結論
エービーシー・マートは国内シューズ専門店で約2割のシェアを持つ最大手で、2位のチヨダを3倍近く引き離す。筆者の結論は、稼ぐ力は本物だが今の値段はそれを織り込み済みで、やや割高というものだ。HAWKINSなど自ら商標権を握るブランドと、ナイキ・アディダス等の販路を両輪に、営業利益率は長年2桁を保つ。
国内は店がほぼ飽和し、増収の中心は値上げと訪日客の免税需要(国内売上の約1割)に移った。成長の主戦場は海外、とくに320店を超える韓国だ。2026年には現地のイーランドグループから靴セレクトショップ「FOLDER」を買収し、台湾・ベトナム・米国・フィリピンにも出店を広げている。
純現金は約2,060億円ある。ただ、出店資金と店舗の家賃の約束を引くと、事業に要らない余りは約400億円とみる。中立の10年後は、事業の純利益が約643億円、事業のROEが約9.9%。時価総額は約0.78兆円で、今の約7,256億円をやや上回る。配当と自社株買いを足して資本コスト6.75%で割り戻した総合の価値は、今より3割弱低い。
崩れにくい国内の寡占は評価できる。ただ、海外の失速と19年ぶりの社長交代が重なり、払う値段に安全域は厚くない。
バリュー投資の観点から
筆者がこの会社でいちばん評価したいのは、国内シューズという地味な市場でシェア2割を握り、長年にわたって値上げを通せる力を保ってきた点だ。価格を自分で決める力は本物の強みで、しかもその強みは派手な広告やブランドの物語ではなく、店舗網の密度と仕入れの規模という地道な積み重ねでできている。再投資に回る利益の比率も、海外の新規出店や韓国での事業譲受という既存事業の延長にとどまり、見栄えのための買収に走っていない点は資本配分の規律として評価できる。
一方で、海外事業の直近の失速と、19年ぶりの社長交代という経営の変化点には慎重であるべきだ。安全域という意味では、今の株価は今期予想PERで15倍台と寡占の割には高くないが、資本コスト6.75%で10年後の価値に割り戻すと、バリュー投資の観点では安全域が足りない。
何で稼ぐ会社か
エービーシー・マートは「ABC-MART」ブランドを柱に、靴の専門店を国内と海外で展開するシューズリテイラーだ。ナイキ・アディダス・コンバース・VANSなど世界的なスポーツ・カジュアルブランドの有力な販路であり、同時に自社で商標を持つHAWKINSなどのオリジナルブランドも育ててきた。有名ブランドを核とした仕入れ力と、自社ブランドによる利幅の確保を両立させる構造が、この会社の収益性の土台になっている。
国内は店舗数がほぼ飽和域に達し、増収の中心はすでに新規出店から客単価の引き上げに移っている。値上げを吸収できる客の支持の背景には、スニーカーブームやランニング需要の広がりに加え、訪日客の免税需要(国内売上の約1割)がある。店舗網そのものを増やす成長は、いまや韓国・台湾・ベトナム・米国・フィリピンの海外事業が主戦場で、なかでも320店を超える韓国が海外最大の市場に育っている。2026年には韓国の衣料大手イーランドグループから靴セレクトショップ「FOLDER」の店舗網を買収し、現地のノウハウと仕入れ網を取り込んだ。
オンラインはECと実店舗を一体で運用するオムニチャネル型で、店舗の在庫を使った即時出荷など、実店舗の密度を強みに転換する仕組みを築いている。収益の柱は依然として国内の店舗網にあり、海外事業はまだ利益への貢献度で見ると小さいが、出店余地という意味では最も伸びしろの大きい部分になっている。
優良さと弱いところ
この会社の優良さの核は、国内シューズ専門店でシェア約2割、2位の3倍近い規模を持つほぼ独占的な地位にある。価格を自分で決める力は、値上げが続いても客数が大きく落ちていない実績そのものが証明している。HAWKINSなど自社ブランドの商標を握り、ナイキ・アディダス等の有力ブランドにとっても欠かせない販路になっている点が、単なる価格競争の専門店とは一線を画す強みだ。売上高営業利益率は長年2桁を保ち、自己資本比率は9割近い無借金経営で、資本効率と財務の安全性を両立させている。
弱いところは、国内の成長余地がほぼ出尽くしている点だ。増収は値上げと訪日客需要にほぼ依存し、物価上昇が一服すれば国内の勢いはすぐに鈍る。海外事業は直近の決算で増収が止まり、利益も落ち込んでおり、韓国への依存度の高さが為替や現地競争に対する弱さとして出ている。経営体制も2026年3月に19年ぶりの社長交代があり、新体制が海外事業の立て直しをどこまで担えるかはまだ実績が無い。創業家が株式の6割超を握る支配構造は、意思決定の速さという利点と、少数株主の目線が薄れる懸念を同時に持つ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のアパレル・シューズ専門店市場は人口減少とEC流出で量的な拡大が見込めず、値上げが通るブランド力を持つ企業と持たない企業の差が年々はっきりしてきている。シューズに限ればエービーシー・マートはほぼ独占の地位にあり、2位のチヨダ、3位のジーフットとは規模の差が大きく、直接の価格競争にさらされにくい。スニーカーブームとランニング需要の広がりは、ファッション性と機能性の両方でシューズの単価を上げる余地を生んでいる。
海外では韓国市場が最大の成長の舞台で、現地の衣料大手イーランドグループからの事業譲受のように、既存の有力企業が規模を縮小する局面でシェアを取り込む動きが続く。ただしウォン安や現地のEC・ファストファッション系競合との価格競争は国内より厳しく、直近の決算では海外の増収が止まり利益も落ち込んでいる。台湾・ベトナム・米国・フィリピンへの展開はまだ規模が小さく、韓国に続く第2の収益源に育つかどうかは道半ばだ。
循環という観点では、シューズは衣料ほど裁量性が高くない半必需品の性格を持ち、景気後退期の落ち込みはアパレル専門店の中では相対的に浅い方に入る。一方で、ナイキ・アディダスなど主要ブランドが自社の直販(ECや直営店)を強める動きは、代理店としての販売網の価値を長期的に薄める構造的なリスクになる。インフレが続く環境そのものは、値上げを吸収できる専門店には追い風だが、その追い風を活かせるかは店舗網の質と客の支持にかかっている。
資本政策と M&A
配当は業績に応じた増配を基本方針とし、長年にわたって増配を続けてきた。株主優待は廃止し、配当と自社株買いに資本配分を集中させる方向へ転換している。2022年には上限750億円規模の自社株買いを実施するなど、無借金に近い財務体質を背景に大きめの還元を機動的に打てる余力がある。
M&Aは海外店舗網の補完が中心で、2026年の韓国「FOLDER」事業の譲受のように、現地の有力企業が事業を縮小する局面で店舗と雇用を引き継ぐ形を取る。大型買収で事業領域を一気に広げるタイプではない。創業者の三木正浩氏とその近親者・関連会社が株式の6割超を握る支配構造が続き、2026年3月には19年ぶりに社長が交代した。創業家の株式保有比率の高さから、外部からのTOBの対象になる可能性は他の小売企業より低いとみられる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
エービーシー・マートは国内シューズ市場でシェア約2割を握り、2位を3倍近く引き離すほぼ独占の地位にある。値上げを続けても客数が大きく落ちていない実績は、ブランドと品揃えの力で価格を決められる証拠だ。訪日客の免税需要は国内売上の約1割まで育ち、国内店舗の飽和を補う新しい客層になっている。海外では韓国で320店を超える店舗網を築き、2026年には現地衣料大手イーランドから靴セレクトショップ「FOLDER」事業を譲り受け、台湾・ベトナム・米国・フィリピンへも足場を広げている。スニーカーブームとランニング需要の広がりは、国内外ともにシューズの客単価を物価以上に押し上げる余地を生む。
無借金に近い財務体質と、純現金が時価総額の3割近くに達する厚い手元資金は、海外の出店投資と機動的な自社株買いの両方に資本を振れる余力を意味する。19年ぶりの社長交代で就任した服部喜一郎氏は海外事業を長く担ってきた経歴を持ち、海外の立て直しをむしろ加速させる人事とも読める。今の株価は今期予想PERで15倍台にとどまり、国内の寡占的な稼ぐ力と海外の出店余地を市場はまだ十分に評価していない。
慎重な見方
国内シューズ市場でのシェアは高いが、店舗数はすでに飽和しており、増収の中心は値上げと訪日客需要にほぼ依存している。物価上昇が一服したり客の値上げへの反発が強まれば、国内の増収ペースはすぐに鈍る構造にある。海外事業は直近の決算で増収が止まり、利益は前年から2割以上落ち込んでおり、韓国への依存度の高さがウォン安や現地競争に対する弱さとして表面化している。2026年のFOLDER事業の譲受も、既存事業の立て直しが先に必要な中での規模拡大で、統合がうまく進むかは未知数だ。
ナイキ・アディダスなど主要ブランドが自社のECや直営店を強める流れが続けば、代理店としての販売網の価値は長期的に薄れていく。19年ぶりの社長交代は経営の刷新という見方もできるが、裏を返せば前体制の下で海外事業の立て直しが進まなかったことの表れでもある。創業家が株式の6割超を握る支配構造は、少数株主の意見が通りにくいガバナンス上の懸念を残す。今の値段が割安に見えるのは、海外の失速と経営体制の変化という不確実性を市場が適切に織り込んでいるからだ、という見方も十分に成り立つ。
どちらに重みを置いたか
国内シューズ市場でのほぼ独占的な地位と値上げを通す力は、強気の見方が優勢だ。ただ、海外事業の失速と19年ぶりの社長交代という慎重な見方の指摘も的を射ている。国内の稼ぐ力を軸に置き、海外は直近の弱さを反映して成長を緩やかに見た中立をいちばん重くした。立て直しが進む側にもやや確率を残している。中立でも今の値段を下回るため、結論は「やや割高」になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 4,592 円1.14 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 982 円2,432 億円)。 今の値に割り戻すと 3,098 円7,671 億円、今との差 +3.7%、 期待の年率 +6.4%(資本コスト 6.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 8,333 円2.06 兆円 | 1,272 円3,150 億円 | +221.6% | +12.4% | 1,153 円2,854 億円 |
| やや楽観 | 22% | 6,406 円1.59 兆円 | 1,130 円2,798 億円 | +152.3% | +9.7% | 1,658 円4,105 億円 |
| 中立 | 34% | 5,129 円1.27 兆円 | 1,056 円2,616 億円 | +107.1% | +7.6% | 2,103 円5,207 億円 |
| やや悲観 | 21% | 1,843 円4,564 億円 | 949 円2,351 億円 | −6.5% | −0.7% | 586 円1,452 億円 |
| 悲観 | 11% | 470 円1,164 億円 | 202 円500 億円 | −77.5% | −13.9% | 74 円183 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,592 円1.14 兆円 | 982 円2,432 億円 | +86.6% | +6.4% | 5,574 円1.38 兆円 |
今の株価時価総額 2,987 円7,396 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 12% 国内の寡占と海外の成長を両立 利益 1,036 億円 · PER 19.5 倍 · 株価時価総額 8,333 円2.06 兆円
10年かけて国内は店舗数を1,120店までわずかに増やし、値上げの定着と訪日客需要の一段の拡大で客単価も伸び続け、営業利益率は23%台まで改善する。海外は韓国でのFOLDER事業の統合が完全に軌道に乗り、台湾・ベトナム・米国・フィリピンへの出店も加速して店舗数は880店に達する。現地の仕入れ網とブランドとの関係が強化され、利益率は13%台まで上昇する。服部喜一郎社長から続く経営体制のもとで海外事業が国内に次ぐ第2の収益源に育ち、ナイキ・アディダスなど主要ブランドにとっても欠かせない販路としての地位を保つ。シューズという地味な市場で、国内の寡占と海外の成長を両立させる、同社にとって最も理想的な10年になる。
- 国内店舗事業:数量 1,120(国内店舗数(店))× 価格 3.84(1店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 4,298 億円・営業利益 989 億円。営業利益率23%
- 海外店舗事業:数量 880(海外店舗数(店))× 価格 4.11(1店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 3,612 億円・営業利益 470 億円。営業利益率13%
倍率:事業の純利益 1,030 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.7% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)300 億円。全体の PER 19.51 倍、時価総額 20,403 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年にわたり海外事業の立て直しと拡大を続ける必要があり、実現すれば非常に強いが連続成功の確度は高くない。
やや楽観 22% 海外の立て直しが着実に進む 利益 808 億円 · PER 18.9 倍 · 株価時価総額 6,406 円1.59 兆円
国内は店舗数を1,100店前後で維持しながら、値上げの定着で客単価が緩やかに伸び続け、営業利益率は21%台で安定する。訪日客需要も高水準を保ち、国内の寡占的な地位は崩れない。海外は韓国事業の立て直しが着実に進み、FOLDER事業で取り込んだ店舗網も軌道に乗って、台湾・ベトナム・フィリピンへの出店も含めて店舗数は720店まで増える。利益率はウォン安の影響が残りつつも10%台まで回復する。経営体制の世代交代は円滑に進み、海外事業を国内の収益性に近づける方向性が定着する、過去の実績の延長線上にある10年になる。
- 国内店舗事業:数量 1,100(国内店舗数(店))× 価格 3.60(1店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 3,964 億円・営業利益 852 億円。営業利益率21.5%
- 海外店舗事業:数量 720(海外店舗数(店))× 価格 3.84(1店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 2,768 億円・営業利益 277 億円。営業利益率10%
倍率:事業の純利益 802 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)300 億円。全体の PER 18.91 倍、時価総額 15,473 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去の実績の延長線上にある想定で、海外の立て直しペースはやや緩やかに置いた。
中立 34% 中立:国内の寡占は保つが海外は育ちきらない 利益 649 億円 · PER 18.4 倍 · 株価時価総額 5,129 円1.27 兆円
国内は店舗数が1,070店とやや減りながらも、値上げと訪日客需要で客単価は物価なりに伸び、営業利益率は20%台を保つ。国内シューズ市場でのほぼ独占的な地位は10年後も大きくは揺らがない。海外は韓国事業の立て直しに時間がかかり、FOLDER事業や台湾・ベトナム・フィリピンへの出店で店舗数は600店まで増えるが、現地競争とウォン安の影響で利益率は7%台にとどまる。ナイキ・アディダスなど主要ブランドの自社直販強化の動きも緩やかに進み、代理店としての収益への貢献はわずかに薄れる。国内の安定した収益力を軸に、海外が第2の収益源として育ちきらない、会社の実力に見合った10年になる。
- 国内店舗事業:数量 1,070(国内店舗数(店))× 価格 3.34(1店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 3,570 億円・営業利益 732 億円。営業利益率20.5%
- 海外店舗事業:数量 600(海外店舗数(店))× 価格 3.66(1店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 2,194 億円・営業利益 165 億円。営業利益率7.5%
倍率:事業の純利益 643 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.6% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)300 億円。全体の PER 18.43 倍、時価総額 12,158 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の安定した収益力を軸に、海外が第2の収益源として育ちきらないという、最も重みを置く筋書き。
やや悲観 21% 人口減と海外の構造的な弱さ 利益 391 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,843 円4,564 億円
国内では人口減少の影響が無視できなくなり、店舗数は1,010店まで減る。値上げへの客の反応も厳しくなり、営業利益率は15%台まで低下する。訪日客需要の伸びも一巡する。海外は韓国でのウォン安と現地ECとの価格競争が構造的に続き、FOLDER事業の統合効果も限定的なまま、店舗数は470店にとどまり利益率は3%台で低迷する。台湾・ベトナム・フィリピンへの出店も計画より遅れる。ナイキ・アディダスの自社直販強化も販売網の価値を削る方向に働く。それでも国内の寡占的な地位という土台自体は残り、普通の専門店として評価される10年になる。
- 国内店舗事業:数量 1,010(国内店舗数(店))× 価格 3.00(1店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 3,033 億円・営業利益 470 億円。営業利益率15.5%
- 海外店舗事業:数量 470(海外店舗数(店))× 価格 3.28(1店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 1,544 億円・営業利益 54 億円。営業利益率3.5%
倍率:事業の純利益387億円・事業 ROE 6.9% は k 6.75% 以下なので、上限は 1÷k=12.5倍。海外の構造的な弱さを踏まえた。上限の約8割の10.0倍に置いた。
確率:国内の人口減少と海外(韓国)での構造的な競争劣位が同時に進む想定。
悲観 11% 国内の寡占まで侵食される構造的な負け 利益 118 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 470 円1,164 億円
国内では人口減少とEC流出が重なり、店舗数は930店まで縮小、値上げもほぼ通らなくなって営業利益率は7%台まで落ち込む(売上が落ちても店舗の家賃は同じだけ残る)。訪日客需要も国際情勢の変化で細る。海外は韓国事業の立て直しに失敗し、FOLDER事業の統合効果も出ないまま店舗数は360店に減少、現地は営業赤字が続く。ナイキ・アディダスなど主要ブランドが自社直販を強め、代理店としての販売網の価値そのものが構造的に失われていく。社長交代を重ねても経営の立て直しが実を結ばず、国内シューズ市場での独占的な地位という優良さの土台まで侵食される、構造的に負ける10年になる。
- 国内店舗事業:数量 930(国内店舗数(店))× 価格 2.40(1店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 2,234 億円・営業利益 156 億円。営業利益率7%
- 海外店舗事業:数量 360(海外店舗数(店))× 価格 2.54(1店舗当たり年間売上高(億円))→ 売上 914 億円・営業利益 −27 億円。営業利益率-3%、赤字継続
倍率:事業の純利益115億円・事業 ROE 1.9% は k 6.75% 以下なので、上限は 1÷k=12.5倍。谷の利益ではなくならした稼ぐ力で測る。事業のROEが資本コストを大きく下回る構造的な負けで、国内の寡占的な地位は完全には失われない。純現金から家賃の約束の約1,100億円を引くと約960億円で、この値はそれを上回る。上限1÷kの約7割に置いた。上限の約7割の8.8倍に置いた。
確率:国内の人口減・値上げ限界と海外事業の失敗、主要ブランドの自社直販強化が同時に進む複合シナリオ。10年で後退が定着すると評価が普通の専門店以下まで落ちるため低頻度だが無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内店舗事業
国内のABC-MART店舗網。ナイキ・アディダス等の有力ブランドとHAWKINS等の自社ブランドを扱う。店舗数がほぼ飽和する中、値上げと訪日客需要で稼ぐ。
| 数量国内店舗数(店) | 価格1店舗当たり年間売上高(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 1,080 | 2.49 | 2,690 | 564 |
| 10 年後 中立 | 1,070 | 3.34 | 3,570 | 732 |
取り方:2026年2月期の国内売上高2,690億円を、国内の店舗数(約1,080店、ほぼ飽和)で割って1店舗当たり年間売上高を逆算した。店舗数(量)は人口減でほぼ横ばいに置き、客単価には物価3%とインバウンド需要の上乗せが乗るとして、中立で3年1.09倍・10年1.34倍に置いた。
海外店舗事業
韓国・台湾・ベトナム・米国・フィリピンの海外店舗網。韓国が最大市場で、2026年に現地衣料大手から「FOLDER」事業を譲り受けた。
| 数量海外店舗数(店) | 価格1店舗当たり年間売上高(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 400 | 2.79 | 1,114 | 70 |
| 10 年後 中立 | 600 | 3.66 | 2,194 | 165 |
取り方:2026年2月期の海外売上高1,114億円を、海外店舗数(韓国約320・台湾約62・米国約8・ベトナム約5等、合計約400店)で割って1店舗当たり年間売上高を逆算した。店舗数(量)は韓国中心の出店とM&A(2026年のFOLDER事業譲受等)で伸びる一方、現地の価格競争で単価の伸びは国内より緩やかに置いた。 数量は実物(店数)で、伸びは出店計画など事業の事実による。市場の名目の伸びを数量に置いたものではなく、価格に物価を掛けても二重がけにならない。
リスクと懸念
海外(韓国)事業の失速長期化
海外売上の過半を占める韓国事業は直近でウォン安と現地ECとの競争により増収が止まり、利益も前年から2割以上落ち込んでいる。立て直しが長引けば、海外を国内に次ぐ第2の収益源に育てる筋書き自体が崩れ、海外への出店投資やFOLDER事業の統合費用の回収期間が想定より延びるおそれがある。
国内の値上げ限界と人口減少
国内の増収は値上げと訪日客の免税需要にほぼ依存しており、物価上昇が一服したり客の値上げ反発が強まれば、国内の稼ぐ力の伸びはすぐに鈍る構造にある。長期的には人口減少も国内の客数そのものを下押しし、採算の合わない店舗の閉鎖や店舗網そのものの縮小を迫る可能性がある。
主要ブランドの自社直販強化
ナイキ・アディダスなど主要ブランドがECや直営店による自社直販を世界的に強める流れが続けば、エービーシー・マートのような代理店としての販売網の価値が長期的に薄れ、仕入れ条件や取扱商品の優先度、入荷量の配分までも不利になっていく可能性があり、収益性の土台を揺るがしかねない。
経営体制の移行
2026年3月に19年ぶりの社長交代があり、長く海外事業を担ってきた服部喜一郎氏が就任した。海外事業の立て直しという重い課題を抱えたまま新体制がどこまで実行力を発揮できるかはまだ実績が無く、移行期には意思決定のスピードが一時的に落ちる場面も想定される。
創業家への株式集中
創業者の三木正浩氏とその近親者、同氏が代表を務める合同会社の3者で株式の6割超を握る支配構造が続いている。経営の意思決定が速いという利点はあるが、少数株主の声が経営方針や資本政策に反映されにくいガバナンス上の懸念も同時に抱えており、株式の移動自体が株価を動かす要因にもなる。
M&A統合リスク
2026年の韓国「FOLDER」事業の譲受のように、海外では既存の有力企業からの事業譲受で店舗網を増やす動きが続く。引き継いだ店舗や従業員の統合がうまく進まなければ、期待した上乗せ効果が出ず、むしろ既存の韓国事業の立て直し自体の重荷になる恐れがある。
為替変動
海外事業は韓国ウォンを中心に為替の影響を受ける構造にある。想定より円高・ウォン安が進めば、円換算の海外売上・利益が圧縮され、国内で稼いだ利益を海外投資や自社株買いに振り分けるという資本配分の前提そのものが狂い、還元の原資にも影響しうる構造的な弱さがある。
今後の分かれ目
- 韓国の既存店売上・利益率が2四半期以上連続で改善したら
- 海外事業の立て直しが始まったとみて、中立・やや楽観側の確率を上げてよい。
- FOLDER事業の統合で想定した店舗・雇用のシナジーが計画どおり出たら
- 海外のM&A実行力を上方修正し、楽観側の確度を上げる。
- ナイキ・アディダス等の主要ブランドが日本でも自社直販・取引縮小の方針を明確にしたら
- 代理店としての販路価値の劣化を前倒しで見て、やや悲観・悲観側に重みを移す。
- 服部喜一郎社長のもとで海外事業の増収・増益が明確に戻ったら
- 経営体制の移行リスクを後退させ、中立・やや楽観の筋書きの確度を上げる。
- 国内の値上げに対する客数の反応が悪化し既存店客数が継続的に減少したら
- 国内事業の前提を下方修正し、やや悲観側に寄せる。
- 創業家の株式保有比率が大きく変化する、あるいはTOB観測が具体化したら
- 支配構造の前提が変わるため、資本政策・ガバナンスの見通しを個別に見直す。
見ておくもの
- 国内既存店売上高・客単価・訪日客の免税売上比率の推移
- 海外(韓国)既存店売上高・セグメント利益率の推移、FOLDER事業の統合進捗
- 国内外の年間新規出店数と、台湾・ベトナム・米国・フィリピンの出店ペース
- ナイキ・アディダス等主要ブランドとの取引条件・DTC(自社直販)方針の動向
- 服部喜一郎社長体制下での経営方針・資本配分の変化
倍率と資本コストの決め方
セグメントごとに店舗数(実質)×1店舗当たり売上高(物価込みの名目)で売上を積み上げ、利益率は物価で動かさず、自己資本は今の値+期間の純利益−還元で流し(ROEは結果)、事業に要らない現金は、出店資金と店舗の家賃の約束(年約370億円×約3年の推定)を引いた400億円だけを分け、戻り方(半分)を掛けて足した。10年後の数字は家賃を営業費用に入れた今と同じ形でそろえた(新リース会計基準で開示の形が変わっても比べられるように)。事業のROEから新しく投じるお金の稼ぎ(RONIC=k+1/2×(事業のROE−k)、堀は普通)を出し、資本コストは6.75%(基本7.5%、quality 合計+0.5%)、長期g3.0〜3.5%で正当化PERを置いた。今の株価(PER15倍台)には寄せていない。悲観は谷の利益に谷の倍率を重ねず、事業の稼ぐ力から出し、谷のPBRは使っていない。海外の弱さは成長率と確率で反映し、倍率を下げる二重の下げは避けた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.9→19.51 倍・やや楽観 PER 12.8→18.91 倍・中立 PER 11.8→18.43 倍)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 6.75%。
同じ業種(小売業)の AI 分析
読んだ資料
- エービーシー・マート 2026年2月期第2四半期決算短信
- これからもエービーシー・マートの1人勝ち? 靴専門チェーンの動向を分析(ダイヤモンド・チェーンストアオンライン)
- エービーシー・マート 自社株買い、還元強化好感(日本経済新聞)
- ABCマート、韓国で靴販売事業を買収 現地衣料大手から(日本経済新聞)
- ABCマートの韓国法人がイーランドワールドのシューズ小売り部門を譲受(FASHIONSNAP)
- ABCマート新社長に服部喜一郎常務、野口実氏は会長に(日本経済新聞)
- 〈トップ登場〉現場主義で海外開拓 ABCマートの服部喜一郎新社長(日本経済新聞)
- ABCマート、インバウンド起点に世界進出 旗艦店を改装(日本経済新聞)
- 長者番付に名を連ねる、エービーシー・マート創業者・三木正浩氏の歩み
- エービーシー・マート コーポレートガバナンス報告書