結論
アインホールディングスは、調剤薬局で国内最大手の会社だ。病院の門前を中心に約 2,100 店を構え、化粧品や雑貨の店も持つ。筆者の結論はやや割高で、いちばんの理由は、規模を買った代償として借金が重くなり、肝心の売値を国が決めていることにある。
2025 年に約 600 億円でさくら薬局グループを買い、売上は一気に 6,000 億円を超えた。店は倍近くに増えたが、純有利子負債は 1,200 億円に膨らんだ。自己資本比率は 31% まで下がっている。
調剤の値段は、薬価も調剤報酬も国が決める。物価が年 3% 上がる世界でも、これは同じようには上がらない。薬剤師の給料は物価並みに上がるので、利益率はじわじわ圧される。
それでも事業の土台は固い。処方箋は景気に左右されず、薬局の経営者の高齢化で、買える店はまだ多い。アインは買い方の基準を持っていて、利益を出す店だけを選んでいる。
10 年後の純利益は、中立の見立てで 230 億円台にとどまる。資本コストで今に割り戻すと、今の時価総額を 1 割台半ばほど下回る。悪くない会社だが、安全域のある値段ではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、悪い事業ではないが、持ち続けたいほど強い事業でもない、というのが筆者の見立てだ。
良い点は、需要の安定と、買える店が多いことだ。処方箋は景気に関係なく出る。経営者の高齢化で、手放したい薬局は今後も出続ける。アインは買い方の基準を守り、買った後も標準化で稼ぐ力を上げてきた。
気になる点は三つある。第一に、売値を国が決めること。規模が大きくなっても値上げできず、人件費の上昇は自力で吸収するしかない。第二に、買収で借金が増え、ROE が借金のてこで支えられていること。第三に、のれんが大きく、買った店が期待どおり稼がなければ、減損で自己資本が削られることだ。
オーナーの目で見れば、10 年後に残る利益は、今より 3 割ほど増える程度と見る。そのうち株主に回る分は借金の返済の後になる。資本コストで割り戻すと、本質価値は今の時価総額を 1 割台半ば下回る。値段に安全域は無い。悪くなる方向の幅が、良くなる方向の幅より広い。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの 9 割近くは調剤薬局だ。病院や診療所のそばに店を出し、医師の処方箋を受けて薬を渡す。売上の大半は薬そのものの代金で、薬剤師の技術料が利益を支える。店の数は 2,137 店(2026 年 4 月期末)で、うち約 800 店がさくら薬局から来た店だ。薬剤師は 1 万人を超える。
薬局の客は患者であり、実際に店を選ぶのは医師だ。門前の立地が命になる。だからアインは、病院の近くに出る店と、医療モールに入る店の両方を増やしてきた。買収も同じ発想で、後継者のいない地域の薬局を、決まった基準で買ってきた。基準は、年商 2 億円以上、買収額は利払い前の利益の 5〜7 倍が目安だ。
残りの 1 割強がリテールだ。化粧品の「アインズ&トルペ」が約 100 店、2024 年に買った雑貨・インテリアの「Francfranc」が約 160 店ある。薬局とは客層も景気への強さも違う。薬局の安定を補う役を期待されているが、まだ利益は小さい。
会社は 2034 年 4 月期に売上 1 兆円を掲げる。2026 年 6 月に目標を組み直し、薬局で 8,500 億円、リテールで 1,500 億円とした。さくらの買収で、2030 年の目標だった 7,000 億円は前倒しで届く見込みだ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、規模と買収の目利きにある。薬局は 1 店ごとの商売だが、仕入れの交渉力、薬剤師の採用力、システムへの投資は、大きいほど有利になる。小さな薬局は、人手不足と投資の重さで苦しんでいる。実際、資本金 1 億円以上の調剤薬局 11 社は利益が増え、小規模な薬局は半減した。規模の差が利益の差になっている。
その堀は、強いとまでは言えない。薬の値段も技術料も国が決めるので、規模が大きくなっても売値は上げられない。調剤報酬の改定は、大手に不利な方向に動くことが多い。買収で店を増やしても、利益の質が同じ保証はない。
資本効率は、まだ途上だ。ROE は過去 10 年の中央値で 8% 台と、資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。直近は 10% 台に上がったが、買収で規模が膨らんだ分、資本はこれから重くなる。のれん(買収価格と純資産の差)の償却も利益を削る。
経営は M&A を成長の柱にしている。買う基準を決め、買った後の薬局を標準化して効率を上げる流儀は、一貫している。ただ、さくらは過去最大の買収で、初めて借金への依存が大きく上がった。統合がうまく進めば堀は厚くなる。進まなければ、規模は重荷に変わる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
調剤薬局の市場は約 8 兆円で、国の医療費に直結する。2013 年度の 7.0 兆円から 2023 年度の 8.3 兆円へ、年 1.7% ほどのゆっくりした成長だ。処方箋の枚数はほぼ横ばいで、伸びは主に薬の単価が上がった分だ。医薬分業はすでに 8 割を超え、これ以上の伸びは小さい。
今後の需要は、人口減と高齢化が打ち消し合う。患者の総数は増えにくいが、がん治療や在宅医療など、手間のかかる処方は増える。国はそこに報酬を厚くする一方、薬価は毎年のように下げている。2026 年度の改定でも、大手チェーンへの風当たりと、かかりつけ機能を評価する方向が同居している。
競争の形は、小規模店の脱落が進む寡占化だ。薬局全体では数万店ある中で、上位 10 社に満たない大手が M&A で店を増やしている。ライバルはドラッグストア併設の調剤だ。ウエルシアやツルハなど、ドラッグストア大手は調剤を成長の柱にしている。日本調剤やクオールも、規模を追う。アインが売上で 1 位でも、市場全体の 1 割にも届かない。
10 年の構造的な負け筋は、調剤報酬が大手と門前を狙い撃ちに下がり続けることだ。オンライン服薬指導や調剤の外部委託が広がれば、店に薬剤師を置く必然性も薄れる。賃上げの負担は逆に重くなる。
資本政策と M&A
資本の使い方は、買収の連続だ。ここ数年だけでも、2024 年に Francfranc、2025 年に新潟のエーアンドエム(30 店)、同年にさくら薬局グループ(約 800 店、取得額 591 億円)を買った。
さくらの買収で、純有利子負債は 1,200 億円になった。会社は 10 年で営業キャッシュフロー 5,300 億円を見込み、うち 1,300 億円を借入返済に充てる計画に組み直した。当面は返済が優先で、大型の買収は一服する。
還元は控えめだ。配当は期末だけで、配当性向は 2 割台前半にとどまる。直近の期は自社株買いも無い。10 年の計画で株主還元は 900 億円、稼ぎの 2 割に届かない。筆者は、借金を返すことを先にするこの順序を妥当と見る。ただ、株主の取り分は小さい。
店を買えば、家賃の約束も一緒に増える。薬局の賃貸借は、病院の移転や閉院で解約が難しくなる場合もある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
規模の利益は、これから表に出る。アインはさくらを買って約 2,100 店を持ち、調剤売上で国内最大手になった。薬の仕入れ、採用、システムは、大きいほど安くなる。買ったばかりの店は、まだアインの標準に直し切れていない。ここに伸びしろがある。
市場は寡占に向かう。経営者の高齢化と後継者不足で、小さな薬局が毎年のように売りに出る。アインは年商 2 億円以上、利払い前の利益の 5〜7 倍という基準で、利益の出る店だけを選んで買える。買える店は、会社の試算で売上 4.7 兆円分ある。
価格は国が決めるが、国は高度な処方への報酬を厚くしている。がん治療や在宅医療に強い大手は、そこで稼ぎを積める。薬剤師の生産性を上げる投資も進んでおり、賃上げは効率化で吸収できる。
財務の傷みも一時的だ。10 年の営業キャッシュフローは 5,000 億円を超える見込みで、借金は数年で目に見えて減る。のれんの償却が進むにつれ、見かけの利益はさらに戻る。会社の目標どおり ROE 13% に届けば、資本コストを大きく超える会社になる。リテールも、アインズ&トルペと Francfranc の両ブランドが育てば、薬局の安定を補える。
慎重な見方
売値を国が決める事業で、規模は必ずしも武器にならない。調剤報酬の改定は、2 年ごとに大手チェーンと門前の薬局に厳しい方向へ動いてきた。アインは門前が中心で、改定の影響を人一倍受ける。大型買収で店が増えるほど、1 回の改定の傷は深くなる。
物価が年 3% 上がる世界では、薬剤師の給料も年 3% 近く上がる。ところが薬価は毎年のように下がり、技術料の引き上げは物価に追いつかない。売上の伸びは物価より低く、費用は物価並みに上がる。利益率が下がるのは避けにくい。
さくらの買収は、過去最大の賭けだった。のれんは大きく、買った店が期待どおり稼がなければ、減損で自己資本が削られる。借金は 1,200 億円あり、金利が上がれば利払いも増える。自己資本比率はすでに 31% まで下がった。
成長の手段である M&A も、安く買える店は減っていく。大手どうしの奪い合いで買収価格が上がれば、5〜7 倍という基準は守れなくなる。オンライン服薬指導や調剤の外部委託が進めば、店ごとに薬剤師を置く仕組みそのものが揺らぐ。会社が目標にする売上 1 兆円は、利益の目標ではない。
どちらに重みを置いたか
稼ぐ力の安定と買収の巧さは強気の見方に分がある。だが価格を国が決め、人件費は物価で上がるという構造の弱さは、慎重な見方のほうが重い。
規模は手に入れたが、借金を返すまで株主の取り分は小さい。確率は中立を中心に置いたが、悲観側にやや多く寄せた。調剤報酬の改定は、数年おきに悪い方向へ動く可能性が高いからだ。結果として、10 年の本質価値は今の時価総額を下回り、総合はやや割高になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/04 期)
確率で加重した株価時価総額 7,748 円2,738 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,719 円608 億円)。 今の値に割り戻すと 4,664 円1,648 億円、今との差 −17.4%、 期待の年率 +5.3%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 15,382 円5,435 億円 | 2,830 円1,000 億円 | +222.7% | +12.4% | 1,093 円386 億円 |
| やや楽観 | 18% | 11,835 円4,182 億円 | 2,406 円850 億円 | +152.3% | +9.7% | 2,563 円906 億円 |
| 中立 | 35% | 9,491 円3,354 億円 | 1,981 円700 億円 | +103.3% | +7.4% | 4,015 円1,419 億円 |
| やや悲観 | 27% | 4,641 円1,640 億円 | 1,274 円450 億円 | +4.8% | +0.5% | 1,597 円564 億円 |
| 悲観 | 14% | 855 円302 億円 | 566 円200 億円 | −74.8% | −12.9% | 199 円70 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,748 円2,738 億円 | 1,719 円608 億円 | +67.7% | +5.3% | 9,467 円3,345 億円 |
今の株価時価総額 5,644 円1,994 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 6% 買収と標準化が実り、1 兆円に近づく 利益 367 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 15,382 円5,435 億円
さくらの統合がうまく進み、仕入れと薬剤師の配置の効率で薬局の利益率が上がる。借金は数年で返し終え、その後は買収を再開して、シェアを 8.5% まで伸ばす。年商 2 億円以上の薬局を買う基準は守られ、買収額が高騰することもない。国はがん治療や在宅医療への報酬を厚くし、大手の門前薬局もかかりつけ機能で評価される。
リテールは、アインズ&トルペの出店が続き、Francfranc の既存店も伸びて、約 400 店、売上 1,900 億円になる。会社が掲げる 1 兆円に近い売上と、10% に近い EBITDA 率が現実になる。ROE は 11% 台まで上がる。それでも売値は国が決めるので、利益率の上限は 6% 前後で止まる。
配当は借金を返し終えた後に増え、自社株買いも加わる。10 年の還元は 1,000 億円に達する。ここまで来て、はじめて今の値段に見合う。
- 調剤薬局(ファーマシー事業):数量 71.7(調剤市場(実質・兆円)× アインのシェア(%))× 価格 1.25(調剤の値段の指数(薬価・調剤報酬を含む名目、今=1.00))→ 売上 8,968 億円・営業利益 538 億円。市場 8.44 兆円(実質)× シェア 8.5%・利益率 6.0%
- リテール・その他(化粧品・雑貨):数量 400(店舗数(店))× 価格 4.75(1 店あたり年間売上(億円))→ 売上 1,900 億円・営業利益 124 億円。400 店・利益率 6.5%
倍率:事業の純利益 367 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.2% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍。全体の PER 14.33 倍、時価総額 5,259 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:調剤報酬が大きく悪化せず、買収を重ねて統合の効果も出る、全部がうまくいく筋書き。買える店は多いが、国の価格と人件費の壁を越える連続成功は確度が低く、6% にとどめた。
やや楽観 18% 借金を返しながら、じわじわ買い進む 利益 290 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 11,835 円4,182 億円
さくら取得の借金は 6〜7 年で大きく減る。その間も、基準に合う中小の薬局を買い続け、シェアは 8.0% まで上がる。規模の力で仕入れと採用が少し有利になり、薬局の利益率は 5.5% に改善する。ただ報酬改定はときに逆風になり、利益の伸びは売上の伸びを下回る。
リテールは約 350 店、売上は 1,600 億円。Francfranc の改装と、化粧品の出店でじわじわ育つ。会社が掲げる 1 兆円には届かないが、売上は 8 年ほどで 1 兆円に近づく。株主還元は借金を返したあとに厚くなり始める。
会社の計画どおりの 1 兆円には届かず、薬局の利益率の改善も 0.1 ポイント刻みで、派手さはない。堅実な優良企業として、ゆっくり評価される 10 年になる。
- 調剤薬局(ファーマシー事業):数量 66.8(調剤市場(実質・兆円)× アインのシェア(%))× 価格 1.23(調剤の値段の指数(薬価・調剤報酬を含む名目、今=1.00))→ 売上 8,216 億円・営業利益 452 億円。市場 8.35 兆円(実質)× シェア 8.0%・利益率 5.5%
- リテール・その他(化粧品・雑貨):数量 350(店舗数(店))× 価格 4.55(1 店あたり年間売上(億円))→ 売上 1,592 億円・営業利益 88 億円。350 店・利益率 5.5%
倍率:事業の純利益 290 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍。全体の PER 13.64 倍、時価総額 3,956 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:借金返済を優先しつつ、買える店を選んで増やす想定。会社の計画に近いが、調剤報酬の逆風を一部織り込んでおり、強気の上位レンジとして置いた。
中立 35% 第三極なき最大手として、物価に少し負けながら伸びる 利益 235 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 9,491 円3,354 億円
調剤の市場は、実質で 10 年に 5% ほど縮む。人口の減少を、高齢化と高度な処方が一部打ち消す。値段は薬価の引き下げと報酬の遅れで、物価 3% に届かず年 2% 弱の上昇にとどまる。薬剤師の給料は物価並みに上がるので、薬局の利益率は 5.4% から 5.0% へ下がる。
アインは借金の返済を優先し、買収は小ぶりに続く。シェアは 7.1% から 7.6% へ上がる程度で、さくらを統合した今の姿を磨く 10 年になる。リテールは 310 店、売上 1,400 億円で、利益率が 5% まで上がるが全体への寄与は小さい。純利益は今の 1.4 倍ほどに増え、ROE は 8% 台で、資本コストをわずかに上回る程度に落ち着く。
配当は利益の 3 割ほどで、借金の返済が先に立つ。大きな失敗も大きな成功もない、驚きの少ない 10 年になる。
- 調剤薬局(ファーマシー事業):数量 62.8(調剤市場(実質・兆円)× アインのシェア(%))× 価格 1.20(調剤の値段の指数(薬価・調剤報酬を含む名目、今=1.00))→ 売上 7,534 億円・営業利益 377 億円。市場 8.26 兆円(実質)× シェア 7.6%・利益率 5.0%
- リテール・その他(化粧品・雑貨):数量 310(店舗数(店))× 価格 4.55(1 店あたり年間売上(億円))→ 売上 1,410 億円・営業利益 70 億円。310 店・利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 235 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 13 倍、時価総額 3,055 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:借金返済を優先して買収は小ぶりに続き、薬局の利益率は少し下がる、会社の計画より控えめな中心像。業界の見通し(数量は横ばい、値段は物価を下回る)と、買収の一服を組み合わせた。
やや悲観 27% 報酬改定と賃上げに押され、利益率が削られる 利益 134 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 4,641 円1,640 億円
報酬改定は大手チェーンと門前薬局に厳しい方向へ動き、技術料の加算も思うように取れない。薬剤師の給料は物価並みに上がり、値段はそれに追いつかない。薬局の利益率は 3.9% まで下がる。
買収価格は高止まりして、基準に合う店は減る。アインは借金返済を優先し、買収はほぼ止まる。さくらの統合の効果も限定的で、シェアは 7.0% にとどまる。リテールは不採算店の閉鎖で 270 店になり、利益率も 3.5% に落ちる。純利益は今とほぼ同じ水準で、ROE は資本コストを下回る。借金が重く、還元は小さいままだ。
時価総額は利益の伸びが止まるため、ほとんど増えない。株主は配当も小さい 10 年を過ごす。
- 調剤薬局(ファーマシー事業):数量 56.6(調剤市場(実質・兆円)× アインのシェア(%))× 価格 1.15(調剤の値段の指数(薬価・調剤報酬を含む名目、今=1.00))→ 売上 6,512 億円・営業利益 254 億円。市場 8.09 兆円(実質)× シェア 7.0%・利益率 3.9%
- リテール・その他(化粧品・雑貨):数量 270(店舗数(店))× 価格 4.24(1 店あたり年間売上(億円))→ 売上 1,146 億円・営業利益 40 億円。270 店・利益率 3.5%
倍率:ROE 5.4%(純利益 134 億円 ÷ 自己資本 2,490 億円)。事業の ROE が資本コスト 8.25% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER の上限は 1÷k = 13.3 倍。新しい店の稼ぎは薄れやすく、伸びと堀の持ちを低く見て、やや悲観は上限の 8.6 割の 10.45 倍に置いた。(家賃を営業費用に入れた今と同じ形)
確率:調剤報酬が 2 回続けて大手に不利に動き、賃上げを値段に載せられない。業界の負け筋の前半にあたり、国が価格を決める事業で十分ありうるとみて、27% を置いた。
悲観 14% 報酬の引き下げと買収の失敗で、優良さを失う 利益 8 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 855 円302 億円
調剤報酬は大手と門前を狙って引き下げられ、オンライン服薬指導と調剤の外部委託で、店に薬剤師を置く仕組みも揺らぐ。薬価の引き下げは続き、賃上げの負担が重なって、薬局の利益率は 1.5% まで落ちる。
さくらの店は期待ほど稼がず、のれんを減損する。自己資本は大きく削られ、借金の返済は進まない。不採算の店を閉じるが、家賃の契約が残るので、閉じること自体にお金がかかる。シェアは 6.0% まで下がり、リテールも 220 店に縮んで利益は消える。自己資本比率は 20% を割り、再編で買い手を待つ立場になる。
配当の約 200 億円は、現金と資産の売却で払う。配当は最低限の水準に落とし、長く守ってきた規模の拡大路線は転換を迫られる。株主にとって、最も苦しい 10 年になる。
- 調剤薬局(ファーマシー事業):数量 47.0(調剤市場(実質・兆円)× アインのシェア(%))× 価格 1.05(調剤の値段の指数(薬価・調剤報酬を含む名目、今=1.00))→ 売上 4,933 億円・営業利益 74 億円。市場 7.83 兆円(実質)× シェア 6.0%・利益率 1.5%
- リテール・その他(化粧品・雑貨):数量 220(店舗数(店))× 価格 3.73(1 店あたり年間売上(億円))→ 売上 821 億円・営業利益 0 億円。220 店・利益率 0.0%
倍率:稼ぐ力(事業の純利益 8 億円 ÷ k 8.25%)はほぼ無く、床は売れる資産に置く。今の自己資本 1,590 億円に対する PBR 0.19 倍で、約 300 億円(floor_assets_oku)とした。のれん減損後の自己資本は 1,150 億円まで減るが、PBR は今の自己資本に掛けた。EV ÷ 営業利益(EV は時価総額+純有利子負債)で見ると 34 倍(今の借金を足した値)と高く、悲観の利払い前利益が小さく、借金の分だけ株主の取り分が削られるので、利益の倍率だけでは測らず床で置いた。(家賃を営業費用に入れた今と同じ形)
確率:調剤報酬が大手と門前を狙って下がり続け、さくらののれんも減損する複合の筋書き。事業は消えないが、借金を抱えたまま稼ぎが細る形は、売値を国が決める事業で無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
調剤薬局(ファーマシー事業)
アイン薬局・さくら薬局などの調剤薬局事業。病院・診療所の門前と医療モールが中心。
| 数量調剤市場(実質・兆円)× アインのシェア(%) | 価格調剤の値段の指数(薬価・調剤報酬を含む名目、今=1.00) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 55.6 | 1.00 | 5,564 | 300 |
| 10 年後 中立 | 62.8 | 1.20 | 7,534 | 377 |
取り方:調剤市場は 2023 年度 8.3 兆円(会社の資料)から年 2〜3% で伸びて今 8.7 兆円とみて、売上 5,564 億円(さくら薬局は 8 か月分)÷ 8.7 兆円 ≒ 6.4% をシェアとした(27/4 期計画の通年では 6,215 億円で約 7.1%)。数量の市場は処方箋の枚数でほぼ決まり、10 年で中立 0.95 倍(人口減を高齢化と高度な処方が打ち消す)。値段は薬価が公定で毎年下がり、調剤報酬も 2 年おきの改定で、物価 3% を満額は転嫁できない。市場は 2013〜2023 年度に名目で年 1.7% しか伸びていない。中立で 10 年 1.20 倍(年 1.9%)と物価の 1.34 倍より低く置く。営業利益は非開示で、全社 298 億円からリテールと本部費を引いた推定(利益率 5.4%)。
リテール・その他(化粧品・雑貨)
アインズ&トルペ(化粧品)と Francfranc(雑貨・インテリア)など、薬局以外の店舗事業。
| 数量店舗数(店) | 価格1 店あたり年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 269 | 3.39 | 913 | 37 |
| 10 年後 中立 | 310 | 4.55 | 1,410 | 70 |
取り方:アインズ&トルペ 106 店と Francfranc 163 店の合計 269 店。売上は全社 6,478 億円から薬局 5,564 億円を引いた約 913 億円で、1 店あたり約 3.4 億円。営業利益は非開示で、利益率 4% の推定。10 年の 1 店あたり売上は、ブランドで値上げが通る小売なので物価並みの 1.34 倍を中立とする。
リスクと懸念
調剤報酬の改定
調剤報酬は 2 年ごとに改定され、大手チェーンと門前の薬局に厳しい方向へ動いてきた。2026 年度は基本料が小幅に上がったが、立地に頼る薬局への減算も議論された。アインは門前が中心で、1 回の改定の影響が他社より大きい。薬価は毎年下がり、売上の伸びを抑え続ける。
買収の借金とのれん
さくら薬局グループの取得額は 591 億円で、純有利子負債は 1,200 億円に増えた。自己資本比率は 31% だ。買った店が期待どおり稼がなければ、のれんの減損で自己資本が削られる。金利が上がれば、利払いは今より増える。
人件費の上昇と薬剤師の確保
薬剤師は 1 万人を超え、費用の中心は人件費だ。物価が上がれば給料も上がるが、薬局の売値は国が決めており、転嫁できない。採用難で給料が競り上がれば、利益率はさらに削られる。
買収の種が減ること
アインは年商 2 億円以上、利払い前の利益の 5〜7 倍で買う基準を持つ。ただ、大手どうしの奪い合いで売り手の要求が上がれば、基準を守る限り買えず、守らなければ割高な買い物になる。成長の主エンジンが止まる危険がある。
オンライン服薬指導と調剤の外部委託
規制緩和で、オンライン服薬指導や調剤の一部外部委託が広がれば、店に薬剤師を置く前提が崩れる。小さな店の再編は進むが、大手の店舗網の価値も変わる。薬局の形が変わるとき、投資のやり直しが要る。
ドラッグストアと他業種の参入
ウエルシアやツルハなど、ドラッグストア大手は調剤を成長の柱にしている。併設の調剤は、買い物のついでに処方箋を持ち込ませる。門前で勝ってきたアインの客を、立地以外の理由で奪う力がある。他業種の参入も議論されている。
リテール事業の収益性
Francfranc とアインズ&トルペは、景気で売上が動く裁量消費の店だ。薬局の安定を補うはずが、不況では逆に重くなりうる。家賃の約束もあり、閉店にはお金がかかる。まだ利益は小さく、投資の回収は先になる。
今後の分かれ目
- 次の調剤報酬改定で、大手チェーンや門前薬局への減算が強まったら
- やや悲観・悲観に確率を移す。薬局の利益率を 1 ポイント下げた中立の水準を見直す。
- さくら薬局の統合で、薬局の利益率が会社計画どおり上がったら
- やや楽観・楽観に確率を移す。借金の返済が前倒しになるかを併せて見る。
- 借金の返済が進み、純有利子負債が半分以下になったら
- 買収の再開と株主還元の拡大が視野に入る。還元が厚くなれば、強気の筋書きの確度を上げる。
- 大型の買収が再開され、買収額が利払い前の利益の 8 倍を超えたら
- 買収の規律が崩れたとみて、悲観側の確率を上げる。借金が再び膨らむかを見る。
- 薬剤師の給料の上昇が物価を大きく上回ったら
- 薬局の利益率が下がるので、中立の利益率を下げる。
- オンライン服薬指導や調剤の外部委託が、実際に広く使われ始めたら
- 薬局の店舗網の価値が変わる。やや悲観・悲観の確度を上げる。
- 2028 年 4 月期に新リース会計基準でリース負債が初めて開示されたら
- 家賃の約束の大きさを推定と比べる。大きければ、借金の重さを見直し、資本コストの借金の項を上げる。形の変化そのものは本質価値を変えない。
見ておくもの
- 調剤報酬・薬価の改定の中身と、大手チェーンへの影響
- アイン薬局・さくら薬局の既存店の処方箋枚数と、薬局の営業利益率
- 純有利子負債と自己資本比率の推移、のれんの減損の有無
- 買収の件数と買収額の水準(利払い前の利益の何倍か)
- 薬剤師の給与水準と採用コスト
- Francfranc・アインズ&トルペの既存店売上と営業利益
- 新リース会計基準でのリース負債の額
倍率と資本コストの決め方
倍率は、数量×価格で積んだ 10 年後の利益と ROE から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g) を出し、中立は上限の 9.7 割(ROE が k をわずかに上回るので 1÷k の下限に近い水準)に置いた。今の株価・過去や同業の倍率は使っていない。資本コストは基本 7.5% に quality 0%。同じ領域の他社より高いのは、借金が重く売値を国が決めるため。調剤の値段は、物価 3% を満額は転嫁できないとして 10 年 1.20 倍と、物価の 1.34 倍より低く置いた(根拠は薬価の毎年引き下げと報酬の 2 年改定、市場の名目年 1.7% の実績)。セグメント別の営業利益は非開示で、全社 298 億円から推定した。家賃は売上の 5% 前後と推定し、家賃を営業費用に入れた今と同じ形で 10 年後も置いた。2028 年 4 月期から新リース会計基準で営業利益が少し増え、リース負債が載って自己資本比率が下がるが、形の変化で本質価値は変えない。同じ領域のドラッグストアの比較では、調剤が稼ぎの 9 割近い点が違う。今の株価が倍でも半分でも、この数字は動かない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality 0%。事業は傾いておらず上乗せは置かない。報酬改定・買収統合の失敗など個別のリスクは k に足さず、筋書きの利益率と確率で表した。同じ領域のドラッグストア各社(−0.2〜−0.5%)より高いのは、売値を国が決める点と、買収で増えた借金を、値決めと借金に反映したため。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 8.25%。