結論
H2Oリテイリングは、阪急うめだ本店を旗艦とする百貨店と、関西の食品スーパー群を二本の柱にする小売グループである。筆者の結論は、10年の本質価値は今の時価総額をやや下回るというものだ。事業の質は悪くない。ただ、稼いだ利益に対する株主の取り分が、資本コストに届きにくい。
稼ぎの中心は百貨店だ。阪急うめだ本店は売上3,487億円で全国2位に入り、関西に並ぶ店はない。一方で利益の質には癖がある。インバウンドの売上は1,300億円から1,040億円へ減り、中国からの訪日客が減った2025年11月以降は弱さが続く。国内の客は堅調だが、関西の人口もこれから減る。
食品が下支えになる。イズミヤ、阪急オアシス、関西スーパーの統合が終わり、営業利益は初めて100億円に乗った。薄利の商売だが、景気で崩れにくい。ここが百貨店の波を和らげる。
10年の中立では、営業利益は物価の分だけ伸びて440億円前後になる。純利益は300億円、ROEは7%台半ばだ。資本コスト7.75%に届かない会社は、利益を増やしても価値は増えにくい。会社の長期目標は営業利益350〜400億円で、中立はその先の姿に近い。
楽観は、阪急本店の改装が実り、富裕層とインバウンドが厚みを増す姿だ。悲観は、中国客の離反と食品の価格競争が重なり、利益が3分の1に縮む姿である。筆者は、悲観の深さを軽く見ない。確率を加重した本質価値は、今の時価総額より2割弱低い。
バリュー投資の観点から
オーナーとして持ちたいかを問えば、答えは「梅田の旗艦店だけなら持ちたい。ただし今の姿では値段が合わない」になる。旗艦店は、10年先も代わりが利かない。ここは堅い。
問題は資本の使い方だ。阪急本店の改装、食品の統合、寧波阪急の連結と、この数年は大きな投資が続いた。それが利益に変わるのはこれからで、いまの利益水準では、投じた資本の稼ぎが資本コストを超えない。会社が株式市場との対話を増やし、自社株買いと政策保有株の売却を進めている点は評価する。だが、ROEを引き上げる最後の一押しは事業の利益率であり、これには時間がかかる。
もう一つ気になるのは、百貨店の利益の約半分が、来年も続くか分からない海外客に寄っていることだ。安全域を見るなら、悲観の筋書きを厚めに置くべき会社である。値段が十分に下がれば話は変わるが、今の水準は、そこまで下がってはいない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ口は三つある。阪急阪神百貨店(阪急うめだ本店、阪神梅田本店、博多阪急など)、食品スーパーの関西フードマーケット(阪急オアシス、イズミヤ、関西スーパー)、そしてショッピングセンターやホテルを運営する商業施設だ。2026年3月期の営業利益は、百貨店が約240億円、食品が約100億円、商業施設が約40億円だった。
百貨店は、国内の客とインバウンドの客に分けて見ると分かりやすい。国内は外商(上客への訪問・商談販売)を軸に、年に300万円以上買う上位顧客が伸びている。インバウンドは1,040億円と前の年より2割減ったが、海外の上位顧客(VIP)の会員は5.3万人に増え、その売上は過去最高の407億円になった。観光客の一過性の買い物から、顧客を囲い込む形へ移りつつある。
食品は、価値で選ばれる「阪急オアシスマルシェ」と、価格で選ばれる「関西スーパーデイリーマート」という二つの新しい店の型を広げている。仕入れ・商品開発・物流を一つにまとめ、粗利を上げる狙いだ。店は関西に約230ある。
連結の営業利益は、事業ごとの合計より約100億円少ない。グループ内の取引の消去と本社費が引かれるためだ。会社はこの差引後の数字で目標を置いている。以降の数字も同じ形でそろえた。
優良さと弱いところ
最大の強みは立地とブランドだ。梅田という関西最大のターミナルで、阪急うめだ本店は売上で伊勢丹新宿本店に次ぐ2位に入る。ラグジュアリーブランドが店内に旗艦級の売場を構えるのも、この集客力があるからだ。他社がまねできる強みではない。
もう一つの強みは、阪急阪神グループの信用と顧客基盤だ。阪神電鉄と阪急阪神ホールディングスで株式の約18%を持ち、鉄道沿線の暮らしとつながっている。食品スーパーもその延長で、関西の生活圏に厚い店網を持つ。
弱みは三つある。第一に、百貨店は建物を阪急電鉄から借りている部分が多い。筆者が確認できた範囲では、阪急うめだ本店の施設所有者は阪急電鉄だ。梅田の一等地の含み益は、H2Oの帳簿にはない。家賃は売上が落ちても減らない固定の約束になる。
第二に、利益の山は海外客に偏る。インバウンドの売上は、中国の訪日客の増減で大きく振れた。第三に、食品スーパーの利益率は2〜3%と薄く、人件費と物流費の上昇が直撃する。
資本効率も強いとは言えない。過去10年のROEの中央値は5%台で、コロナ禍の赤字を含むとはいえ、資本コストを安定して超えた年はほとんどない。経営は資本を意識し始めたが、成果はまだ途中だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
関西の百貨店市場は、人口が緩やかに減るなかで、富裕層とインバウンドに支えられている。国内の百貨店全体の売上は2025年に5兆6,754億円と5年ぶりに減り、免税売上は1割以上落ちた。数量が増える市場ではない。伸びるのは客単価と、富裕層・訪日客の取り込み分だけだ。
競争相手は、梅田の大丸梅田店、大阪の髙島屋大阪店、天王寺のあべのハルカス近鉄本店である。梅田では阪急うめだ本店が首位で、近隣との差は広がった。ただ、百貨店全体が客を失う側にいる点は変わらない。2030年には大阪にIRとMICE施設が開き、海外の富裕層の需要が増える可能性がある。これは追い風になりうる。
食品スーパーは、関西でも競争が厳しい。ライフ、万代、イオン、コープこうべなどが並び、ドラッグストアも食品を売る。値上げで客単価は上がるが、客数は人口とともに減る。勝てるのは、仕入れと物流を束ねた規模のある会社だ。H2Oが3社を統合したのは、この規模の勝負に備えるためだった。
業界の見方としては、国内の数量は10年で1割ほど減るとみるのが中立だ。物価は10年で1.34倍になり、値段はそれに沿って上がる。インバウンドは波があるが、構造的には増える側に置く。会社の足もとの見通しも、2027年3月期の営業利益325億円とほぼ横ばいだ。
資本政策と M&A
還元の方針ははっきりしている。配当は株主資本に対して1.8%以上を基準にし、2024〜26年度の3年で自社株買いを300億円規模で行う。2025年度の総還元性向は約7割だった。
同時に、政策保有株の縮減を進めている。2026年4月に東宝株を売り、純資産に対する比率は2027年3月末に20%を下回る見込みだ。売却で得たお金は、投資と還元に回る。
M&Aは、すでに山を越えた。関西スーパーマーケットを完全子会社にし、イズミヤ・阪急オアシスと統合した。中国の寧波阪急も連結に入れた。今後は大きな買収より、阪急本店の改装や食品の新しい店の型への投資が中心になる。
株主構成では、阪神電鉄と阪急阪神ホールディングスで約18%を持ち、H2Oも阪急阪神の株を少し持つ。互いに持ち合う関係だ。グループの核の一つであり、第三者が買収に動く余地は小さいと筆者は見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
楽観の見方では、阪急うめだ本店の改装がここから実りはじめる。会社は売上4,000億円を目標にし、改装は2026年3月に概ね終わった。海外の上位顧客は会員が5万人を超え、上位顧客の売上は過去最高だ。2030年には大阪にIRが開き、アジアの富裕層が梅田に来る。円安と資産高が続けば、外商の上位顧客もまだ増える。
食品も強気に見る材料がある。統合で仕入れが一本化され、新しい店の型が70店規模に広がる。営業利益が100億円を超えたのは、その入口にすぎない。関西には、これだけの店を束ねて仕入れと物流を一本化した食品の会社が他にない。規模の力が効いてくるのはこれからだ。
さらに、会社は目標に営業利益350〜400億円を置き、ROE8%以上を掲げる。営業利益は2年連続で最終年度の目標を上回った。物価の分を乗せて、10年後に営業利益を600億円超まで伸ばすことも、国内の客が堅く、インバウンドが戻る前提なら無理な話ではない。そのとき、投じた資本の稼ぎは資本コストを上回り、資本の使い方への評価も一変する。
慎重な見方
慎重な見方では、利益の質がまず問題だ。2025年3月期の過去最高益は、インバウンドの急増と資産売却益が押し上げた。インバウンド売上は1,300億円から1,040億円へ落ち、その後も中国客の減少が続く。免税制度の見直しや為替の変動が重なれば、さらに下がる。
国内も楽観できない。関西の人口は減り、阪急本店を除く店は構造的に縮む。食品スーパーは利益率が2%台で、人件費と物流費が上がれば簡単に赤字に近づく。新しい店の型を70店まで広げる投資も、競合のライフや万代が応じれば回収は遅れる。鉄道沿線の暮らしを押さえる強みはあるが、それが食品の利益率を押し上げた実績はまだ薄い。
最後に、資本効率だ。ROEは実質で7%台にとどまり、資本コストを下回る。ここに数年単位の投資が積み上がっている。会社が目標とするROE8%は、資本コストと同じ水準でしかない。利益を増やしても、価値は増えない可能性がある。会社は株式の評価を上げたいとするが、評価は利益の質で決まる。
どちらに重みを置いたか
強いのは慎重派の見方である。旗艦店の強さは認めるが、それは今の利益に織り込まれている。利益の山がインバウンドに偏る点と、ROEが資本コストに届かない点は、楽観の材料では埋まらない。確率は中立に4割弱を置き、悲観側に厚く寄せた。楽観の確率は小さく、悲観は1割を超える。旗艦店という堅い資産は、悲観の深さを和らげるが、消しはしない。ROEが資本コストを超える日が見えるまでは、価値の中心は今の時価総額より低いとみる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,707 円4,151 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,406 円1,574 億円)。 今の値に割り戻すと 2,726 円3,052 億円、今との差 −3.7%、 期待の年率 +6.1%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,773 円7,583 億円 | 2,019 円2,260 億円 | +210.7% | +12.0% | 703 円787 億円 |
| やや楽観 | 21% | 5,253 円5,881 億円 | 1,697 円1,900 億円 | +145.6% | +9.4% | 1,459 円1,634 億円 |
| 中立 | 38% | 3,942 円4,413 億円 | 1,536 円1,720 億円 | +93.6% | +6.8% | 2,082 円2,331 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,005 円2,245 億円 | 1,072 円1,200 億円 | +8.7% | +0.8% | 677 円758 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,121 円1,255 億円 | 625 円700 億円 | −38.3% | −4.7% | 192 円215 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,707 円4,151 億円 | 1,406 円1,574 億円 | +80.7% | +6.1% | 5,113 円5,725 億円 |
今の株価時価総額 2,830 円3,168 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 富裕層とインバウンドが厚みを増す 利益 466 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 6,773 円7,583 億円
阪急うめだ本店の改装が実り、売上は4,000億円台に乗る。大阪のIRが開き、アジアの富裕層が梅田に来る。インバウンドの客数は今の1.5倍に増え、客単価も物価を上回って上がる。国内も外商の上位顧客が伸び、百貨店全体の利益率は上がる。
食品は統合の効果が出る。仕入れと物流が一本になり、新しい店の型が広がる。営業利益率は3%台に乗る。中国の寧波阪急も堅調で、商業施設の利益も伸びる。会社は目標に営業利益350〜400億円を置くが、この筋書きでは物価の分を乗せて10年後に700億円近くまで伸びる。ROEは1割を超え、資本コストを超える稼ぎが定着する。
- 百貨店・国内顧客:数量 4,308(買上客数(万人・推定))× 価格 1.67(客単価(万円))→ 売上 7,204 億円・営業利益 288 億円。客数横ばい・客単価は物価超・利益率4.0%
- 百貨店・インバウンド:数量 165(買上客数(万人・推定))× 価格 13(客単価(万円))→ 売上 2,194 億円・営業利益 307 億円。客数1.5倍・利益率14%
- 食品スーパー:数量 225(店舗数(店))× 価格 27(1店当たり年間総額売上高(億円))→ 売上 5,975 億円・営業利益 197 億円。225店・利益率3.3%
- 商業施設:数量 18.0(運営施設数(推定))× 価格 25(1施設当たり年間総額売上高(億円))→ 売上 448 億円・営業利益 63 億円。18施設・利益率14%
倍率:事業の純利益 466 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍。全体の PER 15.16 倍、時価総額 7,065 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:旗艦店の強さと富裕層の拡大が続く一方、利益の山がインバウンドに偏る。会社の目標の延長のうまくいく姿なので、確率は小さく置いた。
やや楽観 21% 改装の効果が出て、食品も安定する 利益 384 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 5,253 円5,881 億円
阪急本店の改装は計画どおりに実を結び、売上は4,000億円近くまで戻る。インバウンドの客数は今の1.35倍まで回復するが、2024年度のピークを大きく超えるわけではない。国内は外商が伸びて客単価を押し上げる。
食品は営業利益が100億円台で安定し、既存店も堅調だ。新しい店の型が一定数に広がり、利益率は3%に近づく。新規事業はまだ小さい。営業利益は物価の分を乗せて560億円ほどになり、会社の長期目標を上回る。ROEは9%前後と、資本コストを上回る。ただし、関西の人口減とインバウンドの波は残るので、楽観のように資本コストを大きく超えるまでは行かない。国内の客単価は物価並みか、やや上を保つ。
- 百貨店・国内顧客:数量 4,222(買上客数(万人・推定))× 価格 1.64(客単価(万円))→ 売上 6,925 億円・営業利益 242 億円。客数2%減・利益率3.5%
- 百貨店・インバウンド:数量 149(買上客数(万人・推定))× 価格 13(客単価(万円))→ 売上 1,918 億円・営業利益 249 億円。客数1.35倍・利益率13%
- 食品スーパー:数量 222(店舗数(店))× 価格 26(1店当たり年間総額売上高(億円))→ 売上 5,838 億円・営業利益 175 億円。222店・利益率3.0%
- 商業施設:数量 17.0(運営施設数(推定))× 価格 24(1施設当たり年間総額売上高(億円))→ 売上 411 億円・営業利益 51 億円。17施設・利益率12.5%
倍率:事業の純利益 384 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.93 倍、時価総額 5,349 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:阪急本店の改装と食品の統合は実績が出始めており、計画どおりに進む確率はある程度見込める。
中立 38% 普通に、物価並みに伸びる 利益 300 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 3,942 円4,413 億円
百貨店の国内客数は10年で1割ほど減るが、客単価は物価並みに上がり、売上は増える。インバウンドは波がありつつ構造的には増え、客数は今の2割増に落ち着く。阪急本店の改装効果で国内の利益率は2%から3%に戻る。
食品は店を少し減らしながら、1店当たりの売上は物価並みに伸びる。統合の効果は出るが、競合が応じるので利益率は2%台半ばにとどまる。商業施設は老朽施設の閉館が続き、利益はほぼ横ばいだ。
営業利益は物価の分だけ伸びて440億円前後になり、会社の長期目標350〜400億円を超える水準に着地する。ただしROEは7%台半ばで、資本コストには届かない。経営は大きく変わらず、普通の百貨店・食品スーパーの複合として評価される10年になる。
- 百貨店・国内顧客:数量 4,093(買上客数(万人・推定))× 価格 1.61(客単価(万円))→ 売上 6,582 億円・営業利益 197 億円。客数5%減・客単価は物価並み・利益率3.0%
- 百貨店・インバウンド:数量 132(買上客数(万人・推定))× 価格 13(客単価(万円))→ 売上 1,672 億円・営業利益 201 億円。客数1.2倍・利益率12%
- 食品スーパー:数量 215(店舗数(店))× 価格 26(1店当たり年間総額売上高(億円))→ 売上 5,543 億円・営業利益 144 億円。215店・利益率2.6%
- 商業施設:数量 17.0(運営施設数(推定))× 価格 24(1施設当たり年間総額売上高(億円))→ 売上 403 億円・営業利益 46 億円。17施設・利益率11.5%
倍率:事業の純利益 300 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 3,870 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:旗艦店の強さと、人口減・競争の弱さが拮抗する中心の姿。
やや悲観 22% インバウンドが細り、食品が伸び悩む 利益 167 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 2,005 円2,245 億円
中国客の戻りは鈍く、インバウンドの客数は今より少し減る。国内の客数も1割落ち、客単価の上昇は物価を下回る。百貨店の利益率は2%前後にとどまる。
食品は競争が激しく、店数を減らしても利益率は2%に届かない。人件費と物流費の上昇を、値上げで転嫁しきれない。商業施設は、老朽施設の閉館が続く。
営業利益は250億円前後と、今の水準を下回る。ROEは4%台に落ち、資本コストを大きく下回る。阪急本店は強いままだが、その利益を他の店や食品の不振が食いつぶす。配当は基準どおり出せるが、自社株買いは細り、還元の総額は今より減る。
- 百貨店・国内顧客:数量 3,877(買上客数(万人・推定))× 価格 1.58(客単価(万円))→ 売上 6,110 億円・営業利益 122 億円。客数1割減・客単価は物価未満・利益率2.0%
- 百貨店・インバウンド:数量 105(買上客数(万人・推定))× 価格 12(客単価(万円))→ 売上 1,297 億円・営業利益 117 億円。客数5%減・利益率9%
- 食品スーパー:数量 210(店舗数(店))× 価格 26(1店当たり年間総額売上高(億円))→ 売上 5,414 億円・営業利益 108 億円。210店・利益率2.0%
- 商業施設:数量 16.0(運営施設数(推定))× 価格 23(1施設当たり年間総額売上高(億円))→ 売上 367 億円・営業利益 37 億円。16施設・利益率10%
倍率:ROE約4%で資本コストを大きく下回り、利益は縮む局面。長期の成長はなく、正当化PERは1÷(k−g)で g を−2%とみて約10倍。市場の倍率でなく、稼ぐ力から置いた。
確率:中国客の戻りは鈍く、食品は競争が続いている。実際に起きている流れの延長で、確率は厚めに置いた。
悲観 11% 海外客が離れ、食品が価格競争に負ける 利益 68 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,121 円1,255 億円
中国との関係の悪化などでインバウンドが細り、客数は今の6割ほどまで落ちる。国内でも阪急本店を除く店が客を失う。梅田では競合に差をつけられ、客単価を物価並みに上げられなくなる。
食品は価格競争に負け、利益率は1%台に落ちる。店を減らしても追いつかない。家賃は売上が落ちても減らないので、固定費が重くのしかかる。新事業への投資は回収できず、資産の売却と減損でしのぐ。
営業利益は100億円ほどに縮み、ROEは2%を割る。優良な百貨店という評価は失われ、稼ぐ力を測られる会社になる。それでも阪急うめだ本店という店は残るため、グループ内での再編や売却が価値を引き出す余地は残る。
- 百貨店・国内顧客:数量 3,662(買上客数(万人・推定))× 価格 1.53(客単価(万円))→ 売上 5,594 億円・営業利益 56 億円。客数15%減・値上げ不足・利益率1.0%
- 百貨店・インバウンド:数量 71.5(買上客数(万人・推定))× 価格 11(客単価(万円))→ 売上 815 億円・営業利益 65 億円。客数35%減・利益率8%
- 食品スーパー:数量 205(店舗数(店))× 価格 25(1店当たり年間総額売上高(億円))→ 売上 5,180 億円・営業利益 83 億円。205店・利益率1.6%
- 商業施設:数量 15.0(運営施設数(推定))× 価格 21(1施設当たり年間総額売上高(億円))→ 売上 320 億円・営業利益 29 億円。15施設・利益率9%
倍率:純利益が小さく、ROEは2%を割る。稼ぐ力(純利益÷k)の範囲で、成長のない縮む会社として10倍に置いた。売れる資産の価値は確認できていないため足していない。自己資本に対するPBRは0.17倍と低く出るが、店舗設備や在庫の売却価値が確認できないこと、建物の多くが賃借で土地の含み益が帳簿に無いことから、帳簿の自己資本は床にならないと見た。
確率:旗艦店という堅い資産があるため全面的な崩れは起きにくい。ただ海外客への依存と家賃の固定費が重なる下振れは、個社の事情で10年のうちに起きうるので1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
百貨店・国内顧客
阪急うめだ本店、阪神梅田本店、博多阪急などの国内の客の売上。外商(上客への訪問・商談販売)を含む。
| 数量買上客数(万人・推定) | 価格客単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,308 | 1.20 | 5,170 | 103 |
| 10 年後 中立 | 4,093 | 1.61 | 6,582 | 197 |
取り方:百貨店事業の総額売上高6,210億円からインバウンド売上1,040億円(開示)を引いた約5,170億円を、客単価1.2万円(推定)で割って客数約4,300万人と置いた。営業利益は百貨店238億円からインバウンド分約135億円(推定・利益率13%)を引いた約103億円。
百貨店・インバウンド
海外からの訪日客と、海外の上位顧客(VIP)の百貨店での買い物。
| 数量買上客数(万人・推定) | 価格客単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 110 | 9.45 | 1,040 | 135 |
| 10 年後 中立 | 132 | 13 | 1,672 | 201 |
取り方:インバウンド売上は1,040億円(2025年度、開示)。VIP会員5.3万人・売上407億円(開示)を含めて客数110万人、客単価9.45万円と推定した。営業利益は利益率13%(推定)。根拠は、百貨店の営業利益が前の年から44億円減った一方でインバウンド売上が約260億円減ったこと。
食品スーパー
阪急オアシス、イズミヤ、関西スーパー。関西フードマーケットとして統合した。
| 数量店舗数(店) | 価格1店当たり年間総額売上高(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 225 | 19 | 4,329 | 100 |
| 10 年後 中立 | 215 | 26 | 5,543 | 144 |
取り方:店舗数は約225(2026年5月の資料)。総額売上高は前の年の4,285億円から約1%増の約4,330億円と推定し、店数で割った。営業利益は100億円(開示)。
商業施設
イズミヤなどのショッピングセンター、洛北阪急スクエア、モザイクモール港北、ホテルのアワーズイン阪急。
| 数量運営施設数(推定) | 価格1施設当たり年間総額売上高(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 18.0 | 18 | 318 | 38 |
| 10 年後 中立 | 17.0 | 24 | 403 | 46 |
取り方:総額売上高は前の年(旧区分)の318億円を使い、施設数18(推定)で割った。営業利益は38億円(開示)。2027年3月期から中国の寧波阪急がこの区分に入る。
リスクと懸念
インバウンドの急減
百貨店の利益のうち、海外客の分は大きい。中国政府の訪日自粛や免税制度の見直し、為替の変動で、売上は1年で2割動く。2025年11月以降の中国客の減少はすでに現れており、阪急うめだ本店の売上も前の年を下回った。回復の時期は読めない。
食品スーパーの価格競争と人件費
食品の営業利益率は2%台と薄い。ライフ、万代、イオン、コープこうべに加え、ドラッグストアも食品を売る。人件費と物流費は物価以上に上がりやすく、値上げで転嫁できなければ利益はすぐに削られる。新しい店の型への投資も、回収が遅れうる。
家賃という固定の約束
阪急うめだ本店などの建物は阪急電鉄から借りている。筆者が確認できた範囲では、施設所有者は阪急電鉄だ。家賃は売上が落ちても減らず、悲観では固定費として重くのしかかる。2028年3月期からは新リース会計基準で、借りている店の約束が貸借対照表に載り、純負債と自己資本比率の見え方が変わる。
国内客の数量の減少
関西の人口は減り、百貨店の国内客数は10年で1割ほど減るとみる。外商の上位顧客は伸びているが、中間層の百貨店離れは続く。ここを物価の分の値上げで補い続けられるかが、利益を守る分かれ目になる。
新規事業の投資が実らない可能性
会社は顧客サービス、顧客データ、新富裕層向けの事業を新しい収益源にしようとしている。まだ収益化には至らず、研究開発と人材への先行投資が利益を押し下げている。成果が出ないまま続けば、資本コストを超える稼ぎには届かない。
阪急阪神グループとの関係
阪神電鉄と阪急阪神ホールディングスで約18%を持つ安定株主であり、買収されにくい。一方で、グループの意向が資本政策の自由度に影響する面もある。建物の多くをグループから借りているため、条件が変われば家賃や再開発の判断に響く。
今後の分かれ目
- 阪急うめだ本店の売上が2026年度に4,000億円へ戻ったら
- 改装が利益に変わったと判断でき、中立から楽観側へ確率を少し移す。
- 中国からの訪日客が戻らず、インバウンド売上が1,000億円を割り込んだら
- 百貨店の利益の前提を下方修正し、やや悲観側へ確率を寄せる。
- 食品の営業利益が120億円を超えて定着したら
- 統合の効果が本物だとして、中立の利益率を引き上げる。
- 食品の既存店売上が前の年を継続して下回ったら
- 競争に押されているとみて、食品の利益率を下げ、やや悲観側に重みを移す。
- 新リース会計基準の適用で、リース負債の大きさが想定を上回ったら
- 固定の家賃の重さを見直し、悲観の利益率を下げる。
- ROEが2年続けて資本コストを上回ったら
- 事業の資本効率が変わったと判断し、倍率の置き方を上げる。
見ておくもの
- 阪急うめだ本店の月次売上と、インバウンド売上の前年比
- 百貨店の国内客の売上と、外商上位顧客の売上
- 食品事業の営業利益と既存店売上
- ROEと株主資本に対する配当(1.8%以上)の水準
- 政策保有株の売却と、自社株買いの実績
- 新リース会計基準でのリース負債の開示
倍率と資本コストの決め方
セグメントは百貨店(国内・インバウンド)、食品、商業施設ごとに、客数・店数・施設数(実質)と客単価・1店当たり売上(名目)で積み、自己資本は今の値に期間の純利益を足して還元を引いて流した。ROEが資本コストに届かない中立は、倍率の上限1÷kの9割に置き、今の株価や過去・同業の倍率は使っていない。悲観は市場の倍率でなく、利益が落ちた後の稼ぐ力で置いた。純有利子負債は763億円で時価総額の2割強にとどまり、EV÷営業利益でも割高には見えない。新リース会計基準(2028年3月期から)で営業利益と純負債の形は変わるが、10年後の数字は今と同じ家賃を費用に入れた形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13→15.16 倍・やや楽観 PER 12→13.93 倍・中立 PER 11.3→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本7.5%にquality +0.5%を足した8.0%。インバウンドと外商に偏る百貨店の波で循環+0.25%、百貨店の構造的な縮小で寿命+0.25%、値決めと借金は普通の0。事業は黒字で傾いておらず上乗せ(extra)は置かない。家賃の固定費・新規事業の実行といった個別のリスクはkに足さず、筋書きの利益率と確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.75%。