結論
日本マクドナルドホールディングスは、米マクドナルド・コーポレーションとのマスターフランチャイズ契約(2030年12月末まで、売上の3%をロイヤリティとして米本社へ支払う)に基づき、日本国内だけでハンバーガーチェーン「マクドナルド」を展開するライセンシーである。店舗は直営705店とフランチャイズ(FC)2,320店の合計3,025店(2025年12月期末)で、近年はオーナー・オペレーターへの店舗譲渡(直営のFC化)を加速させ、ロイヤリティ・賃料収入という高マージンの収益構成を増やしている。2025〜2027年の中期経営計画は全店売上高年平均4〜6%成長・営業利益率13%・ROE11%以上を掲げ、値上げは客数を落とさずに通っており、2026年は既存店売上高が前年比5〜10%増で推移している。
ここでは「直営店」「フランチャイズ(FC)」の2つに分け、店舗数(実質の量)×1店舗当たり収入(物価が乗る名目)で積み上げ、自己資本は今の値に期間の純利益を足して還元を引いて流し、倍率は利益で決めた。ゼンショー・スシローと違い、日本マクドナルドは国内専業のライセンシーで海外に出られないため、外食業界共通の「海外展開が10年の成長の主軸」という前提は当てはまらず、10年の成長はFC化による利益率改善と国内の値上げ・既存店効率化にほぼ限定される。
中立では10年後に営業利益約675億円・純利益約485億円、ROEは約8.4%まで下がり、PERは約13.5倍で時価総額は約6,500億円となり、今の時価総額(約1.05兆円)を大きく下回る。10年間の還元(約1,100億円)を足しても届かない。ブランド・立地・規模という堀は本物だが、FC化による目先の利益率改善は数年で一巡し、国内だけでは数量の伸びが乏しいため、総合では今の値段が本質価値を数年分先取りしており、割高と判断する。
バリュー投資の観点から
50年超かけて築いた国内約3,000店の店舗網と国民的なブランド力は、バリュー投資の観点で評価できる本物の堀である。値上げを続けても客数が落ちにくい価格決定力は、人件費・食材費が物価とともに上がり続ける環境で特に価値が高い。一方で、オーナーのものになる利益という観点では、売上の3%を米本社へロイヤリティとして払う構造が恒常的な天井になっており、同じ堀の強さを持つ国内専業の外食企業と比べて再投資後に株主へ残る利益の伸びしろは小さい。FC化(直営店をオーナー・オペレーターへ譲渡)による利益率改善は合理的な資本配分だが、これは一度進めば効果が一巡する性質の施策で、10年にわたって続く構造的な成長エンジンではない。
経営の資本配分については、M&Aに頼らず配当中心の還元を続けてきた規律は評価できるが、海外展開という成長オプションが制度上存在しないため、再投資の余地自体が国内の店舗改装・デジタル投資に限られる。安全域という観点では、今のPER31倍・PBR3.75倍という値付けは、FC化による目先の利益率改善をすでに先取りしており、10年という長い時間軸で見ても国内だけの成長では今の値段を正当化しにくいというのが本質的な評価である。
何で稼ぐ会社か
日本マクドナルドの収益は2つの流れに分かれる。第一は直営店705店の店舗売上で、客単価×客数で決まる売上をそのまま収益化するが、人件費・食材費・店舗費を自社で負担するため営業利益率は一桁台にとどまる。第二はフランチャイズ(FC)店2,320店から受け取るロイヤリティ・賃料収入で、店舗運営費は加盟店(オーナー・オペレーター)が負担するため、売上対比では小さいが高マージンの収益源になっている。会社は近年、直営店をオーナー・オペレーターに譲渡してFC化を進める方針を明確にしており、2024年には神奈川県の直営40店をFCに譲渡するなど、直営比率を下げてFC収入の比率を高める流れが続いている(2025年12月期はFC収入が連結売上の35.2%を占め、前期から2.6ポイント上昇)。
会社自身は米マクドナルド・コーポレーションとの間でマスターフランチャイズ契約(現行は2030年12月末まで)を結び、売上の3%を本社へロイヤリティとして支払う立場にある。1971年に創業者・藤田田氏が結んだ当初契約はロイヤリティ1%・30年契約だったが、2011年度に3%へ改定された。つまり日本マクドナルドは「米本社のフランチャイジー」と「国内加盟店のフランチャイザー」という二重の立場を兼ねる構造で、国内の店舗網・ブランド運用・商品開発の裁量は広いが、海外展開の権利は持たず、事業領域は日本国内に限られる。主力商品はハンバーガー・ポテト・ドリンクで、近年はモバイルオーダー・デリバリー・セルフオーダー端末などのデジタル投資と、店舗大型化・改装(3年で1,000店以上)による客席・厨房能力の強化を成長のてことしている。
優良さと弱いところ
堀の中心は、50年超かけて築いた国内約3,000店という店舗網の密度と、国民的な認知度を持つブランド力である。立地(駅前・ロードサイドの両方を押さえた蓄積)は新規に再現することが極めて難しく、原材料(ビーフ・ポテト等)の全世界共通の調達規模とサプライチェーンも、単独の国内チェーンでは真似のできない優位性になっている。国内ハンバーガー市場では店舗数・売上高ともにモスバーガー(約1,312店)やバーガーキング(300店強)を大きく上回る首位で、値上げを続けても客数が大きく落ちていない点は価格を決める力の強さを示す。ROEは12%前後で、FC化の進展とともに利益率は改善方向にある。
一方で、売上の3%を米本社へロイヤリティとして払う構造は、国内で稼いだ利益の一部が恒常的に海外へ流出する点で、同業の純粋な国内企業(すき家・はま寿司等)とは異なる利益の天井を持つ。また、海外展開という成長オプションを持たないため、国内の店舗数がほぼ飽和に近づけば、数量面での成長手段はFC化による利益率改善と改装・大型化による既存店効率化に限られる。経営陣は2025年に社長が交代し(トーマス・コウ氏、前任は宅配・デジタル戦略担当)、中期経営計画の実行力が問われる局面にある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業種ノート(小売業・外食領域)の共通前提のとおり、外食業界全体は人件費上昇が共通の逆風で、値上げの通りやすさ(価格決定力)が各社の差になる。日本マクドナルドは値上げを続けながら客数を落とさない数少ない業態の一つで、2026年の既存店売上は客単価・客数とも前年を上回る月が続いている。ただし業種ノートが外食の10年の成長の主軸として想定する「海外展開」(ゼンショーのすき家・はま寿司の海外出店、FOOD & LIFEの海外回転寿司等)は、日本マクドナルドには当てはまらない。米マクドナルド・コーポレーションとのマスターフランチャイズ契約により、日本マクドナルドが展開できるのは日本国内に限られ、海外でチェーンを広げる権利を持たないためである。この点で、同じ外食領域でも成長戦略の構造がゼンショー・スシローとは根本的に異なる。
競合環境は、国内ハンバーガー市場でモスバーガー・バーガーキング・ロッテリア(ゼッテリア)等と競う構図だが、店舗数・ブランド力の差で優位は長年安定している。むしろ業態をまたいだ競争(牛丼・回転寿司・コンビニ中食等への「低価格外食」需要の分散)の方が意識すべき競争軸になる。国内の店舗数はほぼ飽和に近づいており、中期経営計画が年あたり数十店規模の純増と改装(3年で1,000店以上)に重心を置くのは、業界共通の「国内の数量天井」への対応であり、海外に出られない分、既存店の効率化(大型化・デジタル化)とFC化による利益率改善が成長の主な手段になる。
資本政策と M&A
株主への還元は配当中心で、ここ数年連続して増配しており、2027年度の株主資本配当率の目標を3%に置いている。配当性向は22〜25%程度で、自社株買いについては明確な方針が確認できない。内部留保は店舗改装(3年で1,000店以上)・新規出店・デジタル投資に優先配分する方針である。
M&Aによる成長は想定されておらず、資本政策の最大の特徴は米マクドナルド・コーポレーション(カナダ法人・シンガポール法人を通じて合計49.99%を保有する持分法関連会社としての親会社的株主)との関係である。残り過半数は国内外の機関投資家・個人株主が保有しており、米本社が将来的に保有比率を引き上げて完全子会社化(非公開化のTOB)に動く可能性は、市場で時折話題になるテーマである(facts参考値:10年以内TOB確率13.0%)。現時点で具体的な動きは確認されていないが、マスターフランチャイズ契約の更新期限(2030年12月末)が近づく中で、契約条件や資本関係の見直しが議論される可能性はある。
点検済み:中立の営業利益率15.2%は会社の中期計画13%・2027年12月期予想16.1%の範囲内で、直営からフランチャイズへの切り替え(FC化)で構成が変わる分を含む。数字は据え置く。
株主優待は、100株以上・1年以上保有で食事券を年2回(100株で1冊、300株で3冊、500株以上で5冊)。年16.6億円と見込む(会社の開示。2025年12月期の損益計算書の注記で「株主優待関連費用」が16.6億円(前期18.2億円))。優待は株主が受け取る現物の還元なので、10年の還元に年額×10年を、中立・やや楽観・楽観1.0、やや悲観0.75、悲観0.5の係数で足した(費用は販管費として利益から引き済みで、自己資本の流れには入れない)。年額は推定で、株主数の開示と優待条件から出した(2倍程度のずれはありうる)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内約3,000店という店舗網と国民的ブランド力があれば、人件費・食材費が上がる環境でも値上げを通しながら客数を落とさずに増収を続けられる。実際2026年の既存店売上は客単価・客数とも前年を上回る月が続いており、値上げ疲れの兆しは見られない。オーナー・オペレーターへの店舗譲渡(直営のFC化)は合理的な資本配分で、FC収入比率が上がるほど連結の営業利益率は構造的に改善し、中期経営計画が掲げる営業利益率13%・ROE11%以上は十分射程に入る。改装(3年で1,000店以上)による店舗大型化・厨房能力の倍増は、客数の取りこぼしを減らし、モバイルオーダー・デリバリーの拡大は人口減少下でも1人当たりの外食頻度を押し上げる余地がある。国内専業である分、海外の政治・為替・現地オペレーションのリスクを一切負わず、ゼンショーやFOOD&LIFEが抱える海外統合の不確実性を免れている点も、収益の予見性という意味では評価できる強みである。経営陣が交代しても、米本社とのマスターフランチャイズという安定した枠組みの中で、値上げとFC化という手堅い施策を積み重ねれば、10年かけて利益率が緩やかに改善し続ける可能性は十分にある。
慎重な見方
FC化による利益率改善は、直営店をオーナー・オペレーターに譲渡し続けられる間しか効かない一度限りの施策で、譲渡できる直営店が尽きれば利益率改善のエンジンは止まる。国内の店舗数はすでに飽和に近く、改装・大型化による既存店効率化も、新規出店による数量拡大に比べれば小粒な成長手段にすぎない。最大の制約は、米マクドナルド・コーポレーションとのマスターフランチャイズ契約により海外展開の権利を持たないことで、ゼンショーの「はま寿司」海外展開やFOOD&LIFEの海外回転寿司のような、国内の人口減少を相殺する成長オプションが制度上存在しない。売上の3%を米本社へロイヤリティとして払う構造は、国内で稼いだ利益の一部を恒常的に海外へ流出させ、同じ堀の強さを持つ国内専業企業と比べて株主に残る利益の伸びしろを削る。さらに2030年12月末のマスターフランチャイズ契約更新時に、ロイヤリティ率が再び引き上げられるリスクも排除できない(過去に1%から3%へ改定された前例がある)。今のPER31倍・PBR3.75倍という値付けは、FC化による目先の利益率改善をすでに数年分先取りしており、国内だけの成長でこの値段を正当化するのは難しい。最低賃金上昇が自動化投資の効果を上回れば、直営店の収益性はさらに圧迫される。
どちらに重みを置いたか
値上げが客数を落とさずに通っている実行力と、国内店舗網の堀の強さについては強い見方が優勢だが、国内専業で海外展開の権利を持たないという制度上の制約と、米本社へのロイヤリティ流出という構造的な利益の天井については慎重な見方の指摘が的を射ている。ロイヤリティ契約更新や承継のリスクは資本コストに足さず、やや悲観・悲観側の確率を同じ外食領域の2社よりやや厚めに表した。自己資本を流れで置くとROEは10年後に8%前後まで下がり、FC化の効果が一巡した後の成長は乏しいため、倍率はPER13〜14倍程度にとどまる。10年後の中立の時価総額は今を大きく下回り、還元を足しても資本コスト7.5%で今に割り戻すと届かず、総合では割高と判断する。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 7,098 円9,437 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 909 円1,209 億円)。 今の値に割り戻すと 4,077 円5,421 億円、今との差 −50.6%、 期待の年率 −0.3%(資本コスト 7.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 11,976 円1.59 兆円 | 1,253 円1,666 億円 | +60.4% | +4.8% | 1,323 円1,759 億円 |
| やや楽観 | 25% | 9,483 円1.26 兆円 | 1,073 円1,426 億円 | +27.9% | +2.5% | 2,639 円3,509 億円 |
| 中立 | 32% | 8,421 円1.12 兆円 | 957 円1,273 億円 | +13.7% | +1.3% | 3,001 円3,990 億円 |
| やや悲観 | 22% | 3,486 円4,636 億円 | 658 円875 億円 | −49.8% | −6.7% | 912 円1,212 億円 |
| 悲観 | 11% | 616 円819 億円 | 589 円783 億円 | −85.4% | −17.5% | 133 円176 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,098 円9,437 億円 | 909 円1,209 億円 | −2.9% | −0.3% | 8,007 円1.06 兆円 |
今の株価時価総額 8,250 円1.10 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% FC化の完了とデジタル投資で国内専業でも利益率が伸び続ける 利益 693 億円 · PER 20.4 倍 · 株価時価総額 11,976 円1.59 兆円
10年かけてオーナー・オペレーターへの店舗譲渡がほぼ完了し、FC店舗数は3,650店規模まで増える一方、直営は350店程度の旗艦店に絞られる。値上げは客数を落とさず通り続け、改装・大型化・AIを使った需要予測・配膳自動化が人件費上昇の構造的な逆風を吸収し、営業利益率は17%前後まで改善する。国内の店舗数はほぼ飽和でも、1人当たりの外食頻度を押し上げるデジタル投資(モバイルオーダー・デリバリーの深化)が数量面でも緩やかな伸びを支える10年になる。海外展開の権利が無い制約の中でも、国内だけで中期経営計画を上回る利益成長を実現し続ける、優良な国内専業企業としての評価が定着する。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年16.6億円×10年×1=166億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 直営店:数量 350(直営店舗数(店))× 価格 5.94(1店舗当たり年間売上(億円))→ 売上 2,079 億円・営業利益 208 億円。営業利益率10%
- フランチャイズ(FC)収入:数量 3,650(FC店舗数(店))× 価格 0.98(1店舗当たり年間FC収入(億円))→ 売上 3,577 億円・営業利益 787 億円。営業利益率22%
倍率:事業の純利益 693 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 14.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.4 倍。全体の PER 20.41 倍、時価総額 14,144 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内専業という制約の中で10年連続して値上げ・FC化・デジタル投資が計画以上に効き続ける必要があり、連続成功の確度は高くない。
やや楽観 25% FC化・値上げが中計の延長線上で進む 利益 558 億円 · PER 19.3 倍 · 株価時価総額 9,483 円1.26 兆円
FC化は中期経営計画の延長線上でおおむね順調に進み、FC店舗数は3,430店規模まで増える。直営は320店程度まで減る。値上げは客単価の緩やかな上昇で続き、改装による既存店効率化も一定の成果を上げる。人件費上昇は自動化・デジタル投資でおおむね吸収できるが、国内の店舗数はほぼ飽和に近づき、新規出店による数量拡大はわずかになる10年になる。トーマス・コウ体制以降の経営も大きな混乱なく続き、ブランド力と価格決定力は維持されるが、海外に出られない分、成長のペースは緩やかになる。2030年のマスターフランチャイズ契約更新も従来どおりの条件で延長され、ロイヤリティ率の変更は無い10年になる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年16.6億円×10年×1=166億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 直営店:数量 320(直営店舗数(店))× 価格 5.63(1店舗当たり年間売上(億円))→ 売上 1,802 億円・営業利益 162 億円。営業利益率9%
- フランチャイズ(FC)収入:数量 3,430(FC店舗数(店))× 価格 0.93(1店舗当たり年間FC収入(億円))→ 売上 3,186 億円・営業利益 637 億円。営業利益率20%
倍率:事業の純利益 558 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 12.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.3 倍。全体の PER 19.32 倍、時価総額 10,781 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界見通しの上位レンジに近い想定で、FC化と値上げが順調に続くという現実的な上振れ。
中立 32% 中立:国内専業の成熟企業として値上げとFC化が一巡する 利益 485 億円 · PER 19.1 倍 · 株価時価総額 8,421 円1.12 兆円
10年後も国内の店舗数はほぼ飽和のまま、FC化はさらに進んで直営は300店程度、FC店舗数は3,200店規模になる。値上げは物価並みに通り続けるが、数量面での成長はほぼ止まる。改装・デジタル投資は人件費上昇をおおむね相殺するが、FC化による利益率改善の効果は3年目以降に一巡し、営業利益率は15%前後で安定する。国内専業の成熟した優良企業として、大きな成長はないが安定した利益を生み続ける10年になる。モスバーガー等との競争環境も大きく変わらず、国内ハンバーガー市場での首位は維持されるが、海外展開という成長オプションが無いため、ROEは資本コストに近い水準まで緩やかに下がる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年16.6億円×10年×1=166億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 直営店:数量 300(直営店舗数(店))× 価格 5.36(1店舗当たり年間売上(億円))→ 売上 1,608 億円・営業利益 129 億円。営業利益率8%
- フランチャイズ(FC)収入:数量 3,200(FC店舗数(店))× 価格 0.89(1店舗当たり年間FC収入(億円))→ 売上 2,832 億円・営業利益 566 億円。営業利益率20%
倍率:事業の純利益 485 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 12.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.1 倍。全体の PER 19.06 倍、時価総額 9,244 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界見通しの中心値と、国内専業で海外展開の余地が無いという固有の制約を組み合わせた中心シナリオ。
やや悲観 22% 国内飽和と人件費高で成熟が早まる 利益 283 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 3,486 円4,636 億円
国内の店舗数飽和が一段と進み、新規出店の余地がほぼなくなる。FC化も加盟希望者の減少でペースが落ち、FC店舗数は2,970店規模にとどまる。人件費上昇が自動化投資による吸収力を上回る状態が長期化し、営業利益率は10%程度にとどまる。値上げも客数の反応が鈍り始め、競合(モスバーガー等)との価格競争がやや激しくなる。国内専業ゆえの数量の天井が明確に意識される10年になる。海外展開という成長オプションが無いことが構造的な弱みとして市場でより強く意識され、倍率も縮みやすくなる。改装投資の優先順位も見直しを迫られ、既存店の老朽化が一部で進む可能性もある。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年16.6億円×10年×0.75=124.5億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 直営店:数量 280(直営店舗数(店))× 価格 4.79(1店舗当たり年間売上(億円))→ 売上 1,341 億円・営業利益 80 億円。営業利益率6%
- フランチャイズ(FC)収入:数量 2,970(FC店舗数(店))× 価格 0.79(1店舗当たり年間FC収入(億円))→ 売上 2,347 億円・営業利益 329 億円。営業利益率14%
倍率:ROE 5.6%(純利益 283 億円 ÷ 自己資本 5,055 億円)。事業の ROE が資本コスト 7.5% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 14.3 倍。利益の質が落ちているので、やや悲観は上限の 8 割 の 11.4 倍に置いた。
確率:国内の店舗数飽和が10年たっても解消せず、人件費上昇の吸収力が構造的に不足する想定。
悲観 11% 構造的に優良さを失う 利益 90 億円 · PER 9.1 倍 · 株価時価総額 616 円819 億円
国内で値上げが客離れを招くようになり、モスバーガー等競合への客数シフトが進む。2030年のマスターフランチャイズ契約更新時にロイヤリティ率が再び引き上げられ(1%→3%の前例がある)、利益がさらに圧迫される。FC化の進展も鈍り、FC店舗数は2,680店規模にとどまる。不採算の直営店の閉鎖が進み、新規出店はほぼ止まる。それでもハンバーガーチェーンという業態自体の需要が消えるわけではなく、国内約3,000店の店舗網という資産は残るため、価値が完全に失われるわけではない10年になる。経営体制も度々交代し、中期経営計画が掲げた拡大路線の規律が保てなくなっている。売上が落ちても店の家賃は減らないため、利益率の落ち込みはその分だけ深くなる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年16.6億円×10年×0.5=83億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 直営店:数量 320(直営店舗数(店))× 価格 4.02(1店舗当たり年間売上(億円))→ 売上 1,286 億円・営業利益 26 億円。営業利益率2%
- フランチャイズ(FC)収入:数量 2,680(FC店舗数(店))× 価格 0.66(1店舗当たり年間FC収入(億円))→ 売上 1,780 億円・営業利益 107 億円。営業利益率6%
倍率:ROE 2.2%(純利益 90 億円 ÷ 自己資本 4105 億円)の谷の利益。構造的に優良さを失う筋書きで、やや悲観の PER 11.4 倍より低い 9.1 倍(その 8 割)に置いた。店とのれんなど売って得る資産の床は別に立てていない(家賃の約束と減損の見込みを引くと残らない)。
確率:国内でブランド力・価格決定力を失い、ロイヤリティ契約更新(2030年)でも不利な条件を強いられるという複合シナリオ。業態自体は消えないが、個社の優位性喪失は10年で定着しやすいため無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
直営店
直営705店の店舗売上。人件費・食材費・店舗費を自社で負担し、客単価×客数の売上をそのまま収益化する。新商品・新業態・改装の先行実験も担う。
| 数量直営店舗数(店) | 価格1店舗当たり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 705 | 3.83 | 2,700 | 216 |
| 10 年後 中立 | 300 | 5.36 | 1,608 | 129 |
取り方:2025年12月期末の直営店705店・FC店2,320店(合計3,025店)。FC収入が連結売上の35.2%を占める開示を参考に、直営売上を売上4,166億円の約64.8%(2,700億円)、FC収入を約35.2%(1,466億円)と逆算し、店舗数で割って1店舗当たり売上を求めた。直営の営業利益率は店舗運営コストが重いため8%と仮置きした。
フランチャイズ(FC)収入
加盟店(オーナー・オペレーター)2,320店から受け取るロイヤリティ・賃料収入。店舗運営費は加盟店が負担するため、売上対比では小さいが高マージン。
| 数量FC店舗数(店) | 価格1店舗当たり年間FC収入(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,320 | 0.63 | 1,466 | 317 |
| 10 年後 中立 | 3,200 | 0.89 | 2,832 | 566 |
取り方:直営店と同じ逆算で、FC収入1,466億円をFC店舗数2,320店で割って1店舗当たりFC収入を求めた。本社の広告宣伝費・DX投資等の共通費もこのセグメントの利益率に含めて算出しており、営業利益率は21.6%(317億円)と置いた。直営分216億円と合わせると全社営業利益533億円に一致する。
リスクと懸念
国内専業で海外展開の権利が無い
米マクドナルド・コーポレーションとのマスターフランチャイズ契約により、日本マクドナルドが展開できるのは日本国内に限られる。ゼンショーの海外出店やFOOD&LIFEの海外回転寿司のような、国内の人口減少・店舗数飽和を相殺する成長オプションを制度上持たず、10年の数量面の伸びは国内の既存店効率化に限られる。
米本社へのロイヤリティ流出
売上の3%を米マクドナルド・コーポレーションへロイヤリティとして支払う構造は、国内で稼いだ利益の一部を恒常的に海外へ流出させる。2011年度に1%から3%へ改定された前例があり、2030年12月末の契約更新時に再び引き上げられるリスクを排除できない。
FC化による利益率改善の一巡
オーナー・オペレーターへの店舗譲渡(直営のFC化)は連結の営業利益率を構造的に改善させるが、譲渡できる直営店の数には限りがあり、譲渡が進んで直営比率が十分下がれば効果は止まる一度限りの施策である。10年にわたって続く成長エンジンではなく、効果が一巡した後の利益率は値上げと既存店効率化だけで維持する必要がある。
人件費上昇と最低賃金
最低賃金の継続的な上昇とパート・アルバイト不足は外食業界共通の逆風で、直営店は店舗運営費(人件費・食材費)を自社で負担するため影響を直接受けやすい。セルフレジ・モバイルオーダー等の自動化・デジタル投資で吸収できなければ、直営セグメントの営業利益率を直接削り、FC化による改善効果を相殺する方向に働く。
国内競争と値上げ疲れ
モスバーガー・バーガーキング等との競争に加え、牛丼・回転寿司・コンビニ中食など低価格帯の外食全般への需要分散が続く中で、値上げが客数の反応を鈍らせ始めれば、客単価と客数を同時に伸ばしてきた価格を決める力という堀に綻びが生じる可能性がある。既存店売上の客数動向は特に注視すべき指標である。
食材コストと円安の影響
ビーフ・ポテト等の輸入比率が高い食材は、円安150円の前提のもとで物価上昇(年3%)以上にコストが上がりやすい。国内専業のため、海外展開企業(ゼンショー等)が享受する海外店舗の円換算増益のような相殺効果は無く、値上げが追いつかなければ営業利益率が構造的に圧迫される。
経営体制の交代
2025年3月に社長がトーマス・コウ氏(前任は宅配・デジタル戦略担当)に交代しており、値上げ・FC化・改装という中期経営計画の実行力が新体制のもとでも従来どおり維持されるかは、複数年の決算で確かめる必要がある初期段階にある。
今後の分かれ目
- FC店舗数・FC収入比率が計画以上に伸びたら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。利益率改善が構造的に続いていると見る。
- 既存店売上の客数が前年割れに転じ、値上げ疲れが確認できたら
- やや悲観・悲観側に重みを移す。価格を決める力という堀に綻びが生じていると見る。
- 2030年のマスターフランチャイズ契約更新でロイヤリティ率が引き上げられたら
- 利益の天井が一段下がったとみて、中立以下の筋書きの確率を上げる。
- 改装・デジタル投資(モバイルオーダー・デリバリー)が客数増に明確に寄与していることが決算で確認できたら
- 既存店効率化の実行力を再評価し、中立・やや楽観側の確度を上げる。
- トーマス・コウ社長体制のもとで中期経営計画の進捗が計画を下回る状態が続いたら
- 経営体制の実行力を見直し、やや悲観側に寄せる。
- 最低賃金上昇のペースが自動化投資の効果を上回り続けたら
- やや悲観側に寄せる。人件費吸収力が構造的に不足していると見る。
- 米マクドナルド・コーポレーションが保有比率を引き上げてTOB・完全子会社化に動いたら
- 買収プレミアムの可能性を織り込み、短期的な株価見通しを見直す。
見ておくもの
- 中期経営計画(2027年12月期)の進捗(全店売上高・営業利益率・ROEの実績と目標の差)
- 既存店売上高・客数・客単価の月次推移(日本フードサービス協会の業界統計との比較)
- 直営店・FC店舗数の推移(オーナー・オペレーターへの譲渡ペース)
- FC収入比率(連結売上に占める割合)の推移
- 2030年12月末のマスターフランチャイズ契約更新に関する動き
倍率と資本コストの決め方
直営店・FCの2区分で店舗数(実質)×1店舗当たり収入(名目)を積み上げ、自己資本は今の値+期間の純利益−還元で流し(ROEは結果)、新しく投じるお金の稼ぎ(RONIC=k 7.5%+強い堀の残る割合2/3×(ROE−k))と長期g 3.5%(k−g≥3.5%の上限)で正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)を出し、その8〜8.5割に置いた。基本のk 7.5%に品質の調整−0.5%(強い堀なので下げはここまで)を足している。日本マクドナルドは国内専業で海外展開の権利が無いため、10年のROEはFC化の効果が一巡して資本コストに近づく(中立で10年後8.4%)という、外食の他社とは異なる前提を置いた。悲観は市場の倍率や過去の底でなく、その筋書きの稼ぐ力(純利益90億円÷k)で置いた。計算に従い、今の値段に寄せてはいない。店は賃借が多く、家賃は毎年払う固定の約束で、未経過リース料の額は未確認である。10年後の数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえ、2028年12月期からの新リース会計基準で営業利益・純負債・自己資本比率の見かけが変わる点は価値の計算に入れていない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本 7.5% に quality −0.5% を足した 7.0%。強い堀(残る割合 2/3)の会社なので、堀と k の両方で「長く続く」を数えないよう下げは −0.5% までにとどめた。ロイヤリティ契約更新や承継のリスクは k に足さず、やや悲観・悲観側の確率で表した。事業は黒字で傾いておらず上乗せ(extra)も置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.00% → 7.50%。
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