結論
ほぼ日は、「ほぼ日手帳」を柱に、生活雑貨、イベント、ウェブ媒体、学びの配信を手がける会社だ。筆者の結論は「やや割高」。ブランドの力は本物だが、売上の 7 割を一つの商品に頼り、今の値段は絶好調の直近を前提にしているからだ。
主力の手帳は 2025 年 8 月期に 58.5 億円で、前の期より 18% 伸びた。販売は過去最高の 96 万部で、売上の 52% は海外だ。国内でも海外でも伸びている点が、この会社の特異さだ。ユーザーが SNS に手帳の使い方を投稿して広がる、広告費のかからない口コミが成長を支えている。
2026 年 8 月期は、さらに勢いが増している。9 か月の累計で売上は 17% 増の 80 億円、営業利益は 64% 増の 11.9 億円に達し、期初の会社予想(営業利益 6.8 億円)をすでに大きく超えた。ただし手帳は秋から冬に売れる季節商品で、春から夏は赤字が続く。通期の利益は、10 億円強に落ち着くと筆者は見る。
中立の筋書きでは、10 年後の純利益は今の 2 倍強の 11 億円。それでも割り引いた価値は、今の時価総額を 2 割ほど下回る。強いブランドを持つ会社であることは疑わないが、その強さはすでに値段に入っている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「優れたブランドを持つが、一本足で、今は絶好調の会社」だ。工場を持たず、在庫以外に重い資産はない。粗利率は 57% と高く、顧客が自分で語り広げる口コミがあり、広告費は少ない。
良い点は、ブランドが 25 年かけて育ち、海外でも売れていることにある。1 つの商品でも、利用者が毎年使い続ける習慣は他社が簡単にまねできない。自己資本利益率は直近で 15% に迫る。借入がなく、財務の傷みはない。
悪い点は、利益の質と偏りだ。売上の 7 割が手帳、利益の大半が秋の 3 か月に集中し、在庫は総資産の 4 割近い。紙の手帳の流行が冷めたり、在庫の読みを誤ったりすれば、評価損と赤字が一度に出る。現金の裏づけも弱く、利益が出ても手元の現金は 8 億円にとどまる。
中立の筋書きでも価値は今の時価総額を 2 割ほど下回る。直近の好調は、手帳の値上げと海外の拡大が重なった結果で、10 年続くとは限らない。好きな会社であることと、割安であることは別のことだ。
何で稼ぐ会社か
売上は三つに分かれる。「ほぼ日手帳」は 2025 年 8 月期に 58.5 億円で、売上の 67% を占める。国内は 27.8 億円(前の期より 17% 増)、海外は 30.7 億円(20% 増)で、海外が 52.5% と国内を上回る。毎年 9 月に翌年版を発売し、2025 年版は 96 万部売れた。
二つ目は「ほぼ日」のオリジナル商品で、売上は 22.8 億円(10% 増)。手帳のカバーや雑貨、アースボール(スマホをかざすと情報が出る地球儀)などを、自社のオンラインストアで直接売る。三つ目はその他の 5.5 億円で、イベント「生活のたのしみ展」、店舗兼スペースの TOBICHI、学びの配信「ほぼ日の學校」、ペット向けアプリ「ドコノコ」などが入る。
売上の山は秋に偏る。2025 年 8 月期は、9〜11 月期に売上の 38%、営業利益 8.5 億円が集中し、3〜5 月期は 3.0 億円、6〜8 月期は 1.1 億円の営業赤字だった。手帳の在庫を先に積み、秋に売り切る仕組みで、在庫は 26 億円と総資産の 4 割近い。
従業員は 156 人と小さく、単独で決算を出している。2025 年 10 月に手帳アプリを始め、同年 11 月には群馬県に「ほぼの駅 AKAGI」を開いた。創業者の糸井重里氏は 2025 年 11 月に社長から会長 CEO へ移り、次の世代の経営陣に引き継ぐ途上にある。
優良さと弱いところ
優良さは「普通から良い」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、ブランドとファンの結びつきにある。ただ、一つの商品に偏る点が、評価を抑えている。
強みは三つある。一つ目は愛用者の定着で、手帳は毎年買い替える消耗品でありながら、使い方を SNS で語る利用者が口コミを作る。二つ目は値決めの自由度で、粗利率は 57% と高く、素材や物流のコスト上昇を販売価格に乗せてきた。三つ目は直販で、自社のオンラインストアが売上の中心にあり、利用者の声を商品づくりにそのまま戻せる。
弱みも三つある。一つ目は一本足で、手帳が売上の約 7 割を占める。スマホで予定を管理する人が増えるなか、紙の手帳を日記として使う層に支えられているが、その流行が冷めれば響く。二つ目は在庫で、翌年版の手帳は年が替われば売りにくく、読みを誤ると評価損が出る。三つ目は創業者の存在で、糸井氏の発信力と信用が、いまも会社の求心力を支えている。
財務は堅い。借入はなく、自己資本比率は 79.9%(2026 年 5 月末)まで上がった。ただし営業活動の現金収支は小さく、2025 年 8 月期は 1.6 億円にとどまった。在庫と売掛金の増加が利益を現金に変えにくくしている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
文具・手帳の市場は、日本では縮小気味だ。スマートフォンで予定を管理する人が増え、ビジネス向けの手帳は長く縮んできた。一方で、日記や記録を紙に残したい人の需要は根強く、「ほぼ日手帳」のように自由度の高い手帳が受け皿になっている。
競合は多い。海外ではモレスキンやトラベラーズノートが固定の愛用者を持ち、国内では高橋書店や能率手帳などの伝統的な手帳、ジブン手帳のような日記系の手帳が並ぶ。ロフトや書店の店頭で、ほぼ日手帳は 2004 年から並んでいる。ただし価格はファンが納得するかで決まる世界で、機能の差で競う市場ではない。
海外は成長の余地がある。会社は SNS で複数の言語の情報を出し、国ごとに販路を開く方針で、北米・欧州・アジアで売上が伸びている。円安は海外売上を押し上げるが、関税や為替の動きは逆に働きうる。国内は人口減少で数量が伸びにくく、ファンの買い増しと新しい利用者の獲得が頼りだ。
10 年後は、紙の手帳が日記の道具として生き残るかが分かれ目になる。手帳のアプリ(2025 年 10 月開始)が紙の代わりになるのか、紙の体験を補うのかで、需要の形が変わる。物価は上がるので、価格は物価並みに上げやすいが、数量は国内で横ばい、海外で伸びる程度と筆者は見る。
資本政策と M&A
資本政策の柱は安定配当で、2025 年 8 月期の配当は前の期の 2 倍、総額は 2.1 億円で、配当性向は 47% に上げた。2026 年 8 月期も同じ水準を予定する。自社株買いの実績は見当たらず、自己株式は 551 株しかない。
設備投資は、ITシステムと手帳アプリ、赤城山の山頂記念館の取得などで、毎年 4 億円前後。営業活動の現金収支が小さいため、2025 年 8 月期の自由に使える現金は 3 億円の赤字だった。現金は 8 億円、投資有価証券は 4 億円で、借入はない。純現金は時価総額の 7% ほどなので、余った現金としては分けなかった。
大株主は創業者の糸井重里氏で、持株比率は 26.7%(有価証券報告書をもとにした集計)。ほかに個人の大株主が並び、親会社はない。投資家のレオス・キャピタルワークスが 4% を持つ。筆者は、公開買付けの発表や観測を見つけられなかった。
10 年の間に溜まる現金は、創業者が大株主で、配当性向が 5 割近い一方で自社株買いがないことから、戻り方を 0.75 とした。賃借は TOBICHI などの小さな拠点が中心で、新リース会計の影響は小さい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ブランドは本物で、まだ伸びる。手帳は国内で 17%、海外で 20% 伸びた 2025 年 8 月期のあと、2026 年 8 月期の上期は国内 24%、海外 38% に勢いが増した。9 か月の営業利益は 64% 増の 11.9 億円で、期初の通期予想の 6.8 億円をすでに大きく超えている。利用者の SNS での発信が広告費を使わずに新しい国へ広がり、海外の売上はすでに国内を上回った。
利益率の上積みも現実的だ。粗利率は 57% と高く、売上が増えても人員は 156 人と小さい。固定費に対する販売の伸びが大きく、増えた分の多くが利益に残る。過去にも 2015〜2019 年の営業利益率は 11〜13% で、2026 年 8 月期は再びその水準に戻っている。手帳アプリや尾瀬・赤城山などの新しい「場」も、ブランドの幅を広げる。
財務は盤石で、借入がなく、自己資本比率は 80% に近い。配当は 2 倍に増え、性向は 47%。創業者が大株主として会社の価値観を守る。10 年で利益が 2 倍になり、海外が国内の 2 倍の大きさになる道は、十分に見える。
慎重な見方
手帳一本足の会社の好調を、10 年続くと考えるのは危うい。売上の約 7 割が手帳で、利益のほとんどが秋の 3 か月に集中する。スマホで予定を管理する人が増え、紙の手帳の需要は構造的に細る。ブームは冷めるのが早く、2020 年 8 月期には営業利益率が 1.6% に落ち、2020〜2022 年の自己資本利益率は 4〜5% にとどまった。
利益の質も弱い。2025 年 8 月期は利益 4.5 億円に対し営業活動の現金収支が 1.6 億円しかなく、在庫は 26 億円まで膨らんだ。手帳は年号つきなので、売れ残れば翌年は値引きか廃棄になる。関税や為替、紙とインクの原価高が重なれば、粗利は簡単に削られる。
創業者への依存も重い。糸井氏の発信力と信用が会社の求心力で、本人は 2025 年 11 月に社長を退いた。次の世代が同じ熱量を保てる保証はない。今の値段は、直近の絶好調の利益を前提にしており、少しでも勢いが落ちれば、時価総額は大きく動く。強いブランドへの敬意と、それに高い値段を払うことは別だ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方がやや強い。強気の見方が示す勢いは本物だが、10 年を見る目で考えると、直近の営業利益率 11% は過去の平均を上回る高い水準だ。
確率は、中立に 4 割弱を置き、やや悲観に 2 割強、悲観に 1 割を置いた。楽観は 8%にとどめ、やや楽観を 2 割強とした。ブランドの強さは疑わないが、一本足と在庫の重さが、裾の悪い筋書きを無視できなくしている。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/08 期)
確率で加重した株価時価総額 7,670 円178 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,647 円38 億円)。 今の値に割り戻すと 4,770 円111 億円、今との差 −7.2%、 期待の年率 +6.1%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 19,085 円443 億円 | 3,016 円70 億円 | +330.0% | +15.7% | 1,768 円41 億円 |
| やや楽観 | 22% | 12,248 円284 億円 | 2,197 円51 億円 | +181.0% | +10.9% | 3,178 円74 億円 |
| 中立 | 37% | 8,034 円187 億円 | 1,723 円40 億円 | +89.8% | +6.6% | 3,610 円84 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,749 円41 億円 | 1,034 円24 億円 | −45.8% | −5.9% | 640 円15 億円 |
| 悲観 | 10% | 737 円17 億円 | 474 円11 億円 | −76.4% | −13.5% | 121 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,670 円178 億円 | 1,647 円38 億円 | +81.3% | +6.1% | 9,317 円216 億円 |
今の株価時価総額 5,140 円119 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 海外が国内を大きく上回り、手帳の利益率が高止まりする 利益 23 億円 · PER 18.9 倍 · 株価時価総額 19,085 円443 億円
海外は北米・欧州・アジアで主要国に販路が広がり、手帳の販売は 10 年で 1.9 倍の 180 万部台になる。販売価格は物価を上回って 1.4 倍に上がり、手帳の利益率は 20% まで上がる。商品や手帳アプリも広がり、その他の事業も黒字になる。
売上は 218 億円、営業利益は 33 億円、純利益は 23 億円。配当性向は 5 割を保ち、自己資本は 118 億円になる。ただし、これは手帳が 25 年かけて育ったブランドの力を、そのまま 10 年伸ばす前提で、国内の縮小も一本足の弱さも当たらない筋書きだ。
- ほぼ日手帳:数量 182(販売部数(万部・実質))× 価格 0.85(1 部あたり売上(億円/万部・名目))→ 売上 156 億円・営業利益 31 億円。ほぼ日手帳:数量 182.40 × 単価 0.85、利益率 20.0%
- ほぼ日の商品・イベント・學校等:数量 113(販売点数・利用の件数に当たる量(万点・実質))× 価格 0.55(1 点あたり売上(億円/万点・名目))→ 売上 62 億円・営業利益 2 億円。ほぼ日の商品・イベント・學校等:数量 113.12 × 単価 0.55、利益率 3.0%
倍率:事業の純利益 23 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.9 倍。全体の PER 18.93 倍、時価総額 443 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の高成長が 10 年続く筋書き。一本足と季節性が重いため、確率は低く 8% とした。
やや楽観 22% 海外の伸びが続き、利益率が 17% 前後で保たれる 利益 16 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 12,248 円284 億円
手帳の販売は 1.65 倍の 160 万部ほどになり、海外が牽引する。国内は横ばいで、海外は年率 6〜7% 伸びる。価格は物価並みよりやや上の 1.38 倍。手帳の利益率は 17% で、直近の水準を保つ。
自社商品は 1.4 倍に伸び、事業全体の営業利益率は 12% になる。売上は 187 億円、営業利益は 23 億円、純利益は 16 億円。配当性向 5 割で、自己資本は 101 億円まで積み上がる。ブランドが国内外で崩れない、順調な 10 年だ。ただし海外の販路や関税の影響で、伸び方は国ごとにばらつき、利益率も年ごとに揺れる。
- ほぼ日手帳:数量 158(販売部数(万部・実質))× 価格 0.84(1 部あたり売上(億円/万部・名目))→ 売上 133 億円・営業利益 23 億円。ほぼ日手帳:数量 158.40 × 単価 0.84、利益率 17.0%
- ほぼ日の商品・イベント・學校等:数量 99.0(販売点数・利用の件数に当たる量(万点・実質))× 価格 0.54(1 点あたり売上(億円/万点・名目))→ 売上 54 億円・営業利益 0 億円。ほぼ日の商品・イベント・學校等:数量 98.98 × 単価 0.54、利益率 0.0%
倍率:事業の純利益 16 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍。全体の PER 17.66 倍、時価総額 284 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:直近の勢いの延長に近い筋書き。海外の成長が国内の縮小を補う。確率を厚めに置いた。
中立 37% 手帳は海外で伸び、国内は横ばい。利益率は 10% 前後に落ち着く 利益 11 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 8,034 円187 億円
手帳の販売は 10 年で 1.4 倍の 134 万部ほどになる。海外は年率 4〜5% 伸びるが、国内は少子化と電子化で横ばいにとどまる。価格は人件費・原材料の上昇を映して 1.34 倍。手帳の利益率は 15% で、2026 年 8 月期の勢いのうち、海外の拡大と値上げで定着する分だけを織り込んだ。
自社商品や学びの配信は 1.25 倍に増えるが、小さな赤字が残る。売上は 157 億円、営業利益は 16 億円、純利益は 11 億円。配当性向 5 割で自己資本は 88 億円になる。大きな成功も失敗もなく、物価と海外の分だけ伸びる 10 年だ。
- ほぼ日手帳:数量 134(販売部数(万部・実質))× 価格 0.82(1 部あたり売上(億円/万部・名目))→ 売上 110 億円・営業利益 16 億円。ほぼ日手帳:数量 134.40 × 単価 0.82、利益率 15.0%
- ほぼ日の商品・イベント・學校等:数量 88.4(販売点数・利用の件数に当たる量(万点・実質))× 価格 0.54(1 点あたり売上(億円/万点・名目))→ 売上 47 億円・営業利益 0 億円。ほぼ日の商品・イベント・學校等:数量 88.38 × 単価 0.54、利益率 -1.0%
倍率:事業の純利益 11 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍。全体の PER 16.36 倍、時価総額 186 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:直近の好調は一部が定着し、一部は戻る。数量は緩やかに伸び、価格は物価並み。最も確率が高い。
やや悲観 23% 手帳の勢いが冷め、費用が先行して利益率が元に戻る 利益 4 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,749 円41 億円
手帳の販売は 1.05 倍と、ほぼ横ばいにとどまる。海外の伸びは鈍り、国内は縮む。価格は競合に押されて 1.28 倍と、物価に届かない。在庫の値引きと原材料高で、手帳の利益率は 10% に下がる。
自社商品や学びの配信は、人件費と家賃が固定費として残り、赤字が広がる。売上は 115 億円、営業利益は 6 億円、純利益は 4 億円。ROE は 6% 台で、資本コストに届かない。利益の水準は 2023〜2025 年とほぼ同じで、成長のない会社として評価される。手帳の人気が一巡したあとの、静かな 10 年である。海外の開拓費は残るが、国内の縮みを補いきれない。
- ほぼ日手帳:数量 101(販売部数(万部・実質))× 価格 0.78(1 部あたり売上(億円/万部・名目))→ 売上 79 億円・営業利益 8 億円。ほぼ日手帳:数量 100.80 × 単価 0.78、利益率 10.0%
- ほぼ日の商品・イベント・學校等:数量 70.7(販売点数・利用の件数に当たる量(万点・実質))× 価格 0.51(1 点あたり売上(億円/万点・名目))→ 売上 36 億円・営業利益 −2 億円。ほぼ日の商品・イベント・學校等:数量 70.70 × 単価 0.51、利益率 -5.0%
倍率:ROE 6.4%(純利益 4.4 億円 ÷ 自己資本 69 億円)。k 7.75% 以下なので PER の上限は 1÷k = 12.5 倍。利益が横ばいで質も低い局面なので、上限の 7 割台前半の 9.0 倍に置いた。
確率:直近の好調が一巡し、利益率が過去の低い水準に戻る筋書き。確率を厚めに置いた。
悲観 10% 紙の手帳の需要が細り、ブランドの力が薄れる 利益 0 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 737 円17 億円
構造的に負ける。手帳アプリや電子化で紙の需要が細り、販売は 0.65 倍の 62 万部まで落ちる。価格を上げられず、在庫は値引きや廃棄に回る。利益率は 4% に下がる。
商品や學校も赤字を抜けられず、売上は 66 億円、営業利益はほぼゼロになる。創業者の発信力が衰えると、ブランドの求心力も落ちる。事業の稼ぐ力は小さいので、価値は売れる資産で測る。年号つきの手帳の在庫やソフトウェアはほとんど値がつかない。創業者が築いた世界観を引き継ぐ人がいなければ、ファンの輪も広がらない。海外の販路も縮み、新しい国での開拓は止まる。商品やイベントに残る固定費が、手帳の落ち込みを増幅する。
- ほぼ日手帳:数量 62.4(販売部数(万部・実質))× 価格 0.70(1 部あたり売上(億円/万部・名目))→ 売上 44 億円・営業利益 2 億円。ほぼ日手帳:数量 62.40 × 単価 0.70、利益率 4.0%
- ほぼ日の商品・イベント・學校等:数量 49.5(販売点数・利用の件数に当たる量(万点・実質))× 価格 0.46(1 点あたり売上(億円/万点・名目))→ 売上 23 億円・営業利益 −2 億円。ほぼ日の商品・イベント・學校等:数量 49.49 × 単価 0.46、利益率 -8.0%
倍率:構造的に優良でなくなり、純利益はほぼゼロで稼ぐ力は価値にならない。床は売れる資産で測る。現金と売掛金、投資有価証券、有形固定資産に在庫の 4 割を足して負債 20 億円を払うと約 15 億円が残り、ブランドの権利に少し値がつくとして 17 億円を床に置いた。今の自己資本 48.9 億円に対する PBR は 0.35 倍にあたる。
確率:紙の手帳が日記の道具として使われなくなる負け筋。一本足の弱さが一気に出る。確率は 1 割。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ほぼ日手帳
毎年 9 月に翌年版を出す手帳。国内と海外(売上の 52.5%)で売る。
| 数量販売部数(万部・実質) | 価格1 部あたり売上(億円/万部・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/08 | 96.0 | 0.61 | 59 | 8 |
| 10 年後 中立 | 134 | 0.82 | 110 | 16 |
取り方:2025 年 8 月期の売上は 58.5 億円(国内 27.8 億円・海外 30.7 億円)、販売は 96 万部。売上を部数で割った 1 部あたりの売上(0.61 億円÷万部)が価格に当たる。セグメント利益は開示されないため、手帳が利益のほとんどを稼ぐとみて、利益率を 13% と置いた(推定)。
ほぼ日の商品・イベント・學校等
手帳のカバーや雑貨などの自社商品、生活のたのしみ展、TOBICHI、ほぼ日の學校、ドコノコなど。
| 数量販売点数・利用の件数に当たる量(万点・実質) | 価格1 点あたり売上(億円/万点・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/08 | 70.7 | 0.40 | 28 | −1 |
| 10 年後 中立 | 88.4 | 0.54 | 47 | 0 |
取り方:2025 年 8 月期の売上は 28.3 億円(商品 22.8 億円とその他 5.5 億円)。平均単価を手帳の 3 分の 2 ほどと見て 70.7 万点と置いた(推定)。単一セグメントで開示がなく、全体の営業利益 6.2 億円から手帳の分を引いて、利益率を −5% と置いた(推定)。
リスクと懸念
一本足の手帳と流行の波
売上の約 7 割が手帳で、利益の大半が秋の 3 か月に集中する。紙の手帳を日記として使う層が縮む、あるいは流行が冷めれば、売上と利益が一度に落ちる。2020 年 8 月期は営業利益率が 1.6% まで落ちた。
在庫と評価損
在庫は 26 億円で総資産の 4 割近い。手帳は年号つきで、売れ残れば翌年は値引きか廃棄になる。需要の読みを誤ると、評価損が出る。現金の裏づけも弱く、2025 年 8 月期の営業活動の現金収支は 1.6 億円にとどまった。
創業者への依存
糸井重里氏の発信力と信用が、会社の求心力を支える。本人は 2025 年 11 月に社長から会長 CEO へ移り、次の世代への引き継ぎの途上にある。持株比率は 26.7% で、売却や相続の動きが出れば、需給にも会社の方向にも影響が及ぶ。
海外の関税・為替・法規制
売上の約 5 割が海外で、関税や為替、個人情報の規制の影響を受ける。円安は売上を押し上げるが、関税の引き上げや円高に振れれば、海外の利益が急に細る。
原材料・物流のコスト上昇
紙、インク、輸送費の上昇が、価格改定に先行して利益を削る。物流は外部に委託しており、委託先の費用や品質にも左右される。
電子化と新しい競争
手帳アプリやスマートフォンの予定管理が、紙の手帳の需要を奪う。モレスキンなど海外の手帳、国内の日記系の手帳との競争も続く。ブランドが「好き」で支えられている以上、飽きられる速度は読みにくい。
今後の分かれ目
- 手帳の販売部数が 2 期続けて前年を下回ったら
- 構造的な需要減とみて、やや悲観・悲観の確率を上げ、中立の数量を引き下げる。
- 手帳の海外売上が 2 桁の伸びを 3 期以上続けたら
- ブランドの海外定着とみて、楽観・やや楽観の確率を上げ、中立の数量と利益率を見直す。
- 在庫が売上の伸びを大きく上回って積み上がったら
- 評価損の危険が高まったとみて、中立の利益率を下げ、やや悲観の確率を上げる。
- 糸井氏の持株が大きく売却されたら
- 需給と会社の求心力への影響を見て、寿命の項と確率を見直す。公開買付けなら価格と本質価値を比べる。
- 自社株買いや特別配当が発表されたら
- 溜まる現金の戻り方を 0.75 から 1.0 へ上げる。
- 手帳アプリの利用者が紙の購入と共存して増えたら
- 電子化への耐性が高いとみて、寿命の項を軽くし、悲観の確率を下げる。
見ておくもの
- 手帳の販売部数と国内・海外別の売上
- 営業利益率と季節ごとの赤字幅
- 在庫(棚卸資産)と営業活動の現金収支
- 創業者の持株比率と経営体制
- 関税・為替と海外の販路
- 手帳アプリの利用者数
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 7.75%(基本 7.5% + quality 0.5%)を超える楽観〜中立は式の正当化 PER(楽観 17.8 倍・やや楽観 16.6 倍・中立 15.5 倍)の 8 割台で置き、中立は 1÷k(12.5 倍)を下回らせなかった。やや悲観は ROE が k 以下のため上限 1÷k の 7 割台前半に置いた。今の株価や今の PER を見てから決めたわけではない。2026 年 8 月期の通期はまだ発表されておらず、9 か月累計(営業利益 11.9 億円)を見ても、基準年は開示済みの 2025 年 8 月期(営業利益 6.2 億円)に置いた。直近の好調は、10 年の筋書きの利益率と数量の伸びとして織り込んだ。セグメントの利益は開示がなく、手帳の利益率 13%・その他の −5% は全体の営業利益 6.2 億円に合うよう置いた推定である。悲観の床は売れる資産(17 億円)で、過去の PBR の底は使っていない。賃借は小さな拠点が中心で、新リース会計の影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.5% = 8.0%。個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.75%。