数百億円規模)を発表する
- のれんの減損のリスクが増える。買う事業の利益率と価格を確かめ、悪ければ悲観の確率を上げる。
- 他社のTOBや再編の動きが報じられる
- 買収プレミアムが乗る可能性がある。ただし本質価値は変わらないため、値段が価値を超えているかを見直す。
- 国内の鉄鋼・食料の取扱量が2桁で減る
- 縮小が想定より速い。中立の数量を下げ、10年のやや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 電子・デバイスとICTの四半期ごとの営業利益と利益率
- 会社の中期計画(2027年3月期の純利益350億円・ROE16〜18%)の達成度
- 政策保有株の売却額(2027年3月末までに約100億円の縮減)
- 世界の半導体製造装置の発注額と電子部品の在庫調整
- 純有利子負債と自己資本比率、借り換えの金利
倍率と資本コストの決め方
先に5つの事業ごとに数量×価格で10年の営業利益を積み、次に純利益(営業利益に利払いの増加を引き、税30%)と自己資本の流れからROEを出し、そのROEで正当化PERの上限を計算して、楽観〜中立を上限の手前に置いた。資本コストは8%(基本7.5%、quality 合計+1.0%)。悲観は事業の稼ぐ力(1÷kの手前)から出し、谷のPBRは使っていない。今の株価・PERから逆算していない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.2→16.33 倍・やや楽観 PER 12.5→15.87 倍・中立 PER 11.8→15.53 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。