結論
クオールホールディングスは、約 950 店の調剤薬局を営む会社だ。ただ、稼ぎの半分近くは薬局の外にある。ジェネリック(後発薬)の製造販売と、製薬会社の営業を請け負う事業だ。
筆者の結論は、やや割高である。いちばんの理由は、10 年後の利益の伸びが小さいことだ。中立の見立てで、10 年後の純利益は約 100 億円になる。今の 74 億円から年 3% ほどの伸びで、物価の上昇にようやく追いつく程度だ。
薬局の売上は、国が決める報酬で縛られる。後発薬の値段も、毎年の薬価改定で下がる。人件費だけは物価どおりに上がる。会社は 2031 年 3 月期に営業利益 350 億円を掲げるが、その 3 分の 2 は買収で稼ぐ前提だ。筆者は、買収の値段が上がっていることを気にしている。同業のアインは約 800 店を買い、日本調剤はファンドの傘下に入った。安く買える時代は終わった。
稼ぐ力は悪くない。ROE は 12.9% で、資本コストを上回る。3 つの事業が別々の理由で稼ぐので、薬局だけの会社よりは揺れにくい。ただ、買収で積んだのれんなどが 673 億円あり、自己資本の 574 億円を超える。見かけの自己資本比率より、財務は軽くない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、悪い会社ではないが、持ち続けたい会社でもない。筆者はそう見る。
事業の質は、中くらいだ。薬局と後発薬は、需要が景気にほとんど左右されない。10 年後も必要とされる。ただ、値段を国が決める事業は、利益が国の財布の事情に縛られる。オーナーの立場なら、利益の使い道を自分で決められないことが気になる。
経営は、買収に積極的だ。第一三共エスファの買収は成功した。だが増益の 3 分の 2 を買収に頼る計画は、買い手が増えた今の市場では、値段の高さとの勝負になる。のれんは減損のリスクを抱える。
そのうえで値段を見る。中立の筋書きで、10 年後の純利益は約 100 億円だ。資本コスト 7.5% で今に割り戻すと、本質価値は今の時価総額を 2 割強下回る。楽観がかなっても、今の値段にようやく届く程度だ。払う値段に安全域はない。
何で稼ぐ会社か
事業は 3 つある。薬局、製薬、BPO(業務の受託)だ。薬局の売上は 1,775 億円で全社の 6 割を占める。ただ利益は 97 億円と、全体の半分ほどにとどまる。
薬局は 949 店ある。うち 918 店が調剤薬局で、残り 25 店は病院内の売店だ。1 店あたりの売上は約 1.9 億円になる。稼ぎは、処方箋を受けて薬を渡すときの調剤報酬が中心だ。値段は国が決めるので、自社で動かせるのは店数と、1 店あたりの処方箋の数だけだ。
製薬は、第一三共から買った第一三共エスファと、2019 年に買った藤永製薬が担う。売上は 990 億円、利益は 70 億円で、伸びが速い。エスファの強みは AG(オーソライズドジェネリック)である。新薬メーカーの許諾を得て、新薬と同じ中身でつくる後発薬だ。2024 年に買い、2026 年 3 月期に持分を 51% から 80% に上げた。
BPO は売上 143 億円、利益 19 億円で、規模は小さい。製薬会社の営業を代行する CSO、開発を手伝う CRO、薬剤師の紹介派遣が柱だ。会社は派遣 MR(医薬情報の担当者)を 1,000 名規模まで増やす計画を持つ。
筆頭株主は、医薬品卸のメディパルホールディングスで約 2 割を持つ。創業は 1992 年で、現在は中村勝氏が会長を務める。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、あまり厚くない。筆者はそう見る。薬局の値段は国が決め、後発薬も公定の薬価に従う。値段を自社で決められない事業は、価格での差がつけにくい。
それでも強みはある。薬剤師を集める力と、処方箋が来る医療機関との関係だ。新しい薬局は、この 2 つをすぐにはまねできない。BPO は、製薬会社に人を出す仕事で、薬局と同じ薬剤師の採用力が役に立つ。
3 つの事業が別々の理由で動く点は、会社の長所だ。薬局は処方箋の数で、製薬は新製品の数で、BPO は製薬会社の営業の外注需要で稼ぐ。ROE は 2026 年 3 月期に 12.9% に上がった。ただこれは、利益の多いエスファの持分を 51% から 80% に上げた効果が大きい。過去 10 年の ROE の中央値は 10.8% である。
弱点は 3 つある。1 つ目は薬局の利益が下がっていること。売上は 3.4% 伸びたが、利益は 3.0% 減った。2 つ目は製薬の AG への依存だ。新薬メーカーの許諾と薬価のルールに左右される。3 つ目は貸借対照表だ。のれんと営業権が 673 億円あり、自己資本を上回る。買った事業が期待どおり稼がなければ、減損が出る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
調剤の市場は大きいが、伸びは鈍い。2024 年度の調剤医療費は 8.4 兆円で、全国の薬局は 6.3 万店ある。クオールの薬局の売上は、その 2% ほどだ。
薬局は、再編の最中にある。業界最大手のアインは、2025 年 8 月にさくら薬局を持つ会社を買い、約 800 店を加えた。業界 2 位の日本調剤は、同年 9 月にアドバンテッジパートナーズの買付けを受け入れて非公開になった。大手が買い手に回り、買収の値段は上がった。調剤報酬は 2 年おきに見直され、薬価も毎年下がる。市場は人口の減少で、数量では伸びにくい。
後発薬の市場は約 1.3 兆円で、先発薬からの置き換えはすでに 9 割に達した。数量の伸びしろは小さい。薬価は 2011 年度を 100 とすると、2025 年度は 59.8 まで下がった。毎年の改定で下げが続き、供給不安の対策で再編も急がされている。
その中で AG は特別な位置にある。新薬と同じ中身で、許諾を受けて売る。ただ、2025 年に薬価に載った後発薬は 122 品目と過去最少で、AG は 3 成分にとどまった。さらに 2026 年 5 月には、AG の薬価の扱いを見直す議論が報じられた。AG の優位がいつまで続くかは、会社の努力だけでは決まらない。
10 年の構造的な負け筋は、報酬と薬価の削減が続き、人件費の上昇が吸収できず、薬局も製薬も利益率を失うことだ。
資本政策と M&A
還元は少しずつ厚くなっている。2026 年 3 月期の配当性向は約 25% で、2027 年 3 月期は 26% を予定する。累進配当、つまり減らさない配当を掲げ、2031 年 3 月期に性向 30% 超を目標とする。自社株買いの定期的な計画はない。
筆者は、資本の使い道に注目している。会社は成長の中心を M&A に置く。新しい中期計画では、売上の増加 2,200 億円のうち 1,780 億円を M&A で積む。増益 195 億円のうちでも、130 億円がその分だ。
買収の実績は混ざっている。2023 年に第一三共エスファを約 250 億円で買い、2026 年 3 月期に持分を 80% に上げた。この買収は利益に大きく効いた。一方、薬局では年 40 店ペースの出店・買収が、2026 年 3 月期に 1 店の増加まで止まった。薬局の買収は、買う側が増えて難しくなっている。
手元の現金は 210 億円で、有利子負債は 377 億円。純有利子負債は 165 億円と軽いが、のれんなどの無形資産が自己資本を上回る。大型の買収に走るほど、この比率は重くなる。
株主優待は年約1.0億円(会社の費用ベース。カタログギフト3,000円(長期は5,000円)×単元株主約2.6万人。額面0.8〜1.3億円の中央)。優待の費用は販管費として利益から引き済みなので、株主が受け取る分として10年の還元に「年額×10年×続く見込み(中立1.0・やや悲観0.75・悲観0.5)」を足した(中立+10億円)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
3 つの事業が別々の理由で稼ぐ会社は、珍しい。薬局は処方箋の数で、製薬は新製品の数で、BPO は営業の外注需要で稼ぐ。どれかが弱くても、ほかが支える。
製薬が特に強い。第一三共エスファは、AG という新薬と同じ中身の薬を、許諾を得て売る。2026 年 3 月期の製薬の利益は 70 億円と 3 割伸びた。持分も 80% に上がり、利益が株主に届きやすくなった。新製品の導入と自社主導の後発薬が加わる。
薬局は、再編の波を追い風にできる。大手が買い手に回る時代でも、地域の中堅薬局にとって、クオールは売り先として信頼できる。会社は店数を 1,000 店超に増やす計画だ。
資本の使い方も変わった。配当性向は 30% を超える方向で、累進配当を掲げている。ROE は 15% を目標にする。経営者は、薬局より高い収益の事業が要ると明言してきた。それが製薬への投資につながった。3 事業の力が重なれば、営業利益は会社の計画に近づく。
慎重な見方
薬局の利益は、すでに下がっている。2026 年 3 月期は売上が 3.4% 伸びたのに、利益は 3.0% 減った。処方日数の長期化と人件費の上昇が効いた。国は調剤報酬を 2 年おきに見直す。値段を決める側は国で、クオールではない。
製薬の高い利益は、AG が特別扱いされていることに支えられている。2025 年に薬価に載った AG は 3 成分だけで、薬価の扱いを見直す議論も出ている。ルールが変われば、利益率は急に落ちる。後発薬の薬価は 14 年で 4 割下がった。
成長を買収に頼る計画も重い。会社の計画は、増収の 8 割、増益の 3 分の 2 を M&A で積む。だがアインがさくら薬局を買い、日本調剤はファンドの傘下に入った。買い手が増え、値段は上がった。高く買えば、のれんが増える。のれんと営業権は今でも 673 億円あり、自己資本を超える。
前の計画も届かなかった。2026 年 3 月期に営業利益 250 億円を掲げたが、実績は 148 億円で 4 割届かなかった。次の 350 億円も、同じ道をたどる可能性が高い。
どちらに重みを置いたか
製薬の質と、3 事業の分散は、強気の見方に分がある。だが利益の伸びと財務の重さでは、慎重な見方が強い。薬局と後発薬の 2 つが、国の決める値段に縛られている点は変わらない。
計画の 3 分の 2 が買収という点も、割り引かざるをえない。確率は中立を中心に置き、悲観側へ少し寄せた。同じ領域のアインより、悲観の確率は低くした。借金が軽く、製薬という別の稼ぎがあるためだ。この結果、10 年の本質価値は今の時価総額を下回り、総合はやや割高になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,174 円1,568 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 719 円270 億円)。 今の値に割り戻すと 2,526 円949 億円、今との差 +7.3%、 期待の年率 +7.6%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 8,277 円3,110 億円 | 1,224 円460 億円 | +303.6% | +15.0% | 760 円286 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,338 円2,382 億円 | 1,011 円380 億円 | +212.2% | +12.1% | 1,470 円552 億円 |
| 中立 | 34% | 5,085 円1,911 億円 | 798 円300 億円 | +149.9% | +9.6% | 2,000 円752 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,648 円619 億円 | 474 円178 億円 | −9.9% | −1.0% | 530 円199 億円 |
| 悲観 | 13% | 794 円299 億円 | 226 円85 億円 | −56.6% | −8.0% | 133 円50 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,174 円1,568 億円 | 719 円270 億円 | +107.9% | +7.6% | 4,893 円1,839 億円 |
今の株価時価総額 2,354 円885 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 製薬が育ち、買収も実る 利益 154 億円 · PER 19.1 倍 · 株価時価総額 8,277 円3,110 億円
薬局は M&A で 1,150 店まで増え、処方箋の流れを押さえた店ほど強くなる。医療 DX の加算と薬剤師の配置で、1 店あたりの稼ぎは物価並みに近い伸びを保つ。
製薬では、新しい AG(新薬と同じ中身のジェネリック)の導入が続く。第一三共エスファの 20% の残りも買い取り、利益がそのまま株主に届く形になる。薬価の下げは続くが、数量のシェアが上回る。
CSO(製薬会社の営業を請け負う事業)は、MR の外部委託が進んで伸びる。3 事業が別々の理由で動くため、全社の利益は薬局だけの会社より安定する。10 年後の営業利益は 265 億円となり、新しい中期経営計画の 350 億円には届かない。会社が掲げる目標の 8 割弱にあたる。
- 薬局事業:数量 1,150(店舗数(店))× 価格 2.43(1 店あたり年間売上(億円))→ 売上 2,796 億円・営業利益 168 億円。営業利益率 6.0%
- 製薬事業:数量 2,400(2011 年度の薬価で評価した販売量(億円)。市場(同じ薬価で約 2.1 兆円)× シェア約 7.8%)× 価格 0.54(薬価指数(2011 年度 = 1.0))→ 売上 1,292 億円・営業利益 116 億円。営業利益率 9.0%
- BPO 事業:数量 160(受託する業務の量(2020 年の単価で換算した売上・億円))× 価格 1.62(人件費単価の指数(2020 年 = 1.0))→ 売上 260 億円・営業利益 36 億円。営業利益率 14.0%
倍率:事業の純利益 154 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.1 倍。全体の PER 19.06 倍、時価総額 2,935 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:製薬の新製品導入と薬局の M&A が同時に実り、報酬改定も穏やかにすむ必要がある。3 つが重なる確率は低く、会社の自己申告の計画(2031 年に 350 億円)も、前の計画(2026 年 3 月期に営業利益 250 億円)も実績 148 億円で 4 割ほど届かなかった。
やや楽観 20% 薬局は堅く、製薬が伸びる 利益 122 億円 · PER 18.1 倍 · 株価時価総額 6,338 円2,382 億円
薬局は 1,100 店まで M&A で積み上がり、報酬改定は想定の範囲に収まる。人件費の上昇は、処方箋 1 枚あたりの加算と業務の自動化でほぼ吸収できる。
製薬は新製品が計画どおり出て、薬価の下げを数量で補う。BPO は派遣 MR の需要に支えられて、物価並みに伸びる。
3 事業が足を引っ張り合わず、10 年後の営業利益は 211 億円となる。増益の 3 分の 2 を M&A に頼る構図は変わらないが、買収が価値を壊すことはない。配当性向は 30% を超え、累進配当も守られる。薬剤師の確保が追いつかず、新しい店の出店ペースは落ちるが、薬局の質は保たれる 10 年になる。
- 薬局事業:数量 1,100(店舗数(店))× 価格 2.36(1 店あたり年間売上(億円))→ 売上 2,592 億円・営業利益 145 億円。営業利益率 5.6%
- 製薬事業:数量 2,234(2011 年度の薬価で評価した販売量(億円)。市場(同じ薬価で約 2.1 兆円)× シェア約 7.8%)× 価格 0.52(薬価指数(2011 年度 = 1.0))→ 売上 1,162 億円・営業利益 87 億円。営業利益率 7.5%
- BPO 事業:数量 148(受託する業務の量(2020 年の単価で換算した売上・億円))× 価格 1.60(人件費単価の指数(2020 年 = 1.0))→ 売上 237 億円・営業利益 31 億円。営業利益率 13.0%
倍率:事業の純利益 122 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.0 倍。全体の PER 18.05 倍、時価総額 2,202 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:薬局が堅く、製薬も新製品で薬価の下げを補う想定。過去 10 年の営業利益率は 4.5〜6.2% の幅で、この水準を保てる可能性は十分ある。
中立 34% 薬局は据え置き、製薬は横ばい 利益 99 億円 · PER 17.2 倍 · 株価時価総額 5,085 円1,911 億円
薬局は 1,050 店になり、新しく買った店と、閉める店がほぼ釣り合う。調剤の報酬は 2 年おきに見直され、物価の上昇を満額では転嫁できない。人件費だけは物価どおりに上がるため、薬局の利益率はわずかに下がる。
製薬は、新しい製品を足しても、毎年の薬価の下げが重い。売上は今とほぼ同じ水準にとどまり、利益率は 6.5% 前後に落ち着く。BPO は派遣 MR の需要に支えられて堅調だが、規模が小さく全体を動かさない。
結果として、10 年後の営業利益は 170 億円と、今より 2 割弱の増加にとどまる。会社が掲げる 350 億円には遠い。配当は性向 3 割台まで上がり、手元の現金は借金の返済と次の買収に回る。 株主優待の費用は利益から引き済みで、還元には受け取り分(年約1.0億円×10年)を足している。
- 薬局事業:数量 1,050(店舗数(店))× 価格 2.24(1 店あたり年間売上(億円))→ 売上 2,357 億円・営業利益 125 億円。営業利益率 5.3%。1 店あたり売上は報酬が公定で物価を満額で転嫁できず 1.20 倍
- 製薬事業:数量 2,069(2011 年度の薬価で評価した販売量(億円)。市場(同じ薬価で約 2.1 兆円)× シェア約 7.8%)× 価格 0.51(薬価指数(2011 年度 = 1.0))→ 売上 1,052 億円・営業利益 68 億円。営業利益率 6.5%
- BPO 事業:数量 136(受託する業務の量(2020 年の単価で換算した売上・億円))× 価格 1.55(人件費単価の指数(2020 年 = 1.0))→ 売上 211 億円・営業利益 27 億円。営業利益率 13.0%
倍率:事業の純利益 99 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.2 倍。全体の PER 17.2 倍、時価総額 1,703 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:報酬と薬価は公定で、物価の転嫁は満額できない。一方で大崩れの兆しはない。業界の中心値と、成長を買収に頼る構図をそのまま置いた。
やや悲観 25% 報酬と薬価に削られる 利益 41 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,648 円619 億円
調剤報酬の見直しで、薬局の利益率が 4% 割れに沈む。大手の傘下に入った近隣チェーンとの競争で、買う側の値段は上がり、買った店の利益は薄くなる。
製薬では、AG の薬価の扱いが見直され、新しい製品の導入も止まる。第一三共エスファの稼ぎは今の半分に減り、買収で積んだのれんの減損が現実味を帯びる。
3 事業とも少しずつ弱くなり、10 年後の営業利益は 82 億円と、今の半分強になる。配当は累進のまま維持するが、自社株買いや大型の買収は見送られる。財務は借り換えの金利 3.5% が効いて、利益をさらに削る。
- 薬局事業:数量 980(店舗数(店))× 価格 2.15(1 店あたり年間売上(億円))→ 売上 2,108 億円・営業利益 80 億円。営業利益率 3.8%
- 製薬事業:数量 1,821(2011 年度の薬価で評価した販売量(億円)。市場(同じ薬価で約 2.1 兆円)× シェア約 7.8%)× 価格 0.47(薬価指数(2011 年度 = 1.0))→ 売上 849 億円・営業利益 30 億円。営業利益率 3.5%
- BPO 事業:数量 123(受託する業務の量(2020 年の単価で換算した売上・億円))× 価格 1.51(人件費単価の指数(2020 年 = 1.0))→ 売上 186 億円・営業利益 20 億円。営業利益率 11.0%
倍率:(家賃を営業費用に入れた今と同じ形)ROE 4.2%(純利益 41 億円 ÷ 自己資本 979 億円)。事業の ROE が資本コスト 7.5% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.9 倍。報酬の削減と薬価の下げで新しい投資の稼ぎが薄く、上限の 8.5 割の 11.37 倍に置いた。
確率:調剤報酬の削減が続き、薬局は大手の傘下で競争が増す。製薬は AG の薬価ルール見直しで稼ぎが細る。制度に左右される事業が 2 つあり、悲観側にやや寄せた。同じ領域のアイン(27%)と同水準。
悲観 13% 製薬の強みが消え、薬局も細る 利益 −40 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 794 円299 億円
薬局は処方箋の流れを大手に奪われ、900 店を割る。調剤報酬の削減と人件費の上昇が同時に来て、利益率は 1% 台まで下がる。
製薬は、AG の優位が薬価ルールの変更で消える。供給不安の対応費用も重なり、営業赤字に転じる。バランスシートには、買収で積んだのれんと営業権が 673 億円ある。これを償却する事態になれば、自己資本は大きく傷つく。
この筋書きでは、会社は優良さを失い、再編の買われる側に回る。配当は減らし、資産を売却して借金を返す。残るのは、薬局網という資産と、BPO の小さな黒字である。
- 薬局事業:数量 880(店舗数(店))× 価格 1.96(1 店あたり年間売上(億円))→ 売上 1,728 億円・営業利益 26 億円。営業利益率 1.5%
- 製薬事業:数量 1,572(2011 年度の薬価で評価した販売量(億円)。市場(同じ薬価で約 2.1 兆円)× シェア約 7.8%)× 価格 0.42(薬価指数(2011 年度 = 1.0))→ 売上 658 億円・営業利益 −7 億円。営業利益率 -1.0%
- BPO 事業:数量 111(受託する業務の量(2020 年の単価で換算した売上・億円))× 価格 1.45(人件費単価の指数(2020 年 = 1.0))→ 売上 161 億円・営業利益 13 億円。営業利益率 8.0%
倍率:稼ぐ力(事業の純利益はほぼ 0)では床にならず、売れる資産の税後 約 400 億円(floor_assets_oku)を床とする。今の自己資本 574 億円に対する PBR 0.52 倍で測った。のれんと営業権の 673 億円は売れる資産に入れない。
確率:制度の変更は 1 度で効く。AG の優位が消え、薬局も奪われる複合の筋書きは、同じ領域のアイン(14%)より確率はやや低い。製薬の比重が高い分、変動の振れは大きい。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
薬局事業
調剤薬局 918 店と病院内の売店 25 店。処方箋を受けて薬を渡し、調剤報酬を受け取る。
| 数量店舗数(店) | 価格1 店あたり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 949 | 1.87 | 1,775 | 97 |
| 10 年後 中立 | 1,050 | 2.24 | 2,357 | 125 |
取り方:2026 年 3 月期の薬局事業の売上 1,775 億円を、949 店(薬局 918・売店 25)で割った。調剤医療費は 2024 年度 8.4 兆円で、売上はその約 2%。店数は中計で 1,000 店超をめざす。M&A による純増を中立で 10 年に約 100 店とみる(直近 10 年は年 40 店ほど、2026 年 3 月期は 1 店)。1 店あたり売上は、報酬が公定で物価の 3% を満額で転嫁できず、中立で 10 年 1.20 倍(年 1.9%)とした。市場は 2013〜2023 年度に名目で年 1.7% ほどしか伸びていない。営業利益はセグメント利益の 97 億円。
製薬事業
第一三共エスファと藤永製薬。AG(新薬と同じ中身の後発薬)を中心に製造・販売する。
| 数量2011 年度の薬価で評価した販売量(億円)。市場(同じ薬価で約 2.1 兆円)× シェア約 7.8% | 価格薬価指数(2011 年度 = 1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,655 | 0.60 | 990 | 70 |
| 10 年後 中立 | 2,069 | 0.51 | 1,052 | 68 |
取り方:製薬事業の売上 990 億円を、薬価指数 0.598(2011 年度 100 に対し 2025 年度 59.8)で 2011 年度の薬価に戻すと、数量は 1,655 億円。後発薬・AG 市場の 2.1 兆円(同じ薬価換算)に対するシェアは約 7.8%。置き換えが 9 割に達して市場の数量は横ばい。中立で、新製品の導入と自社主導の後発薬でシェアが 10 年で 1.25 倍になるとみる(9.7%)。価格は薬価の指数で、過去 14 年の下げ(年 −3.6%)より緩め、中立で 10 年 0.85 倍(年 −1.6%)とした。AG と新製品の構成が効く。営業利益はセグメント利益の 70 億円(のれん償却後)。
BPO 事業
CSO(製薬会社の営業代行)、CRO(開発支援)、薬剤師の紹介派遣、医薬情報誌の出版。
| 数量受託する業務の量(2020 年の単価で換算した売上・億円) | 価格人件費単価の指数(2020 年 = 1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 123 | 1.16 | 143 | 19 |
| 10 年後 中立 | 136 | 1.55 | 211 | 27 |
取り方:BPO 事業の売上 143 億円。受託量は CSO の派遣 MR 数と CRO・紹介派遣の件数で決まり、開示の単位が無いため、売上を人件費単価の指数(2020 年を 1.0 として今 1.16、年 2.5% の推定)で割って量にした。中計は派遣 MR を 1,000 名規模にする計画で、中立で 10 年 1.10 倍とみる。単価は人件費に連動し、物価並みの 1.34 倍が中立。営業利益はセグメント利益の 19 億円(利益率 13%)。
リスクと懸念
調剤報酬の見直し(薬局の値段は国が決める)
調剤報酬は 2 年おきに見直され、薬価も毎年下がる。値段を決めるのは国で、会社ではない。2026 年 3 月期は売上が 3.4% 伸びたのに、薬局の利益は 3.0% 減った。人件費の上昇を転嫁できない状態が続くと、利益率は 4% 割れまで落ちうる。
AG(オーソライズドジェネリック)の薬価ルール
製薬の利益の多くは AG に支えられている。2025 年に薬価に載った AG は 3 成分で、薬価の扱いを見直す議論も報じられている。ルールが変わると、第一三共エスファの利益率は急に落ちる。新薬メーカーの許諾が続くことも前提になっている。
買収の値段の上昇とのれんの重さ
計画は増収の 8 割を M&A で積む。アインがさくら薬局を買い、日本調剤はファンドの傘下に入った。買い手が増えて値段は上がる。のれんと営業権は今でも 673 億円と自己資本を超え、買った事業が稼がなければ減損が出る。
薬局の出店・買収の停滞
直近 10 年は年 40 店ほど増えてきたが、2026 年 3 月期は 1 店の増加にとどまった。薬局の数は全国で 6.3 万と飽和している。1,000 店超の計画は M&A が前提で、買収が進まなければ店数は動かない。
大手の傘下に入る近隣薬局との競争
アインは約 800 店を加えて薬局の最大手になった。規模が大きいほど、薬剤師の採用・仕入れ・DX 投資で有利になる。処方箋をもらう医療機関との関係は、1 店ずつの勝負になる。
薬剤師と人件費
薬局の稼ぎは、薬剤師の数に縛られる。最低賃金と薬剤師の給与は物価以上に上がりやすい。処方日数の長期化で処方箋の枚数が減る流れもあり、1 店あたりの利益が圧迫される。
後発薬の供給不安と業界再編
後発薬は少量多品目の生産で、供給不安が続いている。改正薬機法が 2025 年 11 月から順次施行され、品質管理や再編の費用がかさむ。製造の不祥事が出れば、販売停止の損失も大きい。
今後の分かれ目
- AG の薬価の扱いが見直され、AG が通常の後発薬と同じ扱いになったら
- 製薬の利益率が下がるので、やや悲観・悲観の確率を上げる。第一三共エスファの稼ぎが今の半分になる場合は、のれんの減損も見る。
- 次の調剤報酬改定で、薬局の基本料が下がったら
- 薬局の利益率を 4% 割れに置き直し、やや悲観側に重みを移す。薬局の買収にも慎重になる。
- 新しい中期計画の M&A(1,780 億円)が、計画どおり中堅薬局の買収で進んだら
- 買収の値段と、買った店の利益率を確認する。値段が高ければ、成長しても価値は増えないので、確率は動かさない。
- 第一三共エスファの残り 20% を買い取り、新しい AG を導入したら
- 製薬の利益が株主に届きやすくなる。やや楽観・楽観の確率を少し上げる。
- のれん・営業権の減損が出たら
- 買収の失敗を示すので、資本の使い方への評価を下げる。やや悲観の確率を上げる。
- 薬局の既存店で、処方箋の枚数が下がり続けたら
- 数量の前提を下げる。やや悲観に重みを移す。
- 2028 年 3 月期に新リース会計基準が適用され、リース負債の額が開示されたら
- 推定の家賃の約束(年 60〜70 億円)と比べる。大きければ悲観側の利益率と床を下げる。自己資本比率の低下そのものは形の変化で、本質価値は変えない。
見ておくもの
- 薬局事業の売上と利益の推移(調剤報酬の改定の影響)
- 処方箋の枚数と 1 店あたりの売上
- 薬局の店数(M&A の件数と買収の値段)
- 製薬事業の利益率、AG と新製品の発売
- AG の薬価の扱いの見直し(厚労省の議論)
- のれん・営業権の減損の有無
- 2028 年 3 月期に載るリース負債の額
倍率と資本コストの決め方
倍率は、数量×価格で積んだ利益とその時の ROE から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g) を出し、中立は上限の 9 割 7 分に置いた。ROE が k をわずかに上回る程度で、PER が 1÷k を割らない水準に置いたため(床に合わせたのではなく、式がそこへ収れんする)。今の株価は最後に比べただけ。k は基本 7.5% に quality +0.25% を足した 7.75%。同じ領域の同業のうち最も近いアインは 7.5%、スギなどのドラッグストアは 7.0%。クオールは後発薬の値段も国が決め、のれんが重いので少し高い。10 年後の数字は、家賃を営業費用に入れた今と同じ形(日本基準)でそろえた。2028 年 3 月期から新リース会計基準で営業利益はやや増え、リース負債が載り、自己資本比率は下がる。形の変化なので本質価値は変えない。薬局の家賃は開示されず、年 60〜70 億円と推定した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.7→19.06 倍・やや楽観 PER 13.7→18.05 倍・中立 PER 13.2→17.2 倍・やや悲観 PER 11→11.37 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.25% を足した 7.75%。事業は傾いておらず、上乗せは置かない。買収の失敗・薬価ルールの変更・報酬改定など個別のリスクは k に足さず、筋書きの利益率と確率で表した。同じ領域の最も近い同業のアイン(7.5%)より高いのは、後発薬の値段も国が決める点と、のれんの重さを見たため。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.50%。