結論
カワチ薬品は、栃木・北関東を地盤に約 390 店を構える郊外型のドラッグストアだ。筆者の結論は割高で、いちばんの理由は稼ぐ力の細さにある。売上は 2,800 億円あるのに、営業利益は 70 億円前後しかない。
利益率は 2〜3% で、同業の中でも低い。食品を安く売って客を集める大型店が中心で、薬や化粧品のように利幅の厚い品が主役になっていない。自己資本に対する利益(ROE)は過去 10 年で 4% 前後に張り付き、資本コストの 7.5% に届かない。
財務は堅い。借金より現金が多く、自己資本比率は 58% ある。ただ、現金は稼ぐ力の代わりにならない。この会社の時価は、20 年近く帳簿の自己資本を下回ってきた。2026 年 6 月には米ファンドが社長の解任を求めたが、創業家などが反対して否決された。支配は動かない。
10 年後の中立の見立ては、純利益 66 億円ほどだ。今の倍だが、ROE は 5% にとどまり、倍率は 10 倍に届かない。確率で重みづけして今に割り戻すと、今の時価総額を大きく下回る。現金と創業家という安全弁はあるが、値段の理由にするには足りない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、問いは「この会社の利益を、自分が持ち続けたいか」だ。答えは重い。売上 2,800 億円から残る営業利益は 70 億円ほどで、事業が生む利益は小さい。自己資本に対する利益は 3% 前後と、資本コストの 7.5% を割る。
こうした事業では、ためた利益は額面より小さい価値しか持たない。時価が帳簿を割っていることを、割安の理由にはできない。帳簿の価値は、稼ぐ力がついて初めて意味を持つ。
安全域はどうか。純現金は時価総額の 4 分の 1 ほどあり、倒れる心配は小さい。この現金は、時価の下を支える床だ。ただし創業家の支配が強く、戻り方は遅いので、現金の価値を満額では数えない。
筆者が最も気にするのは、利益率がどこまで戻るかだ。値ごろ感の価格を保ちながら、調剤併設を増やして利益率を 3% に近づけられれば、見方は変わる。そうならない限り、本質価値は今の値段を下回る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、郊外の幹線道路沿いに構える売場面積 1,300 平方メートル超の大型店だ。薬・化粧品に加え、食品・日用品・酒類まで一度にそろえ、車で来る家族客を呼び込む。1960 年に栃木市の薬局として始まり、車社会の広がりに乗って育った。
店は 2026 年 7 月時点で 385。うち調剤を併設した店が 160 ある。処方箋の取り扱いは、客を薬局に定着させて利益率を底上げする柱で、会社は併設店を増やしている。本社は栃木県小山市にある。
売上の中身は食品の比重が高く、4〜5 割を占めるとみられる。食品は客が毎週来る理由になるが、利幅は薄い。客数が増えても利益は積み上がりにくく、ここが営業利益率 2〜3% の本質だ。
足元の動きは、値ごろ感を出す価格の見直し、紙チラシからウェブチラシへの切り替え、自社アプリのクーポンだ。2026 年 4〜6 月期の営業利益は 16% 伸びた。一方、今期の会社予想は営業利益で 25% の減益とみている。1 四半期だけでは流れは読めない。
中期経営計画の数値目標は、確かめられる資料が見つからなかった。出店は大型店が前提で、置き場所を探しにくいことが成長の足かせになっている。
優良さと弱いところ
堀(他社がまねできない強み)はあるが、浅い。北関東で長く営業してきた実績と、大きな駐車場つきの大型店は、地元客の習慣になっている。ただ、それを守る力は強くない。
いちばん弱いのは値段を決める力だ。ウエルシアやツルハのイオン連合、食品で攻める低価格のドラッグストア、ヤオコーやベイシアのような食品スーパーが、同じ客を奪い合う。値ごろ感を出すために価格を見直し続けるのは、値決めの力が弱い証拠だ。
資本の効率は低い。ROE は過去 10 年で 2〜7% の間を動き、中央値は 4% だ。純利益は 2021 年 3 月期の 71 億円を最後に、そこへ戻っていない。
強みは財務の厚みだ。純現金は 220 億円で、利払いの負担はほとんどない。赤字になった期は過去 20 年で 2015 年 3 月期だけだ。倒れにくい会社ではあるが、それは稼ぐ力とは別の話だ。
資本の配り方は保守的だ。配当は 10 年で 2 倍に増やし、自社株買いもしているが、現金は積み上がり続けている。社長は 69 歳で、経営の継承の姿は外からは見えにくい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ドラッグストア業界は、まだ伸びている。日本チェーンドラッグストア協会によると、2024 年度の売上は 10 兆円を超え、店は 2 万 3,700 店に達した。食品は前年より 13% 伸び、調剤も 9% 伸びた。協会は 2030 年度に 13 兆円を目指す。
ただ、伸びの中身は変わってきた。店の数はもう飽和に近く、これから伸びるのは調剤と食品の売上だ。薬価や調剤報酬は国が決めるので、調剤の利益は国の財布次第で縮む。食品は客を呼ぶ代わりに利幅が薄く、スーパーとの値引き合戦に巻き込まれる。
カワチ薬品の地盤である北関東と東北は、人口が減る地域だ。客数は中立でも少しずつ細る。そこへイオン傘下で一緒になったウエルシアとツルハが、仕入れの規模で値段を詰めてくる。業界は上位 10 社ほどに集約が進んでいて、中堅は「買う側」か「買われる側」かで価値が分かれる。
コストの面では、最低賃金の上昇が毎年のしかかる。ウェブチラシやアプリ販促への切り替えは、人手とチラシ費を減らす手立てだ。ただ、それだけで年 3〜5% の人件費の上がり方を打ち消すのは難しい。
10 年の構造的な負け筋は、調剤報酬の圧縮と、店の飽和による客の奪い合いが重なることだ。大型店は固定費が重く、客が減ると利益が一気に削られる。
資本政策と M&A
還元は増えているが、控えめだ。配当は 10 年で 2 倍に増やした。自社株買いも進め、株数は減っている。それでも純現金は 189 億円から 220 億円へ増え、ためる速度は還元の速度を上回る。
創業家と関係団体の持株は 4 割を超えるとされる(有価証券報告書をもとにした二次情報)。2026 年 6 月、米ファンドのカナメ・キャピタルが社長ら 2 人の取締役の解任を株主総会に提案した。賛成は 16% 前後(報道)で否決されている。ファンドは持株を買い増す意向を示しており、緊張は続く。
ファンドは、時価が帳簿の自己資本を 19 年連続で下回ったことと、売却か非公開化が株主には望ましいことを訴えた。ただ、4 割超を持つ創業家が応じなければ、TOB(株式公開買付け)も成り立たない。
M&A は、買われる側の可能性が主だ。業界再編が進む中で、北関東の店網は買い手にとって魅力がある。ただ、創業家が売る意思を見せた形跡はない。買う側として動く姿も見えない。
株主優待は年約1.6億円(会社の費用ベース。買物優待券5,000円×単元株主約4.7万人(額面2.3億円)×使われ率7割)。優待の費用は販管費として利益から引き済みなので、株主が受け取る分として10年の還元に「年額×10年×続く見込み(中立1.0・やや悲観0.75・悲観0.5)」を足した(中立+16億円)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
底値は固い。純現金は 220 億円で、時価総額の 4 分の 1 に当たる。借金は無く、赤字に陥る恐れは小さい。しかも創業の地で積み上げた大型店網は、他社が簡単にはまねできない。
利益率には上げしろがある。調剤併設店は 160 店で、全店の 4 割ほどにとどまる。併設を 250 店に増やせば、処方箋が客を定着させ、利益率は上がる。自社アプリとウェブチラシへの切り替えは、販促費を減らす手立てで、今期の第 1 四半期の営業利益はすでに 16% 伸びた。
しかも外圧が経営を動かしている。ファンドが社長の解任を求めたことで、資本効率を上げる圧力が経営に入った。配当は 10 年で倍になった。株主還元がさらに厚くなる余地は十分ある。
業界再編の動きも追い風だ。ウエルシア・ツルハがイオンに集まった今、北関東の店網を取りに来る買い手が現れても不思議ではない。その場合、時価に大きな上乗せがつく。
加えて、地盤の北関東は車社会で、大型店の駐車場つきという形は、ネットやスーパーに奪われにくい。足元の業績が谷にある今こそ、利益率の戻りが大きく効く。
慎重な見方
利益率が 2% の事業は、わずかな変化で赤字に近づく。今期の会社予想は営業利益で 25% の減益で、人件費と光熱費の上昇に価格見直しが追いついていない。
構造の問題は、食品への依存だ。食品は客を呼ぶが、利幅が薄く、スーパーとの値引き合戦になる。調剤は利幅が厚いが、報酬は国が決めるので、一度下げられると戻らない。つまり、利益の厚い部分は国に握られ、薄い部分は競争に晒される。
現金は床にはなるが、価値ではない。創業家が 4 割超を持つ会社で、現金が株主に戻る保証はない。ファンドの解任提案が否決されたことで、資本効率を改善する圧力は弱まった。ためた現金は 20 年近く時価の下支えにはなったが、ROE は上がらなかった。
買収を当てにするのも危うい。売る意思を創業家が示した形跡はなく、買い手が現れても、株主が得る上乗せは 10 年後の姿にまで及ばない。
大型店という形そのものも重荷だ。新しい店を出す場所が限られ、既存店は客数の減る地域に立つ。10 年で店が増えず、客単価も物価に届かない道は、十分ありうる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方の方が強い。利益率が低く、ROE が資本コストを下回る事実は、強気の見方でも崩せない。強気の主張は、現金・再編・調剤併設という「うまくいけば」の話に偏る。
確率は、中立を中心にやや悲観へ寄せた。楽観は 7% にとどめ、やや悲観を 26%、悲観を 12% とした。買収の可能性は楽観に入れたが、創業家の姿勢から見て主役にはしなかった。現金の厚みが底を支えるので、悲観を 15% 以上には広げていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,550 円774 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,468 円320 億円)。 今の値に割り戻すと 2,643 円576 億円、今との差 −34.5%、 期待の年率 +2.2%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 6,529 円1,423 億円 | 2,137 円466 億円 | +114.8% | +7.9% | 607 円132 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,018 円1,094 億円 | 1,816 円396 億円 | +69.4% | +5.4% | 1,367 円298 億円 |
| 中立 | 35% | 4,101 円894 億円 | 1,587 円346 億円 | +41.0% | +3.5% | 1,991 円434 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,780 円388 億円 | 1,202 円262 億円 | −26.1% | −3.0% | 775 円169 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,595 円348 億円 | 725 円158 億円 | −42.5% | −5.4% | 278 円61 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,550 円774 億円 | 1,468 円320 億円 | +24.4% | +2.2% | 5,018 円1,094 億円 |
今の株価時価総額 4,035 円880 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 調剤併設が広がり、再編でも評価される 利益 107 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 6,529 円1,423 億円
調剤併設店が 250 店を超え、処方箋が来店の中心になる。自社アプリで客の買い方が見え、食品は値引きに頼らず、自社ブランドで利幅を取れる。不採算の大型店は整理し、新しい店は調剤併設を前提に出す。店は 410 に増え、1 店舗当たりの売上は物価並みに上がる。
利益率は 4% まで上がり、資本の使い方が変わる。ファンドの圧力が実り、余った現金は配当と自社株買いで戻る。さらに、再編を進める大手がこの店網を買いに来ても不思議はない。その場合は、時価に買収の上乗せが加わる。
ただ、この道は経営の大きな方針転換を要する。創業家が「より高く評価される形」を選ぶ必要があり、10 年の中でその確率は高くない。
- ドラッグストア事業(大型店・調剤併設):数量 410(店舗数(店))× 価格 9.95(1 店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 4,080 億円・営業利益 163 億円。営業利益率 4.0%(調剤併設と自社ブランドで利幅が上がる)
倍率:事業の純利益 105 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 12.66 倍、時価総額 1,423 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利益率 4% は同業の高い方に並ぶ水準で、10 年続けて達成するのは難しい。ファンドの圧力や買い手の登場という上振れ要因はあるが、創業家が動かないので低い確率にとどめた。
やや楽観 20% 利益率が少し戻り、地元の中堅として安定 利益 82 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 5,018 円1,094 億円
調剤併設店が 200 店に広がり、食品の価格見直しが落ち着く。ウェブチラシとアプリで販促費が下がり、人件費の上昇を一部吸収する。店は 395 にわずかに増え、1 店舗当たりの売上は物価をやや下回って伸びる。
利益率は 3% を少し超える。2021 年 3 月期の水準に近づくが、そこを超える力はない。純利益は 80 億円台に乗り、配当は純利益の 5 割ほどを保つ。
ウエルシア・ツルハとの競争は続くが、郊外の大型店という形で戦う場所は守れる。創業家の支配は続き、現金はゆっくり戻る。可もなく不可もない地方チェーンとして、10 年が過ぎる。
- ドラッグストア事業(大型店・調剤併設):数量 395(店舗数(店))× 価格 9.75(1 店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 3,851 億円・営業利益 123 億円。営業利益率 3.2%
倍率:事業の純利益 80 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 1,094 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:調剤併設の拡大と販促費の効率化が部分的に進む筋書き。直近の営業利益の伸びを根拠に置くが、予想は減益なので中立より低い確率とした。
中立 35% 中立:横ばいの店数で、利益は倍の水準に戻る 利益 66 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 4,101 円894 億円
10 年後も店は 390 ほどで、ほとんど増えない。1 店舗当たりの売上は物価の上がりに客数の細りを引いた分だけ伸び、売上は 3,700 億円台になる。
利益率は 2.6% まで戻る。2026 年 3 月期の 2.4% から少し上がるだけだ。調剤併設の拡大と販促費の削減が、人件費の上昇をおおむね相殺する。純利益は 66 億円となり、今の倍に近い。ただし 2021 年 3 月期の 71 億円は超えない。
金利が上がるので、純現金の受取利息が少し増える。配当は純利益の 5 割ほどを維持し、自社株買いは時折しか行わない。ROE は 5% 前後で、資本コストを下回ったまま。ためた利益の価値は、帳簿より小さい。創業家の支配は続き、ファンドとの緊張も続くが、大きな変化は起きない。 株主優待の費用は利益から引き済みで、還元には受け取り分(年約1.6億円×10年)を足している。
- ドラッグストア事業(大型店・調剤併設):数量 390(店舗数(店))× 価格 9.58(1 店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 3,736 億円・営業利益 97 億円。営業利益率 2.6%
倍率:事業の純利益 64 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 894 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の見通しの中心値と、足元の予想(減益)を踏まえた中心の筋書き。慎重な見方が強いので、確率の山を中立のやや悲観側に置いた。
やや悲観 26% 食品の値引き競争が続き、利益率が 2% を割る 利益 44 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 1,780 円388 億円
食品の値引き競争が止まらず、価格を見直しても客が来ない。調剤報酬は圧縮が続き、併設店の利益が頭打ちになる。店は不採算の店を閉じて 370 に減り、1 店舗当たりの売上は物価に届かない。
家賃や地代、人件費は売上が落ちても減らない。営業利益率は 1.8% まで下がり、純利益は 44 億円に落ちる。配当は維持するが、自社株買いはやめる。
現金は減らないが、ためた現金で配当を払い続ける形になり、事業の稼ぎでは賄えなくなる。創業家は売らず、買い手も現れない。業界の再編を横目に見ながら、細る店網を守る 10 年になる。
- ドラッグストア事業(大型店・調剤併設):数量 370(店舗数(店))× 価格 9.20(1 店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 3,404 億円・営業利益 61 億円。営業利益率 1.8%(家賃・人件費は売上が落ちても残る)
倍率:事業の ROE は 3.6%(純利益 43 億円 ÷ 事業の自己資本 約 1,200 億円)で k を大きく下回り、PER の上限は 1÷k = 13.3 倍。構造的に稼ぎが細る筋書きなので、上限の 5.6 割の 7.5 倍に置いた。余った現金は谷で食うとみて 0.75 倍で数えた。
確率:予想がすでに減益で、人件費の上昇も続く。食品での値引き競争と調剤報酬の圧縮という、業界で起きている流れの延長なので、確率は中立に近い厚みで置いた。
悲観 12% 構造的に負け、再編で買い手を待つ立場になる 利益 −6 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,595 円348 億円
イオン連合の仕入れ力が決定的な差になり、食品でも調剤でも客が移る。大型店は固定費が重く、客が減ると利益が一気に削られる。店は 340 まで減り、売上は 2,900 億円台を割る。
営業利益は赤字になる。閉店には敷金の放棄、違約金、減損が伴い、縮むこと自体にお金がかかる。純現金はその穴埋めに消える。配当は減り、自社株買いは止まる。
創業家が支配を続ける限り、売却には進まない。時間とともに店の価値は下がり、最後は買い手を待つ立場になる。値段は稼ぐ力ではなく、売れる資産の価値で決まる。
10 年の終わりには、残るのは立地のよい十数店と、現金の残りだけになる。業界の再編の中で、買い手は店網ごとではなく、立地と資産を選んで拾う。
- ドラッグストア事業(大型店・調剤併設):数量 340(店舗数(店))× 価格 8.40(1 店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 2,856 億円・営業利益 −14 億円。営業利益率 −0.5%(家賃・人件費は売上が落ちても残る)
倍率:赤字で稼ぐ力(事業の純利益 ÷ k)は測れない。売れる資産の税後 約 350 億円(floor_assets_oku)を床とし、今の自己資本 1,159 億円に対する PBR 0.30 倍で測った。
確率:調剤報酬の圧縮と大手の規模の格差が同時に進む複合の筋書き。現金の厚みと創業家の支配が底を支えるので、同業より低めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ドラッグストア事業(大型店・調剤併設)
北関東・東北を中心とした約 385 店の郊外大型店。薬・化粧品・食品・日用品を一度に販売し、160 店が調剤を併設する。
| 数量店舗数(店) | 価格1 店舗当たり年間売上高(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 386 | 7.37 | 2,845 | 68 |
| 10 年後 中立 | 390 | 9.58 | 3,736 | 97 |
取り方:2026 年 3 月末の店舗数 386 に対し、全社売上高 2,845 億円を割って 1 店舗当たり 7.37 億円。単一事業なので全社をそのまま 1 つに置いた(調剤と物販の内訳は開示を確かめていないため分けない)。店舗数は大型店前提で出店余地が乏しく、10 年で中立は 390 店とほぼ横ばい。1 店舗当たり売上は、物価 3% が乗る一方、北関東・東北の人口減で客数が 10 年で 3% 前後細り、調剤の売上は国の報酬で物価ほど上がらないため、中立で 10 年 1.30 倍(物価の 1.34 倍より低い)に置いた。
リスクと懸念
食品の値引き競争
食品は売上の 4〜5 割を占めるとみられ、スーパーや低価格のドラッグストアとの値引き合戦が続く。価格を見直しても客数が戻らなければ、利益率 2% の事業は赤字に近づく。
調剤報酬の引き下げ
調剤併設店は 160 店で、利益を底上げする柱だ。調剤報酬は国が決める。引き下げが続けば、併設店を増やしても利益率が思うほど上がらない。
北関東・東北の人口減
地盤の人口は年々減る。大型店は固定費が重く、客数が 1 割減ると利益が大きく削られる。出店余地も限られ、既存店の客を守る戦いになる。
賃金上昇と固定費の重さ
最低賃金の上昇で人件費が年 3〜5% 上がる。ウェブチラシとアプリでの販促費の削減だけでは打ち消しきれない。家賃や地代は売上が落ちても残る約束として重なる。
資本効率が改善しない
創業家と関係団体の持株は 4 割を超えるとされる。ファンドの解任提案は否決された。現金が積み上がるだけで株主に戻らなければ、ROE は低いまま動かない。
イオン連合の規模
ウエルシアとツルハがイオンの下で一緒になり、仕入れの規模が広がる。価格と品ぞろえの差が開けば、同じ地域の客が移る。中堅は買われる側に回る。
今後の分かれ目
- 調剤併設店が 250 店を超え、営業利益率が 3% を超えて定着する
- 稼ぐ力が質的に変わり、ROE は資本コストに近づく。現金の戻りが早まれば、見方は強気に寄る。
- 創業家が持株の売却や非公開化に応じる
- 買収の上乗せが付き、強気の筋書きに近づく。ただし今のところ、その意思を示した形跡はない。
- 調剤報酬が大きく引き下げられる
- 併設店の利益が縮み、利益率の改善が止まる。慎重な見方が強まる。
- ファンドが持株を買い増し、再び株主提案を出す
- 資本効率の改善を迫る圧力が強まり、還元が厚くなる可能性が出る。創業家の反応が分かれ目になる。
- 営業利益率が 1% 台に落ちたまま戻らない
- ためた現金を食う形になり、構造的な負けの筋書きに寄る。
- ウエルシア・ツルハが北関東で出店を加速させる
- 既存店の客数が減り、値引きで対抗せざるを得なくなる。利益率が 2% を割る恐れがある。
見ておくもの
- 既存店の売上高と客数(月次)
- 調剤併設店の数と調剤の売上比率
- 営業利益率(四半期)
- 配当と自社株買いの規模、純現金の増減
- カナメ・キャピタルの持株比率と株主提案
- 調剤報酬の改定
倍率と資本コストの決め方
倍率は、数量×価格で積んだ利益とその時の ROE から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g) を出し、中立は上限の 7 割ほどに置いた(ROE が k を下回るので上限は 1÷k = 13.3 倍)。今の株価は最後に比べただけで、倍率には使っていない。資本コストは基本 7.5% に quality 0 を足した 7.5%。余った現金 120 億円は戻り方 0.5 で別に足した。家賃・地代は営業費用に入れた今と同じ形で 10 年後も置いた。2028 年 3 月期からの新リース会計基準で営業利益・自己資本比率の形は変わるが、本質価値は変えない。同業 9 社は全て日本基準なので、純負債の形はそろっている。リースの約束の額は確かめられなかった。悲観の床の資産は概算で、不動産の内訳は未確認。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→12.66 倍・やや楽観 PER 10.2→12.5 倍・中立 PER 9.5→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality 0 を足した 7.5%。黒字が続き存続に疑いは無く、上乗せは置かない。ガバナンスや創業家の支配といった個別の事情は k に足さず、筋書きの利益率と確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 8.00%。