結論
サイゼリヤは、イタリアンを驚くほど安く出す外食チェーンだ。国内に約1,050店、中国を中心とした海外に約650店を持つ。創業者の正垣泰彦会長が約28%の株を握る。
筆者の結論は、本質価値は今の時価総額を大きく下回る、つまり割高というものだ。会社の質は高い。売り先を選ばない低価格と、自社工場や産地での調達が生む原価の強みは、10年後も残る。それでも、今の株価は利益の伸びと中国の1,000店計画を先に織り込みすぎている。
稼ぎの中身は偏っている。25年8月期の営業利益は155億円で、そのうち約100億円は海外、ほぼ中国が稼ぐ。国内は売上の3分の2を占めながら、利益は約50億円にすぎない。国内の利益率は3%で、人件費と食材の上昇を値上げで吸収しきれていない。
中立の筋書きでは、10年後の営業利益は約330億円になる。国内が5%台まで回復し、中国は1,000店に届かないまでも900店近くまで進む。それでも時価総額は約3,100億円で、今を下回る。配当と合わせても、10年で今の値段を取り戻すのがやっとだ。
現金が厚いのは安心材料だが、全額が株主のものではない。店の家賃という固定の約束があり、創業者が支配する会社は現金を溜め込みがちだ。筆者は約350億円だけを余剰とみて、半分の値打ちで足した。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、サイゼリヤは「いい会社だが、いい値段ではない」と見る。事業は分かりやすく、50年続き、10年後も存在する。堀は客が安さを信じる信頼と、原価の仕組みだ。
問題は値段だ。今の利益は、国内の回復と中国の伸びをかなり先取りしている。26年8月期の会社予想で見ても、利益の倍率は約30倍になる。利益が10年で倍に近づいても、その時の値段が今を超えるのは楽観の筋書きだけだ。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益を考えると、出店と工場に現金が回り、配当は薄い。成長に使う現金が資本コストを上回って稼ぐ間は問題ないが、国内の新店と中国の地方出店は、稼ぎが徐々に下がる。
安全域は薄い。純現金は大きいが、時価総額の約2割で、家賃の固定費も重い。悲観の筋書きでも、会社が破綻する心配は小さい。ただ、払う値段に対して、10年の見返りは資本コストを下回ると筆者は見る。
買い場は、国内の利益率が高まらず、中国の出店に慎重な見方が広がった時に来る。そこまでは待てる会社だ。
何で稼ぐ会社か
サイゼリヤの稼ぎ方は単純だ。店でイタリア料理を安く出し、客数で稼ぐ。多くの店を自分で運営する直営中心で、値段と品質を本部が握る。
強みは原価にある。自社工場で作り込み、産地から直接調達して物流も自前で組む。安い値段のまま利益を残す仕組みを、50年かけて磨いてきた。ドリアやピザなど、メニューを絞って大量に作る点も効く。
事業は国内と海外の2つに分かれる。国内は約1,050店で、25年8月期の売上は約1,730億円。利益率は3%と薄い。いっぽう海外は約650店で、売上は約840億円、営業利益は約100億円。中国が約500店でその大半を占め、香港・シンガポール・台湾にも店がある。
海外の利益率が12%と高いのは、中国の人件費と家賃が今のところ軽く、日本より安い原価を日本品質で出せるためだ。ただ、アジアの営業利益は24年9月〜25年5月に前年を5%下回った。出店が先行し、中国でメニュー価格の引き上げに踏み切った。値上げをしない看板を、中国では下ろしたことになる。
成長の道筋は2つある。1つは中国の店数を1,000店規模へ倍増すること。広州では工場が26年1月に完成予定で、投資は50億円を超える。もう1つはベトナムやオーストラリア、マレーシアなど新しい国への展開だ。「1万店」という長い目標を掲げている。
国内では、QRコードの注文、ゾーンマネジャーの増員、朝食の試験、徳島・愛媛・大分など新しい県への出店で、客数と客単価を伸ばしている。26年8月期は、会社が営業利益182億円を見込む。
優良さと弱いところ
サイゼリヤの強みは、安く出しても利益を残せる仕組みだ。安さを売りにする会社は多いが、安さが続くのは原価の仕組みを自分で持つ会社だけだ。同社は工場、産地の調達、物流、店舗の運営まで、ほぼ一貫して手元に置く。
ただし、強みが利益率に出ているとは言いにくい。2010年の営業利益率は14%台だったが、14年に4%台へ落ちた。コロナで20年・21年は赤字になった。23年以降は6%台に戻したが、国内に限れば3%だ。安さの哲学は、値上がりの時代には利益を削る側に働く。
資本の使い方は堅実だ。借金はなく、純現金は約610億円、自己資本比率は65%に達する。無理な買収もしない。一方で、株主への還元は薄い。25年8月期は増配したが、純利益に占める配当の割合は1割強にとどまる。
経営の質は、創業者の価値観がそのまま会社の形になっている点に表れる。客を第一に置き、値上げを後回しにする文化は、顧客の信頼を守る。反面、必要な値上げが遅れ、利益を薄くする恐れもある。世代交代は進み、社長は松谷秀治氏が務める。
バリュー投資家が気にする点は3つある。国内の利益率が戻るか。中国の高い利益率が守れるか。そして溜まった現金が株主に戻るか。筆者は、1つめは時間がかかり、2つめは競争で徐々に薄れ、3つめは戻りが遅いと見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
外食は人口が減る国内で、量が増えにくい産業だ。日本フードサービス協会の統計では、外食の市場はコロナ前の水準へ戻る途中にある。伸びる場所は、客数ではなく客単価と、海外の店数に移っている。
国内の競争は、ファミリーレストランの中での争いだ。すかいらーくグループ、ロイヤルホスト、ジョリーパスタ、さらに牛丼や回転寿司まで、「安くて早い外食」の財布を奪い合う。サイゼリヤは最安の位置を長く守ってきた。物価が上がる局面では、最安の看板は客の安心になる。
人件費の上昇は、業界全体の重しになる。最低賃金の上昇とパートの不足で、店の運営費は年3〜5%のペースで上がり続ける。セルフオーダーや配膳の省力化に投資できる会社だけが利益率を守れる。サイゼリヤはQRコード注文を入れ、人の手を減らしている。
中国では、イタリアンを手頃な価格で出す店は限られ、同社が先に広い店網を作った。アジア事業の利益は日本の3倍といわれる。ただ、人件費と家賃は中国でも上がる。地方の中小都市へ広げるほど、1店あたりの売上は小さくなりやすい。現地の外食チェーンも安さで追い上げる。
もう1つの変化は円安だ。輸入の食材が多く、円が弱いと原価が上がる。いっぽう、海外の売上は円に直すと増える。両方の効きを見る必要がある。
景気後退では、低価格の店は落ち込みが浅い。外食から低価格チェーンへ客が移るためだ。ただ、20年のコロナのように店が開けられないと、固定の家賃と人件費が重くのしかかる。
資本政策と M&A
資本政策は守りに偏っている。自己資本比率は65%、純現金は約610億円。借金で成長するのでなく、稼いだ現金で出店する。
還元は薄い。25年8月期は増配したが、純利益に占める配当の割合は1割強。自社株買いは目立たない。創業者が約28%を持ち、信託口と資産管理会社が上位を占める。株主が声を上げにくい構造で、現金は会社の判断で溜まりやすい。
現金の使い道は、広州の新工場(50億円超)、中国の出店、新しい国への展開が中心だ。M&Aで買う気配は薄い。一方、買われる可能性は、創業者の持株が大きいため低い。
筆者は、現金を2つに分けて見た。店の家賃と運転資金の備えとして約260億円を残し、約350億円を余った現金とした。そのうえで、戻りが遅いと見て、半分の値打ちだけを足している。
株主優待は2024年に廃止済みで、費用は利益に残らず、株主の受け取り分も無い。還元は配当に集約されている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内の利益率が戻り、中国が1,000店を超える。サイゼリヤの強みは、安く出して客数で稼ぐ形で、物価が上がる時代に追い風になる。
国内では、新しい県への出店が続く。1,050店の今から、地方の幹線沿いと駅前に広げれば、1,400店は届く。QRコード注文や配膳の省力化で、人件費の増加を吸収し、営業利益率は8%に戻る。2010年の14%には届かないが、売上が3,100億円規模なら利益は250億円に達する。
海外では、中国の広州工場が完成し、物流と原価の強みが地方都市にも及ぶ。1,000店の目標を超え、ベトナム、オーストラリア、マレーシアも軌道に乗る。海外の店数は1,500店規模になり、利益率は12%台を保つ。値上げは通っても客数は落ちない。
資本の面でも上振れる。溜まった現金が配当と自社株買いで戻り、自己資本が膨らまず、ROEは15%近くに上がる。この場合の10年後の利益は400億円規模、倍率は16倍まで許される。
強気の人は、「安さが最大の堀であり、物価が上がるほど客はサイゼリヤに集まる」と主張する。
慎重な見方
国内の利益率は戻らず、中国は思ったほど伸びない。サイゼリヤが続けてきた「値上げをしない」姿勢は、人件費と食材が毎年3%上がる世界で、構造的に利益を削る。
国内は売上の3分の2を占めるのに、利益は3%しか残らない。22年8月期は営業利益が4億円、21年は赤字だった。直近の回復は、客数の増加と売上の戻りに支えられたもので、人手不足が続けば再び薄くなる。
中国では、すでに値上げに踏み切った。アジア事業の営業利益は、24年9月〜25年5月に前年を5%下回った。出店が先行し、地方の中小都市に広げるほど1店の売上は小さい。現地の安いチェーンと、日本ブランドへの反発も気にかかる。
そのうえ、現金は思うほど株主のものではない。店の家賃は固定の約束だ。創業者の持株が大きく、還元の圧力も弱い。値段は、利益の伸びを先に織り込みすぎている。
慎重な見方では、10年後の営業利益は200億円前後にとどまり、ROEは資本コストに届かない。
どちらに重みを置いたか
強気の主張は、国内の利益率の回復と中国の拡大の両方がうまくいく前提に立つ。どちらか1つでも欠ければ成り立たない。慎重な見方は、現在の利益がすでに回復途上の高い水準にあり、10年後に伸びる余地が小さいと指摘する。
強いのは慎重な見方だ。ただし、会社の質が高く、純現金が厚いため、構造的な負けの確率は他の外食と同じ1割前後にとどめた。確率はやや悲観側に寄せ、中立を32%に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/08 期)
確率で加重した株価時価総額 9,194 円4,519 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,014 円499 億円)。 今の値に割り戻すと 5,281 円2,596 億円、今との差 −30.9%、 期待の年率 +2.9%(資本コスト 7.2%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 17,818 円8,758 億円 | 1,668 円820 億円 | +155.1% | +9.8% | 1,949 円958 億円 |
| やや楽観 | 25% | 13,701 円6,734 億円 | 1,221 円600 億円 | +95.3% | +6.9% | 3,730 円1,834 億円 |
| 中立 | 32% | 9,915 円4,874 億円 | 1,058 円520 億円 | +43.6% | +3.7% | 3,511 円1,726 億円 |
| やや悲観 | 22% | 3,275 円1,609 億円 | 671 円330 億円 | −48.4% | −6.4% | 868 円427 億円 |
| 悲観 | 11% | 855 円420 億円 | 509 円250 億円 | −82.2% | −15.8% | 150 円74 億円 |
| 加重平均 | 100% | 9,194 円4,519 億円 | 1,014 円499 億円 | +33.6% | +2.9% | 10,209 円5,018 億円 |
今の株価時価総額 7,640 円3,755 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 10% 国内が回復し、中国が1,000店を超える 利益 396 億円 · PER 21.1 倍 · 株価時価総額 17,818 円8,758 億円
国内は新しい県への出店が続き、店数が1,400店まで増える。人件費の上昇はQRコード注文や省力化で吸収し、値上げも物価並みに通る。営業利益率は8%に戻る。
中国は広州工場の稼働で原価の強みが地方にも及び、1,000店を超える。ベトナムやオーストラリアも軌道に乗り、海外は1,500店規模になる。利益率は12%台を保つ。
溜まった現金は配当と自社株買いで戻り、ROEは15%近くに上がる。10年後の営業利益は565億円、純利益は約400億円になる。安さの看板が、物価高の時代にいちばん強い堀になった世界だ。
- 日本(国内のサイゼリヤ):数量 1,400(国内の店数(店))× 価格 2.24(1店あたり年間売上(億円))→ 売上 3,135 億円・営業利益 251 億円。営業利益率8.0%
- アジア(中国を中心とする海外):数量 1,500(海外の店数(店))× 価格 1.68(1店あたり年間売上(億円))→ 売上 2,514 億円・営業利益 314 億円。営業利益率12.5%
倍率:事業の純利益 391 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 21.4% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)262 億円。全体の PER 21.08 倍、時価総額 8,507 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の利益率の回復と中国の拡大が同時に成功する必要があり、10年続けて連続で当たる確度は高くない。
やや楽観 25% 利益率が戻り、海外網が広がる 利益 309 億円 · PER 20.3 倍 · 株価時価総額 13,701 円6,734 億円
国内は店数が1,320店まで増え、営業利益率は6.8%に戻る。値上げは物価に近い水準で通り、客数は大きく落ちない。
中国は1,000店に届かないまでも、海外全体で1,300店規模の網になる。利益率は11.5%で守られ、広州の新工場が原価を支える。
配当は利益の3割ほどに高まり、現金の戻りも進む。10年後の営業利益は約440億円、純利益は約310億円で、ROEは12%に届く。会社の質は保たれ、利益も伸びる。ただ、倍率が大きく上がる世界ではない。安さを守りつつ、必要な値上げを少しずつ通せた10年だ。
- 日本(国内のサイゼリヤ):数量 1,320(国内の店数(店))× 価格 2.19(1店あたり年間売上(億円))→ 売上 2,891 億円・営業利益 197 億円。営業利益率6.8%
- アジア(中国を中心とする海外):数量 1,330(海外の店数(店))× 価格 1.60(1店あたり年間売上(億円))→ 売上 2,126 億円・営業利益 245 億円。営業利益率11.5%
倍率:事業の純利益 304 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.5% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)262 億円。全体の PER 20.25 倍、時価総額 6,420 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中国の店が計画に近づき、国内の値上げと省力化もある程度通る現実的な上振れ。
中立 32% 中立:良い会社だが堀は強まらない 利益 232 億円 · PER 19.0 倍 · 株価時価総額 9,915 円4,874 億円
国内の店数は1,230店に増え、営業利益率は5.5%まで戻る。値上げは物価より少し遅れ、客数は人口減で微減にとどまる。
中国は900店近くまで進み、海外全体で1,150店になる。利益率は競争と人件費で10.5%へ緩やかに下がる。広州の新工場は原価を支えるが、地方へ広げるほど1店の売上は小さい。
10年後の営業利益は約330億円、純利益は約230億円。配当は3割弱で、現金の半分ほどは事業と工場に回る。いい会社だが、堀が強まるわけでも弱まるわけでもない10年になる。中国の1店あたり売上は、現地の物価上昇が日本より低く、小さな商圏が増えるため、物価の1.34倍より低い1.20倍にとどまる。創業者の価値観は、客を第一に置く形で保たれる。
- 日本(国内のサイゼリヤ):数量 1,230(国内の店数(店))× 価格 2.14(1店あたり年間売上(億円))→ 売上 2,633 億円・営業利益 145 億円。営業利益率5.5%
- アジア(中国を中心とする海外):数量 1,150(海外の店数(店))× 価格 1.55(1店あたり年間売上(億円))→ 売上 1,779 億円・営業利益 187 億円。営業利益率10.5%。中国の物価上昇は日本より低く、地方の小さい商圏に広げるため、価格は物価の 1.34 倍より低く置く
倍率:事業の純利益 227 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.1% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)262 億円。全体の PER 19 倍、時価総額 4,577 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内は利益率が少し戻り、中国は出店が続くが利益率は薄れる、2人の見方の落としどころ。
やや悲観 22% 国内も中国も稼ぎが伸びない 利益 134 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 3,275 円1,609 億円
国内は店数が1,150店にとどまり、営業利益率は3.5%から上がらない。人件費は毎年上がり、値上げは通しにくい。
中国は950店規模で、地方への出店が採算を押し下げ、利益率は8.5%まで下がる。現地の安いチェーンとの競争が続き、1店あたりの売上は物価に追いつかない。
10年後の営業利益は約200億円、純利益は約130億円で、ROEは資本コストに届かない。会社の質は残るが、国内も中国も稼ぎが伸びない。利益の薄い、成熟した外食になる。工場や新しい国への投資は、資本コストに見合う稼ぎを生まず、現金は積み上がったまま株主へ戻らない。
- 日本(国内のサイゼリヤ):数量 1,150(国内の店数(店))× 価格 2.04(1店あたり年間売上(億円))→ 売上 2,348 億円・営業利益 82 億円。営業利益率3.5%
- アジア(中国を中心とする海外):数量 950(海外の店数(店))× 価格 1.42(1店あたり年間売上(億円))→ 売上 1,347 億円・営業利益 115 億円。営業利益率8.5%
倍率:ROE 6.6%(純利益 134 億円 ÷ 自己資本 2,036 億円)は資本コスト 7.25% に届かず、新しく投じるお金は k を下回る稼ぎしか生まない。この場合、ためた利益は額面より小さい価値しかなく、倍率は 1÷k の 13.8 倍を大きく下回る。国内の利益率が3.5%で止まり、中国が薄れる構造的な弱さを見て、9.0 倍に置いた。余った現金は谷で食う想定で 0.75 倍に減らし、戻り方 0.5 を掛けて足した。
確率:国内の人件費が値上げで吸収しきれず、中国の競争も強まる。外食全体で同程度に置いた。
悲観 11% 構造的に優良さを失う 利益 20 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 855 円420 億円
国内は不採算店の閉鎖が続き、店数は1,000店まで減る。安さの看板は残るが、人件費と食材の上昇を吸収できず、営業利益率は0.5%に落ちる。
中国は過剰な出店と、現地チェーンとの値下げ競争、日本ブランドへの逆風が重なる。600店規模で、利益率は2%まで下がる。店の家賃は固定費として残り、売上が落ちても減らない。
10年後の営業利益は約25億円、純利益は約20億円にとどまる。構造的に優良さを失い、稼ぐ力では価値を測れない。価値の床は、純現金と売れる資産の水準になる。創業者の支配が続くため、再編や買収で値段が持ち上がる展開も期待しにくい。
- 日本(国内のサイゼリヤ):数量 1,000(国内の店数(店))× 価格 1.81(1店あたり年間売上(億円))→ 売上 1,811 億円・営業利益 9 億円。営業利益率0.5%
- アジア(中国を中心とする海外):数量 600(海外の店数(店))× 価格 1.29(1店あたり年間売上(億円))→ 売上 774 億円・営業利益 15 億円。営業利益率2.0%
倍率:稼ぐ力は事業の純利益約15億円 ÷ k 7.25% = 約210億円と小さい。価値は純現金+売れる資産の税後の床(約420億円)で測り、今の自己資本 1,166 億円に対する PBR 0.36 倍とした。市場の倍率から置いたものではない。
確率:国内の値上げ遅れ、中国の過剰出店と日本ブランドへの逆風が重なる複合の筋書き。他の外食と同じ1割前後に置き、堀と現金の厚みで極端には上げなかった。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本(国内のサイゼリヤ)
国内約1,050店のサイゼリヤ。直営中心で、イタリアンを安く出し、客数で稼ぐ。25年8月期は売上の約3分の2、営業利益の約3分の1。
| 数量国内の店数(店) | 価格1店あたり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/08 | 1,050 | 1.65 | 1,729 | 50 |
| 10 年後 中立 | 1,230 | 2.14 | 2,633 | 145 |
取り方:25年8月期の日本セグメントの売上1,729億円と営業利益50億円(有報)を、国内店数約1,050店で割って1店あたり売上を逆算した。1店あたり売上は客数(量)と客単価(名目)の積で、客数は人口減と新店の取り合いで微減、客単価は物価に沿って上がると置き、10年中立で1.30倍(物価の1.34倍より低め。安さの方針で値上げが遅れる分と、地方の小さい商圏の新店で平均が薄まる分)とした。
アジア(中国を中心とする海外)
中国約500店を中心に、香港・シンガポール・台湾・ベトナムなどで約650店。国内より利益率が高い稼ぎ頭。
| 数量海外の店数(店) | 価格1店あたり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/08 | 650 | 1.29 | 838 | 101 |
| 10 年後 中立 | 1,150 | 1.55 | 1,779 | 187 |
取り方:25年8月期のアジアセグメントの売上838億円と営業利益101億円(有報)を、海外店数約650店で割って逆算した。1店あたり売上には現地の物価と円換算が乗る。中国の物価上昇は日本より低く、地方の中小都市へ広げると1店の売上は小さくなるため、10年中立で1.20倍(物価の1.34倍より低い)とした。
リスクと懸念
国内の利益率が戻らない
国内は売上の3分の2を占めるが、営業利益率は3%台だ。人件費と食材が毎年上がる中で、値上げを後回しにする方針が続けば、利益は薄いままになる。過去には22年8月期に営業利益が4億円まで落ちた。国内の出店余地も、新しい県の需要がどこまで続くか分からない。
中国の利益率と店数
海外の利益の大半は中国だ。アジアの営業利益は24年9月〜25年5月に前年を割り込み、値上げに踏み切った。地方の中小都市へ広げるほど1店の売上は小さくなり、現地の安い外食チェーンも追ってくる。1,000店計画が利益の伸びに直結しない恐れがある。
日中関係と為替
中国は海外の利益の中心で、日本ブランドへの反発や日中関係の悪化が起きれば、店の売上に直接響く。為替も両面で効き、円安は海外の円換算利益を増やすが、輸入食材の原価を押し上げる。この10年は円相場を150円で固定したが、現実は動く。
家賃の固定費
約1,050店を持つ国内の多くは借りた店舗だ。家賃は景気が悪くても毎年払う固定の約束で、純現金や自己資本比率が見かけほど強くない理由になる。新リース会計が28年8月期から入ると、貸借対照表の形も変わる。悲観では、この家賃が固定費として残る。
現金が株主に戻らない
純現金は約610億円と厚いが、配当は純利益の1割強で、自社株買いも目立たない。創業者が約28%を持つ会社は、現金を溜めやすい。広州の新工場や海外の出店に使い続ければ、現金の多くは株主の手に届かない。
食の安全と人手不足
安い値段で大量に出す仕組みは、品質事故が起きると多くの店に影響が及ぶ。人手不足が続けば、店の運営を支える人員も確保しにくくなる。ワンオペや長時間労働のような問題が起きれば、ブランドが傷つく。
世代交代
創業者の正垣泰彦会長は1973年に社長になり、2009年に会長へ退いた。経営は松谷秀治社長が担うが、会長の価値観が会社の形を決めている。会長の影響力が薄れた時に、値上げや出店、還元の方針が変わる可能性がある。
今後の分かれ目
- 国内の営業利益率が3年続けて6%を超えたら
- 中立の国内利益率5.5%を上方へ見直す。値上げと省力化で人件費を吸収できたとみて、やや楽観の確率を上げる。
- 国内で既存店の客数が落ち始めたら
- 値上げが客離れを招き始めたとみて、やや悲観側に重みを移す。最安の看板が崩れたかを見る。
- 中国で店数が1,000店に近づいても、アジアの利益が増えなければ
- 規模だけが伸び、稼ぎに結びついていないとみる。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 広州の新工場が稼働し、中国の原価が下がったら
- 地方都市でも利益率を保てる条件が整ったとみて、中立から楽観側へ確率を動かす。
- 配当や自社株買いが利益の半分に近づいたら
- 溜まった現金が株主へ戻り始めたとみて、余剰現金の戻り方を0.5から1.0へ引き上げる。
- 日中関係の悪化で中国の店の売上が落ち込んだら
- 海外の利益の柱が揺らぐ。悲観の筋書きの確率を引き上げ、中国の店数と利益の前提を下げる。
見ておくもの
- 国内既存店の客数と客単価(月次)と、営業利益率の推移(セグメント別)
- 中国の店数、1店あたり売上、アジアの営業利益の増減
- 広州工場の稼働と、中国の原価率の変化
- 配当・自社株買いの額と、純現金の増え方
- 新リース会計(2028年8月期)の影響の開示
倍率と資本コストの決め方
国内と海外の2区分で、店数(実質)×1店あたり売上(名目)を積み上げ、自己資本は今の値+期間の純利益−還元で流し、ROE は結果として出した。倍率は正当化 PER(k 7.25%、g 3.75%、RONIC は k+残る割合 1/2×(ROE−k))の8割までに置き、今の株価や過去・同業の PER は使っていない。悲観は稼ぐ力と純現金+売れる資産の床で置いた。数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえ、28年8月期から新リース会計で営業利益が増え純有利子負債が増える形に変わる点は、10年後の数字に入れていない。今の値段が倍でも半分でも価値は動かない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16→21.08 倍・やや楽観 PER 13.9→20.25 倍・中立 PER 12.7→19 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本 7.5% に quality −0.25% を足した 7.25%。最安の看板で景気後退の落ち込みが浅い点だけを循環の下げに反映し、他は普通とした。堀や純現金の厚さで k を下げない。創業者の支配や中国依存などの個別のリスクは k に足さず、やや悲観・悲観の確率で表した。事業は黒字で傾いておらず上乗せ(extra)も置かない。