結論
大黒天物産は、岡山県倉敷市に本社を置く食品ディスカウントスーパーだ。主力は「ラ・ムー」で、ロードサイド型の「ディオ」も持つ。毎日同じ低価格を貫き、多くの店が24時間開いている。筆者は、今の値段には利益が谷にあることの割引が深く入っており、10年で見れば「割安」と考える。
稼ぐ仕組みは単純だ。農場・工場・物流センターを自前で持ち、中間の取り分を削って安く売る。店は2026年5月期末で251。年に20店前後を足しながら売上を伸ばしてきた。ただ、足元の利益は厳しい。営業利益は53億円と前の期の半分以下で、営業利益率は1.7%まで落ちた。
原因は三つある。原材料高に合わせた値上げを遅らせて粗利が薄くなった。価格を見直した後の客数減を広告で埋めた。人手と建築費は出店のたびに重くなった。直近の6〜8月期も営業利益は65%減だ。通期予想の据え置きを素直に信じる材料は乏しい。
それでも、事業の骨格は壊れていない。物価の高い今、安さを売る店には追い風が吹く。店数が増えれば、物流と製造の固定費が薄まる。10年後の中立では、店は430、営業利益率は2.8%。過去10年の中央値3.4%より低く置いた。それでも利益は今の3倍超になる。
一方で、これは「出店を続けられれば」の話だ。既存店の売上は減っており、新店が食い合っている疑いがある。強い競合のトライアルは、既存店が伸びている。悲観側の確率は4割強に厚くした。それを入れても、本質価値は今の時価総額を3割ほど上回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社を「オーナーとして持ち続けたいか」と問うと、答えは条件付きだ。事業は分かりやすく、10年後も食品は売れ、安い店は残る。自前の製造と物流という堀もある。この2点は評価できる。
問題は資本の使い方だ。稼いだ利益より多くの金を、新しい店に注いでいる。新店が十分に稼げば、複利で価値が増える。しかし足元では、増えた店の分だけ利益が増えていない。この会社が1店作るのに必要な金に対し、利益が資本コストに届くかが、本質価値のすべてだ。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益で見ると、今期はほぼ残っていない。出店の費用が利益を食い、借金を増やした。10年後に、この関係が逆転して利益が追いつくなら、今の値段は安い。追いつかなければ、成長しても価値は増えない。
安全域は、今の自己資本に対して半分強の時価総額という点にある。悲観の筋書きでも、この会社は店と工場を持ち、食品を売り続ける。ただし、薄利で借金が増える形は、安全域を削る。筆者は、わからない部分を割り引いて、確率を悲観に寄せた。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は店の数と1店当たりの売上だ。売上の約7割を占める主力は「ラ・ムー」。食品を中心に、段ボールのまま並べるなど手間を削り、毎日同じ低価格で売る。ロードサイド型の「ディオ」は、やや大きな店で衣料や日用品も扱う。小型の「大黒天」やコンビニ型の「ラ・ムーマート」は、狭い商圏向けの小さな実験だ。
この会社の特徴は、小売でありながらメーカーでもあることだ。自社の農場・牧場・養殖場・食品工場・物流センターを持つ。プライベートブランド(自社企画商品)の「D-PRICE」は1,000品目を超え、後継の「D-PRIDE」も育てている。中間の問屋を通さない分、売価を下げても粗利を確保できる。ただし粗利率は2割台前半で、薄利である点は変わらない。
店は西日本が地盤だ。中国地方が81店、近畿が63店、九州が32店(2025年11月末)。2026年3月には山梨県で首都圏の最初の店を開いた。長野・新潟・山梨は子会社の西源、九州は子会社のマミーズが、それぞれラ・ムーを運営する。
最近は「SFO店舗」という形を増やしている。店内の加工を減らし、物流センターで仕上げた商品を並べる店だ。人手が足りない時代に、店の運営費を抑える狙いがある。会社は2035年に700店・売上1兆円を掲げる。毎年30店を出す前提だが、2026年5月期の実績は18店にとどまった。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば、「安さを作る力は本物、稼ぐ力はまだ薄い」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、自前の製造と物流にある。小売の多くは、他社の商品を仕入れて並べるだけだ。この会社は、作る段階から安さを組み込める。多店舗化が進むほど効く構造で、これは本物の強みだと筆者は見る。
弱いのは値段を決める力だ。客が来る理由は安さだけなので、値上げが通りにくい。今期の減益は、まさにこの弱さが出た。原材料の値上げを遅らせて客を守ったが、粗利が痩せた。その後、値段を見直したら客が減り、広告費で呼び戻した。安さの看板を守ることと、利益を残すことの綱引きが、そのまま数字に出ている。
資本効率は、悪くはないが安定しない。ROEは過去10年の中央値で10.7%。ただし1.5%の年もあれば、13%の年もある。利益率は2019年・2023年・2026年と、3〜4年おきに大きく凹む。凹みの理由は毎回違うが、薄利の会社が費用の上振れを吸収する余白を持たない、という点では同じだ。
経営は創業家が握る。創業家の共同保有分は5割強で、長期の判断はしやすい。反面、少数株主の声は届きにくい。出店を加速する意思は強く、それが成長の源でもあり、今の利益の重しでもある。資本の使い方は「勢い重視」で、還元は利益の1割弱にとどまる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
食品スーパーは、国内最大級の成熟市場だ。全国スーパーマーケット協会の推計で、業界の総販売額は約25兆円(2024年)。人口が減るので、食べる量は10年で1割弱縮むとみる。成長は、人口ではなく「勝つ店が負ける店から客を奪う」ことで生まれる。
その中で、低価格を売りにする店は強い。物価が上がる時代は、客が安い店へ流れるからだ。ただ、そこには強い競合がいる。トライアルホールディングスは2026年6月期に売上1兆3,471億円。西友を子会社に加え、トライアルと西友で621店になった。既存店は、トライアルが前年比3.5%増(2026年9月)、大黒天物産は2.1%減と明暗が分かれる。ほかに、オーケーやサンディなども低価格で競う。
人手と建築の費用も重い。最低賃金の上昇で、24時間営業の店は人件費がかさむ。建築費も上がり、新店1つの投資額が大きくなった。今期の投資キャッシュフローは約267億円で、営業キャッシュフローの2倍以上だ。足りない分は借金になり、純有利子負債は258億円に増えた。
業界の見通しは、数量と価格に分けて考える。数量は人口減で細り、1店当たりの客数は新店の増加で薄まる。価格は物価で10年に1.34倍になる。会社の売上は、店数の増加で業界より速く伸びる。ただし、増やした店の稼ぎが資本コストに届かなければ、売上が増えても価値は増えない。
規制の面では、2025年12月に国土交通省がトラックの待機時間の長さで是正勧告を出した。物流を自前で抱える強みの裏返しで、物流の人手不足は費用に跳ね返る。
資本政策と M&A
資本の使い方は、出店へ全力で振り向ける型だ。配当は利益の1割弱。残りは新店・工場・物流に回す。今期は投資が営業キャッシュフローの2.4倍に達し、借金で穴を埋めた。今のところ財務は健全だが、10年続ければ純有利子負債は大きく膨らむ。
M&Aは過去に「地方のスーパーを買って、ラ・ムーに転換する」形で行ってきた。2012年に西源、2018年に松阪・小田商店・マミーズの22店を取得した。今は自前出店が中心で、大きな買収の予定は見えない。
株主は創業家が過半を握る。創業家の共同保有分は、2025年10月時点で52.13%と報告された。市場の売り物は少ない。第三者の敵対的な買収はまず起きない。その一方、創業家主導の非公開化があるとしても、現時点では確かな材料はない。
今後の資本政策の焦点は二つある。出店の勢いを、利益が伴う範囲に絞れるか。もう一つは、借金が増える中で、還元を続けるか、絞るか。出店を急ぐほど、還元は細る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
今の利益は、成長の途中でかかった費用が一時的に重なった姿にすぎない。値上げを遅らせた分は、いずれ価格に反映される。広告で呼び戻した客は、店に戻ってくる。出店のための採用と研修の費用は、店が育てば回収できる。実際、6〜8月の既存店客数は前年を上回り、全店売上は5.5%増えている。
自前の製造と物流は、店数が増えるほど1店当たりの固定費を薄める。2035年に700店・売上1兆円という目標が示す通り、会社は規模を取りに行っている。SFO店舗は人手の少なさを補い、新店の運営費を下げる。首都圏への進出が始まったことも、市場の広がりを示す。
食品は景気に左右されず、物価高の時代は安い店に客が集まる。人口の減る地方でも、安さを求める客は増える。トライアルが西友を取り込んで大きくなる中でも、地方の低価格市場は広い。過去の営業利益率は4%近くまで上がった実績がある。出店の効率が戻れば、利益率は3.4%を超え、利益は今の4〜5倍になりうる。
会社の資本の使い方にも、前向きな面がある。借金は増えているが、自己資本比率は4割台で、まだ余力がある。稼ぎが戻れば、出店投資は複利で効いてくる。
慎重な見方
増収減益が2年続きそうな点が不安だ。売上は9%伸びたのに、営業利益は半分以下になった。出店を急ぐほど利益が薄くなる関係が出ている。6〜8月期は営業利益が65%減で、上期計画の進捗は2割ほどだ。通期の利益予想は、実現が遠く見える。
既存店の売上は減っている。トライアルは既存店が伸びているのに、この会社だけが減るのは、新店が既存店の客を食い、価格競争力でも押されている兆しだ。値上げの遅れで粗利が痩せ、価格を見直したら客が減った。安さを売りにする会社は、値段を動かす自由度が小さい。
人手と建築の費用は物価を超えて上がる。24時間営業は、夜間の人件費を固定費として抱える。借金は年々増え、金利は上がる。投資を続けるほど、利払いが利益を削る。
目標の700店は、実績の約1.5倍の出店ペースを前提にする。今期は計画の30店に対して18店だった。計画が達成されない構造的な理由がある。売上は伸びても、新店の稼ぎが資本コストに届かなければ、成長は価値を生まない。
どちらに重みを置いたか
どちらにも根拠はあるが、慎重な見方がやや強い。強気の言う「一時的な費用」は、2019年・2023年・2026年と3〜4年おきに起きている。もはや例外ではなく、この事業の癖だ。既存店の売上減も、客数の改善が続くまでは楽観しにくい。
一方で、強気が言う自前の製造と物流、食品の需要の底堅さは本物だ。だから、悲観の確率はやや厚く置きつつも、利益が元の水準近くまで戻る中立に最大の確率を置いた。確率は、楽観5%、やや楽観16%、中立37%、やや悲観29%、悲観13%とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/05 期)
確率で加重した株価時価総額 10,397 円1,394 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 626 円84 億円)。 今の値に割り戻すと 5,242 円703 億円、今との差 +36.5%、 期待の年率 +11.1%(資本コスト 8.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 28,631 円3,840 億円 | 1,118 円150 億円 | +674.7% | +22.7% | 1,487 円199 億円 |
| やや楽観 | 16% | 19,430 円2,606 億円 | 932 円125 億円 | +430.3% | +18.2% | 3,258 円437 億円 |
| 中立 | 37% | 11,402 円1,529 億円 | 708 円95 億円 | +215.4% | +12.2% | 4,481 円601 億円 |
| やや悲観 | 29% | 4,832 円648 億円 | 447 円60 億円 | +37.5% | +3.2% | 1,531 円205 億円 |
| 悲観 | 13% | 1,819 円244 億円 | 224 円30 億円 | −46.8% | −6.1% | 266 円36 億円 |
| 加重平均 | 100% | 10,397 円1,394 億円 | 626 円84 億円 | +187.1% | +11.1% | 11,023 円1,478 億円 |
今の株価時価総額 3,840 円515 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 5% 700店に迫り、物流と製造の固定費が薄まる 利益 241 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 28,631 円3,840 億円
SFO店舗で運営費が下がり、出店の人手不足を抑える。自前の製造と物流が570店分の規模に育ち、1店当たりの固定費は目に見えて薄まる。値上げの遅れは一度きりで終わり、毎年の価格改定が粗利を守る。首都圏と東北の最初の店が当たり、新しい商圏が開ける。既存店は食い合いを抑えて前年を上回る。
ラ・ムーはトライアルや西友の統合後も、地方の低価格市場で強い位置を保つ。営業利益率は4%に戻り、過去の高かった年の水準に並ぶ。借金は膨らむが、利益が伴うので利払いに負けない。会社が還元に回す余力も増える。10年後の姿は、売上1兆円目標の約9割に届く強い食品ディスカウントだ。
- 食品ディスカウントスーパー(ラ・ムー・ディオ ほか):数量 570(店舗数(連結・期末))× 価格 17(1 店当たり年売上高(億円・名目))→ 売上 9,713 億円・営業利益 389 億円。営業利益率 4.0%
倍率:事業の純利益 241 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.94 倍、時価総額 3,840 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:出店・利益率・競合の三つが10年とも味方する必要があり、起きる確率は低い。会社の目標(700店)には届かない前提でも、570店は今の2.3倍で重い。
やや楽観 16% 年25店ペースを保ち、利益率は過去の中央値に戻る 利益 175 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 19,430 円2,606 億円
出店は年25店前後を保ち、10年で店は500に届く。会社の高い目標には届かないが、近年の実績(18〜19店)より速い。値上げの遅れで痩せた粗利は戻り、新店の人手や建築の費用も、店が育つにつれて回収に向かう。営業利益率は過去10年の中央値3.4%まで戻る。
自前の製造・物流は、店数500の規模で効きはじめる。既存店はトライアルなど強い競合に押されて伸びは小さいが、前年を割らない水準で止まる。借金は増えるが、利益の伸びが利払いの増加をおおむね吸収する。会社は目標を何度か下方修正するが、利益の質は改善する。
- 食品ディスカウントスーパー(ラ・ムー・ディオ ほか):数量 500(店舗数(連結・期末))× 価格 17(1 店当たり年売上高(億円・名目))→ 売上 8,300 億円・営業利益 282 億円。営業利益率 3.4%
倍率:事業の純利益 175 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍。全体の PER 14.89 倍、時価総額 2,606 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:今期の減益は一時的な費用が重なった面があり、計画に近い出店が続けば利益が戻る可能性は十分ある。ただ、3〜4年おきに利益率が凹む癖もあり、確率は中立より低く置く。
中立 37% 出店は続くが、利益率は過去より低いまま 利益 117 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 11,402 円1,529 億円
出店は年19店ほどに落ち着き、10年で店は430になる。会社の目標とは大きな差があるが、人手と建築費の重さを考えれば現実的だ。1店当たりの売上は、物価の上昇ほどは伸びない。新店が既存店の客を食い、小型店やSFO店舗の売上は大型店より小さいためだ。
営業利益率は2.8%で、過去10年の中央値3.4%より低い。24時間営業の人件費が物価以上に上がり、値上げは競争の中で遅れがちになる。一方、自前の製造・物流は粗利を守る。借金は10年で膨らみ、利払いが利益を削る。会社は目標の下方修正を重ねるが、無理な出店で破綻することはない。10年後は、売上7,000億円弱、純利益120億円弱の堅実な地方の食品ディスカウントになる。
- 食品ディスカウントスーパー(ラ・ムー・ディオ ほか):数量 430(店舗数(連結・期末))× 価格 16(1 店当たり年売上高(億円・名目))→ 売上 6,966 億円・営業利益 195 億円。営業利益率 2.8%
倍率:事業の純利益 117 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍。全体の PER 13.07 倍、時価総額 1,529 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:出店の勢いは続くが、人手と建築費の上昇、競合の強さを考えると、利益率の完全な回復は見込みにくい。強気と慎重の言い分のちょうど間にあたる。
やや悲観 29% 既存店の客を食い合い、新店が稼げなくなる 利益 65 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 4,832 円648 億円
出店のペースは年15店前後に鈍り、10年後の店は350にとどまる。新店は既存店の客を奪い合い、新しい商圏でも想定の売上に届かない。1店当たりの売上は物価の上昇に追いつかず、実質で1割ほど落ちる。トライアルや西友の統合効果、オーケーなどの低価格競争が、値上げの余地をさらに狭める。
営業利益率は2.2%で、今期と過去の平均の間。人件費の上昇と値上げの遅れが響き続ける。借金は利払いの増加で利益を圧迫する。物流の自前化は競争力の源だが、物流の人手不足で費用が膨らむ。会社は目標をとうとう取り下げ、出店のペースを落として利益の確保に切り替える。
- 食品ディスカウントスーパー(ラ・ムー・ディオ ほか):数量 350(店舗数(連結・期末))× 価格 15(1 店当たり年売上高(億円・名目))→ 売上 5,355 億円・営業利益 118 億円。営業利益率 2.2%
倍率:ROE 5.8%(純利益 65 億円 ÷ 自己資本 1,111 億円)で k 8% に届かない。新店の稼ぎが k を下回るので、先で薄れる分が大きく、正当化 PER は上限 1÷k=12.8 倍を下回る。稼ぐ力が弱い分を割り引いて 10.0 倍に置いた。
確率:既存店の売上減と出店のコスト増が同時に起きている。強い競合が伸びる中で、同じ傾向が数年続く可能性は高い。3〜4年おきに利益率が凹む癖も、この筋書きの根拠になる。
悲観 13% 安さの競争に負け、固定費だけが残る 利益 25 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,819 円244 億円
出店が止まり、店は290で伸びが止まる。家賃や人件費、物流の費用は固定費として残り、売上が落ちても削れない。トライアルと西友の規模の力が低価格市場を押さえ、ラ・ムーは価格で勝てなくなる。値上げが通らず粗利は痩せ、広告費で客を呼び戻しても限界がある。1店当たりの売上は、物価の上昇に対して実質で15%ほど落ちる。
営業利益率は1.2%まで落ち、借金の利払いで純利益は25億円ほどにしぼむ。新店や工場への投資は、資本コストを下回る稼ぎのまま積み上がる。店の閉鎖や減損も起きる。それでも、食品スーパーとして店は残り、自前の製造と物流は資産として価値がある。ただし、稼ぐ力は大きく損なわれる。新リース会計基準でも、家賃の約束は変わらない固定の負担だ。
- 食品ディスカウントスーパー(ラ・ムー・ディオ ほか):数量 290(店舗数(連結・期末))× 価格 15(1 店当たり年売上高(億円・名目))→ 売上 4,205 億円・営業利益 51 億円。営業利益率 1.2%
倍率:稼ぐ力は純利益 25 億円 ÷ k 8% = 約 320 億円で、ためた利益は床にならない。今の自己資本 611 億円に 0.40 倍を掛けて 244 億円とした(稼ぐ力の上限より低く、店と工場の資産価値と稼ぐ力の間)。
確率:出店の失敗・競合の強さ・人手不足が重なる構造的な負けで、10年以上続く可能性は小さくない。確率は、薄利で借金を抱える事業の脆さを反映している。ただし、食品の需要自体は底堅く、これ以上は高くしない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
食品ディスカウントスーパー(ラ・ムー・ディオ ほか)
毎日同じ低価格を貫く食品中心のスーパー。主力は「ラ・ムー」で全店の約 7 割。自社の製造・物流で中間の取り分を削る。
| 数量店舗数(連結・期末) | 価格1 店当たり年売上高(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 251 | 13 | 3,192 | 53 |
| 10 年後 中立 | 430 | 16 | 6,966 | 195 |
取り方:売上 3,192 億円を期末の連結店舗数 251(2025/05 末 233+今期出店 18)で割った。会社は単一の事業区分なので、全社を 1 つに置いた。1 店当たりは期中に開いた店を含むため、実力の水準より少し低い。中立は店当たりの実質を 5% 下げ(小型店・SFO・ドミナントでの食い合い)、物価の 1.34 倍に掛けて 16.2 億円。
リスクと懸念
出店ペースと利益の乖離
売上は増えても、利益が店数に追いつかない。今期は18店を出して営業利益が半分以下になり、6〜8月期も65%減だ。新店の稼ぎが資本コストに届かない状態が続けば、出店を重ねるほど価値は削られる。
強い競合の台頭
トライアルは西友を子会社に加え、621店・売上1.3兆円超になった。既存店は伸びている。この会社の既存店が減る中で、仕入れと物流の規模で押される可能性が高まっている。
値上げの難しさ
安さが客の来る理由なので、値上げが通りにくい。今期は値上げを遅らせて粗利が痩せ、価格を見直すと客が減った。物価が3%で続く世界では、値決めの遅れがそのまま利益率を下げる。
人手・建築費・物流費の上昇
24時間営業は夜間の人手が要る。最低賃金は上がり続け、建築費も上昇している。2025年12月には、トラックの待機時間をめぐる国交省の是正勧告もあった。費用の上振れを吸収する余白が薄い。
借金の増加と金利
投資は営業の稼ぎの2倍以上で、純有利子負債は258億円に増えた。借り換えの金利は3.5%前後に上がる。10年出店を続ければ借金は大きく膨らみ、利払いが純利益を削る。家賃も固定の約束で、不況では重くなる。
創業家支配とガバナンス
創業家の共同保有分は5割強で、経営は創業家が握る。長期の判断はしやすいが、少数株主は出店ペースや資本の使い方に声を上げにくい。創業家の意向が変わると、非公開化など予想外の動きもありうる。
今後の分かれ目
- 既存店の売上が、閉店を含む基準で前年を上回る状態が数四半期続く
- 新店の食い合いが収まり、客の戻りが本物だとわかる。やや楽観・楽観に確率を寄せる。
- 出店が年25店を超えるペースで続き、営業利益率が3%台に戻る
- 規模の効きが利益に出たと言える。中立の店数と利益率を上方に直し、確率を楽観側へ移す。
- 27年5月期の営業利益74億円の予想が下方修正される
- 利益の谷が長引く兆し。やや悲観の確率を上げ、出店の勢いを疑う。
- トライアルが九州・中国地方で出店を加速し、既存店の差がさらに開く
- 地盤の価格競争が厳しくなる。値上げ余地が狭まるので、やや悲観・悲観に寄せる。
- 出店計画を絞り、投資を営業の稼ぎの範囲に収める判断が示される
- 借金の増加は止まる。利益は伸びにくくなるが、安全域は広がる。悲観の確率を下げる。
- 創業家の保有や資本政策に大きな動き(非公開化・株式の売却)が出る
- 市場での位置づけが変わる。内容を見て、中立の倍率と確率を見直す。
見ておくもの
- 既存店売上(閉店を含む基準)と客数の月次
- 連結店舗数と年間出店数(計画25店前後に対する実績)
- 営業利益率(今期1.7%・来期の予想2.1%)と粗利率の動き
- 純有利子負債と投資キャッシュフロー(今期は営業の2.4倍)
- トライアルHD・西友の既存店売上と、九州・中国での出店
倍率と資本コストの決め方
店舗数×1店当たりの年売上(名目)で10年を積み、営業利益率は過去10年の中央値(3.4%)より低い2.8%を中立にした。10年中立の純利益は117億円で、今の谷の利益の約3倍。出店で店が1.7倍になり、物価で1.34倍、利益率の戻りで約1.6倍という分解で、無理のない伸びだ。倍率は、正当化PER(k 8%・g 4.0%・RONIC 8.3%)の上限13.6倍に対し、下限の1÷k(12.8倍)(上限の約94%)に置いた。今の株価や過去のPER・PBR、同業の倍率は使っていない。今の時価総額(512億円)は利益の谷にあり、現在のPERに寄せていない。同じ領域のホームセンターに比べROEは高め(8.8%)、利益率は低い。確率は悲観側を4割強に厚くした。新リース会計基準(2028/03期から貸借対照表に載る)で営業利益や借金の数字の形は変わるが、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。解約不能リース料の額は確認できておらず、家賃は固定の約束として悲観側に反映した。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に品質 +0.3% で 7.8%。同じ領域では、コメリ 7.5%・DCM 8.0% の間。ホームセンターより景気に強いが、薄利で借金が増える点を加えた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.80% → 8.00%。