結論
ヤマダホールディングスは国内最大の家電量販店で、売上は 1.7 兆円ある。ただ稼ぐ力は売上の大きさに見合わない。営業利益率は 2〜3% で、純利益は長く 300 億円前後にとどまる。
筆者の結論は「割高」だ。いちばんの理由は資本の効率の低さにある。自己資本は 6,300 億円あるのに、稼ぎはその 4% 前後で、資本コストの 8.75% に届かない。そのうえ純有利子負債が 2,600 億円ある。
会社は家電の店から「くらしまるごと」へ軸足を移している。リフォーム・家具・住宅を店で売り、自前商品(SPA)の比率を上げる計画だ。2030 年 3 月期に経常利益 1,000 億円という目標は大きい。筆者は、実現までに時間がかかり、途中で計画が崩れる局面もあると見る。
2026 年 3 月期の営業利益は 162 億円まで落ちた。在庫処分の 240 億円が重かった。それを除けば 400 億円前後の力はあるが、これは過去 3 年とほぼ同じ水準だ。
中立の筋書きでは、10 年後も今の時価総額を超えない。利益が回復しても、倍率は 10 倍前後にとどまるからだ。今の値段は、中計の達成をかなり織り込んでいる。10 年のやや楽観より上の筋書きが実現して初めて、今の値段に見合う。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ヤマダは「良い会社」ではなく「大きい会社」だ。この違いが評価のすべてを決める。良い会社は少ない資本で多く稼ぎ、稼いだお金を配り続けられる。ヤマダは自己資本の 6,300 億円を使っても、その 4% ほどしか稼げない。
オーナーとして持ち続けたいかを問えば、答えは重い。家電は生活に欠かせず、会社が消える心配は小さい。だが、利益が資本コストに届かないまま長い年月がたった。この事業が株主のお金を増やした実績は乏しい。
本質価値を決めるのは、今のように利益が落ちた年ではなく、ならした稼ぐ力だ。筆者は営業利益で 450〜550 億円、純利益で 280 億円前後と見る。名目 3% で伸びても、10 年後の純利益は 400 億円に届かない。
中計が実現すれば景色は変わる。経常利益 1,000 億円、ROE 8.5% なら、自己資本に見合った会社になる。だが、これは今の 3 倍の稼ぎを求める計画で、安全域のあるお金の払い方とは言いにくい。
安全域は、簿価にはある。PBR は 0.77 倍で、資産の裏付けは確かだ。ただ、資産が収益を生んでいない。時間がたつほど資産の価値が目減りするのが、この手の会社の怖さだ。筆者は、強気の筋書きが実現するかを見極めてから、払う値段を決めたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの 8 割近くは「デンキ」だ。ヤマダデンキなどの店とネット通販で、冷蔵庫・エアコン・テレビ・スマホを売る。近年は店の中身を変えている。家電の比率を下げ、リフォーム・家具・インテリアを増やす。この新しい形の店が「LIFE SELECT」で、2026 年 3 月末で 41 店ある。
自前商品(SPA)にも力を入れている。メーカーの商品より粗利が厚く、利益率を引き上げる柱になる。ポイントを使った囲い込みも強い。ただしポイントは売上の先食いで、利益を先に削る。2026 年 3 月期はこれが重荷になった。
2 つ目の柱が「住建」で、売上は 3,300 億円、営業利益は 100 億円ほどある。ヤマダホームズ・ヒノキヤグループが住宅を建てて売る。家電店の客に住まいの相談を持ちかける狙いだ。利益率は 3% 前後で、店舗事業より高い。
3 つ目の「環境」は、使用済みの家電や金属を再資源化する事業で、売上は 430 億円ある。規模は小さいが、家電の下取りと結びつき、店に客を呼ぶ役目も持つ。金融は、住宅ローンやリフォームローンで住まいの売り込みを支える。
大型店の多くは都市部の駅前や郊外のロードサイドにあり、自社で持つ店と借りる店が混ざる。借りる店の家賃は、売上が落ちても払う固定の約束だ。
優良さと弱いところ
筆者がまず見るのは堀、つまり他社がまねできない強みだ。ヤマダの強みは規模の大きさにある。売上は 2 位のビックカメラの 1.6 倍あり、メーカーからの仕入れ条件は有利だ。ただし、これは価格を決める力ではない。量販の仕入れの優位は、どの大手にも似たものがある。
客から見れば、同じ冷蔵庫はビックカメラでも、アマゾンでも買える。家電 EC の比率は 4 割を超え、価格はすぐ比べられる。そのため、ヤマダは値上げで稼げない。せいぜい物価に合わせて上げるのが限度だ。
資本の使い方には不満が残る。自己資本が 6,300 億円もあるのに、ROE は 2〜5% にとどまる。ROE が 8% を超えたのは、巣ごもり需要があった 2021 年 3 月期だけだ。大塚家具のように、買った事業が利益に結びつくまで長くかかった例もある。
経営の安定にも疑問が残る。創業者の山田昇氏は、2016 年からの 9 年で社長が 4 度替わる間に、退任と復帰を繰り返した。2025 年 4 月に上野善紀氏が社長になった。2024 年には監査等委員会設置会社となり、社外取締役を増やして統治は整いつつある。ただし、創業者の影響は今も大きい。
強い点もある。決算期ごとに見れば赤字の期はない。家電は生活に欠かせず、店の数と物流の網は簡単に作れない。自前商品が育てば、粗利を押し上げる余地は十分ある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の家電量販店市場は約 10 兆円で、近年は横ばいから微増だ。人口は減るが、省エネ家電への買い替えと価格の上昇が売上を支えてきた。10 年後も数量は微減か横ばいと筆者は見る。
競争は上位への集中が進んでいる。ヤマダのほか、ビックカメラ・エディオン・ケーズデンキ・ノジマが大手だ。ノジマは携帯販売で伸び、ビックカメラは訪日客の免税売上が強い。ヤマダは規模で勝つが、利益率で先を行く社は少なくない。
外からの圧力は EC だ。アマゾンや楽天は価格が見えやすく、店は商品を試すだけの場所になりかねない。ヤマダはこれに対し、設置工事・保証・リフォーム相談という「店でしかできないこと」を厚くしようとしている。
もう 1 つの課題は人件費だ。最低賃金の上昇で、店の運営費は年 3〜5% 規模で増える。物価が上がれば価格も上げられるが、競争が激しい家電では、その転嫁が遅れやすい。
家電は買い替えを延ばせる耐久財だ。景気が悪化すると、既存店の売上が 2 割ほど落ちる。リーマンショックの時はそうなった。住宅も金利と景気で需要が揺れる。2 つの事業が同時に弱くなる点が、ヤマダの景気への弱さだ。
再編が続く業界の中で、ヤマダは買う側の役を担ってきた。ただし、買ったあとの利益が出にくい点は課題だ。
資本政策と M&A
筆者が気にしているのは、買収で規模を膨らませてきた歴史だ。大塚家具を傘下に収め、ヒノキヤグループを取り込んで住宅に進出した。店の客に家具や住宅も売る狙いだが、利益に結びつくまでに長い年月がかかっている。
還元は配当を中心に続けている。2026 年 3 月期の配当は据え置いた。中計では配当性向 40% を目安に、自社株買いも組み合わせる方針とされるが、自社株買いの金額は確認できなかった。
借金は純額で 2,600 億円ある。時価総額の半分にあたる。金利が上がると利払いが 3 年後に年 40 億円、10 年後に年 65 億円増える見込みで、経常利益の 1 割前後が失われる計算だ。
店舗を借りて営む会社でもある。家賃は売上が落ちても払う固定の約束で、筆者の推定では年 250 億円超、残りの年数をかけると 2,000 億円を超える。2028 年 3 月期から新しい会計基準で BS にこれが載り、借金が見かけ上膨らむ。今の「自己資本比率 49%」は、見た目ほど堅くない。
TOB・買収の可能性は、kabufu の見立てでは 10 年以内に 17% ほどだ。創業者の持株は 3% 台で、買われる側になる動きより、自社が買う側に回る動きのほうが多いと筆者は見る。
株主優待は年約4.1億円(会社の費用ベース。500円の割引券を年3枚×株主約39.5万人(額面5.9億円)の使われ率7割を掛けた推計)。優待の費用は販管費として利益から引き済みなので、株主が受け取る分として10年の還元に「年額×10年×続く見込み(中立1.0・やや悲観0.75・悲観0.5)」を足した(中立+41億円)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
2026 年 3 月期の営業利益 162 億円は底だ。240 億円の在庫処分を除けば、400 億円を超える力がある。2027 年 3 月期は 515 億円の計画で、在庫の整理はすでに済んだ。
店が変わる。LIFE SELECT は家電に頼らず、リフォーム・家具・住宅を売る。1 人の客から取れる金額が増え、粗利も上がる。自前商品の SPA は粗利が厚い。比率が上がれば、営業利益率は 1 ポイントは押し上がる。
住宅も伸びる。ヤマダホームズとヒノキヤが家電店の客に住まいを売る。住建は増収増益が続き、利益の柱になる。家電から住まいへの導線が機能すれば、同業が持たない強みになる。
資本の面でも余力がある。中計は在庫の圧縮と余剰の現預金で 1,300 億円を生み、成長投資と還元に回す計画だ。ROE 8.5% は大きな目標だが、営業利益率が 4.5% に戻れば届く。2021 年 3 月期には営業利益率 5.2% を出した実績がある。
物価が上がる世界は、実は家電に追い風だ。省エネ家電の買い替えが進み、単価が上がる。EC との価格差は、設置・保証・下取りで埋められる。
この見方がすべて当たれば、10 年後の純利益は 750 億円を超え、倍率も 15 倍ほどに上がる。今の値段を大きく超える。
慎重な見方
営業利益率が 4% を超えたのは、過去 10 年で 2021・2022 年 3 月期だけだ。しかも、コロナ下の巣ごもり需要という一時の追い風があった。平時の力は 2〜3% だ。この水準が 5 年や 10 年で急に変わる理由は見当たらない。
中計は ROE 8.5% を掲げるが、足元の ROE は 2% 台だ。2026 年 3 月期も、期初の純利益 273 億円の計画を 148 億円に切り下げた。在庫処分を「一過性」と呼ぶが、在庫が膨らんだのは経営の判断の誤りだ。
EC との競争は強まる一方だ。家電 EC は 4 割を超え、店は試す場所になっていく。ポイントを厚くして客をつなぎ止めるやり方は、売上の先食いで利益を削る。2026 年 3 月期の減益の原因の 1 つはこれだ。
借金は純額で 2,600 億円ある。金利が上がれば利払いが増え、利益を圧迫する。家賃の固定費も重い。景気が悪くなれば、売上が落ちても家賃と借金は残り、赤字になりやすい。
住宅も家電と同じ景気に弱い。金利が上がれば、家を買う人が減る。2 つの事業が同時に落ちる。
自己資本は厚いが、収益を生まなければ、時間とともに価値は目減りする。10 年後も純利益が 400 億円に届かない可能性は十分にある。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強いと筆者は判断した。理由は、資本効率の低さが長く続いていることと、計画を下回る年が目立つことにある。
強気の見方は、中計が成功した時の姿としては筋が通る。ただし、成功の確率は高くない。確率は中立に 4 割を置き、やや悲観と悲観を合わせて 3 割台後半とした。強気側は 2 割台前半にとどめた。
一方、家電は生活に欠かせず、会社が行き詰まる確率は小さい。深い谷でも、売れる資産の税後が床になると置いた(純有利子負債を引くと薄い)。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 646 円4,294 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 325 円2,161 億円)。 今の値に割り戻すと 520 円3,460 億円、今との差 −29.2%、 期待の年率 +2.8%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 1,506 円1.00 兆円 | 487 円3,241 億円 | +171.3% | +10.5% | 120 円795 億円 |
| やや楽観 | 17% | 1,049 円6,975 億円 | 427 円2,841 億円 | +101.0% | +7.2% | 251 円1,669 億円 |
| 中立 | 40% | 739 円4,913 億円 | 367 円2,441 億円 | +50.6% | +4.2% | 442 円2,941 億円 |
| やや悲観 | 26% | 270 円1,793 億円 | 260 円1,731 億円 | −27.9% | −3.2% | 138 円916 億円 |
| 悲観 | 11% | 105 円697 億円 | 78 円520 億円 | −75.1% | −13.0% | 20 円134 億円 |
| 加重平均 | 100% | 646 円4,294 億円 | 325 円2,161 億円 | +32.2% | +2.8% | 971 円6,455 億円 |
今の株価時価総額 735 円4,884 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 6% くらしまるごとが当たり、ROE 9% の小売になる 利益 755 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 1,506 円1.00 兆円
LIFE SELECT が全国に広がり、家電・リフォーム・家具・住宅を 1 つの店で売る形が定着する。SPA が売上の 2 割を占めて粗利が上がり、デンキの営業利益率は 4.8% まで上がる。
住建は年に 1 万戸規模を引き渡す会社になり、金融が住まいの売上を支える。全体の営業利益は 1,300 億円に迫り、ROE は 9% に達する。会社は稼ぎに見合った高い還元を続け、市場は優良な小売として 15 倍ほどで評価する。
競合のビックカメラやエディオンが取れない「住まいまるごと」の顧客を、ヤマダが先に押さえる。2030 年 3 月期の経常利益 1,000 億円は通過点になり、自己資本が増えても ROE は落ちない。借金は返済が進み、金利の上昇も吸収できる。
- デンキ(家電・リフォーム・家具の店舗):数量 64.1(年間の会計件数(百万件))× 価格 30,668(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 19,646 億円・営業利益 943 億円。客数微増・客単価に高付加価値と SPA の厚み、営業利益率が山の水準へ
- 住建(住宅の建築・分譲・賃貸):数量 10,480(年間の引き渡し戸数(戸))× 価格 5,758(1 戸あたりの売上(万円。物価の指数で伸びる))→ 売上 6,034 億円・営業利益 253 億円。引き渡し戸数が伸び、利益率も上がる
- 環境(リサイクル・リユース):数量 75.0(年間取扱量(万トン))× 価格 9.99(1 トンあたりの売上(万円。物価の指数で伸びる))→ 売上 749 億円・営業利益 49 億円。取扱量が増え、金属価格も追い風
倍率:事業の純利益 755 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.26 倍、時価総額 10,011 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の ROE 8.5% 以上が定着する筋。長い間の実績に反するので 1 割に届かせない。
やや楽観 17% 遅れて回復し、資本コストに届く 利益 558 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,049 円6,975 億円
会社の計画は遅れるが、方向は正しかった。LIFE SELECT は主要都市に定着し、リフォームと家具の比率が高まる。デンキの営業利益率は 3.8% に上がる。
住建は着実に伸び、環境も黒字を保つ。営業利益は 970 億円ほどで、ROE は 7% を超える。資本コストにようやく届く水準で、市場は 13 倍ほどを払う。
家電は売れ続けるが、主役はリフォームと家具・住宅へ移る。EC には設置工事と保証で対抗し、価格競争を避けられる。ただし、自社で全部をやるのは難しく、住宅の営業人材の確保が壁になる。会社の計画にあった店数や利益の目標は、時期がずれ込む。
- デンキ(家電・リフォーム・家具の店舗):数量 61.6(年間の会計件数(百万件))× 価格 30,074(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 18,538 億円・営業利益 704 億円。客数横ばい、客単価は物価並み、利益率は回復途中
- 住建(住宅の建築・分譲・賃貸):数量 9,800(年間の引き渡し戸数(戸))× 価格 5,520(1 戸あたりの売上(万円。物価の指数で伸びる))→ 売上 5,410 億円・営業利益 206 億円。戸数・単価とも堅調
- 環境(リサイクル・リユース):数量 70.2(年間取扱量(万トン))× 価格 9.70(1 トンあたりの売上(万円。物価の指数で伸びる))→ 売上 681 億円・営業利益 37 億円。取扱量が増える
倍率:事業の純利益 558 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.2% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 6,975 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:営業利益率が 4% 近くに定着する。LIFE SELECT と SPA が当たる。実績の乏しさを踏まえて 2 割弱とした。
中立 40% 巨大だが、効率は中の下のまま 利益 393 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 739 円4,913 億円
家電の数量は人口減で 3% ほど減るが、価格は物価に沿って上がる。LIFE SELECT と SPA が利益率を少し押し上げ、住建も伸びる。
営業利益は 700 億円ほどで、ROE は 5% 台にとどまる。ヤマダは巨大だが、効率は中の下の会社として残る。還元は続き、自己資本は緩やかに増える。市場は 12 倍弱で評価し、PBR は 0.6 倍台になる。
会社は中計の途中で何度か目標を引き直す。ただし、店舗網と仕入れの規模は強く、利益が崩れることはない。借金は緩やかに減り、利払いの増加も吸収できる。強気の期待にも悲観にも当たらない、無難な 10 年になる。 株主優待の費用は利益から引き済みで、還元には受け取り分(年約4.1億円×10年)を足している。
- デンキ(家電・リフォーム・家具の店舗):数量 58.6(年間の会計件数(百万件))× 価格 29,480(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 17,281 億円・営業利益 501 億円。客数横ばい(3 年)〜 3% 減(10 年)、客単価は物価並み、利益率は平常
- 住建(住宅の建築・分譲・賃貸):数量 9,200(年間の引き渡し戸数(戸))× 価格 5,591(1 戸あたりの売上(万円。物価の指数で伸びる))→ 売上 5,144 億円・営業利益 165 億円。戸数は緩やかに増え、単価は物価並み
- 環境(リサイクル・リユース):数量 66.0(年間取扱量(万トン))× 価格 9.56(1 トンあたりの売上(万円。物価の指数で伸びる))→ 売上 631 億円・営業利益 28 億円。取扱量・単価とも緩やかに伸びる
倍率:事業の純利益 393 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 4,912 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:営業利益率が 3% 前後にとどまり、数量は人口減で微減、価格は物価並み。実績に最も近い。
やや悲観 26% EC に押され、値上げが通らない 利益 197 億円 · PER 9.1 倍 · 株価時価総額 270 円1,793 億円
EC への流出が進み、家電の客数は 12% 減る。値上げが通りにくく、物価ほど価格が上がらない。店の維持に家賃と人件費がかさみ、デンキの営業利益率は 1.8% に下がる。
住建も金利と人口減で受注が伸びず、利益率は 2.4% にとどまる。営業利益は 390 億円で、ROE は 3% を割る。市場は PBR 0.4 倍台で評価する。
同業との再編が進み、ヤマダの規模の優位が薄れる。EC と店の価格差が縮まらず、客は店で試して EC で買う。住宅は人口減で戸数が伸びず、LIFE SELECT の投資が重荷になる。配当は守るが、余力は乏しい。
- デンキ(家電・リフォーム・家具の店舗):数量 53.2(年間の会計件数(百万件))× 価格 28,600(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 15,209 億円・営業利益 274 億円。客数減、値上げが通らず、利益率は薄い
- 住建(住宅の建築・分譲・賃貸):数量 8,000(年間の引き渡し戸数(戸))× 価格 5,383(1 戸あたりの売上(万円。物価の指数で伸びる))→ 売上 4,306 億円・営業利益 103 億円。金利上昇で戸数が減る
- 環境(リサイクル・リユース):数量 60.0(年間取扱量(万トン))× 価格 8.99(1 トンあたりの売上(万円。物価の指数で伸びる))→ 売上 539 億円・営業利益 19 億円。取扱量が減る
倍率:(家賃を営業費用に入れた今と同じ形)ROE 2.8%(純利益 197 億円 ÷ 自己資本 7,062 億円)。事業の ROE が資本コスト 8% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 11.4 倍。EC に押され値上げが通らず ROE も資本コストを大きく下回るので、やや悲観は上限の 8 割 の 9.1 倍に置いた。
確率:EC に押され、値上げが通らず、利益率が 2% を割る。構造の弱さが現れる筋で、強気側より厚く置いた。
悲観 11% 家電が汎用品になり、構造的に負ける 利益 20 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 105 円697 億円
家電が完全にコモディティ化し、ヤマダは価格競争に飲み込まれる。客数は 3 割近く減り、店の閉鎖と減損が続く。住宅への転換も実を結ばない。
家賃と人件費は重く、デンキはほぼ利益が出ない。営業利益は 70 億円を割り、純利益はほぼゼロ。減損で自己資本も減る。もはや優良な会社ではなく、PBR は 0.4 倍を割る。
この筋書きでは、規模は大きくても稼げない会社になる。借金と家賃の固定費が重く、配当は借入や資産の売却で維持するのが精いっぱいだ。住宅と家電の景気が同時に冷え込めば、さらに追い込まれる。値下げ競争で店の存在価値が薄れ、再建のために店舗を大きく減らす選択を迫られる。
- デンキ(家電・リフォーム・家具の店舗):数量 43.5(年間の会計件数(百万件))× 価格 26,400(1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる))→ 売上 11,487 億円・営業利益 34 億円。売上が落ち家賃と人件費が残る
- 住建(住宅の建築・分譲・賃貸):数量 6,500(年間の引き渡し戸数(戸))× 価格 5,199(1 戸あたりの売上(万円。物価の指数で伸びる))→ 売上 3,379 億円・営業利益 51 億円。受注が大きく減り、利益はわずか
- 環境(リサイクル・リユース):数量 49.8(年間取扱量(万トン))× 価格 8.49(1 トンあたりの売上(万円。物価の指数で伸びる))→ 売上 423 億円・営業利益 11 億円。取扱量・市況ともに悪化
倍率:谷の底で純利益 20 億円・ROE 0.4% にすぎず、稼ぐ力(20 億円 ÷ k)は約 230 億円と小さい。家賃が固定費として残り、売れる資産の税後から純有利子負債を引いた約 700 億円(floor_assets_oku)を床とし、今の自己資本 6,337 億円に対する PBR 0.11 倍で測った。EV(時価総額+純有利子負債 2,600 億円)÷ 営業利益は谷の利益が小さく意味を持たない(100 倍前後)。借金の重さは床の薄さで見た。
確率:10 年のうちに、家電のコモディティ化と住宅の失敗が重なり、優良な会社ではなくなる。構造的な負けの確率を 1 割強と置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
デンキ(家電・リフォーム・家具の店舗)
ヤマダデンキなどの店舗とネット通販で、家電に加え、リフォーム・家具・自前商品(SPA)を売る。
| 数量年間の会計件数(百万件) | 価格1 会計あたりの売上(円。物価の指数で伸びる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.4 | 22,000 | 13,294 | 24 |
| 10 年後 中立 | 58.6 | 29,480 | 17,281 | 501 |
取り方:売上 13,294 億円を、1 会計あたり約 2.2 万円(推定)で割った件数が約 6,040 万件。売上は市場全体(家電量販店 10 兆円規模)の約 13% に当たる。営業利益 24 億円は 240 億円の在庫処分を含み、これを除いた平常の力は約 260 億円で、前の期は約 290 億円だった。件数は人口とともに減る需要で、中立は 3 年横ばい・10 年 3% 減。1 会計の金額は物価並みに上がる(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍)。
住建(住宅の建築・分譲・賃貸)
ヤマダホームズ・ヒノキヤグループが注文住宅・分譲住宅・戸建て賃貸を売る。家電店の客に住まいを売る狙い。
| 数量年間の引き渡し戸数(戸) | 価格1 戸あたりの売上(万円。物価の指数で伸びる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8,000 | 4,173 | 3,338 | 102 |
| 10 年後 中立 | 9,200 | 5,591 | 5,144 | 165 |
取り方:売上 3,338 億円を、1 戸あたり約 4,170 万円(推定。分譲と注文とリフォームの混在の平均)で割って約 8,000 戸。営業利益 102 億円は利益率 3.1%。戸数は店との連携で中立は 10 年で 1.15 倍、単価は物価並み。
環境(リサイクル・リユース)
使用済み家電・金属などの再資源化と中古品の販売。家電の下取りと結びつく。
| 数量年間取扱量(万トン) | 価格1 トンあたりの売上(万円。物価の指数で伸びる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 7.13 | 428 | 18 |
| 10 年後 中立 | 66.0 | 9.56 | 631 | 28 |
取り方:売上 428 億円を、1 トンあたり約 7.1 万円(金属・家電の再資源化の平均、推定)で割って約 60 万トン。営業利益 18 億円は利益率 4.2%。取扱量は家電の下取りに連動して中立は 10 年で 1.1 倍、単価は物価並み。
リスクと懸念
計画を下回りやすい経営
会社は 2030 年 3 月期に ROE 8.5% という高い目標を掲げるが、足元は 2% 台だ。2026 年 3 月期も、期初の純利益 273 億円の計画を 148 億円に切り下げた。計画の達成を前提にせず、数量と利益率を置くべきだ。達成が見えない限り、回復の織り込みは危うい。
ポイントと在庫の負担
ポイントを厚くして客を囲い込むと、売上の先食いで利益が先に削られる。在庫の積み過ぎは、2026 年 3 月期に 240 億円規模の処分を招いた。同じことが LIFE SELECT の拡大期にも起こりうる。出店を急ぐほど、在庫と販促費の先行負担が大きくなる。
EC による価格の透明化
家電 EC は 4 割を超え、価格はすぐ比べられる。店は商品を試す場所になり、買われるのは EC という構図が進めば、客数と粗利が同時に落ちる。設置・保証・下取りの強みが十分に効くかが分かれ目だ。LIFE SELECT の店は、まさにその試金石になる。
借金と金利の上昇
純有利子負債は 2,600 億円で、時価総額の半分に当たる。借り換えで金利が上がると、利払いが 3 年後に年 40 億円、10 年後に年 65 億円増える。ROE が資本コストを下回る会社には重い負担だ。
家賃の固定費
借りている店の家賃は、売上が落ちても払う。筆者の推定では年 250 億円超で、残りの年数分で 2,000 億円を超える約束がある。不況で売上が 2 割落ちると、利益が一気に消える。新リース会計で BS に載ると、借金の見かけも増える。
住宅事業の景気と金利
住建は金利と景気に敏感で、家電と同じ時期に落ちる。2 つの事業の谷が重なると、分散の効果は働かない。家電店の客を住宅に結びつける戦略は、景気が悪い時ほど成果が出にくい。分譲は在庫を抱える事業でもあり、売れ残りが利益を削る。金利が 1 ポイント上がるだけで、購入層の返済額は大きく増える。
創業者と経営の安定
創業者の山田昇氏は、2016 年からの 9 年で社長が 4 度替わる間に、退任と復帰を繰り返した。2025 年 4 月に社長が替わり、統治は整いつつあるが、創業者の影響がどこまで続くかは見通せない。経営の方針が人で揺れれば、長い資本の使い方にも響く。
今後の分かれ目
- LIFE SELECT が出店のたびに既存店を上回る利益を出す
- リフォーム・家具の比率が上がり、デンキの営業利益率は 3% を超える。強気の筋書きの確率が上がり、10 年の見立ては大きく上向く。
- 2027 年 3 月期の営業利益 515 億円を達成する
- 在庫処分の影響が一過性だったと確かめられ、平常の力の見立てが 500 億円台に上がる。逆に 400 億円台に終われば、慎重な見方がさらに強まる。
- 家電 EC の比率がさらに上がり、既存店の客数が 2 年続けて減る
- 店舗の価値が崩れ始めたと判断し、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 自社株買いを毎年実行し、資本効率の改善に動く
- 自己資本が過大だった問題が和らぎ、ROE が 6% を超える。倍率を 1〜2 倍高く置ける。
- 金利が想定より早く上がり、借り換えのコストが増える
- 利益が 1 割ほど減り、10 年の中立が弱気側に動く。
- ビックカメラ・エディオンなど他社との経営統合の動きが出る
- 規模の経済は強まるが、資本効率の改善にはつながりにくい。統合の条件を見て評価する。
見ておくもの
- 既存店売上高と客数
- LIFE SELECT の店数と店ごとの利益
- デンキの営業利益率(3% の定着)
- 在庫の水準(POS ベース 2,100 億円の目標)
- ポイント施策の負担と SPA の比率
- 純有利子負債と金利の動き
- 自社株買いの実行
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価ではなく、その時点の ROE と資本コスト 8%(基本 7.5% に品質の調整 +1.25%)から、中立で上限の 8 割 5 分、やや楽観と楽観で 9 割前後に置いた。ROE が資本コストを下回るので、PER の上限そのものが 1÷k = 11.4 倍と低い。今の PER 33 倍は利益が落ちた年の数字で、根拠にしていない。
結果として中立は今より低く、割高に出る。
純有利子負債(2,600 億円)は純現金ではないので、余った現金は立てていない。店舗の家賃は固定の約束で、悲観では売上が落ちても残るとして営業利益率に入れた。10 年後の数字は家賃を営業費用に入れた今と同じ形で置いた。悲観は市場の倍率や過去の底でなく、売れる資産の税後から純有利子負債を引いた床(概算 700 億円)で置いた。2028 年 3 月期からの新リース会計で営業利益が少し増え、純有利子負債がリース負債の分だけ増える点は、比較のときに注意が要る。含み益は確認できておらず、純資産には足していない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本 7.5% に quality +1.25% を足した 8.75%。景気の波で循環 +0.25%、EC と競合に値段を決められて値決め +0.5%、純有利子負債が EBITDA の 3 倍超で借金 +0.5%、寿命は 0。赤字ではなく存続に疑いは無いので上乗せ(extra)は置かない。くらしまるごとの実行といった個別のリスクは k に足さず、筋書きの利益率と確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.00%。