結論
丸善CHIホールディングスは、書店の「丸善」「ジュンク堂」で知られるが、稼ぎの中心は書店ではない。大学・研究機関向けの販売と、図書館の運営受託だ。筆者の結論は、事業は堅いが、資本効率が低く、紙の市場も縮むため、本質価値は今の時価総額を大きく下回る、というものだ。
2026 年 1 月期は、売上 1,850 億円、営業利益 56 億円と好調に見える。ただし、これは大阪・関西万博の公式店舗が押し上げた数字だ。会社の今期予想では、売上 1,740 億円、営業利益 40 億円に戻る。万博を除いた実力は、こちらに近い。
利益の柱は 2 つある。文教市場販売は営業利益 35 億円、図書館サポート(図書館流通センター)は 30 億円。書店を含む店舗・ネット販売は、万博を除くと利益がほぼ出ていない。
10 年後の中立は、営業利益が 49 億円、純利益が 28 億円。売上は物価に沿って伸びるが、利益率は 2% 台のまま動かない。純資産が 544 億円と厚く、ROE は 4% を割る。
筆者がいちばん気にしているのは、利益の薄さと棚卸資産の重さだ。在庫は 364 億円、借金は 405 億円ある。紙の本が縮むほど、この在庫は重荷になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、図書館運営は好ましく、書店は難しい。
好ましいのは、図書館運営と大学向けの販売だ。公的な予算に支えられ、顧客が長く続く。切り替えの手間も大きく、利益率も 7% 台と安定している。
難しいのは、書店と、全体の資本の使い方だ。書店は賃借料と人件費の固定費が重く、売上が縮めば利益が先に消える。純資産の厚みの多くは、在庫と長期の資産に変わっている。ROE が資本コストを下回る会社では、貯めた利益は、額面より小さい価値しか持たない。
10 年後の姿は、利益が緩やかに増えるが、資本はそれ以上に増える、というものだ。配当性向は 30% 止まりで、利益の 7 割は再投資に回る。その再投資の稼ぎが資本コストに届かないことが、評価を下げる。
安全域は、ない。今の時価総額は、万博で膨らんだ利益を基にした見方に近い。万博を除く実力で測ると、本質価値は今の値段の半分に届かない。ただし、親会社が大日本印刷であり、TOB の可能性が小さくないことは、別に意識しておく。わからない点は、書店の複合業態が利益を生むかどうかだ。
何で稼ぐ会社か
事業は 5 つに分かれる。文教市場販売、店舗・ネット販売、図書館サポート、出版、その他だ。
文教市場販売は、大学・学校・研究機関に洋書、学術書、電子ジャーナルを納める。図書館向けの書誌データ(TRC MARC)の作成と販売、大学内の売店や教科書販売、図書館の設計施工も受ける。売上は 492 億円で、利益率は 7% と全体では高い。
店舗・ネット販売は、丸善とジュンク堂書店を中心に 116 店を運営する。台湾にも 2 店ある。2026 年 1 月期は万博会場に公式店舗を出し、売上を大きく押し上げたが、閉幕で終わった。駿河屋などの複合店も増やしている。
図書館サポートは、図書館流通センター(TRC)が担う。カウンター業務、蔵書の点検、指定管理者としての運営を請け負い、受託は 1,851 館。うち公共が 633 館、大学が 240 館だ。売上は 393 億円、利益率は 7.7% と安定している。
出版は丸善出版で、新刊は年 300 点。売上は 37 億円で、赤字が続く。その他には、書店の内装、パソコン修理、保育園の運営、会計の専門書読み放題が入る。
従業員は連結で 1,574 人だが、パート・アルバイトなど臨時の人員が 1 万 3 千人を超える。人件費の上昇に、収益が左右されやすい構造だ。
優良さと弱いところ
堀は、書店のブランドと、図書館運営の実績だ。ただし、書店のほうは堀として弱い。
強みは 3 つある。第 1 に、図書館の運営実績だ。公共と大学の図書館を 1,800 館以上受託し、書誌データも自前で作る。入札では実績が効き、切り替えの手間も大きい。第 2 に、大学・研究機関との長い取引だ。洋書や学術書の調達は専門知識が要り、新規参入が難しい。第 3 に、全国の大型書店網と、親会社の大日本印刷の資金力だ。
弱みは、値段を自分で決められないことだ。書籍は再販制度で定価が決まり、出版社が値段を決める。図書館の受託は入札で、官公庁が値段を決める。決められるのは、人件費をどう抑えるかだけだ。
資本の面では、純資産が 546 億円と厚いが、利益が薄く、ROE は 6% 前後にとどまる。在庫が 364 億円、有利子負債が 405 億円ある。純負債は 80 億円ほどで、利払いの 16 倍の営業利益があり、安全度は高い。ただし金利が上がると、利益が削られる。
筆者は堀の厚さを「普通」と置く。図書館運営は堅いが、書店は紙の縮みに引きずられる。2 つを合わせると、全体の稼ぐ力は伸びない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
紙の出版市場は縮み続け、買い手の予算も減っている。
出版科学研究所によると、2025 年の紙の出版物は 9,647 億円で、前年比 4.1% 減。半世紀ぶりに 1 兆円を割った。書籍は 5,939 億円で横ばいだが、雑誌は 10% 減の 3,708 億円。電子は 5,815 億円で 2.7% 増えた。書店の売場を支える雑誌が、毎年 1 割ずつ消えている。
大学向けも同じ流れだ。紙の教科書と専門書は電子に移り、大学の予算も少子化で細る。会社自身も、中期計画を見直した理由に「紙の教科書・専門書の急速な縮小」を挙げた。
図書館の運営受託は、公共施設の民間委託が進み、ゆるやかに伸びる。ただし人手不足が深刻で、賃金は物価を超えて上がる。受託料に転嫁できない案件は、利益が出ない。AI やロボットによる省人化が進めば、受託料も下がる。
競合は、書店では紀伊國屋書店、TSUTAYA、ブックオフなど。図書館では、他の指定管理者や人材派遣の会社だ。ネット通販が書籍の売場を奪う流れも続く。
筆者は、書店の将来を「本を売る場所」から「本を中心とした体験の場所」への転換と見るが、利益を生む形はまだ見えない。図書館と大学向けという、公的な予算に支えられた事業のほうが、10 年の稼ぎは読みやすい。
資本政策と M&A
資本政策は、利益が薄いなかで、還元を抑えて再投資と M&A に回す形だ。
配当は低く、性向は 17% ほど。会社は 2029 年 1 月期までに 30% 以上に引き上げる目標を掲げる。自社株買いの実績は、いまのところない。
中期計画の資金配分は、3 年間の営業キャッシュフロー約 200 億円のうち、成長領域に約 60 億円、M&A に約 70 億円、既存事業の更新に約 35 億円だ。成長を M&A に頼る色が濃い。
中期計画は 2026 年 3 月に見直され、2029 年 1 月期の営業利益目標が 85 億円から 55 億円に引き下げられた。ROE の目標も 7.5% から 5.8% へ下がった。資本コストを下回る目標で、筆者は厳しい見方をしている。
大日本印刷が議決権の 55% を持つ親会社で、少数株主の立場は弱い。PBR が 1 倍を割る状況が続けば、完全子会社化の動きが出てもおかしくない。ただし、それは買い手が決める価格の話で、事業の本質価値とは別だ。
政策保有株は、子会社のものを含めても小さい。ブックオフグループ株を一部売却した。
賃借の店舗は年 41 億円の賃借料が固定費としてかかる。新リース会計基準で、2028 年 1 月期から BS に載る見込みだ。10 年後の数字は、今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
稼ぎの柱は書店ではなく、図書館運営と大学向けで、この 2 つは堅い。公的な予算に支えられ、顧客は長く続く。図書館の受託は 1,851 館に増え、公共の民間委託は今後も進む。
万博で得たノウハウは大きい。公式店舗の運営で、IP 商材と限定グッズの売り方を覚えた。駿河屋などのホビーのリユースを足した複合店は、客層を広げている。書店は本だけの店ではなく、体験の場になる。
2027 年 1 月期の第 1 四半期は、営業利益が 24% 増えた。中間期も経常利益が 6.5% 増えている。会社予想の 29% 減益は、保守的な数字だ。
資本の面では、大日本印刷の資金力が背景にある。借金は多いが、利払いの 16 倍の営業利益があり、安全度は高い。中計では 3 年間の営業キャッシュフロー 200 億円を、成長領域と M&A に回す。保育や丸善リサーチ、デジタル教材など、紙に頼らない事業が育てば、利益の質が変わる。
配当性向は 30% を目標とする。PBR1 倍を目指す方針を掲げており、株主還元は強まる。親会社の完全子会社化が起きれば、TOB の価格に上乗せもつく。
10 年で純利益が 6 割増える筋書きも、あり得る。
慎重な見方
利益の質が悪い。2026 年 1 月期の営業利益 56 億円のうち、万博が約 16 億円を占めた。会社自身が今期は 40 億円へ 3 割近い減益を見込む。店舗・ネット販売の万博を除く営業利益は 5 億円にも届かない。
市場は縮む。紙の出版物は 2025 年に 4.1% 減、雑誌は 10% 減。書店の売場は毎年細り、賃借料と人件費の固定費は変わらない。大学の紙の教科書も電子に移っている。
図書館の受託は、人件費の上昇で利益が圧迫される。入札で値段が下がる一方、賃金は物価を超えて上がる。AI で省人化した競合に負ければ、受託館数の伸びも止まる。
資本の効率が低い。ROE は 6% 前後で、資本コストの 9% に届かない。中計の目標も、営業利益 85 億円から 55 億円、ROE 7.5% から 5.8% へ下げた。下げた目標でも、資本コストを下回る。
在庫は 364 億円、借金は 405 億円。金利が上がれば利益が削られる。M&A に 70 億円を使う計画は、買った事業が稼ぐ保証がない。
親会社の大日本印刷が 55% を持ち、少数株主が経営を変える力は弱い。完全子会社化の話が出ても、価格は親会社が決める。
中計を見直したばかりの会社が、その目標を 3 年で達成できるとは限らない。
どちらに重みを置いたか
事業の堅さでは強気の見方が上回る。図書館と大学向けは安定している。ただし、書店の縮みと資本効率の低さは、慎重な見方のほうが重い。ROE が資本コストに届かない会社では、利益が増えても価値は増えにくい。
そのため中立に最も厚く置き、悲観側(やや悲観 25%、悲観 10%)を楽観側(7% と 20%)より厚くした。確率を重ねた 10 年の価値は、今の時価総額を大きく下回る。割高は、事業が悪いという意味ではなく、利益の薄さに対して値段が高いという意味だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/01 期)
確率で加重した株価時価総額 408 円377 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 87 円81 億円)。 今の値に割り戻すと 248 円230 億円、今との差 −33.1%、 期待の年率 +2.9%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 796 円737 億円 | 174 円161 億円 | +161.5% | +10.1% | 68 円63 億円 |
| やや楽観 | 20% | 595 円550 億円 | 121 円112 億円 | +93.0% | +6.8% | 143 円132 億円 |
| 中立 | 38% | 456 円422 億円 | 91 円84 億円 | +47.5% | +4.0% | 208 円192 億円 |
| やや悲観 | 25% | 203 円187 億円 | 65 円60 億円 | −27.9% | −3.2% | 67 円62 億円 |
| 悲観 | 10% | 88 円82 億円 | 1 円1 億円 | −75.9% | −13.3% | 9 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 408 円377 億円 | 87 円81 億円 | +33.4% | +2.9% | 495 円458 億円 |
今の株価時価総額 371 円343 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 複合業態と図書館受託が当たり、紙の縮みを補う 10 年 利益 56 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 796 円737 億円
書店は本だけの店から、IP グッズやホビーのリユース、カフェを組み合わせた店へ変わる。駿河屋の出店で客層が広がり、店舗の数は 110 台を保つ。台湾などの海外店も黒字で伸びる。文教市場は電子の洋書とデータの販売で、紙の縮みを埋める。図書館の受託は公共と大学で 2,300 館まで増え、AI とロボットによる省人化が人件費の上昇を吸収する。保育と丸善リサーチも育つ。値段は物価並みに通り、営業利益率は 4% 前後まで上がる。会社が掲げる収益構造の転換が、計画どおり進んだ姿だ。配当性向は 30% を超え、親会社の大日本印刷との連携も深まる。
- 文教市場販売事業:数量 360(セグメント従業員数(人))× 価格 1.64(1 人当たり年間売上(億円))→ 売上 590 億円・営業利益 44 億円。文教 要員 360人・利益率 7.5%
- 店舗・ネット販売事業(万博を除く):数量 112(店舗数(店))× 価格 8.18(1 店当たり年間売上(億円))→ 売上 916 億円・営業利益 20 億円。店舗 112店・利益率 2.2%。1 店当たり売上の伸びは、物価 1.34 倍から紙の実質需要の縮み(年 −2%)を差し引いた値
- 図書館サポート事業(TRC):数量 2,300(受託館数(館))× 価格 0.28(1 館当たり年間売上(億円))→ 売上 654 億円・営業利益 50 億円。図書館 受託 2,300館・利益率 7.6%
- 出版事業(丸善出版):数量 380(年間新刊点数(点))× 価格 0.17(1 点当たり年間売上(億円))→ 売上 63 億円・営業利益 3 億円。新刊 380点・利益率 4.0%
- その他(保育・内装・修理・丸善リサーチ):数量 400(セグメント従業員数(人))× 価格 0.54(1 人当たり年間売上(億円))→ 売上 216 億円・営業利益 19 億円。その他 要員 400人・利益率 9.0%
- 大阪・関西万博オフィシャルストア(一過性):数量 0.0(店舗数(店))× 価格 74(1 店当たり年間売上(億円))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。万博は終了済みで 0
倍率:事業の純利益 56 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.6% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 698 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:書店の複合業態が全国で当たり、図書館受託も伸び、物価が価格に通る必要がある。紙の書籍が縮む逆風の中で全部が揃う確度は低い。
やや楽観 20% 紙の縮みを抑え、図書館受託と電子で踏みとどまる 10 年 利益 40 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 595 円550 億円
見直し後の中計に近い道を進む。店舗は不採算店を閉じつつ、複合業態の店を増やして 100 店台を保つ。文教市場は電子教材と学術データで、紙の教科書と専門書の縮みを抑える。図書館の受託は 2,100 館を超え、公共の指定管理で実績を積む。人件費は上がるが、受託料の引き上げと自動化で、ほぼ吸収できる。出版は IP とデジタルで赤字を脱する。営業利益率は 3% 前後で安定する。配当性向は計画どおり 30% に達し、現金が少しずつ戻る。大日本印刷が持つ 55% は変わらず、経営は穏やかに続く。万博で得た IP 商材の売り方は、複合店の数を増やす土台になる。出版は赤字を縮め、保育は利益に寄与し始める。
- 文教市場販売事業:数量 340(セグメント従業員数(人))× 価格 1.62(1 人当たり年間売上(億円))→ 売上 549 億円・営業利益 37 億円。文教 要員 340人・利益率 6.8%
- 店舗・ネット販売事業(万博を除く):数量 106(店舗数(店))× 価格 7.81(1 店当たり年間売上(億円))→ 売上 828 億円・営業利益 14 億円。店舗 106店・利益率 1.7%。1 店当たり売上の伸びは、物価 1.34 倍から紙の実質需要の縮み(年 −2%)を差し引いた値
- 図書館サポート事業(TRC):数量 2,150(受託館数(館))× 価格 0.28(1 館当たり年間売上(億円))→ 売上 602 億円・営業利益 44 億円。図書館 受託 2,150館・利益率 7.3%
- 出版事業(丸善出版):数量 340(年間新刊点数(点))× 価格 0.16(1 点当たり年間売上(億円))→ 売上 55 億円・営業利益 1 億円。新刊 340点・利益率 2.0%
- その他(保育・内装・修理・丸善リサーチ):数量 360(セグメント従業員数(人))× 価格 0.53(1 人当たり年間売上(億円))→ 売上 191 億円・営業利益 16 億円。その他 要員 360人・利益率 8.5%
- 大阪・関西万博オフィシャルストア(一過性):数量 0.0(店舗数(店))× 価格 74(1 店当たり年間売上(億円))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。万博は終了済みで 0
倍率:事業の純利益 40 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.8% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 494 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の見直し後の目標に近い。図書館受託の拡大と文教の電子化が進めば、利益は着実に積み上がる。
中立 38% 紙の市場が縮み、図書館受託で利益を保つ 10 年 利益 28 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 456 円422 億円
紙の本の市場は縮み続けるが、書籍は急には崩れない。雑誌は毎年 1 割ずつ減り、店頭の売場は圧縮される。店舗は 100 店ほどまで減り、1 店の売上の伸びは物価に届かない。文教市場は電子化で人員を絞りつつ、売上を保つ。図書館の受託は公共の民間委託が進み、2,050 館に増える。ただし人件費の上昇を受託料に転嫁しきれず、利益率は 7% 台にとどまる。本社と共通費は物価で増える。大阪・関西万博の特需は戻らず、営業利益率は 2.4% と、万博を除く今の水準をわずかに上回る程度だ。配当性向は 30% に届き、純利益は緩やかに増える。
- 文教市場販売事業:数量 315(セグメント従業員数(人))× 価格 1.59(1 人当たり年間売上(億円))→ 売上 501 億円・営業利益 32 億円。文教 要員 315人・利益率 6.4%
- 店舗・ネット販売事業(万博を除く):数量 100(店舗数(店))× 価格 7.38(1 店当たり年間売上(億円))→ 売上 738 億円・営業利益 10 億円。店舗 100店・利益率 1.3%。1 店当たり売上の伸びは、物価 1.34 倍から紙の実質需要の縮み(年 −2%)を差し引いた値
- 図書館サポート事業(TRC):数量 2,050(受託館数(館))× 価格 0.28(1 館当たり年間売上(億円))→ 売上 565 億円・営業利益 40 億円。図書館 受託 2,050館・利益率 7.0%
- 出版事業(丸善出版):数量 300(年間新刊点数(点))× 価格 0.15(1 点当たり年間売上(億円))→ 売上 46 億円・営業利益 0 億円。新刊 300点・利益率 0.5%
- その他(保育・内装・修理・丸善リサーチ):数量 330(セグメント従業員数(人))× 価格 0.52(1 人当たり年間売上(億円))→ 売上 173 億円・営業利益 13 億円。その他 要員 330人・利益率 7.5%
- 大阪・関西万博オフィシャルストア(一過性):数量 0.0(店舗数(店))× 価格 74(1 店当たり年間売上(億円))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。万博は終了済みで 0
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 349 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:紙の書籍は横ばいから縮小、雑誌は毎年 1 割減る。図書館受託は人件費の上昇で伸びが鈍る。見直し後の中計の目標に最も近く、最も重く置く。
やや悲観 25% 店舗が赤字に沈み、受託の人件費が利益を削る 10 年 利益 15 億円 · PER 7.8 倍 · 株価時価総額 203 円187 億円
紙の書籍まで年 3〜4% で縮み、店舗は 85 店まで減る。賃借料は売上が落ちても払う固定の約束で、1 店当たりの利益は消える。店舗・ネット販売は営業赤字の手前まで落ちる。文教市場は大学の統合と電子化で、販売先の予算が縮む。図書館の受託は、官公庁の入札で値段が下がり、人件費だけが上がる。出版は赤字が広がる。本社の費用は物価で増える一方、削れる額は限られる。営業利益は 20 億円ほどに落ち、純利益は 12 億円前後にとどまる。配当は性向 30% を保つが、金額は小さい。大日本印刷の支援がなければ、事業の見直しが加速する。
- 文教市場販売事業:数量 280(セグメント従業員数(人))× 価格 1.53(1 人当たり年間売上(億円))→ 売上 428 億円・営業利益 25 億円。文教 要員 280人・利益率 5.8%
- 店舗・ネット販売事業(万博を除く):数量 85.0(店舗数(店))× 価格 6.83(1 店当たり年間売上(億円))→ 売上 581 億円・営業利益 4 億円。店舗 85店・利益率 0.6%。1 店当たり売上の伸びは、物価 1.34 倍から紙の実質需要の縮み(年 −2%)を差し引いた値
- 図書館サポート事業(TRC):数量 1,950(受託館数(館))× 価格 0.26(1 館当たり年間売上(億円))→ 売上 505 億円・営業利益 33 億円。図書館 受託 1,950館・利益率 6.5%
- 出版事業(丸善出版):数量 250(年間新刊点数(点))× 価格 0.14(1 点当たり年間売上(億円))→ 売上 35 億円・営業利益 0 億円。新刊 250点・利益率 -1.0%
- その他(保育・内装・修理・丸善リサーチ):数量 290(セグメント従業員数(人))× 価格 0.49(1 人当たり年間売上(億円))→ 売上 142 億円・営業利益 10 億円。その他 要員 290人・利益率 7.0%
- 大阪・関西万博オフィシャルストア(一過性):数量 0.0(店舗数(店))× 価格 74(1 店当たり年間売上(億円))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。万博は終了済みで 0
倍率:ROE 1% は k 以下。PER の上限は 1÷k = 11.1 倍。利益率が 1% 台に薄く、店舗の固定費が重い構造なので、その約 7 割(7.8 倍)に置いた。純現金はなく純有利子負債が 100 億円あり、在庫も返品できる範囲に限られるため、売れる資産の床は考えない。
確率:雑誌の毎年 1 割減に書籍の縮みが重なり、図書館の人件費は物価を超えて上がる。万博を除く足元の利益が薄いこともあり、起こりやすい。
悲観 10% 紙の市場が崩れ、店舗と受託の両方で稼げなくなる 10 年 利益 −24 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 88 円82 億円
紙の書籍が毎年 5% ほど縮み、書店の売場は閉鎖が続く。賃借の店舗は固定費が重くなり、半分近くを閉じるが、違約金や在庫の処分で損失が出る。電子の教材とデータが大学の予算を奪い、文教市場の売上も減る。図書館の受託は AI による省人化が進んだ競合に、入札で負ける。人件費だけが上がり、受託の利益率は 3% 台に落ちる。出版は赤字が拡大する。営業赤字は 20 億円規模になり、純資産は食われる。親会社の大日本印刷が事業の整理に動く可能性が高い。それでも図書館サポートと文教の一部は黒字を保つ。会社は店舗の整理と受託の絞り込みを進め、資産の売却で借金を返すが、減損と整理の費用が先に出る。配当は性向 25% を目安にするが、赤字の年は払えない。
- 文教市場販売事業:数量 230(セグメント従業員数(人))× 価格 1.41(1 人当たり年間売上(億円))→ 売上 324 億円・営業利益 11 億円。文教 要員 230人・利益率 3.5%
- 店舗・ネット販売事業(万博を除く):数量 65.0(店舗数(店))× 価格 6.10(1 店当たり年間売上(億円))→ 売上 397 億円・営業利益 −6 億円。店舗 65店・利益率 -1.5%。1 店当たり売上の伸びは、物価 1.34 倍から紙の実質需要の縮み(年 −2%)を差し引いた値
- 図書館サポート事業(TRC):数量 1,750(受託館数(館))× 価格 0.23(1 館当たり年間売上(億円))→ 売上 408 億円・営業利益 14 億円。図書館 受託 1,750館・利益率 3.5%
- 出版事業(丸善出版):数量 180(年間新刊点数(点))× 価格 0.12(1 点当たり年間売上(億円))→ 売上 22 億円・営業利益 −2 億円。新刊 180点・利益率 -8.0%
- その他(保育・内装・修理・丸善リサーチ):数量 230(セグメント従業員数(人))× 価格 0.44(1 人当たり年間売上(億円))→ 売上 102 億円・営業利益 3 億円。その他 要員 230人・利益率 3.0%
- 大阪・関西万博オフィシャルストア(一過性):数量 0.0(店舗数(店))× 価格 74(1 店当たり年間売上(億円))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。万博は終了済みで 0
倍率:営業赤字が続く構造で、純資産のほとんどが在庫と固定資産に変わっている。稼ぐ力(純利益 ÷ k)は負。帳簿の自己資本は床にせず、今の純資産 544 億円の 0.15 倍に置いた。返品できない在庫の処分損、店舗の違約金、賃借料の固定費を見込んだ。
確率:書籍と雑誌の縮みが急に進み、電子化が大学と図書館の予算を食い、人件費も上がる必要がある。重なれば、構造的に稼げなくなる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
文教市場販売事業
大学・学校・研究機関向けの洋書、学術書、電子ジャーナル、図書館向け書籍とデータ(TRC MARC)、大学内売店、教科書販売、設計施工。
| 数量セグメント従業員数(人) | 価格1 人当たり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 402 | 1.22 | 492 | 35 |
| 10 年後 中立 | 315 | 1.59 | 501 | 32 |
取り方:2026/01 期の文教市場販売事業の売上 491.96 億円、営業利益 34.91 億円(有報)。数量はセグメント従業員数 402 人、価格は 1 人当たり売上。電子化で人員を絞り、紙の縮みを人員の減少で表す。10 年の価格は物価並みの 1.30 倍。数量は実物(人)。
店舗・ネット販売事業(万博を除く)
丸善・ジュンク堂書店などの書店とネットストア。駿河屋やアニメ・IP 商材を扱う複合店も。
| 数量店舗数(店) | 価格1 店当たり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 116 | 6.10 | 708 | 5 |
| 10 年後 中立 | 100 | 7.38 | 738 | 10 |
取り方:2026/01 期の店舗・ネット販売事業は売上 817.76 億円、営業利益 20.51 億円。会社の次期予想(売上 1,740 億円、営業利益 40 億円)との差から、万博オフィシャルストアの寄与を売上約 110 億円、営業利益約 16 億円と推定し、これを別の区分(expo)に分けた。残りの売上 707.76 億円、営業利益 4.51 億円を店舗 116 店で割った(1 店 6.1 億円)。数量は店舗数(実物)、価格は 1 店当たり売上で、物価 1.34 倍から紙の実質需要の縮み(年 −2% ほど)を差し引き、中立は 1.21 倍。
図書館サポート事業(TRC)
公共・大学・学校の図書館のカウンター業務、目録作成、蔵書点検、指定管理、PFI。
| 数量受託館数(館) | 価格1 館当たり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 1,851 | 0.21 | 393 | 30 |
| 10 年後 中立 | 2,050 | 0.28 | 565 | 40 |
取り方:2026/01 期の図書館サポート事業は売上 392.72 億円、営業利益 30.19 億円(有報)。受託館数は 1,851 館(開示)で、1 館当たり 2,122 万円。受託料は人件費の上昇と入札で、中立は物価より少し低い 10 年 1.30 倍。数量は実物(館)。
出版事業(丸善出版)
学術書・専門書の出版。年間の新刊は 300 点。
| 数量年間新刊点数(点) | 価格1 点当たり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 300 | 0.12 | 37 | −1 |
| 10 年後 中立 | 300 | 0.15 | 46 | 0 |
取り方:2026/01 期の出版事業は売上 36.96 億円、営業損失 1.05 億円。新刊 300 点(開示)で割り、1 点当たり 0.12 億円。中立の価格は 10 年 1.25 倍。数量は実物(点)。
その他(保育・内装・修理・丸善リサーチ)
書店・文具店の内装設計施工、図書館用図書の入出荷、PC 修理、保育園運営(明日香)、会計・税務専門書の読み放題。
| 数量セグメント従業員数(人) | 価格1 人当たり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 276 | 0.40 | 111 | 6 |
| 10 年後 中立 | 330 | 0.52 | 173 | 13 |
取り方:2026/01 期のその他は売上 111.11 億円、営業利益 6.34 億円。セグメント従業員数 276 人で割り、1 人当たり 0.40 億円。保育、内装、修理、丸善リサーチなどの合計で、中立の価格は 10 年 1.30 倍。数量は実物(人)。
大阪・関西万博オフィシャルストア(一過性)
2025 年の万博会場内の公式店舗 2 店。閉幕で終了した。
| 数量店舗数(店) | 価格1 店当たり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 2.0 | 55 | 110 | 16 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 74 | 0 | 0 |
取り方:万博オフィシャルストア 2 店(2025/04〜2025/10 の会期)。会社の次期予想と今期実績の差から、売上約 110 億円、営業利益約 16 億円と推定(個別開示なし)。閉幕で終わるため、10 年後の筋書きでは 0 とする。
リスクと懸念
紙の市場の縮小
紙の出版物は 2025 年に 4.1% 減、雑誌は 10% 減。書籍は横ばいだが、書店の売場を支える雑誌が毎年消える。店舗の賃借料と人件費は固定のため、売上が落ちると利益が先に消える。
万博の反動
2026 年 1 月期の営業利益 56 億円のうち、約 16 億円は万博によるとみられる。会社は今期を営業利益 40 億円に戻す。万博を除く実力を見誤ると、割高を見逃す。
図書館受託の人件費
受託の売上は入札で決まり、人件費は物価を超えて上がる。受託料に転嫁できない案件が増えると、利益率 7% 台が守れなくなる。パートなど臨時の人員は 1 万 3 千人を超える。
資本効率の低さ
ROE は 6% 前後で、資本コストの 9% を下回る。中計の目標 5.8% も同水準だ。利益が増えても、貯めた資本の分だけ価値は増えにくい。
在庫と借金
棚卸資産が 364 億円、有利子負債が 405 億円。書籍は委託販売で返品できる部分があるが、洋書や雑貨は返品できず、処分損が出る。金利が上がると利払いが重くなる。
M&A の実行
中計は 3 年で M&A に約 70 億円を使う計画だ。買った事業の稼ぎが資本コストに届かなければ、のれんの減損が出る。保育やデジタルなど、経験の浅い分野が多い。
親会社の影響
大日本印刷が議決権の 55% を持つ。事業の整理や完全子会社化は親会社が決め、少数株主は価格を選べない。
今後の分かれ目
- 店舗・ネット販売の万博を除く営業利益が 10 億円を超える
- 複合業態が利益を生み始めたと読めて、やや楽観の確度が上がる。
- 雑誌・書籍の紙の市場が、年 5% 以上縮むようになる
- 店舗の閉鎖と処分損が増え、やや悲観・悲観の筋書きが現実味を帯びる。
- 図書館の受託料が物価に連動して改定される事例が広がる
- 人件費の上昇を吸収でき、図書館サポートの利益率が保たれる。
- 配当性向が 30% を超え、自社株買いが始まる
- 資本の効率に意識が向いたと読める。
- 大日本印刷が完全子会社化を検討する
- 買い手が決める価格は本質価値と別で、評価の前提は変わらない。
見ておくもの
- 店舗・ネット販売の万博を除く営業利益
- 図書館の受託館数と受託料の改定
- 紙の書籍・雑誌の販売額(出版科学研究所)
- 配当性向の引き上げと自社株買いの有無
- 中計の営業利益 55 億円の達成度
倍率と資本コストの決め方
まず従業員数・店舗数・受託館数・新刊点数といった実物の数量に、1 単位当たり売上を掛けて 5 つの区分を積み、万博の特需は別の区分に分けて 10 年後は 0 とした。本社費用は物価で増やし、純利益は営業利益から利払いの増加(−2 億円)を引いて税後にした。ROE が資本コスト 8% を下回るため、PER の上限は 1÷k とし、その 7〜9.5 割に置いた。今の株価と PER は倍率の根拠にしていない。同領域は未実施で、小売業の中で ROE が低い青山商事・松屋と同程度の資本コストを置いた。新リース会計基準は、10 年後も家賃を営業費用に入れた今と同じ形で置いている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→12.5 倍・やや楽観 PER 10→12.5 倍・中立 PER 9.4→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。