結論
三越伊勢丹は、伊勢丹新宿本店・三越日本橋本店・三越銀座店の3店で稼ぐ百貨店である。筆者の結論は割高だ。土地の含み益を加えても、10年後の価値は今の時価総額の6割弱にとどまる。
この会社の利益は均一ではない。百貨店の総額売上高1.2兆円のうち、旗艦3店が約7,200億円と6割を占める。残る15店ほどの地方店は前年比で5%前後細り、利益はごくわずかだ。そこで百貨店を、旗艦の国内客、免税、地方店の3つに分けて積んだ。旗艦は売場面積が動かず、物価分だけ単価が上がる。免税は訪日客数と1人あたりの買い物額で決まり、振れが大きい。地方店は閉店が進む。
中立では10年後の営業利益が約1,080億円に伸びる。ただ名目の伸びの大半は物価で、実質の稼ぐ力はほぼ横ばいだ。純利益は約760億円、ROEは9%強で、資本コスト8.25%をわずかに上回るだけである。
含み益は悲観の床に入れた。営業用の土地は簿価で約5,300億円あるが、売れば店を失う。評価差額金は半分だけ見た。それでも、2026年3月期の純利益761億円は税効果で膨らんだ数字で、会社自身が翌期を615億円と見ている。今の値段は、一等地の価値と再開発を先に織り込みすぎている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社に好ましい点が2つある。1つは旗艦3店の立地と外商の関係という、まねされにくい強みだ。もう1つは実質無借金の財務である。再開発も既存の土地を使う投資で、買収のように資本配分を誤るリスクは小さい。
気になる点も2つある。1つ目は、強みが3店と免税に偏ることだ。旗艦3店の利益が会社の稼ぎの大半で、地方店は毎年細る。この構造は、会社全体の利益が景気と訪日客に敏感になることを意味する。2つ目は、利益の質だ。2026年3月期の純利益761億円は税効果で膨らみ、会社は翌期を615億円と見ている。
含み益はどうか。営業用の土地は簿価で約5,300億円あり、時価は簿価より高いはずだ。ただ売れば百貨店ではなくなる。筆者はこれを悲観の床にだけ入れ、中立の利益には足さなかった。
筆者がいちばん気にしているのは、10年たっても実質の稼ぐ力が今と変わらないことだ。営業利益が1,000億円を超えても、その大半は物価によるものにすぎない。これでは今の値段に見合う安全域がない。
何で稼ぐ会社か
百貨店業の中身は一様ではない。2026年3月期の総額売上高は新宿本店4,249億円、日本橋本店1,690億円、銀座店1,227億円。3店の合計は7,166億円で、百貨店業の1.2兆円の約6割になる。これに岩田屋三越1,323億円、名古屋三越607億円、札幌丸井三越599億円、伊勢丹浦和・立川・新潟などが続く。
稼ぎ方の違いも大きい。旗艦3店は外商(年300万円以上買う上位顧客)と免税の高額品で単価を押し上げる。会社全体の外商の扱い高は2,491億円で前年比7%増。海外外商も203億円と5割伸びた。免税売上は決算で金額が見えないが、海外顧客売上高の約1,480億円(前年比84%)から推すと1,300億円前後とみられる。中国人客の減少で前期は落ち込んだ。地方店は前年比95〜97%で、物価の分を差し引くと毎年実質で5%前後細っている。
クレジット・金融・友の会業(エムアイカード)は売上355億円、営業利益63億円。不動産業は売上271億円、営業利益46億円である。賃貸の不動産は2020年に不動産子会社をブラックストーンへ譲渡して小さくなっており、残る主力は店舗周辺の運営と建装だ。
中期経営計画は「個客業」への転換を掲げる。2030年度以降は旗艦店周辺に5,000億円規模の「まち化」再開発を投じる計画である。
優良さと弱いところ
堀は旗艦3店の立地と、外商の顧客関係にある。新宿三丁目、日本橋室町、銀座の一等地に別の百貨店は建てられない。新宿本店だけで売場面積は約6.4万㎡あり、1万㎡あたりの総額売上高は地方店の2.7倍を超える。
ただ、強いのは3店だけだ。残る15店ほどは、人口減とECに押されて売上が毎年細る。旗艦3店が会社の利益の8割前後を稼ぎ、地方店は損益がとんとんに近いと筆者は見る。店別の利益は開示されていないため推定だが、方向はまちがいないだろう。
資本効率の履歴は厳しい。2015〜2021年3月期の営業利益率は1〜3%で、コロナ期は赤字だった。2026年3月期に営業利益率14.7%、ROE12.3%まで上がったが、純利益761億円は税効果で膨らんでいる。会社は翌期を615億円と見ており、実力のROEは9〜10%だ。
財務は堅い。自己資本比率50.8%、純有利子負債はマイナス91億円で、実質無借金である。ただ店舗の賃借料は固定の約束で、悲観の場面では重くなる。経営は旗艦集中、地方縮小の方針を実行してきた。評価できる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
百貨店は人口減とEC流出で、国内の来店客数が構造的に増えない業態だ。伸びているのは、免税と富裕層向けの高額品である。2025年の全国百貨店売上高は5兆6,754億円と5年ぶりに減り、免税売上は12.7%落ちた。インバウンド依存は、振れの大きさと裏表の関係にある。
免税は制度でも揺れる。中国人客の動向に左右され、免税の仕組みも今後変わる。三越伊勢丹は2026年3月期、中国人客の減少を国内の外商・高額品でカバーした。3月には海外顧客売上高が前年を上回った。
業界の統合は一巡した。Jフロントリテイリング、エイチ・ツー・オー リテイリング、そごう・西武の売却と、上位に集約済みである。三越伊勢丹は統合を経ず、地方店の閉鎖と旗艦集中でしのいできた。
10年の見方はこうだ。国内の客数は伸びない。旗艦の売場面積は変わらず、単価は物価並みに上がる。免税は訪日客数に連動して伸びる余地があるが、1人あたりの買い物額は制度と為替で動く。地方店は閉店と実質減少が続く。まち化は着工が2030年度以降で、10年の終盤にようやく収益が見え始める。
資本政策と M&A
還元は中期経営計画フェーズⅠ(2028年3月期まで)で総還元性向70%以上。2029年3月期以降は株主資本配当率5%以上へ切り替える。配当は累進配当を基本とし、自社株買いは機動的に決める。2026年10月に1株を2株へ分割した。
資本の使い道の本命は、旗艦店周辺の再開発への5,000億円規模の投資である。自己資金で賄えるが、期間は2030年度から最長15年と長い。投下した資金が資本コストを上回って稼ぐかは、10年の終盤まで見えない。
政策保有株は45社、取得簿価ベースで約312億円。上位はキリン、清水建設、三菱UFJなど。有報のその他有価証券評価差額金は税引き後で約135億円で、この半分を余り資産として足した。大きな金額ではない。
大型の買収や被買収は近年ない。kabufuの推計では10年以内にTOB・買収の対象になる確率は15.7%だ。都心の一等地を持つ会社として、再編の思惑は常にある。
株主優待は年約4.2億円(会社の費用ベース。10%割引カード。総株主約28万人の年間割引1,500円の仮定の下限(売上値引処理で費用の開示は無い))。優待の費用は販管費として利益から引き済みなので、株主が受け取る分として10年の還元に「年額×10年×続く見込み(中立1.0・やや悲観0.75・悲観0.5)」を足した(中立+42億円)。
点検済み:中立の営業利益率16.1%は会社予想(27・28年3月期15.3〜15.5%)を0.6pp超えるだけで、百貨店17.4%は今と同じ。超えは免税の構成の上昇。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
旗艦3店の立地は誰にもまねできない。新宿本店は総額売上高4,249億円で過去最高を更新し、日本橋も前年比4.6%増だった。外商は扱い高2,491億円(7%増)に伸び、海外外商も203億円と5割増である。免税が弱い時期も、国内の富裕層が下支えする構図ができている。
免税は訪日客数が増えれば伸びる。政府は2030年に訪日客6,000万人を目標にし、足元の約4,200万人から5割増える。欧米や東南アジアの客は中国人客より1人あたりの買い物額が大きい。免税が1,300億円から2,000億円に伸びる姿は無理筋ではない。
地方店の閉鎖は利益率を押し上げる。旗艦に経営資源を集めれば、百貨店業の利益率は今より上がる。さらに土地がある。簿価で約5,300億円の土地は、新宿・日本橋・銀座の一等地を含む。時価は簿価をかなり上回るはずで、含み益を見込めば今の値段は割高とは言えない。
2030年度以降のまち化は、持っている土地を使う投資だ。会社は売上1,000億円、営業利益200億円以上の押し上げを見込む。財務は実質無借金で、自前の資金でやれる。
慎重な見方
利益の質に疑問がある。2026年3月期の純利益761億円は、繰越欠損金の取り込みなど税効果で膨らんだ。会社は2027年3月期を615億円と見ており、営業利益が増えるのに純利益は減る。税効果が一巡すると、実力のROEは9〜10%台で、資本コスト8.25%とほとんど変わらない。
稼ぎは3店と免税に偏る。旗艦3店は総額売上高の6割、利益では8割前後を稼ぐ。残る15店ほどは前年比95〜97%で、物価分を除くと毎年実質で5%前後細っている。店を閉めれば売上が減り、閉めなければ赤字を抱える。
免税は振れる。前期は中国人客の減少で免税が急に落ち込んだ。制度の変更と為替、外交関係の変化で簡単に細る。10年で免税が増える前提は、国の目標を信じることと同じだ。
営業利益が10年で1,000億円を超えても、その大半は物価による名目の伸びにすぎない。実質の稼ぐ力は変わらず、倍率も上がらない。土地の含み益は、店を売らない限り手に入らない。再開発は5,000億円を最長15年かけて投じる計画で、10年のうちに投資の回収は見えない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。強気の見方が正しいのは、旗艦3店の強さと土地の存在までだ。そこから10年後の価値を押し上げるものは、免税の伸びと再開発だけで、どちらも不確かさが大きい。土地は営業に使っている以上、売れない。そのため悲観の床にだけ入れ、中立の価値には足さなかった。
旗艦の強さと財務の堅さがあるため、悲観に大きく寄せることはせず、やや悲観を22%、悲観を9%とした。免税の振れが中国人客の減少で現実に出たことも、この厚みの理由である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,590 円1.10 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 652 円4,522 億円)。 今の値に割り戻すと 1,158 円8,035 億円、今との差 −34.8%、 期待の年率 +2.4%(資本コスト 8.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,830 円1.96 兆円 | 964 円6,688 億円 | +113.7% | +7.9% | 303 円2,106 億円 |
| やや楽観 | 23% | 2,061 円1.43 兆円 | 796 円5,526 億円 | +61.0% | +4.9% | 657 円4,561 億円 |
| 中立 | 38% | 1,674 円1.16 兆円 | 701 円4,862 億円 | +33.7% | +2.9% | 902 円6,261 億円 |
| やや悲観 | 22% | 939 円6,517 億円 | 461 円3,200 億円 | −21.1% | −2.3% | 308 円2,138 億円 |
| 悲観 | 9% | 518 円3,593 億円 | 263 円1,823 億円 | −56.0% | −7.9% | 70 円487 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,590 円1.10 兆円 | 652 円4,522 億円 | +26.2% | +2.4% | 2,241 円1.56 兆円 |
今の株価時価総額 1,776 円1.23 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 旗艦3店が免税と外商でさらに伸び、再開発も早く立ち上がる 利益 1,226 億円 · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 2,830 円1.96 兆円
訪日客は政府目標の6,000万人近くまで増え、欧米客の単価が下支えして免税は2,000億円台後半に伸びる。旗艦3店の外商は富裕層の資産増で広がり、売場面積を少し増やして単価も物価を超えて上がる。地方店は選別が進み、閉店後に残る店は採算が改善する。再開発は2030年度に着工し、2036年3月期には一部の賃料が立ち上がる。カードも会員基盤が広がり、取扱高が伸びる。この筋書きの三越伊勢丹は、旗艦への集中が実り、株主への還元も厚くなる10年になる。不動産業は旗艦周辺の賃料改善で伸び、百貨店と合わせて利益率は17%台に乗る。ただし旗艦3店の売上に偏る構造は変わらず、利益の大半は引き続き3店と免税に依存する。
- 百貨店・旗艦3店(国内客):数量 13.8(売場面積(万㎡))× 価格 670(1万㎡あたりの総額売上高(億円。売上高にはrev_factorで直す))→ 売上 3,450 億円・営業利益 721 億円。営業利益率 7.8%(総額売上比)
- 百貨店・免税(訪日客):数量 6,000(訪日外国人数(万人))× 価格 0.43(訪日客1人あたりの当社免税売上(総額・万円))→ 売上 969 億円・営業利益 416 億円。営業利益率 16.0%(総額売上比)
- 百貨店・地方店ほか:数量 24.0(売場面積(万㎡、推定))× 価格 224(1万㎡あたりの総額売上高(億円))→ 売上 2,008 億円・営業利益 215 億円。営業利益率 4.0%(総額売上比)
- クレジット・金融・友の会業:数量 43,700(カード等の取扱高(億円、推定))× 価格 0.02(取扱高に対する営業収益の率)→ 売上 961 億円・営業利益 192 億円。営業利益率 20.0%
- 不動産業:数量 45.0(賃貸可能面積(万m²、推定))× 価格 13(1万m²当たり年間賃料収入(億円))→ 売上 585 億円・営業利益 123 億円。営業利益率 21.0%
倍率:事業の純利益 1,224 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.2% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)135 億円。全体の PER 15.13 倍、時価総額 18,656 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:旗艦3店が免税・外商でさらに伸び、再開発も早く立ち上がる。実現には訪日客6,000万人の達成と欧米客の単価が要り、確率は低め。
やや楽観 23% 旗艦3店と免税が堅調に伸び、再開発も計画どおり進む 利益 947 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 2,061 円1.43 兆円
訪日客は5,400万人まで増え、免税は1,700億円台まで伸びる。旗艦3店は外商の層が厚くなり、単価は物価をやや上回って上がる。地方店は閉店で22万㎡まで縮み、赤字店が消えて採算は少し改善する。再開発は2030年度に着工し、2036年3月期には建設が進んで一部の区画が稼働を始める。カードは会員基盤の広がりで取扱高が増える。百貨店の再編が周辺で続くなか、三越伊勢丹は単独路線を保つ。利益率は旗艦の単価上昇と地方店の整理で上がるが、地方店の実質の細りは止まらず、伸びの一部は物価によるものである。株主還元は総還元性向70%の方針が守られる。
- 百貨店・旗艦3店(国内客):数量 13.4(売場面積(万㎡))× 価格 643(1万㎡あたりの総額売上高(億円。売上高にはrev_factorで直す))→ 売上 3,214 億円・営業利益 620 億円。営業利益率 7.2%(総額売上比)
- 百貨店・免税(訪日客):数量 5,400(訪日外国人数(万人))× 価格 0.41(訪日客1人あたりの当社免税売上(総額・万円))→ 売上 824 億円・営業利益 309 億円。営業利益率 14.0%(総額売上比)
- 百貨店・地方店ほか:数量 22.0(売場面積(万㎡、推定))× 価格 221(1万㎡あたりの総額売上高(億円))→ 売上 1,814 億円・営業利益 156 億円。営業利益率 3.2%(総額売上比)
- クレジット・金融・友の会業:数量 34,200(カード等の取扱高(億円、推定))× 価格 0.02(取扱高に対する営業収益の率)→ 売上 718 億円・営業利益 129 億円。営業利益率 18.0%
- 不動産業:数量 36.0(賃貸可能面積(万m²、推定))× 価格 12(1万m²当たり年間賃料収入(億円))→ 売上 446 億円・営業利益 89 億円。営業利益率 20.0%
倍率:事業の純利益 945 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.4% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)135 億円。全体の PER 13.94 倍、時価総額 13,310 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期経営計画の方向どおりに旗艦と免税が伸びる。実績(新宿本店の最高益更新、外商の増加)に支えられるが、免税の振れが残る。
中立 38% 中立:旗艦3店は物価並みに伸び、免税と地方店は横ばいからやや減る 利益 757 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 1,674 円1.16 兆円
旗艦3店の売場面積は変わらず、単価は物価並みの1.34倍に上がる。訪日客は4,900万人に増えるが、1人あたりの買い物額は物価に届かない。中国人客への依存が薄れる一方で、免税の制度が変わるからだ。地方店は売場面積が28万㎡から20万㎡へ減り、閉店が進む。残る店の採算は少し良くなるが、実質の売上は細る。再開発は2030年度に着工するが、2036年3月期はまだ建設の途中で、収益への貢献は小さい。カードと不動産は物価並みに伸びる。営業利益は約1,080億円まで増えるものの、伸びの大半は物価で、実質の稼ぐ力はほぼ横ばいである。 株主優待の費用は利益から引き済みで、還元には受け取り分(年約4.2億円×10年)を足している。
- 百貨店・旗艦3店(国内客):数量 13.4(売場面積(万㎡))× 価格 607(1万㎡あたりの総額売上高(億円。売上高にはrev_factorで直す))→ 売上 3,033 億円・営業利益 528 億円。営業利益率 6.5%(総額売上比)
- 百貨店・免税(訪日客):数量 4,900(訪日外国人数(万人))× 価格 0.39(訪日客1人あたりの当社免税売上(総額・万円))→ 売上 708 億円・営業利益 237 億円。営業利益率 12.5%(総額売上比)
- 百貨店・地方店ほか:数量 20.0(売場面積(万㎡、推定))× 価格 218(1万㎡あたりの総額売上高(億円))→ 売上 1,623 億円・営業利益 113 億円。営業利益率 2.6%(総額売上比)
- クレジット・金融・友の会業:数量 28,500(カード等の取扱高(億円、推定))× 価格 0.02(取扱高に対する営業収益の率)→ 売上 570 億円・営業利益 95 億円。営業利益率 16.7%
- 不動産業:数量 32.0(賃貸可能面積(万m²、推定))× 価格 12(1万m²当たり年間賃料収入(億円))→ 売上 387 億円・営業利益 68 億円。営業利益率 17.6%
倍率:事業の純利益 755 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)135 億円。全体の PER 13.2 倍、時価総額 10,102 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:旗艦は物価並みの伸び、免税は横ばいからやや増、地方店は縮小。強気の見方が正しいのは旗艦と土地までで、免税と再開発の上振れは不確かなため、中立に最も厚く置いた。
やや悲観 22% 免税が細り、地方店の縮小が加速する 利益 402 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 939 円6,517 億円
中国人客の戻りが鈍く、免税の制度変更も重なって、訪日客1人あたりの買い物額が物価に届かない。免税は1,100億円台に減る。旗艦3店の単価は物価を下回る伸びで、外商の高齢の顧客も入れ替わりが進まない。地方店は閉店が加速して15万㎡まで縮むが、残る店の売上も実質で細り、採算は損益がとんとんに近づく。再開発は遅れ、着工は2030年代にずれ込む。それでも旗艦3店の集客力そのものは失われず、百貨店としての中核は保たれる。財務は無借金のまま保たれ、配当は維持される。ただ利益が営業利益ほど伸びず、営業利益率は旗艦の単価の伸び悩みで今より下がり、還元の余力も限られる10年になる。
- 百貨店・旗艦3店(国内客):数量 13.4(売場面積(万㎡))× 価格 552(1万㎡あたりの総額売上高(億円。売上高にはrev_factorで直す))→ 売上 2,762 億円・営業利益 333 億円。営業利益率 4.5%(総額売上比)
- 百貨店・免税(訪日客):数量 3,900(訪日外国人数(万人))× 価格 0.34(訪日客1人あたりの当社免税売上(総額・万円))→ 売上 495 億円・営業利益 119 億円。営業利益率 9.0%(総額売上比)
- 百貨店・地方店ほか:数量 15.0(売場面積(万㎡、推定))× 価格 201(1万㎡あたりの総額売上高(億円))→ 売上 1,124 億円・営業利益 15 億円。営業利益率 0.5%(総額売上比)
- クレジット・金融・友の会業:数量 21,850(カード等の取扱高(億円、推定))× 価格 0.02(取扱高に対する営業収益の率)→ 売上 415 億円・営業利益 54 億円。営業利益率 13.0%
- 不動産業:数量 31.0(賃貸可能面積(万m²、推定))× 価格 11(1万m²当たり年間賃料収入(億円))→ 売上 336 億円・営業利益 47 億円。営業利益率 14.0%
倍率:ROE 4.9%(純利益 402 億円 ÷ 自己資本 8,131 億円)。資本コスト8.25%を大きく下回るので、PERの上限は1÷k=12.1倍。事業の稼ぎが資本コストに届かない筋書きなので、上限の8割の9.7倍に置いた。
確率:免税の制度変更や中国人客の戻りの鈍さは前期に現実となった。地方店の縮小も前年比95〜97%と進んでおり、十分ありうるため22%。
悲観 9% 旗艦3店の外商と免税が細り、地方店がほぼ消える構造的な負け 利益 101 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 518 円3,593 億円
外商の主力である富裕層の高齢化と資産の世代交代で、旗艦3店の売上は物価に追いつけなくなる。免税は制度の変更と外交関係の悪化で2,600万人まで細り、1人あたりの買い物額も下がる。地方店は閉店を重ねて9万㎡まで減るが、固定の家賃と人件費が重く、残る店は赤字を抱える。再開発は計画が縮小され、土地の売却で資金を作る場面も出る。百貨店の収益力が戻らず、価値の中心は一等地の土地に移る。この筋書きでは営業利益は100億円台に落ち、減損で自己資本も削られる。会社の価値を決めるのは稼ぐ力ではなく、都心の土地を売却して得られる現金の額である。
- 百貨店・旗艦3店(国内客):数量 13.4(売場面積(万㎡))× 価格 462(1万㎡あたりの総額売上高(億円。売上高にはrev_factorで直す))→ 売上 2,309 億円・営業利益 124 億円。営業利益率 2.0%(総額売上比)
- 百貨店・免税(訪日客):数量 2,600(訪日外国人数(万人))× 価格 0.29(訪日客1人あたりの当社免税売上(総額・万円))→ 売上 285 億円・営業利益 38 億円。営業利益率 5.0%(総額売上比)
- 百貨店・地方店ほか:数量 9.0(売場面積(万㎡、推定))× 価格 176(1万㎡あたりの総額売上高(億円))→ 売上 590 億円・営業利益 −24 億円。営業利益率 -1.5%(総額売上比)
- クレジット・金融・友の会業:数量 17,100(カード等の取扱高(億円、推定))× 価格 0.02(取扱高に対する営業収益の率)→ 売上 291 億円・営業利益 23 億円。営業利益率 7.9%
- 不動産業:数量 28.0(賃貸可能面積(万m²、推定))× 価格 9.03(1万m²当たり年間賃料収入(億円))→ 売上 253 億円・営業利益 25 億円。営業利益率 9.9%
倍率:悲観は稼ぐ力ではなく資産の床で置く。事業の純利益101億円を資本コストで割っても約1,200億円にとどまる。土地の簿価約5,300億円に含み益3割(推定)を足して税引き後7割で見ると約6,470億円で、売却に時間と費用がかかるため5割強の約3,560億円を床にした。今の自己資本に対するPBRは0.58倍。
確率:外商の高齢化と免税の細りが重なる複合の筋書き。旗艦の立地は残るので確率は低いが、無視できない9%を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
百貨店・旗艦3店(国内客)
伊勢丹新宿本店・三越日本橋本店・三越銀座店。総額売上高は3店で約7,166億円、百貨店業の約6割。免税を除いた国内客(外商・識別顧客)の売上。
| 数量売場面積(万㎡) | 価格1万㎡あたりの総額売上高(億円。売上高にはrev_factorで直す) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 13.4 | 453 | 2,264 | 395 |
| 10 年後 中立 | 13.4 | 607 | 3,033 | 528 |
取り方:総額売上高は新宿4,249・日本橋1,690・銀座1,227億円(決算開示の店舗別)の計7,166億円から、免税の旗艦分約1,100億円を引いた約6,066億円。売場面積は新宿本店6.43万㎡(ビル情報)に日本橋・銀座を推定で足した約13.4万㎡で、2店の面積は推定(有報の設備の状況で要確認)。売上高への直しは百貨店業の売上高4,497÷総額12,051=0.373。店舗別の営業利益は開示が無く、旗艦の総額比6.5%は推定(百貨店業の利益655億円のうち、地方店約110億円・免税約150億円を引いた残り)。数量は実物の面積で、面積は10年動かさない。
百貨店・免税(訪日客)
訪日外国人向けの免税売上。多くは旗艦3店に集まる。中国人客の減少で前期は大きく振れた。
| 数量訪日外国人数(万人) | 価格訪日客1人あたりの当社免税売上(総額・万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,200 | 0.31 | 485 | 150 |
| 10 年後 中立 | 4,900 | 0.39 | 708 | 237 |
取り方:免税売上は決算で金額の開示が見つからず、海外顧客売上高約1,481億円(前年比84%・報道)から海外外商約203億円を引いた約1,300億円と推定。うち旗艦約1,100億円、地方約200億円。数量は訪日客数(約4,200万人。実物の人数)、価格は1人あたり当社の免税売上で、市場規模×シェアの形。利益は開示が無く、総額比11.5%を推定(ブランドとの取引条件上、粗利は高いが人件費・販促を負う)。
百貨店・地方店ほか
旗艦3店以外の国内17店(伊勢丹浦和・立川・新潟、岩田屋三越、札幌丸井三越、名古屋三越ほか)。人口減とECで売上が年3〜5%ずつ細る。
| 数量売場面積(万㎡、推定) | 価格1万㎡あたりの総額売上高(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 28.0 | 167 | 1,748 | 110 |
| 10 年後 中立 | 20.0 | 218 | 1,623 | 113 |
取り方:総額売上高は百貨店業12,051億円から旗艦3店7,166億円を引いた4,885億円のうち、免税約200億円を除く約4,685億円(岩田屋三越1,323・名古屋607・札幌599・浦和352・新潟341・立川312ほか。決算の店舗別)。売場面積は店舗数から推定の約28万㎡。前年比は95〜97%と、物価3%を差し引くと実質で毎年5%前後細っている。利益は開示が無く、総額比2.3%を推定。
クレジット・金融・友の会業
エムアイカードを中心とするカード決済・金融サービス。グループ店舗の買物客のカード取扱高に対する手数料・金利収入が収益源。
| 数量カード等の取扱高(億円、推定) | 価格取扱高に対する営業収益の率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 19,000 | 0.02 | 380 | 63 |
| 10 年後 中立 | 28,500 | 0.02 | 570 | 95 |
取り方:セグメント売上高380億円・セグメント利益63億円(利益率16.6%)をもとに、取扱高に対する収益率を2.0%と推定して取扱高(約1.9兆円)を逆算した。エムアイカード単体売上高355.93億円が大半を占める。
不動産業
新宿・日本橋の店舗周辺の賃貸不動産運営。2030年度以降は旗艦店周辺の「まち化」再開発(商業・ホテル・オフィスの複合開発)に5,000億円規模を投じる計画。
| 数量賃貸可能面積(万m²、推定) | 価格1万m²当たり年間賃料収入(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.0 | 9.03 | 271 | 46 |
| 10 年後 中立 | 32.0 | 12 | 387 | 68 |
取り方:セグメント売上高271億円・セグメント利益46億円(利益率17.2%)から、賃貸可能面積を30万m²と推定し1万m²当たり賃料収入を逆算した。賃料は物価並みに上がるのが基本だが、まち化の着工後(2030年度以降)は面積・単価の両方が段階的に伸びる想定。
リスクと懸念
インバウンド(免税)の振れ
免税売上は中国人客を中心に振れが大きく、2026年3月期も一時的な減少を経験した。制度変更・為替・外交関係の変化で客単価が大きく動く可能性があり、百貨店業態の中でも三越伊勢丹は免税依存の裏返しのボラティリティを受けやすい。
法人税の税効果が一巡した後の実力利益
2026年3月期の純利益の急回復は繰越欠損金の取り込みによる法人税の税効果が大きく、会社自身の計画でも純利益はこの先2年間かえって減る見立てになっている。税効果が一巡した後の構造的なROEは8%前後と、記録的な決算のニュースが示す強さより穏やかである可能性が高い。
地方・郊外店の構造的な縮小
新潟三越・伊勢丹相模原店・伊勢丹府中店・三越千葉店・伊勢丹松戸店など、過去に複数の地方・郊外店を閉鎖してきた。人口減少とEC流出は今後も続き、国内店舗網は10年でさらに縮小する可能性が高く、旗艦3店への依存度が一段と高まる。
まち化再開発の実行リスク
2030年度以降に着工する新宿・日本橋周辺の5,000億円規模の再開発は、最長15年という長い時間軸で、地権者調整や建設コストの上昇、都市計画の変更などにより遅延・縮小するリスクがある。収益への実際の貢献が見えるまで長い時間がかかる。
外商(富裕層)顧客の集中
年間購入額300万円超の上位顧客の売上が前年比14%増と、収益への寄与が大きい一方、国内の資産・相続構成の変化や富裕層消費の嗜好の変化によって、この顧客層への依存自体がリスクになりうる。外商担当者と顧客の人的関係に依存する部分が大きく、担当者の退職・異動や高齢の顧客の資産承継が進むタイミングで、関係が途切れるリスクも抱えている。
カード事業の信用リスク
エムアイカードを中心とするクレジット・金融・友の会業は、景気後退時に貸倒れの増加で利益が縮小しやすい。グループの買物客基盤に依存するビジネスモデルのため、百貨店業の不振が連鎖するリスクもあり、カード事業単独でのシェア拡大には、楽天カード・イオンカードなど規模の大きい汎用カードとの競争という制約もある。
百貨店業態の競合・再編
Jフロントリテイリング・エイチ・ツー・オー リテイリングなど同業の統合がすでに進み、上位数社に集約されている。三越伊勢丹は統合を経ていないため、今後の業界再編の当事者(買う側・買われる側)として市場で意識され続ける可能性がある。
今後の分かれ目
- 免税売上が訪日客の多様化(欧米・東南アジア)で中国依存から脱し安定的に伸びたら
- インバウンドの振れリスクが和らぎ、やや楽観側の確率を上げる。
- 法人税の税効果が一巡した後の純利益が会社予想(FY2028年3月期600億円)を上回り続けたら
- 実力利益の強さが確認でき、中立〜やや楽観側の確率を上げる。
- 地方・郊外店の既存店売上が計画を継続的に下回り、閉鎖のペースが加速したら
- やや悲観側に重みを移す。
- 新宿・日本橋の「まち化」再開発が計画どおり着工し、具体的な開業スケジュールが示されたら
- 10年シナリオのやや楽観側の確度を上げる。
- まち化の着工が地権者調整や建設コストの上昇で延期・縮小されたら
- 10年シナリオのやや悲観側に重みを移す。
- 外商の上位顧客の購買が国内の資産・相続構成の変化で伸び悩み始めたら
- やや悲観側の確率を上げる。
- 免税制度の変更や為替変動(150円の前提からの変化)でインバウンド消費が大きく減少したら
- GMS・百貨店セクター全体の前提を下方修正し、やや悲観側に寄せる。
見ておくもの
- 免税売上・海外顧客売上の月次推移(中国人客比率・訪日客の多様化)
- 外商(上位顧客)の売上・顧客数の推移
- 純利益と法人税の実効税率の推移(税効果の一巡度合い)
- 地方・郊外店の閉鎖・店舗数の推移
- 新宿・日本橋「まち化」再開発の着工・開業スケジュールの進捗
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から出した。ROEが資本コストを超える中立・楽観は、残る割合を普通の2分の1とした正当化PERの9割前後、やや楽観は8.8割に置き、ROEが資本コストを下回るやや悲観は1÷kの8割にした。今の株価・過去のPER・同業の倍率は使っていない。含み益は営業用の土地を悲観の床にだけ入れた。土地の時価は有報の注記で確認できておらず、簿価に3割の含み益を推定で足し、売却の費用と時間で5割強に割り引いた。数量は面積と訪日客数の実物で置き、物価は価格にだけ入れた。新リース会計は2028年3月期から適用されるが、10年後の数字は今と同じ家賃を費用に入れた形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本 7.5% に quality +0.75% を足した 8.25%。外商・免税への偏りで循環 +0.5%、地方店の縮小と利益の読みにくさで寿命 +0.25%、値決めと借金は普通の 0。事業は黒字で傾いておらず上乗せ(extra)は置かない。インバウンドの振れ・まち化の時間軸の長さといった個別のリスクは k に足さず、筋書きの利益率と確率で表した。