結論
松屋は、東京・銀座に旗艦店を構える中堅の百貨店だ。利益で測った本質価値は今の時価総額を大きく下回り、筆者は割高と見る。
稼ぎの中身が薄い。2026年2月期の営業利益は26億円で、免税の山だった前の期から4割減った。免税の売上が減っただけで利益が19億円飛んだ。免税の客数と1人の買う額で、利益が大きく振れる会社だ。来期の会社予想は営業利益18億円、純利益5億円まで下がる。
足もとの回復は本物だが、水準は低い。国内の富裕層の買い物は堅く、直近の四半期は営業利益が3割以上伸びた。それでも10年後の中立の営業利益は約39億円にとどまる。物価が3割上がっても、前の期のピークには届かない。人手と家賃と金利が、売上の伸びを食うからだ。
資本の効率も資本コストに届かない。ROEは6%台、資本コストは9%と置いた。この水準では、利益を社内にためても価値は増えない。倍率は低く置かざるをえない。
銀座の不動産は、思ったほど積み上がらない。有価証券報告書の賃貸ビルの注記では、時価が簿価を15億円ほど上回るだけで、税引き後は11億円だ。賃貸の稼ぎは別に数え、事業の利益からは外した。営業に使う本店の土地は、簿価が200億円を超える。含み益は確かめられず、悲観の床にだけ簿価で入れた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、松屋は「良い立地を持つが、良い事業とはまだ言いにくい」会社だ。
事業として見ると、稼ぐ力は銀座の一店に宿る。10年後も銀座は銀座だろう。ただ、百貨店の経済性は、売場を人手で運び、ブランドの商品を預かって手数料をもらう薄利の商売だ。投下した資本に対する稼ぎは、資本コストを下回る。オーナーとして持ち続けたい事業とは言えない。
資本の使い方には評価と疑問が半々ある。自社株買いと政策保有株の縮減は筋がよい。だが、免税の山を前提に投資を増やし、借入を重ねた。免税が崩れると、固定費と利払いが残る。
安全域は薄い。利益で測った価値は今の時価総額の1割台で、払う値段に対して余裕がない。拠り所になりそうな銀座の不動産は、確かめると小さかった。賃貸ビルの含み益は税引き後で10億円ほどにとどまる。営業に使う本店の土地は簿価が高く、含み益の大きさは確かめられない。買う根拠にはしない。
わからない事業は確信度を下げる。免税は為替と外交で決まり、10年後の水準を言い切れない。確率は慎重な側に寄せる。結論は、事業としては並、不動産は期待ほどではない、値段は先走りだ。
何で稼ぐ会社か
松屋の稼ぎの中心は銀座店だ。1925年開業の旗艦で、店はほかに浅草店があるだけだ。2026年2月期の総額売上は約1,230億円、うち銀座店が約1,090億円を占める。
銀座店の売上は、国内客と免税客に分かれる。国内客は約680億円で、外商(顧客の自宅や会社へ売りに行く営業)と、自社カード会員のID顧客が支える。免税は約410億円で、中国・タイ・米国などの旅行客が中心だ。免税は客数と1人の買う額の両方が大きく、為替と外交に左右される。売上が1割動くと、利益はそれ以上に動く。
連結の売上高が小さく見えるのは、百貨店の会計のためだ。売場の多くはブランドの商品を預かって売る形で、売上高には手数料分しか載らない。連結売上は約460億円で、総額の4割に届かない。
百貨店のほかに、不動産とグループ会社がある。銀座にビルを持ち、ほぼ満室で、不動産関連の稼ぎは約5億円だ。賃貸等不動産の簿価は約147億円、時価は約162億円と開示されている。ムーミン商品などを売る東栄商会、ビル管理のシービーケー、飲食のアターブル松屋もある。展覧会を全国に巡回させるコンテンツ事業は総額で約60億円まで伸びたが、利益はまだ薄い。
筆者が見る松屋の本質は、銀座の一等地に一本足で立つ小さな百貨店という点だ。店を増やして伸びる会社ではない。1店の稼ぐ力と、持つ不動産の使い方がすべてになる。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、銀座という立地と、そこに集まる客の質にある。外商とID顧客の売上は2026年2月期で約260億円、前の期から8%近く伸びた。国内の富裕層は株高で財布が緩く、最近の月次はプラスだ。これは景気に強い土台ではないが、免税のように一夜で消えるものでもない。
弱みは3つある。1つめは1店への集中だ。銀座店が総額の9割を占め、天災・工事・競合の動きがそのまま全社の業績になる。2つめは免税への依存だ。銀座店の売上の4割近くが免税で、免税の売上が減った分の3割近くが、そのまま営業利益の減りになった。中国客が戻らない限り、この振れ幅は残る。3つめは競合の強さだ。三越銀座店、ギンザシックス、東急プラザ銀座に加え、ブランドが自前の旗艦店を銀座に構え、百貨店を通さずに売る動きが続く。
値決め力は普通だ。ブランド品の価格は松屋が決めるのでなく、メーカーが決める。資本の効率は低い。営業利益率は総額で見て2〜3%、ROEは過去10年の中央値で6%だ。
経営の計画の置き方にも注文がある。2025年4月に作った計画は、わずか1年で数字を下げて更新された。外から見て予測できなかった要因が多いのは確かだが、免税の山を前提に投資額を増やした判断は、筆者には強気に過ぎたと映る。一方で、自社株買いと政策保有株の縮減に動き、資本の使い方を改める姿勢は評価できる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
百貨店業界は、国内の需要がゆるやかに縮む中で、免税と富裕層に稼ぎを頼る構図になった。2025年の全国の百貨店売上は約5兆6,800億円で、5年ぶりに前年を割った。免税が前年から1割以上減ったためだ。
免税の中身は入れ替わっている。中国客は日中関係の悪化で減り、台湾・香港・韓国・タイ・米国が伸びる。2026年8月の免税売上は約460億円で前年同月比4.6%増、6か月連続のプラスだった。客数は減ったのに購買単価が15%余り上がった。客の数でなく、1人の買う額で稼ぐ形に移っている。
業界の中での松屋の位置は後ろ寄りだ。2026年7月の売上は、三越伊勢丹が前年比で1割増、髙島屋が1割近く増えたのに対し、松屋は1%増だった。松屋の免税は中国客の比率が高く、戻りが遅れている。
構造の面では、人口が減り、ECが広がる。ただ、銀座の旗艦店や三越伊勢丹の新宿本店のように、立地とブランドの集積がある店は勝ち残りやすい。地方や郊外の店は、不動産の活用へ軸足を移す。
人件費の上昇も重い。百貨店は売場の人手に頼り、最低賃金とパート不足の影響を受ける。業界は10年で数量が増えない前提で、価格と、客1人あたりの売上を伸ばせるかが勝負になる。M&Aは起こりにくい。百貨店の再編は一巡し、残るのは小さな会社の吸収と不動産の再開発だ。
資本政策と M&A
資本政策は、株主還元の強化と不動産の活用という2本柱だ。配当は純資産配当率(DOE)2%以上を方針とし、2026年度も前期並みの配当を見込む。2025年度は発行済株式の4%を超える自己株式を、約40億円で取得した。政策保有株は2025年度に4社分を減らす。
問題は投資の財源だ。2025〜2027年度の投資は約205億円に増え、営業キャッシュフロー約100億円では足りず、借入約80億円と資産売却約25億円で賄う。純有利子負債は約180億円で、すでに営業利益の7倍に達している。金利が上がる世界では、利払いが利益を削る。
筆者が気にするのは、自社株買いの値段だ。本質価値を大きく上回る値段で買えば、残る株主の価値を減らす。
株主構成は安定している。取引先持株会が5%台、三菱UFJ銀行と東武鉄道が各5%近くを持つ。敵対的な買収は起きにくい。一方で、銀座5丁目の複合ビルの持ち分をヒューリックへ売って益を出した前例があり、不動産を売って資本を回収する余地は残る。TOBや大型の資産売却は、筆者の中立の筋書きには入れていない。上の筋書きにだけ置いた。
新リース会計基準は、2月決算の松屋では2029年2月期から効く。借地や賃借部分の家賃が貸借対照表に載り、自己資本比率は見かけ上下がる。
点検済み(割高の見落とし点検 2026-10-19):免税の山の利益は中立でなだらかに置き、賃貸ビルの利益は外して含み益 158 億円を戻り方 0.5 で一度だけ足し、実行済みの自社株買いを株数に反映した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
銀座は世界でも指折りの商業地で、10年後も代わりがきかない。松屋はその一等地に店と自社ビルを持ち、ID顧客と外商の基盤を広げている。2030年度に営業利益40〜50億円、ROE10%以上という会社の計画は、免税の山が戻れば手が届く。
免税は一時的に落ちたが、構造は壊れていない。8月の免税売上は6か月連続のプラスで、購買単価が15%上がった。中国客が戻らなくても、台湾・韓国・タイ・米国の客が穴を埋める。国内の富裕層も株高で堅調で、直近の四半期は営業利益が3割以上伸びた。
銀座の不動産には、帳簿に載らない価値が残る。過去には共有持分の売却で40億円超の益が出た。賃貸ビルの含み益は小さいが、本店の土地は簿価が200億円を超え、時価はそれを上回る可能性がある。売却や建て替えで、稼ぎが一段上がる余地はある。株主還元も強まっており、DOE2%以上と自社株買いで、資本の効率は上向く。
松屋は店が小さいぶん、1店の改装やブランド誘致の効果が全社に直結する。立地を生かし切れば、ROEが資本コストを超える時期が来ると見る。
慎重な見方
利益で見ると、松屋の稼ぐ力は今の値段に遠く及ばない。ピークの2025年2月期でも営業利益は45億円で、免税の山が去ると26億円、来期の会社予想は18億円まで落ちる。10年後に物価が3割上がっても、ピーク並みに戻る保証はない。
免税は為替と外交で決まる不安定な稼ぎで、総額の4割近くを占める。中国客は来期さらに4割減る見込みだ。他の国が埋めるとは限らず、競合の三越伊勢丹や髙島屋は同じ客を取りに来ている。足もとの売上の伸びも、大手より弱い。
資本の効率は資本コストを下回り続ける。投資を増やすための借入80億円は、金利が上がる中で利益を削る。純有利子負債は営業利益の7倍で、少し景気が悪くなれば自己資本を崩す。本店の借地や賃借は、売上が落ちても家賃が残る固定費だ。
不動産の含み益は小さい。賃貸ビルの時価は簿価の1割増しにとどまり、税引き後は10億円ほどだ。借地権付きの建物を買い足してきた経緯を見ても、本店の土地は近年の値段で取得した分が多く、含み益は限られる。本業が稼がない会社の不動産は、売る時に初めて価値になる。経営が売る気配はなく、株式市場の値段だけが先に進んでいる。
どちらに重みを置いたか
強い言い分は慎重な側にある。利益の積み上げは、楽観の側でも今の時価総額の4割に届かない。賃貸ビルの含み益は確かめたうえで足したが小さく、本店の土地の含み益は確かめられない。
確率は中立を軸に、楽観を8%とやや楽観を20%に絞り、やや悲観22%と悲観12%を厚めにした。免税の戻りと国内の底堅さは楽観寄りの材料だが、借入と固定費を考えると、下振れの幅のほうが大きい。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 557 円283 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 195 円99 億円)。 今の値に割り戻すと 362 円184 億円、今との差 −85.8%、 期待の年率 −11.5%(資本コスト 9.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 1,109 円563 億円 | 591 円300 億円 | −33.6% | −4.0% | 136 円69 億円 |
| やや楽観 | 20% | 746 円379 億円 | 236 円120 億円 | −61.6% | −9.1% | 197 円100 億円 |
| 中立 | 38% | 612 円310 億円 | 177 円90 億円 | −69.2% | −11.1% | 300 円152 億円 |
| やや悲観 | 22% | 293 円149 億円 | 118 円60 億円 | −83.9% | −16.7% | 90 円46 億円 |
| 悲観 | 12% | 189 円96 億円 | 59 円30 億円 | −90.3% | −20.8% | 30 円15 億円 |
| 加重平均 | 100% | 557 円283 億円 | 195 円99 億円 | −70.6% | −11.5% | 752 円382 億円 |
今の株価時価総額 2,560 円1,299 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 免税と国内が両輪で立ち直り、資産を株主に返す 利益 37 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 1,109 円563 億円
免税が中国以外の客で完全に立て直り、購入客数が5割近く増え、国内の富裕層も厚みを増す。ID顧客の売上は計画の400億円に届き、銀座店は免税と国内の両輪で回る。購買単価の上昇が客数の減りを上回り、免税の1件あたりの額は物価を超えて伸びる。
不動産の使い方も変わる。銀座の保有ビルの一部を売り、特別配当と自社株買いで株主に大きく返す。売却益は一度きりだが、残る賃貸の稼ぎは満室のまま賃料が上がり、不動産の利益率は4割台半ばを保つ。
営業利益は約66億円まで伸び、会社の2030年度の計画(40〜50億円)を、物価の分を含めて上回る。純利益は賃貸ビルの利益を除いて約37億円で、売却による還元で自己資本が膨らまず、ROEは資本コストを大きく超える。堀が効いて、先でも超過の稼ぎが残る。
この筋書きでも、10年後の時価総額は今の半分に届かない。稼ぐ力がもともと小さいからだ。
- 百貨店・国内客(銀座・浅草):数量 300(国内客の買い上げ件数(万件、推定))× 価格 3.45(1件あたり買い上げ額(万円、物価込みの名目))→ 売上 358 億円・営業利益 20 億円。営業利益率5.5%
- 百貨店・免税(インバウンド):数量 52.0(免税の購入客数(万人、推定))× 価格 16(1人あたり購入額(万円、物価込みの名目))→ 売上 279 億円・営業利益 37 億円。営業利益率13.3%(売上が動くと約3割が利益に出る)
- 不動産:数量 0.9(貸付面積(万㎡、推定))× 価格 22(1㎡あたり年間賃料収入(万円、物価込みの名目))→ 売上 18 億円・営業利益 8 億円。営業利益率45%
- グループ会社・コンテンツ:数量 60.0(事業拠点・案件の数(推定))× 価格 1.10(1拠点あたり年間売上(億円、物価込みの名目))→ 売上 66 億円・営業利益 1 億円。営業利益率2%
倍率:事業の純利益 35 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 26.9% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 17.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)118 億円。全体の PER 14.68 倍、時価総額 662 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 12.84 倍・時価総額 475 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:免税と国内の両輪が立ち直り、不動産の活用も進むには、複数の前提が同時に実現する必要がある。実現すれば強いが、確度は高くない。
やや楽観 20% 会社の計画に近い形で緩やかに回復 利益 26 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 746 円379 億円
免税は中国客を除いて回復し、10年を通して2025年2月期の水準を実質で上回る。国内の富裕層は堅調で、外商とID顧客の売上が毎年伸びる。ブランドの誘致を進め、銀座店の売場の質が上がる。
人件費や金利の上昇は、値上げと売場の生産性で大半を吸収できる。営業利益率は総額で見て3%近くまで戻り、営業利益は約50億円になる。会社の2030年度の計画の上限にほぼ届く水準だ。
不動産は、ほぼ満室のまま賃料が物価並みに上がり、稼ぎが少しずつ伸びる。資産の売却は小さく、株主還元は配当と自社株買いが中心だ。純利益は賃貸ビルの利益を除いて約26億円で、ROEは6%台後半とまだ資本コストに届かない。
投資の借入は返し終え、財務は今より軽くなる。それでも百貨店の経済性は大きく変わらない。国内の人口は減り、売場の人手は物価以上に高くなる。計画どおりに進んだ会社の姿だが、筆者は確率を2割にとどめる。
- 百貨店・国内客(銀座・浅草):数量 292(国内客の買い上げ件数(万件、推定))× 価格 3.40(1件あたり買い上げ額(万円、物価込みの名目))→ 売上 343 億円・営業利益 17 億円。営業利益率5.0%
- 百貨店・免税(インバウンド):数量 45.0(免税の購入客数(万人、推定))× 価格 15(1人あたり購入額(万円、物価込みの名目))→ 売上 233 億円・営業利益 25 億円。営業利益率10.6%(売上が動くと約3割が利益に出る)
- 不動産:数量 0.8(貸付面積(万㎡、推定))× 価格 21(1㎡あたり年間賃料収入(万円、物価込みの名目))→ 売上 17 億円・営業利益 7 億円。営業利益率42%
- グループ会社・コンテンツ:数量 60.0(事業拠点・案件の数(推定))× 価格 1.10(1拠点あたり年間売上(億円、物価込みの名目))→ 売上 66 億円・営業利益 1 億円。営業利益率1.5%
倍率:事業の純利益 24 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)118 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 416 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 11.11 倍・時価総額 289 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:会社の2030年度計画に近い姿。足もとの月次が改善し、直近の四半期は営業利益が3割以上伸びているので、一定の確度はあるが、免税の再失速の余地も残す。
中立 38% 中立:物価の分だけ大きくなる銀座の百貨店 利益 19 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 612 円310 億円
免税は10年を通してなだらかに増える。購入客数は今よりわずかに多く、中国客は戻りきらず、台湾・韓国・タイ・米国の客が穴を埋める。免税の稼ぎは売上の動きに敏感で、利益率は国内より高い。1件あたりの買い上げ額は物価並みの伸びにとどまる。国内客は人口の減りで件数がやや減り、客単価は物価並みに上がる。
銀座店の総額売上は約1,500億円で、会社の2030年度の計画の水準を10年かけてたどる。営業利益は約39億円になる。
不動産は満室のまま賃料が物価並みに上がり、約6億円を稼ぐ。グループ会社は損益がほぼ均衡する。
金利が上がるため、借入の利払いが増え、賃貸ビルの利益を除いた事業の純利益は約19億円にとどまる(賃貸を戻せば約24億円)。配当と自社株買いで約90億円を株主に返す一方、自己資本は370億円ほどまで増える。ROEは5%台で、資本コストの9%に届かない。
松屋は今と同じ姿のまま、物価の分だけ大きくなる。筆者は、この姿が最もありそうだと見る。
- 百貨店・国内客(銀座・浅草):数量 285(国内客の買い上げ件数(万件、推定))× 価格 3.35(1件あたり買い上げ額(万円、物価込みの名目))→ 売上 330 億円・営業利益 15 億円。営業利益率4.5%
- 百貨店・免税(インバウンド):数量 40.0(免税の購入客数(万人、推定))× 価格 15(1人あたり購入額(万円、物価込みの名目))→ 売上 204 億円・営業利益 17 億円。営業利益率8.2%(売上が動くと約3割が利益に出る)
- 不動産:数量 0.8(貸付面積(万㎡、推定))× 価格 20(1㎡あたり年間賃料収入(万円、物価込みの名目))→ 売上 16 億円・営業利益 6 億円。営業利益率40%
- グループ会社・コンテンツ:数量 60.0(事業拠点・案件の数(推定))× 価格 1.07(1拠点あたり年間売上(億円、物価込みの名目))→ 売上 64 億円・営業利益 1 億円。営業利益率1%
倍率:事業の純利益 17 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)118 億円。全体の PER 10.17 倍、時価総額 315 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 11.11 倍・時価総額 214 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:免税が10年かけてなだらかに戻り、国内が物価並みに伸びる、最も自然な筋書き。2人の見方の落としどころ。
やや悲観 22% 免税が戻らず、借入と固定費が重い 利益 6 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 293 円149 億円
免税は戻らず、中国客の減りが続く。ほかの国の客も、三越伊勢丹や髙島屋に取られる。免税の件数は今より2割落ち、1件あたりの額も物価に追いつかない。国内客も、競合の旗艦店とブランド直営に流れる。
銀座店の売場は値上げが通りきらず、売上は物価の伸びを下回る。人件費は年3〜5%のペースで上がり、免税は固定費を賄えず、免税の営業利益はほぼゼロまで落ちる。営業利益は約19億円で、来期の会社予想に近い水準が続く。
借入は計画どおりに積み上がり、利払いが利益を削る。賃貸ビルの利益を除いた事業の純利益は約6億円で、ROEは2%に沈む。配当は維持するが、自社株買いは止まる。
不動産は満室を保つが、賃料の伸びは小さい。保有ビルを売る選択肢はあるが、大きな資金は出てこない。
百貨店としては生き残るが、稼ぐ力は資本コストの半分以下だ。銀座という名前だけでは、会社は大きくならない。
- 百貨店・国内客(銀座・浅草):数量 270(国内客の買い上げ件数(万件、推定))× 価格 3.25(1件あたり買い上げ額(万円、物価込みの名目))→ 売上 303 億円・営業利益 12 億円。営業利益率4.0%
- 百貨店・免税(インバウンド):数量 30.0(免税の購入客数(万人、推定))× 価格 14(1人あたり購入額(万円、物価込みの名目))→ 売上 145 億円・営業利益 1 億円。営業利益率0.7%(売上が動くと約3割が利益に出る)
- 不動産:数量 0.8(貸付面積(万㎡、推定))× 価格 19(1㎡あたり年間賃料収入(万円、物価込みの名目))→ 売上 15 億円・営業利益 6 億円。営業利益率36%
- グループ会社・コンテンツ:数量 60.0(事業拠点・案件の数(推定))× 価格 1.00(1拠点あたり年間売上(億円、物価込みの名目))→ 売上 60 億円・営業利益 0 億円。営業利益率0%
倍率:事業の ROE 1.9% が資本コスト 9.0% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 11.1 倍。稼ぐ力が資本コストの半分以下に沈み、利益の質も低いので、上限の 7.2 割の 8.0 倍に置いた。余り資産は 0.75 倍(谷で食う)に戻り方 0.5 を掛けて足した。純有利子負債(今の値 180 億円)を足した EV ÷ 営業利益は 14.8 倍で、借金を足しても利益に対して割高な置き方ではない。
確率:免税の戻りが遅れ、借入と固定費が利益を削る姿。2026年2月期に実際に起きた展開に近く、十分にありうる。
悲観 12% 構造的に稼ぐ力を失う 利益 −7 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 189 円96 億円
免税が崩れ、国内客も細る。中国客は戻らず、他国の客も別の百貨店とブランド直営の店に流れる。銀座店の売場は、ブランドが撤退し、空いた区画に代わりが入らなくなる。免税の件数は半分以下に落ちる。
それでも家賃と人件費は残る。本店の借地・賃借の部分は、売上が落ちても払う固定費だ。営業利益は数億円まで落ち、免税は赤字になる。借入の利払いが利益を上回り、純利益は赤字になる。
配当は大きく削られ、投資は止まる。不動産の賃貸は黒字を保つが、本業の赤字を埋められない。銀座の資産を売って借入を返す局面に入る。ただ、売却は会社の立地の優位を手放すことにもなる。
事業はもう優良ではなくなる。時価総額は、売れる資産の税後から借入を引いた額まで下がる。賃貸ビルの含み益(税引き後11億円)は足したが、本店の土地は含み益が確かめられず、簿価で置いた。含み益が大きければこの床は上がる。
- 百貨店・国内客(銀座・浅草):数量 245(国内客の買い上げ件数(万件、推定))× 価格 3.10(1件あたり買い上げ額(万円、物価込みの名目))→ 売上 262 億円・営業利益 3 億円。営業利益率1.0%
- 百貨店・免税(インバウンド):数量 22.0(免税の購入客数(万人、推定))× 価格 13(1人あたり購入額(万円、物価込みの名目))→ 売上 99 億円・営業利益 −4 億円。営業利益率-4.0%(売上が動くと約3割が利益に出る)
- 不動産:数量 0.8(貸付面積(万㎡、推定))× 価格 17(1㎡あたり年間賃料収入(万円、物価込みの名目))→ 売上 13 億円・営業利益 4 億円。営業利益率30%
- グループ会社・コンテンツ:数量 55.0(事業拠点・案件の数(推定))× 価格 0.95(1拠点あたり年間売上(億円、物価込みの名目))→ 売上 52 億円・営業利益 −1 億円。営業利益率−2%
倍率:営業利益は数億円まで落ち純利益は赤字で、稼ぐ力では測れない。売れる資産の税後から純有利子負債を引いた約95億円(floor_assets_oku)を床とし、今の自己資本 266 億円に対する PBR 0.36 倍で置いた。賃貸ビルの含み益の税引き後 11 億円は足した。EV でも見ると、時価総額と純有利子負債を足した EV ÷ 営業利益は約200倍と高く出るが、赤字に近い谷の一年の利益で測る数字ではなく、資産の床で測った。
確率:免税の崩れと国内客の細り、固定費と借入が重なる構造的な負け。1店集中・借入の重さ・競合の強さから、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
百貨店・国内客(銀座・浅草)
銀座店と浅草店で国内客に売る百貨店事業。外商とID顧客が土台になる。
| 数量国内客の買い上げ件数(万件、推定) | 価格1件あたり買い上げ額(万円、物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 295 | 2.50 | 255 | 11 |
| 10 年後 中立 | 285 | 3.35 | 330 | 15 |
取り方:総額売上の国内分は銀座店約677億円と浅草店約59億円で約736億円。件数は開示が無いので、1件あたり約2.5万円と置いて約295万件と推定した(実質の数量)。連結の売上高は手数料分だけが載るため、総額に0.3455(百貨店の連結売上約397億円÷総額約1,149億円の推定)を掛けた。営業利益は百貨店全体の21.3億円のうち、免税の振れを多く受ける分を免税に配り、残りの約11億円を置いた。
百貨店・免税(インバウンド)
訪日客向けの免税売上。ほぼ銀座店で、為替と外交の影響を受ける。
| 数量免税の購入客数(万人、推定) | 価格1人あたり購入額(万円、物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 37.5 | 11 | 143 | 10 |
| 10 年後 中立 | 40.0 | 15 | 204 | 17 |
取り方:銀座店の免税売上は約413億円。前の期は中国本土客が384億円・19.9万人(1人あたり約19万円)で、全体の約6割を占めた。今は中国と他の国の比率が逆転しつつあり、中国客の1人あたりの額が高いぶん平均は下がる。全国の免税の購買単価(約10万円)を参考に、銀座は1人あたり11万円と置いて約37.5万人と推定した。連結売上への換算は国内客と同じ0.3455。営業利益は百貨店全体の21.3億円のうち、免税の売上が減った分の3割近くが利益の減りになった実績(営業利益45億→26億)から、免税に約10億円、国内に約11億円と配った。
不動産
銀座に持つ賃貸ビル(銀座インズ・銀座三和ビルなど)の賃料。ほぼ満室。
| 数量貸付面積(万㎡、推定) | 価格1㎡あたり年間賃料収入(万円、物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 0.8 | 15 | 12 | 5 |
| 10 年後 中立 | 0.8 | 20 | 16 | 6 |
取り方:不動産関連の稼ぎは2025年度で約4.8億円と開示されている。収入は開示が無く、利益率4割程度として約12億円と推定し、貸付面積0.8万㎡・1㎡あたり年約15万円に分けた。 賃貸等不動産の簿価は約147億円・時価は約162億円(有報の注記)。この賃貸の税引き後の利益は、事業の純利益から外して余り資産として別に数える。
グループ会社・コンテンツ
東栄商会(ムーミン商品)、シービーケー(ビル管理)、アターブル松屋(飲食)、巡回展などのコンテンツ。
| 数量事業拠点・案件の数(推定) | 価格1拠点あたり年間売上(億円、物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 60.0 | 0.80 | 48 | 0 |
| 10 年後 中立 | 60.0 | 1.07 | 64 | 1 |
取り方:連結売上457億円から百貨店397億円と不動産12億円を引いた残りを約48億円とし、拠点・案件約60として1つあたり0.8億円と推定した。利益は各社の開示(2025年度は東栄商会が赤字、シービーケーが約0.06億円)から約0.3億円とした。
リスクと懸念
免税の再失速
免税は銀座店の売上の4割近くを占める。中国客は2027年2月期にさらに4割減る見込みだ。他国の客が穴を埋めきれず、為替が円高に振れれば、営業利益は一気に10億円台へ戻る。免税の売上が減ると、その3割近くが利益の減りになる。固定費が重いためだ。
1店への集中
銀座店が総額の9割を占める。大規模な改装や周辺の再開発、天災、競合の旗艦店の新設が、そのまま全社の業績を動かす。店を増やして危険を分けられない構造だ。
借入と金利の重み
純有利子負債は約180億円で、営業利益の7倍に達する。投資のため借入を80億円増やす計画で、借り換えのたびに金利が上がる。利益が落ちる局面で利払いが残り、自己資本を食う。
家賃という固定の約束
本店には借地や賃借の部分が残る。売上が落ちても家賃は落ちない。新リース会計基準が2029年2月期から効き、約束の大きさが貸借対照表に載ると、自己資本比率は見かけ上さらに下がる。
競合の旗艦店とブランド直営
三越銀座店、ギンザシックス、東急プラザ銀座に加え、ブランドが自前の旗艦店を構え、百貨店を通さず売る動きが続く。ブランドの誘致力で松屋は不利な立場に回りやすい。
人件費とコスト増
売場は人手に頼り、最低賃金とパート不足で人件費が年3〜5%のペースで上がる。物価に合わせて値上げしても、販売費・管理費の増加が利益を削る。2026年2月期は売上減に加え、この費用増が減益を大きくした。
不動産の価値を生かせない
賃貸ビルの含み益は税引き後で10億円ほどと小さい。本店の土地の価値は見えにくく、売る意思がなければ利益に出ない。長く使うだけで終わるなら、資本効率は低いままだ。
今後の分かれ目
- 中国客の免税売上が戻り、免税全体が2025年2月期の水準を取り戻す
- 営業利益は50億円前後まで戻り、やや楽観〜楽観の筋書きに近づく。免税の売上が戻るほど利益の戻りが大きいが、それでも利益で測った価値は今の時価総額に届かない。
- 銀座の保有ビルを売り、特別配当や自社株買いを大きく行う
- 株主に返る額が増え、楽観の筋書きの還元額に近づく。売却益が出ても、稼ぐ力そのものは増えない。
- 免税が再び大きく落ち、営業利益が10億円台に沈む
- 借入と家賃が重くなり、やや悲観〜悲観の筋書きに移る。配当の減額と投資の凍結が起きうる。
- 金利が想定より速く上がる
- 利払いが増え、純利益は想定を下回る。借入に頼る投資計画の見直しを迫られる。
- TOBや提携の話が出る
- 筋書きの外の値動きになる。買収側が払う値段は、不動産の価値の見方次第で大きく動く。
- ID顧客売上が計画の400億円へ近づく
- 国内の稼ぎが免税から離れて安定し、利益率が上がる。やや楽観の筋書きの前提になる。
見ておくもの
- 日本百貨店協会の月次の免税売上と購買単価
- 銀座店の国内売上とID顧客売上(四半期ごと)
- 営業利益率(総額に対する比)と販売費・管理費の伸び
- 純有利子負債と投資計画の進み方
- 保有ビルの売却・再開発の開示と、有価証券報告書の賃貸等不動産の時価・本店の土地の評価
倍率と資本コストの決め方
筋書きは、セグメントの数量(実質)と価格(物価込みの名目)を先に積み、利益率を構造から置き、その10年後の利益に資本コスト9%から出した倍率を掛けた。免税は客数と1人の買う額で積み、売上が動くと3割近くが利益に出る固定費の重さを利益率に入れた。ROEが資本コスト以下なので倍率の上限は1÷k(約11倍)で、中立はその約85%に置いた。今の株価や過去の倍率から置いていない。賃貸ビルの利益(税引き後)は事業の純利益から外し、その資産(簿価約147億円+含み益の税引き後11億円)を余った資産として、戻り方0.5で足した。本店の土地の含み益は確かめられず、悲観の床にだけ簿価で入れた。新リース会計の基準変更(2029年2月期)で数字の形が変わる点は、10年後も今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.5% を足した 9.0%。事業は黒字で傾いておらず、上乗せ(extra)は置かない。ガバナンス・M&A などの個別の話は k に足さず、筋書きと確率で表した。