結論
ムーンバットは、日傘・雨傘で国内首位の服飾雑貨の卸だ。筆者の結論は、今の値段はやや高い、というものだ。稼ぎの柱は日傘だが、自分で値段を決める力が弱い。
足元は悪くない。2020年から3期続いた赤字のあと、在庫を絞り、借入を返し、営業利益は6億円前後まで戻った。猛暑で日傘が男性や子どもにも広がり、専門店とECの売上が伸びている。配当性向40%以上も約束した。
ただ、商品の多くは海外の工場で作り、百貨店や量販店のバイヤーに卸す。同じ工場の傘は、雑貨チェーンにも安く並ぶ。売り場の主役だった百貨店は細り続け、帽子では人気のライセンスブランドの取扱いが終わった。2027/03期1Qの営業利益は前年より3割強減った。
10年後の中立は、売上が約150億円、営業利益が約7億円。数量は横ばいで、値上げは物価に少し遅れる。ROEは6%ほどで、資本コスト8.5%に届かない。ためた利益が資本コストを超える稼ぎを生まない以上、利益の倍率は高く付けられない。確率を重ねた本質価値は、今の時価総額を3割ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、持ち続けたい事業かどうかが問われる。答えは、やや否だ。
事業は分かりやすい。傘と小物を企画して、売り場に届ける。10年後も日傘は売れているだろう。ただ、ムーンバットの名前で選ぶ客がどれだけいるかは疑わしい。同じ品質の傘を、もっと安く出す会社がいくらでもある。値段を自分で決められない事業は、物価が上がる世界では利益率を守るのに苦労する。
資本の使い方は誠実だ。赤字のあとに在庫と借入を減らし、配当性向40%を約束した。それでも、ためた利益が資本コストを超える稼ぎを生むとは言いにくい。
安全域は薄い。今の値段は、利益が10年で名目でほとんど伸びない姿をおおむね織り込むが、百貨店の縮みと取扱いの打ち切りに備える余裕はない。土地と在庫という形のある資産はあるが、清算されない限り、少数株主の手には届かない。
何で稼ぐ会社か
ムーンバットは京都の会社で、創業から140年を数える。稼ぎのほとんどは「身の回り品」で、日傘と雨傘、スカーフやハンカチなどの洋品、帽子、毛皮と宝飾を扱う。
売上の中心は傘だ。自社ブランドと、海外ブランドから使用権を借りたライセンスの品を組み合わせて企画する。作るのは主に中国など海外の工場で、ムーンバットは企画と品質の管理、在庫を持つ役を担う。工場を持たないので設備は軽いが、売れ残りの在庫の重さは自分で負う。
売り先は百貨店、量販店、専門店だ。直営店とECでの小売も増やしており、中計は専門店向けの商品開発、直営店、EC、国内外の新しい販路の四つを成長の柱に据える。毛皮と宝飾は、百貨店の外商や催事で売る。
費用の大半は仕入れの原価と人件費、物流費だ。仕入れはドル建てが多く、円安は原価を押し上げる。売上は春夏の日傘に偏り、天候に左右される。猛暑の年は日傘が売れ、冷夏や長雨の年は在庫が残る。
もう一つの事業は情報サービスで、京都の子会社が中小企業向けにシステムを作る。売上は年5億円ほどで、全体の4%にすぎない。
2026/03期の売上は119億円、営業利益は6.1億円、純利益は5.7億円だった。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは薄い。首位の座はあるが、それが値段を決める力にはなっていない。
強みは、百貨店の売り場での長い取引と、品ぞろえの広さだ。傘からスカーフ、帽子、毛皮まで一社でそろえ、売り場の企画ごと請け負える。遮光や軽さといった日傘の機能も磨いてきた。百貨店の担当者にとっては、手間のかからない取引先だ。
弱みは三つある。一つ目は、作り手を選ばない商品であることだ。同じ工場で作った傘は、雑貨チェーンやネット通販にも並ぶ。二つ目は、ライセンスの品が多いことだ。契約が終われば売上が消える。帽子ではそれが現実に起きた。三つ目は、販路の百貨店が縮み続けていることだ。
資本効率は戻りつつある。ROEは2年続けて1割前後だが、税の負担が軽い年が含まれる。過去10年の中央値は4%弱にとどまる。経営は在庫と借入を減らす地道な手を打ってきたが、稼ぐ力そのものを変える手はまだ見えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
服飾雑貨は、人口と景気、そして天気で数量が決まる成熟した市場だ。国内の傘の多くは輸入品で、値段の幅が広い。数百円の傘から数万円のブランド傘まで、同じ売り場で比べられる。
構造の変化は二つある。一つは暑さだ。夏の猛暑が続き、日傘は女性の小物から、男性や子どもも持つ道具になった。環境省も熱中症対策として日傘を勧めている。数量の面では、ここが唯一の追い風だ。もう一つは販路の移動だ。百貨店の閉店は地方で続き、買い物は専門店、駅ビル、ECに移った。ECでは値段と機能が一覧で比べられ、ブランドの名前の効き目は薄い。
競合は分散している。洋傘ではワールドパーティーなどの専業、小売のPB、雑貨チェーンが並ぶ。スカーフや帽子は、アパレルの会社が自社で作る。人口が減るなかで、小物にお金を回す人の数は増えない。
費用の面では、円安と海外の工場の人件費上昇が原価を押し上げる。物流費と店頭の人件費も物価並みに上がる。値上げが通るのは、機能で選ばれる日傘と、百貨店の高い価格帯だけだ。量販店とECでは、値上げが客離れにつながりやすい。業界全体として、数量は横ばい、値段は物価に少し遅れる、というのが筆者の見立てだ。
資本政策と M&A
還元の方針は、配当性向40%以上だ。2026/03期は普通配当に140周年の記念配当を足し、性向は4割弱になった。利益が増えれば配当も増やすと約束している。自社株買いはほとんどしていない。
借入は、在庫の圧縮で2021年の30億円から減った。2025年9月末の短期借入は15億円で、純負債は約11億円だ。土地は京都の本社などで17億円ある。
大きなM&Aの実績は無い。株主優待も無い。親会社は無く、外からの買収の噂も確かめられない。中計はPBR1倍以上を掲げるが、そのための大きな資本政策は出ていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、暑さがこの会社の事業を変えたと考える。
日傘は、もう夏の小物ではない。熱中症を防ぐ道具として、男性や学生も持つようになった。猛暑が平年になれば、春夏の日傘は毎年の需要になる。洋傘で首位のムーンバットは、その流れの真ん中にいる。
販路の移し替えも進んでいる。2026/03期の中間期は、専門店とECへの働きかけで日傘の売上が伸び、営業利益は前年同期より2割増えた。百貨店に頼らない売上の比率が上がれば、取引先に値を決められる場面も減る。遮光の機能や軽さで差をつければ、値上げは通る。
財務も整った。在庫を絞り、借入を返し、営業利益は赤字から6億円台に戻った。中計の利益率5%以上は2025/03期に達成済みだ。配当性向40%以上を約束しており、利益が伸びれば株主に戻る。
利益率が過去の山の7〜8%に戻れば、営業利益は10億円を超える。今の時価総額は、その姿をほとんど織り込んでいない。京都の土地や在庫といった形のある資産も、下値を支える。
慎重な見方
慎重な見方は、首位であることと、儲かることは別だと指摘する。
傘は作り手を選ばない商品だ。ムーンバットの傘を作る海外の工場は、ほかの会社の傘も作る。雑貨チェーンやネット通販には、機能の似た日傘が半値で並ぶ。日傘の需要が増えるほど、参入も増える。
販路の土台も崩れている。百貨店は地方で閉店が続き、売り場の面積は戻らない。専門店とECに移れば、値段と機能で一覧に比べられ、ブランドの名前は効かなくなる。
ライセンスの怖さも、すでに表に出た。インバウンドで人気だった帽子のブランドの取扱いが2024年12月で終わり、帽子の売上は減った。洋品も気温が高すぎて振るわない。2027/03期1Qの営業利益は34%減った。
そして、10年の利益の土台が低い。過去10年でROEが資本コストを超えたのは2年だけで、その2年も税の負担が軽かった。2020〜2022年には3期続けて赤字を出した。天候と在庫に振られる体質は、まだ変わったとは言えない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、日傘の追い風と財務の立て直しを正しく見ている。ただ、その追い風を値上げに変えられる証拠はまだ無い。慎重な見方は、作り手を選ばない商品という本質を突いており、こちらのほうが強い。
そこで中立を最も厚くし、確率はやや慎重な側に寄せた。強気の筋書きは、利益率が過去の山に戻る場合に限った。慎重な側は、百貨店の縮みと取扱いの打ち切りが重なる場合まで含めた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,480 円67 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 526 円24 億円)。 今の値に割り戻すと 1,005 円45 億円、今との差 −25.3%、 期待の年率 +4.1%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 2,653 円120 億円 | 723 円33 億円 | +151.0% | +9.6% | 236 円11 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,101 円95 億円 | 637 円29 億円 | +103.6% | +7.4% | 548 円25 億円 |
| 中立 | 38% | 1,713 円77 億円 | 557 円25 億円 | +68.8% | +5.4% | 863 円39 億円 |
| やや悲観 | 23% | 774 円35 億円 | 464 円21 億円 | −7.9% | −0.8% | 285 円13 億円 |
| 悲観 | 12% | 377 円17 億円 | 251 円11 億円 | −53.3% | −7.3% | 75 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,480 円67 億円 | 526 円24 億円 | +49.2% | +4.1% | 2,007 円90 億円 |
今の株価時価総額 1,345 円61 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 日傘が定番になり、自社ブランドで専門店とECを取る 利益 9 億円 · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 2,653 円120 億円
日傘は女性の小物から、暑さをしのぐ道具になる。男性や学生も持つようになり、点数は10年で1割増える。ムーンバットは百貨店の外に販路を移し、専門店とECで自社ブランドを育てる。ライセンスの終了に振り回されない体質になる。
値上げも通る。猛暑に強い遮光や軽さの機能で、安い輸入品と差がつくからだ。1点の値段は物価並みに上がる。在庫の回転が良くなり、値引きの販売が減って、営業利益率は7%に戻る。純利益は9億円ほどになり、配当性向40%を守りながら、自己資本の稼ぎも資本コストを上回る。この筋書きでは、ムーンバットは百貨店の卸から、日傘の専門ブランドへと姿を変えている。会社が掲げるROE10%以上の目標にも、遅れて届く。
- 身の回り品(洋傘・洋品・帽子・毛皮宝飾):数量 440(販売点数(万点。推定))× 価格 3,876(1点あたり売上(円。卸値と小売の混合))→ 売上 171 億円・営業利益 12 億円。点数+10%、単価+36%、利益率7%
- 情報サービス:数量 25.0(技術者数(人。推定))× 価格 2,680(1人あたり売上(万円))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円。人数横ばい、単価+34%
倍率:事業の純利益 9 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.6 倍。全体の PER 12.58 倍、時価総額 111 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:猛暑で日傘が男性や子どもにまで広がる流れは本物だが、自社ブランドの力で専門店とECのシェアを取り、利益率を過去の山に近い7%まで戻すのは、この会社が2012年ごろにしか出したことのない水準だ。7%に抑えた。
やや楽観 20% 中計どおりに利益率6%台、販路の移し替えが進む 利益 7 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,101 円95 億円
百貨店の売り場は細るが、専門店とEC、直営店がそれを埋める。点数は10年で3%増え、1点の値段はほぼ物価並みに上がる。猛暑が続く限り、日傘は春夏の柱であり続ける。
洋品と帽子は、ライセンスに頼る分を自社ブランドに置き換え、粗利を守る。在庫の管理が良くなった分、値引きが減る。営業利益率は6%台、営業利益は約10億円に届く。配当性向40%台を続け、株主への還元は利益とともに増える。情報サービスは、AIによる開発の自動化で人数を減らしながら利益を保つ。ROEは資本コストに少し届かない。中計の目標が、数年遅れて実現する姿だ。
- 身の回り品(洋傘・洋品・帽子・毛皮宝飾):数量 412(販売点数(万点。推定))× 価格 3,791(1点あたり売上(円。卸値と小売の混合))→ 売上 156 億円・営業利益 10 億円。点数+3%、単価+33%、利益率6.2%
- 情報サービス:数量 20.0(技術者数(人。推定))× 価格 2,680(1人あたり売上(万円))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。AIで人数2割減
倍率:事業の純利益 7 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.84 倍、時価総額 83 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の目標(営業利益7億円・利益率5%以上)は2025/03期にほぼ届いた実績がある。専門店とECへの移し替えは数字で進んでおり、この姿は十分にありうる。2割に置いた。
中立 38% 点数は横ばい、値上げは物価に少し遅れる 利益 5 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,713 円77 億円
点数は10年でわずかに減る。百貨店の売り場が減り、量販店では安い輸入品と比べられる。それを日傘、専門店、ECが埋めるが、伸ばすまでには至らない。
1点の値段は10年で3割上がる。物価の34%にわずかに届かないのは、取引先のバイヤーに値を決められる場面が多いからだ。原価の多くは海外の工場で、ドルの仕入れと人件費の上昇を値上げで追いかける形が続く。
営業利益率は5%台前半で、営業利益は約7.5億円。税の負担が普通に戻り、純利益は5.6億円と今とほぼ同じ名目だ。実質では少し細る。配当性向40%台で還元を続けるが、ROEは6%台で資本コストに届かない。
- 身の回り品(洋傘・洋品・帽子・毛皮宝飾):数量 388(販売点数(万点。推定))× 価格 3,705(1点あたり売上(円。卸値と小売の混合))→ 売上 144 億円・営業利益 8 億円。点数−3%、単価+30%、利益率5.3%
- 情報サービス:数量 17.5(技術者数(人。推定))× 価格 2,680(1人あたり売上(万円))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。AIで人数3割減
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.2% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 64 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量は人口と百貨店の縮小で細り、日傘とECがそれを埋めて横ばい。値上げは輸入の原価高に追いつく程度で、利益率は今と同じ5%台。いちばん起こりやすい姿として4割弱に置いた。
やや悲観 23% 百貨店の縮みに追いつけず、利益率3%台 利益 3 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 774 円35 億円
百貨店の閉店が続き、売り場は大きく減る。専門店とECは伸びるが、そこでは低価格のブランドや雑貨店と値段で比べられる。点数は10年で15%減る。
1点の値段は物価に遅れ、10年で2割強しか上がらない。人件費と物流費、店舗の家賃は物価で上がるので、利益率は3%台に下がる。営業利益は4億円ほどで、今より細る。純利益は3億円弱になる。配当は利益の半分を出して守るが、額は今より減る。会社は存続するが、資本を上回る稼ぎは出せない。冷夏の年には在庫が残り、評価損で利益がさらに削れる。物価で見れば、株主の取り分ははっきり目減りする。
- 身の回り品(洋傘・洋品・帽子・毛皮宝飾):数量 340(販売点数(万点。推定))× 価格 3,477(1点あたり売上(円。卸値と小売の混合))→ 売上 118 億円・営業利益 4 億円。点数−15%、単価+22%、利益率3.5%
- 情報サービス:数量 15.0(技術者数(人。推定))× 価格 2,400(1人あたり売上(万円))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。人数4割減、単価+20%
倍率:事業の純利益2.8億円、ROEは3.5%で資本コストの半分に満たない。上限は1÷kの11.8倍だが、稼ぎが実質で細る局面なので、その7割強に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8.5 倍・時価総額 22 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:百貨店の閉店は止まらず、帽子のライセンス終了のような取扱いの打ち切りも起こりうる。2027/03期1Qの営業利益は34%減った。慎重な姿の現実味は高く、2割強に置いた。
悲観 12% 安い輸入品と販路の消滅で、ほぼ利益が出ない 利益 0 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 377 円17 億円
構造的に負ける筋書きだ。百貨店の取引先が相次いで閉じ、量販店では雑貨チェーンやネット通販の安い傘と並べられる。ムーンバットの名前で選ぶ客は少なく、点数は10年で3割減る。
値上げはほとんど通らず、1点の値段は15%しか上がらない。在庫の評価損が出て、営業利益はほぼゼロになる。配当は大きく減らし、借入を返して身を縮める。残る価値は、事業の稼ぎではなく、現金と在庫、京都の土地などの売れる資産から借入を引いた額になる。清算されない限り、少数株主はその額すら受け取れない。2020〜2022年の3期の赤字は、この筋書きが絵空事ではないことを示している。
- 身の回り品(洋傘・洋品・帽子・毛皮宝飾):数量 280(販売点数(万点。推定))× 価格 3,278(1点あたり売上(円。卸値と小売の混合))→ 売上 92 億円・営業利益 0 億円。点数−30%、単価+15%、利益率0.5%
- 情報サービス:数量 12.0(技術者数(人。推定))× 価格 2,200(1人あたり売上(万円))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。人数半減
倍率:稼ぐ力は純利益0.1億円で、ほぼゼロ。売れる資産の税後から負債を引いた約17億円を床にした。今の自己資本58億円に対し0.29倍にあたる。
確率:洋傘首位の座はあるが、商品そのものは作り手を選ばない。百貨店の販路の消滅と、雑貨チェーンやネット通販の安い品が重なれば、構造的に負ける。2020〜2022年に3期赤字を出した会社でもあり、1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
身の回り品(洋傘・洋品・帽子・毛皮宝飾)
日傘・雨傘、スカーフ・ハンカチ・手袋、帽子、毛皮と宝飾を企画し、主に海外の工場に作らせて百貨店・量販店・専門店・ECに卸す。直営店とECでの小売も持つ。
| 数量販売点数(万点。推定) | 価格1点あたり売上(円。卸値と小売の混合) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 400 | 2,850 | 114 | 6 |
| 10 年後 中立 | 388 | 3,705 | 144 | 8 |
取り方:2026/03期の売上119億円から情報サービスの約5億円を引いた114億円。点数の開示は無く、卸値で2千〜4千円台の傘・洋品が中心とみて1点約2,850と置き、点数を約400万点と推定した。営業利益は中間期のセグメント利益の比から全社の6.1億円に合わせて配った。
情報サービス
京都の子会社が、中小企業向けのシステム開発の受託・販売と保守を請け負う。
| 数量技術者数(人。推定) | 価格1人あたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.0 | 2,000 | 5 | 0 |
| 10 年後 中立 | 17.5 | 2,680 | 5 | 0 |
取り方:中間期の売上2.5億円を年に直して約5億円。技術者を約25人、1人あたり2,000万円と推定した。利益は中間期のセグメント利益0.2億円から年0.2億円。
リスクと懸念
百貨店の販路の縮小
主な取引先の百貨店は、地方を中心に閉店が続く。売り場が消えれば、その分の売上はほかの販路で一から取り直す必要がある。専門店やECでは、値段と機能で比べられ、粗利が薄くなる。
ライセンスの打ち切り
海外ブランドの使用権を借りた品は、契約が終われば売上が消える。2024年12月には、インバウンドで人気だった帽子のブランドの取扱いが終わった。自社ブランドで埋められるかは、まだ分からない。
天候と在庫
売上は春夏の日傘に偏り、冷夏や長雨の年は在庫が残る。在庫が残れば値引きと評価損で利益が削れる。2020〜2022年の赤字も、在庫の積み上がりが重なった。
円安と原価の上昇
商品の多くを海外の工場で作り、ドルで仕入れる。円安や海外の人件費の上昇は原価を押し上げる。値上げが通らなければ、利益率はそのまま削れる。
低価格の競合
雑貨チェーン、小売のPB、ネット通販が、機能の似た日傘を安く出す。日傘の需要が広がるほど参入は増え、首位の座が値段の力にならないおそれがある。
今後の分かれ目
- 百貨店以外(専門店・EC・直営)の売上の比率が5割を超えた
- 販路の移し替えが進んだ証拠になる。値下げに頼らずに伸びているなら、やや強気の筋書きの確率を上げる。
- 営業利益率が2期続けて7%を超えた
- 値上げと在庫管理が定着した合図だ。強気の筋書きに近づく。
- 新たな大口のライセンス契約が終わった
- 取扱いの打ち切りが続く兆しになる。慎重な筋書きの確率を上げる。
- 冷夏の年に在庫の評価損が出た
- 天候に頼る体質が変わっていない合図だ。利益率の置き方を下げる。
- 同業や商社からの買収の提案が出た
- 事業の価値は変わらないが、時価総額は上振れうる。土地と在庫の価値が評価される場面になる。
見ておくもの
- 洋傘部門の売上と、日傘の機能商品の比率
- 販路別の売上(百貨店・量販・専門店・EC・直営)
- 在庫の残高と回転
- 営業利益率と、為替の影響
- ライセンスブランドの契約の更新・終了
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から出した。中立のROEは6%ほどで資本コスト8.5%に届かず、PERの上限は約11.8倍。ROEと資本コストの比を見て9倍に置いた。今の株価やPER、同業の値付けは倍率の根拠に使っていない。起点の純利益5.7億円は税の負担が軽い年の数字で、10年後は普通の税率に戻した。点数と1点の値段は開示が無く推定だ。新リース会計基準は2028/03期から店舗の賃借が貸借対照表に載るが、10年後の数字は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→12.58 倍・やや楽観 PER 10.5→11.84 倍・中立 PER 9→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +1.0% を足した8.5%。ライセンスの打ち切りなど個別の事情は筋書きと確率で表した。