結論
ジャパンクラフトホールディングスは、手芸専門店「クラフトハートトーカイ」を全国に 211 店構える藤久と、編み物の本で知られる日本ヴォーグ社を束ねる持株会社だ。筆者の結論は割高、それも大きく割高だ。2026 年 6 月期の営業利益は 1 億円で、純利益 4 億円の大半は子会社や株の売却益と税金の戻りだった。
会社は 2027 年に営業利益 7 億円、2028 年に 11 億円を掲げる。だが 2026 年の計画も 3 分の 1 しか達成していない。2022〜2024 年には 3 年続けて 20 億円規模の赤字を出した。手芸の愛好者は高齢化で減り、入園や入学の準備で布を買う需要も細る。若い世代の編み物の流行は追い風だが、それだけで店の数を支えるのは難しい。
株主の取り分にも注意が要る。筆頭株主のファンドに渡した新株予約権がすべて使われると、株は 3 割強増える。10 年の中立で見た価値は、今の時価総額の 3 分の 1 にも届かない。今の値段は、計画どおりの回復と買収の成功を両方とも織り込んでいる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「長く持ちたい事業」には入らない。手芸の専門店という仕事そのものは、愛好者がいる限り無くならない。品ぞろえと教える力は、量販店にはまねしにくい。その点は認める。
だが、オーナーとして見ると、稼ぎが細すぎる。家賃と人件費という固定費が重く、売上が少し落ちると赤字になる。ここ数年は赤字の方が多く、黒字の年も利益は薄い。値段を自分で決める力は無く、量販店と通販に比べられる。
資本の配分も心もとない。株主優待を厚くして配当の代わりにし、費用が膨らんでから縮めた。今度は筆頭株主のファンドに新株予約権を渡し、買収の資金にする。成功すれば良いが、既存の株主の取り分は確実に薄まる。
安全域は無い。今の値段は、会社の計画どおりに利益が 10 倍になることを前提にしてようやく届く水準だ。その前提が外れた時に下を支えるのは、店の保証金と在庫だけになる。
何で稼ぐ会社か
事業は 2 つある。柱は小売で、売上 140 億円のうち 110 億円を稼ぐ。子会社の藤久がクラフトハートトーカイなどの屋号で、生地や毛糸、ボタン、手芸の道具を売る。店はショッピングセンターや郊外の路面に多く、ほとんどが借りている。店でワークショップや講習会を開き、初心者を呼び込むのが最近の工夫だ。アプリの会員は 84 万人、EC の購入客は 15 万人いる。店の数は閉店と出店を重ね、少しずつ減っている。
2 つめは出版・教育で、日本ヴォーグ社が編み物や手芸の本、キット、通信講座を手がける。毛糸の市「イトマ!」は過去最高の売上になった。手芸の教室のヴォーグ学園は 2026 年 5 月にハルメクへ売り、身軽になった。
利益は細い。小売の利益は 3.5 億円、出版・教育は 0.8 億円で、持株会社の費用 3.3 億円を引くと 1 億円しか残らない。株主優待の費用は 2026 年に 1.9 億円まで膨らみ、利益を圧迫していた。会社はこれを大きく縮め、配当を中心に還元する方針に切り替えた。持株会社の費用を含めた全体の利益率は 1% に届かず、小さな売上の変化で黒字と赤字が入れ替わる。
優良さと弱いところ
強みは、手芸の専門店として国内で最も多い店の数と、日本ヴォーグ社の本と教える仕組みを一体で持つことにある。手芸の道具や生地は種類が多く、量販店や 均一価格の雑貨店では品ぞろえが足りない。専門の店員が教え、講習会で作り方を伝えられる店は、愛好者にとって代わりが少ない。
だが、この強みは利益に結びついていない。値段は量販店や通販、ライバルのユザワヤと比べられ、上げにくい。店の家賃と人件費は固定で、売上が少し落ちるだけで赤字になる。2022〜2024 年の大きな赤字はその表れだ。
資本の効率も低い。自己資本 39 億円に対して、ならした純利益は年 1 億円に届かない。借入は 36 億円ほどあり、純有利子負債は 17 億円。筆頭株主のファンドが議決権の 3 分の 1 を持ち、経営の立て直しを主導しているが、まだ結果は出ていない。改革の数字が 2 年続けて出るまで、筆者は事業の質を高く見ない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
手芸の市場は長く縮んできた。愛好者の中心は 60 代以上の女性で、高齢化とともに減る。かつて手芸店の稼ぎ頭だった入園や入学の準備の布の需要も、少子化と既製品の広がりで細った。
一方で、追い風もある。若い世代を中心に編み物が流行し、毛糸と編み物の本はよく売れている。SNS で作品を見せ合う楽しみ方が広がり、ワークショップに参加する人も増えた。手づくりを「体験」として売る形は、専門店の強みを生かせる。
競争は厳しい。専門店ではユザワヤが首位を争い、均一価格の雑貨店のダイソーやセリアが手芸の道具を安く売る。通販では毛糸も生地も手軽に買える。専門店は品ぞろえと教える力で差をつけるしかない。
10 年を見ると、手芸の愛好者の数は横ばいから少し減る、と筆者は見ている。若い世代の流行が続いても、高齢の愛好者の減りを埋めきれない。店の数は減り、1 店あたりの売上は物価をやや下回って上がる。家賃と人件費が物価で上がる中、利益率を保つのは簡単ではない。手芸の楽しみ方は、モノを買うことから、教わり作る体験へ移っている。店を体験の場に変えられるかが、専門店の生き残りを分ける。
資本政策と M&A
還元は細い。2025 年 6 月期に復配し、配当の総額は年 1.1 億円。これまでは株主優待を厚くして配当の代わりにしてきたが、少しの株を持つ株主が急に増え、優待の費用は 6 年で 3 倍の 1.9 億円になった。2026 年 12 月から優待を大きく縮める。筆者は縮んだ後の優待の費用を年 0.7 億円ほどと見て、10 年の還元に足した。
筆頭株主は、投資ファンドのキーストーン・パートナースが関わる合同会社ルビィで、議決権の 33% を持つ。2026 年 10 月、会社はルビィに新株予約権を渡した。すべて使われると 1,316 万株が増え、24 億円が入る。会社は手芸の周辺の会社の買収に使うと言う。ルビィの持ち分は最大 51% になり、会社の支配が固まる。
買収が成功すれば利益は増えるが、既存の株主の取り分は 4 分の 3 に薄まる。手元の現金は少なく、余った現金は無い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
若い世代の編み物の流行は本物だ。毛糸と編み物の本はよく売れ、ワークショップや毛糸の市には人が集まる。クラフトハートトーカイは国内最多の手芸の店を持ち、品ぞろえと教える力で量販店とは違う役割を果たしている。
改革は進んでいる。不採算の店を閉じ、割引を見直し、ヴォーグ学園を売って身軽になった。2027 年は営業利益 6.8 億円の予想で、優待の費用の削減も利益を押し上げる。中計では 2028 年に 11 億円を目指す。売上 140 億円の会社が利益率 7% を取り戻せば、今の時価総額は高くない。
筆頭株主のファンドは本気だ。新株予約権で 24 億円を出し、買収で事業を広げる道筋がある。ファンドが経営に深く関わる会社は、資本の使い方が締まりやすい。在庫と店の保証金という形のある資産も厚く、下値の支えになる。専門店の最大手として、同業の整理が進めば残った会社に客が集まる。日本ヴォーグ社の本と講座は、手芸を始める人の入口として長く信頼されてきた。店と本と EC を一体で使えば、他社にない客との接点になる。
慎重な見方
計画は何度も外れてきた。2026 年の営業利益の計画は 3.3 億円だったが、実績は 1 億円だった。2022〜2024 年には 3 年続けて 20 億円規模の赤字を出した。2027 年の 6.8 億円も、同じように届かない恐れが強い。
手芸の愛好者は高齢化で減り、入園と入学の準備の需要も少子化で細る。編み物の流行は追い風だが、流行はいつか落ち着く。均一価格の雑貨店と通販は安く、ユザワヤとの競争も続く。店のほとんどは借りもので、家賃は売上が落ちても減らない。
株主の取り分も薄まる。新株予約権がすべて使われれば株は 3 割強増え、ファンドの持ち分は過半になる。ためた利益はわずかで、借入は 36 億円ある。今の時価総額は、計画がすべて当たることを前提にした値段だ。ファンドが出口を探す時に、少数株主に有利な値段がつく保証も無い。優待を目当てに集まった少数の株主は、優待の縮小で離れていく。株価を支えてきた買い手が減ることも見ておくべきだ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方がはっきり勝つ。編み物の流行と改革の芽は本物だが、計画は外れ続け、赤字の歴史が長い。家賃という固定の約束が重く、売上の小さな落ち込みが赤字に直結する。新株予約権による薄まりも避けられない。確率は中立を軸に、2026 年の未達と過去の赤字を重く見て、やや悲観と悲観に厚く置いた。楽観は、改革と買収がともに当たる時だけの姿として 1 割未満にした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 73 円27 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 40 円15 億円)。 今の値に割り戻すと 58 円21 億円、今との差 −65.5%、 期待の年率 −3.9%(資本コスト 8.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 181 円67 億円 | 57 円21 億円 | +42.5% | +3.6% | 17 円6 億円 |
| やや楽観 | 18% | 129 円48 億円 | 59 円22 億円 | +12.5% | +1.2% | 34 円13 億円 |
| 中立 | 37% | 70 円26 億円 | 48 円18 億円 | −29.2% | −3.4% | 44 円16 億円 |
| やや悲観 | 24% | 40 円15 億円 | 27 円10 億円 | −59.9% | −8.7% | 16 円6 億円 |
| 悲観 | 14% | 11 円4 億円 | 5 円2 億円 | −90.4% | −20.9% | 2 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 73 円27 億円 | 40 円15 億円 | −32.6% | −3.9% | 113 円42 億円 |
今の株価時価総額 167 円62 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 編み物の流行が定着し、買収も実って中計を超える 利益 8 億円 · PER 11.7 倍 · 株価時価総額 181 円67 億円
若い世代の編み物の流行が一過性で終わらず、手芸が趣味として定着する。クラフトハートトーカイは店を減らさず、ワークショップと講習会で客を呼び、1 店あたりの売上は物価を上回って伸びる。日本ヴォーグ社の書籍と有料会員も育つ。株価が行使価額を上回り、筆頭株主のファンドが新株予約権を行使して 24 億円が入る。その資金で手芸の周辺の会社を買い、年 2 億円ほどの利益を足す。営業利益率は 6% 台に乗る。ただ株数は 3 割強増え、既存の株主の取り分は 4 分の 3 に薄まる。それでも利益の伸びが薄まりを上回り、10 年で最も良い姿になる。借入は大きく減り、金利の上昇も怖くなくなる。
- 小売(クラフトハートトーカイ):数量 211(店舗数(店・期末))× 価格 0.73(1 店あたり売上(億円・名目、EC を按分))→ 売上 154 億円・営業利益 11 億円。店舗数 1.00 倍・1 店売上 1.40 倍(名目)
- 出版・教育(日本ヴォーグ社):数量 141(書籍・キット・講座の販売点数(万点・年、推定))× 価格 2,700(1 点あたり売上(円・名目))→ 売上 38 億円・営業利益 3 億円。点数 0.90 倍・単価 1.35 倍
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.2% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.7 倍。全体の PER 11.66 倍、時価総額 91 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の 2028 年の営業利益 11 億円を 10 年かけて超える筋書き。2026 年も計画を大きく下回っており、確度は低い。
やや楽観 18% 構造改革が実り、営業利益は 7 億円前後 利益 4 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 129 円48 億円
不採算の店を閉じ、割引を見直し、本部の費用を削った効果が利益に出る。店舗数は 1 割弱減るが、1 店あたりの売上は物価並みに上がる。日本ヴォーグ社は教室を手放して身軽になり、書籍と通信講座、EC の会員で稼ぐ。優待の費用は 2026 年の見直しで 3 分の 1 ほどに減り、利益を押し上げる。営業利益は 7 億円前後で、利益率は 4% 弱。筆者はこの筋書きでは株価が行使価額を大きく超えないと見て、新株予約権の薄まりは数えない。それでも ROE は資本コストにわずかに届かず、利益の厚みは同業の上位には遠い。借入は少しずつ減り、配当は年 1 億円台から段階的に増える。
- 小売(クラフトハートトーカイ):数量 205(店舗数(店・期末))× 価格 0.71(1 店あたり売上(億円・名目、EC を按分))→ 売上 145 億円・営業利益 8 億円。店舗数 0.97 倍・1 店売上 1.36 倍
- 出版・教育(日本ヴォーグ社):数量 125(書籍・キット・講座の販売点数(万点・年、推定))× 価格 2,680(1 点あたり売上(円・名目))→ 売上 33 億円・営業利益 2 億円。点数 0.80 倍・単価 1.34 倍
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 48 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2027 年の会社の予想(営業利益 6.8 億円)の水準を 10 年保てるかの上振れ。過去 4 年は赤字か薄利で、実績はまだ無い。
中立 37% 中立:薄利の専門店として生き残る 利益 2 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 70 円26 億円
手芸の愛好者は高齢化で少しずつ減り、入園や入学の準備に布を買う需要も少子化で細る。若い世代の編み物の流行は追い風だが、均一価格の雑貨店や通販に客を取られる。店舗数は 1 割減り、1 店あたりの売上は物価をやや下回って上がる。日本ヴォーグ社は会員の減りが続き、販売点数は 4 分の 3 に縮む。営業利益率は 2.5% 前後で、借入の金利が上がる分だけ純利益は削られる。配当は年 1 億円強を保ち、優待は縮んだ形で続く。ROE は 5% 台で資本コストに届かない。会社は残るが、株主にとって稼ぎの細い事業であり続ける。新株予約権は行使価額の近くで一部だけ使われる。
- 小売(クラフトハートトーカイ):数量 190(店舗数(店・期末))× 価格 0.68(1 店あたり売上(億円・名目、EC を按分))→ 売上 129 億円・営業利益 6 億円。店舗数 0.90 倍・1 店売上 1.30 倍(量販と通販に押され物価未満)
- 出版・教育(日本ヴォーグ社):数量 117(書籍・キット・講座の販売点数(万点・年、推定))× 価格 2,600(1 点あたり売上(円・名目))→ 売上 30 億円・営業利益 2 億円。点数 0.75 倍(教室の譲渡と会員の減り)・単価 1.30 倍
倍率:事業の純利益 2 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.4% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 26 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:手芸人口の減りと編み物の流行が打ち消し合い、改革で赤字は止まるが、利益は薄い中心の筋書き。
やや悲観 24% 改革が空回りし、赤字すれすれに戻る 利益 −1 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 40 円15 億円
編み物の流行が落ち着き、利益率の高い反物の生地の不振が続く。値上げと割引の見直しは客離れを招き、1 店あたりの売上は伸びない。店を 2 割閉じても家賃と人件費は思うように減らず、営業損益は赤字すれすれに戻る。借入の借り換えで金利が上がり、純損益は赤字になる。配当は細り、優待も縮める。会社は筆頭株主のファンドの資金を頼りに再建を続けるが、新株予約権は行使価額を下回って使われない。配当は在庫の売却と保証金の戻りで細々と払う。2022〜2024 年ほどの大きな赤字ではないが、利益が出ない年が続き、ためた利益は少しずつ減る。店の閉鎖の費用が出るたびに、自己資本も削られていく。
- 小売(クラフトハートトーカイ):数量 169(店舗数(店・期末))× 価格 0.65(1 店あたり売上(億円・名目、EC を按分))→ 売上 110 億円・営業利益 3 億円。店舗数 0.80 倍・1 店売上 1.25 倍
- 出版・教育(日本ヴォーグ社):数量 93.7(書籍・キット・講座の販売点数(万点・年、推定))× 価格 2,500(1 点あたり売上(円・名目))→ 売上 23 億円・営業利益 0 億円。点数 0.60 倍・単価 1.25 倍
倍率:稼ぐ力は無く、売れる資産の床で置いた。床 15 億円は、店の差入保証金と在庫の回収から借入と閉店の費用を引いた額。今の自己資本 39.3 億円に対する PBR で書いた。
確率:2026 年も計画の 3 分の 1 の利益にとどまった。2022〜2024 年の大きな赤字の記憶もあり、重く見る。
悲観 14% 手芸の需要が細り、店の家賃が重くのしかかる 利益 −4 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 11 円4 億円
手芸の愛好者の減りが速まり、若い世代の流行も去る。通販と 均一価格の雑貨店に客を奪われ、1 店あたりの売上は物価に負ける。店を 3 割以上閉じるが、家賃の契約が残り、閉店の費用もかさむ。日本ヴォーグ社も会員と部数の減りが止まらない。営業赤字が続き、借入の返済のために在庫を安く売る。2022〜2024 年の赤字の再来で、自己資本は半分近くまで減る。株主に残るのは、閉店で戻る保証金と在庫の処分の残りだけになる。筆頭株主のファンドが追加の資金を出さなければ、再建の道は細い。最悪の場合、ファンドが安い値段で残りの株を買い取り、上場をやめる道もありうる。
- 小売(クラフトハートトーカイ):数量 137(店舗数(店・期末))× 価格 0.63(1 店あたり売上(億円・名目、EC を按分))→ 売上 86 億円・営業利益 −1 億円。店舗数 0.65 倍・1 店売上 1.20 倍、家賃は固定費として残る
- 出版・教育(日本ヴォーグ社):数量 70.3(書籍・キット・講座の販売点数(万点・年、推定))× 価格 2,400(1 点あたり売上(円・名目))→ 売上 17 億円・営業利益 −1 億円。点数 0.45 倍・単価 1.20 倍
倍率:赤字で稼ぐ力は無く、売れる資産の床で置いた。床 4 億円は、赤字の 10 年で保証金と在庫の多くを食った後の残り。今の自己資本 39.3 億円に対する PBR で書いた。
確率:2022〜2024 年に 3 年続けて 20 億円規模の赤字を出した実績がある。家賃という固定の約束を抱える小売なので 14%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
小売(クラフトハートトーカイ)
藤久が営む手芸専門店。生地・毛糸・手芸用品を売り、ワークショップや講習会も開く。全国 211 店のほとんどが賃借。
| 数量店舗数(店・期末) | 価格1 店あたり売上(億円・名目、EC を按分) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 211 | 0.52 | 110 | 4 |
| 10 年後 中立 | 190 | 0.68 | 129 | 6 |
取り方:2026/6 期の小売の売上 109.9 億円(EC を含む)を期末 211 店で割った 1 店あたりの売上。営業利益はセグメント利益 3.5 億円。
出版・教育(日本ヴォーグ社)
編み物・手芸の書籍とキット、通信講座、イベント「イトマ!」、EC「手づくりタウン」。教室のヴォーグ学園は 2026 年 5 月に譲渡した。
| 数量書籍・キット・講座の販売点数(万点・年、推定) | 価格1 点あたり売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 156 | 2,000 | 31 | 1 |
| 10 年後 中立 | 117 | 2,600 | 30 | 2 |
取り方:2026/6 期の出版・教育の売上 31.2 億円(譲渡したヴォーグ学園の 10 か月分を含む)を 1 点 2 千円の平均単価で割った推定の点数。営業利益はセグメント利益 0.83 億円。
リスクと懸念
手芸の愛好者の減り
愛好者の中心は 60 代以上で、高齢化とともに減る。入園や入学の準備で布を買う需要も少子化で細った。若い世代の編み物の流行が落ち着けば、店に来る客はさらに減り、1 店あたりの売上が下がる。
家賃と人件費という固定費
211 店のほとんどは借りもので、家賃は売上が落ちても減らない。人件費も物価で上がる。売上がわずかに落ちるだけで赤字になる体質で、2022〜2024 年の大きな赤字はその表れだ。新リース会計の基準が 2028 年 6 月期から入ると、家賃の約束が負債として見えるようになる。
計画の未達
2026 年 6 月期の営業利益は計画 3.3 億円に対し 1 億円だった。2027 年の 6.8 億円、2028 年の 11 億円も同じように届かない恐れがある。改革の効果が数字に出るまで、楽観は控える。
新株予約権による薄まり
筆頭株主のファンドに渡した新株予約権がすべて使われると、株は 1,316 万株、3 割強増える。買収で利益が増えても、既存の株主の取り分は 4 分の 3 に薄まる。ファンドの持ち分は最大 51% になる。
量販店と通販の競争
ダイソーやセリアが手芸の道具を安く売り、通販では毛糸も生地も手軽に買える。専門店のユザワヤとも競う。値段を上げにくく、品ぞろえと教える力だけで差をつけ続けるのは簡単ではない。
借入の金利
有利子負債は約 36 億円で、純有利子負債は 17 億円。借り換えのたびに金利が上がれば、薄い利益がさらに削られる。赤字が続けば、在庫を安く売って返済に充てる事態もありうる。
今後の分かれ目
- 2027 年 6 月期に営業利益 6 億円を超えたら
- 改革が数字になったとみて、やや楽観に確率を寄せる。
- 新株予約権が行使され、買収を決めたら
- 買う事業の利益と値段を見て、楽観の筋書きを直す。株の薄まりは取り分の係数で数える。
- 編み物の流行が落ち着き、既存店の売上が前年を下回り続けたら
- 店の数と 1 店あたりの売上を下げ、やや悲観と悲観に確率を寄せる。
- 営業赤字に戻ったら
- 2022〜2024 年の再来とみて、悲観の確率を上げる。
- 筆頭株主のファンドが完全子会社化を提案したら
- 筋書きの外の出来事として、提示の値段で見直す。
見ておくもの
- 既存店の売上と客数
- 営業利益(2027 年 6 月期予想 6.8 億円)
- 新株予約権の行使と買収の中身
- 店舗数と閉店の費用
- 優待の見直し後の株主関連費用
倍率と資本コストの決め方
今の時価総額 63 億円や PBR 1.6 倍には寄せていない。店舗数と 1 店あたりの売上、出版の点数と単価から 10 年の利益を積み、倍率は ROE が k に届かないので 1÷k = 10.8 倍を上限に、中立 7.5 割・やや楽観 8 割・楽観 8.5 割で置いた。やや悲観と悲観は差入保証金と在庫の回収から借入を引いた床。家賃を営業費用に入れた今の形でそろえ、2028 年 6 月期からの新リース会計で負債が増えて見える点は数字に入れていない。株主優待は縮小後の年 0.7 億円を還元に足した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.2→11.66 倍・やや楽観 PER 8.6→11.43 倍・中立 PER 8.1→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。